桜花姫神話第四部特別編
拠点
特別編
第一話
忍者妖女
世界暦五千二十四年六月中旬の出来事である。最上級妖女の月影桜花姫が天空魔獣の天魔大皇帝を仕留めてから一月が経過した時期…。女性忍者として活躍する。忍者妖女の躑躅姫は東国の山奥に存在する天王山に参上したのである。
『此処が問題の天王山みたいね…』
近頃…。天王山では登山者が山中にて匪賊達に襲撃される大事件が発生したのである。山中に暗躍する。彼等は近隣の村里にも襲撃し始める。匪賊達の襲撃に天王山近隣の村人達は彼等の襲撃に畏怖したのである。
『極悪非道の匪賊達は私が徹底的に仕留めるわよ!』
匪賊達による襲撃事件の噂話を熟知した躑躅姫は匪賊征伐を目的に真夜中の天王山を視察する。
「こんな私だって!」
『世の中の極悪非道の悪人達を仕留めて…最上級妖女の月影桜花姫様みたいに!』
躑躅姫は東国では唯一の女性忍者であり純血の妖女であるが…。人一倍生真面目の性格であり一握りの最上級妖女とされる月影桜花姫を尊敬する一人である。妖女としては中級の実力者であるものの…。もう少しで上級妖女へと到達する領域である。今回の事件発生は躑躅姫にとって大活躍出来る絶好機…。内心では自身の出番が到来したと大喜びだったのである。自宅から移動してより一時間後…。躑躅姫は天王山の天辺に到達したのである。天王山は全体的に物静かであり自然林からは清涼なる風音は勿論…。川音が山中全体に響き渡る。
『天王山は物静かで常日頃の苛立ちが浄化されるわね…』
躑躅姫は天王山の自然に魅了されたものの…。
「えっ?」
数分間が経過すると暗闇の自然林から無数の人気を感じる。
『何かしら?山中から無数の殺気を感じるわね…』
躑躅姫は恐る恐る両目を瞑目させる。
『人数は恐らく十七人程度かしら?即刻片付けないと!』
暗闇の自然林より十数人もの無頼漢達がゾロゾロと出現したのである。
「ん?こんな暗闇の場所に誰かと思いきや…」
「此奴は面白そうだな!忍者の小娘が一人で登山しやがるとは!」
匪賊達は侵入者である躑躅姫を包囲し始める。
「此奴は傑作だぜ!忍者の姉ちゃんは命知らずの小娘だな!」
「こんなにも暗闇の場所に一人で…忍者の姉ちゃんは余程死にたいらしいな!」
「此奴は殺しちまうのは勿体無いぞ!折角の機会だ!小娘を夜遊びの小道具として扱うのも悪くないな!」
彼等は下心が全開であり躑躅姫の出現に大喜びしたのである。
『下劣だわ…登山者達はこんな奴等に惨殺されたのね…』
躑躅姫は彼等を軽蔑する。
「相手が忍者だとしても…所詮は小娘一人だぞ!多勢に無勢だぜ!」
「忍者の姉ちゃんよ!?あんたは多勢に無勢だが如何するかな?」
一方の躑躅姫は険悪化した表情で周囲の無頼漢達を睥睨したのである。
「あんた達が天王山で登山者達を襲撃した極悪非道の匪賊達ね…最近は近隣の村里も襲撃するなんて…」
無頼漢達は躑躅姫の苦言に開き直る。
「俺達が登山者を襲撃したから如何した!?俺達は単純に自分達の領地を防衛しただけだぞ!侵入者を打っ殺すのは当然の正当行為であろう!?」
「近隣の村里を襲撃したのも俺達の領地を守護しただけだからな…」
「俺達は相手が誰であろうと侵入者は確実に打っ殺すからな!相手が無抵抗の赤子であろうと…非力の小娘であっても容赦しないさ!」
開き直った匪賊達は護身用の刀剣を抜刀し始める。
「当然…貴様も侵入者だ!相手が忍者の小娘だからって俺達は容赦しないぞ!」
「覚悟しな!忍者の小娘!」
一方の躑躅姫は愛器である鎖鎌を携帯する。
「天王山があんた達の領地ね…理由が身勝手過ぎるわ…」
躑躅姫は余裕の表情であり匪賊達は彼女の態度に苛立ったのである。
「此奴…気に入らない小娘だな!打っ殺されたいのか!?」
「忍者でも相手は小娘一人!構わん!相手が忍者の小娘だろうと打っ殺せ!」
すると五人の匪賊達が躑躅姫に殺到し始める。
『こんな匪賊程度なら…私一人でも対処出来そうだわ…』
躑躅姫は神速の身動きで護身用の鎖鎌を駆使…。殺到する五人の匪賊達を容易に仕留めたのである。
「ぎゃっ!」
「ぐっ!」
五人の匪賊達は両方の足首を鎖鎌で斬撃され…。彼等は地面に横たわったのである。
「残念だったわね!あんた達程度の実力では私は仕留められないわよ!死なない程度に気絶するだけだから安心なさい…」
躑躅姫の実力に周囲の匪賊達は恐る恐る後退りする。
「ひゃっ!此奴…小柄だが相当の実力者だぞ!」
匪賊達は躑躅姫に畏怖したのである。
「貴様等!狼狽えるな!」
大柄の匪賊が無表情の躑躅姫を睥睨し始める。
「此奴が相当の実力者であっても…所詮相手は忍者の小娘一人だぞ!構わん!忍者の小娘を打っ殺せ!全員で忍者の小娘を袋叩きだ!」
躑躅姫は呆れ果てる。
「はぁ…あんた達は本当に命知らずなのね…」
躑躅姫は不本意であるが感電の妖術を発動…。
『正直こんな奴等を相手に妖術を駆使するのは勿体無いけれど…仕方ないわね!』
鎖鎌を地面に刺突させると地面に不殺生程度の雷撃を流し込ませる。流し込まれた雷撃により周囲の匪賊達は感電したのである。
「ぎゃっ!」
「うわっ!」
周囲の匪賊達は感電の妖術により気絶する。
「匪賊達は気絶したかしら?」
感電の妖術とは第一に体内から発生させた雷撃を鎖鎌に流し込み…。第二に鎖鎌を地面に刺突させる。第三に地面に刺突させた鎖鎌から雷撃を地面に流し込ませる。最終的に相手を感電死させる暗殺系統の広範囲妖術である。大勢の敵対者達に包囲された場合にこそ有用的であり周囲の敵対者達を一網打尽に攻撃出来る。場合によっては攻撃対象である大人数の相手を感電死…。即死させられる。
『匪賊達は全員…気絶したわね…』
躑躅姫は匪賊達が気絶したか一人ずつ確認する。
『大丈夫かしら?』
今回は相手が死なない程度に手加減したのである。
「一先ずは任務完了ね!」
『即刻…東国武士団に報告しましょう!』
躑躅姫は東国へと移動する直前…。
「えっ…」
『今度は何かしら?』
背後より人気を感じる。
『人気だわ?』
躑躅姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。
『人間の僧侶かしら?』
人気の正体とは錫杖を所持した一人の僧侶だったのである。
「誰かと思いきや…貴方は寺院の法師様でしょうか?」
僧侶は躑躅姫の問い掛けに即答する。
「娘さん…私は単なる通りすがり僧侶ですが…如何されましたか?」
「貴方は通りすがりの僧侶ですって?」
「貴女様みたいな容姿端麗の娘さんが…こんなにも真夜中の山中に一人で出掛けられるなんて…ん?」
僧侶は躑躅姫の背後に横たわった状態の匪賊達を直視し始め…。一瞬躑躅姫に警戒するものの躑躅姫の容姿にハッとする。
「貴女様には見覚えが…ひょっとすると貴女様は以前…」
「私の名前は躑躅姫!忍者妖女の躑躅姫ですよ!ひょっとして法師様は…」
躑躅姫も僧侶の容姿を想起したのである。
「貴方は以前…月影桜花姫様と一緒に同行された法師様ですよね?」
すると僧侶は笑顔で名前を名乗り始める。
「私の名前は僧侶の八正道ですよ!貴女様は忍者妖女の躑躅姫様でしたか!」
僧侶の正体は誰であろう八正道だったのである。
「躑躅姫様とは極悪非道の女性の怪物ウィプセラスの事件以来でしたね…貴女様が元気そうで何よりですよ!ウィプセラスは最上級妖女の桜花姫様が妖術で退治されたので一安心ですね!」
「えっ…」
躑躅姫は一瞬戦慄する。躑躅姫が戦慄した理由としては人工性妖女…。ウィプセラスの存在である。当時の被害者である躑躅姫にとってウィプセラスは人生最大級のトラウマでありウィプセラスの名前を想起するだけでも躑躅姫はゾッとし始める。
『ウィプセラスって…』
突如として躑躅姫はソワソワし始めたかと思いきや…。躑躅姫の顔色が悪化し始めたのである。八正道は極度の恐怖心によりソワソワし始める躑躅姫に恐る恐る…。
「大丈夫でしょうか?躑躅姫様?何やら躑躅姫様の顔色が…」
『ひょっとして躑躅姫様はウィプセラスの名前に反応されたのでしょうね…私は無神経過ぎましたね…』
八正道は恐る恐る躑躅姫に謝罪したのである。
「躑躅姫様…不快でしたよね?失礼しました…」
一方の躑躅姫は苦し紛れであるが笑顔で…。
「八正道様…気にしないで下さい…」
「躑躅姫様…」
「私こそ失礼しました…私なら…大丈夫ですから…八正道様…気にしないで!」
躑躅姫は苦し紛れに苦笑いする。
『躑躅姫様…本当に大丈夫でしょうか?』
八正道は躑躅姫の様子を心配したのである。
『躑躅姫様は実際に女人の怪物ウィプセラスによって捕食された一人ですからね…躑躅姫様がウィプセラスを極度に畏怖されるのはこの上なく当然でしょうね…』
八正道は躑躅姫がウィプセラスに畏怖するのは当然であると認識する。すると躑躅姫は恐る恐る八正道に問い掛ける。
「八正道様は如何してこんな暗闇の場所に?」
「私は単純に真夜中の山中で食事を満喫しに出掛けたのですよ…」
「こんなにも真夜中の山中で食事ですか?」
『こんな殺伐とした場所で食事なんて特異的だわ…八正道の趣味なのかしら?』
八正道にとって真夜中の食事は醍醐味であり一日の日課である。躑躅姫は内心八正道の趣味が特異的であると感じる。
「近頃は東国の山奥に匪賊の襲撃が頻発したらしいので彼等の襲撃に警戒したのですが…躑躅姫様が極悪非道の匪賊達を退治されたみたいなので一安心ですよ!」
八正道は匪賊達を征伐した躑躅姫に感謝したのである。
「八正道様!山中の危険は回避出来ましたからね!真夜中の食事なら思う存分に満喫出来ますよ!」
「折角の機会ですし!躑躅姫様も私と一緒に食事しませんか?野外用の土鍋を用意しましたので!躑躅姫様は一仕事されて空腹なのでは?」
八正道は満面の笑顔で躑躅姫に食事を勧誘するのだが…。
「八正道様…今回ばかりは御免なさいね!私は即刻東国の武士団に現状を報告しに移動しなくては!匪賊達の征伐は私の任務なので!」
躑躅姫は残念そうな表情で返答する。
「承知しました!躑躅姫様…極悪非道の匪賊達である彼等を放置し続ければ大変ですからね!」
躑躅姫は神速の身動きで東国へと直行したのである。
「躑躅姫様…」
『如何やら彼女は…人一倍生真面目なのでしょうね!』
八正道は人一倍生真面目の躑躅姫に感心する。翌日の早朝…。天王山の頂上で気絶した匪賊達は東国の武士団によって全員逮捕されたのである。
第二話
歓楽街
天王山での夜戦から二日後の真昼…。忍者妖女の躑躅姫は気分転換に東国中心地の歓楽街にて出歩いたのである。普段は忍者風の服装であるが…。今回は煌びやかな花柄の着物姿であり小町娘同然の容姿である。躑躅姫は歓楽街の大路を通行中…。
「ん!?あんたは可愛らしい姉ちゃんだな!」
躑躅姫は不運にも三人組の無頼漢達に包囲されたのである。
「はっ?あんた達は…何よ?」
無頼漢達との遭遇に躑躅姫は警戒し始め…。
『ひょっとして彼等は破落戸かしら?』
躑躅姫は警戒した様子で三人組の無頼漢達から恐る恐る後退りしたのである。
「小町娘の姉ちゃんよ!あんたって…相当の美人だな!此処で食べちまいたい位可愛らしいな!」
「はっ?突然何よ?食べちゃいたいなんて気味悪いわね…」
一方の躑躅姫は面倒臭そうな態度で返答する。
「俺達と一緒に思う存分一遊びしないか?あんたは容姿端麗で最高だぜ!」
「小町娘のあんたなら大歓迎だよ!」
無頼漢達は躑躅姫との遭遇に上機嫌の様子なのだが…。
『折角の休日なのに最悪だわ…こんな奴等と遭遇するなんて面倒臭いわね…』
躑躅姫は彼等の様子に呆れ果てる。
『如何して私はこんな奴等と遭遇するのかしら?天道の悪ふざけなの?天道の悪ふざけだとしたら相当不愉快だわ…』
躑躅姫は自身が人一倍不運であると感じる。
「はぁ…悪いけど一遊びしたかったら小町娘の私なんかよりも…世間知らずの花魁と一遊びしちゃえば?私は多忙なのよね…」
『こんな奴等と一緒に活動なんて…時間が勿体無いわ…』
一方の無頼漢達は躑躅姫の返答に落胆したのである。
「姉ちゃんは多忙なのか?」
「姉ちゃんが多忙なら仕方ないな…」
直後…。無頼漢達は護身用の小刀を抜刀し始める。
『小刀!?こんな人通りの場所で!?』
躑躅姫は突如として小刀を抜刀し始めた無頼漢達に再度警戒したのである。
「俺達と一遊びしたくなければ大人しく金品を手渡せよ!あんただってこんな場所では死にたくないだろう?」
「俺達に大人しく金品を手渡すなら小町娘のあんたを見逃すぜ!如何するよ?小町娘の姉ちゃん!」
躑躅姫は恐る恐る周囲を警戒する。
『相当理不尽ね…如何しましょう?歓楽街の大路でこんな奴等を相手に私の正体が妖女だって判明すると面倒臭いし…』
躑躅姫は忍者としての仕事柄…。町民達に自身の正体を認知されたくなかったのか妖術の使用に躊躇したのである。
『こんな状況下…私は如何するべきなのかしら?』
躑躅姫は困惑するのだが…。直後である。
「ひっ!」
「うわっ!」
彼等は小刀の異変に驚愕する。
「ひょっとして此奴は妖術なのか!?」
突如として無頼漢達が所持する小刀が瞬間的に冷凍されたのである。
「えっ!?」
『氷結ですって!?一体何が発生したのかしら!?』
突然の超常現象に無頼漢達は勿論…。躑躅姫も驚愕したのである。
『ひょっとして氷結の妖術かしら!?妖女の仕業なのは確実だけれども…一体誰が氷結の妖術を発動したの!?』
近辺で妖女特有の妖力は感じられるものの…。
『術者は?』
躑躅姫は周囲を警戒したのである。
『誰なのか?不明ね…』
氷結の妖術は誰が発動したのかは特定出来ない。無頼漢達は妖術で冷凍された小刀を地面に放棄したのである。
「逃げろ!」
「妖女に打っ殺されちまうぞ!」
彼等は一目散に逃走したのである。
『一体…何が発生したのかしら?摩訶不思議ね…』
「一先ずは…一件落着なのかしら?」
摩訶不思議の出来事であるが躑躅姫は何事も無かった様子で移動を再開し始め…。近場の和菓子屋で休憩する。普段の躑躅姫は和菓子屋の菓子類は食べないが今回は大福を味見したのである。
『和菓子って意外と美味なのね!』
躑躅姫は大福を美味しそうに頬張り続ける。すると直後…。紫色の着物姿の小町娘と水色の着物姿の花魁が躑躅姫の隣席へと着席したのである。
『彼女達…誰かしら?』
躑躅姫は警戒した様子で恐る恐る隣席の二人を確認…。奇妙にも女性達からは摩訶不思議の妖力が感じられる。
「えっ!?」
『彼女達は本物の妖女だわ…如何して妖女がこんな場所に?ひょっとすると先程の氷結の妖術は二人の何方かね…』
躑躅姫は二人の妖女に警戒するものの…。
『危害は無さそうだけど…』
何事も無かった様子で只管緑茶を摂取し続ける。緑茶を全量摂取した数秒後…。
「あんた♪妖女♪大好き♪大好き♪」
突如として紫色の着物姿の小町娘がニコッとした表情で躑躅姫に近寄り始める。小町娘は満面の笑顔で躑躅姫の乳房を弄り始めたのである。
「きゃっ!突然何する。のよ!?あんたは助平なの!?」
躑躅姫は小町娘の突然の行為に驚愕する。すると同行者である花魁の女性が小町娘に注意したのである。
「ウィプセラス!駄目でしょう!あんたは大人しくしなさい!」
「ウィプセラスって…えっ!?」
『如何して彼女が!?』
躑躅姫はウィプセラスの名前に戦慄し始め…。
「はぁ…」
躑躅姫は極度の恐怖心からか気絶したのである。
「あんた!?大丈夫!?確りして!」
突如として気絶した躑躅姫に花魁の女性は勿論…。大勢の客人が床面に横たわった状態の躑躅姫に注視し始める。
「此奴は…大丈夫なのか?」
「確りしろよ!姉ちゃん!大丈夫なのか!?」
「此奴は病気かよ!?」
「突然卒倒しちまったからな!此奴は一大事だぜ!」
躑躅姫の突然の卒倒に店内全体が騒然とする。
第三話
前途多難
躑躅姫が店内で気絶してから一時間後…。
「はぁ…私は…」
和菓子屋で気絶した躑躅姫であるが目覚めたのである。
『此処は?』
周囲を直視すると家屋敷の居室であるのは認識出来る。
「如何やらあんた!目覚めたみたいね!」
「えっ…貴女様は?」
女性は先程和菓子屋で接触した花魁の女性である。
「私の名前は雪美姫!粉雪妖女の雪美姫よ!」
「えっ…粉雪妖女の雪美姫様?貴女はひょっとして月影桜花姫様の親友の!?」
「私が桜花姫の親友なんて…」
『こんな私でも…桜花姫の影響で国全体の有名人なのね!』
桜花姫の影響力であるものの…。雪美姫は国全体の有名人である事実に内心大喜びしたのである。
「雪美姫様?私は一体…如何してこんな場所に?」
躑躅姫は雪美姫に場所を問い掛ける。
「此処は八正道の寺院よ!」
「えっ…此処って八正道様の寺院ですか?」
「あんたはね…一時間前に和菓子屋で気絶しちゃったのよ…突然あんたが卒倒しちゃったから吃驚しちゃったわ…」
「私が和菓子屋で気絶ですか?」
すると躑躅姫は突如としてハッとした表情で警戒し始める。
「雪美姫様!?彼女は!?ウィプセラスは!?」
雪美姫は突然警戒し始めた躑躅姫に吃驚するものの…。
「えっ…ウィプセラスですって?」
雪美姫は気まずくなったのか恐る恐る躑躅姫の背後を指差したのである。
「ウィプセラスなら…あんたの真後ろだけど…」
躑躅姫は雪美姫の発言に一瞬ゾッとする。
「えっ?ウィプセラスが…私の真後ろですと?」
躑躅姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認…。
「ひっ!」
躑躅姫の背後には人工性妖女ウィプセラスが佇立する。
「ウィプセラス!?如何してあんたがこんな場所に!?」
「私♪ウィプセラス♪あんた♪大好き♪大好き♪大好き♪」
ウィプセラスはヘラヘラした様子で躑躅姫に力一杯密着したのである。二人の光景に雪美姫は微笑み始める。
「あんたって余程…ウィプセラスに気に入られちゃったみたいね!非常に微笑ましい光景だわ!」
雪美姫は他人事みたいに発言する。
「雪美姫様!?何が微笑ましい光景ですか!?私は…彼女に食べられちゃいますよ!二度も捕食されたくないです!」
躑躅姫はウィプセラスに対する極度の恐怖心からか全身が膠着化したのである。雪美姫は満面の笑顔で返答する。
「躑躅姫…心配しなくても大丈夫よ!彼女は以前みたいに誰かを捕食しないからさ…安心なさい!」
「えっ…」
躑躅姫は恐る恐るウィプセラスの表情を直視し始め…。
『捕食しないのかしら?』
ウィプセラスからは何一つとして敵意も悪意も感じられない。
「本当に…本当に大丈夫なのですか?本当に彼女は…ウィプセラスは誰かを食べたりしないのですか?」
「今現在のウィプセラスは桜花姫の口寄せの妖術で復活させた傀儡人形みたいな存在だからね!」
「ウィプセラスが傀儡人形みたいな存在ですって?口寄せの妖術ですか?」
今現在存在するウィプセラスは最近桜花姫が自身の気紛れにより口寄せの妖術で復活させた手駒…。正真正銘の傀儡人形である。ウィプセラス自身は生前が純粋無垢の性格であり特段変化らしい変化は何一つとして感じられない。
「ウィプセラスは以前みたいに自分以外の誰かを食い殺したりしないから…躑躅姫が過剰に心配しなくても大丈夫なのよ!」
今現在のウィプセラスは人畜無害であるものの…。
「ですが彼女は…ウィプセラスは以前私を捕食して…」
躑躅姫にとってウィプセラスはトラウマであり恐怖の対象だったのである。
『ウィプセラスが人畜無害でも躑躅姫が過剰に畏怖するのは当然の反応よね…躑躅姫には時間が必要だわ…』
雪美姫は被害者である躑躅姫には時間が必要不可欠であると感じる。
「あんたは♪大好き♪大好き♪大好き♪」
一方のウィプセラスは只管躑躅姫に密着し続ける。
「はぁ…」
『私は今後…如何すれば?』
躑躅姫は今後を不安視したのである。
『前途多難だわ…』
数秒後…。
「皆様方…兎にも角にも私は失礼します…」
すると居室より僧侶の八正道が入室する。
「貴方は…八正道様?」
「躑躅姫様…目覚められたのですね!体調は大丈夫ですか?」
「体調は大丈夫ですよ!八正道様!」
躑躅姫は満面の笑顔で返答したのである。
「大丈夫そうですね!躑躅姫様が無事なので一安心ですよ!」
八正道は躑躅姫の様子にホッとする。
「八正道?桜花姫は?」
雪美姫は恐る恐る八正道に問い掛ける。
「桜花姫様なら早朝に地獄の世界で極悪非道の悪霊を征伐するって…出掛けられたのですが…」
「地獄の世界ですって?地獄の世界って何かしら?」
「正直私にも…何が何やらサッパリですね…」
雪美姫も八正道も近頃の桜花姫の行動には珍紛漢紛だったのである。
「桜花姫様の思考力を理解するには私達では時間が必要ですよ…」
八正道は苦笑いする。
「桜花姫は本当に自由奔放だわ…」
「自由奔放なのは桜花姫様らしいですがね!」
すると躑躅姫は恐る恐る…。
「御免なさい…私は…仕事に戻らないと…」
「えっ?躑躅姫?仕事って何よ?」
問い掛けられた躑躅姫は一瞬睥睨した表情でヘラヘラし続けるウィプセラスをチラ見したのである。
『ウィプセラス…彼女と一緒の空間なんて御免だわ…ウィプセラスと一緒の場所に長居し続けると私自身が可笑しくなりそうだわ…』
躑躅姫は精神的に疲弊した様子でありウィプセラスから逃げたくなる。
「失礼しました…」
躑躅姫はピリピリした様子で退出したのである。
『躑躅姫は不機嫌そうだわ…多分だけどウィプセラスが原因でしょうね…躑躅姫は本当に彼女が苦手なのね…』
雪美姫は躑躅姫の心情を察知する。
第四話
居候
一方の躑躅姫は不機嫌そうな態度で一目散に自身の家屋敷へと戻ったのである。
「はぁ…」
『私は…踏んだり蹴ったりだわ!折角の休日なのに!』
躑躅姫は極度の疲労困憊からか一息する。
『桜花姫様…如何して口寄せの妖術なんかで荒唐無稽のウィプセラスを復活させちゃったのかしら?無責任過ぎるわ…』
内心桜花姫の気紛れの行為に傍迷惑であると感じる。
『ウィプセラス…』
「彼女とは二度と出くわしたくないわね…」
居室へと移動した直後…。
「えっ!?あんたは!?」
家屋敷の居室には先程遭遇したウィプセラスが佇立する。
「あんたは♪大好き♪大好き♪大好き♪」
ウィプセラスはヘラヘラした様子で只管に躑躅姫が大好きであると連呼し続ける。
「えっ!?ウィプセラス!?如何してあんたが私の家屋敷に!?ウィプセラスは先回りしたの!?」
躑躅姫は恐る恐る後退りするのだが…。
「あんた♪妖女♪大好き♪大好き♪大好き♪」
ウィプセラスは力一杯躑躅姫に密着したのである。
「きゃっ!」
ウィプセラスは小柄の可愛らしい外見とは裏腹に…。
『彼女…相当の金剛力だわ…本当に妖女なの!?』
意外と怪力なのか躑躅姫は必死に振り解こうにも振り解けない。
「ぐっ!」
『私って…彼女からは逃げられない運命なのね…』
躑躅姫は観念する。
「あんたが私を大好きなのは理解したから…好い加減私を解放してよ!」
「私♪あんた♪大好き♪大好き♪」
ウィプセラスは満面の笑顔で躑躅姫を解放したのである。
「あんたは…何が目的なのよ!?如何して私に付き纏うのよ!?あんたは好い加減鬱陶しいのよ!」
「あんた♪大好き♪あんた♪大好き♪大好き♪」
躑躅姫は真剣の表情で問い掛けるのだが…。ウィプセラスはヘラヘラした様子で只管に大好きと連呼し続ける。
『此奴!腹立たしいわね!何が大好きよ…』
ウィプセラスは満面の笑顔で只管ヘラヘラし続けるものの…。一方の躑躅姫はウィプセラスの態度に苛立った様子でありピリピリし始める。すると直後である。
「失礼するわよ!躑躅姫!」
玄関より粉雪妖女の雪美姫が満面の笑顔で訪問する。
「貴女は雪美姫様…」
「御免あそばせ!躑躅姫!あんたが帰宅してからウィプセラスが脱走しちゃったのよ…あんたの家屋敷からウィプセラスの妖力を察知したのよね!」
躑躅姫が一目散に帰宅後…。何時の間にかウィプセラスは八正道の寺院から脱走したのである。
「ウィプセラスは居室ね…」
雪美姫は家屋敷の居室へと移動する。
「ウィプセラス!好い加減八正道の寺院に戻りなさい!寺院に戻らないと今度も桜花姫に食べられちゃうわよ!あんたは二度も桜花姫に食べられたいのかしら?」
「えっ…桜花姫…桜花姫…」
突如としてウィプセラスはビクッと反応したかと思いきや…。神速の身動きで躑躅姫の真後ろへと隠れ始める。普段はニコニコとした満面の笑顔でありヘラヘラし続けるウィプセラスであるが…。雪美姫に畏怖し始める。
「えっ!?ウィプセラス!?」
今回のウィプセラスは非常にビクビクした様子だったのである。一方の躑躅姫はウィプセラスの様子に愕然とする。
『ウィプセラスでも恐怖心でビクビクするのね…ひょっとすると桜花姫様がウィプセラスの弱点なのかしら?』
躑躅姫は極度の恐怖心によってビクビクし始めた表情のウィプセラスに正直意外であると感じる。
「あんたね…」
『本当…ウィプセラスは子供みたいで単純だわ…』
雪美姫は子供みたいな様子のウィプセラスに呆れ果てる。
「私…寺院なんか…戻りたくない…戻りたくない…戻りたくない…」
「ウィプセラス…」
『気の毒ね…』
躑躅姫は只管戻りたくないと連呼し続けるウィプセラスに感情移入したのかウィプセラスを気の毒に感じる。躑躅姫は恐る恐る…。
「ウィプセラス?あんたは…本当に八正道様の寺院には戻りたくないの?」
「戻りたくない!絶対!寺院!戻りたくない!あんたと一緒!あんたと一緒!私!あんたと一緒!寺院!戻らない!絶対!絶対!」
ウィプセラスは躑躅姫の問い掛けに即答したのである。
「ウィプセラス…」
『彼女の表情…本当に寺院には戻りたくないみたいね…』
躑躅姫は不本意であるが…。
「ウィプセラス?あんたは私と一緒に…居候したいの?」
ウィプセラスは躑躅姫の居候の一言に反応したのか再度ニコッとした表情で返答したのである。
「居候したい♪居候したい♪あんた♪あんた♪大好き♪大好き♪」
「はぁ…」
躑躅姫は再度一息する。
『止むを得ないわね…』
躑躅姫は不本意であるが…。
『生憎彼女に悪気は無さそうだし…仕方ないわね…』
ウィプセラスとの居候生活を決意する。
「御免なさいね…雪美姫様…私は彼女と居候します…」
「えっ!?あんた…本気なのかしら!?」
雪美姫は躑躅姫の突発的発言に拍子抜けしたのである。
「躑躅姫?あんたは本当に大丈夫なの?相手は桜花姫よりも食いしん坊のウィプセラスなのよ?無理しないでね…」
雪美姫は躑躅姫が正気なのか心配する。
「私なら大丈夫ですよ!雪美姫様!」
『如何やらウィプセラスは桜花姫様が弱点みたいだし!』
躑躅姫はウィプセラスの弱点を熟知すると満面の笑顔で返答したのである。
「躑躅姫…」
『人一倍ウィプセラスを毛嫌いし続けた躑躅姫がね…こんなにも彼女の心境が変化するなんて意外だったわ!』
躑躅姫の心境の変化に絶句した雪美姫だが…。
「ウィプセラスとの居候生活は大変かも知れないけれど…頑張ってね!私はあんたを応援するわよ!躑躅姫!今後ウィプセラス関連で問題が発生したら遠慮せず私か桜花姫に相談しなさいね!」
「感謝します!雪美姫様!問題が発生したら逸早く相談しますので!」
「今回の一件は八正道に報告するからね!」
雪美姫は再度八正道の寺院へと戻ったのである。雪美姫が戻った直後…。
「私♪あんたと居候♪居候♪居候♪」
躑躅姫との居候生活にウィプセラスは大喜びしたのである。
「ウィプセラス?」
すると躑躅姫は恐る恐る…。
「此処で私と居候したいなら絶対条件として…金輪際誰かを食い殺したりしないのよ!絶対に約束出来るわよね?ウィプセラス?約束は厳守よ!」
「私♪誰も♪食べない♪食べない♪大丈夫♪大丈夫♪私♪約束する♪約束する♪」
ウィプセラスは満面の笑顔で即答する。
「私の名前は忍者妖女の躑躅姫よ…」
躑躅姫はウィプセラスに自身の名前を名乗ったのである。
「躑躅姫♪躑躅姫♪大好き♪大好き♪大好き♪」
躑躅姫は僅少であるが…。
『ウィプセラス…最初は食いしん坊だけの怪物って認識だったけれど…意外と人懐っこい性格なのね…』
ウィプセラスに対する認識が変化したのである。人一倍無邪気で人懐っこいウィプセラスの様子に微笑み始める。
『ウィプセラスが人畜無害なのは本当っぽいわね…やっぱり私は彼女を過剰に畏怖し過ぎたみたいね…』
躑躅姫はウィプセラスが人畜無害であると認識出来…。一安心したのである。
第五話
黒服
躑躅姫とウィプセラスが居候生活を開始してから六日後…。真夜中の出来事である。一人の村里の少女が南国の山道を移動する。
「はぁ…はぁ…」
『真夜中の山道は悪霊が出現しそうで気味悪いわね…』
少女は松茸採取からの帰宅中であり大急ぎで暗闇の山道を移動したのである。
『今日はこんなにも大量の松茸を採取出来たからね!』
少女は父親と母親が大喜びする表情にワクワクし始める。
『父ちゃんも母ちゃんも大喜びするかな!?』
少女はワクワクした様子で真夜中の山道を移動中…。
「えっ…」
『気味悪いな…こんな真夜中に誰だろう?』
目前より二人の黒服の大男達と遭遇したのである。
『男の人達が…二人?彼等は匪賊なのかな?』
大男達の様子に奇妙であると感じるのか少女は恐る恐る素通りするものの…。
「小娘…其方は?」
黒服の大男に問い掛けられる。
「えっ!?」
少女はビクッと反応し始める。
「何ですか?私に用事ですか?」
少女は警戒した様子で恐る恐る背後を直視したのである。
「こんな真夜中に貴様みたいなひ弱の小娘が一人で出歩くとは…其方は余程危機感が皆無なのだな…其方みたいな小娘は山中の野良犬に食い殺されるぞ…」
一人の黒服の大男は少女に警告する。
『匪賊っぽくないけれど面倒臭そうな奴等だわ…如何しましょう?』
少女は彼等の様子に恐る恐る警戒したのである。
「小娘は…こんな真夜中に神出鬼没の悪霊にでも遭遇したいのかな?」
「悪霊ですって?」
少女は悪霊の一言に再度反応する。
『悪霊って不寝番の月影桜花姫様が退治したらしいし出現しないわよね?』
最上級妖女の桜花姫が邪霊餓狼を退治した噂話は各地の村里で出回り始め…。神出鬼没の悪霊が俗界に出現しない事実は誰しもが周知したのである。
「暗闇の真夜中だからな…神出鬼没の悪霊が出現するかも知れないのだぞ!」
正直面倒に感じるのか少女は恐る恐る返答する。
「失礼ですが…私は帰宅中です…自宅に戻らないと両親が心配するので…」
少女は家屋敷に戻ろうと思いきや…。
「であれば仕方ないな…」
一人の黒服の大男が護身用の連発銃を携帯したのである。
「ひゃっ!」
『拳銃!?本物なの!?』
少女は連発銃に恐怖…。全身が身震いしたのである。
「こんな時間帯に夜遊びする小娘は世の中に不要なのだ!其方は救済の女神様…姫神様の人柱として救済の姫神様に生命力を授与するべきなのだよ!」
黒服の大男は少女の左側の脚部を狙撃…。
「ぎゃっ!」
銃弾により脚部を狙撃された少女は地面に横たわったのである。
「ぐっ…」
『如何してこんな…』
左側の脚部からは大量の鮮血が流れ出る。
『父ちゃん…母ちゃん…私は…死にたくないよ…』
意識が朦朧としたのか少女は意識が遠退いたのである。
「小娘は気絶したみたいだな…」
「小娘なら姫神様の人柱として利用出来そうだな!本拠地に戻ろうぜ!」
「嗚呼!戻ろう!戻ろう!人柱を入手出来たのは大収穫だったな!」
二人の黒服の大男達は気絶した少女をとある場所へと連行する。近頃…。各地の村里で若齢の村娘が何者かによって連行される誘拐事件が多数発生したのである。誘拐事件の頻発により各地の村里では若齢の女性は出歩けなくなる。
第六話
合同調査
連続誘拐事件発生から五日後…。東国の中心街では忍者妖女の躑躅姫が和菓子屋にて大福と三色団子を鱈腹頬張る。
「三食団子…美味だわ!」
『和菓子って意外と最高ね!』
躑躅姫は美味しそうに和菓子を頬張り続ける。
「如何やら元気そうね…躑躅姫!」
躑躅姫の隣席にて粉雪妖女の雪美姫が同席したのである。
「貴女様は粉雪妖女の雪美姫様!?如何して雪美姫様がこんな場所に!?」
突然の雪美姫の出現に躑躅姫は驚愕する。
「暇潰しよ!暇潰し!近頃は不寝番の桜花姫も不在だし面白くないのよね…」
「桜花姫様が不在なんて…」
『ひょっとして桜花姫様は常日頃から大忙しなのかしら?不寝番は諜報活動よりも大変なのね…』
最上級妖女の桜花姫は近頃…。地獄の世界での悪霊征伐に無我夢中であり俗界では不在中だったのである。
「最近は不寝番の桜花姫も留守中だし退屈だからね…暇潰しに面白そうな大事件でも発生しないかしら?」
雪美姫は最上級妖女の桜花姫に影響されたのか武陵桃源の日常生活が退屈に感じ始める。すると躑躅姫は恐る恐る…。
「ですが雪美姫様?近頃は各地の村里で若齢の女性の行方不明事件が頻発したみたいですよ…」
「行方不明事件ですって?」
雪美姫はニコッと微笑み始める。
『大事件かしら?面白そうね!』
雪美姫は各地の村娘の行方不明事件に内心ワクワクしたのである。
「躑躅姫…折角の機会だし!」
雪美姫はニヤッとした表情で…。
「雪美姫様?」
『雪美姫様の表情…一体何かしら?』
躑躅姫は雪美姫の表情に動揺し始める。
「私達二人だけで村娘の行方不明事件を合同調査しましょうよ!今回の大事件は非常に面白そうだわ!」
今回発生した村娘の行方不明事件は最上級妖女の桜花姫も不在である。雪美姫は自分達で大事件を解決出来る絶好機であると思考する。
『別に面白くないけれど…雪美姫様にとって大事件は面白いのかしら?』
雪美姫は久方振りの大事件にワクワクした様子であるものの…。一方の躑躅姫は内心苦笑いしたのである。
「幸運にも今回の行方不明事件は面倒臭い桜花姫も不在中だからね!今回は私達だけで大事件を解決させちゃいましょうよ!」
「私達だけで大事件の調査ですね…」
躑躅姫は一瞬沈黙するものの…。
「雪美姫様…承知しました!私は事件の調査に協力しますよ!」
『正直行方不明者の女性達の居場所も気になるし…今回は好都合だわ…』
躑躅姫は行方不明事件の合同調査に承諾したのである。
「躑躅姫…如何やら交渉成立ね!今回はあんたの協力が必要不可欠だからね…」
「行方不明者の女性達の居場所を調査したいですからね…」
二人は合同調査に一致団結…。
「行動開始は今夜よ!場所は南国の農村地帯ね!」
「承知しました…雪美姫様…」
躑躅姫は雪美姫の指示に承諾したのである。
第七話
追跡
当日の真夜中に雪美姫と躑躅姫は南国の村里に存在する農村地帯で集合する。
「雪美姫様!」
「躑躅姫…今夜は普段着なのね!」
今回の躑躅姫は仕事用の正装ではなく普段着である朱色の着物姿だったのである。
「本日は私自身の自発的行動ですからね!普段の仕事とは別ですよ…」
集合した彼女達であるが…。突如として別物の気配を感じる。
「ん?誰かしら?」
「雪美姫様も感じられるのですか?」
「複数の妖力だわ…気配の正体は妖女ね…」
「私達以外の妖女ですか…」
複数の妖力は一歩ずつ彼女達に接近し続ける。
「はぁ…」
躑躅姫は妖力の正体を察知したのである。
『誰かと思いきや…』
躑躅姫は警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。
「ウィプセラス…あんただったのね…」
「躑躅姫♪躑躅姫♪躑躅姫♪」
複数の妖力の正体とは誰であろう人工性妖女のウィプセラスだったのである。
「ウィプセラスは居室で熟睡中だったのに…私を追尾したのね…」
『甘えん坊のウィプセラスらしいけれど…』
自宅の居室で熟睡中だったウィプセラスであるが…。外出中の躑躅姫の背後を追尾したのである。
「躑躅姫♪躑躅姫♪躑躅姫♪躑躅姫♪」
ウィプセラスはヘラヘラした様子で躑躅姫の腹部に力一杯密着し始める。
「はぁ…」
『ウィプセラスは…』
躑躅姫は気配の正体にホッとした反面…。甘えん坊のウィプセラスに呆れ果てる。
「ウィプセラスって本当に甘えん坊の子供みたいね…」
ウィプセラスの様子に雪美姫は苦笑いしたのである。
「今回は仕方ないわね…ウィプセラス…」
すると躑躅姫は恐る恐る指摘する。
「ウィプセラス…今回は大事件の行方不明者達の調査だから大人しくしなさいね…絶対に約束出来るわよね?約束は厳守よ!」
「躑躅姫♪躑躅姫♪大丈夫♪大丈夫♪約束する♪約束する♪」
ウィプセラスは満面の笑顔で大丈夫だと返答したのである。
『ウィプセラス…本当に大丈夫なのかしら?正直不安だわ…』
躑躅姫は大はしゃぎし続けるウィプセラスの様子から内心不安に感じる。
「ですが雪美姫様?大事件を解決するとしても…何も情報源が無ければ行動は出来ません…如何しましょう?」
「本当よね…」
躑躅姫と雪美姫は苦悩したのである。
「如何するべきなのかしら?」
『こんな場合こそ…最上級妖女の桜花姫の協力が必要不可欠なのよね…』
雪美姫は内心桜花姫が非常に有能であったかを実感する。すると直後である。
「えっ?」
「如何されましたか?雪美姫様?」
雪美姫は恐る恐る遠方を指差したのである。
「彼等は?」
自分達の現在地から数キロメートルもの長距離に位置する村道にて数人の黒服の人物達を発見する。
「雪美姫様…彼等は黒服の集団でしょうか?彼等は一体何を?」
「こんな真夜中に行動するなんて非常に不自然ね…」
『服装も異質的だわ…胡散臭そうな宗教団体っぽいのは確実かしら?』
彼等は全身をフードで覆い隠した状態であり非常に異質的だったのである。雪美姫は彼等が宗教団体の人員であると予測する。
「雪美姫様?如何されますか?」
「彼等の動向…気になるわね!」
躑躅姫が恐る恐る問い掛けると雪美姫はニヤッと冷笑したのである。
「躑躅姫とウィプセラス!彼等を追跡しましょう!」
「えっ…大丈夫でしょうか?雪美姫様?」
躑躅姫は大丈夫なのか不安がる。
「追跡♪追跡♪面白そう♪面白そう♪面白そう♪」
ウィプセラスは心配性の躑躅姫とは正反対に大喜びだったのである。
「躑躅姫…如何やらウィプセラスは大賛成みたいよ!」
躑躅姫は恐る恐る返答する。
「ですが雪美姫様?下手に行動すると非常に面倒ですし…如何しましょうか?何一つとして証拠が無ければ彼等には手出し出来ませんし…何よりも私は雲隠れの妖術は使用出来ませんよ…」
「躑躅姫…あんたって本職が正規の諜報員なのに雲隠れの妖術が使用出来ないなんて意外よね…」
躑躅姫は列記とした忍者妖女であるが…。隠密系統の雲隠れの妖術は使用出来ない。するとウィプセラスが全身の肉体を透明化させたのである。
「えっ!?ウィプセラス!?」
「如何やらウィプセラスは雲隠れの妖術を駆使出来るのね!好都合だわ!」
数秒後…。ウィプセラスは雲隠れの妖術を解除する。
「大丈夫♪大丈夫♪大丈夫♪雲隠れ♪雲隠れ♪」
ウィプセラスは躑躅姫の左手に接触し始め…。雲隠れの妖術を駆使すると二人の姿形が透明化したのである。
「躑躅姫も姿形が透明化したわね!」
『透明化したウィプセラスに接触すれば私自身も透明化出来そうね!』
雪美姫も恐る恐るウィプセラスの肉体に接触し始め…。雪美姫も躑躅姫とウィプセラス同様に姿形が透明化したのである。
「私も透明化に成功したいみたいね!今度は私が瞬間移動の妖術を発動するわね!」
雪美姫は瞬間移動の妖術を発動…。彼女達三人は黒服の人物達の背後へと一瞬で移動したのである。
「瞬間移動の妖術…成功ね!」
黒服の人物達は雪美姫の美声に反応したのか背後を直視する。
「ん!?誰だ!?えっ!?」
彼等は警戒した様子で恐る恐る背後を確認するのだが…。
「誰も…」
彼等の背後には何も存在しない。
「先程の美声は一体何だったのか?」
「女子みたいだったが…俺達の…空耳だったのか?」
すると一人の男性が身震いしたのである。
「ひょっとして女人の悪霊が出現したとか?」
「馬鹿者が!今時悪霊なんて存在するかよ!所詮悪霊なんて子供騙しだろうに…恐らく常日頃の疲労の所為だろうぜ!先程の美声は単なる空耳だろうよ!」
「はぁ…空耳だったか…人騒がせだな…」
「吃驚したよ…気味悪いし本拠地に戻ろうぜ!」
「嗚呼!戻ろうか!」
彼等は再度歩き始める。すると雪美姫は苦笑いしたのである。恐る恐る小声で…。
「二人とも…御免あそばせ…」
「雪美姫様…」
二人に謝罪する雪美姫に躑躅姫は小声で返答したのである。
「私…一瞬心臓が急停止しちゃうかと…」
「御免!御免!今度は注意するからね!」
躑躅姫は恐る恐る…。
「ですが彼等は…本拠地って…」
躑躅姫は先程の黒服の人物達の発言が気になる。
「如何やら彼等はとある秘密組織の構成員っぽいわね!二人とも彼等の追尾を続行しましょう!」
彼女達は再度黒服の人物達を追跡したのである。彼等の追跡から数十分後…。村里の中心地に位置する楼閣へと到達したのである。躑躅姫は恐る恐る小声で…。
「楼閣みたいですね…」
「如何やら此処が奴等の本拠地みたいだわ…」
楼閣の表門には六人の黒服の集団がヒソヒソと私語する。
「今回で人柱は人数分回収出来たからな!」
「人柱の生命力を授与出来れば…今度こそ本物の姫神様が俗界に誕生するな!」
躑躅姫と雪美姫は姫神の一言に反応したのである。
「姫神様ですって?」
「姫神様って…一体何かしら?」
すると小柄の黒服の男性がヘラヘラした様子で…。
「今年の四月下旬の出来事らしいが…北国の奴等が姫神様の紛い物を誕生させたらしいのだが…当事者達は全員姫神様の紛い物に食い殺されたらしいぞ!」
「姫神様の紛い物は何もかもが中途半端で知力も赤子同然だったらしいからな!」
「姫神様の出来損ないに食い殺されるなんて傑作だぜ!自業自得だよな!」
「東国での大騒ぎは姫神様の紛い物が大暴れした所為だったか…人騒がせだな…」
彼等は冷笑したのである。
『姫神様の紛い物ですって?』
躑躅姫は再度反応する。
『ひょっとして姫神様の紛い物って…』
躑躅姫は恐る恐るウィプセラスを直視したのである。
『ウィプセラス…彼女なのかしら?』
躑躅姫は姫神の紛い物の正体を人工性妖女のウィプセラスであると予想する。
『姫神の紛い物がウィプセラスだとしたら気の毒よね…人間達の都合だけで誕生させたのに制御出来なかったらポイ捨てなんて身勝手過ぎるわ!』
躑躅姫はウィプセラスに同情…。彼等の悪質さに嫌悪したのである。
「結局東国の大騒ぎで姫神様の紛い物は悪霊捕食者の月影桜花姫に退治されたらしいな…紛い物は何もかもが中途半端だった…所詮知力も神通力も赤子同然だから西国の月影桜花姫に仕留められたとしても構わんが…」
彼等にとって人工性妖女ウィプセラスは姫神の紛い物であると認識…。制御不能のウィプセラスが桜花姫に退治されたのは好都合だったのである。
「前回誕生させたのは姫神様の紛い物だったから仕方ないよ…今度こそ俺達は本物の完全無欠の姫神様を誕生させるぞ!」
彼等は本拠地の楼閣へと進入する。黒服集団が楼閣へと進入した数秒後…。ウィプセラスは雲隠れの妖術を解除したのである。躑躅姫は雪美姫に恐る恐る…。
「雪美姫様?」
「何かしら?躑躅姫?」
「先程の彼等の内容…姫神の紛い物って…ウィプセラスでしょうか?」
躑躅姫の問い掛けに雪美姫は恐る恐る返答したのである。
「先程の奴等の内容から判断して…ウィプセラスが姫神の紛い物である可能性は否定出来ないわね…東国での大騒ぎとか…桜花姫が姫神の紛い物を退治したとか…」
真偽こそ不明瞭であるものの…。ウィプセラスは俗界の姫神として誕生する予定だったと推測したのである。
「断言は出来ないけれど…ウィプセラスの正体は恐らく姫神として誕生させられた人工性の妖女だったのね…」
「私♪姫神♪姫神♪姫神♪」
一方の会話の内容が理解出来ないウィプセラスはヘラヘラし始める。
「何方にせよ…奴等が胡散臭そうな宗教団体なのは確実でしょうね…」
「如何するの?躑躅姫?奴等は…徹底的に征伐しちゃう?今回の事件は人間達が相手だし…奴等を攻略するだけなら私達だけでも事足りそうよ…」
躑躅姫は雪美姫の問い掛けに一度一息したのである。
「彼等は極悪非道の悪人達みたいですが殺害は回避したいですね…出来るなら彼等は殺傷せずに拘束するべきかと…」
「極悪非道の悪人達でも殺傷しないなんて…あんたって諜報活動やら暗殺が本職なのに意外と穏健的なのね!最上級妖女の誰かさんとは正反対だわ!」
雪美姫は不殺生の躑躅姫を敵対者であれば徹底的に容赦しない最上級妖女の桜花姫とは正反対であると感じる。
「何よりも彼等からは情報源を収集出来ますからね!悪人達から情報源を掌握すれば私達は東国の武士団に通報するのみです!」
「躑躅姫…あんたは人一倍生真面目ね!最高だわ!」
雪美姫は躑躅姫の様子に微笑み始める。
第八話
人身御供
同時刻…。楼閣の内部では数十人もの黒服の集団が宴会場にて集結する。宴会場の中心部にて黒服集団の教祖らしき人物が周囲の者達を見渡したのである。
「姫神教の崇高なる信者達よ!明日の早朝で本物の…完全無欠の姫神様が此処に生誕されるのだぞ!姫神様が生誕される瞬間を直視せよ!」
姫神教とは桃源郷神国に存在する古代伝統宗教の一種であり姫神教の信者達は虚構の存在である虚構の姫神を信仰する過激派宗教団体…。姫神教団の一派である。
「神聖なる完全無欠の姫神様を俗界に生誕させるには…器物である肉体に六人もの女性達の心臓が必要不可欠なのだ!」
すると別室から六人もの若齢の女性が数人の信者達に連行させられ…。無理矢理に宴会場の中心部へと移動させられる。
「今度は姫神様の本体である器物を用意するのだ!」
数人の信者達は別室から木乃伊状態の超大型蜘蛛の残骸を運び込んだのである。
「なっ!?此奴は…」
「巨大蜘蛛の…死骸!?本物なのか!?」
周囲の信者達は宴会場の中心部に運び込まれた超大型蜘蛛の木乃伊に驚愕し始め…。一瞬畏怖したのである。
「初見の貴様達が驚愕するのも当然であろう!此奴は数年前に武士団によって仕留められた付喪神の一体…所謂小面袋蜘蛛の死骸であるからな!」
小面袋蜘蛛とは造物主として認知される妖星巨木の樹体から誕生した器物の悪霊の一体とされ…。特定の地方では能面の付喪神とも呼称される。妖女界隈では妖術を無力化する天敵として知られる。宴会場に運び込まれたのは数年前に武士団によって退治された個体である。
「能面の付喪神の遺体に六人の人柱の心臓を授与させ!今度こそ完全無欠の姫神様を俗界に生誕させるのだ!」
教祖は護身用の懐刀を携帯する。教祖の懐刀に六人の女性は畏怖したのである。
「ひっ!」
「私達…此処で殺されちゃうの!?」
拘束された彼女達は恐怖心により身震いし始める。すると一人の少女が教祖に泣訴したのである。
「私は…こんな場所で死にたくないよ…父ちゃんと母ちゃんに再会したいよ…」
少女の涙腺から涙が零れ落ちる。
「貴様達は神聖なる姫神様に精選された救世主なのだぞ!今現在でこそ辛苦であるが…貴様達にとっては人生最大の試練である!数十年後には天空世界で両親の霊魂とも再会出来るのだからな…今回は気の毒であるが神聖なる姫神様に貴様達の新鮮なる心臓を授与するのだ!」
教祖の発言に彼女達は絶望したのである。
「今回の儀式で貴様達の霊魂は天空世界で救済されるであろう!」
『所詮貴様等は単なる人身御供なのだ!精一杯恐怖するのだな…』
教祖は心情にて彼女達の様子に冷笑する。
第九話
潜入作戦
教祖が儀式を開始する同時刻…。躑躅姫は笑顔でウィプセラスに指示する。
「ウィプセラス!再度雲隠れの妖術で透明化しなさい!」
「躑躅姫♪躑躅姫♪雲隠れ♪雲隠れ♪雲隠れ♪」
ウィプセラスは大喜びした様子で雲隠れの妖術を発動…。ウィプセラスの姿形が透明化する。
「私達も…」
躑躅姫と雪美姫は透明化したウィプセラスに接触すると姿形も透明化したのである。すると雪美姫が恐る恐る…。
「姿形が透明化しただけでは楼閣には潜入出来ないわよ…如何するのよ?」
「大丈夫♪大丈夫♪大丈夫♪」
ウィプセラスは満面の笑顔で大丈夫であると連呼し続ける。
「大丈夫って…あんたね…」
するとウィプセラスは霊体の妖術を発動…。霊体の妖術とは一時的に実体としての肉体を霊化させる妖術である。霊化された肉体はあらゆる場所を透過出来る。
「えっ!?私達…」
躑躅姫は半透明化した自身の肉体に驚愕し始める。
「ウィプセラスが発動したのは霊体の妖術みたいね…」
オーバーリアクションの躑躅姫とは正反対に雪美姫は冷静だったのである。
「えっ…霊体の妖術ですって!?」
「今現在の私達は本物の幽霊みたいな存在なのよ…」
「えっ!?私達が本物の幽霊ですって!?」
躑躅姫は一時的に霊化した自身の肉体に再度驚愕…。戦慄したのである。
『躑躅姫…先程から反応が大袈裟よね…肉体が霊化したとしても一時的なのに…』
躑躅姫は反応が非常に大袈裟であり雪美姫は苦笑いする。
「躑躅姫…肉体が霊化したとしても数分間が限度だからね…時間が経過すれば元通りの生身の肉体に戻れるから安心なさい…」
「えっ?はぁ…雪美姫様…」
『私達…元通りに戻れるのね…』
躑躅姫は雪美姫の発言にホッとしたのである。
「二人とも…移動するわよ!潜入作戦開始よ!」
彼女達は霊体の妖術で玄関の板戸を突破すると通路へと到達する。雪美姫は恐る恐る背後の躑躅姫とウィプセラスの方向を直視したのである。
「躑躅姫と…ウィプセラス…」
「えっ?雪美姫様…何でしょうか?」
雪美姫は躑躅姫とウィプセラスに指示する。
「大丈夫かも知れないけれど…今後は小声で対応するわよ…此処からは大声では一言も喋らないでね…」
「承知です…雪美姫様…」
「私♪大丈夫♪大丈夫♪大丈夫♪」
躑躅姫とウィプセラスは小声で返答したのである。
「ですが雪美姫様?楼閣の内部は非常に物静かですね…此処からでは人気は感じられません…」
楼閣内部の通路は非常に物静かであり誰一人として人気は感じられない。
「えっ?」
『何かしら?』
十数メートルの距離より板戸が確認出来…。板戸を透過すると三人は宴会場へと到達したのである。
『宴会場かしら?奴等は…こんなにも大勢で一体何を?』
躑躅姫は周囲をキョロキョロさせる。宴会場の内部では数十人もの信者達は勿論…。宴会場の中心部には巨大蜘蛛の残骸と拘束された六人もの少女達が確認出来る。
『彼女達は!?』
躑躅姫は衝撃の光景に口走りそうになるものの…。
「躑躅姫…」
「えっ…」
「無口よ…」
躑躅姫は一瞬口走りそうになるも雪美姫に制止される。
「失礼しました…雪美姫様…」
今現在の彼女達三人は雲隠れの妖術と霊体の妖術の混成で本物の幽霊同然である。誰一人として彼女達の姿形は確認出来ず…。霊体状態の彼女達の気配も察知出来ない。躑躅姫は恐る恐る小声で発言する。
「宴会場の中心部に…規格外の巨大蜘蛛の死骸でしょうか?」
雪美姫は小声で発言し始める。
「恐らく数年前に退治された小面袋蜘蛛の死骸みたいね…」
「小面袋蜘蛛とは器物の悪霊でしたね…」
「別名…能面の付喪神だったかしら?恐らく彼等は小面袋蜘蛛の死骸と人間の少女達を利用した禁断の儀式を実行するみたいだわ…」
「禁断の儀式ですって?」
『禁断の儀式って…彼等は一体何を実行するのかしら?』
躑躅姫と雪美姫は彼等の動向を注意深く警戒する。すると中心部の教祖が護身用の懐刀を携帯したのである。
「か弱き女子達よ!貴様達は神聖なる姫神様の生誕として生身の心臓を授与するのだ!貴様達の六人の犠牲によって経世済民の世の中が実現するのだぞ!」
教祖は懐刀を一人の少女に近付ける。
「ひっ!」
少女は恐怖心により落涙したのである。
「手始めに其方からだ!覚悟するのだぞ!」
教祖が少女を斬殺する直前…。躑躅姫は大声で制止したのである。
「駄目よ!絶対に!」
躑躅姫の大声により一時的に室内全体が静止する。
「ん!?先程の大声は…一体誰だ!?」
同時にウィプセラスの妖術が解除され…。三人の姿形が実体化したのである。
「なっ!?貴様達は一体何者だ!?突然出現するとは…妖怪なのか!?」
「貴様達は女子に変化した物の怪なのか!?」
「女子の侵入者だぞ!三人とも捕獲しろ!」
突然の彼女達の出現に周囲の信者達は勿論…。
「えっ…彼女達は?」
「彼女達は一体何者なのかしら?突然出現するなんて…」
人柱の少女達も突如として出現し始めた彼女達に驚愕したのである。躑躅姫は険悪化した表情で教祖を睥睨し始める。
「あんた達!無抵抗の女の子達に手出しするなんて最低ね!」
教祖は躑躅姫の発言に腹立たしくなり部外者である彼女達に怒号したのである。
「貴様達は極悪非道の妖女だな!神聖なる姫神様の神聖なる儀式を妨害するとは…言語道断だ!」
躑躅姫は怒号し続ける教祖に呆れ果てたものの…。
「何が神聖なる儀式よ!あんた達の愚行は単なる人殺しでしょうが!」
躑躅姫は教祖の発言に反論したのである。
「なっ!?私達の神聖なる儀式が単なる人殺しだと?」
『所詮無神論者の分際で…小娘風情が!』
教祖は躑躅姫の反論に腹立たしくなる。
「全知全能なる姫神様を信仰する私達が…単なる人殺しであると!?非常に滑稽であり…非常に不愉快だな!」
教祖は背後の少女達を直視し始める。
「彼女達六人の犠牲だけで俗界に存在する数百万人…数千万人もの人間達が神聖なる姫神様の神通力によって無条件に救済されるのだぞ!神聖なる姫神様の生誕こそが新世界の真理!無論全知全能の超越的存在であり…温厚篤実の姫神様にとって無神論者である貴様達でさえも救済の対象者なのだ!此処で死にたくなければ…即刻帰宅するのだな!無神論者の貴様達とてこんな場所では死にたくないのだろう?」
すると雪美姫が満面の笑顔で返答する。
「帰宅するなら狂信者のあんた達を徹底的に拘束してから帰宅するわね!何が全知全能の姫神様よ!所詮姫神なんて虚構の存在でしょうに…」
雪美姫は姫神が虚構の存在であると揶揄したのである。
「貴様等…虚構の存在であると!?無神論者の分際で神聖なる姫神様を愚弄するとは命知らずの愚か者達だな!」
『神聖なる姫神様を愚弄するとは不届きな奴等だ!』
姫神の存在を全否定された教祖は周囲の信者達に指示し始める。
「姫神教の崇高なる信者達よ!神聖なる姫神様の存在を侮辱する不届きな三人の無神論者達を徹底的に殺害するのだ!物の怪である彼女達を此処で処刑せよ!」
「はっ!承知しました!教祖様!」
「神聖なる姫神様を愚弄する不届きな無神論者達は許容出来ません!」
教祖の指示に信者達は拳銃やら懐刀を装備したのである。信者達の様子に雪美姫はワクワクし始める。
「躑躅姫とウィプセラス♪如何やら奴等は本気みたいだけれど♪如何するの?」
「止むを得ませんね!雪美姫様!ウィプセラス!」
躑躅姫は着物に隠し持った鎖鎌を装備したのである。
「朱色の着物姿の妖女は女性忍者だったか!」
「相手は多勢に無勢だぞ!三人の妖女を殺害しろ!」
信者達は彼女達三人に殺到するものの…。
「人間のあんた達が私達に手出しするなんて無謀ね…」
雪美姫は凍結の妖術を発動する。
「なっ!?俺達の両足が!?」
雪美姫の凍結の妖術により前方の信者達の両足が凍結化したのである。
「凍結だと!?」
「妖術なのか!?身動き出来ないぞ!」
雪美姫は満面の笑顔で警告する。
「あんた達…無理矢理に身動きすれば両足が切断しちゃうかも知れないわよ♪両足が凍結した状態だからね♪」
雪美姫の警告に信者達は畏怖したのである。
「ひっ!」
「両足が…切断だって!?」
氷結の妖術により彼等は下手に身動き出来なくなる。一方躑躅姫はウィプセラスに妖術の使用を指示したのである。
「ウィプセラス!妖術は許可するけれど…彼等は殺さない程度に手加減するのよ!捕食も厳禁よ!」
「大丈夫♪大丈夫♪躑躅姫♪躑躅姫♪私♪人間♪殺さない♪殺さない♪殺さない♪」
ウィプセラスは躑躅姫の指示にヘラヘラした表情で理解…。承諾する。
「死滅しやがれ!妖女の無神論者達!」
連発銃を装備した数人の信者達がウィプセラスと躑躅姫に発砲したのである。ウィプセラスは即座に両腕から無数の触手を生成し始め…。触手の表面を硬化させると肉塊の鉄壁を形成したのである。ウィプセラスの肉塊の鉄壁は非常に頑丈であり連発銃の銃弾が無力化される。
「銃弾を無力化するなんて…」
「紫色の着物の妖女…女体の怪物なのか!?」
すると直後である。
「ん?」
「えっ…」
突如として信者達の肉体から赤子らしき肉塊が発生したかと思いきや…。
「うわっ!此奴は赤子だ!?」
「なっ!?此奴は一体!?」
「此奴は…赤子の妖怪なのか!?」
突如として発生した赤子らしき肉塊は数秒間で全裸の女体へと急成長したのである。
「えっ!?今度は女体だと!?」
女体はウィプセラスに瓜二つの成人女性へと爆発的に急成長する。ウィプセラスに瓜二つの女体の大群は周囲の各信者達に力一杯密着…。一方密着された信者達は必死に振り解こうと抵抗するのだが彼女達の力量は人外だったのである。
「あんた♪大好き♪大好き♪大好き♪」
彼女達はヘラヘラした表情であり非常に力強く人間の成人男性をも上回る。
「えっ…精気が…」
「体力が…」
信者達はウィプセラスと瓜二つの彼女達に精気を吸収されたのである。
「はぁ…正直…天国みたいだな…」
「此奴は…女体の…天国なのかな?」
一部の信者は全裸の女体に悩殺され大喜びの様子であるが…。彼等は精気を有りっ丈吸収された影響からかバタバタッと床面に横たわり始める。
「えっ…」
『ウィプセラス…』
「芸術的光景ね…」
『別の意味で壮絶過ぎるわ…』
前代未聞の光景に躑躅姫と雪美姫は勿論…。
「彼女達…妖怪なの?」
「気味悪いね…」
拘束された六人の村娘もウィプセラスによる分裂女体の異様の光景にはドン引きしたのである。
「ウィプセラスは胞子の妖術を発動して…無数の分裂女体を誕生させたのね…」
「分裂女体?胞子の妖術って何ですか?」
雪美姫が再度解説する。
「胞子の妖術はね…」
胞子の妖術とは人工性妖女ウィプセラス特有の特殊能力であり異類系統の妖術である。全身から極小サイズの肉塊を胞子状態で大量発生…。相手の肉体に固着させウィプセラスの分身体である分裂女体を無数に誕生させる特異的妖術である。母体であるウィプセラスの肉体から発生した極小サイズの肉塊は通常の肉眼では認識出来ない。極小サイズの肉塊は大気中の酸素を吸収すると数分間で赤子状態に形成され…。数秒間で等身大の成人女性の状態へと爆発的に急成長させる。分裂女体の肉体に接触した対象者は数十秒間で体内の精気を吸収され…。長時間分裂女体に密着し続けられると最終的には衰弱死する。
「胞子の妖術はウィプセラスらしい禁断の妖術ですが…異様の光景ですね…」
「前代未聞の妖術だからね…」
躑躅姫と雪美姫は全裸の状態で床面に横たわる信者達に密着し続けた無数の分裂女体に苦笑いしたのである。ウィプセラスは胞子の妖術を強制的に解除…。無数の分裂女体は白煙に覆い包まれる。信者達を衰弱死させる寸前にポンッと消滅したのである。衰弱化した信者達の様子に教祖は勿論…。拘束された村娘達は愕然としたのである。
「一体何が…何もかもが荒唐無稽過ぎる…」
『如何してこんな展開に!?』
教祖は彼女達の妖術に絶望したのか姫神生誕の主目的は達成出来ないと判断…。
「畜生が!」
『一か八か此処から脱出しなくては!』
教祖は一目散に宴会場から逃走を開始したのである。
「躑躅姫!教祖が逃げちゃうわ!」
「一寸!あんた!絶対に逃がさないわよ!」
躑躅姫は逃走中の教祖に鎖鎌を投擲…。
「ぐっ!畜生が!」
間一髪逃走中の教祖を拘束したのである。三人の妖女は拘束により身動き出来なくなった教祖に近寄る。
「あんたね!好い加減観念しなさい!」
すると雪美姫は満面の笑顔で…。
「残念だったわね!姫神教の教祖様!私達の介入であんたが信仰する完全無欠の姫神様は未来永劫誕生出来なくなったのよ…所詮姫神なんて虚構の夢物語だったわね!」
「畜生が!こんな小娘の無神論者達に…姫神様の誕生が阻止されるなんて!」
「無神論者って…鬱陶しいからあんたは沈黙しなさいよ!」
雪美姫は睡眠の妖術で教祖を一時的に睡眠させたのである。一方の躑躅姫は拘束された村娘達に近寄り始め…。
「あんた達…大丈夫だからね!」
「感謝します…」
「私達…本当に殺されちゃうかと…」
「私達は…村里に戻れるのね…」
彼女達は余程恐怖したのか涙腺から涙が零れ落ちる。
「大丈夫よ…あんた達は大丈夫だからね…」
すると一人の少女が恐る恐る…。
「ひょっとして貴方達は…本物の妖女ですか?」
「私達は正真正銘…人外の妖女よ!」
問い掛けられた躑躅姫は笑顔で返答したのである。
「正真正銘妖女でしたか!私…本物の妖女と遭遇したかったのです!」
少女は彼女達との遭遇に大喜びする。一方の雪美姫は満面の笑顔で…。
「あんた達…今回遭遇した妖女が私達みたいな女神様で幸運だったわね!世の中には妖女は妖女でも…月影桜花姫って人一倍強欲で鬼神みたいな無慈悲の女狐も存在するから用心するのよ!彼女は本物の猛者だから気に入らなければね…あんた達みたいな気弱そうな小娘なんて簡単に食い殺されるでしょうね!」
「えっ…」
『雪美姫様…』
躑躅姫は雪美姫の本音に苦笑いし始める。
『桜花姫様を鬼神の女狐って…桜花姫様に知られちゃったら…』
すると直後である。突如として天上から金属製の洗面器が落下し始め…。洗面器は雪美姫の頭頂部に直撃したのである。
「ぎゃっ!」
洗面器の直撃と同時に雪美姫は床面に横たわる。
「えっ!?」
『如何して雪美姫様の頭上に突然洗面器が!?天道の悪ふざけなのかしら?』
躑躅姫は恐る恐る天井を直視したのである。
『ひょっとすると月影桜花姫様の天罰なのかしら?』
躑躅姫はクスッと微笑み始める。一方の雪美姫は頭頂部を弄ったのである。
「桜花姫…」
『彼女は地獄耳なのかしら?本当に油断出来ないわね…』
躑躅姫は床面に横たわった状態の雪美姫に恐る恐る近寄り始める。
「雪美姫様?大丈夫ですか?」
「はぁ…」
『口は禍の元だわ…やっぱり桜花姫は油断出来ないわね…』
一方の雪美姫は桜花姫が想像以上の地獄耳であり油断大敵であると実感する。
「貴方達…楼閣から脱出しましょう!」
「承知しました!」
躑躅姫の指示に六人の村娘達は恐る恐る姫神教団の楼閣から脱出したのである。姫神教団によって拘束された村娘達は三人の妖女の大活躍によって無事に保護され…。各自村里へと戻ったのである。今回の行方不明事件は姫神教団による拉致事件であり姫神教の教祖を中心に…。数十人もの信者達は全員武士団に逮捕されたのである。
第十話
事件後
姫神教団による拉致事件から三日後の真昼…。躑躅姫とウィプセラスは気分転換に八正道の寺院へと訪問する。
「躑躅姫様とウィプセラス!本日は如何されましたか?」
「八正道様…暇潰しですかね…」
躑躅姫は苦笑いしたのである。
「躑躅姫様が暇潰しで訪問されるとは光栄です!折角の機会ですし…茶会でも如何でしょうか!?」
八正道は躑躅姫とウィプセラスの訪問に大喜びする。即座に躑躅姫とウィプセラスを応接間へと案内したのである。
「全体的に異国風の洋室みたいですね…」
躑躅姫は洋式風の応接間に驚愕する。
「一年前に応接間を異国風に大改装したのですよ!何しろ私は異国の異文化が大好きですからね!」
「異文化が大好きなんて意外ですね♪八正道様♪」
躑躅姫は異国の異文化が大好きな八正道に微笑んだのである。
「折角私の寺院に訪問されたのです!二人には菓子類を用意しなくては!」
八正道は即座に洋菓子であるカステラケーキと紅茶をテーブルに配置させる。
「洋菓子のカステラケーキです!如何でしょうか?」
「えっ!?異国のカステラケーキですか!?」
躑躅姫は洋菓子であるカステラケーキに再度驚愕する。
「躑躅姫様は大袈裟ですな…別に吃驚されなくても!」
「吃驚しますよ!こんな貴重品を私達なんかに…頂戴出来ません!」
躑躅姫は遠慮したのである。
「躑躅姫様!遠慮されずとも大丈夫ですからね!」
すると八正道は小声で…。
「私にはとある異国の友人が存在しますからね…異国の友人から無料で頂戴したのですから…安心するのですよ!」
「えっ?」
『とある異国の友人ですって!?八正道様って一体何者なの!?』
とある異国の友人が存在する八正道を摩訶不思議の人物と感じる。すると八正道は再度小声で…。
「今回ばかりは特別ですからね!無論甘党の桜花姫様には秘密ですよ!」
「えっ…」
『桜花姫様には…秘密ですって?』
躑躅姫は困惑したのである。
「今回は私からの大サービスです!何しろ貴方達は三日前の行方不明事件で連行された六人もの女性達を無事に救出されたのですからね!何よりも姫神教団による行方不明事件が無事に解決出来たみたいなので私自身ホッとしましたよ!」
躑躅姫は八正道の発言に赤面するものの…。
「今回の大事件は私一人では解決出来ませんでした…」
躑躅姫は恐る恐る隣席のウィプセラスを直視したのである。
「今回の行方不明事件はウィプセラスと…粉雪妖女の雪美姫様の協力で解決出来たのですから!」
躑躅姫は満面の笑顔で主張する。
「ウィプセラスですか…」
『彼女も今回の事件解決に貢献したのですね!』
八正道はウィプセラスの表情を直視したのである。
『ウィプセラス…遭遇した当初は極悪非道の敵対者でしたが…本来の彼女は純粋無垢の子供なのでしょうね!』
八正道は多少大人しくなったウィプセラスの変化に微笑み始める。
第十一話
邂逅
過激派の新興宗教団体…。姫神教団による六人の村娘の拉致事件から六日間が経過する。同日の真夜中に躑躅姫とウィプセラスは山中の夜道を散歩したのである。
「私♪躑躅姫と散歩♪散歩♪散歩♪散歩♪躑躅姫♪」
ウィプセラスは躑躅姫との散歩に大喜び…。満面の笑顔で散歩したのである。
「ウィプセラスは一晩中満面の笑顔よね…」
躑躅姫は常日頃から満面の笑顔であるウィプセラスに苦笑いする一方…。
『ウィプセラスは悩み事が何一つとして無さそうだわ…』
悩み事が何一つとして無さそうなウィプセラスに羨望したのである。
『私も彼女みたいに常日頃から満面の笑顔で散歩したいわ…』
すると二人で真夜中の山道を散歩中…。
「えっ?」
道中より煌びやかな藍色の着物姿の女性と遭遇する。
『こんな真夜中の山道で女性が一人で…一体何者なの?花魁の女性かしら?』
一瞬妖艶の女性を不自然に感じるのだが…。
『彼女は…失礼だけど人外っぽいわね…ひょっとすると彼女の正体も私達と同様に人外の妖女なのかしら?』
妖艶の女性は摩訶不思議にも神秘的雰囲気であり人外の超自然的存在であるのは一目瞭然である。反面…。妖艶の女性からは妖女特有の妖力らしい妖力は何一つとして感じられない。
『彼女からは妖力も感じられないし…一体何者なの?』
躑躅姫は女性の正体が気になり彼是と思考し始める。躑躅姫とウィプセラスが摩訶不思議の女性と擦れ違った直後…。女性は二人を注視し始める。
「人外の妖力を感じられるな…二人とも純血の妖女だな…」
躑躅姫は女性の突然の発言にビクッと反応したのである。
「ひゃっ!」
一方のウィプセラスはヘラヘラした様子で花魁の女性に反応する。
「私♪妖女♪妖女♪妖女♪」
ウィプセラスの様子に女性は微笑したのである。
「紫色の着物の妖女は随分と個性的だな…外見とは裏腹に精神力は赤子なのか?」
「彼女の名前はウィプセラス…私の子供みたいな存在です…」
躑躅姫はウィプセラスを自身の子供みたいな存在であると発言する。
「彼女は其方の子供みたいな存在なのか?随分と元気そうで肉体的には大人びた見た目の子供みたいだな…」
「えっ?はぁ…彼女は姿形だけなら成人女性でしょうかね…」
『ウィプセラスって子供の体格としては私よりも大柄なのよね…』
躑躅姫は女性の発言に苦笑いしたのである。
「私♪ウィプセラス♪ウィプセラス♪ウィプセラス♪妖女♪妖女♪妖女♪」
「ウィプセラスとやら…愉快そうで何よりだ…」
一方の女性もウィプセラスの反応に苦笑いする。すると躑躅姫は恐る恐る女性に問い掛ける。
「貴女様は一体何者でしょうか?初対面の私達を一目で妖女だと察知出来る洞察力…非常に失礼かも知れませんが…貴女様は人外なのは確実ですね…」
躑躅姫の問い掛けに女性は自身の名前を名乗り始める。
「私の名前は天狐如夜叉…神族の一人だぞ…」
女性の正体とは誰であろう純血の神族…。天狐如夜叉だったのである。
「えっ?」
『神族って…』
一方の躑躅姫は天狐如夜叉の神族の一言に驚愕する。
「えっ!?貴女様は神族の一人ですって!?」
「其方も其処等の者達と同様の反応だな…」
天狐如夜叉は驚愕し始める躑躅姫に苦笑いしたのである。
「其方は反応が随分と大袈裟であるな…私が神族である事実が吃驚する程度の内容なのか?」
天狐如夜叉は大袈裟であると感じる。
「当然吃驚しますよ!神族って大昔の伝承では絶滅したらしいですし…こんな場所で神族の女性と遭遇出来るなんて!」
怪力乱神の神族は大昔に人間達との大戦争で敗北…。絶滅したとの見方が世間一般では通説とされる。
「如何やら今現在では間違った伝承が各地に出回ったらしいな…」
天狐如夜叉は太古の古代文明時代の伝承を躑躅姫とウィプセラスに解説したのである。躑躅姫は興味深そうな様子で傾聴し続けるのだが…。一方のウィプセラスは内容が理解出来ず珍紛漢紛だったのである。ウィプセラスは退屈そうな様子で彼方此方をキョロキョロし始める。天狐如夜叉の解説から数分後…。
「天狐如夜叉様が俗界で唯一の神族なのですね…」
「以前は私にとって唯一の悪友…蛇体如夜叉と名乗る蛇神の神族が俗界に存在したのだが…彼女は今年の四月下旬に老衰で逝去したらしいな…」
「蛇体如夜叉様は老衰でしたか…」
躑躅姫は一瞬沈黙するものの…。
「私の名前は忍者妖女の躑躅姫です!本職は忍者ですよ!」
「其方は純血の妖女であり忍者の一人だったとは…外見的に山猫妖女の小猫姫とは同年代っぽいな…」
「えっ?山猫妖女の…小猫姫ですって?」
『小猫姫…小猫姫…』
小猫姫の一言に躑躅姫の表情が一瞬で殺気立った表情へと変化したのである。
「えっ?躑躅姫?躑躅姫?躑躅姫?」
普段は満面の笑顔のウィプセラスも突如として表情が変化した躑躅姫を恐る恐る直視し始め…。沈黙したのである。
「躑躅姫とやら?大丈夫なのか?」
躑躅姫は天狐如夜叉の問い掛けに無表情で…。
「失礼しました…天狐如夜叉様…気になさらないで…私なら大丈夫ですよ…」
躑躅姫は非常に殺気立った形相であり天狐如夜叉とウィプセラスは一瞬ゾッとしたのである。
『忍者妖女の躑躅姫とやら…ひょっとして山猫妖女の小猫姫との関係性は犬猿の仲なのか?』
躑躅姫の様子から小猫姫は禁句用語であると察知する。
『如何やら彼女にとって小猫姫の名前は禁句っぽいな…』
すると躑躅姫は天狐如夜叉に問い掛ける。
「天狐如夜叉様はこんな場所で一体何を?」
「私はとある妖女を捜索中なのだよ…」
「とある妖女ですか?一体誰なのでしょうか?とある妖女って?」
天狐如夜叉は恐る恐る…。
「不寝番…最上級妖女の月影桜花姫だよ…」
「えっ!?月影桜花姫様ですって!?」
躑躅姫は大袈裟に反応する。
『躑躅姫とやら…先程から反応が大袈裟だな…』
天狐如夜叉は先程からの躑躅姫の反応に苦笑いしたのである。
「天狐如夜叉様は最上級妖女の桜花姫様に用事ですか!?」
「桜花姫に急用なのだ…最上級妖女の彼女であれば今回の一大事は容易に対処出来そうなのだが…」
躑躅姫は天狐如夜叉の急用の一言に再度問い掛ける。
「桜花姫様に急用ですって!?対処って…天狐如夜叉様は一体何を対処されるのでしょうか!?」
天狐如夜叉は躑躅姫の反応に内心苛立ったのである。
『彼女は…先程から反応が鬱陶しいな…正直躑躅姫は非常に面倒臭い性格なのかも知れないな…』
天狐如夜叉は内心過剰に干渉し続ける躑躅姫にドン引きするものの…。
「躑躅姫とやら…仕方ないな…」
天狐如夜叉は一息したのである。
「私自身の予知夢であるが…地上世界は勿論…全世界が滅亡する光景を予知夢で一部始終直視したのだよ…」
天道天眼の効力と神力を消失した天狐如夜叉であるが…。予知夢により近未来世界で発生する出来事を事前に察知出来る特異能力だけは健在だったのである。
「えっ!?全世界が滅亡ですって!?予知夢ですよね!?一体何が原因で全世界が滅亡する。のですか!?」
「躑躅姫とやら…」
『彼女は余程の神経質なのか?やっぱり躑躅姫は面倒臭い性格だな…』
天狐如夜叉は内心躑躅姫のオーバーリアクションには呆れ果てる。
「全世界滅亡の主原因は巨大隕石の落下だろう…」
「巨大隕石の…落下ですか?」
「推定二里規模の巨大隕石が地上世界へと落下する予知夢だよ…」
所謂八キロメートル規模の巨大隕石が地上世界に落下…。全世界各地が焦土化する内容の予知夢だったのである。躑躅姫は天狐如夜叉の予知夢の内容に驚愕し始め…。
「巨大隕石の落下で…全世界が滅亡ですって!?」
極度の精神的ショックからか躑躅姫は気絶し始めたのである。
「はぁ…」
『全世界の滅亡…私達は…こんな場所で死滅するのね…私は…もう少しだけ長生きしたかったのに…如何して?』
躑躅姫は無気力化した表情でありバタッと地面に横たわる。
「躑躅姫とやら!?大丈夫か!?」
「躑躅姫!?躑躅姫!?躑躅姫!?躑躅姫!?大丈夫!?大丈夫!?大丈夫!?大丈夫!?」
突如としてバタッと卒倒した躑躅姫に天狐如夜叉は勿論…。ウィプセラスも動揺したのである。
『如何やら躑躅姫は私の予知夢の内容で精神的に参ったのであろうな…』
するとウィプセラスは必死の表情で天狐如夜叉に問い掛ける。
「天狐如夜叉!?天狐如夜叉!?躑躅姫!?躑躅姫!?躑躅姫!?大丈夫!?大丈夫!?大丈夫!?」
ウィプセラスは躑躅姫の突然の卒倒によりパニック状態だったのである。
「ウィプセラスとやら…其方が心配せずとも彼女は大丈夫だ…一時的に気絶しただけだから肉体的には大丈夫だからな…其方は安心するのだぞ…」
ウィプセラスは躑躅姫の状態にホッとする。
「躑躅姫♪躑躅姫♪躑躅姫♪大丈夫♪大丈夫♪」
ウィプセラスに満面の笑顔が戻ったのである。
第十二話
天空山
躑躅姫が極度の精神的ショックにより気絶し始めてから一時間後…。
「えっ…」
『私は…一体?』
躑躅姫はとある故山の頂上にて目覚め始める。
「如何やら目覚めたみたいだな…忍者妖女の躑躅姫とやら…」
「えっ?貴女様は天狐如夜叉様でしたっけ?私は一体何を?」
ウィプセラスは目覚めた躑躅姫に力一杯密着し始め…。
「躑躅姫♪躑躅姫♪躑躅姫♪」
「ウィプセラス?」
ウィプセラスは躑躅姫の復活に大喜びしたのである。
「随分大喜びの様子だけど…如何しちゃったのよ?」
「忍者妖女の躑躅姫よ…其方は本当に人騒がせな妖女だな…心配したぞ…」
「えっ…私が人騒がせって?」
『私は此処で何が?』
躑躅姫は意識が完全に戻ったのかハッとする。
「えっ!?私は…此処で気絶しちゃったのね…」
「如何やら正気に戻ったみたいだな…躑躅姫よ…」
天狐如夜叉も躑躅姫の様子にホッとしたのである。
「御免なさいね…天狐如夜叉様…私は吃驚し過ぎちゃって…」
すると躑躅姫は恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。
「先程の天狐如夜叉様の予知夢ですが…巨大隕石が地上世界に落下するのは一体何時なのでしょうか?」
問い掛けられた天狐如夜叉は一息し始める。
「正確には…恐らく明日の早朝だろうな…」
「えっ…明日の…早朝ですか?」
『明日の早朝に…全世界が滅亡するのね…』
躑躅姫は天狐如夜叉の返答に絶望したのか全身が膠着化し始めたのである。
「安心しろ…最上級妖女の月影桜花姫であれば巨大隕石の落下を容易に阻止出来るだろう…彼女の千人力の妖力であれば片手間で片付くだろうよ…実際に桜花姫は天空魔獣の天魔大皇帝にも勝利したのだからな…」
今現在の桜花姫の妖力は天道の領域であり地上世界で桜花姫に拮抗する屈強の妖女は誰一人として存在しない。
「月影桜花姫様ですか!桜花姫様は一握りの最上級妖女ですからね!」
世界の滅亡に絶望した躑躅姫であるが…。桜花姫の名前の影響からか途端に希望が芽生える。
「桜花姫…今回の一大事こそ彼女の存在が必要不可欠なのだ!」
「月影桜花姫様ですね!早速最上級妖女の桜花姫様に巨大隕石落下の情報を報告しないと!」
躑躅姫が移動を開始する直前…。
「非常に残念であるが…月影桜花姫は俗界には存在しないみたいだ…」
「えっ?月影桜花姫様が俗界には存在しないって?」
躑躅姫は天狐如夜叉の一言に一瞬ゾッとしたのである。
「俗界では桜花姫らしき彼女特有の妖力が何一つとして感じられないのだ…」
「えっ?如何して桜花姫様の妖力が感じられないのですか?」
「彼奴は恐らく…死後の世界に…」
躑躅姫は天狐如夜叉の死後の世界の一言に驚愕する。
「死後の世界って…えっ!?桜花姫様は亡くなられたのですか!?桜花姫様が亡くなられたのであれば…誰が巨大隕石を!?」
躑躅姫はソワソワし始めたのである。
「はぁ…」
『躑躅姫は本当に大袈裟だな…』
天狐如夜叉は先程から過剰に反応する躑躅姫に内心鬱陶しいとさえ感じる。
「安心しろ…恐らく最上級妖女の桜花姫は自由自在に死後の世界へと行き来出来るのだ…今頃は地獄の世界で大暴れだろうよ…」
「えっ?」
『桜花姫様は…死後の世界を自由自在に行き来出来るって?』
躑躅姫は理解出来なかったのかポカンとしたのである。
「御免なさい…私には何が何やらサッパリです…死後の世界を行き来出来るって何ですか?」
「其方は理解出来なくて当然なのだ…月影桜花姫は存在自体が異質的であるからな…本当の意味で月影桜花姫を理解出来るのは月影桜花姫に拮抗し得る極悪非道の異端者だけだ…彼女を理解出来ない躑躅姫は正常だから安心しろ…」
「えっ?」
『私が…正常ですって?』
躑躅姫は内容が理解出来ず再度ポカンとする。
「ですが如何すれば巨大隕石の落下を阻止出来るのですか?最上級妖女の桜花姫様が俗界に存在されないのであれば全世界の滅亡は回避出来ないでしょう…」
「生憎だが…今現在の私には神族の眼光…天道天眼を発動出来ないからな…」
天狐如夜叉は天空魔獣天魔大皇帝との大激戦で桜花姫に天道天眼を授与して以降…。強大なる神力を発動出来なくなったのである。
「ん?彼女は…」
「えっ…如何されましたか?天狐如夜叉様?」
天狐如夜叉は先程からヘラヘラし続けるウィプセラスを直視し始め…。
『先程から気になったのだが…ウィプセラス…彼女の妖力は絶大なる妖力だな…』
天狐如夜叉はウィプセラスの妖力に驚愕したのである。
「ウィプセラスの妖力…彼女は最上級妖女の桜花姫に匹敵するな…」
「えっ…ウィプセラスの妖力が…桜花姫様の妖力に匹敵ですって?」
天狐如夜叉は恐る恐るウィプセラスに近寄り始める。
「ウィプセラスは精神力と知力こそ赤子同然であるが…彼女は妖力だけなら最上級妖女の桜花姫に匹敵するぞ…」
躑躅姫もウィプセラスに注目したのである。
『ウィプセラスは所謂妖女の集合体みたいだし…妖力だけなら其処等の妖女よりは強力なのよね…』
ウィプセラスは生前に五人の妖女を捕食した影響からか妖力は非常に絶大であり唯一最上級妖女の桜花姫にも拮抗する。
「躑躅姫よ…其方とウィプセラス…二人で協力すれば巨大隕石の落下を阻止出来るのかも知れないぞ!ウィプセラスの妖力は制御出来れば森羅万象を翻弄出来る領域であるからな…」
天狐如夜叉は躑躅姫とウィプセラスに期待したのである。
「えっ…巨大隕石を…私達が?」
『私とウィプセラスが協力すれば…巨大隕石落下を阻止出来るのかしら?』
するとウィプセラスは満面の笑顔で…。
「私♪躑躅姫と協力♪協力♪協力♪協力♪」
ウィプセラスは大喜びしたのである。
「ですが天狐如夜叉様?ウィプセラスの妖力は強力かも知れませんが…私自身の妖力は非常に微弱ですよ…実戦用の武器が無ければ人間の女性と同然ですし…」
躑躅姫は基本的に実戦用の武術による戦法が得意である反面…。武術を行使しない妖術による戦法は滅法不得意だったのである。躑躅姫自身の妖力は非常に貧弱であり妖女としては下級妖女の部類に位置する。
「其方自身の妖力が微弱でも躑躅姫には相応しい武器が存在するぞ…桃源郷神国には其方の妖力を最大限に発揮出来る武器が存在するのだ!」
「私の妖力を…最大限に発揮出来る武器ですか?」
『私の妖力を最大限に発揮出来る武器って…一体何かしら?』
躑躅姫は武器の存在が気になるのか再度ソワソワし始める。
「躑躅姫よ…早速目的地に案内するぞ!」
天狐如夜叉は躑躅姫とウィプセラスに武器の場所を案内したのである。
第十三話
宝刀
躑躅姫一行が移動を開始し始めてから一時間後…。
「二人とも…此処が目的地だぞ!」
躑躅姫一行は武器の存在する特定の場所へと到達する。
「えっ?寺院ですか?此処って八正道様の寺院ですよね?此処に武器が?」
武器が存在する場所とは八正道の寺院だったのである。
「八正道の寺院には史上最強の武器が存在するのだ…」
「八正道様の寺院に史上最強の武器が存在するのですか?」
すると天狐如夜叉は玄関の板戸をノックする。
「ん?こんな真夜中に誰でしょうか?」
八正道は恐る恐る板戸を開放させる。
「誰かと思いきや…神族の天狐如夜叉様と躑躅姫様…ウィプセラスも…こんな真夜中の時間帯に一体全体何事でしょうか?」
突然の真夜中の来客に八正道は吃驚したのである。
「ひょっとして今度も…大事件でも発生したのでしょうか?」
八正道は恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。一方の天狐如夜叉は恐る恐る…。
「八正道よ…突然で悪いのだが…」
天狐如夜叉は八正道に事情を一部始終説明したのである。
「えっ!?全世界が滅亡する予知夢を!?天空世界から巨大隕石が地上世界に落下するのですか!?」
「八正道の宝物である退魔霊剣を…忍者妖女の躑躅姫に貸与出来ないか?今回の一大事を阻止するには八正道の退魔霊剣が必要不可欠なのだ!生憎最上級妖女の月影桜花姫も不在中であるからな…」
「えっ…こんな緊急時に桜花姫様も不在中なんて…」
突然の非常事態に困惑した八正道であるが…。
「仕方ないですな…今回ばかりは全世界が滅亡するかも知れない一大事ですからね!全世界の救済であるなら止むを得ないでしょう!」
八正道は躑躅姫に退魔霊剣の貸与を許可したのである。
「感謝します!八正道様!」
数分後…。八正道は躑躅姫に退魔霊剣を手渡したのである。躑躅姫は両目をキラキラさせた表情で…。
「伝説の退魔霊剣ですか!」
『退魔霊剣は戦乱時代随一の偉人…東国の軍神として知られる夜桜崇徳王様が所有された伝説の名刀だったわね!』
躑躅姫は退魔霊剣の銀色に光り輝く白刃に感動する。
「本来退魔霊剣は最高神が創造した神器の一部なのだ!人間の上位互換である人外の妖女が所持すれば本来の何十倍もの力量を発揮出来るであろう!」
「えっ…」
『退魔霊剣は最高神が所持した神器だったなんて…』
八正道は退魔霊剣の正体に驚愕したのである。
「正確には天空魔獣…天魔大皇帝の皮膚の一部から形作られた代物であるが…」
「退魔霊剣の正体が…以前桜花姫様が退治された天魔大皇帝の皮膚の一部だったとは驚愕ですね…」
天道金剛石は天魔大皇帝の硬質細胞の一部とされ…。最高神の神器である退魔霊剣は天魔大皇帝の破片から彫刻された宝刀だったのである。
「無論…妖女でも武術の熟練者に限定されるだろうが…退魔霊剣の使用は人一倍武術の熟練者である躑躅姫が随一の適任者であろうな!」
すると躑躅姫は恐る恐る八正道に一礼する。
「八正道様…無事に巨大隕石から全世界を守護出来たら…八正道様の退魔霊剣を返却しますので…今回ばかりは…」
「大丈夫ですよ!躑躅姫様!私は貴女様の健闘を見届けますからね!」
八正道は満面の笑顔で返答したのである。
「八正道様…」
「であれば躑躅姫とウィプセラス…早速巨大隕石の落下地点へと移動するぞ!私が案内するからな!」
天狐如夜叉は再度二人を案内する。移動し始めてから数十分後…。躑躅姫一行は巨大隕石の落下地点らしき場所へと到達したのである。
「此処は天空山ですか?」
隕石の落下地点とは東国の最高峰…。天空山の頂上だったのである。
「絶景の景色ですね…天空山の頂上から国全体が眺望出来るなんて…」
天空山は観光地として有名であり大勢の登山者達が最高峰の天空山で観光する。
「巨大隕石が落下するのは恐らく明日の早朝だ…躑躅姫…ウィプセラス…二人とも覚悟出来たか?」
「明日の…早朝ですか?」
『明日の早朝に…巨大隕石が地上世界に落下するのね…』
躑躅姫は極度の緊張感からか途端に身震いし始めたのである。
第十四話
救世主
躑躅姫一行が桃源郷神国最高峰の天空山に到達した同時刻…。最上級妖女の桜花姫は口寄せの妖術により死後の世界である地獄の世界から俗界へと無事戻ったのである。
『今回も面白かったわね!地獄の悪霊征伐!』
桜花姫は極度の退屈さから地獄の世界での悪霊征伐が日常化し始める。
『今度も退屈凌ぎに地獄の世界で大暴れしちゃおうかしら!?』
悪霊征伐に疲労した桜花姫は自宅の居室でゴロゴロと寝転んだのである。
『睡眠!睡眠!』
桜花姫は仰向けの状態で居間に寝転ぶのだが…。
「えっ…」
『何かしら?』
異様の空気に桜花姫はソワソワし始める。
『室内の空気が重苦しいわね…』
すると直後である。
「えっ!?」
突如として居間に設置された神棚の神鏡がバリッと罅割れる。
「吃驚しちゃったわ…」
『神棚の神鏡が罅割れるなんて…』
桜花姫は突如として罅割れた神鏡に気味悪くなる。
『気味悪いわね…大事件が発生したのかしら?』
桜花姫は気になったのか即座に出歩いたのである。
『場所は東国っぽいけれど…一体何事かしら?』
桜花姫が行動を開始した同時刻…。天空山では躑躅姫一行が真夜中の上空を眺望したのである。
「天狐如夜叉様?特段何も無さそうですけど…本当にこんな場所に巨大隕石が落下するのでしょうか?」
真夜中の夜空は曇天であり何一つとして巨星らしき物体は確認出来ない。
「姿形こそは確認出来ないだろうが…巨大隕石は着実に接近中であるぞ!」
天狐如夜叉は巨大隕石が確実に地上世界に接近中であると断言する。
「はぁ…」
すると天狐如夜叉は恐る恐る…。
「巨大隕石の速度は…予想以上に高速みたいだな…」
冷静であった天狐如夜叉だが巨大隕石の接近に緊張したのである。
「えっ!?予想以上に高速ですって!?」
『こんなの私には絶対無理よ!』
躑躅姫は再度絶望したのか逃走し始める。
「御免なさい!やっぱり私には無理です!」
「なっ!?躑躅姫!?」
躑躅姫は号泣し始め…。全速力で天空山の頂上から逃走し始めたのである。
「躑躅姫!?躑躅姫!?躑躅姫!?」
普段はヘラヘラするウィプセラスでさえも躑躅姫の突然の逃走には吃驚する。ウィプセラスは即座に左腕から触手を複数発動したのである。
「ウィプセラスの左腕から触手が…」
『ウィプセラスは体内から触手を生成させられるのか?彼女は意外と有能だな…』
天狐如夜叉はウィプセラスの才覚に感心する。ウィプセラスの左腕から生成された複数の触手は逃走中の躑躅姫を捕捉したのである。
「ぎゃっ!」
『ウィプセラスの触手かしら!?身動き出来ないわ…』
躑躅姫はウィプセラスの左腕からの触手により身動き出来なくなる。再度天空山の頂上へと戻されたのである。
「躑躅姫よ…其方は予想以上に小心者だな…」
天狐如夜叉は弱気の躑躅姫に呆れ果てる。
「天狐如夜叉様…」
躑躅姫は落涙した様子で…。
「私には絶対無理よ!妖術では山猫妖女の小猫姫よりも数段階下回るのに…所詮私なんて…武器を使用しなければ何も出来ない!下級妖女なのよ!」
躑躅姫は自身を下級妖女と自虐したのである。
「躑躅姫よ…今現在世界を救済出来るのは其方とウィプセラスだけなのだ!其方の潜在的妖力は小猫姫と同等?武器さえ入手出来れば彼女を上回るかも知れないのだぞ!其方の潜在的妖力は未知数だ!」
天狐如夜叉は躑躅姫の潜在的妖力を過大評価するのだが…。
「天狐如夜叉様…私を過大評価しないで…私は大昔から誰よりも脆弱だったのよ!私なんて…所詮雑魚の下級妖女なのよ!」
躑躅姫は列記とした純血の妖女であるが…。幼少期から必殺の妖術が何一つとして上手く扱えなかったのである。周囲の妖女からは雑魚妖女やら下級妖女と侮辱され…。村里の子供達からは物の怪やら負け犬妖女と揶揄されたのである。
「武器を行使しないと何も出来ない私に…山猫妖女の小猫姫を上回るなんて虚構の夢物語だわ!私は…純血の妖女なのに妖術の才能なんて皆無なのよ!」
弱気の躑躅姫であったが…。ウィプセラスは満面の笑顔で躑躅姫の右手をポンッと接触したのである。
「えっ?ウィプセラス?何よ?」
「躑躅姫♪躑躅姫♪大丈夫♪大丈夫♪私♪協力♪協力♪」
『ウィプセラス…』
先程から緊張し続けた躑躅姫であるが…。ウィプセラスの満面の笑顔に極度の緊張感が緩和されたのである。
『ウィプセラス…私は…彼女と一緒なら!』
誕生した当初はトラウマの対象であったウィプセラスであるが…。今回はウィプセラスの存在が躑躅姫にとって心強く感じられる。
「はぁ…ウィプセラスに勇気付けられるなんてね…」
躑躅姫は赤面した様子であるが笑顔で返答したのである。
「ウィプセラス!私と一緒に世界を守護しましょう!あんたと私は一心同体よ!」
ウィプセラスは躑躅姫の一心同体の一言に大喜びする。
「躑躅姫♪私達♪一心同体♪一心同体♪世界♪守護♪守護♪守護♪」
「躑躅姫とウィプセラスは一心同体だ!」
『彼女達なら大丈夫そうだな!』
天狐如夜叉は躑躅姫とウィプセラスの前向きな姿勢にホッとしたのである。
『如何やら今回ばかりは桜花姫の出番は無さそうだぞ!残念だったな!最上級妖女の月影桜花姫!』
すると直後…。
「えっ…」
「二人とも…油断は出来ないぞ!本番は此処からだ!」
曇天だった上空の中心部より規格外の巨大飛行物体が確認される。
「ひょっとして巨大隕石ですか!?」
「無論…此奴が世界滅亡の正体だ!」
陸地へと急接近する巨大隕石の影響からか地上世界全体がグラグラッと震動し始める。巨大隕石は直径八キロメートルもの規格外の巨大さである。
『こんな岩石の塊状が…地上なんかに落下すれば世界滅亡は否定出来ないわ!』
躑躅姫は背後のウィプセラスを恐る恐る直視する。
「ウィプセラス!」
「躑躅姫♪躑躅姫♪躑躅姫♪」
ウィプセラスはヘラヘラした様子で躑躅姫の背中に接触したのである。
「えっ?ウィプセラス?」
ウィプセラスが躑躅姫の背中に接触した直後…。ウィプセラスの莫大なる妖力が躑躅姫の体内へと蓄積されたのである。
『ウィプセラスの妖力だわ…彼女の妖力はこんなにも強力だったのね…』
躑躅姫はウィプセラスの強大さを再認識する。
「ウィプセラス!感謝するわね!」
躑躅姫に感謝されたウィプセラスは表情が赤面し始め…。
「大丈夫♪大丈夫♪大丈夫♪」
ウィプセラスは只管に大丈夫であると連呼し続ける。
「ウィプセラス!私達で…巨大隕石を破壊するわよ!」
躑躅姫は恐る恐る両目を瞑目し始め…。体内の妖力を退魔霊剣に蓄積させる。
「はっ!」
躑躅姫は退魔霊剣を力一杯一振りしたのである。
「砕け散りなさい!」
直後…。退魔霊剣の刃先から藍色の閃光が放出されたのである。
「えっ!?」
『退魔霊剣から藍色の閃光が…』
刃先から放出された藍色の閃光は上空の巨大隕石の表面に直撃…。
「見事だぞ!躑躅姫!」
「閃光が巨大隕石に直撃したわ!」
閃光の直撃によって巨大隕石表面より直径四キロメートル規模の傷跡がビシッと形作られる。
「先程の攻撃で巨大隕石の表面が破壊されたが…巨大隕石は健在だな…」
「巨大隕石は予想以上に頑強ね…私に破壊出来るかしら?」
巨大隕石は依然として健在であり先程よりも地上への落下速度は加速し続けたのである。巨大隕石の落下速度は加速し続けるものの…。
「今度こそ!ウィプセラス!」
躑躅姫とウィプセラスは怯まなかったのである。
「私達は巨大隕石を破壊するわ!」
『私だって!私だって最上級妖女の月影桜花姫様みたいに!』
躑躅姫は全身全霊の妖力を退魔霊剣に蓄積…。
「はっ!」
全身全霊で退魔霊剣を一振りしたのである。退魔霊剣の刃先から再度藍色の閃光が放出され…。閃光が巨大隕石の表面に直撃したのである。
「二人とも!巨大隕石に直撃したぞ!」
天狐如夜叉は上空の光景に注視する。
『今度は如何なる!?』
数秒後…。
「巨大隕石に亀裂だわ…迎撃出来たの!?」
巨大隕石の表面からメキメキと赤色の亀裂が無数に発生し始める。直後…。
「えっ!?」
巨大隕石は地上世界に落下する直前に大爆発したのである。
「巨大隕石が爆散したぞ!」
大爆発の影響からか大爆発した巨大隕石の破片が地上の各地に飛散するものの…。閃光の威力は絶大だったのか巨大隕石の破片はビー玉サイズに縮小されたのである。
「躑躅姫よ…其方とウィプセラスの尽力によって巨大隕石の落下は阻止出来たな!見事だったぞ!」
「躑躅姫♪隕石♪爆発♪隕石♪爆発♪」
躑躅姫とウィプセラスの全身全霊により巨大隕石の落下は無事に阻止出来…。天狐如夜叉とウィプセラスは大喜びしたのである。
「私達は…」
『巨大隕石の落下を阻止出来たのね…』
一方の躑躅姫はホッとしたのか全身が脱力し始め…。
「はぁ…」
フラッと地面に横たわったのである。
「躑躅姫!?躑躅姫!?大丈夫!?大丈夫!?」
ウィプセラスは突如として地面に横たわった状態の躑躅姫を心配し続ける。
「ウィプセラスよ!其方は心配するな!躑躅姫は大丈夫だからな!」
天狐如夜叉は恐る恐る躑躅姫に接触したのである。
「躑躅姫は全身全霊の妖力を駆使して疲労しただけだぞ!一休みすれば彼女は大丈夫だろうよ!」
すると躑躅姫は自身を心配し続けるウィプセラスを恐る恐る直視し始め…。
「御免なさいね…ウィプセラス…貴女は心配しなくても私は大丈夫だからね!」
「躑躅姫♪躑躅姫♪躑躅姫♪」
ウィプセラスは躑躅姫の様子に安心したのである。
『ウィプセラス…人一倍赤子みたいなあんたでも…身内を心配するのね!』
当初は無邪気で食いしん坊のイメージだったウィプセラスであるが…。他者を心配する様子に内心嬉しくなる。
「天狐如夜叉様!巨大隕石の落下は無事に阻止出来たので一安心ですね!」
躑躅姫は満面の笑顔で天狐如夜叉に発言する。
「忍者妖女の躑躅姫よ…今現在の其方は山猫妖女の小猫姫を上回れたのだぞ!其方は自分自身を卑下するな!」
「えっ…」
躑躅姫は天狐如夜叉の発言に絶句したのである。
『私が…小猫姫を?』
「私は…小猫姫を突破出来たのね!」
一時的であったとしても…。自身にとって好敵手だった小猫姫を超越出来た事実に躑躅姫は内心大喜びしたのである。
「二人とも!今夜は一件落着だ!戻ろうか…」
「戻りましょう!ウィプセラス!」
躑躅姫一行は戻ろうかと思いきや…。突如として極度の胸騒ぎからか躑躅姫一行はゾッとしたのである。
「えっ!?」
『一体何かしら!?』
「ひょっとして躑躅姫とウィプセラスも…気配を感じるのか?」
上空から正体不明の巨大物体が猛スピードで急接近するのを感じる。躑躅姫はギョッとした表情で恐る恐る…。
「天狐如夜叉様?ひょっとして…」
「彼奴は恐らく…第二の巨大隕石だろうな…」
躑躅姫一行は再度上空を直視したのである。
「折角破壊出来たのに…第二の巨大隕石なんて!」
「先程の巨大隕石よりも桁外れの巨大さだぞ!如何やら先程破壊した巨大隕石は彼奴の欠片だったみたいだな…」
「えっ!?私達が破壊したのは巨大隕石の欠片だったの!?」
上空全体には規格外の巨大さである岩石の巨大物体が確認出来…。先程破壊した巨大隕石よりも桁外れな巨大さの超大型隕石が地上世界へと急接近する。
「私達は一体如何すれば!?」
『こんなの阻止出来ないわよ!』
躑躅姫一行は天空全体を覆い包む規格外の超大型隕石の出現に絶望したのである。
「今度こそ世界は滅亡するの!?」
すると突如として躑躅姫一行の背後より気配を感じる。
「あんた達!随分と大慌てね!」
背後の何者かが天狐如夜叉の背中をポンッと接触したのである。
「誰かと思いきや…其方は今更…」
天狐如夜叉は背後の人物に呆れ果てる。
「えっ…貴女は?」
「桜花姫♪桜花姫♪桜花姫♪」
気配の正体は誰であろう最上級妖女の不寝番…。月影桜花姫だったのである。
「最上級妖女の月影桜花姫様ですか!?」
桜花姫は満面の笑顔で…。
「あんた達♪私に相談せず内緒で活動するなんて意地悪ね♪巨大隕石を破壊するなら私にも相談しなさいよ♪」
「何が意地悪だ!其方は今迄不在だったろうが…其方が地獄の世界なんかで遊戯中に此方は大変だったのだぞ!」
天狐如夜叉はヘラヘラし続ける桜花姫に腹立たしくなる。
「桜花姫は本当に気紛れな妖女だな!」
「天狐如夜叉は気にしないの♪気にしないの♪一休み♪一休み♪」
桜花姫は只管にヘラヘラし続ける。
「何が一休みだよ!やっぱり私にとって其方は誰よりも気に入らない小娘だな…」
天狐如夜叉は桜花姫の様子に呆れ果てる。すると桜花姫も上空の超大型隕石を眺望したのである。
「異様の気配は天空の彼奴だったのね!」
桜花姫は上空の超大型隕石にワクワクし始める。
「桜花姫様…」
『全世界が滅亡するかも知れない瀬戸際なのに随分と嬉しそうですね…やっぱり桜花姫様は異端者なのかしら?』
躑躅姫は嬉しそうな様子の桜花姫に苦笑いしたのである。桜花姫は満面の笑顔で躑躅姫とウィプセラスに…。
「あんた達!精一杯頑張ったみたいね!天空の巨大隕石は最上級妖女の私が対処するから一安心なさい!」
桜花姫は即座に神性妖術の天道天眼を発動したのである。
「桜花姫様の両目が半透明の瑠璃色に発光したわ…一体何かしら?」
不思議そうに桜花姫の両目を凝視し続ける躑躅姫に天狐如夜叉が解説し始める。
「桜花姫の妖術は神族の眼光…所謂神性妖術の天道天眼であり彼女の十八番だ!天道天眼を開眼出来れば変幻自在の神族と同等の効力を発揮出来るぞ!」
「えっ!?天道天眼ですって!?」
『天道天眼って一握りの妖女が開眼出来る伝説の神性妖術だったわよね!?桜花姫様が一握りの最上級妖女って理由も納得だわ…』
躑躅姫は天道天眼の存在に驚愕したのである。
「今度はね!」
すると桜花姫は全身の神通力を行使する。桜花姫の身体髪膚がピカッと発光したかと思いきや…。桜花姫は巫女装束の仙女の姿形へと変化したのである。今現在の桜花姫は自力で全能の仙女に覚醒出来る。
「えっ!?桜花姫様…貴女は本当に桜花姫様なの?」
『彼女は先程の桜花姫様とは別人みたいだわ…一体何かしら?』
躑躅姫は仙女の姿形へと変化した桜花姫に驚愕したのである。
「桜花姫様は本物の女神様みたいですね…」
躑躅姫は仙女の姿形である桜花姫に見惚れる。
「えっ?私が本物の女神様なんて…躑躅姫は大袈裟ね!」
桜花姫は赤面するものの…。
『私が女神様!悪くないわね!』
内心では大喜びしたのである。
「桜花姫よ…其方は自力で天下無敵の仙女に変化したのだ!即刻其方の神通力で天空の巨大隕石の落下を阻止しろ!絶対に巨大隕石を破壊するのだぞ!」
天狐如夜叉は桜花姫に超大型隕石の落下阻止を強制する。
「私は空腹だからね!一思いに巨大隕石を阻止しちゃうわよ!」
桜花姫は飛翔の妖術を発動…。空中を浮遊したのである。
「桜花姫…精一杯奮闘するのだぞ!」
天狐如夜叉は勿論…。
「桜花姫様…」
「桜花姫♪桜花姫♪桜花姫♪」
躑躅姫とウィプセラスも空中を浮遊する仙女形態の桜花姫を見届ける。躑躅姫一行が見届けた同時刻…。桜花姫は一瞬で上空の成層圏を突破すると広大無辺の宇宙空間へと到達したのである。
『此処が天空世界なのね…予想以上に神秘的だわ…』
周囲の星雲を眺望するものの…。
『巨大隕石…想像以上の巨大さね…』
急接近中の超大型隕石は推定七千キロメートル規模と前代未聞の巨大さであり小惑星にも匹敵する巨大さである。
『こんなにも規格外の巨大隕石が地上世界に落下すれば地上世界は容易に粉砕されるでしょうね…』
「一か八かの大博打よ!」
桜花姫は地球に接近中の超大型隕石に変化の妖術を発動する。
『如何かしら?』
数秒間が経過…。直後である。接近中の超大型隕石が白煙により覆い包まれ…。ポンッと数十センチメートルもの特大サイズの巨大桜餅に変化したのである。
『一か八かの大博打だったけれど…変化の妖術が成功したわね!』
桜花姫は宇宙空間で浮遊し続ける巨大桜餅に接近する。
『先程の変化の妖術で妖力が消耗しちゃったし!特大の桜餅を頂戴するわね!』
桜花姫は特大の巨大桜餅を食べ始める。
第十五話
大団円
桜花姫が宇宙空間で巨大桜餅を食べ始めた同時刻…。地上世界では突如として消滅した超大型隕石に躑躅姫とウィプセラスは驚愕したのである。
「えっ!?天空の巨大隕石が突然消滅したわ…桜花姫様が規格外の妖術で巨大隕石を消滅させちゃったの!?」
「桜花姫♪桜花姫♪桜花姫♪」
躑躅姫とウィプセラスは驚愕した様子で広大無辺の天空を眺望し続けるのだが…。
「やっぱり馬鹿者の思考力は理解出来ない…」
『月影桜花姫は…無重力の天空世界でも桜餅を鱈腹頬張れるのか?やっぱり彼女は行動も異質的だな…』
天狐如夜叉は広大無辺の宇宙空間で巨大桜餅を頬張れる桜花姫に内心呆れ果てる。
『兎にも角にも…彼女達の粉骨砕身によって地上世界の滅亡が阻止出来たのは何よりだな!私も安心して熟睡出来そうだ…』
天狐如夜叉は心情より微笑んだのである。巨大隕石を阻止してから数分後…。
「桜花姫様だわ!」
桜花姫は無事に地上世界の天空山頂上へと戻れたのである。
「口寄せの妖術!成功ね!」
躑躅姫一行は無事に地上世界へと戻った桜花姫に近寄る。
「桜花姫様!無事に天空世界から戻られたのですね!」
「桜花姫♪桜花姫♪桜花姫♪」
躑躅姫とウィプセラスは広大無辺の宇宙空間から無事に戻った桜花姫に大喜びしたのである。
「月影桜花姫よ…」
すると天狐如夜叉も恐る恐る…。
「其方は上空の天空世界から無事に戻れたのだな…単独で天魔大皇帝を仕留めた其方であれば当然の結果であろうが…」
「勿論よ!天狐如夜叉!私は俗界で唯一無二の最上級妖女なのよ!私の妖術なら相手が天体規模の巨大隕石でも簡単に破壊しちゃうからね!」
桜花姫は満面の笑顔で返答したのである。
「兎にも角にも…今回は三人の妖女の奮闘で地上世界が救済されたのが何よりだ…」
四人は巨大隕石の落下を無事に阻止出来…。一同は再度大喜びする。
「隕石落下は無事に解決出来たし!私達は解散しましょう!」
一段落すると一同は解散したのである。
「桜花姫様!天狐如夜叉様!本日は大変感謝します!二人とも達者で!」
躑躅姫は二人に会釈する。
「あんた達もね!」
「躑躅姫とウィプセラスにも感謝するぞ!今日は思う存分に休養するのだぞ…」
桜花姫と天狐如夜叉は笑顔で返答すると帰宅したのである。
「ウィプセラス?私達も戻ろうかしら?」
「戻ろう♪戻ろう♪戻ろう♪躑躅姫♪躑躅姫♪」
数分間が経過すると躑躅姫とウィプセラスは一緒に帰宅する。躑躅姫は帰宅中に満面の笑顔で…。
「ウィプセラス!今回はあんたの協力で無事巨大隕石を阻止出来たからね!今夜の夕飯は鴨鍋よ!」
「私♪躑躅姫♪鴨鍋♪鴨鍋♪食べたい♪食べたい♪食べたい♪」
ウィプセラスは躑躅姫の鴨鍋の一言に大喜びしたのである。
第十六話
会食
巨大隕石の落下阻止から三日後の真昼…。粉雪妖女の雪美姫は暇潰しに東国のとある饂飩屋にて食事したのである。
「はぁ…」
『退屈過ぎる…退屈過ぎるわ!桜花姫も常日頃からこんな心情だったのかしら?』
雪美姫は極度の退屈さから桜花姫の思考に共感する。
「誰かと思いきや…其方は粉雪妖女の雪美姫だったか…」
「えっ!?あんたは!?」
誰であろう神族の天狐如夜叉が雪美姫の隣席に同席したのである。
「あんたは神族の天狐如夜叉!?」
雪美姫は天狐如夜叉の出現に吃驚する。
「何も吃驚せずとも…こんな饂飩屋で粉雪妖女の其方と遭遇するとは奇遇だな…」
「如何してあんたがこんな場所に?意外ね…」
雪美姫が恐る恐る問い掛けると天狐如夜叉は即答したのである。
「私は人間界を観察したいのだ…俗界随一の問題児…月影桜花姫は勿論だが…今後は人間達と共存するには必要不可欠だからな…」
「人間界の観察ね…」
『以前は人間達を毛嫌いし続けた天狐如夜叉だけれども…随分と一変したわね?一体何が彼女をこんなにも変化させたのかしら?』
雪美姫は天狐如夜叉の変化に驚愕する。反面…。何を契機に天狐如夜叉の心情が一変したのか非常に気になる。
『やっぱり小猫姫の…影響なのかしら?』
天狐如夜叉が変化出来たのは小猫姫の影響力であると予想する。すると天狐如夜叉は笑顔で…。
「問題児の桜花姫やら其方みたいな純血の妖女でも…愚劣なる人間達と共存出来るのだからな!神族の私だって…」
一方の雪美姫は満面の笑顔で返答したのである。
「あんたなら共存出来るわよ!小猫姫と一緒に頑張ってね!」
「小猫姫か…」
天狐如夜叉は一瞬赤面するものの…。
「小猫姫と一緒なら…こんな私でも頑張れそうだ!私にとっても小猫姫は唯一無二の宝物だからな!」
天狐如夜叉の前向きな姿勢に雪美姫は微笑み始める。すると天狐如夜叉は真剣そうな表情で…。
「雪美姫?其方は二年前に…妖術で国内全域を寒冷化させたのは本当なのか?」
「えっ…」
『如何して天狐如夜叉が…二年前の寒冷化事件を!?』
雪美姫は天狐如夜叉の突然の問い掛けに絶句する。雪美姫にとって二年前の寒冷化大事件は人生史上最大の黒歴史であり想起したくない過去だったのである。
「天狐如夜叉?一体…誰から?」
雪美姫は気まずそうな表情で恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。
「如何やら事実みたいだな…雪美姫?」
「一体誰が…天狐如夜叉に喋ったのよ?」
雪美姫は睥睨した表情で問い掛けたのである。
「誰って?当然月影桜花姫だが…桜花姫以外に存在するのか?」
「えっ!?桜花姫ですって!?」
『彼奴!やっぱり桜花姫だったのね!』
雪美姫は桜花姫に腹立たしくなる。一方の天狐如夜叉は失笑し始める。
「雪美姫は一度…桜花姫の変化の妖術で桜餅へと変化させられ…桜餅として彼女に捕食されたのだな!不謹慎だが傑作だな!」
「傑作って…」
雪美姫は赤面したのである。
「傑作ってあんたね!何を面白がって!」
雪美姫は失笑し続ける天狐如夜叉に激怒する。
「気にするな!雪美姫よ!桜花姫が人一倍異端者なのは存分に理解出来たぞ!」
面白がった天狐如夜叉であるが…。再度真剣そうな表情へと変化する。
「雪美姫?其方は不本意だったのだろう?」
天狐如夜叉は小声で問い掛ける。
「えっ?何が不本意なのよ?」
雪美姫は天狐如夜叉の問い掛けに一瞬動揺するものの…。
「私自身も雪美姫も境遇は一緒だからな…」
「えっ…あんたと私が一緒の境遇ですって?」
「寒冷化事件が発生する先日に…雪美姫は悪霊に憑霊されたのだろう?」
雪美姫は天狐如夜叉の発言に混乱し始める。
「えっ…私が悪霊に…憑霊されたって!?」
「雪美姫が事件を発生させる前日だが…人型の黒雲に遭遇しなかったか?」
「人型の黒雲…えっ!?」
雪美姫はハッとしたのである。
「うろ覚えだけど…」
二年前の寒冷化事件を発生させる前夜…。雪美姫は宿六の不倫発覚が大変ショックであり宿六に対する怒気と極度の悲哀から四六時中落涙したのである。妖術で宿六の殺害後…。自分自身如何するべきなのか苦悩し続けたのである。苦悩し続けた直後…。自身の背後より正体不明の人型の黒雲が出現したのである。雪美姫は人型の黒雲に警戒し続けるのだが…。無意識的にも人型の黒雲に憑依されたのである。人型の黒雲に憑依された直後…。雪美姫は自分自身以外の者達に対する殺意と憎悪が増強したのである。
「正直記憶は曖昧なのだけれどね…人影の正体は悪霊だったのね…」
雪美姫の証言から天狐如夜叉は人影の正体を確信する。
「雪美姫に憑霊した人影の正体は恐らく…実体化した邪霊餓狼の怨念だろう…」
「えっ!?実体化した邪霊餓狼の…怨念ですって!?」
「私自身も三十二年前の出来事だが…地上世界より目覚めた時期に正体不明の人影と遭遇して…憑霊されたのだ…」
「えっ…神族のあんたが悪霊に憑霊ですって?邪霊餓狼って悪霊の集合体よね?如何して神族のあんたが悪霊の集合体なんかに憑霊されたのよ?」
天狐如夜叉は物静かな様子で返答したのである。
「私は数万年前に勃発した人間達との大戦争で敗走した…数多くの神族が極悪非道の人間達に殺害され…迫害されたのだ…」
敗走した天狐如夜叉は暗闇の深海底へと入水…。暗闇の深海底で長期間永眠し続けたのである。数万年が経過…。地上世界が清浄化したと同時に天狐如夜叉は地上世界へと戻ったのである。久方振りに地上世界へと戻れた天狐如夜叉であるが…。逃亡しか出来なかった自身の非力さと家族と仲間を見殺した罪悪感により苦悩したのである。苦悩し続けた天狐如夜叉の背後より…。人型の黒雲が出現したのである。
「人影は自身を犬神の神族と名乗り始め…愚劣なる全人類…地上世界に存在する生命体を殲滅しろと私に命令して…私の肉体へと憑霊したのだ…」
人型の黒雲に肉体が憑霊された結果…。天狐如夜叉は最終的に禁断の儀式を実行したのである。
「心苦しいが…私は邪霊餓狼の誘導によって消滅の儀式を実行したのだ…」
「犬神の神族?邪霊餓狼の正体って…犬神の亡霊だったのね…」
邪霊餓狼とは本来…。古代人達との大戦争で生還した神族の一人だったのである。天狐如夜叉が深海底にて休眠中…。戦乱時代末期にて犬神の神族は北国の鬼神月影幽鬼王によって殺害されたのである。犬神の神族は悪霊の集合体邪霊餓狼として復活…。無数の亡者達の亡魂やら人間達の悪意と融合化し続けて強大化したのである。邪霊餓狼は今迄にあらゆる亡者達を神出鬼没の悪霊として実体化…。あらゆる生命体に憑霊しては全人類の殲滅を画策し続けたのである。
「小猫姫と対面する以前の私は精神的には非常に未熟であった…精神が未熟であったからこそ悪霊の邪霊餓狼に憑霊されたのだ…小猫姫と対面しなければ私自身は破滅したであろうな…」
天狐如夜叉は再度雪美姫を凝視する。
「私と雪美姫が悪霊に憑霊されたのは人生に絶望したのが契機であろう…邪霊餓狼は人生に絶望した人間に憑霊して活動するからな!本体である肉体が消滅したとしても…呪力のみは残留思念として憑依させた他者に残存し続けるのだ!小猫姫は勿論…桜花姫一行との奮闘で邪霊餓狼の呪力は完膚なきまでに消滅したからな…」
すると数秒後…。雪美姫はポロポロと涙が零れ落ちる。
「雪美姫…如何した?」
「正直良かったわ…私に事件を実行させたのは邪霊餓狼が原因だったのね…」
今迄は極度の罪悪感により心苦しかった雪美姫であるが…。真実を熟知出来て安心したのである。
「雪美姫よ…私自身も同罪なのだ!」
「悪霊に誘導されたとしても私達は実行犯だからね…精一杯贖罪しましょう!」
「当然だとも!雪美姫!」
すると天狐如夜叉は赤面した表情でボソッと発言する。
「小猫姫は勿論だが…異端者の月影桜花姫にも感謝しなければ…正直私にとって彼女は気に入らないし…必要悪なのだろうが…」
天狐如夜叉は桜花姫を必要悪であると表現するものの…。
『天狐如夜叉は無理しちゃって…本当は桜花姫とも仲良くしたいのね!』
雪美姫は天狐如夜叉の心情を察知したのである。
「今後…人間達と共存するには長時間が必要不可欠だが…私なりに努力するさ…」
「一緒に頑張りましょうよ!天狐如夜叉!」
「勿論だとも…雪美姫…今後は雪美姫と行動する時間も増加しそうだな!」
両者は今後とも仲良く出来ると実感する。すると雪美姫は満面の笑顔で…。
「天狐如夜叉!四日後の花火大会!折角だからあんたも参加しましょうよ!」
「花火大会だと?恒例行事なのか?」
「勿論よ!桃源郷神国では一年に一度国全体で開催されるのよ!折角だから天狐如夜叉も一年に一度の花火大会に参加しましょうよ!」
天狐如夜叉は一瞬困惑したのである。
「仕方ないな…私も一年に一度の花火大会に参加するのも悪くないな!」
天狐如夜叉は承諾する。
『今回の花火大会も…人間達と共存する社会勉強だからな…』
雪美姫は天狐如夜叉の承諾に大喜びしたのである。
「決定ね!」
天狐如夜叉と雪美姫は食事を再開する。
第十七話
花火
巨大隕石の落下阻止から一週間後の真夜中…。桃源郷神国国内の恒例行事である花火大会が国全体で開催されたのである。東国の歓楽街では大勢の町民達が天空の花火を眺望…。歓楽街の大路には無数の提灯やら多種多様の屋台が櫛比する。近海には何十隻もの小型の屋形船が確認出来る。
「躑躅姫♪躑躅姫♪花火♪花火♪花火♪」
歓楽街の人通りでは浴衣姿のウィプセラスが満面の笑顔で大はしゃぎしたのである。周囲の町民達は大はしゃぎし続けるウィプセラスに注目する。
「ウィプセラス!子供みたいに大はしゃぎしないの!町民達に迷惑でしょう!」
躑躅姫は赤面した表情で大はしゃぎし続けるウィプセラスに注意したのである。すると躑躅姫とウィプセラスの背後より…。
「躑躅姫♪あんたはウィプセラスの保護者みたいね♪」
「えっ!?貴女様は月影桜花姫様!?」
躑躅姫とウィプセラスは歓楽街の人通りにて桜花姫一行と邂逅したのである。
「躑躅姫様はウィプセラスの母親みたいですね!微笑ましい光景ですよ!」
「八正道様も…」
躑躅姫は気恥ずかしくなったのか表情が赤面する。すると天狐如夜叉はウィプセラスに恐る恐る…。
「ウィプセラスは沈黙し続ければ成人の女子同然であるが…非常に勿体無いな…」
「仕方ないわよ♪天狐如夜叉♪ウィプセラスは外見だけなら童顔の美少女だけど脳味噌は赤子同然だからね♪」
桜花姫は満面の笑顔で断言する。すると躑躅姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「桜花姫様?山猫妖女の小猫姫は?」
「えっ…」
桜花姫は突然の躑躅姫の問い掛けに困惑したのである。
「小猫姫ですって?彼女は…」
桜花姫は沈黙するのだが…。
「あんたが心配しなくても…山猫妖女の小猫姫なら夜桜太郎丸って彼氏と一緒に熱愛中なのよ♪私達とは別行動だからね♪」
雪美姫が小声で躑躅姫に告白する。
「躑躅姫が心配しなくても小猫姫は大丈夫だからね♪」
小猫姫は若武者の夜桜太郎丸と一緒に別行動で花火大会に参加したのである。
「えっ…夜桜太郎丸?」
『小猫姫に彼氏ですって?』
突如として躑躅姫の表情が無表情へと変化し始める。
「彼氏って…一体何かしら?小猫姫に彼氏ですって?」
躑躅姫は無表情で再度雪美姫に問い掛ける。
「雪美姫様?小猫姫に彼氏って本当ですか?」
「本当よ!小猫姫も太郎丸との恋愛に無我夢中みたいなのよね!」
初日こそは緊張したものの…。今現在では小猫姫と太郎丸は友達関係から恋愛関係へと発展したのである。
「恋愛ですって?」
『山猫妖女の小猫姫に彼氏…彼氏がね…小猫姫に…』
躑躅姫は雪美姫の恋愛の一言に沈黙し始めたかと思いきや…。僅少であるが躑躅姫の形相が殺気立った鬼神の形相へと変化し始めたのである。
「はぁ…雪美姫…あんたは極度の馬鹿者ね…」
桜花姫は雪美姫の言動に呆れ果てる。
「えっ…何よ?桜花姫?」
雪美姫は珍紛漢紛の様子だったのである。
『躑躅姫?』
雪美姫は恐る恐る躑躅姫の表情を直視し始める。
「えっ…」
『非常に気まずいわね…私は馬鹿者だったわ…』
雪美姫は躑躅姫の様子から内心後悔したのである。
「御免なさいね…躑躅姫…小猫姫の話題は単なる私の作り話だからね…私の冗談よ!冗談!」
雪美姫は恐る恐る躑躅姫に謝罪する。一方の躑躅姫は無表情で…。
「雪美姫様…気にしないで下さい…別に雪美姫様は何も悪くないですよ…」
「えっ…躑躅姫…」
躑躅姫は気にするなと発言するが躑躅姫の表情から雪美姫は勿論…。周囲の者達は非常に気まずくなる。実際問題…。躑躅姫と小猫姫の関係性は犬猿の仲であり躑躅姫にとって小猫姫の話題は禁止事項である。
「躑躅姫…」
桜花姫は沈黙し始めた躑躅姫が気の毒に感じる。
「躑躅姫!あんたは別に気にしなくても…」
桜花姫は沈黙し続ける躑躅姫を慰撫したのである。
「桜花姫様…別に山猫妖女の小猫姫が人間の誰かと熱愛中であっても…私自身は何も気にしませんから…桜花姫様が心配されなくても私は大丈夫ですよ…」
躑躅姫は気にしないと無表情で断言するものの…。好敵手の小猫姫に対する極度の嫉妬心からか内心ピリピリし続ける。するとピリピリし続ける躑躅姫に年長者の天狐如夜叉が無表情で一言…。
「忍者妖女の躑躅姫よ…」
「天狐如夜叉様?今度は何ですか?」
躑躅姫はピリピリした態度で返事したのである。
「其方にとって小猫姫は好敵手なのかも知れないが…其方みたいな崇高なる妖女が人間の無頼漢なんかと熱愛して如何するのだ?男女交際は其方の自由であるが…何も自分自身と他者とを比較しなくとも…」
天狐如夜叉の意見に賛同したのか桜花姫も助言する。
「私自身も天狐如夜叉の意見に賛同するわ!躑躅姫にとって山猫妖女の小猫姫は好敵手でしょうけれど…所詮小猫姫は小猫姫だし!あんたはあんただからね!あんたが彼女に対抗して無理に恋愛しなくても…」
桜花姫は満面の笑顔で無邪気のウィプセラスを直視したのである。
「何よりも躑躅姫は彼女を子育てしないとね!あんたは誰よりも幸福なのよ!」
「えっ…」
『私が誰よりも幸福ですって?』
躑躅姫は恐る恐る背後でヘラヘラし続けるウィプセラスを直視する。
「ウィプセラス…」
「躑躅姫♪躑躅姫♪躑躅姫♪」
ウィプセラスは躑躅姫に力一杯密着したのである。
「本当♪あんたは誰よりも甘えん坊の子供みたいね…ウィプセラス♪」
躑躅姫は甘えん坊のウィプセラスが微笑ましくなる。
「躑躅姫♪大好き♪躑躅姫♪大好き♪」
桜花姫は満面の笑顔で躑躅姫に近寄り始める。
「あんた達!今夜は折角の花火大会なのよ!」
桜花姫は暗闇の夜空を指差したのである。
「ギスギスしないの!あんた達も!私達と一緒に夜空の花火を眺望しましょうよ!夜空の花火は最高よ!」
「勿論ですよ!桜花姫様!花火を眺望しましょう!」
躑躅姫は満面の笑顔で返答する。一同は天空の光り輝く無数の花火を眺望…。無数の花火に感動したのである。無数の光り輝く花火は暗闇の夜空全体を照明させる。
第十八話
祝福
場所は人魚王国アクアユートピアである。史上最強の天空魔獣…。天魔大皇帝との大戦闘から一月が経過した時期である。赤毛の人魚アクアヴィーナスはリビングで読書中だったのだが…。
「えっ!?」
突如として目前より気配を察知したのである。
「貴女は一体…誰なの!?」
アクアヴィーナスの目前には赤色のリップとアイシャドウ…。両耳には金剛石の勾玉イヤリングの女性が佇立する。頭髪は漆黒であり髪型は黒髪のストレートロングである。髪の毛は膝下へと到達する程度に長髪…。服装は血紅色のワンピースと紅玉のハイヒールである。頭髪には八重桜のヘアアクセサリーが確認出来る。両目の瞳孔は半透明の瑠璃色でありアクアヴィーナスは恐る恐る目前の女性に問い掛ける。
「貴女は…桜花姫なの?」
目前の女性は服装こそ現代風であるが最上級妖女の月影桜花姫と瓜二つだったのである。すると桜花姫と瓜二つの女性は満面の笑顔で…。
「私は下級妖女の【オウカプリンセス】なのよ♪戦後を祝福するわね♪」
正体不明の女性は自身を下級妖女のオウカプリンセスと名乗り始める。
「えっ?下級妖女…オウカプリンセスですって?戦後の祝福ですって?」
『オウカプリンセスが下級妖女なんて…冗談でしょう?』
アクアヴィーナスはオウカプリンセスから感じる魔力が下級クラスの低次元的存在とは程遠いと思考したのである。
『オウカプリンセス…多分だけど彼女の魔力はイーストユートピアの桜花姫に匹敵するわね…』
桜花姫と瓜二つのオウカプリンセスは最上級妖女の桜花姫と同等の強大なる魔力が感じられ…。オウカプリンセスの魔力が別次元に強力なのは一目瞭然である。
「オウカプリンセス…貴女は一体何者なの?」
アクアヴィーナスは警戒した様子で恐る恐るオウカプリンセスに問い掛ける。問い掛けられたオウカプリンセスは満面の笑顔で…。
「折角だからね♪貴女には特製の和菓子を提供するわね♪」
オウカプリンセスは妖術らしき超常現象を発生させリビングのテーブルに桜餅と紅茶を配置したのである。
「えっ!?異国のスイーツ!?」
アクアヴィーナスは驚愕し始める。
『桜花姫の大好物…桜餅だったかしら?』
テーブルに配置されたのは桜花姫の大好物だったのである。
「オウカプリンセス!?貴女は…桜花姫?やっぱりイーストユートピアの月影桜花姫なの!?」
アクアヴィーナスは再度オウカプリンセスに問い掛けるのだが…。
「如何でしょうね?私は下級妖女のオウカプリンセスよ♪」
オウカプリンセス本人は只管自身が下級妖女のオウカプリンセスであると自称し続けたのである。
「私は多忙だからね♪御免あそばせ♪」
するとオウカプリンセスは姿形が完膚なきまでに消失したのである。
「えっ!?オウカプリンセス!?」
すると床下には水晶玉が確認出来る。
「水晶玉だわ…」
アクアヴィーナスは床下の水晶玉を回収したのである。
『オウカプリンセス…結局彼女は一体何者だったのかしら?』
アクアヴィーナスはオウカプリンセスの正体を彼是と思考する。
「アクアヴィーナス♪戻ったわよ♪」
すると外出中だった母親のアクアキュベレーが戻ったのである。
「母様!?」
アクアヴィーナスはオウカプリンセスの内容を洗い浚い告白する。
「えっ…桜花姫様と瓜二つのオウカプリンセスですって?」
「私も突然の出来事だったから何が何やらサッパリなのよ!オウカプリンセスは一体何者なのかしら!?」
アクアキュベレーも珍粉感粉であったがテーブルの水晶玉に接触したのである。
「えっ!?一体何が!?」
アクアキュベレーは勿論…。アクアヴィーナスも驚愕する。
「オウカプリンセスの水晶玉って…異世界の光景を映写出来るの!?魔法の水晶玉だったのね…」
「現実なの!?荒唐無稽過ぎるわ!」
するとオウカプリンセスがあらゆる異世界に出没しては菓子類やら宝物を提供する光景が水晶玉の表面に映写されたのである。
「オウカプリンセスって自身を下級妖女なんて自称したけれども…彼女は私達が想像する以上の異世界観測者なのかも知れないわね…」
アクアキュベレーはオウカプリンセスが異世界の観測者であると確実視する。
「今直ぐダークスキュランとダークスプライトに報告しないと!」
アクアヴィーナスは即座に深海底魔女のダークスキュランとダークスプライトの家屋敷へと報告しに出掛けたのである。
最終話
タイムトラベラー
数十分後…。深海底魔女のダークスキュランとダークスプライトはアクアヴィーナスの家屋敷へと訪問する。アクアヴィーナスとアクアキュベレーはダークスキュランとダークスプライトに正体不明の下級妖女オウカプリンセスと遭遇した内容を一部始終報告したのである。
「下級妖女オウカプリンセス…一体何者なのかしら?」
ダークスキュランはオウカプリンセスが出現したであろうアクアヴィーナスの家屋敷の床面へと恐る恐る接触する。
「えっ…」
床面にはオウカプリンセスの魔力の痕跡が感じられるのだが…。
『オウカプリンセスの魔力…月影桜花姫本人と同質だわ!』
ダークスキュランはオウカプリンセスと桜花姫の魔力の一致に驚愕する。するとダークスプライトが恐る恐る…。
「ダークスキュラン?私も此処の床面から魔力は感じるのだけれどね…オウカプリンセスって自称下級の妖女…桜花姫の魔力と同質なのは一目瞭然だけれど微妙に不一致なのよね…」
ダークスプライトはオウカプリンセスと桜花姫の魔力が微妙に不一致であると発言したのである。
「オウカプリンセスと桜花姫の魔力が微妙に不一致ですって?一体何が微妙に不一致なのよ?」
ダークスキュランは恐る恐るダークスプライトに問い掛ける。
「ダークスキュランは気付かないかしら?アクアヴィーナスの家屋敷のみならず…人魚王国アクアユートピアの空気全体が清涼で非常に快感でしょう?」
今迄無自覚であったがダークスプライトの指摘によりアクアヴィーナスの家屋敷のみならず…。人魚王国アクアユートピアの空気全体が浄化されたのは明白であり空気は非常に快感だったのである。ダークスプライトの発言にアクアヴィーナスとアクアキュベレーも反応する。
「空気が清涼ね…」
「ひょっとしてオウカプリンセスが空気を魔法で浄化させたのかしら?」
するとダークスキュランがボソッと発言し始め…。
「オウカプリンセスは事象の変化…所謂変化の妖術で国内のギスギスした空気を神性アイテムに変化させたのかしら?」
ダークスキュランはテーブルに配置された高級そうな桜餅やら魔法の水晶玉に注目し始める。
『オウカプリンセスが桜花姫と同一の存在であれば…恐らくは事象の変化でギスギスした空気をテーブルに配置された神性アイテムに変化させるなんて片手間よね?こんなにも荒唐無稽の芸当が可能なのは桜花姫位しか想像出来ないし…』
オウカプリンセスの魔力の痕跡に再度接触すると桜花姫の魔力よりも非常に快感であり微妙に異質的だったのである。ダークスキュランは恐る恐る…。
「完全に私の予想なのだけれどね…オウカプリンセスの正体って数千年後の未来世界の月影桜花姫の可能性は?オウカプリンセスは所謂荒唐無稽のタイムトラベラーね…」
ダークスキュランの推測に周囲の者達は絶句し始める。
「オウカプリンセスが未来世界の月影桜花姫…オウカプリンセスが荒唐無稽のタイムトラベラーって表現は否定出来ないかもね…不老不死の万能細胞を所持する彼女であれば数千年後の桜花姫って推測は確実かも知れないわ…」
ダークスキュランの推測にダークスプライトは勿論…。アクアヴィーナスとアクアキュベレーは納得する。
「やっぱりオウカプリンセスの正体は未来世界の桜花姫だったのね…」
「未来世界の桜花姫様…高次元的存在へと昇格されたのに下級クラスの妖女を自称されるなんて謙遜的なのね…」
するとダークスキュランは恐る恐る魔法の水晶玉を回収したのである。
「オウカプリンセスに手渡された魔法の水晶玉だけれど…私とダークスプライトで徹底的に調査するわね…」
ダークスキュランとダークスプライトがオウカプリンセスの魔法の水晶玉を徹底的に調査するものの…。下級妖女オウカプリンセスの詳細は不明瞭だったのである。魔法の水晶玉の表面に接触するとオウカプリンセスの魔力は最上級妖女の月影桜花姫と瓜二つであるが…。両者の性質が微妙に異質的だったのである。以上の理由から下級妖女オウカプリンセスと月影桜花姫が完全に別人であると確定する。ダークスキュランとダークスプライトはオウカプリンセスの正体が数千年後の未来世界の月影桜花姫であり荒唐無稽過ぎるタイムトラベラーであると結論付けられる。一方アクアヴィーナスの自宅のテーブルに配置された桜餅を一口味見すると非常に美味しかったのか日頃のストレスやら苛立ちが完膚なきまでに緩和されたのである。
完結