桜花姫神話第弐部
拠点
第弐部
第一話
連続殺人事件
世界樹の妖星巨木との死闘から半年後の出来事である。桃源郷神国に安寧秩序が再到来したものの…。以降も各地の村里では神出鬼没の悪霊が彼方此方に出現したのである。世界暦五千二十二年十一月上旬の時期…。近頃東国の中心街では何者かによって頭首を斬首される怪奇的連続殺人事件が多発したのである。連続殺人事件の発生に東国の町民達は誰しもが畏怖…。夜間に出歩けなくなる。
「折角中心街は復興したのに…殺人事件が連続的に発生するなんて物騒だよな!殺害された三人の被害者達は全員斬首された状態だったって!」
真夜中に東国武士団の二人の邏卒が東国の中心街を夜番したのである。
「斬首か…国内に平穏が戻ったのに今度は殺人事件が三件も発生なんて踏んだり蹴ったりだな!」
小柄の邏卒は身震いし始める。殺害された被害者達は三人とも頭首を斬首された状態であり翌朝には斬首された頭部と遺体が事件現場で発見されたのである。
「恐らくは匪賊の仕業だろうが…被害者達を斬首するなんて随分と悪質だよな!早急に殺人鬼を拘束しないと夜番なんて安心して出来ないよ!」
小柄の邏卒がブルブルと寒気を感じる。
「こんな暗闇の真夜中に人殺しなんかと出くわしたくないぜ…勘弁しろよな!」
「東国の武士団である俺達が人殺しに畏怖して如何する?こんな小事件で畏怖しちまったら俺達は世間様の笑い者だぜ!」
「俺は笑い者だとしても構わんさ!今回の大事件も不寝番の月影桜花姫様の出番だよな!?彼女だったら百人力?千人力の大戦力だろうし人間の殺人鬼なんて桜花姫様の妖術なら楽勝だろうよ!」
邏卒が口走った月影桜花姫の一言に大柄の邏卒が苛立ち始める。
「桜花姫…桜花姫って!毎回不寝番の桜花姫に頼りっ放しだと泣く子も黙る東国の武士団は不必要だって各地の村人達から造反されちまうよ!好い加減武士団の上役達も内部を改革化させないと武士団全体が形骸化しちまうぞ!」
「内部の形骸化には同意するよ!現体制は今一度大改革させないと!」
近年では不寝番の最上級妖女…。月影桜花姫の悪霊征伐により泣く子も黙る東国武士団の権威が失墜し始めたのである。東国武士団の形骸化と他力本願が問題視され武士団内部からも現体制への改革派が出現し始め…。東国武士団全体の再構築が各地の村里で公言されたのである。
「相手が人間の匪賊だけなら俺達でも対処出来るかも知れないが…現実問題として神出鬼没の悪霊なんて非力の俺達では頑張っても如何にも出来ないだろう!」
「相手が神出鬼没の悪霊だったら俺達では対処出来ないよな…神出鬼没の悪霊対策ばかりは不寝番の桜花姫に依頼する以外の選択肢は無さそうだな…」
彼等が雑談中…。
「ん?人影かな?」
「人影だって?」
東国と北国の国境に直結する両国橋より正体不明の人影を確認したのである。
「こんな真夜中に誰だ?」
両国橋には番傘を所持した煌びやかな赤色の着物姿の女性がポツンと佇立した様子であり夜空の満月を眺望し続ける。
「彼奴は女人みたいだが…一体誰だろう?」
「こんな真夜中に女人が一人で何を?月見だろうか?」
二人の邏卒は警戒した様子で恐る恐る両国橋へと移動したのである。番傘の女性の背後から恐る恐る近寄る。女性は小柄の背丈であるが…。非常に美的の雰囲気であり黒髪の頭髪には寒椿の頭髪装飾が確認出来る。
「真夜中だぞ!近頃は斬首事件で物騒だし…こんな真夜中にあんたみたいな非力の小町娘が一人で出歩くのは危険だぜ!」
大柄の邏卒は強気の態度で女性に命令する。
「斬首事件の殺人鬼に遭遇したくなかったら即刻家屋敷に戻りやがれ!あんたは殺人鬼に遭遇したいのか!?」
大柄の邏卒は強気の態度で警告するのだが…。一方の女性は邏卒の警告に無反応であり見向きすらしなかったのである。
「此奴…何様だ?」
『畜生が…俺の警告を無視しやがって!』
大柄の邏卒は女性の態度に苛立ったのかピリピリし始める。
「貴様は重度の痴人なのか!?返事すら出来ないのかよ!?」
大柄の邏卒は非常に苛立った様子であり番傘の女性に大声で怒号したのである。すると小柄の邏卒が恐る恐る…。
「失礼なのですが…」
小柄の邏卒は物静かな言動で発言したのである。
「貴女様みたいな容姿端麗の女性がこんな真夜中に一人で出歩かれたら人攫いに遭遇するかも知れませんし…即刻家屋敷に戻られませんか?こんな真夜中の夜道を一人で出歩くのは非常に危険ですよ…」
小柄の邏卒は物静かな姿勢で女性に帰宅を指示するものの…。番傘の女性は小柄の邏卒の声掛けにはピクリとも反応しない。
「えっ?彼女は無反応だな…」
「如何やら此奴…重度の聾者っぽいな!返事すら出来ないなんて論外だぜ!」
大柄の邏卒は女性に呆れ果てる。一方の小柄の邏卒も女性の様子に困惑する。
「失礼だけど彼女は雛人形みたいだな…俺達の問い掛けには何も反応しないし…」
『不吉だな…』
ゾッとした小柄の邏卒は女性の雰囲気に畏怖したのか恐る恐る後退りしたのである。畏怖し続ける小柄の邏卒であるが大柄の邏卒は小柄の邏卒を揶揄し始める。
「貴殿よ…こんな小町娘相手に畏怖しやがるなんて…余程の小心者みたいだな!」
大柄の邏卒は女性の背後へと恐る恐る近寄ったのである。
「あんたは外見だけなら可愛らしい雰囲気だな!素顔は別嬪だろうか?」
大柄の邏卒が女性に接触する寸前…。
「見ず知らずの女人に手出しするなよ!」
小柄の邏卒はビクビクした様子で大柄の邏卒に制止したのである。
「俺達の任務は夜間警備だ!任務を放棄して如何する!?」
大柄の邏卒は小柄の邏卒に強気の態度で返答する。
「任務なんて後回しだよ!後回し…真夜中だぜ!気にするなよ!」
大柄の邏卒は非常に楽観的様子だったのである。
「後回しって…」
『俺達は任務中だろうに…此奴は無責任だな!』
小柄の邏卒は大柄の邏卒の無責任さに呆れ果てる。
「時間帯は深夜帯だし…人目は貴殿だけだからな!別に大丈夫だろう!」
大柄の邏卒はムラムラした様子であり赤面し始める。
「小町娘の姉ちゃんよ!折角だし…俺達と一緒に夜遊びしようぜ!」
「えっ…此奴は?」
『見ず知らずの女性を相手に…正気なのか!?』
小柄の邏卒はムラムラし始めた大柄の邏卒にドン引きしたのである。
『俺は一体…如何するべきなのか?』
小柄の邏卒は困惑した直後…。突如として番傘の女性が背後の大柄の邏卒を直視し始めたのである。
「えっ?姉ちゃん…」
女性は半透明の血紅色の瞳孔であり無表情で大柄の邏卒を凝視する。
「やっぱり姉ちゃんは素顔も別嬪みたいだな!あんたは絶世の美女だぜ!」
番傘の女性は絶世の美女であり大柄の邏卒は女性の容姿に大喜びしたのである。
「あんたは最高だな!こんな場所で絶世の美女と遭遇出来るなんて!」
大柄の邏卒が微笑した直後…。
「ん?」
突如として大柄の邏卒の喉元から血液が流れ出る。
「えっ?流血だと?」
大柄の邏卒は恐る恐る自身の喉元に接触する。
「えっ…如何して流血したのか?」
すると直後…。
「えっ?」
突如として大柄の邏卒の頭首がポロッと橋板に落下したのである。
「ひっ!」
『一体全体何が!?如何して頭首が!?』
大柄の邏卒の頭首を直視すると小柄の邏卒は極度の恐怖心からか恐る恐る後退り…。女性に戦慄したのである。
『此奴は物の怪なのか!?殺される!』
戦慄した小柄の邏卒は一目散に逃走する。翌日の早朝…。東国と北国の国境に直結する両国橋にて頭首を斬首された大柄の邏卒の遺体が発見されたのである。
第二話
風評被害
同日の真昼…。最上級妖女の月影桜花姫は久方振りに東国の八正道の寺院へと訪問したのである。
「八正道様♪」
「貴女様は桜花姫様でしたか!久方振りですな!本日は如何されましたか?」
八正道は久方振りの桜花姫の訪問に大喜びする。
「勿論暇潰しよ♪暇潰し♪私は退屈で仕方ないのよね…」
「承知しました!桜花姫様!時間帯が時間帯ですからね…折角ですし昼食でも如何でしょうか?桜花姫様…」
「昼食ですって!?私も空腹だから頂戴するわね!」
八正道は桜花姫に応接間へと案内したのである。
「桜花姫様…早速食事を用意しますので!」
八正道は応接間から退室する。
「はぁ…」
桜花姫は憂鬱なのかボーッと部屋の天井を眺望し続ける。
『妖星巨木の悪霊事件は無事に解決出来たけれども…』
半年前の四月下旬の時期を想起したのである。妖星巨木による悪霊大事件は桜花姫一行の大奮闘によって無事に解決出来たものの…。
『やっぱり俗界に悪霊が出現しないと面白くないわね…近頃は悪霊が出現しないから毎日が退屈で仕方ないわ…』
各地に安寧秩序の平和が到来すれば弊害として非常に退屈だったのである。
『悪霊が出現しなくなったら今後は如何しましょう?』
桜花姫は普通の日常生活が辛苦であり憂鬱に感じられる。
『毎日がこんなにも退屈だと…私は…今後は如何するべきなのかしら?』
桜花姫は今後の生活を如何するべきか苦悩する。すると八正道が恐る恐る応接間へと戻ったのである。
「桜花姫様…昼食を用意しましたよ…」
「八正道様…昼食の献立は何かしら?」
「本日の献立は天丼ですよ!」
八正道が用意した昼食の献立は美味しそうな海老天豊富の天丼であり桜花姫は頬張りたくなる。
「今日の昼食は天丼なのね♪やっぱり八正道様の料理は美味しそうだわ!早速美味しそうな海老天から頂戴するわね!」
桜花姫は天丼のメインである海老天を頬張る直前…。
「御二方!食事中に失礼します!」
突如として何者かがソワソワした様子で寺院の応接間へと乱入したのである。一方の桜花姫と八正道は突然の出来事に驚愕する。
「きゃっ!」
「うわっ!こんな時間帯に一体誰でしょうか!?」
桜花姫は苛立った様子で…。
「突然何事よ!?吃驚するじゃない!」
応接間へと乱入した人物とは小柄の邏卒だったのである。
「誰かと思いきや…貴方は武士団の駐在員さんでしょうか?如何されましたか?」
「如何して武士団の駐在員さんが八正道様の寺院なんかに?」
小柄の邏卒は桜花姫を直視した直後…。
「ひっ!こんな場所に神出鬼没の悪霊!?」
「なっ!?」
『私を…神出鬼没の悪霊ですって!?』
桜花姫は邏卒の悪霊発言にムッとし始める。
「一寸あんた!失礼しちゃうわね!地上世界の女神様である私を神出鬼没の悪霊ですって!?私を悪霊呼ばわりするなんてあんたは何様かしら!?」
桜花姫は小柄の邏卒に鬼神の形相で怒号したのである。
「ひっ!御免なさい!」
小柄の邏卒は必死に桜花姫に謝罪するものの…。
「如何やらあんたは命知らずみたいね!」
桜花姫は失言した小柄の邏卒を睥睨したのである。
「命知らずのあんたは招き猫に変化しなさい!」
すると小柄の邏卒は桜花姫の変化の妖術によって招き猫に変化させられる。
「えっ!?如何して駐在員さんが招き猫に!?ひょっとして桜花姫様の妖術でしょうか!?」
八正道は変化の妖術で招き猫に変化した小柄の邏卒を直視…。一瞬の出来事に八正道は驚愕したのである。
「私の天道天眼は変化の妖術で多種多様のあらゆる物体を別物に変化させられるのよ!悪霊は勿論…普通の人間だって無条件に変化させられるからね!所謂事象の変化ね…」
すると八正道は苦笑いした表情で恐る恐る桜花姫に…。
「ですが桜花姫様…多少遣り過ぎなのでは?桜花姫様の妖術で彼を元通りには戻せないのでしょうか?」
桜花姫の短気さには温厚の八正道でも遣り過ぎであると感じる。
「勿論元通りに戻せるわよ♪」
桜花姫は変化の妖術を解除…。
「仕方ないわね…」
変化の妖術を解除すると招き猫に変化させられた小柄の邏卒は元通りの人間の姿形に戻ったのである。
「はぁ…元通りに戻れた…」
小柄の邏卒はホッとする。
「反省しなさいね♪」
桜花姫は笑顔で発言したのである。すると邏卒はビクビクした様子で恐る恐る…。
「桜花姫様…先程の失言は大変失礼しました!」
小柄の邏卒は桜花姫に謝罪したのである。
「気にしないで!駐在員さん!金輪際地上世界の女神様である私に悪霊なんて失言したら今度こそ桜餅に変化させてあんたを食い殺しちゃうからね!」
「えっ…はぁ…」
小柄の邏卒は勿論…。
「はぁ…」
『桜花姫様は私が想像する以上に短気みたいですね…』
八正道も桜花姫の発言には苦笑いする。すると八正道は恐る恐る小柄の邏卒に何が発生したのか問い掛ける。
「ですが突然如何されたのですか?重役である東国武士団の駐在員さんがこんな寺院に訪問されるなんて…東国で大事件でも発生したのでしょうか?」
「前代未聞の一大事ですよ!」
八正道の問い掛けに小柄の邏卒は即答したのである。
「前代未聞の一大事ですと?非常に気になりますね…前代未聞の一大事とは一体何が発生したのでしょうか?」
「昨夜の出来事なのですが…」
小柄の邏卒は昨夜の出来事は勿論…。昨今に頻発した連続斬首事件の詳細を洗い浚い告白する。
「真夜中の連続斬首事件ですって?一大事ですね…」
「あんたの仲間が殺人鬼に殺されちゃったのは自業自得でしょうけれども…手出しせずに頭首が斬首されちゃうのは不吉よね…」
「昨夜に遭遇した正体不明の小町娘によって私の同僚が殺害されましたからね…彼女は一体何者だったのか?」
「小町娘ですって?」
小町娘の一言に桜花姫が反応したのである。
「駐在員さんの仲間は正体不明の小町娘に斬首されちゃったの?」
桜花姫が問い掛けると小柄の邏卒は恐る恐る…。
「一瞬の出来事でしたからね…断言出来ませんが…恐らく彼女は荒唐無稽の妖術らしき摩訶不思議の超常現象で私の同僚の頭首を斬首したのでしょう…被害者達は全員共通して頭首を斬撃された状態でしたからね…恐らくは同様の手口で被害者達を殺害したのでしょうね…」
「ひょっとして妖女の仕業かしら?」
「妖女の仕業ですと?」
八正道と小柄の邏卒は桜花姫の妖女の一言に反応したのである。
「斬首事件の真犯人が人外の妖女なのかは現段階では断定は出来ないけれど…彼女の特徴とかは?」
小柄の邏卒は桜花姫の質問に恐る恐る返答する。
「私が遭遇した小町娘の特徴なのですが…彼女の特徴であれば赤色の着物姿でしたね…右手には番傘を所持して…頭髪には寒椿の頭髪装飾でしょうか?純情可憐の小町娘らしい姿形の女性でしたよ…」
「赤色の着物姿…右手には番傘…頭髪には寒椿の頭髪装飾ね…」
桜花姫は一瞬沈黙したのである。八正道は沈黙し始めた桜花姫に恐る恐る…。
「桜花姫様…如何されましたか?」
「ひょっとすると今回発生した連続斬首事件も…悪霊の仕業かも知れないわ…」
「悪霊の仕業ですと!?」
八正道と小柄の邏卒は悪霊の一言に反応する。
「ひょっとすると【小椿童女】って名前の小町娘の悪霊の仕業かしら?」
「小椿童女ですと?小椿童女と命名される悪霊とは…一体何者なのでしょうか?」
「小椿童女はね…」
小椿童女とは戦乱時代にとある極悪非道の荒武者によって頭首を斬首…。惨殺された村娘の亡霊とされる存在である。
「小椿童女は戦乱時代に斬首された村娘の亡魂なのよね…」
小椿童女は外見のみなら容姿端麗の小町娘であるが…。可愛らしい外見とは裏腹に小椿童女の霊能力は非常に強力とされ小椿童女の瞳孔を直視した人間は小椿童女の強大なる霊気によって頭首を斬首され…。誰であろうと小椿童女の瞳孔を直視した人間は問答無用に殺害される。反対に小椿童女の瞳孔を直視しなかった人間は命拾い出来るとされる。小椿童女は今現在でも成仏出来ず…。番傘の小町娘の姿形で真夜中の各地を徘徊しては遭遇した人間の頭首を自身の霊能力で斬首し続けるのである。特定の地方によっては小椿童女を神出鬼没の斬首女房やら妖花の亡霊と呼称する村里も一部存在する。
「小椿童女は戦乱時代に斬首された村娘の悪霊でしたか…正体が神出鬼没の悪霊だとしても小椿童女は非常に気の毒ですね…如何にか彼女を昇天させたい気分ですよ…」
八正道は悪霊の小椿童女を気の毒に感じる。
「小椿童女の瞳孔を直視した人間は彼女の霊能力によって問答無用に頭首を斬首されるわ…」
「ひょっとして私が彼女に…小椿童女に斬首されなかったのは…」
小柄の邏卒はゾッとし始める。
「あんたが小椿童女に斬首されなかったのは幸運にも彼女の瞳孔を直視しなかったからよ…間一髪だったわね!駐在員さん!あんたは命拾い出来て幸運だわ!」
小椿童女の瞳孔を直視せず命拾い出来た小柄の邏卒であるが…。
「ですが正直…私も小椿童女の素顔を拝見したかったですよ♪彼女の雰囲気は別嬪の女性っぽかったですし♪」
「駐在員さんが死にたくなったら小椿童女の素顔を思う存分に直視しなさいよ♪一瞬で即死出来るでしょうね♪」
桜花姫は満面の笑顔で発言する。
「えっ…桜花姫様…」
八正道は苦笑いしたのである。
「桜花姫様は意地悪ですね♪」
小柄の邏卒は笑顔で返答する。談笑した桜花姫と邏卒であるが…。桜花姫は再度邏卒に質問したのである。
「如何してあんたは初対面の私を神出鬼没の悪霊と勘違いしたのよ?」
桜花姫の問い掛けに小柄の邏卒は苦笑いする。
「小椿童女と命名される悪霊が奇遇にも桜花姫様と姿形が合致しましてね…一瞬桜花姫様が神出鬼没の悪霊なのかと勘違いしちゃったのですよ!先程は失礼しましたね…」
「桜花姫様は普段から赤色の着物姿ですからね!仕方ないでしょうね!」
「八正道様も…失礼しちゃうわね…」
八正道に揶揄された桜花姫は表情が赤面する。
「勿論!桜花姫様は誰よりも別嬪ですよ!」
「勿論ですとも!野郎であれば誰であっても桜花姫様を別嬪と感じるでしょうね!」
「私が別嬪なんて!八正道様も駐在員さんも大袈裟ね!」
『私が別嬪ですって♪』
桜花姫は内心別嬪の一言に大喜びしたのである。
「小椿童女は即刻仕留めないと温厚篤実の女神様である私が極悪非道の悪霊と勘違いされちゃうからね!傍迷惑だわ…」
「桜花姫様の風評被害は勿論ですが…今回の問題を放置し続ければ小椿童女の霊能力によって大勢の町民達が斬首されますからね!彼女を野放しには出来ません!」
八正道は真剣そうな表情で桜花姫を凝視する。
「桜花姫様!即刻悪霊の小椿童女を征伐しに出掛けるべきです!」
一方の桜花姫は困惑した表情で…。
「本来なら即刻小椿童女を征伐したいのだけれど…生憎小椿童女が出現する時間帯は真夜中だけなのよね…」
「えっ!?小椿童女は真夜中でしか活動出来ないのですか!?」
小椿童女が出現するのは暗闇の深夜帯のみであり朝方やら昼間の日中では出現しない。桜花姫は小柄の邏卒に指示する。
「駐在員さんは武士団の役人達に今夜の夜番活動を全面的に中止させなさい!勿論東国の町民達には夜間の外出を厳禁させてね!」
「承知しました!桜花姫様…私は失礼しますね!」
承諾した小柄の邏卒は寺院から退出したのである。
「ですが桜花姫様…今回の悪霊事件も非常に厄介そうですね…」
「厄介かしら?悪霊捕食者の私にとって今回の事件は好都合だけれどね!何よりも悪霊征伐なんて久方振りだし!」
桜花姫にとって悪霊征伐は退屈凌ぎであり久方振りの悪霊出現に大喜びする。
「ですが桜花姫…奇妙ですよね…」
八正道の表情が険悪化したのである。
「えっ?何が奇妙なのよ?八正道様?」
「妖星巨木の悪霊の集合体を桜花姫様が成仏されたのに…今回は東国で女性の悪霊が出現しましたからね…」
半年前の悪霊大事件で妖星巨木に憑霊した悪霊の集合体は桜花姫の神通力によって成仏されたが…。以降も小規模であるが各地に悪霊が再出現し始めたのである。悪霊の出現頻度こそ小規模であるが…。八正道は悪霊の再出現に極度の胸騒ぎを感じる。
「桜花姫様…私は極度の胸騒ぎを感じるのです…」
「胸騒ぎですって?」
「今後は今迄に出現した以上の…強豪の悪霊が各地の村里に出現するかも知れません!私は今後も悪霊事件によって大勢の被害者が続出しそうで非常に不安なのですよ…」
八正道は今迄に出現した悪霊とは桁外れの霊気を保持…。強大なる悪霊の出現を危惧したのである。八正道は人一倍心配性の性格であるが…。桜花姫も悪霊の再出現は非常に気になる。
「兎にも角にも…私は今回の悪霊を征伐するわね…」
「承知しました…桜花姫様…」
「早速昼食を頂戴するわね!」
桜花姫と八正道は昼食の天丼を食事したのである。
第三話
両国橋
当日の真夜中…。桜花姫は久方振りの悪霊征伐にワクワクしたのである。
『小椿童女…今夜は出現するのかしら?』
桜花姫は獅子奮迅の様子で闇夜の東国に直行する。西国の村里から移動し始めてから二時間後…。桜花姫は東国の中心街へと到達する。
『真夜中の東国って普段は大都会なのに無人の過疎地みたいだわ…』
日中は人通りが過多である東国の中心街であるが…。真夜中の時間帯では人通りは皆無であり武士団の夜間の外出禁止命令によって出歩く町民は誰一人として確認出来ない。
『非常に好都合ね!』
今夜は武士団の巡邏も全面的に厳禁されたのである。
『早急に悪霊を仕留めて思う存分に熟睡するわよ!』
桜花姫は適当に中心街を出回るのだが…。
「はぁ…」
中心街では悪霊特有の霊気らしい霊気を感じられず悪霊らしき物体は何一つとして確認出来ない。
『中心街では悪霊の気配も霊気も感じられないわね…』
困惑した桜花姫であるが…。
『問題の両国橋は如何かしら?』
東国と北国を直結する両国橋を想起したのである。
『両国橋に直行するわよ♪』
桜花姫は即座に事件現場の両国橋へと移動する。
『今回も両国橋に小椿童女が出現するかしら?』
移動し始めてから数分後…。桜花姫は事件現場の両国橋へと到達したのである。
『問題の両国橋には到着したけれど…』
周囲を警戒するが悪霊特有の霊気も人影も皆無であり桜花姫は落胆する。
「如何しましょう?」
『真夜中に発見出来なければ小椿童女を仕留められなくなるわ…』
桜花姫は一息したのである。
「はぁ…今夜は非常に残念ね…」
『元凶の悪霊は発見出来ないし…今夜は出直しかしら?』
悪霊の小椿童女を発見出来ず西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「えっ…」
突如として背後より正体不明の気配を感じる。
『気配だわ…一体何かしら?』
町民達の外出は禁止された状態であり桜花姫は気配の正体を人外であると思考したのである。
「気配だわ…」
『恐らく気配の正体は人外でしょうね…』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。
「えっ…」
桜花姫の背後には番傘を所持した赤色の着物姿の小町娘が真夜中の満月を眺望したのである。
『こんな真夜中に一体誰かしら?』
小町娘の頭髪には寒椿の頭髪装飾が確認出来る。
『番傘と寒椿の頭髪装飾…ひょっとして彼女の正体は小椿童女…』
桜花姫は背後の小町娘に警戒した様子で恐る恐る…。
「あんたの正体は…悪霊の小椿童女ね…」
桜花姫は一歩ずつ慎重に番傘を所持する小町娘の背後へと近寄る。
「こんな暗闇の真夜中にあんたみたいな小町娘が一人で外出するなんて非常に不自然だわ…あんたは何者なのよ?」
桜花姫は番傘の小町娘に問い掛けるのだが…。番傘の小町娘は無反応の様子だったのである。小町娘は沈黙した様子であり只管に天空の満月を眺望し続ける。
「此奴…」
『私の問い掛けに無視するなんて!小椿童女は腹立たしい悪霊ね!』
桜花姫は小町娘の態度にピリピリし始める。
『此奴は問答無用征伐しないと!』
すると直後である。小椿童女は背後に位置する桜花姫の方向を直視した直前…。
「えっ!?」
桜花姫は即座に両目を瞑目させたのである。
『危機一髪だったわ!下手に小椿童女の瞳孔を直視しちゃうと頭首を斬首されちゃうのよね…』
冷や冷やした桜花姫は瞑目し続けた状態で恐る恐る後退りする。
『小椿童女は非常に厄介だわ…如何しましょう?』
桜花姫は咄嗟の瞑目により命拾い出来たものの…。瞑目し続けた状態では身動きすら不安定である。
『こんな状態では圧倒的に不利だわ…』
こんな状態では妖術を発動したくても集中出来ず思う存分に妖術を発動出来ない。
『一か八かよ…一度安全地帯に逃げましょう!』
桜花姫は止むを得ず両国橋から一目散に逃走したのである。
「はぁ…はぁ…」
桜花姫は近辺の路地裏にて逃亡する。
『如何やら小椿童女は…私を追撃しないみたいね…』
桜花姫は追撃しない小椿童女に一安心したのである。安堵した反面…。
『緊張しちゃったから変化の妖術も発動出来ないわね…如何しましょう?』
桜花姫は事態の打開に苦悩する。先程は極度の緊張感と小椿童女の素顔が気になり変化の妖術を発動したくても発動出来なかったのである。
「正直彼女の素顔も気になるし…」
『小椿童女の瞳孔を直視すると本当に斬首されるのかしら?』
桜花姫は斬首を覚悟…。
「一か八かね…」
『両国橋に戻りましょう!』
桜花姫は両国橋へと戻ったのである。
第四話
斬首
移動し始めてから数分後…。桜花姫は現場である両国橋に到達する。
『両国橋は此処だったわね…』
現場の両国橋には夜空の満月を眺望し続ける小椿童女の姿形が確認出来る。
『小椿童女だわ…石像みたいね…』
小椿童女はピクリとも身動きせず只管に夜空の満月を眺望し続ける。
『今度こそ妖術で徹底的に小椿童女を仕留めるわよ!』
桜花姫は恐る恐る小椿童女の背後に近寄ったのである。
「小椿童女!今度こそ悪霊のあんたを成仏させるからね!覚悟しなさいよ!」
すると数秒後…。小椿童女は背後の桜花姫に反応したのか再度背後の桜花姫を直視したのである。
「えっ…」
小椿童女は無表情で背後の桜花姫を凝視し続ける。
「あんたは…」
『小椿童女って…神出鬼没の悪霊なのに意外と美少女なのね♪』
神出鬼没の悪霊であっても小椿童女の素顔は非常に美的であり同性の桜花姫でさえも小椿童女は容姿端麗であると感じる。
『本当に彼女の霊能力で斬首されるのかしら?』
数秒間が経過したものの…。超常現象は何一つとして発生しない。
『別に…大丈夫そうね!』
桜花姫は大丈夫であると確信した直後…。
「えっ?」
桜花姫の喉元からポタポタッと赤色の液体が流れ出る。
「えっ…何かしら?」
『赤色の…液体?』
桜花姫は恐る恐る自身の首筋の液体に接触したのである。
「えっ…」
『流血だわ…如何して流血なんか?』
皮膚から流れ出る赤色の液体が自身の鮮血であると確信した直後…。桜花姫の頭首がポロっと橋板に落下したのである。小椿童女は霊能力で桜花姫の頭首を斬首すると不吉の表情で冷笑し始める。桜花姫の頭首を斬首した小椿童女は再度夜空の満月を眺望し始めるのだが…。
「残念だったわね!小椿童女!」
小椿童女は女性の美声に反応したのか背後を直視したのである。小椿童女の背後には両目を瞑目した状態の桜花姫が佇立する。
「小椿童女♪あんたの表情を直視出来ないのは非常に残念だけれども♪あんたが霊能力で斬首したのは私の分身体なのよね!」
先程小椿童女の霊能力によって斬首された桜花姫の肉体と頭首から白煙が発生し始める。切断された桜花姫の頭首と肉体は白煙が発生したと同時にポンッと消滅したのである。基本的に無表情の小椿童女であるが…。小椿童女はハッとした表情であり只管瞑目し続ける桜花姫を凝視したのである。
「単純だけど…作戦は成功ね!」
桜花姫は分身の妖術で形作った分身体を利用して小椿童女と接触…。分身体に桜花姫の形相を認識させたのである。
「あんたの素顔は分身体で確認出来たからね!」
桜花姫は小椿童女に変化の妖術を発動…。
「小椿童女は桜餅に変化しなさい!」
変化の妖術により小椿童女を小皿に配置された桜餅に変化させたのである。
『消耗した妖力を回復させないと!』
桜花姫は桜餅に変化した小椿童女をパクッと頬張り始める。
『桜餅は美味だわ!』
すると両国橋から感じられた不吉の霊気が消失する。
「元凶の小椿童女を仕留められたし!」
『今回の悪霊事件は無事解決ね!』
元凶の小椿童女を仕留められ…。
『私は西国の村里に戻って思う存分に熟睡するわよ!』
無事に悪霊事件を解決させた桜花姫は即座に西国の村里へと戻ったのである。
第五話
百足女房
小町娘の悪霊…。小椿童女との死闘から三日後の真夜中である。桜花姫は一日の日課である精霊故山の温泉地へと移動する。
『今日も草臥れたからね♪精霊故山の露天風呂で入浴しましょう!』
上機嫌でありルンルンの気分で精霊故山へと直進したのである。暗闇の夜道を移動してより数分後…。
「えっ…」
『何かしら?』
突如として背後から気配を感じる。
『気配だわ…』
突然の気配に桜花姫は警戒したのである。
『恐らく気配の正体は人外ね…悪霊かしら?』
気配の性質から判断して人外であると予想する。桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認したのである。
「あんたは…」
背後の存在は上半身が人間の女性…。下半身が百足の異形の存在である。
『下半身が百足みたいで気味悪いわね…』
異形の存在は無表情で桜花姫を凝視し続ける。
「あんたはひょっとして…【百足女官】かしら?」
百足女官とは上半身が人間の女性で下半身が百足の悪霊である。戦乱時代の最中…。家臣達の暴挙により毒殺された女官が神出鬼没の悪霊として誕生したとされる。百足女官の別名としては百足女房…。毒虫女郎とも呼称される。
『折角の温泉気分が台無しだわ…やっぱり悪霊は神出鬼没ね!』
桜花姫は内心苛立つものの…。
「仕方ないわね…」
十八番の天道天眼を発動したのである。
「あんたの両目…天道天眼かしら?」
百足女官は人語で喋り始める。
「百足女官は悪霊なのに喋れるのね…」
すると百足女官は冷笑したのである。
「妖女の小娘…あんたは数分後に毒死するわよ♪確実に♪」
「はっ?私が数分後に毒死ですって?冗談かしら?」
桜花姫は百足女官の妄言に呆れ果てる。
「私は天道天眼を発動したのよ!あんたみたいな下級悪霊の小細工なんて私には通用しないわよ!」
桜花姫は断言するのだが…。
「えっ…」
『何かしら?息苦しいわね…』
桜花姫は突如として呼吸が息苦しくなる。
「はぁ…はぁ…」
「如何やら妖女の小娘♪あんたは私の猛毒の瘴気で体内が汚染されたみたいね♪恐らくあんたは数分後には毒死するでしょう♪」
「はぁ?あんたは…何時から瘴気を?」
すると百足女官は桜花姫の問い掛けに満面の笑顔で即答する。
「あんたが瘴気で汚染されたのは私と遭遇した瞬間からよ♪私の瘴気は透明だから気付き難いのよね♪」
百足女官の体内から発生する瘴気は透明であり肉眼では気付き難い。異変に気付いた瞬間には最早全身が汚染された状態である。
『天道天眼を所持する私が…猛毒の瘴気に気付かないなんて!』
桜花姫は両目の視界が黒化し始め…。朦朧とし始める。
『視界が…』
意識が遠退いたのである。
『私は…こんな悪霊を相手に…』
桜花姫はバタッと地面に横たわる。
「妖女の小娘…如何やら毒死したみたいね♪」
百足女官は地面に横たわった状態の桜花姫に冷笑したのである。
「彼女の血肉♪美味しそうだわ♪」
百足女官は桜花姫を捕食したくなる。
「折角の機会だし♪彼女の血肉を捕食しましょう♪」
百足女官は下半身の百足が蠢動し始め…。地面に横たわった状態の桜花姫にノソノソと急接近する。
「妖女の小娘♪あんたの血肉…頂戴するわね♪」
桜花姫を捕食する寸前である。
「えっ?」
突如として桜花姫の身体髪膚から白煙が発生し始め…。直後に桜花姫の肉体がポンっと消滅したのである。
「一体何が!?」
百足女官は突然の超常現象に驚愕する。
「如何して消滅したの!?彼女の肉体は!?」
百足女官は周囲をキョロキョロさせる。すると直後である。
「残念だったわね♪百足女官♪」
百足女官の背後より…。桜花姫は出現したのである。
「あんたは先程の妖女の小娘!?」
百足女官は驚愕した表情で桜花姫を凝視する。
「百足女官♪あんたの瘴気で毒死させたのは私の分身体なのよ♪」
桜花姫は先程の天道天眼を発動させた瞬間から分身の妖術を発動したのである。
「先程毒死したのがあんたの分身体だとしても…私は常時瘴気を放出出来るのよ♪妖女のあんたが毒死するのは時間の問題ね…」
百足女官は断言する。
「妖女は妖女でも…私は一握りの最上級妖女なのよ!百足女官の瘴気が強力だとしても簡単には毒死しないわ!」
桜花姫は自身が最上級妖女であると豪語するのだが…。
『私が一握りの最上級妖女でも…やっぱり百足女官の瘴気は想像以上に強力ね…』
百足女官は常時体内から猛毒の瘴気を放出出来る。時間が経過すれば経過し続ける程度に体力と妖力が消耗したのである。
『西国全体が瘴気で汚染されるわね…百足女官は早急に仕留めないと!』
百足女官の瘴気は非常に強力であり時間が経過し続ければ自身のみならず…。西国全体が百足女官の瘴気で汚染されるのは明白である。
「百足女官!あんたは覚悟するのね!」
桜花姫は十八番の変化の妖術を発動…。
「桜餅に変化しなさい!」
百足女官は桜花姫の大好きな桜餅に変化する。同時に百足女官の肉体から発生した瘴気も自然に浄化されたのである。
「はぁ…」
『百足女官と瘴気を無力化出来たわね…』
桜花姫はホッとする。
『桜餅…頂戴するわね♪』
桜餅に変化した百足女官をパクッと頬張ったのである。
『やっぱり悪霊だとしても桜餅は美味だわ♪』
今度は近隣の精霊故山を眺望…。
『先程の百足女官との戦闘で妖力と体力を消耗したからね…好都合だわ♪』
桜花姫は即座に精霊故山の露天風呂へと急行したのである。
第六話
鬼面山
南国の鬼面山と命名される岩山にて無数の悪霊が出現したとの噂話が国全体に出回る。百足女官との戦闘から四日後の真昼の出来事である。鬼面山の噂話が気になった桜花姫は真昼の時間帯…。悪霊征伐にワクワクしたのか西国の村里から南国に聳え立つ鬼面山へと直行したのである。
『今度は南国の鬼面山に悪霊の大群が出現したのね♪』
鬼面山とは標高九町規模の巨大岩山であり大山全体が巨体の岩鬼を連想させる外観から鬼面山と命名される。造物主妖星巨木との戦闘から悪霊の出現頻度は減少傾向であったものの…。桜花姫は久方振りの悪霊の大群出現に大喜びしたのである。西国の村里から徒歩により三時間後…。桜花姫は南国の村里へと到達する。
『南国の村里に到着したわね♪』
南国の村里は非常に殺風景であるものの…。大勢の農民達が農作業に尽力中だったのである。
「今回は何が出現したのかしら?」
『半年前の荒神山での戦闘みたいに大量の悪霊が出現したら面白いわね♪』
桜花姫は半年前の荒神山での悪霊征伐を想起する。
『即刻問題の鬼面山に移動しないと!』
目的地の鬼面山に直行したいものの…。
「えっ…」
桜花姫は場所が不明瞭であり困惑する。
『鬼面山の場所って?』
困惑した桜花姫は恐る恐る耕作中の農民に近寄る。
「耕作中に御免あそばせ♪百姓さん♪」
すると耕作中の農民が恐る恐る桜花姫を直視する。
「えっ?あんたは大都会の芸妓さんかね?あんたみたいな芸妓の娘さんが南国の村里に訪問されるなんて…一体何事ですかね?」
「なっ!?誰が芸妓ですって!?」
桜花姫は農民の花魁発言に苛立ったのか即答したのである。
「失礼しちゃうわね…私は最上級妖女の桜花姫!月影桜花姫よ!最上級妖女の私を其処等の芸妓なんかと勘違いしないでよね…」
一方の農民は桜花姫の返答に驚愕する。
「えっ!?貴女様は伝説の最上級妖女の…月影桜花姫様ですか!?」
農民は即座に桜花姫に謝罪したのである。
「大変失礼しました!月影桜花姫様!花柄の着物姿だったので桜花姫様を芸妓さんの娘さんと勘違いしちゃいました…」
「私自身奇抜だから芸妓さんと見間違えるでしょうね♪仕方ないわね♪」
桜花姫は満面の笑顔で返答する。
「ですが桜花姫様?こんなにも早朝から如何して南国の村里なんかに訪問されたのですか?南国の村里はこんなにも片田舎なのですよ…桜花姫様は此処で一体何を?」
南国の領土の広大さは首都圏の東国に匹敵するものの…。領地の大半は農村地帯であり娯楽らしい娯楽は皆無である。
「近頃は南国の鬼面山に悪霊の大群が出現したらしいからね!私は鬼面山に出現した悪霊の大群を征伐しに南国に出掛けたのよ!」
「鬼面山の悪霊征伐ですね…」
「百姓さん?」
桜花姫は恐る恐る鬼面山の場所を質問する。
「私は鬼面山の場所を知りたくてね…あんたは鬼面山の場所は知らないかしら?」
「鬼面山であれば北方の岩山ですよ…」
農民は北方の側面に聳え立つ岩山を指差したのである。
「えっ…北方の岩山ですって?」
桜花姫は農民が指差した北方の岩山を眺望する。鬼面山は農村から非常に近辺であり徒歩でも数十分で到達出来る程度の近距離である。
「鬼面山は案外近辺だったのね!感謝するわね!百姓さん!」
桜花姫は北方の岩山を目印に直進する。すると直後…。
『霊気かしら?』
近辺の農村からは感じられなかったが鬼面山に接近し続けると無数の重苦しい気配を感じる。
『空気が異常に重苦しいわね…今回は大群かしら?』
鬼面山の表面は非常に暗闇であり無数の霊気の悪影響からか山中の空気も全体的に重苦しく感じられる。
『こんなにも山中の空気が重苦しいなんて…普通の人間なんて鬼面山には近寄りたくても近寄れないでしょうね…』
桜花姫は恐る恐る殺伐とした鬼面山へと突入したのである。
第七話
頂上
鬼面山の山道の周辺はゴツゴツとした岩壁ばかりであり天然の動植物は何一つとして確認出来ない。
『昼間なのに真夜中みたいな雰囲気だわ…鬼面山は本当に気味悪いわね…』
時間帯は真昼であるが…。山道は非常に薄暗い雰囲気であり真夜中の夜道に感じられる。すると山道の周辺より…。
『無数の霊気だわ…悪霊の大群かしら?』
無数の霊気が自身に近寄るのを感じる。
『天道天眼…発動!』
桜花姫は襲撃を警戒したのか即座に神性妖術の天道天眼を発動…。血紅色だった桜花姫の両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。
「ん?」
直後…。
『気配だわ…悪食餓鬼かしら?』
目前の地面より無数の悪食餓鬼が出現したのである。
『悪食餓鬼の大群なんて…最高だわ!』
桜花姫は無数の悪食餓鬼との遭遇に大喜びし始める。
『一思いに悪霊の大群を蹴散らせるわよ!』
地面から出現した無数の悪食餓鬼が桜花姫に殺到したのである。
「あんた達は無謀ね!」
桜花姫は即座に念力の妖術を発動…。
「命知らずのあんた達は死滅しなさい!」
殺到する無数の悪食餓鬼の頭部を念力の妖術で破裂させたのである。
『楽勝!楽勝!』
周辺の地面には頭部を破裂させられた無数の悪食餓鬼の血肉やら肉片が山中の彼方此方に飛散する。桜花姫は一安心するものの…。
『今度も気配だわ…』
背後からも無数の霊気を感じる。
『背後かしら?』
背後の地面からも無数の悪食餓鬼が出現したのである。
『鬱陶しい奴等だわ…』
桜花姫は仕留めても出現し続ける悪食餓鬼の大群に苛立ったものの…。
「鬱陶しいからあんた達も死滅しなさい!」
背後から殺到する無数の悪食餓鬼を念力の妖術によって粉砕する。一瞬で悪食餓鬼の大群を仕留めたのである。
『妖力を消耗しちゃったから悪食餓鬼を桜餅に変化させちゃおうかしら!』
桜花姫はルンルンの気分であり十八番である変化の妖術を発動…。破裂させた悪食餓鬼の無数の肉片を自身の大好物である桜餅に変化させたのである。
『消耗しちゃった妖力を回復させないと!』
本来は悪霊の血肉であるが桜花姫は無我夢中に無数の桜餅をパクパクと鱈腹頬張る。桜餅を頬張り続けてより数分後…。道端に散乱した無数の桜餅を平らげたのである。
『妖力は回復したわね!』
無数の桜餅によって妖力を回復させた直後…。
「えっ!?」
背後より複数の霊気を感じる。
「複数の霊気を感じるわね…」
『悪食餓鬼を上回る霊気だわ…今度は一体何が出現したのかしら?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。
『今度の相手は集合体の百鬼悪食餓鬼かしら?』
桜花姫の背後に出現した悪霊とは無数の悪食餓鬼が一体化した一頭身の巨体…。百鬼悪食餓鬼であり三体も出現したのである。桜花姫は百鬼悪食餓鬼の出現に大喜びする。
「こんな場所に百鬼悪食餓鬼が三体も出現するなんてね♪」
『私は空腹だから好都合だわ!』
すると百鬼悪食餓鬼の体表である無数の悪食餓鬼の頭部はギロッとした表情で怨敵の桜花姫を睥睨し始める。
「あんた達って気味悪さだけなら抜群ね!」
百鬼悪食餓鬼の体表である悪食餓鬼の口先から猛毒の瘴気を周辺に放射する。
『猛毒の瘴気かしら?』
百鬼悪食餓鬼の瘴気は非常に強力であり地面の石道が融解されたのである。
『百鬼悪食餓鬼の瘴気は非常に強力ね…皮膚に接触すると危険そうだわ…』
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。百鬼悪食餓鬼の瘴気を無力化したのである。
「鬱陶しいからあんた達は飴玉に変化しなさい!」
百鬼悪食餓鬼を標的に変化の妖術を発動…。三体の百鬼悪食餓鬼を大好きな飴玉に変化させたのである。桜花姫は飴玉に変化した百鬼悪食餓鬼を一口でパクッと頬張る。
『やっぱり美味だわ♪』
大喜びした桜花姫であるが…。直後である。
「えっ…」
鬼面山の頂上より殺伐とした強大なる霊気を感じる。
『今度は何かしら?』
気になった桜花姫は一目散に鬼面山の頂上へと直行したのである。
『天辺から霊気を感じるわ…』
桜花姫は鬼面山の頂上に到達すると周囲を警戒する。
『百鬼悪食餓鬼を上回る霊気なのは確実ね…恐らく天辺の悪霊は百鬼悪食餓鬼とは別物だわ…』
霊気の性質から悪食餓鬼は勿論…。百鬼悪食餓鬼とは別物であると察知する。すると自身の背後より強烈なる熱気を感じる。
「えっ!?」
『熱気だわ…今度は何が出現したのかしら?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。
「如何やら天辺から感じられた霊気の正体はあんただったみたいね…」
桜花姫の背後に出現したのは空中を浮遊する牛車の車輪である。超高温の火炎に覆い包まれた車輪の中心部には僧侶らしき男性の巨大頭部が確認出来る。
「あんたは車輪の悪霊…【地獄輪入道】みたいね…」
地獄輪入道とは戦乱時代の最中…。惨殺された僧侶達の無念の集合体として知られる。彼等の怨念が器物である牛車の車輪に憑霊…。同系統の悪霊である小面袋蜘蛛やら亡霊菊人形と同様に器物の悪霊の一種とされる。
『此奴は悪党達に惨殺された僧侶達の無念の集合体だったわね?』
桜花姫は地獄輪入道の出現に警戒する。一方の地獄輪入道は空中を浮遊した状態から鬼面山頂上の桜花姫を睥睨し始める。
「命知らずの人間の小娘風情が…鬼面山の天辺に到達するとは無謀なり!」
地獄輪入道は人間界の公用語で発言したのである。
「誰が人間の小娘ですって!?」
桜花姫は地獄輪入道の人間の小娘発言に腹立たしくなる。
「失礼しちゃうわね!私は正真正銘最上級妖女なのよ!」
桜花姫は強気の態度で地獄輪入道に即答する。
「最上級妖女の小娘風情よ…貴様は小娘風情の分際で随分と強気であるな…」
「あんたなら其処等の悪霊よりは私とも接戦出来そうね!地獄輪入道が相手なら手応えを感じられそうだわ!」
「命知らずの妖女の小娘風情が!俺に遭遇したのを後悔するのだな!」
地獄輪入道は口先より強烈なる火炎を凝縮させたのである。
『此奴は予想外ね…地獄輪入道は霊気だけなら百鬼悪食餓鬼は勿論…小面袋蜘蛛よりも強力だわ…』
地獄輪入道の霊気は非常に強力であり悪食餓鬼の集合体とされる百鬼悪食餓鬼は勿論…。同種の器物の悪霊である小面袋蜘蛛をも上回る。
『地獄輪入道…多少は危険かも知れないわね…』
桜花姫は地獄輪入道の強大なる霊気に一瞬後退りする。
「俺に戦慄したか!?か弱き小娘の妖女風情よ!」
地獄輪入道から後退りした桜花姫であるが…。
「誰があんたなんかに戦慄ですって?」
桜花姫は笑顔で反論したのである。
「寝言なら熟睡してから発言するのね!」
地獄輪入道の口先に凝縮された火の粉は高熱の火球へと変化する。
「貴様は完膚なきまでに死滅せよ!妖女の小娘風情が!」
地獄輪入道は口先から高熱の火球を発射したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。間一髪地獄輪入道の火球を無力化したのである。
「残念だったわね!地獄輪入道!危機一髪だったわ!」
桜花姫は地獄輪入道に挑発する。
「妖女の小娘風情よ…貴様は妖力の防壁で俺の攻撃を無力化するとは…」
「私も猛反撃しちゃうわよ!地獄輪入道…あんたは桜餅に変化しちゃいなさい!」
桜花姫は地獄輪入道に変化の妖術を発動するものの…。
「えっ!?」
『如何して!?』
地獄輪入道は空中を浮遊した状態であり依然として桜餅には変化しない。
『如何して地獄輪入道には私の妖術が発動しないのよ!?』
桜花姫は予想外の事態に動揺し始める。
「残念であったな…妖女の小娘風情よ!貴様程度の妖術は俺には通用しないのだ!」
「念力の妖術だったら如何かしら?」
今度は地獄輪入道に念力の妖術を発動するのだが…。
「こんな妖術…痛くも痒くもない!貴様程度の妖術が俺に通用するか!貴様は自身の非力さを痛感するのだな!」
地獄輪入道は平然とした状態であり念力の妖術さえも発動されない。
「如何して私の妖術が無力化されるのよ?」
『ひょっとして地獄輪入道には妖術が通用しないのかしら?』
地獄輪入道は動揺し始めた桜花姫に…。
「貴様は不思議そうな表情だな…妖女の小娘風情よ!」
「あんたの肉体はひょっとして…」
桜花姫は造物主の妖星巨木を連想する。
「本来…俺の肉体は世界樹の妖星巨木の肉片から誕生した器物であるからな!貴様程度の妖術では俺は仕留められまい!所詮妖女である貴様が俺に妖術を発動すれば貴様の妖術は必然的に無力化!貴様の妖力は俺の肉体に吸収され…俺は半永久的に強大化し続けるだけだ!」
「やっぱりあんたの肉体は妖星巨木の樹木だったのね…妖力を吸収するなんて小面袋蜘蛛みたいね…」
本来地獄輪入道の肉体は造物主である妖星巨木の木材から形作られた牛車の車輪であり器物の悪霊である。特定の地方では器物の悪霊である小面袋蜘蛛と同様に車輪の付喪神とも呼称される。性質上小面袋蜘蛛と同様に荒唐無稽の妖術で地獄輪入道に攻撃すると本体の吸収能力で妖力は吸収され…。妖術は完全に無力化される。
「所詮貴様程度の妖術では俺には勝利出来ない!貴様は観念するのだな!妖女の小娘風情!」
豪語する地獄輪入道であるが…。
「半年前の私だったら…悪戦苦闘は確実だったかも知れないわね!」
桜花姫は余裕の表情である。
「ん?」
『此奴は俺を相手に随分と余裕の様子だな…如何して妖女の小娘風情は平常心なのだ?奥の手でも隠し持って?であれば此奴は非常に厄介だが…』
地獄輪入道は冷静沈着の桜花姫を不可思議に感じる。一方の桜花姫は空中を浮遊し続ける地獄輪入道を直視するとニコッと微笑み始める。
「地獄輪入道…口寄せの妖術なら如何かしら?」
「口寄せの妖術だと?今更俺に小細工か?俺に荒唐無稽の妖術は通用しない!貴様は俺を相手に無謀であると理解出来ないのか!?」
「無謀だと断言するのは早計よ…地獄輪入道♪」
「ん?貴様は一体何を?」
桜花姫は妖星巨木にも通用する神通力を活用…。口寄せの妖術を発動する。桜花姫は口寄せの妖術により俗界とは無縁の異世界に存在すると推測される近代兵器…。小型地対空ミサイルを召喚したのである。
「なっ!?」
『異次元空間から火箭弾を口寄せしたのか!?』
口寄せの妖術で小型地対空ミサイルを鬼面山天辺へと一瞬でワープさせる。
「如何かしら?口寄せの妖術は器物も召喚出来るのよ!」
口寄せの妖術は別名としては時空間妖術とも呼称される。多種多様の生命体やら黄泉の世界に存在する死没者のみならず…。本来俗界には存在せず異世界に存在すると確実視される超絶的物品さえも自由自在に口寄せ出来る。
『今度は!』
桜花姫は異世界から口寄せされた小型地対空ミサイルの導火線に火炎の妖術を発動…。導火線に着火したのである。
「地獄輪入道!あんたは異世界の火箭弾で完膚なきまでに死滅するのね!」
「なっ!?貴様!?俺に何を!?」
小型地対空ミサイルは導火線が着火されたと同時に小型地対空ミサイルは超音速で飛翔し始める。小型地対空ミサイルが飛翔し始めてより数秒後…。鬼面山の天辺に浮遊する地獄輪入道へと直撃したのである。
「ぎゃっ!」
小型地対空ミサイルの直撃によって地獄輪入道の肉体はバラバラに粉砕される。
『地獄輪入道を仕留められたわね♪』
周囲の地面には地獄輪入道の肉片が彼方此方に散乱する。
『今度こそ地獄輪入道は桜餅に変化しなさい♪』
桜花姫は地獄輪入道の死骸に変化の妖術を駆使…。バラバラに粉砕された地獄輪入道の肉片を自身の大好きな桜餅に変化させる。
「空腹だし…」
『折角だから桜餅を食べちゃおうかしら!』
桜花姫はムシャムシャと無数の桜餅を平らげる。無我夢中に桜餅を頬張り続ける桜花姫であるが…。
「えっ?何かしら?」
『複数の霊気だわ…』
背後より地獄輪入道と同様の強大なる霊気を複数感じる。
『今度も地獄輪入道かしら?』
桜花姫は警戒した様子で背後を直視する。
『鬱陶しいわね…今度は地獄輪入道が三体も出現するなんて…』
桜花姫の背後には三体もの地獄輪入道が空中を浮遊した状態で出現したのである。彼等は鬼神の形相で桜花姫を睥睨…。図太い地声で発言し始める。
「俺達の同志が…こんな妖女の小娘風情に死滅させられるとは…」
「如何やら貴様は其処等の妖女とは別格であるな…」
「ひょっとして小娘風情は…一握りとされる最上級妖女だな?」
桜花姫は満面の笑顔で彼等の問い掛けに返答する。
「勿論!私は一握りの最上級妖女なのよ!私は其処等の妖女とは別格だからね…あんた達も私の変化の妖術で桜餅に変化させるわよ!」
三体の地獄輪入道は即答したのである。
「止むを得ないな…同志達よ!奥の手だ!」
「こんな妖女の小娘風情を相手に…俺達の本領を発揮させられるとは!」
「仕方ないが…折角の機会であるからな!奥の手を駆使するか!同志達よ!」
三体の地獄輪入道の肉体がピカッと発光したかと思いきや…。
「えっ!?今度は何事!?」
三体の地獄輪入道が融合化すると巨大牛車の悪霊へと一体化する。
「コレナラドウダ!?ヨウジョノコムスメ!コレデキサマヲヒキコロシテヤル!カクゴスルノダナ!」
巨大牛車の悪霊は片言の人語で発言したのである。
「今度は地獄輪入道よりも厄介なのが出現したわね…」
『此奴は今迄に出現した悪霊とは桁違いの霊気だわ…』
桜花姫は牛車の悪霊を直視すると恐る恐る後退りする。
『三体の地獄輪入道が一体化して…牛車の悪霊…【地獄朧車】が出現するなんて…』
地獄朧車とは戦乱時代に斬首された武将達の怨念が融合化した集合体とされる超自然的存在である。本体である牛車の前方部分には等身大の巨大鬼首が確認出来る。
「此奴は強力ね…今迄出現した悪霊とは別格みたいだわ…」
『地獄朧車は霊気だけなら以前弁天島に出現した海難姫君よりも強力そうね…』
地獄朧車は半年前に出現した上級悪霊の海難姫君と同様に霊気のみなら上級に君臨する上級悪霊の一体である。
『畜生…こんな悪霊は妖術を発動したとしても妖力は吸収されるでしょうね…如何すれば強豪の地獄朧車を仕留められるのかしら?』
地獄朧車の肉体も妖星巨木の木材から誕生した器物の悪霊であり妖術を駆使したとしても確実に吸収される。
「ヨウジョノコムスメヨ!コレデシメツセヨ!」
地獄朧車は口先より蛍光色の火球を発射したのである。直後…。
『止むを得ないわ…一か八かよ!』
桜花姫は妖力の防壁を発動したのである。妖力の防壁によって地獄朧車の発射した火球の無力化には成功するものの…。
「きゃっ!」
桜花姫は火球の大爆発によって十数メートルほど吹っ飛ばされる。
「ぐっ!」
地獄朧車の攻撃力は桁外れの高威力であり妖力の防壁を発動したとしても本体を防ぎ切るのが精一杯だったのである。
『地獄朧車の火球は予想以上に強力だわ…妖力の防壁を発動しなければ全身がバラバラに粉砕されたでしょうね…』
桜花姫は地獄朧車の火球攻撃に吹っ飛ばされた影響で地面に横たわる。
「コノママキサマヲヒキコロシテヤル!オロカナヨウジョノコムスメ!カクゴスルノダナ!」
桜花姫は地面に強打した影響で身動き出来なくなる。
『全身を強打しちゃったわね…身動き出来ないわ…』
一方の地獄朧車は猛スピードで走行し始め…。
「ヨウジョノコムスメ!コノママキサマヲヒキコロシテヤル!」
地面に横たわった状態の桜花姫に急接近する。
『一か八かの大博打よ!今度こそ口寄せの妖術で…地獄朧車を!』
桜花姫は一か八かの苦肉の策により口寄せの妖術を発動する。地獄朧車に轢死させられる寸前…。
「ナッ!?コレハ!?」
桜花姫は口寄せの妖術によって未来世界の巨大産業文明で建造されたであろう最新式の巨大戦艦固定型砲台を口寄せしたのである。
「ニンゲンノ…ツクッタタイホウダト!?」
「死滅するのはあんたよ!地獄朧車!覚悟するのね!」
地獄朧車の前面に出現した巨大戦艦固定型砲台が突進し続ける地獄朧車を砲撃…。
「シマッタ!」
絶大なる爆風と衝撃波が頂上全域に発生したのである。砲撃による爆発音が鬼面山全域に響き渡る。
『異世界の兵器…予想以上に高威力ね…』
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。間一髪爆風と衝撃波の無力化に成功する。
「ギャッ!」
一方の地獄朧車は巨大戦艦固定型砲台の真正面からの砲撃によって巨大砲弾が前面に直撃…。地獄朧車はバラバラに粉砕されたのである。
「地獄朧車を仕留めたわね…久方振りの強敵だったわ…」
今回の主敵とされる地獄朧車を仕留めた影響によって鬼面山全域を覆い包んだ霊気が消失…。悪霊の霊気が感じられなくなる。
「鬼面山の事件は無事に解決かしら!」
桜花姫は危機一髪強豪の地獄朧車に辛勝出来たのである。事件の解決に一安心するものの…。
『親玉の地獄朧車は仕留められたけど…今回は予想以上に妖力を消耗したわね…』
桜花姫は巨大兵器の砲撃によってバラバラに粉砕された地獄朧車の肉片に変化の妖術を発動する。
『地獄朧車の肉片を桜餅に変化させちゃいましょう!』
バラバラに粉砕された地獄朧車の肉片を無数の桜餅に変化させる。
『消耗しちゃった妖力を回復させないとね!』
桜花姫は無我夢中に無数の桜餅を鱈腹頬張ったのである。
『満腹!満腹!』
「多少は苦戦しちゃったけれど悪霊事件は無事に解決出来たし…西国の村里に戻りましょう!」
桜餅を腹一杯平らげた桜花姫は鬼面山から下山し始める。
第八話
人魚
南国の鬼面山から下山してより四時間後…。
『無事に戻れたわね…』
桜花姫は無事に西国の村里へと戻ったのである。
『今日は悪霊征伐で疲れちゃったし…』
「精霊故山の露天風呂にでも入浴しちゃおうかしら!」
時間帯は夕方であり桜花姫は即刻精霊故山天辺の露天風呂へと直行する。
「えっ!?」
すると突然…。
『何かしら!?』
突如として精霊故山の天辺より摩訶不思議の妖力を感じる。
『妖力っぽいけれど…ひょっとして精霊故山の天辺に妖女が出現したの?』
「一体誰なのかしら?」
桜花姫は妖力の正体が気になったのか即座に精霊故山の天辺へと急行したのである。すると露天風呂の中心部には一人の女性らしき人影が確認出来る。
『女性だわ…彼女は一体何者なのかしら?』
桜花姫は岩陰から恐る恐る入浴中の女性の様子を観察したのである。女性の頭髪は赤毛のストレートロングであり頭髪には星型を連想させる海星のヘアアクセサリー…。両方の耳朶には金剛石のイヤリングが確認出来る。
『容姿から判断して…彼女は異国の女性みたいね…』
入浴中の女性は異国の人間であると認識する。
「えっ…」
『特大だわ…』
何よりも気になったのは女性の胸部は巨乳のおっぱいであり桜花姫はジーッと凝視し続ける。
「彼女は…」
『おっぱいだけなら…私に拮抗するかも知れないわね…』
桜花姫は入浴中の女性を凝視し続けるのだが…。
「えっ!?」
桜花姫は女性の下半身を直視すると極度の驚愕により口走る。
「彼女は人魚なの!?」
露天風呂の水面より銀鱗の大魚の尾鰭が確認出来たのである。入浴中の女性の正体が人外の人魚であると認識する。
『如何やら彼女が本物の人魚なのは確実ね…如何して人魚が地上世界なんかに?』
今現在では地上世界で人魚の血族と断定出来るのは実質的に月影桜花姫のみである。桜花姫を除外すると国内のみで確認出来る人魚の血族は皆無とされる。
『今時私以外の人魚なんて希少価値だわ…世紀の大発見ね!』
一瞬であるが桜花姫は世紀の大発見に感動する。すると直後…。入浴中の人魚はピクッと反応したのである。女性は背後の岩陰に警戒した様子であり恐る恐る背後の岩陰をジーッと凝視し続ける。
『彼女に気付かれちゃったわ…即刻家屋敷に戻らないと!』
桜花姫は非常に気まずくなったのか恐る恐る精霊故山から下山したのである。無事自宅に帰宅すると居室の中央でゴロゴロと寝転び始める。
『結局…露天風呂の人魚は何者だったのかしら?』
桜花姫は人魚の女性が何者なのか非常に気になる。
『彼女からは妖力が感じられたし…彼女が人外の妖女なのは確実でしょうけど…』
結局人魚の女性が気になり深夜帯も寝付けなかったのである。
第九話
人魚伝説
一連の出来事から翌朝…。
「御免あそばせ♪八正道様♪」
桜花姫は娯楽目的にて東国の八正道の寺院へと訪問する。
「お早う御座います!桜花姫様!」
八正道は満面の笑顔で挨拶したのである。
「こんな早朝に訪問されるなんて…一体如何されましたか?桜花姫様?」
八正道に問い掛けられると桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「妖星巨木の悪霊を成仏させてから毎日が退屈で仕方なかったからね♪単なる暇潰しよ♪暇潰し♪」
「本日も暇潰しだったのですね…」
八正道は内心…。
『如何やら国全体が平穏なので一安心ですね♪』
桜花姫が暇潰しで東国の寺院に訪問するのは国全体が平和の証拠であると思考したのである。
「折角なので桜花姫様には緑茶と…菓子類を用意しなくては!」
「菓子類ですって!?何かしら!?」
「応接間に案内しましょう…」
八正道は桜花姫に応接間へと案内する。
「御免あそばせ♪八正道様♪」
桜花姫は大喜びした様子で応接間へと入室したのである。八正道は緑茶と異国の洋菓子であるカステラケーキを用意する。
「異国の洋菓子みたいだけど♪今回の洋菓子は一体何かしら?」
異国の菓子類とは桃源郷神国では滅多に入手出来ない高額品の代物であり桜花姫は大喜びしたのである。
「カステラケーキと命名される異国の洋菓子ですよ!昨晩北国の知人から頂戴しました!異国の洋菓子なんて桃源郷神国では滅多に吟味出来ない貴重品ですからね…是非とも桜花姫様には異国のカステラケーキを提供しますよ!」
「感謝するわね!八正道様!」
桜花姫は恐る恐る洋菓子のカステラケーキを味見する。
「カステラケーキ♪美味だわ♪」
桜花姫はカステラケーキが大変美味しかったのか満足気の様子である。
「やっぱり異国の洋菓子も絶品ね!」
「桜花姫様が大喜びされたので安心しましたよ…」
すると桜花姫は昨夕の出来事を想起する。
「突然だけど八正道様?」
「一体如何されましたか?桜花姫様?」
「昨夕の出来事なのだけど…」
精霊故山の露天風呂にて正体不明の人魚と遭遇した出来事を八正道に一部始終告白したのである。
「桜花姫様は精霊故山の露天風呂で赤髪の人魚に遭遇されたのですか?」
八正道は人魚の存在に興味深くなる。
「赤髪の人魚なんて…非常に興味深い内容ですね!」
「正直…島国の桃源郷神国では私以外の人魚の血族なんて皆無でしょうし…精霊故山で私と遭遇した赤髪の人魚は一体何者だったのかしら?」
八正道は恐る恐る…。
「ひょっとすると桜花姫様が精霊故山の頂上で遭遇された人魚の女性とは…異国出身の人魚なのでは?」
桜花姫は一瞬異国の人魚に反応する。
「異国出身の…人魚ですって?」
「非常に信じ難い内容かも知れませんが…西洋の異国では桃源郷神国以上に人魚の伝説は有名なのですよ…」
異国の青海原では多数の人魚が目撃され人魚伝説は桃源郷神国よりもメジャーであり異国の人間達にとって人魚は親近的存在だったのである。
「恐らく桜花姫様が昨夕に遭遇された人魚の女性とは…桃源郷神国に入国された異国出身の妖女なのかも知れませんね…」
「私が遭遇した赤髪の人魚が異国出身の妖女である可能性も否定出来ないわね…」
「ですが正直…私も遭遇したかったですよ!異国の人魚に…一体どんな女性なのか非常に気になりますね!」
「八正道様♪勿論おっぱいは私に匹敵する巨乳ちゃんだったわよ♪」
八正道は満面の笑顔で発言する桜花姫に赤面し始め…。
「なっ!?」
八正道は一瞬動揺するも必死に誤魔化したのである。
「桜花姫様は列記とした女性なのに!非常に破廉恥なのですな!」
八正道は苦し紛れに誤魔化すものの…。
「私は別に…何も…女性の肉体に興味なんて…微塵も…」
赤面したのである。
『普段は生真面目の八正道様でも…内面は助平みたいね♪』
桜花姫は赤面し始めた八正道を揶揄する。
「ですが桜花姫様が遭遇された人魚の女性が何者なのかは非常に気になりますし…非常に興味深いですね!」
「今度彼女と遭遇したら実際に会話したいわね…彼女の様子から私に対する敵意は無さそうだったし…」
桜花姫はカステラケーキをペロリと頬張ると西国の村里へと戻ったのである。
第十話
依頼
桜花姫は無事に家屋敷の近辺へと到達するのだが…。
「えっ?」
桜花姫の家屋敷の玄関口よりピンク色のロングドレスを着用した小柄の女性らしき人物が佇立する。赤毛のストレートロングであり頭髪には星型を連想させる海星のヘアアクセサリーが確認出来る。
『彼女は一体誰なのかしら?外見だけなら異国の人間っぽいわね…』
桜花姫は恐る恐る赤毛の女性の背後へと近寄るとポンッと女性の背中に接触する。
「一寸!あんた!」
「きゃっ!」
驚愕した赤毛の女性は即座に背後を直視したのである。赤毛の女性はアクアカラーの碧眼であり異国の人間であると認識出来る。
「突然何するのよ!?吃驚するじゃない!」
赤毛の女性は背後の桜花姫に怒号する。
「はっ!?突然何するのよって…私の台詞よ!あんたは私の家屋敷に用事かしら?要件は何よ…」
桜花姫が発言すると赤毛の女性は即座に謝罪したのである。
「御免なさい…此処は貴女の家屋敷だったのね…」
「別に…えっ?」
赤毛の女性を昨夕に遭遇した異国の人魚であると確信する。
「ひょっとしてあんたは…昨夕に精霊故山の露天風呂で入浴中だった赤髪の人魚かしら?あんたは精霊故山の露天風呂に入浴したわよね?」
問い掛けられた赤毛の女性はハッとした表情で…。
「えっ…貴女は入浴中の私を覗き見した…人間の小娘!?」
桜花姫は赤毛の女性の小娘発言にムッとしたのか即答する。
「なっ!?誰が人間の小娘ですって!?私は誰よりも温厚篤実の女神様なのよ!姿形は人間の美少女でも私は列記とした人外だからね!」
「えっ…」
『自分で自分を美少女とか…女神様って自称しちゃうなんて…彼女は相当のナルシストなのかしら?』
赤毛の女性は女神様を自称し出した桜花姫に苦笑いしたのである。一方の桜花姫は恐る恐る赤毛の女性に問い掛ける。
「あんたの名前は?」
問い掛けられた赤毛の女性は恐る恐る自身の名前を名乗る。
「私の名前は【アクアヴィーナス】よ…深海底の人魚王国…〔アクアユートピア〕の人魚の末裔なのよ…」
「アクアヴィーナス?人魚王国アクアユートピアですって?」
「アクアユートピアは深海底に存在する私の祖国なのよ…」
「深海底に人魚の王国が存在するなんてね…」
人魚王国アクアユートピアとは未知の領域とされる聖域…。深海底に存在する摩訶不思議の理想郷である。大勢の人魚達が深海底に存在するアクアユートピアにて安住する。地上世界では別名として人魚王国やら人魚の楽園とも呼称される。
「やっぱりアクアヴィーナスは異国の人魚だったのね…」
「無論ね…」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「極東のイーストユートピアでは天下無敵の魔法使いが君臨するって噂話が世界各地で出回ったのだけど…彼女は月影桜花姫って名前だったかしら?貴女は月影桜花姫って名前の魔法使いの居場所は知らないかしら?」
「えっ?」
『イーストユートピアって…何かしら?』
世界各地では桃源郷神国は極東の理想郷であると認識され…。極東のイーストユートピアと呼称される。
「私が正真正銘月影桜花姫よ!」
桜花姫はアクアヴィーナスの問い掛けに即答する。
「天下無敵の魔法使いって何者なのよ!?私は列記とした妖女だからね!」
「妖女ですって?極東のイーストユートピアでは魔法使いは妖女って呼称されるのね…意外だったわ…」
世界各国では妖女は魔法使いか魔女と呼称されるのが通説である。
「勿論妖女は妖女でも…私は一握りの最上級妖女なのよ!留意しなさいね!」
「はぁ…あんたが噂話の月影桜花姫だったのね…」
『彼女…本当に天下無敵の魔法使いなのかしら?』
アクアヴィーナスは桜花姫に対するイメージとのギャップからか非常にガッカリした様子であり正直落胆する。
「勿論よ!私が正真正銘最上級妖女の月影桜花姫様だからね!留意するのよ!」
桜花姫は只管に自身が最上級妖女であると豪語し続ける。
「第一印象だけど…貴女って世間知らずの小娘っぽいわね…」
一方のアクアヴィーナスはボソッと本音を口走る。
「桜花姫には悪いけれども…正直貴女は最上級の魔法使いとは程遠い雰囲気だわ…外見的にも…」
「なっ!?」
桜花姫はアクアヴィーナスの本音にピリピリし始める。
『此奴!』
桜花姫は鬼神の形相でアクアヴィーナスを睥睨する。
「あんたは…誰よりも温厚篤実で地上世界の女神様である私に世間知らずの小娘ですって!?覚悟なさい!」
「ひっ!御免なさい!」
アクアヴィーナスは怒号し続ける桜花姫に畏怖したのである。
「御免なさい!御免なさい!」
アクアヴィーナスは必死に桜花姫に謝罪し続けるのだが…。
「絶対に承知しないわよ!あんたは天罰として…」
「えっ…貴女は私に何を!?」
桜花姫はアクアヴィーナスに変化の妖術を発動する。
「命知らずのあんたは…小汚い溝鼠に変化しなさい!」
直後である。突如としてアクアヴィーナスの肉体からポンッと白煙が発生する。
「えっ?」
全身から白煙が発生した直後…。アクアヴィーナスは桜花姫の変化の妖術によって小汚い溝鼠に変化したのである。
「きゃっ!」
アクアヴィーナスは恐る恐る自分自身の肉体を直視…。
「えっ!?」
『現実なの!?』
アクアヴィーナスはハッとした表情で驚愕する。
『如何して私の肉体が溝鼠に!?ひょっとして彼女の魔法なのかしら!?』
アクアヴィーナスは桜花姫の荒唐無稽の妖術に戦慄したのである。
「地上世界の女神様である私を世間知らずの小娘なんて…失言した天罰だからね!いい気味だわ!アクアヴィーナス!」
桜花姫は即座に変化の妖術を解除…。アクアヴィーナスを溝鼠の状態から元通りの姿形に戻したのである。
「えっ!?」
『私は元通りに戻れたのね…』
アクアヴィーナスはビクビクした様子であるがホッとする。
「反省しなさいね!アクアヴィーナス!金輪際女神様の私に失言すれば…今度こそ私の大好きな桜餅に変化させてあんたを食い殺しちゃうからね!」
桜花姫は満面の笑顔でアクアヴィーナスに警告したのである。
「ひっ!」
一方のアクアヴィーナスは満面の笑顔で食い殺すと警告した桜花姫に畏怖…。
『彼女の表情…本気みたいだわ…』
アクアヴィーナスは再度ビクビクし始める。
「御免なさい…月影桜花姫様…」
アクアヴィーナスは身震いした様子で恐る恐る桜花姫に謝罪したのである。
「気にしないで♪アクアヴィーナス♪金輪際私には失言しないのよ♪」
桜花姫は満面の笑顔で発言する。
「私の呼び方だけど桜花姫で構わないわよ♪」
「桜花姫…本当に御免なさいね…」
アクアヴィーナスはホッとするのだが…。
「はぁ…」
『桜花姫は予想以上に曲者みたいね…口は禍の元だわ…』
桜花姫は油断出来ないと感じる。
「アクアヴィーナス?」
すると桜花姫はアクアヴィーナスに問い掛ける。
「如何してあんたは島国の桃源郷神国なんかに入国したのよ?ひょっとして観光目的かしら?」
問い掛けられたアクアヴィーナスは恐る恐る…。
「私達の祖国であるアクアユートピアが…極悪非道の深海底魔女と彼女の手下達によって占拠されちゃったのよ…」
「極悪非道の深海底魔女ですって?」
人魚達の理想郷アクアユートピアは極悪非道の深海底魔女と彼女の部下達によって侵略されたのである。深海底魔女と部下達の襲撃からアクアユートピアの人魚達は必死に抵抗したのだが…。深海底魔女の魔力は桁違いに強力であり深海底魔女の猛反撃によって抵抗した大勢の人魚達が惨殺される。
「平和だったアクアユートピアが深海底の魔女と魔女の手下達に侵略されちゃって…私の母様…【アクアキュベレー】母様が深海底の魔女達に連行されちゃったの…」
「アクアキュベレーってあんたの母様が深海底魔女に連行されたのね…」
「アクアキュベレー母様が深海底の魔女達に連行されて…母様が無事なのか不安で仕方ないのよ…」
アクアキュベレーとはアクアヴィーナスの母親である。今現在深海底の人魚王国アクアユートピアは深海底魔女と部下達の魔窟であり母親のアクアキュベレーは深海底魔女に連行される。幸運にも愛娘であるアクアヴィーナスは危機一髪アクアユートピアから脱出出来たものの…。母親のアクアキュベレーを見殺した事実に自分自身の無力さとアクアキュベレーに対する極度の罪悪感が芽生え始める。
「結局私は何も出来ず…アクアキュベレー母様を見殺しに!アクアユートピアから一人で逃げちゃったの!私が弱虫だった所為で母様は…深海底魔女に殺されるかも知れないのよ!」
アクアヴィーナスの涙腺から涙が零れ落ちる。
「私にあんたの母様の救出を依頼したかったのね♪」
「噂話では貴女の母親も人魚の血族みたいだし…伝説の魔法使いの貴女だったら深海底の魔女にも対抗出来るかなって…」
「あんたの祖国を牛耳る深海底魔女を徹底的に征伐するのね!面白そうだわ!」
深海底魔女の征伐に桜花姫は非常にワクワクしたのである。
「最上級妖女の私が退屈凌ぎに深海底の魔女と!彼女の部下達を徹底的に蹴散らせるから安心しなさい!」
桜花姫は満面の笑顔で深海底魔女を征伐すると宣言する。
『月影桜花姫の魔法は本物だったわ…最強の魔法使いである彼女なら…私達のアクアユートピアを侵略した深海底魔女が相手でも…撃退出来るかも知れないわね…』
アクアヴィーナスは先程の変化の妖術で桜花姫の妖力の絶大さを実感したのである。最初こそ桜花姫に恐怖するも希望が芽生え始める。
「即刻出掛けちゃおうかしら!アクアヴィーナス!」
「桜花姫は下準備しなくても大丈夫なの?出掛けるなら下準備してからでも…」
「別に下準備なんて不要よ!早速あんたの祖国に道案内してよ!」
「承知したわ…桜花姫…」
アクアヴィーナスは桜花姫に道案内すると西国の海岸へと直行する。
「案外近辺なのね♪」
「私は人魚に変身するわね…」
アクアヴィーナスは変身魔法を発動したのである。アクアヴィーナスの全身が虹色に発光したかと思いきや…。アクアヴィーナスの下半身が銀鱗の大魚へと変化したのである。人魚の姿形へと変化する。
「アクアヴィーナス♪人魚のあんたも美人ね♪」
「えっ…」
桜花姫の美人発言にアクアヴィーナスは赤面し始める。
「貴女も…桜花姫も人魚に変身出来るのよね?」
「勿論よ!私の母様は人魚の血族だからね!」
桜花姫は満面の笑顔で即答したのである。
「今度は私も!」
桜花姫は変化の妖術を発動…。下半身が銀鱗の大魚へと変化し始めたのである。するとアクアヴィーナスは赤面した表情で恐る恐る…。
「貴女も…人魚の桜花姫も…海水の女神様って雰囲気よ…」
「私が海水の女神様なんて♪アクアヴィーナスは大袈裟ね!」
『私が海水の女神様ですって♪』
桜花姫はボソッと発言するアクアヴィーナスの発言に内心大喜びしたのである。
「人魚に変化出来たし!アクアヴィーナス!私達は早速アクアユートピアに直行しましょう!」
「承知したわ…桜花姫…即刻アクアユートピアに道案内するわよ…」
彼女達は暗闇の海中へと潜行すると深海底のアクアユートピアへと驀進する。
第十一話
消耗
人魚に変身した桜花姫とアクアヴィーナスが深海底に存在する人魚王国アクアユートピアへと移動中…。
「えっ?」
深海底地帯の失楽園〔ブルーデストピア〕では深海底魔女が魔法の水晶玉にて直進中の彼女達の様子を観察したのである。
『アクアユートピアの赤毛の人魚と…同行者の小娘は一体何者なのかしら?』
魔法の水晶玉に投影された桜花姫を直視すると深海底魔女は桜花姫が何者なのか非常に気になる。
『異国の人魚みたいだわ…彼女は一体何者なの?』
深海底魔女は見知らぬ桜花姫の存在に警戒したのである。
『彼女の存在は無視出来ないわね…』
深海底魔女にとって桜花姫は未知の存在であり無視出来ない。
『であれば手始めに…彼女達を復活させましょう…』
深海底の魔女は荒唐無稽の桜花姫に警戒したのか死霊魔術を発動…。殺害した大勢の人魚達を女性型の深海底アンデッドとして復活させたのである。
「人魚の下級アンデッド…【アビスセイレーン】…侵入者である彼女達を思う存分に食い殺しなさい…」
アビスセイレーンとは死霊魔術によって復活した人魚の女性型深海底アンデッド…。死霊魔術で復活したアビスセイレーンは自身を復活させた術者には忠実である。嗜好品は性質上生命体の血肉とされる。基本的には海中の魚介類やら鯨類の血肉を捕食するものの…。場合によっては船上の陸生動物やら人間の血肉さえも時たまであるが捕食する。無数のアビスセイレーンが行動を開始し始めた同時刻…。必死に海中を力泳し続ける桜花姫であるが移動中に極度の疲労を感じる。
「はぁ…はぁ…」
同行者のアクアヴィーナスは不安そうな様子で恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「桜花姫?大丈夫なの?先程から貴女の顔色が…」
アクアヴィーナスは疲労困憊の桜花姫を心配したのである。
「私なら…心配しなくても大丈夫よ…アクアヴィーナス…」
桜花姫は多少疲労した様子であるが笑顔で返答する。
「桜花姫…」
『本当に大丈夫なのかしら?桜花姫?』
桜花姫は強張った表情でありアクアヴィーナスは正直不安に感じる。
「アクアヴィーナスは極度の心配性なのね…あんたが心配しなくても私は大丈夫だから…私は平気なのよ…」
『正直…息苦しいわ…今回はヤバいかも知れないわね…』
桜花姫は心配性のアクアヴィーナスに苦笑いの表情で返答したのである。
『深海底って予想以上に体力と妖力を消耗するわね…一度だけでも一休み出来るなら一休みしたいのよね…』
深海底の自然環境は予想外に苛烈であり桜花姫は苦難に感じる。
「ん!?」
すると突如として無数の殺気を察知…。警戒したのである。
『無数の殺気だわ…一体何かしら?』
周辺は暗闇の深海底であるものの…。
『私達に接近中ね…一体何が出現するのかしら?』
無数の殺気が彼女達に急接近するのを感じる。
「桜花姫…如何しちゃったの!?一体何が発生したのよ!?」
アクアヴィーナスは警戒中の桜花姫に不安がる。
「複数の殺気を感じるのよ…複数の何者かが私達に接近中みたいね…」
「えっ!?複数の殺気ですって!?一体何よ!?」
アクアヴィーナスは突然の異常事態に狼狽したのである。すると遠方の海中より全身血塗れの人魚達が出現し始め…。彼女達に急接近したのである。
「えっ?彼女達は人魚かしら?」
「えっ…」
アクアヴィーナスは血塗れの人魚達に恐怖したのか身動き出来なくなる。
「えっ?如何しちゃったのよ?アクアヴィーナス?」
血塗れの人魚を直視したアクアヴィーナスはビクビクした様子で…。
「奴等は…深海底アンデッドのアビスセイレーンよ!」
「アビスセイレーンですって?」
「アビスセイレーンは死亡した人魚達の下級アンデッドよ…彼女達は海中の色んな生命体の血肉を捕食するわ…」
「面白そうだわ!悪霊の悪食餓鬼みたいな奴等ね!」
桜花姫は即座に神性妖術の天道天眼を発動…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「桜花姫!?」
『桜花姫の瞳孔が変色したわ…一体何かしら?』
アクアヴィーナスは瑠璃色に発光した桜花姫の瞳孔に驚愕する。
「天道天眼…私の得意妖術なのよ!」
天道天眼の発動によって桜花姫の妖力は数百倍に急上昇し始める。
「天道天眼ですって?」
『彼女の瞳孔は宝石みたいなレッドアイだったのに…半透明のブルーカラーに発光するなんて…天道天眼って魔法は桜花姫にとって最強の魔法なのかしら?』
アクアヴィーナスは桜花姫の瞳孔を直視し続けると魅了されたのである。
「今回の主戦場は暗闇の海中だからね…油断は出来ないわね!」
桜花姫は殺到し続ける無数のアビスセイレーンを睥睨する。
「深海底の悪霊…死滅しなさい!」
直後である。突如としてアビスセイレーンが身動きしなくなる。
「えっ?アビスセイレーンが身動きしなくなったわ…一体何が発生したの?」
突如として無数のアビスセイレーンが身動きしなくなったかと思いきや…。無数のアビスセイレーンの全身が肥大化し始めるとパンッと一瞬で破裂したのである。
「えっ…きゃっ!」
桜花姫の念力の妖術によって無数のアビスセイレーンは完膚なきまでに仕留められたものの…。予想外の超常現象にアクアヴィーナスはビクビクした様子で戦慄する。
「戦慄しなくても大丈夫よ…アクアヴィーナス…」
アクアヴィーナスは極度の戦慄によりビクビクと身震いしたのである。
「桜花姫!?何が大丈夫なのよ!?」
周辺はアビスセイレーンの無数の血肉が散乱する。
『念力の妖術で妖力を消耗しちゃったからね…』
今度は変化の妖術を発動…。念力の妖術により仕留めたアビスセイレーンの無数の血肉を大好きな桜餅に変化させたのである。
「変化の妖術…成功ね!」
暗闇の海中には無数の桜餅がプカプカと浮遊する。
『人魚に変化した状態で妖術を発動しちゃうと全身の疲労が蓄積されちゃうのよね…消耗した妖力を回復させないと!』
桜花姫はパクパクと無数の桜餅を鱈腹頬張り始める。
「アクアヴィーナス♪折角だしあんたも桜餅を味見しないかしら♪桜餅は絶品よ♪」
アクアヴィーナスは苦笑いした表情で…。
「私は…遠慮するわ…」
『異国のスイーツだとしても…本来はアビスセイレーンの血肉なのよね?こんな代物食べたくても食べられないわよ…』
アクアヴィーナスは桜花姫の予想外の悪食にドン引きした様子であり気味悪くなる。
『異国の魔法使いってこんなにも荒唐無稽の魔法を乱用するのね…イメージが崩壊しちゃうわよ…』
アクアヴィーナスは桜花姫に対するイメージのギャップに一瞬放心したのである。一方の桜花姫は無数の桜餅を食べ始めてから数分後…。海中の桜餅を鱈腹完食する。
「私は即刻アクアユートピアに直行して…極悪非道の深海底魔女を徹底的に仕留めるわよ!」
彼女達は再度行動を開始したのである。
第十二話
下僕
桜花姫とアクアヴィーナスが再度行動を開始してより同時刻…。失楽園ブルーデストピアでは深海底の魔女が魔法の水晶玉での様子を観察する。
「げっ!彼女は正気なの!?」
深海底の魔女は桜花姫の荒唐無稽の妖術に驚愕したのである。
『異国の魔法使い…魔法で殺害したアビスセイレーンの肉片を異国のスイーツに変化させて頬張っちゃうなんて…彼女は想像以上の悪趣味ね…』
桜花姫の予想外の下劣さには深海底魔女でさえもドン引きする。
『異国の魔法使いは予想外に厄介だし…何よりも彼女の発想が下劣だわ!』
殺害した無数のアビスセイレーンの肉片を自身の大好きな桜餅に変化…。無我夢中に桜餅を頬張り続ける桜花姫を直視し続けると気味悪くなる。
『異国の魔法使いってこんなにも悪食で下劣なのね…正直ドン引きだわ…』
桜花姫の性癖は異質的であり桜花姫の性癖を理解出来る人物は実質皆無である。
『彼女は早急に仕留めないと私自身が可笑しくなりそうね…』
桜花姫の悪食に気味悪くなった深海底魔女であるものの…。一息したのである。
『異国の魔法使いを相手するなら彼が適任かしら?』
深海底魔女は召喚魔法を発動する。
「目覚めなさい!私の下僕よ!」
召喚魔法を発動した直後である。根城の外側の海底下より半径数百メートル規模の巨大魔方陣が出現し始め…。巨大魔方陣の中心部より規格外に巨体の超大型クリーチャーが出現したのである。
『彼なら異国の魔法使いが相手でも容易に捕食出来るでしょうね…』
深海底魔女が召喚魔法で召喚した異類の超大型クリーチャーは規格外に巨体であり本拠地の外部にて召喚される。姿形はワーム型の巨大生命体であり全身の皮膚には無数の人面が確認出来る。深海底魔女は本拠地の窓際から巨体のクリーチャーに命令する。
「ワーム型深海底アンデッド…【アビスサーペント】よ!あんたは即刻異国の魔法使いと小判鮫の人魚を完膚なきまでに捕食しなさい!」
アビスサーペントとは規格外に巨体のワーム型深海底アンデッドであり溺死した人間達の霊魂は勿論…。多種多様の魚介類の怨念が融合化した深海底アンデッドの集合体とされる超自然的存在である。アビスサーペントは性格が非常に獰猛で強欲であり哺乳類の鯨類やら人魚の血肉は勿論…。場合によっては海面上の船舶を襲撃しては船内の船員達さえも捕食の対象である。巨大魔方陣から召喚されたアビスサーペントは深海底魔女の命令に服従…。即座に移動を開始する。
『アビスサーペント…異国の魔法使いを仕留められるかしら?』
深海底魔女はアビスサーペントを見届けたのである。
第十三話
深海底アンデッド
アビスサーペントが移動を開始した同時刻…。移動中の桜花姫とアクアヴィーナスは必死に目的地である人魚王国アクアユートピアへと力泳し続ける。
「桜花姫…一息頑張ればもう少しでアクアユートピアに到達するわよ…」
アクアヴィーナスは桜花姫の様子を直視する。
「えっ…桜花姫?」
桜花姫は息苦しさからか非常に険悪化した表情だったのである。
『桜花姫…大丈夫なのかしら?』
アクアヴィーナスは桜花姫の息苦しそうな表情を直視し続けると極度の不安感が募り始める。
『やっぱり彼女の顔色が…』
アクアヴィーナスは桜花姫に恐る恐る大丈夫なのか如何なのか問い掛ける。
「桜花姫?一体如何しちゃったの?大丈夫?」
すると桜花姫は警戒した様子で恐る恐る…。
「アクアヴィーナス…規格外の霊気が接近中よ…」
「えっ!?規格外の…霊気ですって!?」
アクアヴィーナスは全身がブルブルした様子で桜花姫に密着する。
「今度は何が出現するのよ!?桜花姫!?」
すると遠方の暗闇の海中より正体不明の移動物体が猛スピードで彼女達に急接近したのである。
「一体何かしら?随分巨体ね…」
規格外に巨体のワーム型の巨大クリーチャーが出現する。
「ひっ!此奴は!?」
アクアヴィーナスはワーム型の巨大クリーチャーを直視すると極度に戦慄…。極度の恐怖心からかアクアヴィーナスは身動き出来ずに全身が膠着したのである。
「こんな怪物に畏怖するなんてアクアヴィーナスは大袈裟ね…」
桜花姫は極度に戦慄し続けるアクアヴィーナスに苦笑いする。
『彼女は本当に小心者だわ…アクアヴィーナスが桃源郷神国の悪霊と遭遇しちゃえば確実に気絶するか悪霊に捕食されるでしょうね♪』
アクアヴィーナスが桃源郷神国の悪霊と遭遇する場面を想像すると桜花姫は内心大笑いしたのである。アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「桜花姫…貴女は深海底アンデッドに遭遇しても平気なの?」
桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「別に♪こんな怪物と遭遇するのは桃源郷神国では日常茶飯事だからね!」
「えっ…日常茶飯事って…」
『イーストユートピアって名前とは裏腹に相当物騒なのかしら?』
アクアヴィーナスは桜花姫の返答に絶句したのである。
「深海底にはこんなにも規格外の怪物が生息するのね…此奴は巨大蚯蚓かしら?」
「此奴はワーム型の巨大深海底アンデッド…アビスサーペントよ!」
「アビスサーペントですって?」
「アビスサーペントは深海底のアンデッドでは最強クラスの超大型深海底アンデッドなのよ!大型の鯨類だって簡単に食い殺しちゃうわ!アビスサーペントは油断大敵よ!」
「此奴は深海底の強豪悪霊なのね!鯨類を捕食するなんてアビスサーペントは相当の大物だわ!」
アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「桜花姫…即刻逃げましょう!あんたがアビスサーペントに食い殺されるわ!」
「逃げましょうって…アクアヴィーナスは本当に小心者ね♪」
桜花姫はアビスサーペントを相手に余裕の表情だったのである。
「アビスサーペントはアビスセイレーンよりも厄介なのよ!魔法使いのあんたでも簡単に食い殺されちゃうわ!」
「食い殺されちゃうって…アビスサーペントが私に食い殺されちゃうのかしら?」
「えっ?桜花姫…貴女は何を?」
桜花姫は満面の笑顔でアビスサーペントを凝視する。
「私の食欲は其処等の悪霊以上だからね!相手が地獄の悪霊だろうと巨体の深海底アンデッドだろうと私が問答無用に食い殺しちゃうわよ!」
「桜花姫…」
桜花姫は余裕の様子だったのである。
『桜花姫って…何者なの?』
一方のアクアヴィーナスは絶句した表情で桜花姫に注目する。すると直後…。
「きゃっ!」
アビスサーペントは猛スピードで桜花姫に急接近する。桜花姫の肉体諸共一口で桜花姫をパクッと捕食したのである。
「えっ!?桜花姫!?」
桜花姫は一瞬でアビスサーペントに捕食され…。アクアヴィーナスは一瞬の出来事に混乱したのである。
『桜花姫がアビスサーペントに捕食されちゃったわ…』
桜花姫はアビスサーペントに捕食され…。
『私は…如何すれば?』
アクアヴィーナスは絶望したのである。
『逃げたいけれども…』
逃げられるのであれば一目散に逃亡したいアクアヴィーナスであるが…。極度の恐怖心からか身動き出来ず全身が膠着化したのである。一方のアビスサーペントは猛スピードで膠着状態のアクアヴィーナスに急接近…。
「きゃっ!」
細長い胴体でアクアヴィーナスの全身を拘束したのである。
「ひっ!」
アビスサーペントは口先を開口させる。
『私も…アビスサーペントに捕食されちゃうわ…』
アクアヴィーナスは極度の恐怖心により涙腺から涙が零れ落ちる。アビスサーペントは再度口先を開口し始めた直後…。
「えっ!?」
アビスサーペントは突如として身動きしなくなる。
『一体何が発生したのよ!?如何してアビスサーペントは身動きしなくなったのかしら!?』
アクアヴィーナスは突如として身動きしなくなったアビスサーペントに何が発生したのか理解出来ない。アビスサーペントが身動きしなくなってから数秒間が経過したのである。すると巨体であるアビスサーペントの全身がポンッと白煙に覆い包まれ消滅したかと思いきや…。
「えっ!?桜花姫!?」
桜餅と妖力の防壁を発動した桜花姫が突如として出現したのである。
『如何して捕食された桜花姫が無事なの!?アビスサーペントは一体!?』
桜花姫は妖力の防壁を解除する。
「危機一髪だったわね!アクアヴィーナス!」
桜花姫は満面の笑顔で桜餅をパクッと頬張り始める。
「深海底の怪物でも桜餅に変化させちゃえば非常に美味だわ!」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に近寄る。
「桜花姫…貴女はアビスサーペントに食べられちゃったのに無事だったのね…」
桜花姫の無事にアクアヴィーナスは内心ホッとしたのか涙腺から涙が零れ落ちる。
「私は一瞬貴女が…深海底アンデッドに食い殺されちゃったのかと…」
「心配させちゃったわね♪アクアヴィーナス♪御免あそばせ♪私なら大丈夫よ!」
桜花姫はアクアヴィーナスに謝罪したのである。
「最強クラスの深海底アンデッドを簡単に仕留めちゃうなんて…やっぱり桜花姫の魔法は私が想像する以上に強力だわ…」
「勿論!私は最上級の妖女だからね!其処等の悪霊が最上級妖女の私を食い殺すなんて無謀なのよ!」
するとアクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「如何して桜花姫はアビスサーペントに捕食されたのに無事だったの?」
「私はアビスサーペントに捕食される直前に妖力の防壁を発動したの♪アビスサーペントの胃袋で変化の妖術を発動したのよ♪」
「要約すると桜花姫はアビスサーペントの体内で最強の魔法を使用したのね…」
「私にとっては楽勝だったけれどね!」
「何よりも桜花姫…貴女が無事でホッとしたわ…」
アクアヴィーナスは一安心したのである。
「何はともあれ…アクアユートピアに直行するわよ!アクアヴィーナス!」
「勿論よ…アクアユートピアへ移動しましょう…」
桜花姫とアクアヴィーナスが行動を再開し始めた同時刻…。
「えっ!?」
失楽園のブルーデストピアでは深海底魔女が魔法の水晶玉に投影された深海底の光景を一部始終直視する。
『如何して私の下僕アビスサーペントが…異国の魔法使いに!?』
深海底魔女は最強クラスのアビスサーペントが桜花姫に仕留められた光景に愕然としたのである。
「最上級の深海底アンデッドであるアビスサーペントが見ず知らずの異国の魔法使いに仕留められるなんて前代未聞だわ…」
深海底魔女は桜花姫が想像以上の猛者であると再度実感する。
『異国の魔法使い…彼女は私が想像する以上に厄介みたいだわ…』
深海底魔女にとって最強クラスのアビスサーペントが仕留められたのは正直予想外であり桜花姫の妖力の絶大さに畏怖し始める。
『異国の魔法使いに私の居場所を察知されると非常に不都合だわ…即刻彼女の封印を解除しなければ!』
深海底魔女は恐怖心からか全身がプルプルと身震いする。
『最早彼女を解放させないと異国の魔法使いには対抗出来ないでしょうね…』
深海底魔女にとって桜花姫の出現は非常に不都合であり一触即発の事態だったのである。深海底魔女は不本意であるものの…。
「一か八か地下壕の牢獄に…」
『問題児の彼女を解放させる事態に発展するなんてね…今日は激動の一日だわ…』
深海底魔女は恐る恐る地下壕の牢獄へと移動したのである。
第十四話
アクアユートピア
桜花姫とアクアヴィーナスは移動を再開してより同時刻…。彼女達は無事に深海底の人魚王国アクアユートピアへと到達したのである。
「えっ!?暗闇の深海底に村里だわ…此処が目的地のアクアユートピアかしら?」
「此処が私の祖国…アクアユートピアなのよ…」
人魚王国アクアユートピアは貝殻みたいなデザインの住宅地が無数に隣接…。全体的に独自的景観だったのである。
「あんたの祖国って…異世界みたいね♪」
深海底地帯の人魚王国アクアユートピアは異世界であり桜花姫はアクアユートピアの幻想的雰囲気に非常にワクワクする。
「アクアヴィーナスの祖国って幻想的雰囲気なのに殺風景ね…国内からは人気が感じられないわ…」
「アクアユートピアは深海底の魔女に侵略されちゃったからね…何よりもアクアキュベレー母様が無事なのか心配だわ…」
「私は即刻あんたの母様を救出するわよ♪」
桜花姫は満面の笑顔であるものの…。妖力の消耗により深呼吸が目立ち始める。
「大丈夫なの?桜花姫?先程から貴女の深呼吸が気になるのよね…」
「アクアヴィーナスは極度の心配性ね…心配しなくても私なら大丈夫よ…」
桜花姫は大丈夫であると自負するものの…。
『深海底の水圧と人魚に変身した影響かしら?妖力を回復させたのに数分間で消耗しちゃうなんて…』
水圧の影響からか深海底での長時間の人魚の変身は妖力と体力の消耗が桁違いである。人魚に変身し続けた場合深海底の水圧による溺死…。妖力の消耗による衰弱死の可能性すら否定出来ない。
『長時間の人魚の変化は衰弱死に直結するわね…変化の妖術を解除しちゃったら水圧で溺死するかも知れないし…今回の大事件は短時間で解決させないと私自身が…』
桜花姫は当初こそ娯楽の感覚であったものの…。深海底の環境下では妖力の消耗が予想外であり短時間での事件解決は困難であると実感する。
「アクアヴィーナス…アクアユートピアに潜入しましょう!」
彼女達は恐る恐る物静かなアクアユートピアに潜入したのである。
「あんたの祖国…アクアユートピアって普段からこんなにも物静かな雰囲気なの?」
「人魚は少数民族だし場所が暗闇の深海底だから深海底の生物以外では誰も近寄れないのよね…深海底の魔女に侵略されてからは本物の無人地帯みたいだわ…」
アクアヴィーナスは恐る恐る周囲を警戒するのだが…。周辺の住宅街では人魚の住民は誰一人として確認出来ない。
「えっ?」
すると桜花姫は無数の殺気を察知…。
「桜花姫?如何したのよ?」
アクアヴィーナスは不安そうな様子で恐る恐る桜花姫に問い掛ける。一方の桜花姫は即座に民家の路地裏へと移動する。
「きゃっ!」
桜花姫の悲鳴に戦慄したのかアクアヴィーナスは恐る恐る居住地の路地裏へと移動したのである。
「一体何事よ!?ひゃっ!」
アクアヴィーナスは目前の光景に戦慄する。
「如何してこんな…深海底アンデッドの仕業かしら?」
居住地の路地裏には殺害された抹香鯨の水死体が転がった状態である。死骸の体表には無数の小魚によって食い破られた形跡が彼方此方に確認出来る。
「如何やら抹香鯨の水死体みたいね…人魚悪霊のアビスセイレーンに食い殺されちゃったのかしら?」
「私にも何が何やらサッパリだわ…ひゃっ!」
突如として抹香鯨の体内がモゴモゴッと蠢動し始めたかと思いきや…。
「今度は何かしら!?」
抹香鯨の胃袋を食い破ると体内から血塗れの肉食怪魚が無数に出現したのである。
「きゃっ!此奴は【アビスフィッシュ】だわ!」
「アビスフィッシュですって?」
アビスフィッシュとは深海魚の肉食魚類タイプの魚型深海底アンデッドである。アビスセイレーンによって食い殺された小型の魚介類が小型の深海底アンデッドとして復活させられ…。多種多様の新鮮なる魚介類やら大型海洋生物の血肉を捕食する。先程出現した巨体のアビスサーペントと同様にアビスフィッシュも性格が非常に獰猛で強欲であり生身の人魚の血肉は勿論…。場合によっては海面上を漂流中の人間やら陸生動物系統の哺乳類の血肉さえも捕食する。アクアヴィーナスはアビスフィッシュの大群に大パニック状態であったが…。
「相手が小魚の悪霊でも!」
桜花姫は依然として冷静である。
「あんた達は桜餅に変化しなさい!」
桜花姫は殺到する無数のアビスフィッシュに変化の妖術を発動…。無数のアビスフィッシュを無数の桜餅に変化させたのである。
「所詮は雑魚の分際で私を捕食するなんて無謀なのよ!」
桜花姫は桜餅に変化した無数のアビスフィッシュを無我夢中に頬張り始める。
「正直あんたの魔法って荒唐無稽だけど相当便利よね?魔法で深海底の捕食者を食い殺しちゃうなんて…」
桜花姫の荒唐無稽の妖術にアクアヴィーナスは苦笑いしたのである。
「えっ?」
すると背後から殺気を感じる。
『背後から気配だわ…今度は何が出現したのかしら?』
桜花姫は背後の気配に警戒したのである。
「桜花姫?」
アクアヴィーナスはビクビクした表情で再度桜花姫に問い掛ける。
「今度は何が出現したのよ?」
アクアヴィーナスは何が出現したのか戦慄する。
「今度は…」
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認したのである。
「あんたは…一体?」
二人の背後には両手に刀剣を所持した人魚が存在する。
「姿形は人魚みたいだけど…彼女は何者かしら?」
背後の人魚は上半身の皮膚が死没者を連想させる灰白色であり非常に悪魔的雰囲気だったのである。灰白色の人魚は無表情で桜花姫を凝視し続ける。
『彼女からは魔力が感じられるわね…ひょっとして此奴も!』
背後の人魚は今迄の深海底アンデッドと同様…。深海底アンデッド特有の魔力が感じられたのである。
「アクアヴィーナス?此奴も深海底アンデッドなのかしら?」
桜花姫が問い掛けるとアクアヴィーナスはビクビクした表情で返答する。
「此奴は【アビスダーキニー】…彼女も深海底アンデッドの一体よ…」
「アビスダーキニーですって?」
アビスダーキニーとは二刀流の女性型深海底アンデッドとして知られる。外見のみなら二刀流の悪魔的人魚である。一部の地域では別名として深海底の殺人姫やら殺戮人魚とも呼称される。
『アビスダーキニー…彼女からは私達に対する殺意を感じるわね…』
アビスダーキニーは無表情であるものの…。桜花姫は警戒する。アビスダーキニーは両手の刀剣を二振りしたのである。
「ん?あんたは何を?」
桜花姫はアビスダーキニーの動作にポカンとするのだが…。直後である。
「えっ…私の両腕が…」
突如として桜花姫の両腕が切断され…。両腕の傷口から大量の出血が流れ出る。周辺の海水が桜花姫の鮮血により赤色へと染色する。
「きゃっ!桜花姫の両腕が!」
アクアヴィーナスは目前の光景に戦慄…。恐怖心で身動き出来なくなる。一方の桜花姫はアビスダーキニーを凝視し始め。鬼神の形相で睥睨したのである。
「アビスダーキニー…あんたは…」
『此奴は直接斬撃しなくても相手を斬殺出来るみたいね…』
アビスダーキニーは直接斬撃せずとも自身の魔力によって遠方から刀剣を一振りするだけで対象者を斬撃出来る。桜花姫は両腕を切断された影響で出血多量…。ドロドロと鮮血が流れ出る。
「ぐっ…」
目前の視界が黒化し始める。
『視界が…』
出血多量により意識が遠退いたのである。
「えっ!?桜花姫!?」
桜花姫は息絶えた状態でありアクアヴィーナスは動揺する。
「桜花姫!?桜花姫!?」
一方のアビスダーキニーはアクアヴィーナスを凝視したのである。
「えっ…あんたは?」
凝視されたアクアヴィーナスは恐怖心でビクビクする。無表情だったアビスダーキニーであるが…。動揺し続けるアクアヴィーナスに不吉の笑顔でニヤッとする。
『アビスダーキニーは…今度は私を殺そうと!?』
アビスダーキニーは標的をアクアヴィーナスに変更したのである。アビスダーキニーは刀剣を一振りする直前…。
「残念だったわね!アビスダーキニー!」
アビスダーキニーの背後には先程息絶えた桜花姫が存在する。
「えっ!?桜花姫…貴女はアビスダーキニーの魔法で…」
桜花姫は無傷の状態でありアクアヴィーナスは勿論…。アビスダーキニーもハッとした表情で愕然とする。桜花姫は驚愕するアビスダーキニーに冷笑したのである。
「あんたが魔法で攻撃したのは私の分身体なのよ!」
桜花姫はアビスダーキニーが魔力を発動する寸前に分身の妖術を発動…。アビスダーキニーの攻撃の無力化に成功したのである。一方のアクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫の分身体に直視する。
「えっ…」
『桜花姫の遺体が消滅したわ…』
アビスダーキニーの魔法で両腕を切断された桜花姫の分身体が消滅したのである。
「今度は私が攻撃するわよ!覚悟するのね!アビスダーキニー!」
桜花姫はアビスダーキニーに十八番の変化の妖術を発動…。アビスダーキニーは定番の桜餅に変化したのである。
「アビスダーキニーを無力化出来たわね!頂戴するわよ!」
桜花姫はパクッと桜餅に変化したアビスダーキニーを捕食…。消耗した妖力を回復させたのである。
「桜花姫…」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に近寄る。
「はぁ…あんたは人騒がせだわ…正直冷や冷やしちゃったわよ…」
アクアヴィーナスは涙腺から涙が零れ落ちる。
「御免あそばせ♪相手を油断させないとね♪」
桜花姫は満面の笑顔で発言するのだが…。
『相手を油断させるのが目的だとしても…桜花姫は大袈裟過ぎるのよね…』
アクアヴィーナスは内心桜花姫の演出が過剰であると感じる。アビスダーキニーとの戦闘から数分後…。
「桜花姫…折角だし私の自宅で休憩しない?こんな場所で長居し続けるとあんたの体力と魔力が消耗しちゃうわよ…」
「勿論よ♪休憩しましょう♪アクアヴィーナス♪」
桜花姫は大喜びの様子でありアクアヴィーナスの自宅へと同行する。
「此処が私の自宅よ…」
「あんたの家屋敷なのね…地上世界と比較すると随分特異的雰囲気ね♪」
アクアヴィーナスの家屋敷も貝殻のデザインであり非常に独創的雰囲気である。桜花姫はワクワクした様子でアクアヴィーナスの自宅に入室するのだが…。屋内の空間は魔力によって防水された状態であり地上世界と同様普通に呼吸出来る。
「えっ?此処では普通に呼吸出来るわ…ひょっとして妖術かしら?」
「防水用の魔法の効力なのよ…室内では人間の状態でも呼吸出来るから変身魔法を解除しても大丈夫よ…此処なら地上世界みたいに普通に生活出来るからね…」
人魚王国アクアユートピアの各家屋敷には防水用のシールド魔法によって通常の二足歩行状態でも生活出来る。
『私…元通りに戻れるのね♪』
桜花姫はホッとしたのである。
「長時間の人魚の状態は疲れ果てるわね♪」
桜花姫は即刻変化の妖術を解除…。元通りの人間の姿形に戻ったのである。
「こんなにも疲れ果てたのは久方振りよ♪」
アクアヴィーナスも人間の姿形に変化する。
「私達純血の人魚は真逆なのよね…大昔から深海底のアクアユートピアで生活し続けた影響かしら?」
人魚王国アクアユートピアの人魚達は長期間の深海底での生活により深海底の環境下に適応出来…。魔力の消耗は軽微であり人魚に変身し続けた状態でも多少は平気なのである。すると桜花姫はソファーベッドの壁際に配置された写真の女性に注目する。
「えっ?本物みたいな似顔絵だわ…一体誰の似顔絵なのかしら?」
「写真よ…」
「写真ですって?」
桃源郷神国では写真の文化が皆無であり桜花姫は珍紛漢紛だったのである。
「アクアヴィーナス?写真って何かしら?」
桃源郷神国では長年の鎖国によって銃火器を除外する異国の科学技術は勿論…。異国の文化財は実質皆無であり桜花姫は写真の存在に魅了されたのである。
「アクアユートピアではこんな代物が実現出来るのね!写真とやらも魔法の小道具なのかしら?」
「魔法の小道具って…別に今時写真なんて地上世界でも普通に一般的でしょうよ…其処等の写真が魔法の小道具なんて大袈裟ね…」
アクアヴィーナスは苦笑いする。
「写真の女性は誰なのかしら?」
桜花姫は写真の女性が誰なのか気になる。
「彼女が私の母様…アクアキュベレー母様よ…」
「写真の女性があんたの母様なのね♪美人の女性だわ♪」
アクアキュベレーは金髪碧眼の童顔美少女である。
「アクアキュベレー母様が無事なのか気になるわね…」
するとアクアヴィーナスはフッと想起する。書棚の宝石箱から水色の水晶玉を入手すると恐る恐る桜花姫に手渡したのである。
「桜花姫?折角だし…」
「えっ…何かしら?水晶玉?」
水晶玉に接触した直後…。消耗された妖力が一瞬で回復する。
「妖力が戻ったわ!一体如何してなの!?」
「水晶玉は魔法石の〔ブルークリスタル〕よ…」
「魔法石?ブルークリスタルって?」
ブルークリスタルとは深海底地帯で採掘された摩訶不思議の魔法石である。人魚がブルークリスタルに接触すると消耗した魔力が蓄積される。深海底の環境下では魔力の消耗が地上世界とは桁違いであり人魚王国アクアユートピアの人魚達が深海底の自然環境で長時間適応出来るのはブルークリスタルの効力とされる。
「私達深海底の人魚達にとってブルークリスタルは必要不可欠だからね…」
「私にとっての桜餅みたいね!」
するとアクアヴィーナスは紅茶と洋菓子のショートケーキを用意したのである。
「えっ?何かしら?」
「紅茶とショートケーキよ…折角の機会だし味見したら?」
「ショートケーキですって?洋菓子の一種かしら!?」
桜花姫はペロリとショートケーキを平らげる。
「ショートケーキって洋菓子も美味だわ!桜餅に匹敵する位美味ね!」
桜花姫はショートケーキの美味しさに大喜びする。
「桜花姫…貴女はショートケーキを一瞬で平らげちゃうなんて…」
アクアヴィーナスはショートケーキをペロリと平らげた桜花姫を直視…。
『桜花姫の食べ方…抹香鯨かしら?』
アクアヴィーナスはショートケーキを平らげる桜花姫に苦笑いしたのである。
「休憩は終了よ!アクアヴィーナス!」
「大丈夫なの?桜花姫?」
アクアヴィーナスは桜花姫を心配するが…。
「私なら大丈夫よ!」
桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「ブルークリスタルの効果で妖力は戻ったし!アクアヴィーナスは心配性ね…兎にも角にも私達は即刻あんたの母様を救出しないと!」
桜花姫は変化の妖術を発動…。再度銀鱗の人魚に変身する。
「アクアヴィーナス!あんたも人魚に変身しちゃいなさい!即刻あんたの母様を救出しに出掛けるわよ!」
「承知したわ…桜花姫…」
アクアヴィーナスも変身魔法で人魚に変身したのである。人魚に変身した彼女達は警戒した様子で恐る恐る外出する。
「ひっ!アビスフィッシュとアビスセイレーンだわ!」
外部の道端を確認すると無数のアビスフィッシュとアビスセイレーンが住宅街の彼方此方を出現し始め…。徘徊したのである。
「如何して深海底アンデッドがこんなにも徘徊中なのよ?」
アクアヴィーナスは徘徊中のアビスフィッシュとアビスセイレーンの大群に戦慄したのである。
「先程の奴等ね…」
「如何して深海底アンデッドが大群に?」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「恐らくは深海底の魔女の仕業かしらね…」
深海底魔女は召喚魔法により無数のアビスフィッシュとアビスセイレーンを人魚王国アクアユートピアの中心街にて大量召喚…。国全体に徘徊させる。無数の深海底アンデッドがアクアユートピア全域に徘徊中であり最早人魚王国アクアユートピアは深海底アンデッドの巣窟状態だったのである。徘徊し続ける無数の深海底アンデッドにアクアヴィーナスは極度に戦慄するのだが…。一方の桜花姫は余裕の表情であり深海底アンデッドの大量出現に大喜びしたのである。
「相手は大群なのに桜花姫は平気なの!?」
「別に♪深海底アンデッドがこんなにも徘徊中なんて私にとっては桜餅の調味料なのよね!」
すると玄関口近辺には複数のアビスセイレーンと数匹のアビスフィッシュが徘徊中であり玄関口の彼女達をギロッと睥睨し始め…。猛スピードで彼女達に殺到したのである。
「きゃっ!」
深海底アンデッドの大群にアクアヴィーナスは戦慄するのだが…。桜花姫は只管満面の笑顔だったのである。
「鬱陶しい奴等だわ…あんた達には!」
桜花姫は変化の妖術を発動…。殺到するアビスセイレーンとアビスフィッシュを桜餅に変化させたのである。
「桜花姫の魔法は荒唐無稽ね…」
桜花姫はムシャムシャと桜餅を鱈腹頬張る。数分間が経過すると桜花姫は桜餅を食べ終わる。
「此処で大群を相手するのは面倒臭いし…」
『こんな場合こそ…口寄せの妖術で片付けましょうかね!』
桜花姫は口寄せの妖術を発動…。先程仕留めた無数のアビスフィッシュとアビスセイレーンを口寄せの妖術で復活させたのである。
「きゃっ!深海底アンデッドの大群だわ!」
アクアヴィーナスは突如として出現したアビスセイレーンとアビスフィッシュの大群を直視…。ビクビクしたのである。
「アクアヴィーナスは大袈裟ね…大丈夫よ♪所詮彼等は私が口寄せの妖術で復活させた手駒だから♪」
「えっ?手駒ですって?」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「如何して桜花姫は仕留めた深海底アンデッドを召喚出来るの?ひょっとして高等の死霊魔法かしら?」
桜花姫はアクアヴィーナスの質問に即答する。
「口寄せの妖術は死滅した生命体は勿論…地獄の世界の悪霊だって元通りに復活させられるからね!」
「死滅した生命体を元通りの状態に復活させられるなんてね…桜花姫は本物の女神様だわ…」
『正直私には理解出来ない領域だけれども…』
アクアヴィーナスは倫理観と常識が通用しない桜花姫の荒唐無稽の妖術に理解出来なくなる。
「私が本物の女神様なんて…アクアヴィーナスは大袈裟ね♪」
桜花姫は内心大喜びしたのである。
「あんた達…アクアユートピアで徘徊中の深海底アンデッドを一掃しなさい!破壊するのは深海底アンデッドだけよ!」
無数の深海底アンデッドは無言で桜花姫の命令に承諾…。周辺で徘徊中のアビスセイレーンとアビスフィッシュに接触すると自身の肉体諸共自爆したのである。アクアユートピアの彼方此方で爆発音が連鎖的に響き渡る。
「彼方此方で爆発音だわ…一体何が?」
「相手するのも面倒臭いからね…復活させた深海底アンデッドを自爆させたのよ!」
「えっ…自爆ですって!?」
アクアヴィーナスは桜花姫の非情手段にドン引きしたのである。
「復活させた深海底アンデッドを自爆に利用するなんて…」
一方の桜花姫はアクアヴィーナスの発言に満面の笑顔で即答する。
「所詮深海底アンデッドは瀕死寸前の自爆要員だからね…非常に合理的でしょう!」
「合理的なのかも知れないけれど…」
復活させた深海底アンデッドの自爆攻撃によってアクアユートピアに徘徊中のアビスフィッシュとアビスセイレーンは一掃される。
「彼等の自爆で徘徊中の深海底アンデッドは一掃出来たし…」
桜花姫は先程仕留めたアビスセイレーンの一体を口寄せの妖術により再復活させたのである。
「如何して深海底アンデッドのアビスセイレーンを復活させたの?」
「今度は情報収集よ!」
「情報収集ですって?」
「アビスセイレーン?あんた達の親玉の居場所を洗い浚い告白しなさい…」
桜花姫は復活させたアビスセイレーンに笑顔で問い掛ける。
「告白って無茶よ!アビスセイレーンは列記とした深海底アンデッドなのよ!深海底アンデッドなんて喋れないでしょう…」
喋れないと断言するアクアヴィーナスであるが…。アビスセイレーンは恐る恐る人間の口言葉で発言し始めたのである。
「ワタシタチノ…ハハギミサマ…【ダークスキュラン】サマノ…イバショハ…シツラクエン…ブルーデストピアノ…シンカイテイマオウジョウノ…オクジョウダ…」
「えっ!?アビスセイレーンって…普通に人語で会話出来るのね…」
アビスセイレーンは多少片言であるが人間界の公用語で喋れる。片言の人語で発言するアビスセイレーンにアクアヴィーナスは驚愕する。
「ダークスキュランって深海底魔女があんた達悪霊の黒幕なのね!即刻ブルーデストピアの深海底魔女の本拠地に直行しないと!」
事件の黒幕を特定出来…。黒幕の居場所を把握した桜花姫は即刻ブルーデストピアへの直行を決意したのである。
「アビスセイレーン♪情報提供…感謝するわね!」
桜花姫はアビスセイレーンに満面の笑顔で感謝するのだが…。
「折角だけど…あんたは桜餅に変化しなさい!」
口寄せの妖術によって復活させたアビスセイレーンに変化の妖術を発動したのである。復活したアビスセイレーンは白煙に覆い包まれポンッと桜餅に変化…。桜花姫は即座に桜餅に変化したアビスセイレーンをパクッと平らげる。
「やっぱり桜餅は美味ね!」
「桜花姫は…アビスセイレーンを復活させたのに結局食い殺しちゃうのね…」
「私は空腹だからね!所詮相手は瀕死状態の深海底アンデッドだし…あんたは気にしないの!」
桜花姫は満面の笑顔で返答する。
『自分が空腹だからって…桜花姫は…』
アクアヴィーナスは桜花姫の返答に苦笑いしたのである。
「消耗した妖力も回復したわ!アクアヴィーナス…即刻ブルーデストピアの深海底魔王城に直行して深海底の魔女を仕留めるわよ!」
深海底魔女討伐に意気込む桜花姫であるが…。
「えっ…桜花姫…」
アクアヴィーナスは動揺したのである。
「早速道案内してよ!アクアヴィーナス!」
失楽園ブルーデストピアに聳え立つ深海底魔王城の場所が不明であり桜花姫は只管アクアヴィーナスに道案内を依頼する。
「道案内するけれど…ブルーデストピアは深海底アンデッドの魔窟なのよね…」
失楽園ブルーデストピアは深海底アンデッドの魔窟であり悪魔の海域として認識される。今現在では人魚王国アクアユートピアのみならず近隣諸国では失楽園ブルーデストピアは危険区域として指定されたのである。ブルーデストピアに潜入した人魚で生還して戻った人魚は実質的に皆無でありアクアユートピアではブルーデストピアを移動禁止区域に指定され…。誰一人として失楽園のブルーデストピアへは近寄らない。
「ブルーデストピアに潜入した人魚で生還した人魚は皆無なのよね…私は…ブルーデストピアなんかで死にたくないわ…」
桜花姫はウジウジし続けるアクアヴィーナスに苛立ち始め…。
「あんたね!確りしなさいよ!」
桜花姫はウジウジし続けるアクアヴィーナスに怒号する。
「アクアヴィーナス!あんたは本当に煮え切らないわね!」
「えっ…桜花姫…」
「あんたは自分の母様を無事に救出したいのよね!?今更当事者のあんたが畏怖しちゃって如何するのよ!?こんな場所で尻込みし続ければあんたの母様は極悪非道の深海底魔女に食い殺されちゃうかも知れないわよ!」
桜花姫の怒号にアクアヴィーナスはハッとした表情で…。
「御免なさいね…桜花姫…私は…恐怖心で畏怖しちゃったわ…私がアクアキュベレー母様を救出しないと…」
極度の恐怖心によりビクビクしたアクアヴィーナスであるが桜花姫の大目玉によって平常心に戻ったのである。
「桜花姫…私…道案内するわね…」
「勿論よ!アクアヴィーナス!」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に道案内する。
第十五話
ブルーデストピア
桜花姫とアクアヴィーナスが行動を再開し始めてからの同時刻…。失楽園ブルーデストピアの深海底魔王城にて深海底魔女のダークスキュランは恐る恐る地下壕の牢獄へと移動したのである。
『再度彼女を解放する事態に発展するなんてね…』
地下壕の牢獄へと到達したダークスキュランは警戒した様子で恐る恐る鋼鉄の鉄格子を直視…。警戒した様子で牢獄の奥側を凝視したのである。
『赤髪の人魚と異国の魔法使いが深海底魔王城に到達するのも時間の問題だからね…止むを得ないわね…』
鉄格子の奥側には上半身が巨体の人間の女性…。下半身が巨大海蛇の巨大女性型深海底アンデッドが収容される。巨体の女性型深海底アンデッドがダークスキュランをギロッとした形相で睥睨し始める。
「あんたは真蛸の小母さんかしら?如何してあんたが地下壕の牢獄なんかに?」
ダークスキュランは上半身が人間の女性であり下半身は真蛸である。
「深海底魔女の私を真蛸って…」
『失礼しちゃうわね…やっぱり此奴は鬱陶しいビッチだわ…』
女性型深海底アンデッドの真蛸発言にピリピリする。
「今更真蛸のあんたが食いしん坊の私に何を要求するのよ?」
女性型深海底アンデッドの発言に苛立ったダークスキュランであるが…。
「上級深海底アンデッドの一体…【アビスラメイアス】…あんたを牢獄から解放するのよ…」
アビスラメイアスはダークスキュランの牢獄からの解放の一言に反応する。
「えっ!?私を解放ですって!?」
アビスラメイアスとはダークスキュランが自身の魔力は勿論…。とある最上級の深海底アンデッドの血肉から誕生させられた上級クラスの巨大女性型深海底アンデッドである。正真正銘上級深海底アンデッドの一体であり魔力のみなら深海底魔女のダークスキュランをも上回る。アビスラメイアスの素肌は全体的に水色であり頭髪は青色…。赤色の口紅とリング状の純金イヤリングが特徴的である。アビスラメイアスは非常に暴れん坊で食いしん坊でありアビスラメイアスを抑制するのは非常に困難とされる。深海底魔女のダークスキュランでさえもアビスラメイアスを抑制させるだけで一日分の魔力を消耗…。アビスラメイアスを抑制させるだけでも精一杯であり今現在では地下壕の牢獄にて永久封印させたのである。ダークスキュランの封印魔法によって完全に身動き出来なくなったアビスラメイアスであるが…。
「ダークスキュラン!?あんたは本当に私を解放するの!?」
ダークスキュランの解放の一言にアビスラメイアスは態度が一変する。
「勿論よ…今回だけはアビスラメイアスを解放するから…あんたは恩人の私に服従するのね…」
ダークスキュランはビクビクした様子で返答したのである。
「今更私をこんな場所から解放するなんてね!私はダークスキュランを食い殺すかも知れないのに…ひょっとしてあんたは食いしん坊の私に食い殺されたいのかしら?」
アビスラメイアスはダークスキュランを揶揄する。
「沈黙しなさい!アビスラメイアス…今頃はあんたの大好きな人魚の血肉が危険区域のブルーデストピアに接近中なのよ!」
「えっ!?本当に!?」
ダークスキュランの人魚の一言にアビスラメイアスは反応…。
「人魚の血肉がブルーデストピアに接近中ですって!?」
アビスラメイアスは大喜びしたのである。
「ダークスキュラン!即刻私を解放しなさいよ!私は空腹だから思う存分に生身の人魚を頬張りたいわ!生身の人魚を捕食出来るなんて久方振りね!」
アビスラメイアスは両目をキラキラさせた表情でダークスキュランに問い掛ける。
「今回の人魚は?」
「今回の餌食は…赤毛の人魚と…人魚にも変身出来る異国の魔法使いの二体よ…」
「えっ?」
アビスラメイアスは異国の魔法使いの一言に再度反応したのである。
「人魚にも変身出来る異国の魔法使いですって!?今回は面白そうだわ!異国の魔法使いなんて激レアよね!一体何者なのかしら!?」
大喜びしたアビスラメイアスであるものの…。腹部から腹鳴がグーッと響き渡る。
「私は空腹なのよ!人魚と異国の魔法使いを捕食したいわ!ダークスキュランは私を暗闇の牢獄から解放させなさいよ!」
ダークスキュランはプルプルと身震いした様子で…。鉄格子の封印魔法を解除したのである。アビスラメイアスはワクワクした様子で鋼鉄の鉄格子を破壊する。
「久方振りに大食い出来るわね!今日は最高の一日だわ!」
アビスラメイアスは海蛇の尻尾でダークスキュランを力任せに拘束したのである。
「なっ!?アビスラメイアス!?私を…如何するのよ!?」
ダークスキュランは極度の戦慄によりビクビクし始める。
「ダークスキュラン…私に対する恐怖心かしら?飼い犬に手を噛まれる…今現在のダークスキュランにはピッタリの金言ね!」
「ぐっ!アビスラメイアス…あんたね…」
「ダークスキュラン?あんたは私をこんなにも小汚い牢獄に何十年間も封印魔法で束縛し続けたからね!如何しましょうかね?」
アビスラメイアスは満面の笑顔で発言するのだが…。
「本来であれば私を封印したあんたを即刻食い殺したいのだけれどね…ダークスキュランを捕食するのは後回しだからね!私は即刻異国の魔法使いと赤毛の人魚を食い殺しに出掛けるわ!御免あそばせ!」
アビスラメイアスはダークスキュランを解放すると城外へと直行する。
「はぁ…はぁ…」
『アビスラメイアス…やっぱり彼女は末恐ろしいわ…』
ダークスキュランは食い殺されるかも知れない恐怖心から冷や冷やしたのである。
『私は一瞬…彼女に食い殺されるかと…アビスラメイアスは本当に厄介だわ…』
ダークスキュランはアビスラメイアスの気紛れに命拾いしたのか内心ホッとする。
『兎にも角にもアビスラメイアスが異国の魔法使いと潰し合えば確実に共倒れか…最低でも何方かが食い殺されるでしょうね…』
ダークスキュランの思惑として桜花姫とアビスラメイアスが潰し合えば高確率で両者ともが魔力を消耗…。彼女達の潰し合いで魔力を消耗した何方かを殲滅するのがダークスキュランの魂胆である。
「今回の戦闘でトラブルメーカーは確実に排除出来るでしょうし…アクアユートピア全域も順風満帆に征服出来そうね!」
『物事がこんなにも好都合に展開するなんてね…一石二鳥だわ!』
ダークスキュランは冷笑する。
「自室に戻ってアビスラメイアスと異国の魔女の様子を見物しましょう!」
『私は此処から高みの見物よ!』
ダークスキュランが自室へと戻ったのである。
第十六話
ブルークリスタル
同時刻…。暗闇の海中を移動し続ける桜花姫とアクアヴィーナスであるが遠方の海中より強大なる妖力を感じる。
「えっ?深海底アンデッドの魔力かしら?」
桜花姫は警戒した様子で遠方の海中を凝視し始める。
「深海底アンデッドの魔力ですって?」
「遠方の海中から深海底アンデッドの魔力を感じるのよ…」
「魔力って…ひょっとして今度もアビスセイレーンの大群が出現したのかしら?」
アクアヴィーナスは無数の魔力の正体がアビスセイレーンなのか不安に感じる。
「アビスセイレーンとは別物みたいだわ…今度の相手は単体みたいだけれど…」
「単体?アビスセイレーンとは別物ですって?一体何が出現したのかしら?」
「単体でも此奴は非常に強力そうよ…一体何が出現するのかしら?」
魔力の正体は不明であるものの…。桜花姫とアクアヴィーナスは正体不明の魔力に警戒する。すると遠方の海中より正体不明の巨大移動物体が猛スピードで彼女達に急接近したのである。
「えっ!?何かしら!?」
正体不明の巨大移動物体にアクアヴィーナスは畏怖し始め…。
「桜花姫!」
アクアヴィーナスは力一杯桜花姫に密着したのである。一方正体不明の巨大移動物体は猛スピードで彼女達に急接近…。正体不明の巨大移動物体は力一杯暗闇の海中を力泳し続けると数秒間で彼女達の目前より到達したのである。
『此奴は海蛇の…深海底アンデッドかしら?上半身は人間の女性みたいね…彼女は一体何者なのかしら?』
巨大移動物体の正体とは上半身が巨体の人間の女性であるものの…。下半身は巨体の海蛇である。
「彼女は海蛇の女王…アビスラメイアスだわ!」
アクアヴィーナスはアビスラメイアスとの遭遇に身震いする。
「アビスラメイアス?海蛇の女王ですって?」
「彼女は上級クラスの深海底アンデッドよ!」
「上級の深海底アンデッドですって!?早速面白くなったわね!」
桜花姫は強敵との遭遇により非常にワクワクし始める。
『アビスラメイアスも大物みたいね!』
するとアビスラメイアスは桜花姫を注視したのである。
「如何やらあんたがね…」
アビスラメイアスは蛍光色の瞳孔で桜花姫をジロジロと凝視し始める。
「あんたが人魚にも変身出来る異国の魔法使いみたいね…美味しそうな人魚の小娘だわ!今直ぐにでも捕食しちゃいたいわね!」
アビスラメイアスは両目をキラキラさせる。
「私もあんたを桜餅に変化させて食べちゃいたいわ!」
満面の笑顔で発言するアビスラメイアスに桜花姫も満面の笑顔で返答したのである。
「あんたの名前はアビスラメイアスだったかしら?アビスラメイアスは私の大好きな桜餅に変化しなさい!」
桜花姫はアビスラメイアスに変化の妖術を発動するのだが…。
「えっ…」
アビスラメイアスは桜餅に変化しない。
『可笑しいわね…妖術が発動しないわ…普通なら桜餅に変化するのに…』
桜花姫は再度アビスラメイアスに変化の妖術を発動するものの…。
『一体何故なの?アビスラメイアス…彼女は桜餅に変化しないわね…』
変化の妖術を発動してもアビスラメイアスは桜餅に変化しなかったのである。一方のアビスラメイアスは不思議そうな表情で桜花姫に注目する。
「えっ?あんたは私に何したのかしら?ひょっとして魔法とか?」
アビスラメイアスは痛くも痒くもない様子であり桜花姫は動揺し始める。
「えっ!?如何して彼女には私の変化の妖術が発動しないのよ!?」
「桜花姫の魔法が無力化された!?一体如何してなの!?」
『アビスラメイアスには桜花姫の魔法が通用しないのかしら?小細工とか?』
アクアヴィーナスは恐る恐るアビスラメイアスに問い掛ける。
「アビスラメイアス…貴女は一体何したのよ?如何してアビスラメイアスには桜花姫の魔法が通用しないのよ?ひょっとしてアビスラメイアスは荒唐無稽の小細工を駆使したのかしら?」
アクアヴィーナスの質問にアビスラメイアスは満面の笑顔で返答したのである。
「何って?私は彼女の魔力をペロペロッと平らげちゃっただけよ!荒唐無稽の小細工なんて失礼しちゃうわね…」
先程は余裕だった桜花姫であるが…。
「平らげたって…ひょっとして彼女も吸収能力で私の妖力を吸収したの?」
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りし始める。
「えっ…」
『桜花姫?』
アクアヴィーナスは桜花姫の様子を観察すると桜花姫は全身がプルプルと身震いした様子だったのである。
『ひょっとして彼女は…桜花姫はアビスラメイアスに恐怖心を!?』
アビスラメイアスに対する恐怖心からプルプルと身震いし続ける桜花姫を直視するとアクアヴィーナスは極度の不安感が芽生える。
『私一人では何も出来ないし…一体如何すれば?』
深海底地帯の自然環境では妖力の消耗は桁外れであり吸収能力を保持する深海底アンデッドは最悪の難敵である。桜花姫は圧倒的に不利であると判断すると苦し紛れに…。
「アクアヴィーナス…残念だけどあんたは即刻祖国のアクアユートピアに戻りなさい!戻らなければあんただって確実にアビスラメイアスに食い殺されるかも知れないのよ!アクアヴィーナスは即刻アクアユートピアに戻りなさい!」
「えっ…桜花姫…」
「あんたはアビスラメイアスに食い殺されたくないでしょう?」
桜花姫は恐る恐るアクアヴィーナスに指示したのである。一方桜花姫に指示されたアクアヴィーナスであるが…。
「えっ…私は…」
アクアヴィーナスは一瞬沈黙したのである。
「桜花姫…私は…アクアユートピアへは…戻らないよ!」
アクアヴィーナスは強張った表情で桜花姫の指示を拒否する。
「えっ!?アクアヴィーナス!?」
「私は…一人でアクアユートピアへは戻れないよ!此処で逃げちゃったら…」
「えっ?あんたは…一体何を!?正気なの!?アクアヴィーナス!?」
桜花姫は指示を拒否するアクアヴィーナスが正気なのか不安がる。
「桜花姫…私は正気よ…」
「正気なら即刻逃げなさいよ!アクアヴィーナス!」
桜花姫は再度アクアヴィーナスに指示したのである。
「アクアヴィーナス…あんたはこんな場所で死にたくないでしょう!?」
「私には恩人の桜花姫を…見殺しになんて出来ないわ!」
『本当は死にたくないし…今直ぐ逃げたいけれど…』
本心では逃げられるのであれば一目散に逃げたいアクアヴィーナスであるが…。
『私は最愛の母様を…見殺しに…』
アクアヴィーナスは母親のアクアキュベレーを見殺した自身への無力感と罪悪感に影響され恩人である桜花姫を見殺しには出来なかったのである。
「私を見殺しにって…あんたね!」
桜花姫はアクアヴィーナスの発言に呆れ果てる。
「今回ばかりは…私だって殺されるかも知れないのに!一人では何も出来ないあんたは正直足手纏いなのよ!此処では非力のあんたは邪魔なだけなのよ!」
桜花姫は非常に苛立った様子であり攻撃的に発言したのである。
「えっ…桜花姫…」
アクアヴィーナスは足手纏い発言にピクッと反応する。
「はっ!?」
『私は一体何を?』
一方の桜花姫は本音を口走りハッとした表情で…。
「御免なさい…アクアヴィーナス…気にしないで…」
桜花姫は即座にアクアヴィーナスに謝罪する。
「本当に御免なさい…苛立っちゃっただけだから…アクアヴィーナス…本当に気にしないでね…」
謝罪した桜花姫であるもののアクアヴィーナスは無表情で…。
「別に…私は気にしないから大丈夫よ…桜花姫…所詮私が足手纏いなのは周知の事実だし…私は人一倍弱虫だから…」
「アクアヴィーナス…」
すると沈黙したアビスラメイアスが満面の笑顔で発言し始める。
「あんた達…女同士の雑談は終了したかしら?」
アビスラメイアスは一息したのである。
「何方にせよ…あんた達は私の餌食決定だからね!二人とも仲良く私に食い殺されちゃいなさい!あんた達二人は私に食い殺される運命なのだから!」
アビスラメイアスは召喚魔法を発動…。
「私の下僕達…出現なさい!」
桜花姫とアクアヴィーナスの背後より突如として四体ものアビスセイレーンがアビスラメイアスの配下として召喚されたのである。
「えっ!?彼女達はアビスセイレーン!?」
「アビスラメイアスは魔法でアビスセイレーンを召喚したの!?」
アビスラメイアスは笑顔で自身の配下であるアビスセイレーンに命令する。
「私のアビスセイレーン!あんた達は目前の彼女達を拘束しなさい!身動き出来なくするのよ!」
アビスラメイアスが四体のアビスセイレーンに命令すると彼女達は桜花姫とアクアヴィーナスの背後に密着し始める。四体のアビスセイレーンは力任せに桜花姫とアクアヴィーナスの身動きを封殺したのである。
「きゃっ!」
「ぐっ!あんた達!」
アビスラメイアスはアビスセイレーンによって身動き出来なくなった桜花姫に近寄り始める。桜花姫の素肌に密着したのである。
「異国の魔法使い…手始めに美味しそうなあんたから血肉を味見するわね!」
するとアクアヴィーナスは力一杯鼓舞すると恐る恐る発言する。
「アビスラメイアス!彼女を…桜花姫を見逃しなさい!」
「はっ?あんたは…何様かしら?私に指図するなんて…」
アビスラメイアスはアクアヴィーナスの発言に反応したのである。アクアヴィーナスは多少ビクビクするものの…。
「本来彼女はアクアユートピアの問題とは無関係なのよ!生身の人魚を食い殺したければ…私だけを食い殺しなさい!」
「えっ!?アクアヴィーナス!?」
『彼女は正気なの!?』
桜花姫はアクアヴィーナスの突発的発言に驚愕したのである。
「はぁ…小判鮫の分際で…あんたは相当の馬鹿者ね…」
苛立ったアビスラメイアスはギロッとした形相でアクアヴィーナスを睥睨する。
「別に心配しなくても…小判鮫のあんたも食い殺すから安心しなさいよ♪私は異国の魔法使いから食事したいの♪私の食事中に口出しするのであれば私の魔法であんたを二度と喋れなくしちゃうわよ…」
「ひっ!」
アビスラメイアスの恫喝にアクアヴィーナスは畏怖し始める。
「あんたの素肌…一口だけ!味見しちゃおうかしら!」
アビスラメイアスは桜花姫の頬っぺたをペロッとしたのである。
「異国の魔法使い!あんたみたいな可愛らしい小娘は大好きよ!食い殺しちゃうのが勿体無いわね!」
アビスラメイアスは赤面し始める。
『アビスラメイアス…彼女は余程の物好きなのかしら?私は深海底の悪霊なんかに気に入られるなんてね…』
桜花姫は内心苦笑いしたのである。
「ぐっ!」
『妖力が一瞬で…消耗しちゃうんなんて…』
アビスラメイアスに接触された悪影響からか桜花姫は体内の妖力が消耗し始める。
『ひょっとしてアビスラメイアスの吸収能力かしら?接触しただけで妖力が吸収されるなんて吸収力だけなら小面袋蜘蛛以上ね…』
アビスラメイアスの吸収能力は器物の悪霊として知られる小面袋蜘蛛よりも強力である。アビスラメイアスの皮膚に接触しただけで体内の妖力が消耗…。妖力は吸収されたのである。
「あんたの魔力は誰よりも美味だわ!あんたの肉体諸共食べちゃおうかしら?」
アビスラメイアスが桜花姫に接触した直後…。
『桜花姫がアビスラメイアスに食べられちゃうわ!』
アクアヴィーナスは覚悟する。
『一か八かよ…私だって…私だって!』
アクアヴィーナスは咄嗟の覚悟により背後のアビスセイレーンに力一杯頭突きしたのである。
「ギャッ!」
アクアヴィーナスは力一杯の頭突きにより背後のアビスセイレーンを一瞬怯ませる。
「えっ!?アクアヴィーナス!?」
桜花姫はアクアヴィーナスの突発的行動に再度驚愕したのである。
「桜花姫!」
アクアヴィーナスは咄嗟に所持品の魔法石ブルークリスタルを力一杯投擲する。
「えっ!?」
『アクアヴィーナス!?ブルークリスタルを!?』
桜花姫は即座にアクアヴィーナスの方向を直視したのである。アクアヴィーナスによって力一杯投擲されたブルークリスタルに変化の妖術を発動…。ブルークリスタルは桜花姫の変化の妖術により大好きな桜餅に変化したのである。
『ブルークリスタルを頂戴するわね!』
桜花姫は桜餅に変化したブルークリスタルをパクッと頬張る。
「こんなにも絶体絶命の状況下で♪異国のスイーツなんて頬張っちゃって如何しちゃったのかしら?あんた達は極度の恐怖心で脳味噌が発狂しちゃったのね…気の毒だわ♪」
アビスラメイアスは彼女達の咄嗟の行動に失笑するものの…。
「何方にせよ…あんた達は私に捕食されちゃう運命なのよ!今更身悶えても無意味なのよ…あんた達は観念するのね!」
桜餅を頬張った影響からか桜花姫の妖力が先程よりも増大化したのである。
「えっ?」
アビスラメイアスは妖力が増大化した桜花姫に不思議がる。
『彼女の魔力が先程よりも桁違いに増幅されたみたいだわ…一体如何してなの?』
不思議がるアビスラメイアスにアクアヴィーナスが解説する。
「残念だったわね!アビスラメイアス!私が桜花姫に食べさせた最強のアイテムは魔法石のブルークリスタルなのよ!」
「なっ!?魔法石のブルークリスタルですって!?」
『魔法石のブルークリスタルを頬張るなんて…異国の魔法使いは正気なの!?』
アビスラメイアスはブルークリスタルの一言に一瞬驚愕したのである。
「桜花姫は異国のスイーツに変化させたブルークリスタルを頬張ったのよ!魔力だけなら確実に貴女の魔力を上回ったわ!」
「はぁ?異国の魔法使いが私の魔力を上回ったって?」
一時的超常現象であるが…。魔法石ブルークリスタルの効果で桜花姫の妖力が強大化したのである。
「ブルークリスタルの効果で妖力が戻ったからね!早速反撃開始よ!」
桜花姫はアビスラメイアスと四体のアビスセイレーンに変化の妖術を発動…。
「あんた達は即刻!私の大好きな桜餅に変化しちゃいなさい!」
桜花姫とアクアヴィーナスの背後で彼女達を拘束する四体ものアビスセイレーンは桜餅に変化したのである。
「えっ?私のアビスセイレーンが…異国のスイーツに!?」
四体のアビスセイレーンには変化の妖術は通用したが…。アビスラメイアスは魔力の吸収能力によって桜花姫の変化の妖術を無力化させたのである。
「こんな子供騙しみたいな魔法で!」
アビスラメイアスは鬼神の形相で桜花姫を睥睨し始める。一方の桜花姫はヘラヘラした表情で…。
「如何やら親玉のアビスラメイアスには変化の妖術は通用しなかったみたいね!非常に残念だったわ!」
「何が非常に残念なのよ!?」
桜花姫の余裕の様子にアビスラメイアスは苛立ったのである。
『此奴!小娘風情の分際で腹立たしいわね!』
「異国の魔法使いが…私には魔力による攻撃法は何一つとして通用しないからね!馬鹿にしないで!」
アビスラメイアスは変化の妖術を発動した桜花姫の妖力を自身の吸収能力によって即座に吸収…。先程よりもアビスラメイアスの魔力が強大化する。
「先程のあんたの魔法で私の魔力は急上昇したのよ!」
「アビスラメイアス!今度の攻撃で親玉のあんたを仕留めるわ!」
「はっ!?魔法が通用しない私を魔法で仕留めるなんて本気かしら!?滑稽だわ!」
アビスラメイアスは桜花姫の発言に反論したのである。
「私よりも魔力が上回ったとしてもあんた達は圧倒的に不利なのよ!私に魔法なんて通用しないのに魔法以外で攻撃手段が存在しないあんた達に何が出来るのよ!?」
桜花姫は圧倒的に不利であるが…。冷静沈着であり両目を瞑目させたのである。
「鬱陶しいあんたはね…」
『口寄せの妖術…発動!』
桜花姫は即座に口寄せの妖術を発動する。
「えっ…あんたは何を?」
口寄せの妖術を発動するとアビスラメイアスの真後ろより巨大異次元空間ワームホールが出現したのである。
「一体何かしら?」
アビスラメイアスは恐る恐る背後を直視し始める。
『ひょっとしてワームホールなの?』
直後…。
「なっ!?」
『ワームホールから鋼鉄の武器が!?』
巨大ワームホールの中心部より近代兵器である大型の魚雷が出現したのである。
『ワームホールから魚型の武器が召喚されるなんて…彼女の魔法なの!?』
アビスラメイアスの背後に魚雷が出現したかと思いきや…。アビスラメイアスの背後より魚雷が一直線に直進したのである。
「アビスラメイアス…あんたは爆死するのね!」
アビスラメイアスの背中に魚雷が接触した直後…。魚雷が爆散する。
「ぎゃっ!」
アビスラメイアスは魚雷攻撃によって全身がバラバラに粉砕されたのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。爆散した魚雷の水圧から危機一髪本体を防備したのである。一方同行者のアクアヴィーナスにも妖力の防壁を発動…。アクアヴィーナスも無事だったのである。
「一件落着だわ!アクアヴィーナス…大丈夫かしら?」
「私なら大丈夫よ…感謝するわね!桜花姫…」
アクアヴィーナスもホッとしたのか微笑み始める。
「アクアヴィーナス!あんたの笑顔…可愛らしいわね!」
桜花姫は笑顔のアクアヴィーナスに可愛らしいと発言する。
「えっ!?」
アクアヴィーナスはハッとした表情から赤面し始め…。
「ぐっ!」
アクアヴィーナスは表情を無理矢理に強張らせる。
「えっ…アクアヴィーナス?」
『彼女は意外と強情なのね…無理に表情を強張らせなくても…』
桜花姫は無理矢理に表情を強張らせるアクアヴィーナスに苦笑いしたのである。
「私は先程の戦闘で妖力を消耗したからね…」
桜花姫は魚雷攻撃によってバラバラに粉砕されたアビスラメイアスの無数の血肉を直視すると満面の笑顔で…。
「今度こそ…桜餅に変化しちゃえ!」
変化の妖術でバラバラに粉砕されたアビスラメイアスの無数の血肉を自身の大好きな桜餅に変化させる。
「アクアヴィーナス?折角の機会だし…あんたも桜餅を味見しないかしら?桜餅は絶品よ!」
桜花姫は美味しそうに桜餅を食べ続けるのだが…。
「えっ…」
アクアヴィーナスは桜餅を食べ続ける桜花姫の光景に気味悪くなる。
「悪いけど私は食べたくないわ…今回は遠慮するわね…」
アクアヴィーナスは苦笑いの様子であり遠慮したのである。
『やっぱり桜花姫の感性って…異常だわ…異国のスイーツだとしてもアビスラメイアスの肉片よね?』
アクアヴィーナスは内心桜花姫の悪食にドン引きする。一方の桜花姫は即座に散乱した桜餅をムシャムシャと平らげ始める。無数の桜餅を食べ始めてより数分後…。桜花姫は桜餅を完食したのである。
「桜餅を食べ過ぎちゃったわね!」
桜餅を鱈腹頬張ると桜花姫の腹部がプクプクの状態であり一時的に肥満化する。
「桜花姫…貴女は食べ過ぎでしょう…」
『桜花姫の体内って無限の宇宙空間なのかしら?本当…彼女は鯨類以上の食いしん坊なのね…』
アクアヴィーナスは食いしん坊の桜花姫に苦笑いしたのである。
「御免あそばせ!即刻ブルーデストピアに直行するわよ!アクアヴィーナス!」
桜花姫とアクアヴィーナスはブルーデストピアの深海底魔王城へと直行する。
第十七話
深海底魔王城
桜花姫とアクアヴィーナスが移動を再開してから一時間が経過したのである。アクアヴィーナスは桜花姫と暗闇の海中を移動中…。
『月影桜花姫…』
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫を直視する。
『人一倍ヘタレの私でも…彼女と一緒だったら…危険区域のブルーデストピアに到達したとしても生還出来るかも知れないわ!』
普段は人一倍ネガティブ思考のアクアヴィーナスであるが…。桜花姫と一緒に行動すると希望が芽生え始める。すると突如として周辺が漆黒の暗闇に覆い包まれる。
「周辺は暗闇だわ…」
「ブルーデストピアは間近っぽいわね…」
「如何やら目的地は目前みたいね!面白くなったわね!」
只管極度の緊張感でビクビクし続けるアクアヴィーナスとは正反対に…。桜花姫は娯楽気分だったのである。視界は暗闇であり不良であるものの…。
「私達は超特急で移動するわよ!アクアヴィーナス!」
桜花姫は非常にワクワクする。
「えっ…」
『如何して桜花姫は平気なのかしら?』
アクアヴィーナスは桜花姫の大胆不敵の態度に羨望したのである。
「ん?」
暗闇の周辺より無数の殺気と魔力を感じる。
『無数の殺気と魔力を感じるわね…』
「深海底アンデッドの大群みたいだわ!」
桜花姫は深海底アンデッドの出現を期待したのである。
「桜花姫!?深海底アンデッドの大群が出現したの!?」
アクアヴィーナスは畏怖し始め…。力一杯桜花姫に密着したのである。
「アクアヴィーナスは大袈裟ね!戦慄しなくても大丈夫よ!」
「御免なさい…桜花姫…」
アクアヴィーナスは恐る恐る謝罪する。
「結局私一人では力不足だし…私は何も出来ないから…」
アクアヴィーナスは自身を卑下したのである。
「えっ…アクアヴィーナス…」
『先程の彼女の度胸は何だったのかしら?咄嗟の火事場の馬鹿力とか?』
桜花姫は極度に畏怖し続けるアクアヴィーナスの様子に苦笑いする。桜花姫とアクアヴィーナスは暗闇の海中を直進し続けると無数の殺気と霊気を感じる。
『此処から無数の魔力を感じるわね…敵陣だから当然かしら?』
桜花姫は即座に天道天眼を発動…。妖力の防壁を形作る。
「桜花姫…今度は何が出現するのよ?」
アクアヴィーナスは極度の恐怖心によりソワソワし始める。
「無数の深海底アンデッドが接近中ね!」
暗闇の海中より数百体…。数千体ものアビスセイレーンとアビスフィッシュの大群が移動中の桜花姫とアクアヴィーナスに殺到する。
「きゃっ!深海底アンデッドの大群よ!桜花姫!私達は食べられちゃうわ!」
「アクアヴィーナスは本当に大袈裟ね!大騒ぎしなくても大丈夫だから!」
桜花姫は一人で大騒ぎし続けるアクアヴィーナスに大袈裟であると感じる。
「何が大丈夫なのよ!?桜花姫!私達は深海底アンデッドに食い殺されちゃうかも知れないのに!」
「アクアヴィーナス…あんたは心配性ね!心配しなくても大丈夫だって!」
「えっ?桜花姫?」
「こんな奴等…先程のアビスラメイアスと比較すれば小魚同然よ!」
桜花姫は余裕の様子だったのである。
「桜花姫は本当に冷静なのね…」
アビスセイレーンとアビスフィッシュの大群が彼女達に接触する直前…。妖力の防壁から半透明の血紅色の魔手を形作る。
「あんた達は雑魚の分際で私に接触するなんて無謀なのよ!」
アビスセイレーンとアビスフィッシュの大群は桜花姫とアクアヴィーナスに殺到するものの…。
「あんた達は死滅するのね!」
妖力の防壁から出現した無数の血紅色の魔手によって瞬殺されたのである。防壁の魔手に接触したアビスセイレーンとアビスフィッシュは肉体が粉砕され…。暗闇の海中には無数の血肉やら肉片が散乱したのである。
「シールド魔法から紅色の魔手が!?一体何かしら!?」
「単純に妖力の防壁を攻撃用に応用しただけなのよ!」
「桜花姫の魔法は本当に変幻自在で万能なのね…」
「私にとってこんな妖術は序の口だからね!」
「こんなにも荒唐無稽なのに序の口って…」
アクアヴィーナスは桜花姫の返答に絶句する。
『やっぱり桜花姫には私達の常識なんて通用しないわね…彼女が本領を発揮させる相手なんて存在するのかしら?』
アクアヴィーナスは桜花姫の荒唐無稽さに普段の自分達の常識が微細に感じられる。二人が暗闇の海中を直進し続けると遠方より…。
「えっ?何かしら?」
「深海底魔女の根城みたいだわ…」
異国風の根城らしき巨大シルエットが確認出来る。
「根城は深海底魔女の本拠地かも知れないわね!」
正体不明の巨大シルエットに接近すると巨大シルエットの正体は暗闇に覆い包まれた根城であると確信する。
「如何やら此処の根城が深海底魔女の本拠地っぽいわね…」
「根城の内部から人魚達と無数の深海底アンデッドの魔力を多数感じるわね!」
桜花姫は根城の内部から人魚達の魔力は勿論…。無数の深海底アンデッドの魔力を察知したのである。
「人魚達と深海底アンデッドの魔力ですって?」
「此処からでも人魚達の魔力を察知出来るわ…如何やらあんたの祖国の人魚達は此処に幽閉されたみたいね…」
「深海底魔女の本拠地にアクアキュベレー母様が…」
アクアヴィーナスは恐る恐る暗闇に覆い包まれた深海底魔王城を直視…。
『母様は無事なのかしら?』
アクアヴィーナスは母親のアクアキュベレーが無事なのか不安に感じる。
「アクアヴィーナス!根城に潜入するわよ!」
「勿論よ!桜花姫!」
「深海底魔女に遭遇したら即刻彼女を食い殺してアクアヴィーナスの母様とアクアユートピアの人魚達を救出しましょう!」
「えっ…桜花姫…」
『笑顔で深海底魔女を食い殺すって…桜花姫の無慈悲さは深海底魔女以上かも知れないわね…』
アクアヴィーナスは深海底魔女を食い殺すと笑顔で発言する桜花姫に内心ゾッとしたのである。彼女達は恐る恐る深海底魔王城の表門へと近寄る。
「折角だからね!念力の妖術で根城の表門を粉砕しちゃいましょう!」
桜花姫は念力の妖術によって深海底魔王城の表門を粉砕…。
「表門を容易に破壊しちゃうなんて…」
アクアヴィーナスは再度絶句したのである。
「アクアヴィーナス!城内に潜入するわよ!」
「勿論よ…桜花姫…」
彼女達は警戒した様子で恐る恐る深海底魔王城の城内へと潜入する。
「如何やら私達は深海底アンデッドに歓迎されたみたいね!」
深海底魔王城の城内では無数のアビスフィッシュとアビスセイレーンが徘徊中だったのである。
「ひゃっ!深海底アンデッドの大群だわ!」
無数の深海底アンデッドは侵入者である桜花姫とアクアヴィーナスを発見した直後…。彼女達に殺到したのである。
「きゃっ!殺されちゃう!」
アクアヴィーナスは無数の深海底アンデッドに戦慄する。
「あんたは畏怖し過ぎよ…アクアヴィーナス…」
『悪いけれど…正直彼女は鬱陶しくなるわね…』
先程から大袈裟に畏怖し続けるアクアヴィーナスが鬱陶しくなる。
「桜花姫は平気なの?食い殺されるかも知れないのよ…」
「別に!こんなのは私の祖国では日常茶飯事だし!平気よ!」
桜花姫は冷静であり余裕の様子だったのである。
「あんた達は私に挑戦するなんて相当の命知らずね!」
桜花姫は余裕の様子であり念力の妖術を発動…。体内から深海底アンデッドの肉体を破裂させたのである。
『他愛無いわね!』
念力の妖術によって周辺には深海底アンデッドの血肉が飛散する。
「桜花姫…こんなにも深海底アンデッドの大群を一人で瞬殺しちゃうなんて…」
「私は正真正銘最上級妖女なのよ!当然の結果よ!」
アクアヴィーナスは再度桜花姫の強大さを実感したのである。
「兎にも角にも根城の守備陣は蹴散らしたわ!根城の最上階に直行しましょう!」
「勿論よ…桜花姫…最上階に移動しましょう…」
彼女達は深海底魔王城の最上階へと直進する。城内を直進中にも無数のアビスフィッシュとアビスセイレーンに遭遇したのである。
「好い加減…あんた達は鬱陶しいわね!」
桜花姫の猛反撃によって城内の深海底アンデッドの大群は容易に蹴散らされる。
「城内は雑魚ばかりだわ!楽勝ね!」
桜花姫は余裕の様子であり天下無敵だったのである。
『単独で大群を一蹴出来るなんて…やっぱり桜花姫は別次元の存在ね…』
アクアヴィーナスは桜花姫が別次元の存在であると思考する。すると二人の目前より二刀流の悪魔的人魚…。アビスダーキニーが二体出現する。
「彼女達はアビスダーキニーだったかしら?」
『両手の刀剣を一振りされると厄介だからね…』
桜花姫は即座に変化の妖術を発動したのである。すると二体のアビスダーキニーは自身の大好きな桜餅に変化する。
「変化の妖術!成功ね!」
桜花姫は桜餅に変化した二体のアビスダーキニーをパクッと捕食したのである。
「本当…桜花姫は深海底アンデッドを捕食出来るわね…」
アクアヴィーナスは桜花姫が深海底アンデッドを捕食する光景に苦笑いする。
「深海底アンデッドでも大好物の桜餅だから平気よ!」
桜花姫は満面の笑顔で即答したのである。
「アクアヴィーナス!兎にも角にも…最上階に移動するわよ!」
二人は再度行動を開始する。
第十八話
光球
彼女達が再度行動を開始してより数分後…。
「ブルークリスタルの効力かしら♪妖力の消耗が気にならなくなったわ♪」
桜花姫は桜餅に変化させたブルークリスタルの効力により深海底地帯の自然環境でも妖力の消耗が緩和されたのである。
「もう少しで根城の最上階かしら?」
アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「桜花姫…緊張するわね…」
アクアヴィーナスは極度の緊張感により全身がプルプルし始める。
「緊張するかしら?私は別に平気だけれどね!」
「桜花姫らしい返答だわ…」
桜花姫とアクアヴィーナスは深海底魔王城の最上階へと到達する。
「如何やら根城の最上階っぽいわね…ん?」
最上階の中心部より下半身が真蛸の女性が確認出来る。
「誰かしら?」
「彼女が…」
するとアクアヴィーナスがプルプルと身震いし始める。
「えっ?如何しちゃったのよ?アクアヴィーナス?大丈夫なの?」
アクアヴィーナスは恐る恐る下半身が真蛸の女性に指差したのである。
「彼女よ…彼女がね…」
「えっ?彼女?彼女が何よ?」
「彼女が…私達のアクアユートピアを襲撃した張本人…深海底の魔女…ダークスキュランよ…」
ダークスキュランは上半身が人間の女性であるものの…。下半身は真蛸の肉体であり八本の蛸足が確認出来る。
「彼女が親玉のダークスキュランね!」
『如何やら此奴がアクアユートピアを襲撃した黒幕の深海底魔女…ダークスキュランなのね…』
桜花姫は深海底魔女ダークスキュランとの遭遇に微笑み始める。
「あんたがアクアヴィーナスの祖国を侵略した深海底魔女…ダークスキュランなのね!あんたの下半身は可愛らしい真蛸みたいだわ!」
一方のダークスキュランは桜花姫の真蛸発言にピクッと反応し始め…。
「なっ!?誰が真蛸ですって!?」
ダークスキュランは鬼神の形相でヘラヘラし続ける桜花姫を凝視する。
「あんたは失礼しちゃうわね!私は深海底の魔女…ダークスキュランなのよ!」
真蛸と揶揄されたダークスキュランは桜花姫に睥睨し始める。
「ダークスキュラン…如何やらあんたが今回の事件の黒幕っぽいわね!」
「あんたが異国の魔法使いなのね…」
一方のダークスキュランは一息する。
「ワーム型深海底アンデッドのアビスサーペントと…上級深海底アンデッドのアビスラメイアスを完膚なきまでに死滅させ…ノーダメージで深海底魔王城の最上階に到達出来るなんてね…」
ダークスキュランは桜花姫の妖力を高評価したのである。
「異国の魔法使いは予想外に手強いわね…あんたは天空世界の化身なのかしら?」
「勿論!私は最上級妖女だからね!私に挑戦するとあんたは後悔するわよ!」
桜花姫は満面の笑顔で断言する。
「即刻深海底魔女のあんたを仕留めて…あんたの部下達に連行されたアクアヴィーナスの母様とアクアユートピアの人魚達を無事に救出するわよ!」
「彼女達を無事に救出出来るかしら?現実を直視しない単細胞のあんた達に…」
「現実ですって?一体何よ?」
ダークスキュランは平常心の様子である。
『ダークスキュランは随分と冷静ね…』
桜花姫はダークスキュランの様子に警戒し始める。
『彼女…妖力だけなら手下のアビスラメイアスよりも数段階下回るのに…如何してダークスキュランは圧倒的に不利なのに冷静なのかしら?』
するとアクアヴィーナスは恐る恐るダークスキュランに問い掛ける。
「如何してダークスキュランは私達のアクアユートピアを侵略したのよ?」
「私が人魚王国アクアユートピアを侵略した理由ですって?」
ダークスキュランは恐る恐る一息する。
「深海底の人魚王国アクアユートピアでは…無尽蔵の魔法石…ブルークリスタルを入手出来るからね…」
「無尽蔵のブルークリスタルですって?」
桜花姫とアクアヴィーナスはダークスキュランのブルークリスタルの一言に反応したのである。
「魔法石のブルークリスタルは米粒大のサイズだとしても地上世界の一国を引っ繰り返せる魔力を発揮出来るのよ…」
魔法石のブルークリスタルは消耗した魔力の回復のみならず超一流の魔法使いがブルークリスタルを所持した場合…。体内の魔力を数十倍から数百倍にも増大化させられる。無論ブルークリスタルから発生した魔力は無尽蔵でありブルークリスタルを所持した魔女は魔力が枯渇しない。
「米粒大のブルークリスタルでも超一流の魔法使いが所持すれば超大国を陥落させられるし…超大国の征服だって実現出来る程度の…魔力を入手出来るからね!勿論赤毛のあんたでも相応に魔力を発揮出来るかも知れないわよ!」
ダークスキュランは遠回しにアクアヴィーナスを揶揄したのである。
「米粒大のブルークリスタルだけで…超大国を征服出来るなんて…」
超大国のスケールにアクアヴィーナスは絶句する。
「超大国ですって?本当なの?」
桜花姫は懐疑的に反応したのである。するとアクアヴィーナスは恐る恐るダークスキュランに問い掛ける。
「如何して深海底魔女のダークスキュランに魔法石のブルークリスタルが必要なのかしら?魔法石のブルークリスタルを所持しなくてもあんたの魔力は桁外れに強力でしょうよ…」
ダークスキュランの魔力を高評価したアクアヴィーナスであるが…。ダークスキュランは一瞬沈黙したのである。
「はぁ…」
ダークスキュランは一度一息し始める。
「私は莫大なるブルークリスタルで私自身の魔力を増大化させ…魔法の海水で地上世界全域を水没させるのよ!広大無辺の地上世界全域を水没させるには私自身の魔力のみだと力不足だからね…人魚王国…アクアユートピアのブルークリスタルで私自身の魔力を数千倍に増大化させたかったのよ!」
桜花姫とアクアヴィーナスはダークスキュランの主目的に沈黙したのである。
「極悪非道の人間達を魔法の海水で溺死させ…地上世界全体を魔法の海水で覆い包ませるのよ!無尽蔵のブルークリスタルから大発生させた無限の魔力で海水の大惑星が誕生するのよ!」
桜花姫は恐る恐るダークスキュランに問い掛ける。
「ダークスキュラン?」
「何よ?」
「ひょっとしてあんたも…ダークスキュランも…人間達が大嫌いなの?」
「人間達ですって?無論ね…」
ダークスキュランは桜花姫の問い掛けに即答したのである。
「如何してあんたは地上世界の人間達を溺死させたいのよ?」
再度問い掛けられたダークスキュランは無言で魔法を発動…。桜花姫とアクアヴィーナスの目前に蛍光色の発光体を発生させたのである。
「発光体みたいね…一体何かしら?」
「発光体は時空の光球よ…」
「時空の光球ですって?」
「時空の光球はね…」
時空の光球とは別名予言の発光体とも命名される予言魔法の一種とされる。蛍光色の発光体に接触すると太古の古代世界から遼遠の未来世界の出来事は勿論…。あらゆる並行世界にて今後発生すると予測される出来事を鮮明に実体験出来る魔法の発光体である。時空の光球は幻術とは別物に分類される。
「面白そうだわ!時空の光球に接触しましょうよ!アクアヴィーナス!」
桜花姫は時空の光球にワクワクするものの…。
「えっ…大丈夫なの?桜花姫?火傷しないかな…」
一方のアクアヴィーナスは極度に不安がる。
「安心しなさい…火傷しないから…」
ダークスキュランは火傷しないと発言するのだが…。
『本当に…大丈夫かな?正直ダークスキュランは信用出来ないのよね…』
アクアヴィーナスは正直半信半疑でありビクビクした様子で恐る恐る時空の光球に接触したのである。
「折角だからね!私も!」
桜花姫は娯楽の感覚で時空の光球に接触する。
「えっ?」
すると彼女達の脳内より…。とある光景が鮮明に再現されたのである。脳内の光景とは大地の大平野にて獣類の毛皮を羽織った大勢の大部族が鋭利の尖頭器を所持…。闘争する光景が鮮明に発現されたのである。
『乱闘みたいだけど…一体何かしら?』
すると闘争の光景がパッと消滅したかと思いきや…。今度はとある海峡での合戦場の光景が鮮明に発現されたのである。とある巨大船団と別の巨大船団が衝突する戦闘の光景であり主戦場が船上で足場が非常に不安定であるが…。両勢力とも必死に奮闘し続ける。数秒間が経過すると戦闘の光景がパッと消滅したのである。今度は数百隻もの大陸の軍船がとある砂浜にて上陸を開始…。巨漢の兵士達が火薬を投擲し始めたのである。重厚そうな甲冑を装備した武士達に攻撃する光景が鮮明に発現される。暴風雨により無数の軍船が沈没…。大勢の兵士達が溺死する光景も確認出来る。暴風雨の光景が消滅すると今度は各地の武士団らしき勢力が発現され…。多種多様の家紋を掲揚した甲冑の武士達がとある荒野にて奮闘する光景が発現される。
『ひょっとすると状況的に…戦乱時代の光景なのかしら?』
桜花姫は五百年前の戦乱時代を連想したのである。総大将らしき武将の目前には斬首された武士達の生首が並列される。場面が消滅した直後…。すると今度は炎上し続ける城内にて一人の家臣に裏切られた武将が自害する光景が発現されたのである。場面が一変すると今度の光景は蒸気を放出する異国風の巨大軍船が確認出来…。馴染み深いとある湾港に上陸する光景が発現されたのである。異国風の軍服を着用した巨漢の男性達と和服の男性達が対談する光景が確認出来る。すると場面が一変する。異国風の軍服と新品の鉄砲を所持した異国風の軍勢は勿論…。馴染み深い和服と甲冑を装備した純和風の軍勢が交戦する戦闘の光景が発現されたのである。
『一体何が?先程から戦乱の光景ばかりね…』
桜花姫は鮮明に発現された数多くの戦闘の場面に圧倒される。両勢力の戦闘の光景が消滅すると今度は鉄砲を所持した異国風の黒服の兵士達がとある丘陵地の山岳要塞にて突撃する場面が発現され…。突撃中の大勢の兵士達が丘陵地の狙撃兵達により銃殺されたのである。場面が一変すると今度はとある青海原にて数十隻もの鋼鉄の巨大軍船が前方を直進し続ける数十隻もの鋼鉄の巨大軍船を無数の大砲で砲撃する大海戦の光景が発現される。すると今度は鋼鉄の鳥類らしき無数の飛翔体がとある異国の湾港にて飛翔中…。湾港に停泊中の巨大軍船を鋼鉄の爆弾で攻撃する光景が鮮明に発現されたのである。十数隻もの巨大軍船が沈没…。大勢の兵士達が鋼鉄の爆弾で吹っ飛ばされたのである。直後…。とある海面上にて鋼鉄の爆弾を抱き抱えた鋼鉄の鳥類らしき飛翔体が大砲を装備した鋼鉄の巨大軍船に自爆攻撃する光景が発現されたのである。すると今度は鋼鉄の爆弾を抱き抱えた小柄の少年兵が大砲を装備した鋼鉄の巨大牛車に突撃…。鋼鉄の巨大牛車諸共自爆攻撃を実行する光景も鮮明に発現されたのである。一連の戦闘の光景が消滅したかと思いきや…。今度は鋼鉄の巨大鳥類らしき無数の飛翔体がとある城下町にて飛翔する。飛翔体の胴体より何千発もの鋼鉄の爆弾を投下する光景が鮮明に発現されたのである。業火の火炎に覆い包まれた村人達…。防火頭巾の女性達が必死に炎上し続ける各家屋敷を消火する光景が鮮明に発現されたのである。場面が一変すると突如としてピカッと高熱の閃光が視界一面に光り輝いたかと思いきや…。とある大都市部全域にてどす黒い巨大キノコ雲と漆黒の雨水も確認出来る。焦土化した陸地には眼球やら全身の皮膚がドロドロに焼け爛れ…。幽霊らしき姿形の村人達が荒廃化した各地を大勢で彷徨し続ける。荒廃化した各地には黒焦げの無数の焼死体が地面全体に埋没…。焼け爛れた焼死体の皮膚には無数の蛆虫が大量発生したのである。
『如何してこんな状態に…一体何が?』
桜花姫でも前代未聞の異様の光景にゾッとする。
「桜花姫…私…」
一方のアクアヴィーナスは極度の恐怖心により涙腺から涙が溢れ出る。全身がプルプルと身震いし始め…。身体髪膚が膠着化したのである。
「アクアヴィーナス…」
『如何やら彼女は限界みたいね…』
すると時空の光球はパッと消滅する。ダークスキュランは無表情で桜花姫とアクアヴィーナスを凝視したのである。
「常日頃から単細胞のあんた達でも…理解出来たでしょう?」
「理解って…何が?」
ダークスキュランは無表情で桜花姫を直視し始める。
「地上世界の…人間達の野蛮さと…数多くの愚行を…」
「先程の光景は幻術なのかしら?」
桜花姫の返答にダークスキュランは全否定する。
「幻術なんて甘っちょろい子供騙しの魔法とは別物なのよ!時空の光球は太古の古代世界から遼遠の未来世界は勿論…無限の並行世界で発生する出来事を鮮明に再現させる予言の魔法なのよ!」
「予言の…魔法ですって?」
「先程の光景は太古の古代世界から遼遠の未来世界の戦乱は勿論…別の時間軸で勃発する一連の出来事を鮮明に再現したのよ!醜悪なる人間達の悪行かしら?」
桜花姫は沈黙する。
「こんなにも同族同士で殺し合って…自然界の自然環境を汚染させ続ける全人類を滅亡させたいからこそ!“私はブルークリスタルの絶大なる魔力を利用して醜悪なる全人類諸共地上世界全域を水没させたいのよ!」
すると桜花姫は無表情で…。
「別にあんたが人間達を完膚なきまでに溺死させたいのであれば思う存分に殺傷しなさいよ…先程の光景を再現させられちゃったら人間界を守護するのも笑止千万だわ…所詮人間達があんたの魔法で溺死しちゃうのも自業自得でしょうね…」
「異国の魔女…あんたって意外だわ…」
ダークスキュランは桜花姫の返答が意外であると感じる。
「えっ?何が意外なのよ?」
ダークスキュランは冷笑した表情で…。
「正直あんたは姿形も発想も世間知らずの単細胞って印象だったけれど…思考力だけなら赤髪の女友達よりは大人の女性みたいな様子ね!」
ダークスキュランは桜花姫が意外と現実的で知性的であると再評価したのである。
「異国の魔女…正直あんたが大人の女性らしい思考力でホッとしたわ!」
「はっ?」
『鬱陶しい真蛸の女狐ね!何が大人の女性みたいな思考力よ…腹立たしくなるわ!』
ダークスキュランから大人の女性と認識された桜花姫であるが…。内心では腹立たしくなりピリピリする。
「あんたが大人しく私の主目的に協力するのであれば…赤髪の女友達もアクアユートピアの人魚達も無事に解放するけれど!如何するかしら?」
「人間達が自滅するのは勝手だけど…誰が真蛸のあんたなんかに協力するか…」
桜花姫はダークスキュランの協力を拒否したのである。
「地上世界を水没させちゃうと桃源郷神国の桜餅は二度と食べられなくなるし…八正道様と小猫姫が溺死しちゃうかも知れないからね…何よりも金輪際悪霊征伐と匪賊征伐が出来なくなるわ!」
数秒後…。
「ダークスキュラン…悪いけど私はあんたの野望には賛同出来ないわね…」
「はっ?」
「勿論共感は出来るわ!共感するけど協力は出来ないわね…」
ダークスキュランは笑顔で返答した桜花姫にピリッと苛立ったのである。
「異国の魔法使いが…所詮あんたも人間達に味方する愚者なのね…」
「私が人間達の味方ですって?勘違いしないでね…私は誰にも干渉されず自由奔放に生活したいだけなのよ!地上世界の水没なんて面倒臭いのよね!」
桜花姫はダークスキュランの野望に全否定する。
「あんたね…」
一方のダークスキュランは桜花姫の返答に苛立ち始め…。
「私の主目的に協力しないのであれば…あんた達の身動きを半永久的に封殺するわ!覚悟する。のね!」
桜花姫とアクアヴィーナスに金縛りの魔法を発動したのである。すると突如…。
「えっ?」
『身動き出来ないわね…』
彼女達はダークスキュランの金縛りの魔法により身動き出来なくなる。
『ひょっとして金縛りの妖術かしら?ダークスキュランは金縛りの妖術で私達二人の身動きを封殺したのね…』
桜花姫は身動き出来ずとも冷静沈着であったが…。
『如何してなの!?突然身動き出来なくなったわ…一体何が!?』
一方のアクアヴィーナスはパニック状態であり動揺し始める。
『私は…如何しましょう!?如何すれば身動き出来るのよ!?』
ダークスキュランは金縛りの魔法によって桜花姫とアクアヴィーナスの身動きの封殺に成功したのである。
「あんた達!いい気味だわ!」
『二人とも身動き出来なくなったわね!』
金縛りの魔法により身動き出来なくなった桜花姫とアクアヴィーナスに催眠術魔法を発動する。
「えっ…」
『何かしら?』
『突然…眠気が…』
桜花姫とアクアヴィーナスはダークスキュランの催眠術魔法の影響からか極度の眠気により熟睡し始めたのである。
「あんた達は精一杯熟睡しなさい!」
ダークスキュランは熟睡中の桜花姫に恐る恐る接触する。
「異国の魔法使いは人一倍生意気で腹立たしい小娘だったけれど…熟睡すると寝顔だけは誰よりもキュートだわ♪食べちゃうのが非常に勿体無いわね♪」
『早速彼女達をピチピチの甘海老に変化させちゃおうかしら!』
ダークスキュランの魔法によって睡眠中の桜花姫とアクアヴィーナスの肉体を小指サイズの甘海老に変化させたのである。
「美味しそうな甘海老ね!」
『異国の魔法使いはピチピチした素肌の感触が誰よりも美味しそうだわ!』
ダークスキュランは即刻小指サイズの甘海老に変化させた桜花姫を頬張ろうかと思いきや…。
「えっ!?」
桜花姫の肉体から白煙がポンッと発生したのである。
『消滅するなんて…一体何が!?』
小指サイズの甘海老に変化した桜花姫の肉体が突発的に消滅…。
『如何して彼女の肉体が消滅したのよ!?』
ダークスキュランは突然消滅した甘海老の桜花姫に驚愕する。
『彼女は一体!?』
するとダークスキュランの背後より…。
「きゃっ!」
ダークスキュランの背中に何者かがポンッと接触したのである。突然の出来事によりダークスキュランはビクッと反応する。
「御免あそばせ♪ダークスキュラン♪」
「えっ!?あんたは…」
ダークスキュランの背中を接触したのは誰であろう最上級妖女の月影桜花姫だったのである。
「あんたは異国の魔法使い!?如何して元通りの姿形に!?あんたは私が魔法で甘海老に変化させたのよ!?」
ダークスキュランは元通りの姿形に戻った桜花姫に動揺する。
「一体何が?如何してあんたは元通りに戻れたのよ!?」
「不思議そうな表情ね!ダークスキュラン!」
桜花姫は不思議がるダークスキュランに満面の笑顔で説明したのである。
「あんたが妖術で甘海老に変化させたのは私の分身体なのよ!残念だったわね!ダークスキュラン!」
「えっ…分身体ですって!?」
ダークスキュランが魔法を発動する直前に分身の妖術を発動…。ダークスキュランの魔法で小指サイズの甘海老に変化したのは桜花姫の分身体であり彼女の本体は無事だったのである。
「分身体の魔法で私の魔法を無力化するなんて…異国の魔法使いは悪知恵も超一流みたいね…」
「欺瞞も戦術には必要不可欠だからね!下半身が真蛸の小母さん!」
「はっ!?誰が真蛸ですって!?」
ダークスキュランは桜花姫の真蛸発言に反応…。怒号し始める。
「私こそ真蛸のあんたを桜餅に変化させて頬張っちゃうわよ!」
ダークスキュランは満面の笑顔で発言する桜花姫に恐る恐る忠告したのである。
「異国の魔法使い風情が!深海底の魔女である私を食い殺せば…甘海老に変化させたあんたの女友達は勿論…アクアユートピアの人魚達も二度と元通りには戻れなくなるわよ!元凶の私を食い殺せば何もかもが水の泡だからね!」
ダークスキュランに忠告された桜花姫であるが…。
「別に♪」
「えっ!?」
ダークスキュランは桜花姫の予想外の返答に愕然とする。
「彼女が元通りに戻れないから何よ?」
桜花姫はヘラヘラした様子である。
「えっ…仲間の人魚達が元通りに戻れなくなるのに…あんたは平気なの!?」
『彼女は正気なのかしら?』
ダークスキュランは桜花姫の予想外の返答に絶句する。
「私なら平気よ♪私は単純に深海底魔女のあんたが気に入らないから深海底魔女のあんたを食い殺したいだけなのよ♪残念だったわね♪ダークスキュラン♪結局…私に対する苦し紛れの忠告も無意味だったみたいね♪」
桜花姫は只管ダークスキュランに挑発したのである。
「やっぱりあんたは…可愛らしい外見とは裏腹に内面はどす黒い小悪魔みたいね!」
ダークスキュランから小悪魔と誹謗された桜花姫であるが…。
「私がどす黒い小悪魔だから何よ♪鬱陶しいあんたは桜餅に変化しちゃいなさい!」
桜花姫は変化の妖術を発動するとダークスキュランを大好きな桜餅に変化させる。
「美味しそうな桜餅だわ♪頂戴するわね♪」
一口で桜餅に変化したダークスキュランをパクッと頬張る。
「やっぱり桜餅は美味だわ!」
甘海老に変化したアクアヴィーナスを凝視したのである。
「口寄せの妖術でダークスキュランを元通りに復活させれば問題解決なのよね!」
桜花姫は即座に口寄せの妖術を発動する。先程変化の妖術で食い殺したダークスキュランを元通りに復活させたのである。
「えっ?私は一体何を?」
ダークスキュランは無表情で周辺をキョロキョロする。
「元通りに戻れたわね♪ダークスキュラン♪気分は如何かしら♪」
ダークスキュランは無感情の様子であり何一つとして反応しない。姿形こそ生前のダークスキュランと瓜二つであるが…。術者の桜花姫によって自我を掌握された状態からか今現在のダークスキュランは桜花姫の傀儡人形同然である。
「ダークスキュラン♪あんたの魔法によって甘海老に変化させられちゃったアクアヴィーナスとアクアユートピアの人魚達を即刻元通りに戻しちゃいなさい♪」
「承知したわ…魔法を解除するわね…」
ダークスキュランは桜花姫の命令を承諾…。即座に変化の魔法を解除したのである。魔法を解除されたアクアヴィーナスは勿論…。深海底魔王城で拘束された人魚達も甘海老の状態から元通りの人魚の姿形へと戻ったのである。熟睡中だったアクアヴィーナスが恐る恐る目覚める。
「えっ?桜花姫?私は今迄一体何を?」
アクアヴィーナスは寝惚けた様子であったが…。
「えっ!?彼女は…ダークスキュラン!?」
アクアヴィーナスは深海底魔女のダークスキュランを直視するとビクッとした反応でダークスキュランに戦慄したのである。
「アクアヴィーナス♪あんたは本当に小心者ね…心配しなくても大丈夫よ♪」
「えっ!?桜花姫!?」
アクアヴィーナスはダークスキュランを直視…。警戒した様子で恐る恐るダークスキュランの素肌に接触する。
「えっ?彼女は無反応だわ…無感情のビスクドールみたいね…彼女は本物のダークスキュランなの?」
ダークスキュランはアクアヴィーナスにジーッと凝視されても無反応であり無表情だったのである。
「今現在の彼女は口寄せの妖術で復活させた傀儡人形だからね!本物のダークスキュランなら私が征伐しちゃったから大丈夫なのよ!」
「えっ?征伐って…桜花姫が本物のダークスキュランを仕留めちゃったの!?」
「勿論よ♪」
「ダークスキュランを単独で仕留めちゃうなんて…貴女は一体何者なの?」
『桜花姫…貴女だったら魔法石ブルークリスタルの魔力を駆使しなくても其処等の超大国を征服出来そうね…』
アクアヴィーナスは桜花姫が事件の黒幕である深海底の魔女ダークスキュランを仕留めた事実に驚愕する。
「ダークスキュランに魔法を解除させたからあんたは勿論!今頃はアクアユートピアの人魚達もダークスキュランの呪力から無事に解放されたでしょうね!」
「アクアキュベレー母様も解放されたのね…」
すると背後の鉄扉が開放され…。金髪碧眼の人魚の女性がアクアヴィーナスに近寄ると力一杯密着したのである。
「アクアヴィーナス!」
「えっ…アクアキュベレー母様!?無事だったのね!」
アクアヴィーナスは母親のアクアキュベレーとの再会に涙腺から涙が零れ落ちる。
「アクアキュベレー母様…私は…母様が深海底魔女のダークスキュランに食い殺されちゃったのかと…」
『現実なのよね?』
アクアヴィーナスは現実を実感出来ないのか全身がプルプルと身震いする。
「アクアキュベレー母様が無事で何よりだわ!」
「大丈夫よ!大丈夫だからね!アクアヴィーナス!」
「アクアキュベレー母様!」
アクアキュベレー自身も殺害される恐怖心によって落涙したものの無事に解放され…。感動の再会に二人は大喜びしたのである。
「私だけ逃げちゃって…御免なさいね…」
アクアヴィーナスは恐る恐るアクアキュベレーに謝罪する。
「アクアキュベレー母様…私は母様を見殺して一人で国外に逃亡しちゃった…親不孝だよね…」
謝罪するアクアヴィーナスであるがアクアキュベレーは満面の笑顔で…。
「何が親不孝よ!気にしないで!アクアヴィーナス!無事に戻れただけでも結果オーライでしょう!貴女が無事なのが何よりだから…」
「アクアキュベレー母様…」
アクアヴィーナスは涙腺から涙が溢れ出る。
「えっ?彼女は誰かしら?異国の女性みたいね…」
するとアクアキュベレーは桜花姫の存在に気付いたのである。
「アクアキュベレー母様…桜花姫に感謝してよね…彼女の協力が無ければ母様は今頃深海底魔女に食い殺されちゃったかも知れないのよ…」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫を直視する。
「えっ…貴女様が…」
一方のアクアキュベレーは目前の女性が伝説の魔法使い月影桜花姫である事実に驚愕したのである。
「ひょっとして貴女様がイーストユートピアの伝説の魔法使いとされる…月影桜花姫様ですか!?」
「勿論!私が誰よりも温厚篤実で最上級妖女であり…地上世界の女神様!桜花姫…月影桜花姫よ!」
桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「えっ…桜花姫…」
『人一倍短気で無慈悲の貴女が地上世界の女神様を自称するなんて…』
アクアヴィーナスは地上世界の女神様を自称する桜花姫に苦笑いしたのである。
「あんたがアクアヴィーナスの母様ね!やっぱり美人の女性だわ!」
「私が美人なんて…桜花姫様は大袈裟ですわね!」
するとアクアキュベレーは桜花姫に謝意する。
「大変感謝しますわ!桜花姫様♪」
アクアヴィーナスも恐る恐る桜花姫に謝意したのである。
「桜花姫…私からも感謝するわね…」
アクアヴィーナスは涙腺から涙が溢れ出る。
「貴女の孤軍奮闘で私達は勿論!人魚王国アクアユートピアの人魚達が無事に解放されたわ!私達にとって桜花姫…あんたは正真正銘本物の救世主…地上世界の女神様よ!」
一方の桜花姫は落涙し続けるアクアヴィーナスに困惑したのである。
「私が地上世界の女神様なんて…あんた達は大袈裟ね!私にとって悪霊征伐なんて所詮道楽だし夜遊びと一緒なのよ!私は今回の大事件で暇潰し出来たからね!感謝したいのは私自身だから!」
「桜花姫…」
「桜花姫様…」
一方の桜花姫は先程から無言のダークスキュランを凝視し始める。
「ダークスキュラン…あんたは今後アクアユートピアの守護神として再活動しなさい!金輪際アクアユートピアを侵略するなんて悪巧みは厳禁だからね!」
桜花姫はダークスキュランの魔力は非常に強力であり深海底魔女のダークスキュランを人魚王国アクアユートピアの用心棒として利用出来ると思考したのである。
「承知したわ…月影桜花姫…」
ダークスキュランは無表情であるものの…。桜花姫の指示に承諾したのである。
「ダークスキュラン…下半身の肉体が真蛸では見苦しいし!気の毒だからね!」
ダークスキュランの下半身を気の毒に感じるのか変化の妖術を発動する。
「ダークスキュラン!あんたは容姿端麗の人魚に変身しちゃいなさい!」
桜花姫がダークスキュランに変化の妖術を発動した直後…。ダークスキュランは下半身の真蛸の肉体が銀鱗の大魚に変化したのである。
「えっ!?ダークスキュランが人魚に!?」
「彼女も魔法で人魚に変身出来るの!?」
人魚に変化したダークスキュランにアクアヴィーナスは勿論…。アクアキュベレーも驚愕したのである。
「桜花姫様の魔法かしら?」
ダークスキュランは素肌こそ悪魔的灰白色であるものの…。下半身が銀鱗の大魚の正真正銘小柄の人魚へと変化したのである。
「ダークスキュラン!あんたはアクアユートピアに戻りなさい!」
「承知したわ…」
ダークスキュランはテレポート魔法を発動…。人魚王国アクアユートピアへと瞬間移動したのである。
「事件も無事に解決出来たし!一件落着ね!」
桜花姫は事件解決に一安心した直後…。
「えっ?」
桜花姫は突如として息苦しくなる。
「ぐっ!」
『息苦しいわね…疲労の影響かしら…』
アクアヴィーナスとアクアキュベレーは突如として息苦しくなった桜花姫の様子にゾッとしたのである。
「えっ…桜花姫!?如何しちゃったのよ!?」
「大丈夫ですか!?桜花姫様!?」
「妖力の消耗かしら?突然息苦しくなったのよ…深海底に長居し続けると私は…」
桜花姫は妖力の消耗と水圧の影響で息苦しいのかアクアヴィーナスの問い掛けに小声で返答…。
「桜花姫…」
桜花姫は最早返答するだけでも辛苦の状態だったのである。
「ひょっとすると桜花姫は…魔力の消耗で長時間の人魚の状態が維持出来なくなったのかも知れないわ!」
「アクアヴィーナス…早急に地上世界に戻らないと桜花姫様が溺死しちゃうわ!如何しましょう!?」
アクアキュベレーは冷や冷やする。
「私は即刻!桜花姫を地上世界に浮上させるわね!」
「えっ!?アクアヴィーナス!?」
「一か八かよ!桜花姫!」
アクアヴィーナスは衰弱化し始めた桜花姫を力一杯抱き抱えると海面上へと急行したのである。
『桜花姫…こんな場所で溺死しないでよ!あんたが死んじゃったら…私は承知しないからね!』
アクアヴィーナスは全身全霊の力泳によりとある無人島へと漂着する。
最終話
漂着
無人島に漂着してから数分後…。桜花姫の変化の妖術が解除され元通りの姿形へと戻ったのである。アクアヴィーナスは必死に問い掛ける。
「桜花姫!?大丈夫!?」
数秒後である。桜花姫は妖力の消耗により疲れ果てた様子であるが…。
「はぁ…はぁ…私は…」
力一杯深呼吸したのである。
「えっ?私は一体…此処って地上世界?」
桜花姫は周囲をキョロキョロし始める。
「桜花姫…如何やら意識が戻ったみたいね…」
アクアヴィーナスは意識が戻った桜花姫の様子にホッとする。
「あんたは…アクアヴィーナス?えっ?」
桜花姫は真夜中の天空を直視したのである。
「星空だわ…」
地上世界であると認識する。
「私は地上世界に?何時の間にか戻っちゃったのかしら?」
「突然桜花姫が息苦しくなるからビクビクしちゃったわよ!もう少しで貴女…疲労困憊で窒息死しちゃうかと…」
「心配させちゃったわね…アクアヴィーナス♪御免あそばせ♪」
桜花姫は心配性のアクアヴィーナスに笑顔で謝罪したのである。
「貴女が…桜花姫が無事で何よりだわ…」
桜花姫とアクアヴィーナスは周辺を眺望するのだが…。視界一面が無人島である。遠方は闇夜の青海原であり陸地は何一つとして確認出来ない。
「アクアユートピアから随分遠方に移動しちゃったからね…」
「口寄せの妖術で私達諸共目的地に口寄せしましょう!」
「えっ!?目的地にテレポーテーション出来るの!?」
「一か八かよ…」
桜花姫は即座に口寄せの妖術を発動…。自分自身とアクアヴィーナスを桃源郷神国の西国の村里を目印に口寄せしたのである。
「ひょっとしてイーストユートピアの小山かしら?」
桜花姫とアクアヴィーナスは一瞬で西国の精霊故山の頂上へと瞬間移動する。
「如何やら私達は無事に桃源郷神国に戻れたみたいね!」
「私達は…一瞬で陸地にテレポーテーションしちゃったの!?」
「勿論よ!アクアヴィーナス!」
アクアヴィーナスは恐る恐る精霊故山の頂上から西国の村里を眺望したのである。
「あんたの祖国だったわね…」
「此処は私とあんたが遭遇した記念すべき場所よ!」
アクアヴィーナスは涙腺から涙が零れ落ちる。
「一日間の出来事なのに…長期間の長旅に感じられるわね…」
「私も極度の疲労感が蓄積したから…久方振りに精霊故山の露天風呂にでも入浴しちゃおうかしら!?」
突如として桜花姫は着物を脱衣し始める。
「えっ!?桜花姫!?」
「何よ?アクアヴィーナス?」
アクアヴィーナスは人前で着物を脱衣し始めた桜花姫に赤面したのである。
「貴女は人前で何するのよ!?」
「何って…入浴するから脱衣しただけよ♪不都合かしら?」
「えっ!?桜花姫は人前なのに…全裸で平気なの!?」
アクアヴィーナスに問い掛けられた桜花姫であるが…。
「別に♪人前だからって何よ♪」
桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「折角だからね!あんたも私と一緒に入浴しましょうよ!女同士だから全裸でも平気でしょう!?」
「えっ…」
アクアヴィーナスはビクビクした様子で周囲を警戒するものの…。
『大丈夫そうね…相手は桜花姫だし…』
アクアヴィーナスは赤面した表情で恐る恐る衣服を脱衣したのである。
「折角だし…」
アクアヴィーナスは衣服を脱衣すると警戒した様子で露天風呂へと入浴する。
「私も入浴しちゃおうかしら?」
するとアクアヴィーナスは恐る恐る…。
「桜花姫…」
「何よ?アクアヴィーナス?」
「御免なさいね…桜花姫…」
アクアヴィーナスは小声で謝罪したのである。
「今回…桜花姫には何一つとして謝礼が出来なくて…」
桜花姫は謝罪するアクアヴィーナスに満面の笑顔で即答する。
「別に謝礼なんて…気にしないの!アクアヴィーナス!」
「結局私自身は足手纏いで…桜花姫に守護されてばかりだし…」
アクアヴィーナスは赤面した表情で…。
「人魚王国アクアユートピアに平和が戻ったから…私からの恩返しに今度はショートケーキでも如何かなって…桜花姫は人一倍スイーツが大好きみたいだし…」
「えっ?私にショートケーキですって!?」
ショートケーキの一言に反応したのか桜花姫は大喜びしたのである。
「あんたのショートケーキは本当に美味しかったからね!今度は是非ともショートケーキを食べさせてよ!」
「勿論よ!桜花姫!約束するわ!」
アクアヴィーナスは満面の笑顔で即答する。
完結