桜花姫神話第零部

拠点

第零部

第一話

夜番活動
世界暦九千九百九十二年四月四日の真夜中…。東国武士団の夜番警備隊総大将であった月影鉄鬼丸は東国の国境より出現した悪霊を征伐しに出掛ける。
『東国の国境に悪霊が出現したのか…』
近頃は悪霊の出現頻度が頻繁であり常日頃から多忙の鉄鬼丸は非常に苛立ったのである。東国武士団は神出鬼没の悪霊征伐に対応出来る夜番警備隊を結成させるのだが…。安穏時代は長年の平和の弊害からか凄腕の剣豪は実質一握りだったのである。唯一剣豪と畏怖される武家一族の月影一族名手…。月影鉄鬼丸が悪霊征伐専門の夜番警備隊大隊長に抜擢されたのである。鉄鬼丸は安穏時代の桃源郷神国では随一の剣豪であり鉄鬼丸に対抗出来る剣豪は今現在皆無とも断言出来る。鉄鬼丸の性格は非常に生真面目であり人一倍厳格として知られる。普段は単独での活動が大半であり彼自身の性格上…。同期の同僚達からは取っ付き難い一匹狼とも揶揄される。西国の自宅から移動を開始し始めてから二時間後…。鉄鬼丸は東国の国境へと到達したのである。
『此処が神出鬼没の悪霊が出現するとされる…噂話の場所だな…』
鉄鬼丸は恐る恐る周囲を警戒するのだが…。
『悪霊が出現しそうな雰囲気であるが…』
周囲は暗闇の自然林ばかりで悪霊らしき物体は何一つとして確認出来ない。
『今夜は神出鬼没の悪霊は出現しないのか?』
数分間が経過するのだが…。神出鬼没の悪霊は出現しない。
「はぁ…」
『今回は仕方ないな…』
今夜は出直そうとかと思いきや…。
「ん?」
鉄鬼丸は突発的悪寒により極度の胸騒ぎを感じ始める。
『突然胸騒ぎが…』
すると数秒後…。
『一体何が出現したのか?』
背後の地中より数体の悪食餓鬼が出現したのである。
『此奴は悪食餓鬼か…』
鉄鬼丸は即座に護身用の刀剣を抜刀する。
「神出鬼没の悪霊よ…即刻貴様等を征伐する!」
護身用の刀剣を抜刀した鉄鬼丸は神速の身動きで悪食餓鬼に接近…。
「成仏せよ!」
神速の身動きで悪食餓鬼の頭首を斬撃したのである。頭首を斬撃された悪食餓鬼は身動きしなくなる。
『亡者達は成仏したか…』
一体の悪食餓鬼を仕留めるのだが…。
『悪霊は…恐怖心を感じられないのか?本能のみで活動するのか?』
悪食餓鬼は恐怖心が皆無であり彼等の大群は只管に鉄鬼丸へと殺到し始める。
「地獄の亡者達よ…貴様等は完膚なきまでに成仏せよ!」
鉄鬼丸は神速の身動きによって自身に殺到し続ける悪食餓鬼の大群に反撃…。悪食餓鬼の大群は全滅したのである。
「貴様達程度の力量で…私を食い殺そうなんて片腹痛いわ!」
鉄鬼丸は周囲の様子を確認する。
『如何やら悪霊は片付いたみたいだな…』
鉄鬼丸は自宅へと戻ろうかと思いきや…。
「ん?」
背後より無数の殺気を感じる。
『今度は…』
鉄鬼丸は警戒した様子で恐る恐る背後を確認したのである。
『此奴は…悪霊の新手か?』
背後には無数の悪食餓鬼が融合化した肉団子の怪物が出現…。
『肉団子みたいな図体だな…』
肉団子の怪物は一頭身の肉塊であり鈍足の身動きで鉄鬼丸に近寄る。
『此奴は悪霊の集合体…百鬼悪食餓鬼と呼称される怪物だな…』
鉄鬼丸の背後に出現したのは無数の悪食餓鬼が一体化した肉塊の悪霊…。百鬼悪食餓鬼である。
『こんな場所に悪霊の親玉が出現するとは…』
百鬼悪食餓鬼の体表に確認出来る無数の悪食餓鬼の頭部が標的の鉄鬼丸を凝視し始め…。無数の口先から猛毒の瘴気を放射したのである。百鬼悪食餓鬼の瘴気は黒煙であり黒煙に接触した地面…。周囲の植物が一瞬で枯死したのである。
『此奴は猛毒の瘴気みたいだな…』
純血の人間である鉄鬼丸にとって百鬼悪食餓鬼の瘴気は致命傷であり僅少でも体内に吸収すれば毒死は回避出来ない。
『此奴は非常に厄介だな…』
鉄鬼丸は呼吸を我慢した状態で百鬼悪食餓鬼に急接近したのである。
「成仏せよ!悪霊の集合体!」
鉄鬼丸は百鬼悪食餓鬼の胴体を一刀両断…。両断された百鬼悪食餓鬼は肉片が彼方此方に散乱すると無数の悪食餓鬼へと変化する。
『瘴気は浄化されたが…』
同時に放射された猛毒の瘴気は自然と浄化されたのである。
『百鬼悪食餓鬼の肉片から無数の悪食餓鬼に分裂するとは…』
分裂状態の無数の悪食餓鬼が鉄鬼丸に殺到し始める。
「覚悟しろ!悪霊の大群!」
対する鉄鬼丸は無数の悪食餓鬼を相手に無双…。数秒間で無数の悪食餓鬼を完膚なきまでに仕留めたのである。
『今度こそ神出鬼没の悪霊は片付けられたな…』
すると国境の殺気も感じられなくなる。
『如何やら無事に終了したみたいだな…』
鉄鬼丸は安堵したのである。無事に事件は解決出来…。
『悪霊は浄化出来たし…私は武家屋敷に戻ろうか…』
鉄鬼丸は西国の自宅へと戻ったのである。
「春海姫か…戻ったぞ…」
「お帰りなさいませ…鉄鬼丸様!」
春海姫は真珠の耳装飾と群青色の着物が特徴的であり頭髪は黒毛の長髪…。両目は半透明の血紅色である。自宅へと戻った鉄鬼丸に女房の春海姫は恐る恐る…。
「鉄鬼丸様!今夜も無事に戻られましたね…鉄鬼丸様が無事で私は一安心ですよ!」
春海姫は満面の笑顔で鉄鬼丸に緑茶を手渡したのである。
「春海姫よ…」
鉄鬼丸は肥大化した春海姫の下腹を恐る恐る凝視し始める。
「鉄鬼丸様?如何されましたか?」
「下腹が以前よりも満月みたいだな…」
「えっ…満月ですか?鉄鬼丸様…」
鉄鬼丸の突発的発言に春海姫は赤面したのである。
「数日後には…私達の赤ちゃんが誕生しますよ♪」
「数日後か…」
『数日後には…こんな俺でも一児の父親なのか…』
普段は厳格の鉄鬼丸であるが…。今日の鉄鬼丸は普段の取っ付き辛い鉄鬼丸とは別人みたいに温厚だったのである。
『鉄鬼丸様♪』
鉄鬼丸の様子に春海姫は満面の笑顔で微笑み始める。
「春海姫よ…」
すると鉄鬼丸は恐る恐る…。
「明日は休暇だからな…久方振りに俺と一緒に近辺の川辺にでも散歩しないか?」
「えっ?」
『鉄鬼丸様と!?川辺で散歩!?』
鉄鬼丸の発言に春海姫は一瞬驚愕する。鉄鬼丸は基本的に一人で行動するのが大半であり自宅でも朝晩の食事以外は単独行動が日常茶飯事だったのである。
「駄目だったか?春海姫?」
「駄目なんて…明日は私と一緒に散歩しましょう♪鉄鬼丸様♪」
春海姫は赤面した表情であるものの…。
『鉄鬼丸様と散歩なんて♪』
内心では鉄鬼丸との散歩に大喜びしたのである。

第二話

桜花
翌日の真昼…。鉄鬼丸と春海姫は近辺の川辺を散歩したのである。周囲は川音と風音の音色が村里全体に響き渡り…。満開に開花した桜花の樹木が川辺に確認出来る。鉄鬼丸は満開に開花した桜花の樹木を直視したのである。
「春海姫…今日は桜花の樹木が満開だな…」
「魅了されますね♪鉄鬼丸様♪」
満開に開花した桜花の樹木に二人は感動する。すると桜花の樹木に魅了された鉄鬼丸は恐る恐る…。
「春海姫?突然なのだが…」
「えっ?如何されましたか?鉄鬼丸様?」
鉄鬼丸は普段よりも緊張した様子だったのである。
『鉄鬼丸様…緊張したのかしら?』
鉄鬼丸は一瞬沈黙するのだが…。
「春海姫…」
鉄鬼丸は小声で発言する。
「子供の名前なのだが…俺達の子供が女の子だったら…」
鉄鬼丸は気恥ずかしくなったのか赤面し始めたのである。
「桜花姫なんて…名前は如何だろうか?」
「えっ…桜花姫ですか?」
春海姫は一瞬沈黙するものの…。
「桜花姫ですか♪」
春海姫は桜花姫の名前に微笑んだのである。
「桜花姫♪月影桜花姫♪春季の天女みたいで可愛らしい名前ですね♪鉄鬼丸様♪」
「えっ!?本当に桜花姫なんかで大丈夫なのか!?」
鉄鬼丸は春海姫の返答に驚愕する。
「正直桜花姫なんて適当に名付けた名前なのだが…」
春海姫は驚愕した表情の鉄鬼丸に満面の笑顔で即答したのである。
「勿論…私は大賛成ですよ!適当だったとしても私は反対しませんよ!折角鉄鬼丸様が名付けられた名前なのですからね…私は賛成しますよ!」
春海姫は鉄鬼丸の名付けた子供の名前に賛成する。
「大賛成だったか…春海姫…」
鉄鬼丸は一安心した表情であり内心大喜びだったのである。
「私自身は純血の妖女だから…多分出産予定の子供は女の子でしょうね♪」
基本的に妖女の性質上として母親の妖女は同種の妖女しか出産出来ないとされる。すると鉄鬼丸は恐る恐る問い掛ける。
「突然だが…春海姫よ…」
「如何されましたか?鉄鬼丸様?」
鉄鬼丸は緊張した様子であったが…。
「春海姫は…一匹狼みたいな俺なんかと一緒に生活して幸福だったのか?」
「えっ?突然如何されましたか!?鉄鬼丸様!?」
春海姫は突然の鉄鬼丸の問い掛けに吃驚したのである。
「鉄鬼丸様らしくないですね…」
春海姫は吃驚する反面…。鉄鬼丸の本音が意外にも感じられる。
「俺は正直…人一倍一匹狼みたいな性格だからな…こんな性格だから信頼し合える仲間達…親友も皆無だし…」
鉄鬼丸は自分自身の性格が気になるのか不安の様子だったのである。
「春海姫にとって俺との生活は気難しいかなって…気になったのだ…」
「えっ…鉄鬼丸様…」
春海姫は鉄鬼丸の突然の発言に困惑し始める。
『鉄鬼丸様って…意外と自分自身の性格が気になるのかしら?』
春海姫は鉄鬼丸の突然の問い掛けに困惑するものの…。
「私は今現在でも幸福ですよ!」
春海姫は満面の笑顔で返答する。
「私が鉄鬼丸様に見惚れたのですから!三年前に鉄鬼丸様と対面しなければ私は今頃神出鬼没の悪霊に食い殺されたでしょうね…」
三年前の出来事である。春海姫は真夜中の散歩中に神出鬼没の悪霊と遭遇…。食い殺される寸前に夜番警備隊の鉄鬼丸に守護され鉄鬼丸の勇敢さに見惚れたのである。
「春海姫は人一倍単純だな…春海姫らしいが…」
「えっ…」
『私って…単純なのかしら?』
春海姫は鉄鬼丸の一言に赤面する。
「ですが三年前の悪霊事件に遭遇しなければ…私は鉄鬼丸様とは婚姻出来なかったのですからね!」
「春海姫は悪霊に食い殺されたかも知れないからな…」
二人は自宅へと戻ったのである。

第三話

初孫
翌日の早朝…。薬屋の蛇体如夜叉が月影家の武家屋敷へと訪問する。
「邪魔するよ!春海姫!」
「蛇体如夜叉婆様…久し振りですね♪」
春海姫は蛇体如夜叉との久方振りの再会に大喜びしたのである。
「春海姫ちゃんよ!あんたが元気そうで安心したよ!」
春海姫の元気そうな様子に蛇体如夜叉は一安心する。
「ん?春海姫ちゃん…彼奴は?」
蛇体如夜叉は警戒した様子で問い掛ける。
「えっ?彼奴ですって?誰ですか?」
「あんたの亭主だよ!あんたの亭主は!?」
「鉄鬼丸様なら東国の警備に出掛けられましたよ…」
「彼奴は出掛けたのかい?非常に好都合だね!」
蛇体如夜叉は鉄鬼丸が不在でありホッとしたのである。
「えっ…蛇体如夜叉様?好都合って?」
春海姫は一瞬困惑する。
「彼奴は…私は鉄鬼丸が苦手でね…」
蛇体如夜叉は性格的に鉄鬼丸が苦手であり両者は犬猿の仲だったのである。
「鉄鬼丸様は一匹狼で厳格ですからね…」
春海姫は苦笑いする。
「本日は如何されたのでしょうか?蛇体如夜叉婆様?」
蛇体如夜叉は春海姫の問い掛けに即答する。
「あんたが月影鉄鬼丸って人間の武士と婚姻してから元気なのか如何なのか確認したかったのさ!」
「私は毎日元気ですよ♪蛇体如夜叉婆様は心配性ですね♪」
春海姫は満面の笑顔で返答したのである。
「私でも心配するよ!あんたは天女の村里では一番の気弱で病弱だったからね…当然心配するさ!」
天女の村里とは南国に存在する小村落地帯であり両親を亡くした孤児達は勿論…。人間達に迫害された妖女の子供達が生活する。安住の居住地である。幼少期では春海姫も蛇体如夜叉に世話され…。南国の天女の村里で生活したのである。弱肉強食の戦乱時代では各地の戦乱やら疫病によって両親を亡くした大勢の孤児達を蛇体如夜叉が養護…。子供達を世話したのである。
「春海姫ちゃん!人一倍気弱で病弱だったあんたが…数日後には一児の母親とはね…非常に感慨深いね!」
春海姫は赤面した表情で…。
「私にも子供が出来ますからね!」
すると蛇体如夜叉は小声で発言する。
「如何やら私にとっては初孫だね!私も初孫と対面したいね!」
「えっ?初孫ですって?」
春海姫は蛇体如夜叉の初孫の一言に反応したのである。
「初孫は初孫だよ!私にとってあんたは愛娘だからね!当然としてあんたの愛娘は私にとって正真正銘初孫だよ!」
「蛇体如夜叉婆様…」
春海姫は蛇体如夜叉の初孫発言に苦笑いする。
「何よりもね…あんたが元気そうで安心したよ!春海姫ちゃん!私は退散するね…無理したら駄目だよ!」
蛇体如夜叉は南国の村里へと戻ったのである。
「蛇体如夜叉婆様も元気そうで何よりだわ…」
春海姫は元気そうな蛇体如夜叉に微笑み始める。

第四話

死別
翌日の真夜中…。鉄鬼丸は不吉の気配を察知したのである。
『殺気か!?』
警戒した様子で刀剣と警備用の武具を装備…。鉄鬼丸は全速力で外出したのである。一方の春海姫は熟睡中であったものの…。
「えっ?」
室内の物音によって恐る恐る目覚める。
『鉄鬼丸様は?』
屏風に装飾された刀剣と甲冑が無かったのである。
『ひょっとして鉄鬼丸様は…』
春海姫は鉄鬼丸が外出したのであると察知する。春海姫が目覚めた同時刻…。
『此処は廃墟神社だな…』
一方の鉄鬼丸は近辺に位置する廃墟神社にて無数の殺気を察知したのである。
『ひょっとして此処に悪霊の大群か!?』
鉄鬼丸は暗闇の廃墟神社へと到達するのだが…。廃墟神社には無数の悪食餓鬼の血肉が彼方此方に散乱する。廃墟神社の中心部には藍色の着物姿…。木刀を所持した小柄の花魁らしき女性が確認出来る。
『彼女は…花魁なのか?如何してこんな場所に花魁が?』
こんなにも真夜中の片田舎に花魁らしき女性が一人で出歩くのを不自然に感じる。鉄鬼丸は警戒した様子で恐る恐る…。
「悪霊の大群は…花魁のあんたが退治したのか?」
問い掛けられた花魁らしき女性は背後の鉄鬼丸を無表情で直視し始める。
「其方は…人間の武士だな…」
花魁らしき女性は両目が半透明の群青色であり姿形は人間の女性であるが…。頭髪は銀髪の長髪であり非常に異質的だったのである。
「ん?」
『此奴は姿形が女人でも…正体は人外だろうな…』
鉄鬼丸は女性の異質的雰囲気から人間とは別物であると察知する。
「女人よ…其方は一体何者なのだ?」
鉄鬼丸は恐る恐る女性に問い掛ける。
「其方は人外なのは確実だな…名前を名乗るのだ…」
すると花魁らしき女性は名前を名乗り始める。
「私の名前は【天狐如夜叉】…大陸出身の神族とでも…」
「なっ!?」
鉄鬼丸は天狐如夜叉の神族の一言に反応する。
「其方は…大陸の神族だと!?本当なのか!?」
鉄鬼丸は自身を大陸出身の神族と名乗る天狐如夜叉に驚愕したのである。
『今現在の世の中でも…本物の神族が存在するとは…』
太古の旧世界を支配したとされる強大なる神族であるが…。戦乱時代以前の太古の大昔に古代人達との大戦争で敗北したのである。過半数以上の神族が古代人達によって殺害され…。迫害されたのである。
「古代の伝承では…蛇体如夜叉以外の神族は大昔に全員が虐殺されたと…」
今現在生存が確認出来る神族は実質桃源郷神国出身者の蛇体如夜叉のみとされる。
「如何やら今現在では間違った認識が各地で出回ったみたいだな…古代の人間達との大戦争で瀕死の状態だった私は同志達と一緒に異国の土地で肉体を治癒させたのだ…」
天狐如夜叉は数万年前の古代文明時代…。人間達との大戦争で瀕死の状態であり自身の同志達と一緒に異国の土地へと逃亡したのである。
「瀕死の状態から復活した私は以前よりも肉体が強化されたのだ…手始めに神聖なる土地に蔓延する虫けらの大群を蹴散らしたが…こんな奴等では強化された私の実力を発揮するには力不足であるな…」
天狐如夜叉は無表情で鉄鬼丸を凝視し始め…。
「非力の人間だとしても…相当の実力者である其方であれば地面の薄汚い害虫よりは私の実力を発揮出来そうだな…」
天狐如夜叉の雰囲気に圧倒されたのか鉄鬼丸は恐る恐る後退りし始める。
『彼女は其処等の悪霊よりも厄介そうだ…』
鉄鬼丸は対峙しただけで天狐如夜叉の強大さを察知する。
『人間の私では天狐如夜叉には対処出来ない…如何するべきか?』
鉄鬼丸は恐る恐る刀剣を抜刀したのである。
「相手が荒唐無稽の神族であったとしても…」
『私が彼女を阻止しなければ!西国の村里は勿論…何よりも春海姫と…桜花姫が…殺されるかも知れない!』
相手が自身よりも荒唐無稽に強大であっても阻止しなければ西国の村里は勿論…。女房の春海姫と愛娘の桜花姫が天狐如夜叉によって殺害されるのは明白である。
『姿形は非力の女人であっても…彼女は!』
鉄鬼丸は鬼神の形相で天狐如夜叉に睥睨する。
「天狐如夜叉とやら!覚悟しろ!」
鉄鬼丸は神速の身動きによって天狐如夜叉に急接近すると即座に斬撃したのである。すると天狐如夜叉は自身の木刀で間一髪防備する。
「其方は非力の人間としては非常に強力だが…相手が悪かったな…」
直後…。
「なっ!?」
『彼女は…木刀で!?』
摩訶不思議の超常現象が発生する。荒唐無稽の超常現象により鉄鬼丸の鋼鉄の刀剣が屈折したのである。
『天狐如夜叉は荒唐無稽の妖術を駆使したのか!?』
「私の刀剣が…一瞬で!?」
突然の超常現象に鉄鬼丸は愕然としたのか全身が膠着する。
「非力の其方が不思議がるのも当然であろうな…私の木刀は世界樹の妖星巨木の小枝から形作られた神剣なのだ…人間の刀剣が通用するか…」
「妖星巨木だと?」
天狐如夜叉の所持する木刀は世界樹の妖星巨木から形作られた代物である。神族特有の神力を混入すれば一時的に鋼鉄をも上回る硬質さを発揮出来るとされる。
「私の木刀は神力を混入すれば強度は鋼鉄をも上回る…死滅しろ!非力の人間!」
鉄鬼丸は天狐如夜叉に腹部を斬撃され…。
「ぐっ!」
『此奴は…木刀だけで…』
鉄鬼丸は地面に横たわったのである。
「ぐっ…」
『畜生が…』
腹部の傷口からは大量の鮮血が流れ出る。
「所詮其方は脆弱なる人間風情なのだ!神族の一人である私には勝利出来ない…死滅せよ!非力の人間…」
直後…。天狐如夜叉は身動きしなくなる。一方の鉄鬼丸は恐る恐る…。
「何故だ?何故…あんたは…瀕死の俺を…殺さない?あんたの実力なら俺を…簡単に斬殺出来るだろう?如何して…殺さないのだ?」
天狐如夜叉は無表情で返答する。
「今更瀕死の其方を斬殺しても無意味だ…失血死するのだな…非力の人間よ…」
すると鉄鬼丸は恐る恐る問い掛ける。
「あんたは…一体…何が主目的なのだ?」
「私の主目的だと?」
天狐如夜叉は即答したのである。
「太古の大昔に存在した…神族の君臨する神世界を再興させたいのだ…」
「神世界の…再興だと?」
鉄鬼丸は再度問い掛ける。
「何故あんたは…俺達…人間達に…復讐したいのか?」
鉄鬼丸が問い掛けると天狐如夜叉は即答する。
「太古の大昔…数万年前の大戦争で私達神族は愚劣なる人間達によって迫害され…完膚なきまでに駆逐されたのだからな…」
古代文明時代当時の神族は多種多様の超能力を所持した異類の少数民族であったが…。大勢の人間達を相手するには多勢に無勢だったのである。人間達との大戦争により大勢の神族が迫害され…。惨殺されたのである。
「今現在の強大化した私であれば…小国程度なら一日で破滅させられる…」
強大化した天狐如夜叉の実力は大国をも相手取れるとされる。
「即刻世界各地の人間達を全滅させたいが…幸運にも桃源郷神国には無数の薄汚い悪霊が蔓延中であるからな…彼等によって愚劣なる人間達が駆逐されるのも時間の問題なのだ…私が直接的に手出しせずとも桃源郷神国は無数の亡者達によって死滅させられるであろう…」
天狐如夜叉は地面に横たわった状態の鉄鬼丸を無表情で凝視し続けるのだが…。
「えっ…」
『天狐如夜叉…』
一瞬だが天狐如夜叉の涙腺から一粒の涙が零れ落ちたのである。
『涙腺から…涙を?如何して…彼女は一体何を…主張したいのだ?』
鉄鬼丸は天狐如夜叉の様子に内心驚愕する。天狐如夜叉の本心は不明であるが…。
『天狐如夜叉は俺に…如何しろと?彼女の本音は…』
天狐如夜叉は鉄鬼丸に無言で泣訴した様子だったのである。すると天狐如夜叉は無言の様子で姿形が消失…。退散したのである。
『畜生…迂闊だったか…』
鉄鬼丸は血塗れの状態であるが…。
「ぐっ…」
『春海姫…桜花姫…』
鉄鬼丸は瀕死の状態で自宅へと戻ったのである。
「ぐっ!」
地面には傷口の鮮血が一滴ずつ出血し続ける。
『畜生が…目前の視界が…』
鉄鬼丸は出血多量により視界が黒化し始め…。
『今夜が俺の…命日とは…』
全身がふら付いたのである。
『畜生が…』
鉄鬼丸は自宅の玄関へと到達するのだが…。力尽きたのか地面に横たわる。
『春海姫…桜花姫…俺は…俺は…』
鉄鬼丸は出血多量によって衰弱化したのである。
『畜生が…明日は桜花姫の出産日かも知れないのに…俺の桜花姫を…俺の両手で抱けないのは…非常に心残りだな…』
直後…。鉄鬼丸は完全に息絶えたのである。玄関口の物音に気付いた春海姫は即座に玄関へと移動したのである。
「えっ?鉄鬼丸様…鉄鬼丸様!?」
春海姫は鉄鬼丸の肉体に接触すると失血死したのだと察知する。
「えっ…」
『如何して…鉄鬼丸様が…』
春海姫は涙腺より涙が零れ落ちる。
「鉄鬼丸様…如何してなの!?鉄鬼丸様!」
武士団随一の剣豪…。月影鉄鬼丸が死去したのは桜花姫の誕生日前日の出来事だったのである。皮肉にも月影鉄鬼丸が死去した翌日の早朝…。四月七日に愛娘の月影桜花姫が誕生したのである。

第五話

妖怪
世界暦四千九百九十二年四月七日の早朝…。月影一族の分家に一人娘の月影桜花姫が誕生したのである。母親の春海姫は前日の月影鉄鬼丸の他界に暗然としたものの…。自身にとって義理の母親であり神族の一人である蛇体如夜叉の協力によって愛娘の桜花姫を精一杯養育したのである。彼女達の精一杯の養育により桜花姫は立派に成長出来…。桜花姫は西国の村里一番の童顔美少女であり村里の村人達からは俗界の天女と命名され大変可愛がられたのである。反面一部の人間達からは人間の美少女に変化した妖怪の子供であると冷罵され…。嫌悪されたのである。一方の桜花姫は自身を毛嫌いし続ける一部の人間達の冷罵は度外視…。特段気にしなかったのである。十二年後の世界暦五千四年五月二十七日の真昼…。桜花姫は暇潰しに村里を散歩したのである。
「退屈だからね…」
『家屋敷に戻ろうかしら?』
桜花姫は家屋敷に戻ろうかと思いきや…。
「何よ?あんた達?」
同世代らしき三人組の村娘が彼女を包囲したのである。
「あんたが…月影家の月影桜花姫だったわね?」
「気に入らないわね!あんたの白けた態度も気に入らないわ!」
彼女達は桜花姫を睥睨し始める。
「はっ?何よ?」
『鬱陶しい奴等ね…』
一方の桜花姫は彼女達の殺伐とした態度に苛立ったのである。
『彼女達は何様かしら?相手するのも面倒臭いわね…』
苛立った桜花姫であるが…。
「私は家屋敷に戻りたいの…悪いけど喧嘩なら今度ね…」
桜花姫は面倒臭そうな態度で返答したのである。
「はっ!?あんたね…」
「家屋敷には戻さないわよ!桜花姫!」
一人の村娘が隠し持った出刃包丁で桜花姫を威嚇する。
「あんた達は…本気なの?」
普段は冷静沈着の桜花姫であるが…。出刃包丁に警戒したのである。
「あんたは何もかもが人一倍気に入らないわ!何が俗界の天女よ!あんたは目障りなのよ!」
「両目の瞳孔も血紅色だし…あんたは本物の妖怪みたいだわ!」
「私が…妖怪ですって?」
桜花姫は妖怪の一言に一瞬反応する。
「あんたが妖怪の子供ならあんたの母親も純血の妖怪よね♪」
「妖怪の子供♪妖怪の子供♪」
彼女達は桜花姫を妖怪の子供だと揶揄したのである。
「あんたみたいな妖怪の子供は西国の村里には不要なのよ!妖怪の子供は金輪際村里には出歩かないでね!あんたは目障りだから!」
すると桜花姫は無表情で一言…。
「私が妖怪の子供ですって?あんた達は何様なのかしら?」
桜花姫は非常に苛立ったのか出刃包丁を所持する村娘を睥睨したのである。
「何よ?あんたは私達に反抗するの?」
桜花姫は小声で…。
「あんた等は鬱陶しいわ…」
桜花姫の一言に彼女達は反応する。
「はぁ?何よ?」
「私達が鬱陶しいですって?」
「あんた…私達に反抗するなんてね…」
桜花姫は鬼神の表情で村娘に怒号したのである。
「あんた達…私を妖怪の子供…妖怪の子供って鬱陶しいのよ!何様なのよ!?」
桜花姫は即座に妖術を発動…。
『招き猫に変化しろ…』
変化の妖術を発動したのである。
「えっ?」
すると出刃包丁を所持した村娘は桜花姫の発動した変化の妖術により全身から白煙が発生…。白煙に覆い包まれると村娘は招き猫に変化させられたのである。
「きゃっ!招き猫だわ!」
「やっぱり彼女は本物の妖怪なのよ!逃げないと今度は私達が妖怪の子供に殺されちゃうわ!」
二人の村娘は桜花姫の妖術に畏怖したのか即座に逃走する。
『所詮負け犬が…いい気味だわ…』
桜花姫は招き猫に変化した村娘に冷笑したのである。
「あんたは馬鹿者ね…私を妖怪の子供なんて揶揄するからよ…」
不本意であるが…。桜花姫は変化の妖術を解除する。
『気に入らないけれど人間に戻りなさい…』
解除すると変化の妖術で招き猫に変化させられた村娘は元通りの人間の姿形に戻れたのである。
「えっ!?元通りだわ…私は…人間に戻れたの!?」
桜花姫は無表情で村娘に近寄り始める。
「今度私を妖怪の子供なんて揶揄するなら…今度こそあんた達を本気で食い殺すわよ…覚悟するのね…」
「ひっ!御免なさい!」
三人の村娘は桜花姫に戦慄したのか一目散に逃走したのである。
「折角の自由時間が台無しだったわ…鬱陶しい奴等だったわね…」
『今度こそ家屋敷に戻りましょう…』
揉め事から数分後…。桜花姫は無事に家屋敷へと戻ったのである。

第六話

疾病
気分転換で出掛けた桜花姫であるものの…。
「はぁ…」
『折角の気分転換だったのに…最悪だわ…』
先程の揉め事に疲れ果てる。家屋敷の台所へと移動するのだが…。
「えっ!?母様!?」
母親の春海姫は疲労困憊の状態であり台所の床面へと横たわった状態だったのである。桜花姫は吃驚した様子で床面に横たわった状態の春海姫に近寄り始める。
「大丈夫!?母様!?」
春海姫の肉体は非常に高熱であり呼吸も重苦しい。
「母様は風邪かしら!?」
『如何しましょう!?』
すると薬屋であり神族である蛇体如夜叉の存在を想起したのである。
『蛇体如夜叉婆ちゃん…蛇体如夜叉婆ちゃんって薬屋だったわよね!?』
「早速薬屋の蛇体如夜叉婆ちゃんに!」
桜花姫は即座に南国の天女の村里へと疾走する。移動し始めてから一時間後…。
「蛇体如夜叉婆ちゃん!」
桜花姫は蛇体如夜叉の家屋敷に到達する。
「桜花姫ちゃん?随分と大慌ての様子だけど…一体何事かね?」
桜花姫は恐る恐る…。
「蛇体如夜叉婆ちゃん…母様が…」
「春海姫ちゃんが…一体如何しちゃったのかい?」
「蛇体如夜叉婆ちゃん…大変なの…母様が…母様が…死にそうなの…」
桜花姫は落涙したのである。
「母様が…高熱で死にそうなのよ!」
「えっ!?春海姫ちゃんが高熱で死にそうだって!?本当なのかい!?」
突然であるが…。
「一大事だ!止むを得ないね!」
蛇体如夜叉は桜花姫と一緒に西国の村里へと直行したのである。彼女達は移動を開始し始めてから一時間後…。彼女達は西国の桜花姫の家屋敷へと到達する。
「母様!?」
「春海姫ちゃん…大丈夫なのかい!?」
蛇体如夜叉は床面に横たわった状態の春海姫を確認したのである。恐る恐る春海姫の肉体に接触する。
『春海姫ちゃん…』
蛇体如夜叉の表情が一瞬険悪化するのだが…。
「えっ…蛇体如夜叉婆ちゃん!?母様は大丈夫なの!?」
「桜花姫ちゃん…心配しなくても春海姫ちゃんなら大丈夫だよ!」
蛇体如夜叉は不安そうな桜花姫に満面の笑顔で返答する。
「春海姫ちゃんは単なる疲労困憊による風邪だからね!数日間安静にすれば春海姫ちゃんは大丈夫だから!」
「はぁ…母様は単純に風邪だったのね…」
桜花姫は極度の緊張状態から解放され…。一安心したのである。
「春海姫ちゃん…」
蛇体如夜叉は再度春海姫の左手に接触…。すると重苦しい表情だった春海姫の表情が安楽に変化する。
「母様の表情が…蛇体如夜叉婆ちゃんの神力で母様の風邪が完治したのね…」
桜花姫は大喜びしたのである。直後…。
「えっ…私は?」
春海姫は恐る恐る目覚める。
「母様!」
桜花姫が力一杯春海姫の腹部に密着したのである。
「桜花姫!?如何しちゃったのよ!?随分大慌てね…」
突然の出来事に春海姫は混乱する。
「春海姫ちゃん…突然だから吃驚しちゃったかも知れないけれどね…」
蛇体如夜叉は春海姫に先程の出来事を洗い浚い告白したのである。
「えっ…私が…」
自身が卒倒したのは無自覚であり春海姫は愕然とするのだが…。
「桜花姫…心配させちゃって御免なさいね…」
「大丈夫よ…大丈夫だから…私は…」
桜花姫は落涙する。
「如何やら一件落着だね!私は南国の村里に戻ろうかね…」
「蛇体如夜叉婆様…感謝しますね!」
桜花姫と春海姫は蛇体如夜叉に感謝したのである。
「安静が大事だよ!春海姫ちゃん!」
すると蛇体如夜叉は笑顔で帰宅する。数分後である。蛇体如夜叉は帰宅中…。
『春海姫ちゃん…あんたは今後…』
蛇体如夜叉の涙腺より涙が零れ落ちる。
『長生き出来ないのね…春海姫ちゃん…』
蛇体如夜叉は春海姫の運命を覚悟したのである。
『桜花姫ちゃんよ…御免ね…あんたの母さんはね…』
今回の出来事以降…。春海姫は状態が戻ったのか今迄と同様に通常の生活へと戻れたのである。

第七話

天道天眼
四日後の真昼…。桜花姫は暇潰しに西国の天狗山にて登山したのである。
「はぁ…」
桜花姫は不満そうな様子で一息し始め…。
『本当…毎日が退屈ね…』
桜花姫は毎日の日常生活が退屈であり憂鬱だったのである。
『面白そうな出来事でも発生しないかしら?』
桜花姫は山道を移動中…。
「えっ?」
『何かしら?』
突如として天空より無数の石ころが地面に落下したのである。
『石ころ!?』
危険を察知した桜花姫であるが…。突如として岩山の天辺を直視したのである。
「えっ!?」
すると等身大の巨石が落石し始める。
『落石だわ!』
危機を察知した桜花姫であるが…。
「きゃっ!」
桜花姫は不運にも落下中の巨石が自身の背中に直撃したのである。
「ぐっ!」
背中の傷口からは大量の鮮血が流れ出る。
『鮮血が…私は…こんな場所で失血死しちゃうのかな?母様…蛇体如夜叉婆ちゃん…私は死にたくないよ…』
桜花姫は落石の直撃により背中を大怪我…。瀕死の状態であり意識が遠退いたのである。落石事故の発生から数時間後…。突然の落石により虫の息であった桜花姫であるが地元の村人達に救助されたのである。村人達の尽力によって救助された桜花姫であるが…。桜花姫の意識は依然として戻らず母親の春海姫は絶望したのである。
「如何して…」
『如何して私の桜花姫が…こんな状態に!?』
桜花姫の生存は絶望的であり春海姫は涙腺より涙が零れ落ちる。
「桜花姫…桜花姫!?」
すると家屋敷の戸口より神族の蛇体如夜叉が訪問する。
「春海姫ちゃん!?桜花姫ちゃんが落石で瀕死状態なのは本当なのかい!?」
蛇体如夜叉は地元の村人達から桜花姫の噂話を傾聴…。早急に桜花姫の家屋敷へと直行したのである。
「桜花姫ちゃんは!?」
「蛇体如夜叉婆様…桜花姫は…」
蛇体如夜叉も瀕死状態の桜花姫に絶望する。
『桜花姫ちゃん…』
最早桜花姫は虫の息であり絶望的だったのである。
『彼女は…私にとって自慢の孫娘だったのに…如何して桜花姫ちゃんが?』
蛇体如夜叉も涙腺から涙が零れ落ちる。
「蛇体如夜叉婆様…如何して子供の…桜花姫が母親の私なんかよりも…」
「春海姫ちゃん…」
蛇体如夜叉は春海姫の悲痛の発言に何も返答出来なかったのである。
「はぁ…」
春海姫は絶望する。
『私の…私の桜花姫は…』
桜花姫の最期を覚悟した直後…。
「うっ!ぐっ…」
突如として桜花姫の意識が戻ったのである。
「えっ!?桜花姫!?」
「桜花姫ちゃん!?あんたは意識が戻ったのかい!?」
「ぐっ!うっ!はぁ…」
春海姫と蛇体如夜叉は突如として意識の戻った桜花姫に驚愕する。
「はぁ…はぁ…」
桜花姫は恐る恐る目覚める。
「えっ…私は…一体?此処は?」
桜花姫は寝惚けた様子であり無表情で周囲を直視し始める。
「えっ…母様?蛇体如夜叉婆ちゃん?如何して私はこんな場所に?ひょっとして此処は天国なの?私は…落石で死んじゃったのかしら?」
春海姫は寝惚けた様子の桜花姫に恐る恐る返答する。
「桜花姫…此処は私達の家屋敷よ…現実なのよ…」
「えっ…現実ですって?此処は私達の…家屋敷なの?」
桜花姫は周辺の様子を確認したのである。
「えっ!?現実ですって!?」
桜花姫は恐る恐る自身の背中を接触し始め…。
「背中の傷口は!?私は落石で…」
蛇体如夜叉は恐る恐る桜花姫の背中の傷口を確認したのである。
「完治状態だね…あんたは無傷だよ…桜花姫ちゃん…」
「桜花姫の背中が無傷ですって!?」
春海姫も即座に桜花姫の背中を確認する。
「本当ですね…蛇体如夜叉婆様…如何して変化の妖術しか使用出来ない桜花姫が…治癒の妖術を発動出来たのかしら?」
桜花姫が駆使出来る妖術はあらゆる対象を変化させる変化の妖術のみである。現段階の桜花姫では変化の妖術以外の妖術は使用出来ない。
「治癒の妖術ですって?一体何かしら?」
不思議がる桜花姫は背後の春海姫と蛇体如夜叉に問い掛けるのだが…。
「えっ!?桜花姫!?」
「現実かね?桜花姫ちゃんの両目が…」
春海姫と蛇体如夜叉は桜花姫の両目に愕然とする。
「えっ…二人とも…如何しちゃったのよ?」
一方の桜花姫は愕然とし続ける春海姫と蛇体如夜叉の様子に困惑したのである。
「桜花姫…あんたの両目が…半透明の瑠璃色に…」
「私の両目が…瑠璃色ですって!?」
桜花姫の両目の瞳孔は半透明の血紅色であるが…。今現在の桜花姫の両目は半透明の瑠璃色に発光した状態だったのである。蛇体如夜叉は桜花姫の両目に恐る恐る…。
「ひょっとすると桜花姫ちゃんの両目は…天道天眼かね?」
「天道天眼ですって?天道天眼って何かしら?」
「蛇体如夜叉婆ちゃん…天道天眼って何よ?」
春海姫と桜花姫は不思議そうな表情で蛇体如夜叉に問い掛ける。
「天道天眼はね…五百年前の戦乱時代末期に…元祖妖女とされる桃子姫が開眼した伝説の神性妖術だよ…」
「元祖妖女の桃子姫が開眼した神性妖術ですって?」
「正直私には何が何やら…」
桜花姫も春海姫も内心珍紛漢紛だったのである。
「突然だからあんた達には理解出来ないかも知れないがね…神性妖術の天道天眼を開眼した妖女は現存するあらゆる妖術を駆使出来るらしいよ…当然として天道天眼を開眼出来る妖女は一握りだけどね…」
「あらゆる妖術を!?」
「先程の落石による背中の傷口が完治出来たのも…桜花姫ちゃんは無意識的に治癒の妖術を発動したみたいだね…」
桜花姫は恐る恐る…。
「天道天眼を開眼したのであれば…私は今迄以上に妖術を駆使出来るのかしら?」
「応用出来るのであれば…治癒の妖術以外の妖術も駆使出来るかも知れないね…」
蛇体如夜叉は桜花姫の問い掛けに返答に一瞬困惑する。
「桜花姫ちゃんの場合…妖力だけなら普通の妖女よりも桁違いに莫大だからね…無論桜花姫ちゃんが天道天眼を抑制出来るかは別問題だけど…」
桜花姫は誕生当初から通常の妖女よりも妖力が莫大であり天道天眼は勿論…。多種多様の妖術を抑制するのは非常に困難であると予想したのである。下手に高等系統の妖術を連発し続ければ肉体への負担は勿論…。強大過ぎる妖力を抑制出来ず自分自身以外の他者を殺害する可能性も否定出来ない。蛇体如夜叉は今以上に桜花姫が生き辛くなると予想したのである。
「天道天眼を私利私欲に使用するのか…其処等の村人達に貢献するのかは桜花姫ちゃんの自由だよ…」
蛇体如夜叉は一安心したのか玄関の戸口へと移動する。
「何はともあれ…桜花姫ちゃんが無事なのが何よりだよ!達者でね!」
蛇体如夜叉は南国の天女の村里へと戻ったのである。移動中…。蛇体如夜叉は無言で帰宅したのである。
『桜花姫ちゃん…ひょっとすると彼女は…桜花姫ちゃんは元祖妖女…桃子姫の再来なのかも知れないね…』
蛇体如夜叉は内心…。天道天眼を開眼した桜花姫が元祖妖女の桃子姫の再来であると予測したのである。蛇体如夜叉が戻ったと同時に…。桜花姫の両目の瞳孔が半透明の瑠璃色から半透明の血紅色へと戻ったのである。
「桜花姫…貴女の両目が戻ったわ…」
「えっ?私の両目…戻っちゃったの?」
何がともあれ春海姫は意識が戻った桜花姫に一安心する。
『桜花姫が無事で良かったわ…』
桜花姫の無事に安堵する一方…。春海姫は先程の桜花姫の両目が瑠璃色に発光した超常現象が気になる。
『天道天眼だったかしら?結局天道天眼って…一体何かしらね?』
春海姫は天道天眼の存在が気になったのである。

第八話

殺害
天狗山での落石事故以降…。特段変化が無かったのか桜花姫と春海姫は平穏に生活したのである。落石事故の一件以後…。桜花姫は何度か神性妖術の天道天眼が発動出来るか試行し続けるのだが天道天眼は一度として発動されない。落石事故から二年後の世界暦五千六年夏頃の時期である。
「可笑しいわね…」
『やっぱり天道天眼…発動出来ないわね…』
十四歳の桜花姫は天道天眼が発動出来ないか毎日試行し続けるものの…。
「はぁ…」
『結局…二年前の落石事故では偶然だったのかしら?』
結局天道天眼は一度も発動されなかったのである。
「仕方ないわ…」
『暇潰しに散歩しましょう…』
桜花姫は暇潰しに散歩に出掛ける。近所の村道を移動中…。
「えっ?」
偶然にも出くわした村人達が桜花姫に畏怖したのか恐る恐る後退りしたのである。
『何かしら?如何して村人達は私から後退りするのよ?』
最初は気にならなかったが…。出くわした村里の大人達やら子供達が桜花姫を直視すると一目散に逃走したのである。
『村人達の私に対する反応…本物の悪霊にでも遭遇した反応みたいだったわ…』
桜花姫は村人達の態度に一瞬腹立たしくなるものの…。
『失礼しちゃうわね…』
気にせず只管に村道を直進し続ける。すると民家の村道にて以前遭遇した村娘と遭遇したのである。
「ひっ!桜花姫!?如何して妖怪のあんたがこんな場所に!?」
村娘は非常に警戒した様子であり恐る恐る後退りする。
「妖怪なんて失礼しちゃうわね!一体何様よ!?私を悪霊と遭遇したみたいに後退りするなんて…」
村娘は恐る恐る桜花姫を睥睨したのである。
「何もかも全部あんたが悪いのよ!あんたが妖怪の子供だから村人達に毛嫌いされるのよ!何もかもあんたの自業自得でしょうが!」
「ひょっとしてあんた…村人達に喋ったの?」
「えっ…」
桜花姫は問い掛けると村娘は動揺し始める。
「如何やらあんたの反応…図星みたいね…」
桜花姫は村娘の反応に図星であると感じる。村娘は先日の出来事を村人達に告白…。噂話は西国の村里全域に出回ったのである。
「はぁ…私が妖怪の子供ですって?」
「何よ!?あんたが私に妖術なんて駆使するからよ!桜花姫…全部あんたが悪いのよ!あんたが出歩かなければ私だって何も…普通に生活出来るのに!」
桜花姫は村娘の発言に怒気が頂点に到達する。
「如何やらあんたは…」
「何よ?桜花姫…」
村娘は桜花姫に対する極度の恐怖心からか身震いし始める。
「あんたは私に殺されたいみたいね…」
「えっ…桜花姫?あんたは本気なの?本気で私を…」
桜花姫は殺気立った表情である。
『桜花姫…本気の殺意かしら?』
桜花姫の様子から本気の殺意が感じられ…。村娘は桜花姫の殺気立った形相に戦慄したのである。
『桜花姫の表情…本気っぽいわね…』
一方の桜花姫は今度こそ村娘を本気で殺そうかと思いきや…。
「はぁ…」
『こんなにも無価値の雑魚…殺しても仕方ないわね…』
呆れ果てた桜花姫は家屋敷へと戻ったのである。
「桜花姫…」
『私は…一瞬彼女に殺されるかと…』
村娘は命拾い出来たものの…。極度の恐怖心により涙腺から涙が零れ落ちる。一方の桜花姫は無事に家屋敷へと戻れたものの…。
「えっ!?」
居室の畳表には数個の石ころが散乱した状態であり室内の障子には複数の風穴が確認出来る。
『一体…何よ?』
寝室へと移動すると春海姫が廃人みたいな様子だったのである。
「母様!?如何しちゃったのよ!?大丈夫!?」
桜花姫は恐る恐る春海姫に近寄る。
「桜花姫…貴女…」
「何よ…母様?」
すると春海姫は落涙したのである。
「桜花姫…貴女は金輪際…昼間は出歩かないで…」
「えっ…母様…一体何を?出歩くなって…何よ?」
先日の村娘との揉め事により桜花姫の噂話は西国の村里全域へと拡散する。一方の桜花姫は納得出来ず…。
「如何して私達が我慢するのよ!?悪いのは私に喧嘩を吹っ掛けた奴等なのよ!」
「桜花姫が悪くないのは理解出来るけれど…私達は普通に生活したいの…私は今後も貴女と平穏に生活したいのよ…」
「母様!私は我慢出来ないわ!」
桜花姫は村人達に対する怒気が頂点に到達したのである。
「母様…私は…今直ぐにでも奴等を!村人達を!」
桜花姫の形相が鬼神の形相に変化し始める。
「私は我慢出来ないわ!今直ぐにでも村人達を皆殺しに!」
「えっ…桜花姫?貴女は一体何を!?本気なの!?」
「私は…」
桜花姫の様子から本気の殺意が感じられる。
『桜花姫…』
春海姫は桜花姫の様子に不安感が頂点に到達した直後…。
「ぐっ!」
春海姫は重苦しそうな様子であり吐血し始めたのである。
「えっ!?吐血!?母様!?如何しちゃったのよ…大丈夫!?」
『母様に一体何が!?如何して母様は吐血したのよ!?』
春海姫は息苦しさから深呼吸が目立ち始める。
「桜花姫…私から…逃げなさい…今直ぐに…貴女を死なせたくないの…私は貴女を…殺したくないのよ…」
「えっ!?」
直後である。春海姫は両目から出血…。どす黒い血液の涙が流れ出る。
『彼女は母様なの!?』
最早今現在の春海姫は今迄の春海姫とは完全に別人だったのである。
「母様!?大丈夫!?」
「桜花姫…貴女は今直ぐ私から逃げなさい…私は貴女を…殺したくない…殺したくないのよ…逃げなさい…桜花姫!」
春海姫は皮膚の一部が焼け爛れた状態に変化し始め…。左目の眼球が落下する。春海姫は悪霊みたいな形相に変化したのである。
「桜花姫…桜花姫…」
春海姫は幽霊みたいな風貌で這いずり始め…。桜花姫に近寄ったのである。
「きゃっ!」
『如何して母様が悪霊に!?』
桜花姫は春海姫の様子から神出鬼没の悪霊を連想する。
『母様に一体何が!?』
桜花姫は極度の恐怖心からか全身が膠着し始め…。身動き出来ず逃げたくても逃げられなかったのである。
「桜花姫…桜花姫…今直ぐ私から…逃げなさい…」
春海姫は桜花姫の肉体に接触…。
「母様!?私を殺さないで!」
「私は…貴女を殺したくないのよ…今直ぐ逃げなさい…桜花姫…」
すると春海姫の右目より一粒の涙が零れ落ちる。
「桜花姫…私を…私を殺して…私は貴女の母親として…死にたいのよ…私を殺しなさい…貴女以外の誰かに殺されるよりは…貴女に…殺されるなら…私は…本望よ…」
春海姫は泣訴する。
『母様…』
直後である。
「えっ…」
突発的に体内の妖力が急上昇し始める。
『一体何が?』
桜花姫の両目が半透明の瑠璃色に発光した直後…。無意識的に神性妖術の天道天眼が発動されたのである。
『天道天眼だわ…』
如何して突発的に天道天眼が発動されたのかは不明瞭であったが…。
「母様…御免なさい…」
桜花姫は母親の春海姫に念力の妖術を発動したのである。不本意であるが春海姫の尊厳死を決意…。
「桜花姫…長生きするのよ…」
春海姫の頭部は桜花姫の発動した念力の妖術によって破裂したのである。
『母様…母様が…』
「私が…母様を…」
桜花姫は涙腺より涙が零れ落ちる。
『私は今後…如何すれば?母様…』
桜花姫は絶望したのである。

第九話

自白
同日の深夜帯…。近所の村人の通報により桜花姫の家屋敷に二人の邏卒が訪問したのである。
「片田舎の西国で殺人事件とは物騒だな…」
「殺人事件が発生したのは月影家の家屋敷みたいだな…」
「月影家って…月影鉄鬼丸の武家屋敷だったよな?」
「鉄鬼丸の武家屋敷で誰か打っ殺されたのか?非常に物騒だな…」
彼等は恐る恐る月影家の家屋敷へと潜入する。居室には無数の石ころが確認出来る。
「噂話では月影鉄鬼丸の妻子は人外の妖女らしいからな…一部の村人達には相当毛嫌いされたとか…」
「仕方ないよな…鉄鬼丸の野郎も人外の妖女なんかと婚姻するなんて単なる馬鹿者だぜ!所詮彼奴は自業自得だよ!」
生前当時鉄鬼丸は妖女である春海姫との婚姻に大勢の人間達が猛反対…。世間体を理由に親類からも軽蔑されたのである。
「当事者の鉄鬼丸は悪霊に打っ殺されちまったし!今更故人の彼奴に愚痴っても仕方ないけどさ…」
「彼奴は一匹狼で気に入らないが…夜番警備隊にとって剣豪の鉄鬼丸が悪霊に殺されちまったのは相当痛手だよな…今後は如何するべきか?」
鉄鬼丸の死去以後…。悪霊征伐は非常に難儀であり夜番警備隊の人手不足が深刻化したのである。
「潜入するか?」
「嗚呼…」
彼等は警戒した様子で恐る恐る家屋敷の寝室へと入室する。
「うわっ!」
「げっ!」
寝室の畳表には頭部の無くなった小柄の女性の遺体は勿論…。飛散した血肉やら肉片が寝室の彼方此方に確認出来る。
「こんな場所で一体何が!?」
寝室の隅っこには小柄の少女が頭部の無くなった女性の遺体を凝視し続ける。少女は無表情であり人形みたいな様子だったのである。
「ん?此奴は?武家屋敷の一人娘か?」
「此奴には精気が感じられないな…大丈夫か?小娘は人形みたいだな…」
二人の邏卒は恐る恐る少女に近寄る。
「大丈夫か?武家屋敷で何が発生した?」
すると小柄の少女は落涙した表情…。
「私が殺したの…母様を…私が母様を殺したのよ…」
自白する少女に邏卒は困惑する。
「はぁ?貴様は…一体何を?自分の母親を殺したのか?」
「正直非力そうだが…貴様みたいな非力の小娘が一人の人間をこんな状態に打っ殺せるのか?」
彼等は少女の証言に不思議がるのだが…。
「小娘よ…貴様の名前は?」
「えっ…名前?私の名前は…」
少女は恐る恐る自身の名前を名乗り始める。
「私は桜花姫…月影桜花姫よ…」
「月影桜花姫か…」
「月影…であれば此奴が鉄鬼丸の一人娘だな…」
「何はともあれ…此奴を東国の監獄に連行するぞ!」
「事情は監獄に連行してからだな…一先ずは彼女を連行するか…」
深夜帯の時間帯であるが…。桜花姫は東国の監獄に連行されたのである。

第十話

監獄生活
翌日の早朝…。事件現場の桜花姫の武家屋敷は厳重に調査されたのである。母親の月影春海姫を殺害したのが誰なのかは不明瞭であるものの…。当事者である桜花姫以外に該当者が皆無であり桜花姫は終身刑として一生監獄からは出られなくなる。各独房の鉄格子から数十人もの死刑囚やら罪人達が独房の桜花姫に注目し始める。
「あんたみたいな可愛らしい小町娘が…こんな殺伐とした場所に連行されちまうなんて傑作だな!」
「あんたは何しやがったよ?」
「あんたは本当に罪人なのかよ?誰を打っ殺したのか?」
「こんな非力そうな小娘が誰を打っ殺したのかな?」
「ひょっとして冤罪か?こんな非力そうな小娘が人間を打っ殺せるのかよ?」
囚人達は紅一点の桜花姫の存在に大喜びしたのである。
「はぁ…」
『面倒臭そうな奴等だわ…』
桜花姫は周囲の反応が鬱陶しかったのか一言も喋らず只管に無視し続ける。
「無視するなよ!喋れよ!姉ちゃん!あんたは誰を殺したのさ?」
「返事しろよ!姉ちゃん!」
「此奴は…一言も喋らないな…重度の痴人かな?」
囚人達は沈黙し続ける桜花姫を揶揄したのである。すると刀剣を所持した小柄の看守が囚人達の牢屋に近寄ったかと思いきや…。
「貴様等…沈黙しやがれ!処刑されたいのか!?」
一方の罪人達は怒号し続ける看守に沈黙したのである。
「監獄では俺が支配者だ!死刑囚以外…打っ殺されたくなかったら沈黙しな!俺を苛立たせるなよ!」
すると看守は沈黙し続ける桜花姫を注視し始める。
「こんな非力そうな小娘が殺伐とした独房に打ち込まれるとは…貴様は…子供の分際で自分の母親を打っ殺したみたいだな?自分の母親を打っ殺すとは相当の親不孝だぜ!貴様は如何して自分の母親を打っ殺した?」
看守に問い掛けられた桜花姫であるが…。桜花姫は看守の質問に何も返答しない。
「貴様は…支配者である俺の問い掛けに無視するのか?相当の命知らずか?単純に喋れないだけか?」
看守は桜花姫の態度に苛立ったのか桜花姫の独房に入室したのである。
「先程からの貴様の態度…気に入らないな!」
すると桜花姫は小声で発言する。
「看守さん…」
「貴様…喋られるのかよ!?喋れるなら最初から俺の質問に返答しやがれ!」
看守は桜花姫に呆れ果てる。
「私を殺したければ思う存分に殺しちゃえば…今更こんな世の中で長生きしたって仕方ないし…今直ぐ処刑でも私は構わないわよ…」
「はぁ?処刑でも構わないって…」
『彼女…本気なのか?』
看守は桜花姫の態度に苛立ったものの…。
『こんな小娘…正直打っ殺しちまうのは勿体無いよな?』
看守は欲求不満からか性欲が急上昇し始める。
『こんな場所…滅多に小娘なんて打ち込まれないからな!我慢出来ないぜ!』
看守は恐る恐る桜花姫の胸部を弄ったのである。周囲も死刑囚やら極悪非道の罪人ばかりであり大丈夫であると判断する。一方乳房を弄られた桜花姫であるが…。桜花姫は無感の人形みたいに無反応だったのである。
『此奴は好都合だ!小娘は人形みたいに何も反応しないぜ!此奴は最高だな!』
看守に翻弄された桜花姫であるが…。桜花姫は無表情であり只管沈黙し続ける。こんな地獄の独房生活が毎日継続されたのである。桜花姫が地獄の独房生活を開始し始めてから二週間後…。胸部を弄られるばかりか今度は着物を無理矢理に脱衣させられ全裸の状態で犯されたのである。全裸で犯されても桜花姫は只管沈黙した様子であり周囲の各囚人達も看守の愚行には嫌悪し始める。

第十一話

釈放
地獄の独房生活から一月が経過…。桜花姫は廃人みたいな様子であり一日中一言も喋らなかったのである。今日も看守が桜花姫の独房へと入室する。すると一人の囚人が桜花姫に同情したのか恐る恐る…。
「看守さん…あんたは遣り過ぎだろ!母親を殺害した重罪犯だとしても…彼女は列記とした女の子だぞ!正直気の毒だぜ!」
看守は囚人の発言に苛立ったのか独房の囚人を睥睨したのである。
「貴様は母親を打っ殺した極悪非道の此奴に肩入れするとは…罪人の分際で俺に口出しするなよ!」
看守は囚人に怒号する。
「何方にせよ…此奴は自分の母親を打っ殺した極悪非道の重罪犯だからな!大悪党の此奴には俺が何したって構わないよ!」
看守は再度桜花姫を直視すると冷笑し始める。
「親不孝の小娘よ…今日も俺に犯させろよ!俺だって毎日!毎日!貴様等の監視で疲労困憊の状態だからな!此処で俺の欲求不満を解消させろよ!」
すると一言も喋らなかった桜花姫が看守を睥睨したのである。
「何が疲労困憊の状態よ…助平野郎…」
桜花姫の反抗的発言に看守は腹立たしくなる。
「なっ!?貴様は支配者である俺を助平野郎だと!?」
看守は桜花姫の発言に怒号したのである。
「貴様は…何様だよ?自分の母親を打っ殺した重罪犯が!重罪犯の分際で看守の俺に反抗しやがるとは相当の命知らずだな!」
看守は護身用の拳銃を装備する。
「親不孝の小汚い小娘風情が…貴様は即刻処刑だ!覚悟しやがれ!」
看守は恐る恐る拳銃に弾丸を装填させる。
「なっ!?拳銃だと!?」
「小娘は打っ殺されるぞ!大丈夫なのか!?」
「看守さんは本気なのかよ!?」
周囲の囚人達は拳銃に畏怖したのである。
「地獄の世界で死んじまった父ちゃんと母ちゃんと再会しな…罪人の小娘!地獄の世界で死んじまった両親に説教されちまいな!」
看守が拳銃を発砲する寸前…。
「えっ…小娘?」
半透明の血紅色だった桜花姫の両目が半透明の瑠璃色に発光したのである。両目が半透明の瑠璃色に発光し始めた桜花姫に看守は勿論…。周囲の囚人達が桜花姫の両目に注視したのである。
「ん!?小娘の両目が…」
「ひょっとして小娘…本物の妖女なのか!?」
囚人達の妖女の一言に看守は反応する。
「なっ!?妖女だって!?此奴の正体は人外の妖女だったのか!?」
看守は妖女である桜花姫に戦慄したのである。
「人外の妖女であれば…即刻妖女の小娘を打っ殺さないと!」
看守が桜花姫に拳銃を発砲する直前…。
「えっ…ぐっ!」
看守の頭部から鮮血が流れ出る。
「あんたの脳細胞を一部破壊したわ…あんたは此処で死になさい…」
看守は桜花姫の念力の妖術で脳内の脳細胞を一部破壊され…。即死したのである。床面に横たわった状態の看守に各独房の囚人達は畏怖し始める。
「ひっ!看守が卒倒しやがったぞ!死んじまったのか!?」
「小娘は本物の妖怪だ!今度は俺達が此奴に打っ殺されるぞ!」
「小娘は危険だ!」
すると二人の看守が騒然とした地下壕の監獄へと進入する。
「一体全体何事だ!?」
「ん!?此奴は!?」
一人の看守が桜花姫の独房を直視したのである。
「看守だぞ!」
「大丈夫か!?一体此処で何が発生したのだ!?」
二人の看守は即座に桜花姫の独房へと進入する。
「大丈夫なのか!?」
彼等は床面に横たわった状態の看守の安否を確認したのである。
「看守は無反応だな…」
「如何やら此奴…即死の状態ですね…」
大柄の看守が桜花姫に恐る恐る問い掛ける。
「一体此処で何が発生した!?其方が此奴を殺害したのか!?」
すると別の独房の死刑囚が恐る恐る…。
「小娘が看守さんを打っ殺しました!彼女の正体は人外の妖女ですぜ!妖女の小娘が荒唐無稽の妖術で看守さんを打っ殺しました!」
「なっ!?小娘が人外の妖女だと!?」
死刑囚の証言に大柄の看守は一瞬動揺したのである。
「其方は本当に人外の妖女なのか!?」
「私は正真正銘…人外の妖女よ…」
大柄の看守に問い掛けられた桜花姫は無表情で返答する。
「其方は直接手出しせずとも…生身の人間をこんな状態に殺害出来るのか?」
大柄の看守は戦慄し始め…。恐る恐る刀剣を抜刀したのである。
「姿形は小柄の小娘だが…油断は出来ないな…」
無抵抗の桜花姫を斬首する寸前…。
「看守さん!」
すると気弱の青年らしき囚人が大柄の看守を制止したのである。
「誤解です!彼女は…彼女は仕方なく小柄の看守を殺害しました!」
「仕方なく看守を殺したって?」
「彼女は今迄…」
青年は今迄の出来事を二人の看守に洗い浚い告白する。
「妖女の小娘よ…其方は毎日…理不尽にも看守に犯されたのか?」
問い掛けられた桜花姫は一瞬沈黙するものの…。
「周知の事実だけど…私を処刑したければ今直ぐ処刑しちゃえば?今更西国の村里に戻っても私には居場所なんて存在しないでしょうし…別に私は処刑でも構わないわよ…」
桜花姫は無表情で返答したのである。すると看守の責任者らしき人物が小声で…。
「小娘よ…私からの提案なのだが…」
今度は大柄の看守が口出しする。
「看守長?彼女に提案ですと?一体何を妖女の小娘に提案されるのですか?」
「彼女の直接手出しせずとも対象者を殺害出来る妖術…此奴は非常に役立つかも知れないな!国内の治安対策には彼女の荒唐無稽の妖術は妥当かも知れないぞ!」
「なっ!?小娘の妖術が役立つって…看守長は正気なのですか!?」
大柄の看守は看守長の提案に困惑したのである。
「彼女は正真正銘本物の妖女…自身の母親を殺害した極悪非道の重罪犯なのですよ!?ひょっとして重罪犯である彼女を監獄から釈放させるのですか!?」
大柄の看守は看守長の提案に猛反対する。
「貴殿の意見も理解出来るのだが…」
今現在悪霊の大量発生やら匪賊達の暗躍は東国武士団にとっても非常に痛手であり国全体の大問題だったのである。
「正直東国武士団だけで各地に出没した悪霊は勿論…匪賊達の鎮圧は困難だからな!今回みたいな大問題が再度発生すれば非常に面倒臭いし…今回の事件が各地に知れ渡れば東国武士団の面子は完全に丸潰れだぞ!」
近年では各地の武士団の人手不足が深刻化し始める。匪賊達の暗躍は勿論…。神出鬼没の悪霊問題は国全体の社会問題であり正直猫の手も借りたい現状だったのである。看守長は恐る恐る桜花姫の独房に近寄り始める。
「小娘よ…本日より其方を監獄から釈放する!」
「私は母様を殺害した極悪非道の罪人だけど…本当に私なんかを牢獄から解放するの?あんた達は妖女の私に殺されるかも知れないわよ…」
桜花姫は二人の看守達に忠告する。
「ですが看守長…彼女は自身の肉親を殺害した極悪非道の罪人なのですよ!世の中の悪霊の出現は大問題かも知れませんが…罪人である彼女に悪霊の征伐を任命するのは…何よりも彼女は人外の妖女ですし…」
大柄の看守は桜花姫の釈放には猛反対だったのである。
「不本意だが今現在は猫の手も借りたい状況なのだ!荒唐無稽の妖女でも役立つなら利用するべきだ!今回ばかりは止むを得ないだろう!」
看守長は断言するのだが…。
「えっ…看守長…」
『妖女は信用出来るのか?彼女は人外だぞ…』
大柄の看守は人外である桜花姫を信用出来なかったのである。一方の桜花姫は再度無表情で…。
「別に…私は構わないわよ…」
桜花姫は常日頃から退屈であり憂鬱だったのである。
「悪霊の征伐…面白そうね…」
各地に出現する神出鬼没の悪霊を征伐したくなる。
「本当に大丈夫なのか!?」
「別に…悪霊なんて…」
「であれば交渉成立だな!妖女の小娘!」
看守長は内心大喜びする。
『看守長は楽天家だな…』
大柄の看守は内心看守長の楽観的思考に呆れ果てるものの…。
「看守長の意向であれば仕方ないですね…」
大柄の看守は桜花姫を凝視したのである。
「妖女の小娘…今回ばかりは其方を監獄から釈放するが…其方の荒唐無稽の妖術で村人達には絶対に手出しするなよ!村人達に手出しするならば今度こそ其方は終身刑であるからな!其方は覚悟するのだぞ!」
大柄の看守の警告に桜花姫は無表情で返答する。
「別に…あんた達が心配しなくても大丈夫よ…私に敵対視しないのであれば私は非力の村人達には手出ししないわよ…」
すると看守長は恐る恐る…。
「妖女の小娘よ…其方の名前は?」
「私は桜花姫…月影桜花姫よ…」
問い掛けられた桜花姫は即座に自身の名前を名乗る。
「えっ!?月影桜花姫って…ひょっとして貴女は月影鉄鬼丸様の愛娘ですか!?」
桜花姫が自身の名前を名乗った直後…。看守長と大柄の看守の態度が一変する。
「月影鉄鬼丸って武士は私の父親らしいわね…」
「失礼しました!貴女様が鉄鬼丸様の愛娘だったなんて…」
「私自身も…貴女様を極悪非道の重罪犯とばかり…大変失礼しました!」
二人の看守は桜花姫に謝罪したのである。
「えっ…私は別に…」
桜花姫は二人の一変に困惑する。
「あんた達…本当に私を牢獄から解放するの?」
「勿論ですとも!桜花姫様!即刻貴女様を牢獄から解放しなくては!」
翌日の真昼である。東国の大名達が月影桜花姫の今後の処遇を如何するべきか相談した結果…。桜花姫を監獄から釈放するべきだと決定付けたのである。桜花姫は全国各地に出没する無数の悪霊やら匪賊達を征伐する不寝番としての無報酬活動を最重要条件に未来永劫の自由を約束される。桜花姫は東国の監獄から無事釈放されたのである。母親である月影春海姫の殺害は完全なる冤罪として扱われ…。死亡した月影春海姫は神出鬼没の悪霊によって殺害されたとして扱われる。東国武士団は金輪際不寝番の月影桜花姫への侮辱と傷害を重罪と決定付けたのである。徹底して各地の村人達に月影桜花姫への侮辱厳禁を警告し続ける。

第十二話

不寝番
地獄の監獄生活終了から二週間後の早朝…。桜花姫は無事に祖国である西国の村里へと戻れたのである。東国武士団が警告した影響からか村人達の態度は一変…。桜花姫は彼等から満面の笑顔で無事を出迎えられる。
『御目出度い奴等ね…』
桜花姫は内心村人達の態度に呆れ果てる。
『家屋敷に戻りましょう…』
無事家屋敷へと戻った桜花姫であるが…。
『母様の…遺体が…』
母親の月影春海姫の遺体は片付けられ家屋敷は空っぽの状態だったのである。
『私は…今日から一人ぼっちの生活なのね…』
桜花姫は極度の疲労からか居室で熟睡する。
「えっ?」
深夜の時間帯…。
『真夜中だわ…私は…熟睡しちゃったみたいね…』
極度の胸騒ぎからか桜花姫は目覚めたのである。
「何かしら?」
『胸騒ぎだわ…』
南方の山奥からか無数の気配を察知する。
『気配を感じるわ…』
「気配は大群っぽいけれど…何が出現したの?」
桜花姫は無数の気配が気になり外出したのである。周囲は深夜帯の時間帯からか人気は皆無であり誰一人として出歩く人間は確認出来ない。
『無人地帯だわ…時間帯は真夜中だし当然でしょうけど…』
桜花姫は真夜中の夜道が平気なのか恐怖心は皆無であるばかりか内心欣喜雀躍の気分だったのである。
『真夜中の夜道って百鬼夜行が出現しそうな雰囲気ね…』
外出から二時間が経過すると桜花姫は南国の村里へと到達する。
『南国だわ…』
気配は南国の村里から感じられるのだが…。
『何も確認出来ないわね…』
南国の村里を眺望するも何も発見出来ない。
『西国の村里に戻ろうかな?』
桜花姫は何も発見出来ず西国の村里へと戻ろうかと思いきや…。
「えっ?」
突如として背後より物音が響き渡る。
『物音だわ…』
桜花姫は恐る恐る背後を警戒…。
『一体何かしら?』
背後の道端の地面より三体もの赤黒い人型の怪物が出現し始める。
『此奴…何者なの?』
人型の怪物は全身の皮膚が焼け爛れた状態である。両目の眼球が噴出した風貌であり非常に気味悪く感じる。
『ひょっとして此奴は…』
体格は小柄の桜花姫よりも一回り小柄である。
『悪霊の悪食餓鬼かしら?』
悪食餓鬼は悪霊では出現頻度が最多であり大抵の場合…。暗闇の夜道であれば高確率で悪食餓鬼と遭遇する場合が大半である。悪食餓鬼の戦闘能力は非常に脆弱であり人間の子供であっても鈍器を所持すれば簡単に仕留められる一方…。遭遇頻度が高確率であり悪食餓鬼は悪霊界隈では有名である。
『悪食餓鬼ってこんな怪物だったのね…』
史上初の悪霊との戦闘からか桜花姫は内心…。極度に緊張し始める。
『噂話では…悪食餓鬼って人間の子供でも仕留められる程度に脆弱らしいけれど…私の妖術で悪食餓鬼を仕留められるのかしら?』
自身の妖術が悪食餓鬼に通用するのか不安だったのである。三体もの悪食餓鬼はふら付いた身動きで桜花姫に近寄り始める。
「神出鬼没の悪霊!あんた達は金無垢の小判に変化しなさい!」
三体の悪食餓鬼は変化の妖術により純金の小判に変化したのである。
「えっ!?」
『現実なの!?私の変化の妖術が悪霊にも通用したわ…』
桜花姫は目前の超常現象に驚愕するものの…。
『神出鬼没の悪霊でも…変化の妖術が通用するのね!』
悪霊を相手に変化の妖術が通用した事実に大喜びしたのである。
『折角だし!』
純金の小判に変化させた悪食餓鬼に再度変化の妖術を発動…。すると今度は自身の大好きな桜餅に変化させたのである。
『金無垢の小判が桜餅に変化したわ!』
正真正銘本物の桜餅であるが…。
『見た目だけなら桜餅だけど…食べられるのかしら?』
桜餅に変化した悪食餓鬼を食べられるのか正直不安だったのである。
『一か八かね…』
桜花姫は恐る恐る桜餅を一口頬張り始める。
「美味だわ!」
『風味も本物の桜餅と瓜二つだわ!』
桜花姫は桜餅を頬張ると再度大喜びしたのである。
『案外…悪霊征伐も悪くないのかも知れないわね!』
最初こそ不安であったが…。今回の悪霊征伐から桜花姫は自信が芽生え始める。
「ん?」
すると今度は周囲より不吉の気配を感じる。
「気配だわ…」
『今度は何が出現するのかしら?』
周囲の農地は勿論…。夜道の地面より数十体もの悪食餓鬼が出現したのである。
『今度は悪食餓鬼の大群ね…』
悪食餓鬼の大群は桜花姫に殺到し始める。
『相手は大群だけど…』
一方の桜花姫は恐る恐る周囲の様子を確認したのである。
『大群を相手に出来るかしら?』
正直不安であったが多数の悪食餓鬼を相手に変化の妖術を発動する。変化の妖術を発動すると周囲の悪食餓鬼は自身の大好物である無数の桜餅へと変化したのである。
「悪食餓鬼の大群が桜餅に変化したわ!」
『変化の妖術は多数の相手にも通用するみたいね!』
悪食餓鬼の大群を無力化した数秒後…。
『如何やら沈静化したみたいね!一安心だわ!』
南国の不吉の気配が感じられなくなる。
『一先ずは西国に戻りましょう!』
無事悪霊事件を解決すると桜花姫は西国の村里へと戻ったのである。

第十三話

山猫妖女
桜花姫は暗闇の村道を移動中…。
「えっ…あんた達は?」
真夜中の村道にて神族の蛇体如夜叉と小柄の少女に遭遇したのである。
「桜花姫ちゃん…久し振りだね…」
「あんたは蛇体如夜叉婆ちゃんと…えっ?彼女は誰なのかしら?」
すると小柄の少女は極度の人見知りなのか蛇体如夜叉の背後に隠れ始める。
「小猫姫よ…あんたは桜花姫ちゃんに挨拶しな!」
小猫姫と命名される少女は六歳位の女の子である。小猫姫は相当の人見知りなのか気恥ずかしそうな様子で…。
「私の名前は…小猫姫です…」
小猫姫は極度に緊張するのか表情が赤面したのである。
「小猫姫か…あんたは小猫姫って可愛らしい名前なのね!」
『ひょっとして彼女も…妖女なのかしら?』
僅少であるが小猫姫の肉体からは妖女特有の妖力が感じられ…。自身と同様に人外の妖女であると確信する。
「あんたも私と同様に人外の妖女なのね!私は妖女の桜花姫!月影桜花姫よ!」
桜花姫は満面の笑顔で名前を名乗り始める。
「小猫姫!今後は私とも仲良くしましょうね!」
すると小猫姫も恐る恐る…。
「私こそ…桜花姫様♪」
小猫姫は赤面した様子であるが微笑み始める。
「こんな私を桜花姫様なんて…あんたは堅苦しいわね…私の呼び方は桜花姫で構わないわよ!小猫姫!」
桜花姫は満面の笑顔で返答したのである。
「桜花姫姉ちゃんで!」
すると蛇体如夜叉が経緯を説明する。
「小猫姫は山猫妖女だよ…彼女は孤児院で里親募集中だったからね!今日から私が彼女の母親として孤児の小猫姫を世話するのさ!」
桜花姫は小声で一言…。
「小猫姫…あんたも母親がね…」
一瞬であるが実母の春海姫を想起する。一方の小猫姫も母親の存在を想起したのか再度沈黙したのである。
「桜花姫ちゃん…」
すると蛇体如夜叉は恐る恐る問い掛ける。
「大丈夫かい?桜花姫ちゃん…」
「私は大丈夫よ…蛇体如夜叉婆ちゃん…」
桜花姫は無表情で大丈夫であると返答する。
「桜花姫ちゃん…あんたは…冤罪で東国の監獄に打ち込まれたって…御免よ…私は何も出来なくて…」
蛇体如夜叉は桜花姫に何一つとして援助が出来ず謝罪したのである。
「気にしないで…蛇体如夜叉婆ちゃん…私は…別に…」
桜花姫は小声で…。
「蛇体如夜叉婆ちゃんが謝罪したって…母様は永遠に戻らないのよ…」
すると蛇体如夜叉は恐る恐る…。
「桜花姫ちゃんよ…あんたの母さん…春海姫ちゃんはね…彼女の本当の死因は…」
途端に桜花姫の表情が険悪化する。
「悪いけど蛇体如夜叉婆ちゃん…母様の話題は終了しましょう!今更後悔したって母様は戻らないのよ!二度とね…金輪際母様の話題は禁止ね!」
桜花姫は無表情で西国の村里へと戻ったのである。
『桜花姫ちゃん…』
蛇体如夜叉は自身の非力さを実感…。
『本当に御免よ…私は力不足だったよ…』
蛇体如夜叉は涙腺から涙が零れ落ちる。桜花姫は今回の悪霊事件以降…。不寝番としての活動が開始されたのである。

第十四話

異形
南国での悪霊事件から四日後…。近頃の出来事である。北国の村里では異形の怪物が出現するとの噂話が各地の村里で出回り始める。当然として異形の怪物関連の噂話は西国の村里にも出回り始めたのである。怪物の噂話が気になった桜花姫は真夜中の深夜帯…。
『出掛けますかね…』
異形の怪物が出現したとされる北国の村里へと移動したのである。西国の村里から移動してより二時間後…。桜花姫は事件現場とされる北国の村里へと到達したのである。
『異形の怪物?北国の村里ね…』
北国の村里も全体的に殺風景の光景であり確認出来るのは農村地帯…。小規模の小村落のみである。
『当然だけど村人は誰一人として確認出来ないわね…』
時間帯は真夜中であり出歩く村人は誰一人として確認出来ない。何故なのかは不明であるが…。村里の空気は非常に重苦しく感じられる。
『こんな場所に異形の怪物が出現するなんて…一体何が出現したのかしら?』
桜花姫は周囲を警戒したのである。
「今夜は…」
『異形の怪物は…出現するのかしら?』
数分間が経過するのだが…。異形の怪物らしき物体は何一つとして確認出来ない。
『異形の怪物…出現しないわね…』
桜花姫は村里全域を隈なく探索したのである。探索活動から一時間後…。
「はぁ…」
『何も出現しないわね…』
異形の怪物らしき物体は一向に出現しなかったのである。
『気配も感じられないし…異形の怪物は出現しないのかしら?』
何も進展せず桜花姫は落胆し始める。
「仕方ないわね…」
『今回は出直しかしら?』
不本意であるが西国の村里へと戻ろうかと思いきや…。
『無数の気配だわ…』
突如として周囲から無数の気配を感じる。
『大群かしら?』
桜花姫は無数の気配に警戒したのである。
『ひょっとして今回も…』
すると直後…。周囲の地面より十数体もの悪食餓鬼が出現し始める。
「奴等は…」
『悪食餓鬼の大群だわ…』
悪食餓鬼の大群は桜花姫に殺到したのである。
「あんた達は命知らずね…」
悪食餓鬼の大群に包囲された桜花姫であるが…。桜花姫は冷静だったのである。
「命知らずのあんた達には…」
桜花姫は十八番である変化の妖術を発動…。殺到し続ける十数体もの悪食餓鬼を自身の大好きな桜餅に変化させたのである。
『変化の妖術…成功ね!』
桜花姫の周囲の地面には十数枚もの小皿が配置され…。小皿の中心部には美味しそうな桜餅が確認出来る。
『美味しそうな桜餅だわ!』
桜花姫は地面の桜餅を頬張り始める。桜餅を頬張り始めてから数分間が経過…。
『美味しかったわ!桜餅!』
桜花姫は桜餅を鱈腹完食するも手応えが感じられない。
『結局…異形の怪物って悪食餓鬼だったのかしら?』
悪食餓鬼の大群を仕留めた桜花姫であるが…。
『空気は重苦しいし…』
異形の怪物は悪食餓鬼以外の悪霊であると思考する。
『恐らく異形の怪物は悪食餓鬼以外の存在でしょうね…』
周囲を警戒し始めてから数秒後…。
「えっ…」
自身の背後より正体不明の存在が接近したのである。
『背後かしら!?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。
「えっ…」
背後に存在するのは背丈が推定十八尺もの巨体である。
『此奴…何よ?』
桜花姫は背後の存在を直視すると非常に気味悪くなる。何故なら背後の存在は数十体…。数百体もの全裸の女体が密着した肉団子の集合体であり全体的に百鬼悪食餓鬼を連想させる超自然的存在だったのである。
『ひょっとして異形の怪物の正体って…此奴なの?』
すると体表の数体の女体が桜花姫を直視…。不吉の笑顔で冷笑し始める。
「えっ…此奴は…」
『相当気味悪いわね…一体何者なのかしら?』
桜花姫は恐る恐る女体の怪物から後退りする。
『此奴の正体…恐らくは【魑魅魍魎女体】ね…』
魑魅魍魎女体とは女性系統の悪霊の一角とされ…。特徴的なのは無数の全裸の女体が一体化した集合体である。俗称としては百鬼女体やら女体の集合体と呼称され…。女性型の百鬼悪食餓鬼とも揶揄される。魑魅魍魎女体は誕生した経緯こそ不明瞭であるが…。正体の一説としては戦乱時代に強姦されたか弱き女性達の無念の集合体とされるのが一般的解釈である。余談であるが女体の集合体である部分では今後十数年後に遭遇するであろう女体海鼠とも共通する。
「あんたが魑魅魍魎女体であれば…私が即刻征伐するわよ!」
すると魑魅魍魎女体の体表に存在する女体の一部が会話し始める。
「小娘♪あんたは妖女ね♪」
「妖女の小娘を…如何する?」
「相手は妖女だからね♪手加減せずに食い殺しちゃいましょう♪」
「妖女を食い殺そう♪食い殺そう♪」
「私も賛成♪賛成♪」
魑魅魍魎女体は体表の女体同士で会話し始めたのである。
『魑魅魍魎女体って喋れるのね…』
桜花姫は人語で会話出来る魑魅魍魎女体に内心興味深くなる。
「会話が成立するなら好都合!あんた達…覚悟しなさいよ!」
すると直後…。魑魅魍魎女体は冷笑し始める。
「私達から先制攻撃よ♪」
「あんたこそ覚悟するのね♪妖女の小娘♪」
魑魅魍魎女体は体表に存在する女体の口先より猛毒の瘴気を放射したのである。魑魅魍魎女体の放出した瘴気は非常に強力であり周囲の植物が汚染される。
『猛毒の瘴気かしら!?』
桜花姫は即座に呼吸を停止させたのである。通常の妖女であれば多少の瘴気なら平気であるものの…。桜花姫は不運にも人間と妖女との混血であり肉体的には純血の妖女よりは脆弱である。
「あんたは息苦しそうね♪」
「ひょっとしてあんたは人間との混血かしら♪」
魑魅魍魎女体は桜花姫が妖女と人間との混血であると洞察する。
「妖女は妖女でも人間との混血なんて好都合だわ♪」
「人間との混血なんて♪あんたは不運ね♪」
すると魑魅魍魎女体の一部の女体の口先から球状の溶解液を発射…。魑魅魍魎女体は桜花姫を標的に球状の溶解液を放出したのである。
「溶解液!?」
桜花姫は放出された球状の溶解液を間一髪回避出来たものの…。同時に瘴気で毒された僅少の空気を吸収したのである。
「えっ…」
直後…。
「ぐっ!」
『迂闊だったわ…』
魑魅魍魎女体の瘴気は非常に強力であり桜花姫は毒された空気の影響からか地面に横たわったのである。
「如何やら彼女♪呼吸しちゃったみたいだわ♪」
魑魅魍魎女体は地面に横たわった状態の桜花姫に冷笑し始める。
「彼女の体内は瘴気で毒されたみたいね♪いい気味だわ♪」
魑魅魍魎女体は地面に横たわった状態の桜花姫に近寄ったのである。
「彼女を普通に殺しちゃうのは勿体無いわね♪」
「彼女は其処等の小娘よりは可愛らしいわ♪彼女の肉体を吸収しちゃいましょう♪」
「彼女の肉体♪美味しそうだわ♪私の養分として消化しちゃいましょう…」
魑魅魍魎女体に接触される寸前…。
「誰が…あんた達なんかに吸収されるか!」
桜花姫は鬼神の形相で魑魅魍魎女体を睥睨したのである。
「えっ…彼女!?」
「彼女…如何して瘴気で毒されたのに平気なのよ!?」
「妖女の小娘…瘴気で毒されたのに身動き出来るなんて…」
魑魅魍魎女体は瘴気で毒されても身動き出来る桜花姫に一瞬驚愕…。恐る恐る後退りしたのである。
「今度は…私の出番よ!今度こそ覚悟するのね!魑魅魍魎女体!」
桜花姫は強気の態度であるが…。
『瘴気の影響かしら?妖力が消耗したわね…』
猛毒の瘴気による悪影響からか体内の妖力は大半が消耗したのである。
『下手に大技の妖術は連発出来ないけれど…』
桜花姫は魑魅魍魎女体に必殺である変化の妖術を発動…。魑魅魍魎女体は自身の大好きな桜餅に変化したのである。
「はぁ…はぁ…」
『魑魅魍魎女体は無力化出来たわね…』
変化の妖術により魑魅魍魎女体は完全に無力化され…。猛毒の瘴気で汚染された空気も清浄化したのである。
「魑魅魍魎女体を無力化出来たけれど…」
『彼女の瘴気で体力を消耗しちゃったわね…』
桜花姫は即座に桜餅を頬張り始める。
『悪霊であっても桜餅はやっぱり美味だわ!』
桜花姫は桜餅を頬張ると消耗した妖力が戻ったのである。
『一先ずは一件落着ね!』
北国全域の重苦しい空気も消失…。殺伐とした気配も感じられなくなる。
『私は西国に戻りましょう!』
桜花姫は一先ず西国の村里へと戻ったのである。今回の悪霊事件以降…。桜花姫は各地の村里に出没した多数の悪霊を妖術で仕留めたのである。

最終話

最上級妖女
月影桜花姫が無報酬の不寝番として活動を開始してより二年間が経過する。桜花姫は各地の村里に出現した数多くの悪霊やら匪賊達を征伐…。不寝番として数多くの成果を発揮したのである。世界暦五千八年の初春の時期…。
「はぁ…」
桜花姫は自宅の居室で昼寝したのである。
『退屈だわ…』
桜花姫にとって不寝番としての活動は毎日の日課であり当初こそ不安であったが…。今現在では悪霊征伐が暇潰しの夜遊びにも感じられる。
『悪霊でも出現しないかしら?』
近頃は退屈で仕方なく悪霊が出現しないか期待したのである。同日の真夜中…。
「えっ?」
『胸騒ぎだわ…』
桜花姫は熟睡中であったが極度の胸騒ぎを感じる。
『ひょっとして神出鬼没の悪霊が出現したのかしら?』
気配は大群であり西国の村里全域に接近中の感覚である。
『今回も大群っぽいわね…』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る外出する。
「えっ…」
すると村里全域より数千体から数万体もの悪食餓鬼が出現したのである。
『彼等は悪食餓鬼だわ!』
今回は通常の戦闘よりも大多数であり村里全域に悪食餓鬼が各家屋に侵入…。
『悪食餓鬼は普段よりも大群ね…』
彼等は無差別的に村人達を襲撃し始める。
『相手は破格の大群ね…如何しましょう?』
多勢に無勢であり単独で数万体もの悪食餓鬼の大群を征伐するのは荒唐無稽の妖術を連発出来る桜花姫でも非常に困難である。無数の悪食餓鬼の襲撃によって村人達の悲鳴が西国の村里全域に響き渡る。
『如何やら悪霊の大群を仕留める以外に選択肢は無さそうね…』
すると徘徊中の数体の悪食餓鬼が桜花姫の存在に気付いた直後…。我先にと桜花姫に殺到し始める。
「あんた達は命知らずね!私は妖女なのよ!」
桜花姫は即座に変化の妖術を発動したのである。
「私に挑戦するなんて…あんた達は無謀ね!招き猫に変化しなさい!」
直後…。数体の悪食餓鬼は招き猫に変化したのである。
『悪食餓鬼は他愛無いわね…』
逃走中の村人達の背後より…。十数体もの悪食餓鬼が追尾する。
「あんた達の相手は私よ!」
桜花姫に反応したのか十数体もの悪食餓鬼は桜花姫に殺到したのである。
『所詮は雑魚ね…』
今度は砂金の妖術を発動する。
「砂金に変化するのね…」
十数体もの悪食餓鬼の肉体は一瞬で砂金に変化…。彼等の全身が一瞬で崩れ落ちたのである。すると逃走中だった村人達が桜花姫に近寄り始める。
「貴女様は…ひょっとして桜花姫様では?」
彼等は恐る恐る桜花姫に謝罪したのである。
「大変失礼しました…桜花姫様…」
「今迄の桜花姫様に対する無礼を…」
「えっ…あんた達…突然何よ?」
一方の桜花姫は困惑する。
「私達は今迄…桜花姫様を極悪非道の妖怪とばかり…」
桜花姫は謝罪する彼等に無表情で返答したのである。
「謝罪は不要よ…死にたくなかったらあんた達は一先ず逃げなさい…こんな場所で長居し続ければあんた達は悪霊に食い殺されるわよ…」
「承知しました!」
「失礼しました!桜花姫様!」
村人達は即座に逃亡する。
「えっ?」
すると直後…。
「きゃっ!」
民家の路地裏より女性らしき悲鳴が響き渡る。
「今度は女性の悲鳴だわ…」
『村娘かしら?』
桜花姫は即座に路地裏へと移動したのである。
「えっ?」
路地裏では一人の小柄の村娘が五体もの悪食餓鬼に包囲され…。村娘は逃亡出来なくなったのである。
「きゃっ!私は悪霊に殺されちゃうよ!誰か!誰か!」
村娘は必死に叫び続ける。
『彼女は…周囲の悪霊を仕留めないと食い殺されるわね…』
桜花姫は恐る恐る現場に近寄るのだが…。
「えっ…」
桜花姫は現場の村娘に絶句する。
『彼女って…』
村娘は四年前に桜花姫を妖怪の子供と揶揄した村娘の主犯格だったのである。
『彼女は…如何するべきなのかしら?』
一瞬村娘を救出するべきなのか躊躇し始める。
『彼女は命拾いすれば…私に恩を仇で返すでしょうし…』
桜花姫は村娘を放置して戻ろうかと思いきや…。
『月影桜花姫…彼女を…彼女を救済して…』
「えっ!?」
『何よ!?』
突如として桜花姫の脳裏に女性らしき美声が響き渡る。
「あんたは…誰なの!?」
桜花姫は突然の女性らしき美声に驚愕したのである。
『私は貴女の前世なのよ…月影桜花姫…』
女性らしき美声は自身を桜花姫の前世と名乗り始める。
「あんたが…私の前世ですって?」
桜花姫は突然の超常現象に混乱したのである。
『突然だから吃驚しちゃったかも知れないけれど…貴女は自由自在に天道天眼を使用出来るわ…今後…天道天眼を発動出来れば神出鬼没の悪霊を浄化出来るでしょう…』
天道天眼の一言に反応する。
『私が天道天眼を…自由自在に…』
桜花姫は精神感応で恐る恐る女性らしき美声に問い掛ける。
『一体如何すれば私は天道天眼を開眼出来るのよ?』
『私が貴女に…私自身の妖力を分け与えるわね…』
『あんたの妖力を…私に?』
すると直後…。
『私の妖力が…倍増した感覚だわ!』
今迄よりも桜花姫の妖力が何倍も倍増したのである。
『私の妖力を貴女に分け与えたのよ…金輪際貴女は思考するだけで天道天眼を自由自在に発動出来るわ…』
『あんたが一体何者なのかは不明瞭だけれど…感謝するわね!』
桜花姫は再度女性らしき美声に問い掛ける。
『結局…あんたの名前は?正直親近感が…』
『私は…』
女性らしき美声が自身の本名を名乗り始める直後…。
『妖女の…』
自身の前世と名乗る女性らしき美声が桜花姫自身の脳裏に響き渡らなくなる。
「えっ…」
『先程の超常現象は一体?妖女みたいだったけれど…結局彼女は何者だったのかしら?摩訶不思議ね…』
すると直後である。悪食餓鬼が村娘に接触する寸前…。
「あんた達!彼女の血肉は人一倍美味しくないわよ…如何しても捕食したいなら別の人間を捕食するのね!」
五体の悪食餓鬼は背後の桜花姫に反応し始めたのである。彼等はふら付いた身動きで桜花姫へと殺到する。
『天道天眼…発動出来るかしら?』
桜花姫は恐る恐る両目を瞑目させる。
『天道天眼…発動よ!』
直後である。半透明の血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光し始める。
『天道天眼…成功ね!』
桜花姫は思考するだけで天道天眼を発動出来たのである。
「あんた達…完膚なきまでに焼死しなさい!」
発火の妖術が発動され…。五体の悪食餓鬼は全身の肉体が突如として自然発火したのである。自然発火してより数秒後…。五体の悪食餓鬼は発火の妖術により全身黒焦げの状態で焼失したのである。
『発火の妖術で悪食餓鬼を仕留められたみたいね!』
すると桜花姫は無表情で村娘を凝視し始める。一方の村娘は桜花姫の存在に気付いた直後…。愕然とする。
「あんたはひょっとして…妖女の月影桜花姫なの?」
村娘は非常に気まずいのか桜花姫から恐る恐る後退りしたのである。
「人一倍私を毛嫌いし続けたあんたが…妖女の私に救済されるなんて皮肉よね…」
桜花姫の発言に村娘は何も反論出来なくなる。
「えっ…」
すると村娘は恐る恐る…。
「今迄…御免なさい…桜花姫…私は恩人のあんたを妖怪の子供なんて…」
村娘は落涙した様子であり恩人の桜花姫に謝罪したのである。
「別に今更…金輪際私とは対面しないでね…」
「えっ…桜花姫…」
「西国は危険地帯よ!あんたもこんな場所では死にたくないでしょう?死にたくなければあんたは逃げなさい!」
「承知したわ!桜花姫!感謝するわね!」
村娘は一目散に逃走する。
『出現した悪霊の大群を仕留めますかね…』
すると直後である。今度は無数の悪食餓鬼が融合化した百鬼悪食餓鬼が三体も出現し始め…。三体もの百鬼悪食餓鬼が愚鈍の身動きで桜花姫に近寄り始める。
『此奴は百鬼悪食餓鬼だわ…』
百鬼悪食餓鬼は通常の悪食餓鬼よりも霊気が強力である。
『やっぱり霊気は強力そうね…』
桜花姫は三体の百鬼悪食餓鬼に警戒し始める。
『大物が三体も出現するなんてね…』
百鬼悪食餓鬼の体表に存在する悪食餓鬼の無数の頭部が桜花姫を直視し始め…。標的の桜花姫を敵対視した様子であり睥睨したのである。
「あんた達は気味悪さだけは抜群ね…」
三体の百鬼悪食餓鬼は無数の悪食餓鬼の口先から高熱の熱風を放射し始める。
『熱風だわ!』
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。
『妖力の防壁だわ…天道天眼の影響なのかしら?』
天道天眼を使用出来る影響からか思考するだけで妖力の防壁も発動出来たのである。妖力の防壁により百鬼悪食餓鬼の熱風攻撃を無力化…。防備に成功する。
「はぁ…」
『危機一髪だったわね…』
桜花姫にとっては危機一髪であり正直緊張したのである。
「折角だからね!あんた達は桜餅に変化しなさい!」
変化の妖術を発動すると三体の百鬼悪食餓鬼を自身の大好きな桜餅に変化させる。
『妖力を消耗しちゃったからね…』
桜花姫は桜餅に変化した百鬼悪食餓鬼を捕食したのである。すると背後より気配を察知したのである。
「えっ?」
背後より複数の跫音が響き渡る。
『今度は何かしら?』
桜花姫は背後からの跫音に警戒したのである。桜花姫の背後に存在するのは巨体の将兵らしき存在であり桜花姫の背後に佇立する。
『今度は戦死者達の悪霊…骸骨荒武者だったわね…』
骸骨荒武者は硬質の甲冑を装備した巨体の髑髏であり戦死者達の無念の集合体とされる超自然的存在である。
『面白そうな相手が出現したわね!』
骸骨荒武者は愚鈍の身動きで桜花姫に近寄り始め…。装備した硬質の刀剣で桜花姫に攻撃を仕掛ける。
『こんな愚鈍の斬撃なんて!』
桜花姫は骸骨荒武者の斬撃を容易に回避したのである。
「あんたは…外見とは裏腹に鈍足なのね!」
骸骨荒武者は身動きが非常に鈍足であり攻撃しても容易に回避出来る。
『折角だからね!大技…駆使しちゃおうかしら!』
直後…。夜空が黒雲に覆い包まれる。
『悪霊は完膚なきまでに死滅しなさい!』
骸骨荒武者の直上より黒雲から落雷が落下…。骸骨荒武者の甲冑は非常に硬質であるが桜花姫の発動させた落雷は非常に強力である。落雷が発生した直後…。
『骸骨荒武者は仕留められたわ!』
骸骨荒武者は粉微塵に粉砕されたのである。
『落雷の妖術…大成功ね!』
桜花姫は骸骨荒武者の撃破に安堵するものの…。
「ん?」
背後より無数の霊気が一体化した存在の気配を感じる。
『此奴はひょっとして…』
桜花姫は背後を直視すると数百体もの女体が一体化した巨体の悪霊が出現する。
「魑魅魍魎女体だったわね…」
魑魅魍魎女体とは二年前に北国の村里で出現した女性系統の悪霊である。
「こんな場所で再会するなんてね…」
すると魑魅魍魎女体の体表に存在する一部の女体が桜花姫を直視し始め…。不吉の笑顔で冷笑したのである。魑魅魍魎女体は体表の女体同士で会話し始める。
「あんたは♪妖女の小娘ね♪」
「妖女…殺しちゃう♪捕食しちゃう♪如何するの?」
「此奴は美味しそうな小娘だわ♪捕食しちゃいましょう♪」
「捕食だね♪捕食しちゃおう♪捕食しちゃおう♪」
一方の桜花姫は天道天眼を開眼した影響で二年前よりは冷静だったのである。
「魑魅魍魎女体…あんたでは私を捕食したくても捕食出来ないわよ!」
魑魅魍魎女体は桜花姫の返答に再度冷笑し始める。
「妖女の小娘…」
「此奴は命知らずなのかしら?」
冷笑し続ける魑魅魍魎女体であるが…。
「命知らずなのはあんたでしょう…今回の私には!」
桜花姫は即座に変化の妖術を発動したのである。
『魑魅魍魎女体は桜餅に変化しなさい!』
桜花姫が変化の妖術を発動した直後…。
「えっ?」
魑魅魍魎女体は彼女の大好きな桜餅に変化したのである。
『楽勝だったわ!桜餅を頂戴するわね!』
桜花姫は桜餅に変化した魑魅魍魎女体を捕食する。
『やっぱり悪霊でも桜餅に変化させれば美味ね!』
桜花姫は非常に満足するものの…。
「えっ…」
突如として桜花姫の背後より巨体の何者かが出現したのである。
『今度は何かしら?』
突如として背後に出現したのは常人の百倍以上の背丈…。大山にも相当する規格外の巨体僧兵であり顔面には縦長の単眼が確認出来る。
『此奴は亡霊破戒僧ね…こんなにも巨体なんて…』
亡霊破戒僧とは戦乱時代に戦死した数多くの僧兵達の無念の集合体とされる上級悪霊である。顔面中央の閉眼した縦長の単眼が特徴的であり自身の背丈に匹敵する規格外の携帯式大砲を所持する。
『亡霊破戒僧は戦死した僧兵達の亡霊だったわね…』
亡霊破戒僧は桜花姫を直視したかと思いきや…。携帯式の大砲で桜花姫を標的に砲撃したのである。
「えっ?」
一瞬の出来事であり桜花姫の上半身は一発の砲弾で吹っ飛ばされたのである。桜花姫の上半身は砲弾で粉砕され…。地面には無数の血肉が飛散する。下半身のみの遺体が地面に横たわる。亡霊破戒僧は下半身のみの桜花姫の遺体を凝視し続けるのだが…。突如として桜花姫の下半身から白煙が発生したのである。白煙が発生してより数秒後…。地面に飛散した桜花姫の血肉は完膚なきまでに消失したのである。
「残念だったわね!亡霊破戒僧!あんたが破壊したのは私の分身体なのよ!」
桜花姫は亡霊破戒僧に攻撃される寸前に分身の妖術を発動…。攻撃の無力化に成功したのである。
「亡霊破戒僧…覚悟しなさい!」
桜花姫は変化の妖術を発動…。亡霊破戒僧を特大の桜餅に変化させたのである。
『桜餅…頂戴するわね!』
桜花姫は特大の桜餅を頬張り始める。
『やっぱり最高ね!桜餅は美味だわ!』
桜餅を頬張り始めてから数分後…。
『今度の別の霊気かしら?』
すると今度は西国の中心地より異質の霊気を察知する。
『如何やら今迄の悪霊とは別物の霊気だわ…』
「中心地では一体何が出現したのかしら?」
桜花姫は即座に西国の中心地へと移動したのである。
「何かしら?」
『無数の火の玉だわ…』
中心地には蛍光色の鬼火が無数に浮遊する。
『如何してこんなにも火の玉が?』
背後より不吉の霊気を感じる。
「えっ?」
桜花姫は背後の気配に警戒…。恐る恐る背後を直視したのである。
『此奴は…』
桜花姫の背後には体長五尺程度の女性らしき巨大頭部が空中を浮遊し続けた状態で桜花姫を直視し続ける。
『悪霊の亡霊生首ね…』
桜花姫の背後に出現したのは女性の巨大頭部のみの悪霊である亡霊生首だったのである。亡霊生首は桜花姫を凝視したかと思いきや…。不吉の笑顔で冷笑し始める。
「あんたは気味悪いわね…」
『亡霊生首の笑顔は気味悪いけど…悪食餓鬼の霊気よりは強力みたいだわ…』
すると亡霊生首は周囲に浮遊し続ける無数の鬼火を吸収したのである。
「亡霊生首は鬼火を吸収したわ…」
『鬼火の効力で亡霊生首の霊気が先程よりも上昇したわね…』
先程よりも霊気が強大化した亡霊生首は口先から猛毒の瘴気を放射する。
『猛毒の瘴気かしら?』
純血の妖女であれば悪霊の瘴気は平気であるのだが…。桜花姫の場合は人間と妖女の混血であり一定以上の瘴気は致命的である。
『即刻瘴気を浄化させないと!私自身が猛毒の瘴気で毒されちゃうわね…』
桜花姫は即座に浄化の妖術を発動する。すると亡霊生首が放出した瘴気の毒気は完全消毒されたのである。
『猛毒の瘴気を浄化出来たわね…一安心だわ!』
桜花姫は亡霊生首を凝視…。微笑み始める。
「覚悟しなさいよ!亡霊生首!」
桜花姫は火球の妖術を発動する。
「亡霊生首!死滅しなさい!」
両手より超高温の火球が発射され…。亡霊生首の顔面に直撃したのである。亡霊生首本体は火球の直撃により爆散…。完膚なきまでに征伐されたのである。
『亡霊生首を撃破出来たわね!』
親玉の亡霊生首を仕留めた直後…。西国全域に徘徊中だった無数の悪食餓鬼と百鬼悪食餓鬼が同時に浄化され完全消滅したのである。
「無数の悪霊が浄化されたわ…」
『親玉の亡霊生首を仕留めた影響かしら?』
村里全体が無数の悪霊の霊気によって重苦しい空気であったが…。
『村里の空気が戻ったわね!』
悪霊が浄化された影響なのか瘴気で汚染された自然も元通りに戻ったのである。
『事件も無事解決出来たし…一先ずは一件落着ね!』
「私は戻って熟睡するわよ…」
桜花姫は家屋敷に戻ろうかと思いきや…。
「桜花姫ちゃん!」
「えっ?誰かと思いきや…あんた達は…」
小柄の老婆と小柄の少女が桜花姫に近寄り始める。
「蛇神の蛇体如夜叉婆ちゃんと…あんたは山猫妖女の小猫姫だったかしら?」
彼女達は神族の蛇体如夜叉と山猫妖女の小猫姫だったのである。
「あんた達?こんな真夜中で一体何を?」
「小猫姫がね…非力なのに西国で悪霊を退治するとか…本当無茶だよ!」
小猫姫は真剣そうな表情で桜花姫を直視し始め…。
「私も…私も桜花姫姉ちゃんみたいに神出鬼没の悪霊を退治したいの!神出鬼没の悪霊は!?私も妖術で悪霊を退治するよ!」
問い掛けられた桜花姫は苦笑いしたのである。
「小猫姫…悪霊なら私が全部仕留めちゃったわよ…」
「えっ…桜花姫姉ちゃんが悪霊を仕留めちゃったの!?はぁ…」
小猫姫は悪霊退治が出来ずに落胆する。
「小猫姫って最初は人見知りって印象だったけれど…あんたも私みたいに悪霊を征伐したくなったのね!」
小猫姫は満面の笑顔で即答したのである。
「勿論だよ!桜花姫姉ちゃん!私も桜花姫姉ちゃんみたいに悪霊を退治したいの!」
桜花姫は小猫姫に満面の笑顔で…。
「今日からあんたは私の妹分に決定ね!」
「えっ?私が…桜花姫姉ちゃんの妹分?」
『私が…桜花姫姉ちゃんの妹分か!』
小猫姫は赤面するが内心では大喜びだったのである。すると蛇体如夜叉は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「桜花姫ちゃんよ…今回は今迄よりも悪霊が大群だったらしいけど…桜花姫ちゃんが一人で片付けちゃったのかい?」
「勿論よ!蛇体如夜叉婆ちゃん!」
桜花姫は神性妖術とされる天道天眼を再度発動…。半透明の血紅色だった瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。天道天眼の発動により桜花姫は普段よりも体内の妖力が数百倍にも急上昇する。
「なっ!?桜花姫ちゃん…あんたは天道天眼を自由自在に開眼出来るのかい!?」
蛇体如夜叉は驚愕したのである。
「蛇体如夜叉婆ちゃん?天道天眼って?」
小猫姫が問い掛けると蛇体如夜叉は解説する。
「天道天眼は一握りの妖女が開眼出来る…森羅万象では唯一の神性妖術とされ…現存する妖術では最強の万能妖術だよ!」
「えっ…天道天眼って何が最強なの?」
小猫姫は理解出来なかったのか再度問い掛ける。
「天道天眼を開眼出来た妖女は普段よりも体内の妖力を数十倍…数百倍にも急上昇させられるのさ!」
天道天眼は神族に関連する神性妖術であり一度開眼出来れば自身の妖力を数百倍…。場合によっては数千倍にも急上昇させられる。天道天眼は妖力の急上昇のみならず…。数多くの妖女が駆使する大技系統の妖術を思考するだけで容易に再現出来る。
「普段の妖力を…数百倍に…」
小猫姫は天文学的数値に絶句したのである。
「要約すると多種多様の妖術を自由自在に発揮出来るのさ!当然として天道天眼を開眼するには相応の妖力が必要不可欠だけれどね!」
「私は色んな妖術を駆使出来るのね!」
桜花姫は大喜びする。すると蛇体如夜叉は恐る恐る…。
「天道天眼を自由自在に扱えるのであれば…今日から桜花姫ちゃんは最上級に君臨する一握りの妖女…最上級妖女だね…」
「えっ…私が最上級妖女ですって?」
桜花姫は最上級妖女の一言に反応する。
「今日から桜花姫ちゃんは一握りの最上級妖女だよ!今後とも悪霊は各地に出没するだろうからね!あんたは最上級妖女として各地に出現する悪霊を徹底的に退治しな…神出鬼没の悪霊を退治し続ければ人間達の妖女に対する評価も変化するだろうよ!」
「勿論よ!蛇体如夜叉婆ちゃん!私は今後も徹底的に悪霊を征伐するからね!」
天道天眼を自由自在に発動出来る桜花姫は凡庸の妖女から一握りの最上級妖女へと昇格したのである。最上級妖女の月影桜花姫は今後も不寝番として各地に出現する神出鬼没の悪霊は勿論…。大勢の匪賊達を徹底的に征伐したのである。
完結

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