桜花姫神話第壱部特別編

拠点

第壱部
特別編

第一話

寒気
粉雪妖女…。雪美姫による大寒波の事件が発生する二日前の出来事である。
「うっ…」
『如何して彼奴は不倫なんか!?』
雪美姫は宿六の不倫により怒気…。宿六を殺害したのである。極度の後悔により絶望し続ける。
『私の何が…駄目だったよ!?如何して私は彼を!?』
自宅の裏庭にて号泣したのである。
『私が今迄に干渉し過ぎたからなの!?一体如何して私は彼奴を!?』
雪美姫は自分自身の心情に自問自答する最中…。
「えっ…」
突如として極度の寒気を感じる。
「寒気だわ…」
『悪寒戦慄かしら?』
雪美姫は粉雪妖女であり多少の寒気は平気であったが…。
『一体何かしら?』
今回感じられた寒気は粉雪妖女の雪美姫でさえも肌寒くなる悪寒戦慄だったのである。突然の悪寒戦慄に雪美姫は気味悪くなり…。警戒したのである。
『寒気の正体は一体…』
すると雪美姫の背後より…。
「粉雪の妖女…粉雪の妖女よ…」
「えっ!?」
背後より不吉の声音が響き渡る。
「誰なの!?えっ…」
雪美姫は背後を直視すると全身黒色の人影が彼女の背後に佇立する。
「あんたは…一体何者なの?」
正体不明の人影は全身が半透明であり人外の化身なのは一目瞭然である。
『此奴…悪霊かしら?私自身の…幻影とか?』
雪美姫は全身が身震いしたものの…。恐る恐る正体不明の人影に問い掛ける。
「警戒するな…妖女の小娘…私は其方の味方なのだ…其方には手出ししないから安心するのだぞ!」
正体不明の人影は自身の味方であると断言する。
「あんたは私の…味方ですって?あんたは一体何者なのよ?」
雪美姫は正体不明の人影に何者なのか再度問い掛ける。
「私は黄泉の世界の住人…悪霊の始祖とでも…」
正体不明の人影は自身を悪霊の始祖と名乗る。
「あんたは悪霊の始祖ですって!?」
雪美姫は正体不明の人影の返答に再度警戒したのである。
「悪霊の始祖だからって私を敵対視するなよ…警戒せずとも…先程も口述したが私は其方には手出ししない…何故なら私は其方の味方なのだからな…」
人影は只管に自身の味方であると自負する。
「あんたは…何が目的なのよ?」
「私の目的だと…」
人影は一瞬沈黙するものの…。
「愚劣なる人間達への…復讐とでも…」
「人間達への復讐ですって?」
「人間達は同族同士で殺し合い…自然界を汚染させた有害なる迷惑千万の存在なのだ…其方だって今現在人間である宿六の不倫により宿六を信用出来ず…殺害したのだろう?宿六を殺害したのは当然の結果である…其方は何一つとして悪くないのだ!」
人影は雪美姫の宿六の殺害を否定しなかったのである。
「えっ…」
『如何して此奴…私の裏事情を?』
すると雪美姫は反応し始め…。一瞬身震いしたのである。
「如何やら図星みたいだな…妖女の小娘よ…」
「あんたは一体…何を主張したいのよ?」
雪美姫は再度人影に恐る恐る問い掛ける。
「復讐する機会だ…其方は其処等の人間達を殺害したら如何なのだ?其方は村里の奴等諸共残虐非道の人間達を惨殺したくないか?」
「えっ…」
「私自身と同様に妖女も所詮は人外の存在なのだ…所詮奴等は異分子を排除したがる極悪非道の連中だ!其方の母親だって妖女を理由として残虐非道の村人達に殺害されたのだろう?」
「母様…」
雪美姫も幼少期では大勢の村人達から迫害され…。雪美姫の母親は極悪非道の村人達によって惨殺されたのである。
「其方の妖力は非常に絶大だ…妖力を解放するべき時期であるぞ!」
人影は雪美姫の肉体に接触する。
「其方は愚劣なる人間達に復讐するのだ!」
「復讐…人間達への復讐…」
雪美姫は人影の洗脳により脳内が朦朧としたのである。
「其方の絶大なる妖力で…愚劣なる人間達を完膚なきまでに仕留めるのだ!」
「承知したわ…」
雪美姫は人影の命令に承諾する。
「私は…具体的に如何すれば?」
人影に如何するべきなのか問い掛ける。
「であれば其方は手始めに…」
正体不明の人影は雪美姫の洗脳に成功…。雪美姫に如何するべきか具体的に指示したのである。

第二話

占拠
世界暦五千二十二年五月初旬…。造物主妖星巨木と無数の亡者達による天災地変から大凡二週間後の出来事である。妖星巨木による悪霊事件が解決してより桃源郷神国に安寧秩序が戻ったものの…。南国の荒神山は極悪非道の匪賊達によって牛耳られたのである。近頃…。匪賊達による悪巧みの噂話が国全体に出回り始める。噂話が気になった最上級妖女の月影桜花姫は即座に南国の荒神山へと移動したのである。
『荒神山では極悪非道の匪賊達が潜伏中みたいね…』
以前荒神山にて発生した悪霊大事件で桜花姫が出没した悪霊の大群を仕留めてから以降…。荒神山は元通りの観光地へと戻ったのである。一方近頃は十数人もの匪賊達が荒神山の山中より出現し始め…。彼等の不法活動によって荒神山は完全占拠されたのである。桜花姫は西国の村里から移動を開始し始めてから二時間後…。
『荒神山だわ…久方振りね…』
桜花姫は目的地である南国の荒神山に到達する。
『何かしら?』
周辺の自然林より無数の人間達の殺気を感じる。
『人間達の殺気を感じるわ…』
「匪賊かしら?」
登山中に一瞬身震いするものの…。
『手出しするなら相手が人間でも私は手加減しないわよ!』
桜花姫は警戒した様子で荒神山の天辺へと突入したのである。
『天道天眼…発動!』
桜花姫は神性妖術の天道天眼を発動…。半透明の血紅色だった両目の瞳孔が瑠璃色の碧眼へと発光したのである。同時に妖力が通常よりも数百倍にも増大化する。
「天道天眼を発動するのは久方振りね…」
『妖星巨木との戦闘以来かしら?』
妖星巨木に憑霊した無数の亡者達よる悪霊大事件が無事解決してからは毎日が平穏の日常であり摩訶不思議の超常現象も神出鬼没の悪霊も出現しなかったのである。平穏の日常は不寝番の桜花姫にとって極度の憂鬱であったものの…。
『正直退屈中だったし…私にとって今回の大騒ぎは絶好機なのよね♪』
桜花姫にとって匪賊達の征伐は久方振りの道楽であり内心大喜びだったのである。すると突然…。周辺の自然林より人間達の殺気を感じる。
『人間達の殺気だわ…』
突如として周辺より無数の火縄銃の弾丸が乱射される。
『敵襲かしら!?』
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。火縄銃の弾丸を無力化したのである。近辺の地面には無数の弾丸が散乱する。
『陣地の見張り役は数人程度かしら?』
自然林から桜花姫を狙撃した見張り役の匪賊達は恐る恐る後退りし始め…。火縄銃の弾丸を無力化した桜花姫に戦慄したのである。
「畜生が!彼奴は弾丸を無力化するなんて!」
「ひょっとして彼奴は妖術で弾丸を無力化しやがったのか!?」
「如何やら侵入者は妖女の小娘みたいだな!」
匪賊達は恐る恐る後退りする。
「こんな場所に妖女の小娘が出現しやがるとは厄介だな!如何するよ!?」
「即刻本拠地に戻ろう!火縄銃程度では妖女の小娘は仕留められまい!」
彼等は天辺の本拠地に戻ろうかと思いきや…。
「ん!?ぎゃっ!」
突如として小柄の見張り役の頭部が肥大化したのである。周囲の匪賊達は肥大化した頭部を直視すると戦慄し始める。
「えっ…此奴…如何して頭部が?」
数秒間が経過した直後…。肥大化した頭部が破裂したのである。
「ひっ!」
「此奴の頭部が破裂しやがった!」
地面には無数の血肉やら粉砕された脳味噌が散乱する。
「如何してこんな状態に!?一体何が!?」
「妖術なのか!?妖女の小娘は妖術で人間の頭部を破裂させたのか!?」
「一先ずは逃げろ!妖女に殺されるぞ!」
戦慄した見張り役達は一目散に逃走したのである。

第三話

死者蘇生
彼等が逃走した数秒後…。
『如何やら見張り役は逃走しちゃったみたいね…』
桜花姫は自然林へと潜入する。
「えっ?」
地面に散乱した血肉やら脳味噌を直視…。
『最悪だわ…気味悪いわね…』
生身の血肉を直視し続けると桜花姫も気味悪くなる。
『折角だからね!匪賊の血肉を桜餅に変化させちゃおうかしら!』
桜花姫は地面の血肉に変化の妖術を駆使したのである。散乱した見張り役の血肉を大好きな桜餅に変化する。
『消耗しちゃった妖力を回復させなくちゃね!』
桜花姫は地面に散乱した桜餅を無我夢中に頬張り始める。
『人間の血肉だとしても…やっぱり桜餅は美味ね!』
満面の笑顔で桜餅を頬張ると消耗した妖力を回復させる。
『妖力も万全だし!本拠地に潜伏中の匪賊達を蹴散らせないと!』
桜花姫は荒神山天辺の本拠地へと進行したのである。すると背後より…。
『所詮は雑魚の分際なのに鬱陶しいわね…』
異国の洋弓連発銃を装備した匪賊が出現したのである。
「侵入者は毒死しやがれ!」
洋弓連発銃から猛毒の毒矢を発射…。桜花姫の背後から射撃したのである。
『毒矢かしら?』
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。毒矢を無力化する。
「命知らずね…あんたは雨蛙に変化しなさい!」
すると匪賊は変化の妖術によって雨蛙に変化したのである。
「私は常日頃から大忙しなのよ…邪魔しないでね!」
獣道を通行中…。獣道の道端で一休みしたのである。
「所詮相手は非力の人間だし…」
『私だけで匪賊達を全滅させるのは片手間だけれども…』
桜花姫は単純に匪賊達を征伐するだけでは面白くないと感じる。
「はぁ…」
一息すると両目を瞑目させたのである。
『此処からは禁断の妖術…発動しちゃおうかしら!』
神通力による禁断の妖術を発動したくなる。地面の石ころを直視する。
『口寄せの妖術…発動!』
すると数秒後…。地面の石ころが蛍光体に変化し始めたのである。蛍光体の石ころが等身大の女体を形成…。白装束の女性が地面に横たわった状態で出現したのである。白装束の女性が恐る恐る目覚め始める。
「えっ…私は…一体何を?」
白装束の女性は寝惚けた様子であったものの…。
「えっ?あんたは…誰かしら?」
白装束の女性は目前の桜花姫と目線が合致したのである。
「ひっ!あんたは!?」
白装束の女性が桜花姫の存在に気付いたかと思いきや…。桜花姫を直視し続けると白装束の女性は極度に戦慄したのである。
「別に戦慄しなくても大丈夫よ!私よ…桜花姫よ!私は月影桜花姫!」
「あんたは最上級妖女の…月影桜花姫!?」
白装束の女性は桜花姫の名前に畏怖し始める。
「如何してあんたがこんな場所に!?」
「久方振りね…粉雪妖女の雪美姫♪あんたが元気そうで安心したわ♪」
口寄せの妖術によって俗界に口寄せされた人物とは数週間前の戦闘で桜花姫の変化の妖術により食い殺された粉雪妖女の雪美姫…。死没者である彼女だったのである。
「如何してあんたが!?私は桜花姫に捕食されて…食い殺されたのよ!?如何して亡者の私が俗界なんかに!?」
雪美姫は何故亡者である自身が俗界に存在するのか混乱し始める。
「口寄せの妖術で亡者のあんたを俗界に再臨させたのよ!」
「えっ…口寄せの妖術ですって?」
口寄せの妖術とは伝説の神性妖術である天道天眼と造物主の神通力を保有する妖女のみが使用出来る前代未聞の禁断の妖術…。所謂時空間妖術の一種であり黄泉の世界の死没者でさえも俗界の生者として元通りに復活させられる。
「捕食された私を復活させるなんて荒唐無稽だわ…あんたは本物の女神様だね…」
前代未聞の妖術に雪美姫は苦笑いしたのである。
「こんな私が女神様なんて…雪美姫は大袈裟ね!」
桜花姫は雪美姫の女神様発言に内心大喜びする。
『黄泉の世界から死没者を簡単に復活させちゃうなんて…月影桜花姫…彼女は末恐ろしくなるわね…』
黄泉の世界の死没者でさえも元通りの状態に復活させた桜花姫を雪美姫は戦慄したのである。
「如何してあんたみたいな小娘がこんなにも夢物語みたいな荒唐無稽の妖術が扱えるのかしら?口寄せの妖術って禁断の妖術だったわよね?」
「仕方ないわね♪雪美姫♪」
雪美姫の問い掛けに桜花姫は雪美姫との戦闘以後の経緯を洗い浚い告白する。
「あんたが森羅万象の造物主である妖星巨木を仕留めちゃったの!?妖星巨木って世界樹として有名だったわよね?」
桜花姫は満面の笑顔で返答したのである。
「無論ね♪造物主の妖星巨木は仕留められたけれど私一人では断然勝利出来なかったわよ…正確には妹分の小猫姫と一緒に共闘したのだけれどね♪」
「仲間と共闘したとしても結果的にあんたみたいな妖女の小娘が森羅万象の造物主に勝利しちゃったみたいだからね…私みたいな凡庸の妖女では到達したくても到達出来ない天空の領域だわ…桜花姫は天道の化身なのかしら?」
雪美姫にとって今現在の桜花姫は異次元の超越的存在であり自身が低次元の微生物であると感じる。
「私が天道の化身ね…」
すると桜花姫は妖力の消耗からか一度深呼吸したのである。
「口寄せの妖術は妖力を莫大に消耗しちゃうわね♪普通の妖女なら妖力の消耗で過労死するかも知れないわ…」
「口寄せの妖術は桜花姫でも辛苦なのね…」
「口寄せの妖術は特殊だからね♪」
口寄せの妖術は通常の妖術とは桁違いの妖力が必要不可欠であり唯一神性妖術の天道天眼と造物主の神通力を扱える最上級妖女のみが口寄せの妖術を使用出来る。大量の妖力を所持した妖女を復活させるのであれば莫大なる妖力を消耗…。場合によっては妖力の消耗によって術者自身の過労死も否定出来ないとされる。
「普通の人間とか悪霊なら極小の妖力でも復活出来るけどね♪死滅した妖女を元通りに復活させるのは最上級妖女の私でも一苦労だわ…」
桜花姫は口寄せの妖術で粉雪妖女の雪美姫を復活させた影響により莫大なる妖力を消耗したのである。
「えっ!?桜花姫…」
『人間と悪霊なら極小の妖力で復活させられちゃうの!?』
雪美姫は桜花姫の発言に絶句する。
『ひょっとすると桜花姫の正体って天道の化身なのかしら?』
雪美姫は桜花姫の正体が天道の化身なのではと連想したのである。
「雪美姫?」
桜花姫は雪美姫に問い掛ける。
「何よ?桜花姫?」
「以前から疑問だったのだけれど…如何して雪美姫は西国の廃村で村人達を氷結させちゃったのよ?」
「えっ…」
雪美姫は一瞬困惑するものの…。恐る恐る口述したのである。
「私の宿六が…其処等の花魁なんかと不倫したからよ…」
「宿六の不倫ですって?」
「宿六の不倫に苛立っちゃって無関係の村人達を氷結させたのよ…」
「はぁ…あんたは人騒がせな人妻ね…」
『雪美姫…彼女にとっては深刻だったのでしょうけど完全に八つ当たりだわ…』
桜花姫は雪美姫が暴走した理由に呆れ果てる。
「金輪際夫婦間の八つ当たりで無関係の人間には手出ししないのよ…雪美姫にとっては大問題だったのでしょうけれど…」
桜花姫の警告に雪美姫は恐る恐る承諾したのである。
「勿論よ…」
「苛立って無関係の誰かに手出しすれば今度こそ私が征伐するからね♪」
桜花姫は満面の笑顔で断言する。
『桜花姫…本気そうだわ…』
雪美姫は不吉の笑顔で冷笑し始める桜花姫に戦慄するものの…。内心気恥ずかしくなったのか沈黙したのである。
「雪美姫!即刻匪賊達の本拠地に潜入しましょうよ!」
「匪賊達の本拠地ですって?」
「今回は荒神山を牛耳る匪賊達を徹底的に征伐するのよ!雪美姫!勿論あんたも私に協力するわよね?」
雪美姫は満面の笑顔である桜花姫に戦慄する。
「勿論…私も桜花姫に協力するわよ…」
『折角元通りに復活出来たのに!此処で桜花姫に協力しなかったら今回も食い殺されちゃうかも知れないからね!』
雪美姫にとって第二の人生を満喫出来る絶好機である。こんな場所で二度も食い殺されては元も子もないと感じる。雪美姫は笑顔の桜花姫に身震いしたのである。
「勿論!今回私が傍若無人のあんたを復活させたのは私自身の気紛れだからね!留意しなさいよ…」
桜花姫の傍若無人の一言に一瞬腹立たしくなる。
『傍若無人なのはあんただって一緒でしょうが!桜花姫!』
桜花姫の言動に苛立った雪美姫であるが…。堪忍したのである。
「先程の口寄せの妖術で私は空腹だし敵対視するのであれば…即刻あんたを桜餅に変化させて食い殺しちゃうかも知れないわよ!」
雪美姫は満面の笑顔で発言する桜花姫に苛立つものの…。不本意であるが雪美姫は桜花姫に服従したのである。
「別に私は桜花姫には敵対視しないわよ…あんたを裏切れば食い殺されるのは明白だし…二度もあんたなんかに殺されたくないわ!」
「交渉成立ね!雪美姫!」
雪美姫は不本意であるが桜花姫と一致団結…。
「雪美姫…奴等の本拠地に移動しましょう!」
「仕方ないわね…」
桜花姫と雪美姫は匪賊達の本拠地へと移動したのである。

第四話

休憩
移動し始めてから数分後…。桜花姫と雪美姫は荒神山の天辺へと到達する。
「荒神山の天辺みたいだわ…」
「匪賊の根城に到達したわね…」
天辺の中心部には大陸の楼閣らしき家屋敷が確認出来る。
「匪賊達の家屋敷だわ…随分と豪華そうだけど此処が奴等の本拠地っぽいわね…」
「桜花姫…表門の門番は二人みたいね…」
家屋敷の表門には二人組の門番が見張り役として表門を警護する。
「門番を突破しちゃえば楽勝ね♪」
「如何するのよ?桜花姫?」
「勿論…正面突破で門番達を仕留めるわよ!」
桜花姫の即答に雪美姫は苦笑いするものの…。
「桜花姫…真正面から攻撃なんてあんたらしいわね…」
「当然でしょう!」
桜花姫と雪美姫は家屋敷の表門へと近寄ったのである。
「あんた達…御免あそばせ♪」
桜花姫は満面の笑顔で表門の門番達に挨拶する。
「なっ!?貴様達は一体何者であるか!?」
表門の門番達は妖女の二人に警戒したのか即座に抜刀したのである。
「芸妓の小娘かと思いきや…貴様は人外の妖女であるな!?」
「先程の妖女の噂話とやらは事実であったか!」
桜花姫は満面の笑顔で返答する。
「私が人外の妖女だから何よ?あんた達…私に殺されたくなければ即刻表門を開放するのね♪表門を開放すればあんた達は命拾い出来るかも知れないわよ♪」
二人の門番は桜花姫の警告が非常に腹立たしくなる。
「貴様…何を!?小娘の分際で!」
「斬首されたいか!?妖女の小娘!?」
門番達は桜花姫の挑発的発言に苛立ったのか桜花姫に殺到したのである。
「地上世界の女神様のである私に小娘なんて…あんた達は余程の命知らずなのね♪仕方ないわ…」
桜花姫は即座に念力の妖術を発動…。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
門番達の肉体を完膚なきまでに破裂させる。
「大人しく表門を開放すれば命拾い出来たでしょうに…」
本拠地の表門には彼等の血肉やら肉片が飛散する。
「桜花姫…」
雪美姫は表門の光景に恐る恐る…。
「あんたは相手が非力の人間でも手加減しないのね…」
「手加減するも何も…敵対者が非力の人間だったとしても確実に仕留めるのが不寝番の私だからね♪」
「えっ…」
『桜花姫って本当に無慈悲ね…』
雪美姫は非力の人間相手に手加減しない桜花姫に内心気味悪がる。
「無論…無抵抗の人間なら相手が極悪非道の匪賊だったとしても私は手出ししないから安心しなさい♪」
「相手が匪賊でも?」
桜花姫は冷笑した表情で…。
「反対に抵抗すれば非力の子供でも私は容赦しないわよ♪」
桜花姫は満面の笑顔で断言したのである。
「えっ…」
『桜花姫…其処等の匪賊達?悪霊以上に無慈悲だわ…』
雪美姫は自身が想像する以上に桜花姫が無慈悲であると実感する。
「雪美姫♪あんたは私を無慈悲の悪女って主張したいのかも知れないけれど…あんただって以前の騒動では八つ当たりで宿六と大勢の村人達を殺戮したでしょう♪私は相手が誰であっても八つ当たりでは人間は殺さないからね♪無論神出鬼没の悪霊は別だけどね♪」
雪美姫は桜花姫の反論に沈黙したのである。
「雪美姫♪一先ずは一休みしましょう♪私は空腹なので♪」
桜花姫は変化の妖術を発動…。表門に散乱した門番達の血肉を無数の桜餅に変化させたのである。
「えっ!?人間の血肉が桜餅に!?あんたの妖術なの!?」
「勿論よ♪」
雪美姫は桜餅を美味しそうに鱈腹頬張り続ける桜花姫を直視すると気味悪くなる。
『数週間前は私自身も桜花姫の変化の妖術で桜餅に変化させられて…彼女に食い殺されたのよね…』
雪美姫は以前の出来事を想起…。桜花姫の悪食に身震いしたのである。
「消耗した妖力を回復させないと♪」
桜花姫は極度の空腹であり散乱する桜餅を無我夢中に頬張り続ける。
「桜餅だとしても本来は人間達の血肉なのよ…笑顔で頬張れるなんて…」
桜花姫の悪食に雪美姫は全身に鳥肌が立つのか極度の悪寒を感じる。
『桜花姫…此奴はやっぱり悪趣味だわ…』
雪美姫は目前の光景に戦慄したのである。
「本来が人間の血肉だとしても♪変化の妖術で人肉以外の食べ物に変化させれば気にならないから大丈夫よ♪折角だから雪美姫も一緒に桜餅を味見しない?桜餅は絶品よ♪」
「私は味見したくないわ!桜餅を頬張りたければあんたが一人で頬張りなさい!」
『人間の血肉なんて桜餅だとしても絶対に食べたくないわね!』
雪美姫は断然拒否する。
『やっぱり桜花姫は異質的だわ…』
雪美姫は桜花姫の異常性に絶句したのである。

第五話

門番
休憩から数分後…。
「やっぱり桜餅は美味だわ♪」
桜花姫は表門に散乱した無数の桜餅を鱈腹平らげたのである。
「数分間で無数の桜餅を平らげるなんて…桜花姫の胃袋は広大無辺の天空世界なのかしら?」
雪美姫は数分間で無数の桜餅を平らげた桜花姫に苦笑いする。
「妖力も回復出来たし♪」
「桜花姫は匪賊達を蹴散らせるのよね?」
「今回は普通に蹴散らせるのは面白くないからね♪」
「如何するのよ?桜花姫?」
桜花姫は地面の石ころに注目したのである。
「今度も…」
桜花姫は口寄せの妖術を再発動する。
『口寄せの妖術…発動!』
口寄せの妖術を発動すると地面の石ころが蛍光体へと変化したかと思いきや…。一瞬で人間の姿形を形成したのである。妖術を発動し始めてから数秒後…。
「えっ!?」
先程念力の妖術で仕留めた門番の一人を元通りの姿形に復活させたのである。
「彼って先程桜花姫の妖術で仕留められた人間の門番だわ…ひょっとして門番も口寄せの妖術で復活させたのかしら?」
桜花姫は雪美姫の問い掛けに満面の笑顔で即答する。
「勿論よ!彼も私が口寄せの妖術で元通りに復活させたのよ!口寄せの妖術は普通の人間は当然…大抵の悪霊程度なら微量の妖力で復活させられるから非常に便利でしょう!倫理観は別としてね…」
「便利って…」
口寄せの妖術は同種の妖女を復活させた場合妖力の消耗は通常の妖術よりも桁外れである反面…。非力の人間やら通常の悪霊を復活させるには微量の妖力のみで容易に復活させられる。
『やっぱり世の中は理不尽よね…こんな荒唐無稽の小娘が夢物語みたいな非人道的妖術を自由自在に扱えるなんて…』
黄泉の世界からの死没者さえ元通りに復活させる口寄せの妖術に雪美姫は再度末恐ろしくなる。
『やっぱり桜花姫…天道の化身なのかしら?』
雪美姫は桜花姫が天道の化身であると予想する。
「えっ?如何しちゃったのかしら?」
雪美姫は復活した門番に恐る恐る近寄ったのである。
「桜花姫?あんたが復活させた門番は一言も喋らないし無反応だわ…如何して門番は一言も喋らないのよ?」
口寄せの妖術で元通りに復活させた門番であるが…。彼自身は沈黙した様子であり何一つとして身動きせず一言も発言しない。
「何も身動きしないわよ…門番は無表情の雛人形みたいね…」
雪美姫は門番の人形みたいな様子が不吉に感じる。
「勿論!身動き出来ないし彼自身は単なる傀儡人形だからね…所詮門番は無感情の傀儡人形だから喋りたくても喋れないわよ!」
本来禁断の口寄せの妖術で復活させた対象者は妖術を発動した使用者の傀儡人形として扱われる。無論口寄せされた対象者の自我は妖術の使用者に完全掌握され…。妖術の使用者が掌握を軽減化させなければ復活した対象者は束縛された状態の手駒であり姿形が生身の傀儡人形同然である。
「雪美姫が意思表示を自由自在に表現出来るのは私の気紛れで掌握を軽減化させただけだからね!」
桜花姫は冷笑した表情で雪美姫に説明する。
「本来なら口寄せの妖術で復活させた雪美姫だって私の傀儡人形なのよ!留意しなさいね…」
口寄せの妖術で復活させた門番は微量の妖力で形作られた不良品同然である。姿形は元通りでも自我は皆無であり彼自身は自己の意思表示は出来ない。
「匪賊だとしても…気の毒ね…」
雪美姫は復活させられた門番に同情したのか気の毒に感じる。
「所詮此奴は匪賊の一員なのよ!大悪党だし気にしないの!」
『枯れ木も山の賑わいかしら!こんな悪人でも今回の戦闘では役立ちそうね!』
桜花姫は冷笑したのである。
『桜花姫…彼女は何を思考したのかしら?』
雪美姫は冷笑し始める桜花姫に身震いする。
『桜花姫の思考力は荒唐無稽で予想外過ぎるからね…』
すると桜花姫は復活させた門番に問い掛けたのである。
「私から質問だけど…あんた達の家屋敷では何人の匪賊達が潜伏中なのかしら?」
門番は桜花姫の質問に忠実に即答する。
「本拠地には十三人の守備隊が潜伏中なのだ…地下壕の牢獄には六人の見張り役達が合計四人の村娘を監禁中であるぞ…」
「えっ?村娘ですって?」
村娘の一言が気になったのか桜花姫は門番に再質問したのである。
「村娘って何よ?気になるわね…」
「仲間達が…南国の各村落から四人の村娘達を連行したのだ…」
「如何してあんた達は村娘を四人も連行したのよ?」
桜花姫の問い掛けに門番は一瞬沈黙するものの…。
「連行された村娘達は近隣の異国に身売りする予定なのだ…連行した村娘は金儲けの商品として利用する算段だった…」
「はっ?村娘を身売りですって…」
門番の発言に彼女達は一瞬絶句する。
「金儲けの商品?ひ弱の女性を異国なんかに身売りさせるなんて極悪非道だわ…」
桜花姫は勿論…。
「今時身売りなんて完全に時代錯誤ね…」
雪美姫さえも腹立たしくなる。
「桜花姫…即刻彼女達を救出しましょう!」
「勿論よ!今回ばかりは地上世界の女神様である私でも腹立たしくなったわ!」
「えっ…女神様?」
『誰よりも無慈悲のあんたが…地上世界の女神様って自称しちゃうなんて…』
雪美姫は自分自身を地上世界の女神様と自称する桜花姫に一瞬苦笑いしたのである。すると桜花姫は満面の笑顔で門番に接触する。
「匪賊の門番…折角だからあんたは即刻匪賊達の本拠地に潜伏しなさい!無事に潜伏出来たら匪賊の親玉諸共本拠地で自爆するのよ!」
「えっ!?一寸…桜花姫?折角復活させたのに彼を自爆させちゃうの!?」
雪美姫は桜花姫の自爆発言に驚愕したのである。
「当然でしょう!所詮門番は自爆要員だからね!彼自身の自我は私が掌握したから意思表示も反論も出来ないわよ…何もかもが私の気分次第なのよ!」
「はぁ…やっぱりあんたは私以上に無慈悲ね…」
『意外と狡賢いし…』
雪美姫は桜花姫の想像以上の狡猾さに苦笑いする。一方の桜花姫は再度門番に命令したのである。
「即刻あんたは本拠地に戻って親玉と部下の奴等諸共爆殺しなさい!勿論親玉には二人の妖女を仕留めたって報告するのよ!絶対だからね!」
「承知した…早速行動を開始する…」
門番は桜花姫の命令を承諾すると表門から家屋敷へと入室し始め…。家屋敷最上階の本拠地に戻ったのである。
「桜花姫…あんたも人一倍鬼畜ね…」
「勿論私は敵対者には手加減しないからね!手段が残虐非道でも敵対者を徹底的に仕留めるのが私だから!利用出来るなら人間の悪党でも悪霊でも利用するわよ!」
桜花姫は雪美姫の発言に満面の笑顔で即答する。
『桜花姫…』
雪美姫は一瞬身震いするのだが…。
「あんたらしいわね…桜花姫!」
笑顔で返答したのである。
「雪美姫!即刻監禁された女性達を救出しましょう!」
桜花姫と雪美姫は表門から恐る恐る家屋敷へと潜入する。
「屋内は宿屋みたいね…」
「宿屋なら一泊したいわね!」
屋内は意外にも宿屋みたいな雰囲気だったのである。
「屋内では人間達の気配は感じられないわね…桜花姫?如何するのよ?」
周辺からは人間の気配も殺気も何一つとして感じられない。
「門番の情報源では連行された四人の村娘達の居場所は地下豪だったわね…」
すると通路の右側片隅に地下室へと通ずる階段を発見する。
「雪美姫!階段だわ!地下豪に潜入出来そうよ!」
「地下壕ね…」
すると突然…。
「えっ!?」
『殺気かしら!?』
背後より殺気を感じる。
「桜花姫!敵襲よ!」
「えっ?」
彼女達の背後には火縄銃を武装した匪賊が突如として出現…。
「妖女!死滅しやがれ!」
桜花姫は背中を狙撃される。
「ぎゃっ!」
火縄銃で狙撃された桜花姫は多量の出血により床面に横たわったのである。
「桜花姫!?大丈夫!?」
桜花姫の背中からは大量の鮮血が出続ける。
「雪美姫…私は…」
「桜花姫…如何して…」
突発的出来事により雪美姫は狼狽える。
「油断大敵ね…迂闊だったわ…ぐっ!」
桜花姫は吐血したのである。
「桜花姫!?」
雪美姫は流れ出る鮮血に動揺する。
「私は如何すれば…」
すると匪賊が狼狽える雪美姫に背後から近寄る。
「白装束の姉ちゃんよ!即刻あんたも打っ殺すから覚悟しろよ!」
雪美姫は無表情で匪賊を睥睨したのである。
「打っ殺されるのはあんたよ!」
「はっ?」
雪美姫は妖力により匪賊の肉体を一瞬で氷結させる。
「死滅しなさい!」
「なっ!?」
数秒後…。氷結された匪賊の肉体は一瞬で崩れ落ちる。
「桜花姫…大丈夫!?」
雪美姫は床面に横たわった状態の桜花姫に恐る恐る接触…。戦慄する。
「ひゃっ!」
『桜花姫の肉体…低体温だわ…』
桜花姫の肉体は低体温であり全身が冷感状態だったのである。
『桜花姫が失血死しちゃうわ!』
雪美姫は桜花姫の状態に絶望視する。
『最上級妖女の桜花姫が…人間相手に殺されちゃうなんて…』
雪美姫は桜花姫の絶体絶命に絶望した直後…。突如として床面に横たわった状態の桜花姫の肉体から白煙が発生し始める。
「えっ?」
桜花姫の身体髪膚は白煙に覆い包まれたかと思いきや…。
「えっ!?」
桜花姫の肉体は一瞬で消滅したのである。
「桜花姫!?」
突然消滅した桜花姫に雪美姫は驚愕する。
『桜花姫の肉体は?』
すると背後より何者かが雪美姫の背中に接触したのである。
「きゃっ!」
突如として何者かに背中を接触された雪美姫は驚愕する。
「雪美姫!」
「えっ!?あんたは桜花姫!?」
吃驚した雪美姫は桜花姫に怒号したのである。
「吃驚させないでよ!一瞬心臓が急停止しちゃうかと…」
「御免あそばせ!雪美姫!」
桜花姫は満面の笑顔で謝罪する。
「分身体だから私自身は大丈夫なのよ!」
「はぁ…分身体だったのね…あんたは本当に人騒がせだわ…」
先程狙撃された肉体が妖力によって形作られた桜花姫の分身体であり雪美姫は一安心したのである。
「冷や冷やさせないでよ!桜花姫!一瞬あんたが本当に殺されちゃったのかと…」
「私に接吻したあんたが私を心配するなんてね♪感謝するわね♪雪美姫♪」
すると雪美姫は赤面した表情で否定する。
「なっ!?勘違いしないで!私は別に…あんたが死んじゃったら私自身が此処から脱出出来なくなるかも知れないからね!誰があんたの心配なんか!」
赤面し始めた雪美姫であるが…。雪美姫は無理矢理に表情を強張らせる。
『雪美姫…無理に表情を強張らせなくても…』
桜花姫は無理矢理に表情を強張らせる雪美姫に苦笑いする。
「悪者はあんたが仕留めたみたいだから…即刻地下壕に潜入するわよ♪雪美姫♪」
「今度は吃驚させないでよ!」
二人は再度地下壕へと移動したのである。

第六話

自爆
二人が移動を再開した同時刻…。桜花姫の口寄せの妖術によって復活させられた門番は天守閣とされる最上階の本拠地へと到達したのである。
「ん?こんな場所に門番が…」
天守閣最上階の大部屋には十三人の匪賊達が待機中であり大部屋の中心部には親玉らしき巨漢の無頼漢が待機する。
「二人組の妖女が出現してから山中が随分と大騒ぎみたいだが…通路は大丈夫なのかよ?最上層に妖女が出現したら面倒だぜ!」
「武士団の奴等も面倒だが…妖女に潜入されちまったら対処出来ないぞ!」
周囲の匪賊達が騒然とし始める。
「貴様は門番だな…何事かな?」
匪賊の親玉らしき巨漢の無頼漢が門番に問い掛ける。
「報告だ…」
「報告だと?」
門番は無表情で匪賊の親玉に報告したのである。
「親玉…」
「ん?」
門番は周囲を警戒した様子で一息し始め…。
「見張り役が何人か仕留められちまったが…噂話の二人組の妖女なら先程…俺が確実に仕留めたから安心しな…」
「貴様が二人組の妖女を?」
「二人組の妖女を確実に仕留めたって!?本当なのかよ!?」
匪賊達は門番が桜花姫と雪美姫を本当に仕留めたのか疑問視したのである。
「貴様が二人組の妖女とやらを仕留めたのは事実であるか?」
巨漢の無頼漢は再度門番に問い掛ける。
「本当に妖女を仕留めたのかよ!?」
「胡散臭いな…妖女を仕留めたのが事実なら二人の生首を此処に持って来い!口先だけでは信用出来ないぞ!」
正直彼等は門番の報告に疑心暗鬼だったのである。
「俺が妖女を仕留めたのは勿論事実だ…」
門番は只管に妖女を仕留めたと主張する。
「外部は物静かだけどな…」
「結局妖女は仕留めたのかよ…」
外部は非常に物静かであり数人の匪賊達は門番が二人の妖女を仕留めたのは事実であると信用したのである。
「兎にも角にも…問題は解決したのかな?」
彼等は安堵する。
「ん?此奴は…」
匪賊の親玉は門番の異変に気付いたのである。
『様子が可笑しいぞ!』
すると数秒後…。
「なっ!?此奴の体内から熱気だぞ!」
門番の体内から超高温の熱気が凝縮されたのである。
「一体何が!?」
周囲の匪賊達が突然の超常現象に動揺し始める。門番の肉体から超高温の熱気が凝縮された瞬間…。
『此奴は…妖女の仕業だな!?』
匪賊の親玉は妖女の仕業であると察知したのである。熱気により門番の肉体が肥大化し始めた直後…。門番の肉体が爆散したのである。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
門番の突発的自爆によって周辺の匪賊達諸共爆殺される。家屋敷全域に爆発音が響き渡ったのである。

第七話

鉄格子
最上層の匪賊達が爆殺された同時刻…。地下豪では最上層の本拠地から響き渡った爆発音により六人の見張り役達が狼狽える。
「爆発音だと!?一体何が!?」
「最上階からだったよな?」
「如何して最上階から爆発音が…天守閣では一体何が発生したのだ!?」
一方連行された四人の村娘達も先程の爆発音に戦慄したのである。
「一体何かしら?」
「何事なの?火薬の爆発音みたいだったけど…」
「私達…こんな牢獄で殺されちゃうのかな…」
「私は…こんな牢獄で死にたくないよ!」
彼女達は極度の戦慄により涙腺から涙が零れ落ちる。すると地下豪の鉄扉から二人組の妖女が潜入する。
「あんた達♪御免あそばせ♪」
見張り役達は満面の笑顔で挨拶する桜花姫に戦慄したのである。
「うわっ!貴様達は!?」
「誰かと思いきや…貴様達は噂話の二人組の妖女だな…」
「如何して妖女が地下豪に潜入出来た!?」
「門番の奴等…警備をすっぽかしやがったのかよ!」
「結局俺達が此処で尻拭いとは…」
桜花姫は満面の笑顔で断言する。
「如何やらあんた達の仲間の門番が私達に寝返っちゃったみたいよ♪今頃仲間内で内輪揉めでしょうね♪」
「はっ!?内輪揉めだって!?」
彼等は桜花姫の発言に驚愕したのである。
「門番の野郎が俺達を裏切りやがったのか!?」
問い掛けられた桜花姫であるが…。桜花姫は満面の笑顔で返答する。
「如何でしょうね…仲間達の様子が気になるなら自分達で確認すれば?」
見張り役達は桜花姫の態度に苛立ったのである。
「此奴…」
「貴様出鱈目を…打っ殺されたいのか!?」
桜花姫の返答に腹立たしくなった巨漢の見張り役が護身用の連発銃で無防備の桜花姫を狙撃…。
「桜花姫!?」
同行者の雪美姫は畏怖したのである。連発銃で狙撃された桜花姫であるものの…。危機一髪妖力の防壁を発動したのである。
「妖力の防壁…成功!危機一髪だったわね!」
桜花姫は妖力の防壁により連発銃の弾丸を無力化する。
「はぁ…桜花姫…」
一方の雪美姫は桜花姫の無事に一安心したのである。
「あんたは本当に人騒がせね…」
『一瞬心臓が破裂しちゃうかと…』
すると桜花姫は満面の笑顔で…。
「心配しなくても私なら大丈夫よ!雪美姫!あんたは意外と心配性なのね!」
雪美姫は非常に呆れ果てる。
「桜花姫…あんたね…演出が過剰過ぎるのよ!」
一方の見張り役達は恐る恐る後退りしたのである。
「畜生が…妖女の小娘は妖術で弾丸を無力化しやがったか…」
桜花姫は見張り役達に挑発する。
「残念だったわね!連発銃の弾丸では私は殺せないわよ!」
「此奴!」
桜花姫は変化の妖術を発動…。
「地上世界の女神様である私に手出ししたあんたは即刻招き猫に変化しなさい!」
巨漢の見張り役を精巧に形作られた招き猫に変化させたのである。
「うわっ!人間が招き猫に!?」
「此奴は妖術か?」
見張り役達は勿論…。牢獄の村娘達も桜花姫の変化の妖術によって招き猫に変化させられた見張り役の姿形に驚愕したのである。
「えっ!?人間が招き猫に変化するなんて…現実なの?」
「妖術かしら?」
四人の村娘達は恐る恐る桜花姫に注目する。
「えっ?彼女はひょっとして不寝番の…」
「西国の…月影桜花姫様かしら?」
月影桜花姫の名前に見張り役達は驚愕したのである。
「月影桜花姫だって!?冗談だろ!?」
「桜花姫って最上級妖女の!?本物かよ!?」
「如何して本物の桜花姫がこんな場所に!?」
すると小柄の見張り役が桜花姫に戦慄し始め…。全身が身震いしたのである。
「貴様達!こんな小娘を相手に狼狽えるな!西国の月影桜花姫とて所詮は非力の小娘だ!打っ殺しちまえ!」
見張り役達は連発銃で桜花姫に総攻撃するものの…。対する桜花姫は妖力の防壁によって連発銃の弾丸を無力化したのである。
「はぁ…鬱陶しい奴等だわ…」
桜花姫は彼等の愚行に呆れ果てる。
「あんた達は私に挑戦するなんて馬鹿者ね…」
見張り役達に変化の妖術を発動する。
『飴玉に変化しなさい♪』
連発銃で狙撃した見張り役達を自身の大好きな飴玉に変化させたのである。
「ひっ!」
唯一無抵抗だった小柄の匪賊が極度の恐怖心により落涙し始める。
「如何やら無事なのはあんただけね♪あんたは如何するのかしら♪抵抗するなら私は容赦しないけど♪」
桜花姫が満面の笑顔で発言すると小柄の匪賊は恐る恐る…。
「俺は抵抗しない…降参するよ…」
匪賊は極度の戦慄により全身が身震いしたのである。
「金輪際悪さしないから…今回だけは見逃して…」
匪賊は桜花姫に身震いした様子で一歩ずつ後退りし始める。
「別に…私は誰よりも温厚篤実の女神様だからね♪相手が極悪非道の匪賊だとしても無抵抗の人間には手出ししないから安心しなさい♪」
桜花姫は即座に匪賊の装備品を飴玉に変化させたのである。
「入念だけど♪」
「えっ!?拳銃が飴玉に!?」
匪賊は飴玉へと変化した拳銃に驚愕する。
「武器は無力化したわ♪狙撃したくても出来なくなったわね♪」
桜花姫は牢獄の内部を直視したのである。
「即刻彼女達を救出しないと♪」
すると雪美姫が牢獄の鉄格子に接触する。
「えっ?雪美姫?如何するのよ?」
「桜花姫…私にも役立たせてよ…」
「雪美姫…承知したわ♪あんたは思う存分に役立ちなさい♪」
『雪美姫なりの罪滅ぼしかしら♪如何やら彼女も役立ちたいみたいね♪』
桜花姫は笑顔で雪美姫の要望を承諾したのである。雪美姫は恐る恐る四人の村娘達に警告する。
「あんた達…村里に戻りたかったら鉄格子には接触しないのよ…」
「承知しました…」
彼女達は恐る恐る鉄格子から後退りしたのである。雪美姫は鉄格子に接触した状態で氷結の妖術を発動…。一瞬で鋼鉄の鉄格子を氷結させたのである。
「えっ…鋼鉄の鉄格子が…」
「鉄格子が一瞬で氷結しちゃうなんて…妖術なのかしら?」
四人の村娘達は驚愕する。すると数秒後…。
「鋼鉄の鉄格子が氷結の影響で崩れ落ちたわ…」
氷結の妖術で氷結させた鋼鉄の鉄格子が一瞬で崩れ落ちる。
「私達…村里に戻れるのね♪」
「私達は無事なのね♪」
牢獄から解放された四人の村娘達は無事を大喜びしたのである。
「桜花姫様と…貴女様は誰でしたっけ?」
「私は粉雪妖女の雪美姫よ…」
「粉雪妖女の雪美姫様ですか♪」
「大変感謝します♪妖女の桜花姫様と雪美姫様が参上されなかったら…私達は今頃異国に身売りされちゃったかも知れません…」
桜花姫は満面の笑顔で返答する。
「別に…あんた達が無事なのが何よりよ♪匪賊達を征伐するのも案外面白かったし♪今日は最高の一日だったわ♪」
「えっ…」
『面白かったのかな?』
雪美姫は満面の笑顔で発言する桜花姫に苦笑いしたのである。
「あんた達♪即刻地下壕から脱出しましょう♪」
すると雪美姫は警戒した表情で…。
「油断大敵だよ…桜花姫…匪賊達の残党が屋内に潜伏中かも知れないし…」
「雪美姫♪心配しなくても大丈夫よ♪」
桜花姫は満面の笑顔で即答したのである。
「匪賊の残党が襲撃したとしても私が即刻仕留めちゃうから♪」
彼女達は警戒した様子で恐る恐る地下壕から脱出する。

第八話

解散
移動を開始してより数分後である。
「もう少しで此処から脱出出来そうだわ♪」
彼女達は無事に匪賊達の家屋敷から脱出出来…。安堵したのである。
「私達は…戻れたのね…」
「無事に戻れるなんて…現実なのかしら?」
四人の村娘達は涙腺から涙が零れ落ちる。
「桜花姫様…雪美姫様…貴女達には大変感謝します…」
「私達…貴女達に何も謝礼が出来なくて御免なさいね…」
彼女達は桜花姫と雪美姫に謝罪する。
「別に謝礼なんて…あんた達は大袈裟ね…」
謝罪された桜花姫は困惑するものの…。
「別に気にしないの♪私にとって匪賊征伐なんて道楽同然だから♪所詮夜遊びと一緒だからね♪あんた達は気にしなくても大丈夫なのよ♪」
事実桜花姫にとって悪霊征伐も匪賊征伐も所詮は娯楽であり報酬は不要である。匪賊征伐を夜遊びと断言する桜花姫に雪美姫は苦笑いする。
『匪賊達を征伐するのが道楽って…桜花姫は人一倍異端者だわ…一体何が面白いのかしら?』
桜花姫は異端者であると感じる。
「あんた達…無事に戻りなさいね♪」
「承知しました♪」
「あんた達♪達者でね♪」
「桜花姫様と雪美姫様も♪」
四人の村娘達は恐る恐る南国の村里へと戻ったのである。
「雪美姫?」
すると桜花姫は背後の雪美姫を直視する。
「あんたは今後如何するのよ?」
「桜花姫…私は…」
雪美姫は一瞬沈黙するものの…。
「今回あんたと一緒に行動してから…私もあんたみたいに悪霊とか匪賊を征伐したくなったわ!」
満面の笑顔で返答したのである。
「雪美姫!」
桜花姫は満面の笑顔で発言した雪美姫に微笑み始める。
「あんたの妖力でも其処等の匪賊程度なら確実に仕留められるでしょうね!あんたなりに精一杯頑張りなさい!」
「私も…八つ当たりで大勢の人間達を殺しちゃったからね…精一杯贖罪しないと!」
『彼女…本当に雪美姫本人なのかしら?以前とは別人みたいね…』
雪美姫は生前とは別人だったのである。
「反省したのね!雪美姫…」
「私も遣り過ぎちゃったからね…」
桜花姫は改心した雪美姫に感心する。
「桜花姫!今回はあんたの気紛れかも知れないけれどね…感謝するわね!」
「雪美姫…」
以前は敵対者だった雪美姫の変貌に一瞬驚愕するものの…。
『本来なら口寄せの妖術は非人道的妖術かも知れないけれど…結果的に悪くなかったのかも知れないわね!』
桜花姫は口寄せの妖術で雪美姫を復活させたのは怪我の功名であると感じる。
「私は第二の人生…精一杯長生きするからね!桜花姫!」
断言する雪美姫に桜花姫も満面の笑顔で返答したのである。
「私もね!」
桜花姫と雪美姫は山道を下山し始めてから数分後…。
「私は北国の村里に帰郷するわね…」
「達者でね!雪美姫!」
「桜花姫も!」
桜花姫と雪美姫は解散したのである。桜花姫は帰宅中…。
『久し振りに東国の八正道様に挨拶しましょうかね♪』
桜花姫は久方振りに東国の八正道の寺院へと移動したのである。

第九話

寺院
荒神山から移動し始めてから二時間後…。桜花姫は東国の寺院に到達したのである。
『此処が八正道様の寺院だったわね!』
桜花姫は寺院の玄関にて満面の笑顔で…。
「八正道様!」
桜花姫の美声に反応したのか八正道は大急ぎで玄関口へと移動する。
「誰かと思いきや…貴女様は月影桜花姫様でしたか!桜花姫様と再会するのは二週間前の妖星巨木の一件以来でしょうか?久方振りですな!桜花姫様!」
八正道は桜花姫との再会に大喜びの様子だったのである。
「八正道様!元気そうで安心したわ!」
「桜花姫様こそ元気そうで何よりですよ!折角ですし…茶話会でも如何でしょうか?桜花姫様の大好きな和菓子を用意しますよ!」
「和菓子ですって!?何かしら?」
八正道は桜花姫を応接間へと案内する。
「桜花姫様!麦茶と…大好物の和菓子ですぞ!」
八正道は客人である桜花姫に麦茶と牡丹餅を用意したのである。
「今日は牡丹餅だわ!美味しそうね!」
桜花姫は牡丹餅に大喜びする。
「桜花姫様が大喜びの様子なので一安心ですよ!本来であれば桜花姫様の一番の大好物である桜餅を用意したかったのですが…生憎桜餅は著名の和菓子屋でも完売しちゃったみたいですね…」
桜花姫は恐る恐る謝罪する八正道に満面の笑顔で…。
「別に気にしないで!八正道様!桜餅なら先程腹一杯平らげちゃったから!」
「頬張られたのですね…桜花姫様が桜餅を頬張られたのであれば一安心です!」
八正道は桜花姫の返答に安堵したのである。
「八正道様…今日の事件だけどね!」
「えっ?今日の事件ですと?桜花姫様?」
桜花姫は先程の出来事を八正道に洗い浚い告白する。
「桜花姫様は荒神山で匪賊達を征伐しに出掛けられたのですか!?彼等に連行された村里の女性達を無事に救出されたのですね!」
「神出鬼没の悪霊は出現しなかったけれど…今回の事件も面白かったわよ♪」
「ですが私も桜花姫様と一緒に行動したかったですよ…正直今回の大事件では桜花姫様に協力出来なかったので非常に残念ですね…」
八正道は桜花姫に協力出来ず非常に残念であると感じる。
「今回は御免あそばせ!八正道様!」
桜花姫は笑顔で謝罪する。
「今回ばかりは敵対者が極悪非道の匪賊だったとしても相手は普通の人間だからね!正直聖職者の八正道様は呼び辛かったのよ…八正道様は人一倍温柔敦厚で心配性だから人外の悪霊は征伐出来ても…人殺しなんて出来ないでしょう?」
桜花姫は笑顔で発言したのである。
「桜花姫様…」
八正道は桜花姫の他者への配慮に感動する。
『やっぱり彼女は正真正銘…桃源郷神国の女神様ですね!』
桜花姫と八正道は談笑し合ったのである。

第十話

秘密
同日…。真夜中の出来事である。大騒ぎが鎮静化した真夜中の荒神山では蛇神の蛇体如夜叉と山猫妖女の小猫姫が天辺へと到達する。
「なっ!?荒神山の天辺中心部にこんな家屋敷が築造されたなんて…」
「誰の家屋敷なのかな?宿屋みたいだね…」
すると家屋敷の表門より…。
「えっ?誰だろう?蛇体如夜叉婆ちゃん?」
小猫姫は表門の近辺の地面に横たわった状態の小柄の人物を発見する。
「男の人みたいだけど…」
小猫姫は恐る恐る近寄る。小柄の匪賊であり地面に横たわった状態だったのである。蛇体如夜叉も表門に近寄る。
「ん?ひょっとして家屋敷の宿主かね?」
「熟睡中なの?大丈夫かな?」
蛇体如夜叉と小猫姫は恐る恐る地面に横たわった状態の匪賊の若者に近寄ると匪賊の背中に接触する。
「人間の若者よ…あんたは大丈夫かね?」
蛇体如夜叉が背中に接触しても小柄の匪賊は無反応だったのである。
「如何やら此奴は気絶したみたいだね…大丈夫だろうか?」
蛇体如夜叉は小柄の匪賊を心配する。
「如何して表門で気絶しちゃったのかな?」
「私にも何が何やらさっぱりだね…」
「悪霊にでも遭遇したのかな?」
「此処では悪霊特有の霊気は感じられないね…」
すると数秒後…。
「ん?俺は…」
気絶した状態の匪賊が恐る恐る目覚める。
「ん?俺は一体何を?」
匪賊は寝惚けた状態だったのである。
「目覚めたかね?若者よ…あんたは大丈夫かね?」
「大丈夫なの?」
匪賊は寝惚けた様子であったものの蛇体如夜叉と小猫姫を直視した直後…。突如として匪賊は身震いし始めたのである。
「ひっ!俺を食い殺さないで!」
匪賊は極度の恐怖心からか彼女達を直視しただけで非常に戦慄…。即座に警戒し始めたのである。一方の蛇体如夜叉と小猫姫は警戒し始めた匪賊に吃驚する。
「如何しちゃったのかね?別に私達はあんたを食い殺したりしないよ…」
「心配しなくても私達は手出ししないから大丈夫だよ…」
蛇体如夜叉は勿論…。小猫姫も匪賊に対する敵意は皆無であるが匪賊は不用意に警戒したのである。
「私は単なる通りすがりの薬屋だから大丈夫さ…」
蛇体如夜叉は匪賊に近寄るものの…。
「ひっ!鬼婆…俺に近寄るな!近寄らないで!」
匪賊の鬼婆発言に小猫姫は一瞬失笑する。
「蛇神の蛇体如夜叉婆ちゃんに鬼婆だって♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪面白いね♪」
匪賊に鬼婆と発言された蛇体如夜叉は腹立たしくなり…。全身が身震いし始める。
「えっ!?誰が鬼婆だって!?」
蛇体如夜叉は力強く睥睨した鬼神の形相で匪賊に怒号したのである。
「あんたは私に食い殺されたいのかい!?あんたは命知らずな若者だね!」
「ひっ!失礼しました…女神様!」
「えっ…女神様?」
『蛇体如夜叉婆ちゃんが…女神様って♪』
匪賊の女神様発言に小猫姫は内心大笑いする。一方の匪賊は彼女達から恐る恐る後退りし始め…。
「俺は金輪際…悪さしないから俺を食い殺さないで!」
匪賊は落涙した様子で一目散に荒神山から逃走したのである。
「金輪際妖女は懲り懲りだ!」
全力疾走する小柄の匪賊に蛇体如夜叉と小猫姫は非常に困惑する。
「一体何事だったのかね?彼奴は?」
「如何して逃走しちゃったのかな?ひょっとして悪者の妖女にでも遭遇したのかな?蛇体如夜叉婆ちゃん?」
「私が神族だからかね?私にも何が何やら理由は不明瞭だけどね…」
「蛇体如夜叉婆ちゃんに鬼婆とか女神様って失言しちゃったのは大笑いしちゃったよ♪最高に面白かったね♪」
揶揄する小猫姫に蛇体如夜叉は赤面したのである。
「小猫姫…今回の荒神山での出来事は私とあんただけの秘密だからね!絶対に私以外の誰かに喋ったら承知しないよ!」
蛇体如夜叉は小猫姫に断言するものの…。
「今回の出来事を桜花姫姉ちゃんに喋っちゃおうかな♪面白かったし♪」
小猫姫の返答に蛇体如夜叉は怒号する。
「小猫姫!桜花姫ちゃんに喋ったら承知しないからね!勿論私とあんたの二人だけの秘密だよ!留意しな!」
すると小猫姫の腹部から腹鳴が響き渡る。
「えっ…」
「小猫姫♪ひょっとして空腹かね?」
小猫姫は突然の腹鳴により赤面する。
「戻って夕食だね♪小猫姫♪」
「勿論だよ♪蛇体如夜叉婆ちゃん♪戻ろう♪戻ろう♪私は白身魚が食べたいな♪」
蛇体如夜叉と小猫姫は南国の村里へと戻ったのである。

第十一話

夜警
荒神山で匪賊達との戦闘から三日後の早朝…。とある二人組の夜番警備隊の邏卒が東国の中心街を警備する。
「はぁ…眠たいぜ…」
「深夜の夜番活動は面倒臭いよな…」
中心街の通路にて二人の邏卒は疲れ果てたのか日頃の愚痴を連発しては警備を継続したのである。
「もう少しで俺達の任務は終了するからな…もう少しの辛抱だぞ!」
「真夜中では何も発生しなかったのが何よりだぜ…」
夜番活動中には特段何も発生しなかったのか二人の邏卒は安堵する。
「こんな場所で神出鬼没の悪霊なんかと遭遇しちまったら面倒だからな…」
「神出鬼没の悪霊が出現したとしても西国の月影桜花姫様に悪霊退治を依頼すれば大丈夫だろう…俺達では神出鬼没の悪霊なんて対処出来ないからな…」
神出鬼没の悪霊は屈強の武士団でも対処が困難とされ難題である。
「悪霊関連は不寝番の桜花姫様が専門だろうからな…神出鬼没の悪霊が出現したら不寝番の桜花姫様に依頼するのが妥当だろうよ…」
今現在不寝番の桜花姫は武士団にとって必要不可欠である一方…。
「桜花姫様に依頼するのが妥当なのかも知れないけれど…悪霊問題は桜花姫様ばかりに頼りっ放しだからな…」
近年では武士団の他力本願を指摘する役人達も出始める。
「武士団の他力本願は大問題だけど神出鬼没の悪霊は超自然的存在だし…桜花姫様が適任だよな…」
すると大柄の邏卒が問い掛ける。
「以前から疑問だったのだが…如何して武士団は桜花姫様に報酬を提供しないのかな?正直百年分の米俵を提供しても可笑しくない成果だぞ…」
小柄の邏卒が無表情で返答したのである。
「噂話だと…桜花姫様は母親殺害したって理由から冤罪で監獄に連行されちまったらしい…」
桜花姫は監獄にて看守に拷問され…。不当に扱われたのである。
「監獄で拷問されたのかよ…気の毒だな…」
大柄の邏卒は桜花姫に同情する。
「問題が発覚してから桜花姫様は当然釈放されたよ…武士団の思惑としては彼女に不寝番として社会問題化した悪霊やら匪賊の問題を片付けさせたかったらしいからな…予算の都合上無報酬だが一生涯の自由を約束されたって内容だ…」
拷問事件以後…。桜花姫を不当に扱った村人は非力の子供だろうと老人だろうと極悪非道の逆賊として扱われ問答無用死罪である。
「近年では武士団内部でも桜花姫様に報酬を用意するべきだと…意見が出始めたらしいが桜花姫様本人は報酬なんて不要だと断言したらしいぜ…」
東国武士団内部でも桜花姫の絶大なる成果に報酬を用意するべきだと意見が多数派に上回ったが…。桜花姫本人は神出鬼没の悪霊やら匪賊の征伐は娯楽であり報酬は不要だと役人達に明言したのである。
「本当かよ!?悪霊征伐が娯楽ってのは個性的だが…桜花姫様は豪放磊落だな!」
大柄の邏卒は桜花姫の無欲さと悪霊征伐が娯楽との内容に驚愕する。彼等が町内を出回ってから数分間が経過したのである。
「兎にも角にも…警備を終了するか…」
「早朝だからな!」
「一先ずは根城に戻ろうぜ…俺は一眠りしたいし…」
「根城に戻ろうか!」
彼等は武士団の根城へと戻ろうかと思いきや…。
「ん?気配?」
突如として彼等の背後より不吉の気配を感じる。
「気配だと?」
「一体何が…」
彼等は恐る恐る背後を直視すると全身が身震いする。
「ひっ!」
「此奴は!?」
彼等の背後に佇立するのは背丈が八尺程度の巨体の女性である。煌びやかな赤色の着物姿であり巨体の女性は無表情で彼等を凝視する。
「此奴は女人の怪物だ!」
「怪物に食い殺されるぞ!逃げろ!」
彼等は規格外に巨体である異形の女性に畏怖したのか一目散に逃走したのである。巨体の女性と遭遇した二人の邏卒は仲間達に早朝の出来事を洗い浚い説明するものの…。誰一人として疲労の所為やら見間違いであると一方的に信用しなかったのである。二人の邏卒が巨体の女性と遭遇してから数日後の真夜中…。数人の町民達が規格外に巨体の女性と遭遇したのである。最初に遭遇した邏卒の報告と同様の報告であり東国の中心街全域が騒然とし始める。今回の出来事から巨体の女性の噂話は東国以外の各地に出回る。

第十二話

潜入
東国中心街の噂話を熟知した桜花姫は武士団の根城へと移動したのである。
『武士団の根城に到達したわね…』
根城の表門には二人の番兵が表門を厳重に警備する。
「根城への入城は原則禁止ですよ!」
桜花姫は根城の表門へと近寄ると番兵達に制止されたのである。
「部外者は即刻中心街に戻りなさい!部外者の入城は許可出来ません!」
「私は最上級妖女の月影桜花姫なのよ♪此処で怪談の情報源を入手したいの!私を武士団の根城に入城させてよ!」
桜花姫は表門の番兵達に根城への入城を必死に依頼するのだが…。
「駄目です!貴女が最上級妖女の月影桜花姫様であっても規則は規則なのですから…平時では関係者以外の入城は許可出来ませんよ!」
「杓子定規ね…」
『仕方ないわ…』
桜花姫は止むを得ず変化の妖術を発動したのである。桜花姫の肉体から白煙が発生したかと思いきや…。
「ん!?」
「なっ!?」
桜花姫は変化の妖術により高身長で全裸の童顔美少女に変化したのである。
「いや~ん♪女の子の全裸を覗き見するなんて♪あんた達は助平ね♪」
二人の番兵達は高身長の童顔美少女に変化した桜花姫の妖艶さと乳房に赤面すると鼻血を噴出し始める。彼等は変化した桜花姫の色気に悩殺され…。気絶したのである。
「意外と単純なのね♪」
『変化の妖術…大成功だわ♪』
桜花姫は即座に変化の妖術を解除…。元通りの小柄の姿形に戻ったのである。
『早速根城に潜入しますかね♪』
今度は透過の妖術を発動…。透過の妖術で表門を容易に突破したのである。
「透過の妖術♪成功♪」
『表門の突破は案外楽勝だったわね♪』
城内では人気が皆無であり誰一人として城内の役人は確認出来ない。
『城内は案外無防備なのね…』
桜花姫は城内の無防備さに内心驚愕する。
『今度は雲隠れの妖術で…』
桜花姫は雲隠れの妖術を発動…。自身の姿形が透明化する。
「早速…」
『悪霊に遭遇した二人の邏卒を捜索しないと…』
桜花姫は透明化した状態で城内を出歩いたのである。城内の彼方此方を移動すると数人の役人達と遭遇するも彼等は雲隠れの妖術で透明化した桜花姫の姿形を視認出来ない。
「私♪本物の忍者みたいだわ♪」
『常人相手なら雲隠れの妖術は非常に便利なのよね♪』
城内を洗い浚い探索し回ってから数分後…。道場らしき大部屋にて二人の役人達が私語するのが確認出来る。
『彼等は根城の役人達だわ…』
桜花姫は恐る恐る役人達の背後に近寄る。
『会話の内容を詮索しましょう…』
彼等の会話の内容を洗い浚い詮索したのである。
「結局…六日前に遭遇した巨体の女子は一体何者だったのかな?」
「彼女の正体は恐らく神出鬼没の悪霊だろうか?背丈は多分八尺だったよな…」
桜花姫は彼等の八尺の一言に反応する。
『背丈が八尺ですって?ひょっとすると今回の悪霊って…』
今回出現した悪霊の正体を解明したのである。
「俺達以外にも数人の町民達が巨体の女子に遭遇したらしいからな…一体何が原因で巨体の女子が出現したのやら?」
「巨体の女子の正体が悪霊であれば徹底的に退治しないと夜番なんて金輪際出来ないよ…誰か悪霊を退治出来ないかな?」
二人の役人達は困り果てる。困り果てた二人に桜花姫は満面の笑顔で…。
「如何やら今回の事件も私の出番みたいね♪」
突然の声色に二人の役人達は動揺する。
「なっ!?」
「誰だ!?えっ!?」
彼等は突然の桜花姫の発言に驚愕するものの…。大部屋に存在するのは二人の役人だけである。彼等以外には誰一人として他者の姿形は確認出来ない。
「誰だったのか?」
「背後には何も…」
二人は正体不明の女声に身震いしたのである。
「先程の美声は女子みたいだったが…単なる俺の空耳だろうか?」
「本当に空耳なのかな?本物の地声っぽかったが…」
小柄の役人が恐る恐る…。
「気味悪いな…此奴はひょっとして女子の悪霊なのか?」
「こんな場所に悪霊なんて冗談だろ…」
「はぁ…今度こそ疲労の所為だろうか?」
「金輪際悪霊は懲り懲りだぜ…二度と遭遇したくないよ…」
「金輪際悪霊は勘弁だな…」
彼等は一息する。
「あんた達…女神様の私を悪霊なんて失礼しちゃうわね!」
桜花姫は彼等の発言に腹立たしくなったのか雲隠れした状態で発言したのである。
「えっ…」
「今度は…一体何が?」
彼等は度重なる超常現象に畏怖し始める。
「あんた達…仕方ないわね…」
桜花姫は悪霊の一言に腹立たしくなったのか雲隠れの妖術を解除する。
「うわぁ!?此奴は小娘だ!」
「如何してこんな場所に小娘が!?貴様は一体何者だ!?ひょっとして人間の小娘に変化した物の怪なのか!?」
二人の役人達は突如として背後に出現した桜花姫に驚愕したのである。
「私は最上級妖女の桜花姫…月影桜花姫よ♪私を物の怪なんて失礼しちゃうわね…」
「月影桜花姫って?」
「あんたが西国の月影桜花姫様なのか?」
「本物かよ!?あんたが本物の桜花姫様なのか!?」
「勿論よ♪私は本物の桜花姫よ♪」
桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「妖術でこんな場所でも容易に潜入出来るなんて…あんたは本物の忍者みたいだな…気配すらも感じられなかったぜ…」
「妖術って相当便利だな…あんたなら諜報員としても活躍出来そうだぜ!」
すると小柄の役人が恐る恐る…。
「本来であれば侵入者は重罪だけど…今回ばかりは特別だぞ!桜花姫様…」
武士団の根城は非常に閉鎖的である。基本的に緊急時以外で部外者が根城の内部に進入するのは原則厳禁とされる。
「今回の根城への潜入は黙殺するからよ!桜花姫様の妖術で中心街に出現した女子の悪霊を退治出来ないかな!?」
「俺も同感だぜ!あんたの荒唐無稽の妖術で神出鬼没の悪霊を退治出来ないか!?こんな状況では二度と夜番なんて出来なくなっちまうよ!」
桜花姫は役人達の依頼に大喜びしたのである。
「勿論よ♪私が根城に潜入したのも悪霊の情報収集が目的だからね♪」
「であれば好都合だな♪」
二人の役人は安堵する。
「単刀直入に質問するけれど…あんた達が夜番の活動中に遭遇した悪霊は巨体の女人だったわね?」
「勿論…背丈は八尺規模だぜ…俺達が遭遇した女人の怪物の正体が悪霊なのか?妖怪なのかは断言出来ないが…巨体の女人が人外なのは確実だろうよ…」
桜花姫の問い掛けに中肉中背の役人が返答したのである。
「恐らくあんた達が遭遇したのは【八尺姉女房】って女人の悪霊でしょうね…」
「八尺姉女房って名前の…」
「八尺姉女房だと?やっぱり彼奴は女人の悪霊だったのか?」
彼等は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「八尺姉女房はね…」
八尺姉女房とは女性の悪霊であり姿形のみなら背丈が八尺もの巨体…。女子の悪霊として認識された超自然的存在の一種である。八尺姉女房の正体は遊女として各地に身売りされた少女達の無念の集合体とされる。八尺姉女房の霊気は非常に強大であるものの…。出現頻度が僅少であり十数年間に数回程度しか出現しない。一部の村落では八尺姉女房は巨体女房とも呼称される。
「八尺姉女房の正体とは…遊女として身売りされた小娘達の亡霊だったとは…」
「境遇は気の毒だけど…凡人の俺達にとっては傍迷惑だな…」
「兎にも角にも…八尺姉女房は私が浄化するからあんた達は安心なさい!」
「期待するぜ!桜花姫様!」
「あんたは八尺姉女房とやらを仕留めろよ!」
「勿論よ!期待しなさいよ!」
彼等との会話が終了すると桜花姫は大部屋から脱出したのである。

第十三話

巨体
同日の真夜中…。桜花姫は東国の中心街にて悪霊の八尺姉女房が出現するのか出回ったのである。
『今夜は八尺姉女房が出現するかしら?』
桜花姫は中心街の彼方此方を移動するのだが…。
『八尺姉女房は出現しないわね…』
標的の八尺姉女房は出現しない。
『八尺姉女房…今夜は出現しないのかしら?』
桜花姫は西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「えっ…」
突如として背後より極度の寒気を感じる。
『寒気だわ…一体何かしら?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認したのである。
「えっ?」
『特段何も…』
悪霊特有の悪寒戦慄からか背後の様子を確認するものの…。
『可笑しいわね…気配は感じられるのに…』
背後には何も存在しない。
「はぁ…」
桜花姫は悪霊の出現を期待するも落胆したのである。
『悪霊は出現しないし…今夜は戻ろうかしら…』
前方を直視した直後…。
「えっ!?」
桜花姫の前方には背丈は八尺規模の巨体の女性が佇立する。
『巨体の女人…背丈が八尺だわ…』
巨体の女性の表情は無表情であり煌びやかな花柄の着物姿が特徴的である。
「あんたはひょっとして…八尺姉女房?」
八尺姉女房の肉体からは亡者の霊気が感じられる。
『悪霊特有の霊気だわ…此奴の正体は正真正銘八尺姉女房ね…』
桜花姫は内心出現した八尺姉女房に一安心する。
「八尺姉女房が出現したのであれば…」
『西国に戻らなくても大丈夫そうね…好都合だわ!』
八尺姉女房は敵対者の桜花姫を直視し続けると不吉の笑顔で冷笑したのである。
『何かしら?』
すると八尺姉女房は自身の霊気で蛍光色の火の玉を形作る。
「えっ?」
『火の玉?』
八尺姉女房は自身の霊気で形作った無数の火の玉で桜花姫に攻撃する。
「火の玉なんて!私には通用しないわよ!」
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。八尺姉女房の火の玉を無力化したのである。
「残念だったわね!八尺姉女房!こんな程度の攻撃では私は仕留められないわよ!」
桜花姫は余裕の様子であったが…。
「ん?」
八尺姉女房は無表情であり平常心の様子である。
『彼女…随分と冷静そうだわ…』
桜花姫は平常心の八尺姉女房に警戒し始める。すると八尺姉女房は目前の桜花姫を凝視し続けると再度冷笑したのである。八尺姉女房が冷笑した直後…。
「えっ…」
『八尺姉女房の両目が…』
八尺姉女房の両目全体が黒化し始めると桜花姫は極度の脱力感により全身の筋力が低下したのである。
『何かしら?全身が…』
桜花姫は全身の筋力が脱力し始め…。地面に横たわったのである。
『一体何が?』
桜花姫は目前の視界全体が暗化し始め…。何が発生したのか理解出来ず意識が遠退き始める。全身が衰弱化すると数秒後には肉体は身動きしなくなる。自身の特殊能力により桜花姫を衰弱化させた八尺姉女房は地面に横たわった状態の桜花姫を凝視し続けると不吉の笑顔で微笑み始める。数秒間が経過…。地面に横たわった状態の桜花姫であるが突如として身体髪膚が金無垢の砂金へと変化したのである。砂金の状態で崩れ落ちる桜花姫の身体髪膚に八尺姉女房は驚愕の表情で地面の砂金を直視し続ける。
「残念だったわね!八尺姉女房!私は此処よ!」
八尺姉女房の背後より…。先程衰弱死させた桜花姫が出現したのである。
「砂金分身の妖術…成功ね!」
桜花姫は八尺姉女房の特殊能力で衰弱死する寸前に砂金分身の妖術を発動…。間一髪衰弱死を回避出来たのである。
『八尺姉女房は両目を黒化すると対象者の魂魄を吸収出来るみたいね…』
八尺姉女房の黒化した両目を直視した対象者は問答無用で魂魄を吸収される。魂魄を吸収された対象者は確実に衰弱死する。今回は桜花姫が砂金分身の妖術を駆使した影響で間一髪無力化されたのである。
『先程は砂金分身の妖術で無力化出来たけど…八尺姉女房の両目は要注意ね…』
桜花姫は両目を瞑目させる。
『八尺姉女房を相手に長期戦は面倒ね…』
桜花姫は圧縮の妖術を発動する。
「八尺姉女房!あんたは圧死しなさい!」
圧縮の妖術とは天空から高圧の重力波を相手の頭上に落下させる攻撃用の妖術である。高圧の重力波はあらゆる物体を一瞬で破壊…。高圧の重力波に直撃した対象者は完膚なきまでに圧殺する。八尺姉女房は桜花姫の発動した圧縮の妖術によって圧死…。地面には円形に形作られた鮮血の湖水が構築されたのである。
『八尺姉女房は確実に仕留められたわね!』
今回の戦闘で八尺姉女房が仕留められて以降…。東国の中心街では八尺姉女房は出現しなくなる。

第十四話

廃墟神社
八尺姉女房との戦闘から一週間後の真昼…。桜花姫の妹分である山猫妖女の小猫姫は暇潰しに西国の廃墟神社にて一休みしたのである。
「はぁ…」
小猫姫は退屈そうな表情で一息する。
「毎日…毎日…退屈だな…」
『悪霊でも出現しないかな?退屈しちゃうよ…』
小猫姫は最上級妖女である桜花姫を人一倍憧憬する一人である。数週間前に勃発した造物主の妖星巨木との大激闘以後…。各地の村里に出現する悪霊の征伐に執心し始める。小猫姫にとって憧憬の対象者である月影桜花姫みたいに悪霊征伐に尽力するのだが…。近頃は悪食餓鬼以外の悪霊とは何一つとして遭遇せず小猫姫は退屈の毎日だったのである。
『私だって最強の悪霊が出現すれば桜花姫姉ちゃんみたいに悪霊を仕留めちゃうのに!毎回遭遇するのは悪食餓鬼ばかりで面白くないね…』
小猫姫は一息した直後…。
「えっ?」
『気味悪いな…一体何だろう?』
突如として極度の胸騒ぎを感じる。
「胸騒ぎかな?」
小猫姫は非常に気味悪くなり周囲を警戒したのである。
『気配を感じるけど…霊気なのかな?』
小猫姫は不吉の気配に警戒するものの…。
『ひょっとして神出鬼没の悪霊が出現したのかな?』
小猫姫は内心悪霊の出現には大喜びだったのである。すると直後…。
「えっ?」
『鬼火?』
突如として暗闇の天然林より無数の鬼火が出現する。
『ひょっとして神出鬼没の悪霊が出現したのかな?』
無数の鬼火の出現に小猫姫は大喜びしたのである。
『如何やら今回は本物の悪霊っぽいね♪』
小猫姫は今回の悪霊が大物であると確信する。
『今回は確実に悪食餓鬼以外の大物だね♪』
自身の背後より強烈なる霊気を察知…。
『背後から…』
小猫姫は恐る恐る背後の鳥居を直視する。
「えっ?」
『此奴は人間の…生首?』
廃墟神社の鳥居から女性らしき巨体の生首が出現したのである。
『此奴は外見だけなら人間の生首っぽいけれど…随分と巨体だね…』
突如として規格外の巨大生首が出現…。巨大生首の出現に小猫姫は警戒した様子で恐る恐る後退りする。
『ひょっとして此奴は…以前桜花姫姉ちゃんが退治した亡霊生首って悪霊かな?』
悪霊の正体とは女性の頭部のみの悪霊…。亡霊生首だったのである。亡霊生首は以前西国の天神山にて出現…。桜花姫が浄化の妖術で退治した巨大生首の悪霊である。亡霊生首は浮遊した状態で小猫姫を直視…。亡霊生首は不吉の笑顔で微笑み始める。
「早速私の出番みたいだね!」
小猫姫は怯まず亡霊生首の征伐に意気込んだのである。
「今回は私が大物の悪霊を退治するからね!」
すると突然…。
「えっ…」
亡霊生首は口先を開口したのである。周囲に浮遊する無数の鬼火を吸収し始める。
『周辺の鬼火を吸収したけど?亡霊生首は一体何を?』
亡霊生首は無数の鬼火を吸収すると先程よりも亡霊生首の霊気が増幅される。
『鬼火の吸収で亡霊生首の霊気が強化されたみたいだね…』
すると亡霊生首は口先より無数の火の玉を放出したのである。
「えっ!?火の玉!?」
『火の玉なら変化の妖術で…』
小猫姫は変化の妖術を発動…。伝説の妖獣に変化したのである。亡霊生首が放出した無数の火の玉が伝説の妖獣に変化した小猫姫へと接近する。小猫姫は体内の妖力を増幅させた直後…。
「はっ!」
全身から強烈なる衝撃波を発生させたのである。小猫姫が衝撃波を発生させた直後…。亡霊生首の火の玉は一瞬で消失したのである。
「あんた程度の火の玉なんて私には通用しないからね!」
小猫姫は口先より高熱の雷光を凝縮させる。
「死滅しろ!亡霊生首!」
口先から高熱の雷球を放出したのである。小猫姫が放出した高熱の雷球は亡霊生首に直撃するのだが…。
「えっ!?」
突如として亡霊生首の姿形が消滅したのである。
『亡霊生首が消滅した!?』
小猫姫は周囲を警戒するものの…。
『亡霊生首の居場所は?』
亡霊生首の姿形は確認出来ない。
『如何して亡霊生首は消滅しちゃったのかな?』
周辺から亡霊生首の霊気こそ感じられるのだが…。
『亡霊生首の霊気は感じられるけれど…亡霊生首の居場所は一体?』
亡霊生首の姿形は確認出来ず居場所は不明だったのである。
『先程の亡霊生首は単なる幻影だったのかな?』
小猫姫は先程消滅した亡霊生首が幻影なのか混乱する。
『亡霊生首の本体は一体?』
すると突然…。
「えっ?」
周囲の地中より無数の悪食餓鬼が出現したのである。
『今度は悪食餓鬼の大群?』
無数の悪食餓鬼が生者である小猫姫に殺到し始める。
『悪食餓鬼が相手なら…』
小猫姫は衝撃波を再度発動…。
「はっ!」
高威力の衝撃波によって自身に殺到する悪食餓鬼の大群を一瞬で粉砕したのである。悪食餓鬼は肉体が非常に脆弱であり僅少の妖力で仕留められるものの…。多勢に無勢であり地中より更なる大量の悪食餓鬼が再度出現したのである。
『悪霊がこんなにも大量に出現するなんて…妖星巨木の悪霊騒動以来だね…』
再度出現した無数の悪食餓鬼は小猫姫に殺到…。小猫姫は口先に妖力を凝縮させる。
「死滅しろ!極悪非道の悪霊!」
小猫姫は口先より高熱の雷球を発射…。殺到する悪食餓鬼の大群を一瞬で焼失させたのである。
『悪食餓鬼の大群は一掃出来たね!』
小猫姫は一安心した直後…。
「えっ?」
再度霊気を感じる。
『無数の霊気?今度は何だろう?』
すると背後の地面より無数の悪食餓鬼が一体化した肉団子の一頭身悪霊…。百鬼悪食餓鬼が出現したのである。
『此奴は百鬼悪食餓鬼だっけ?』
一頭身の体表には無数の悪食餓鬼の顔面が確認出来る。
『百鬼悪食餓鬼は以前…妖星巨木との戦闘で桜花姫姉ちゃんが退治した悪霊の一体…悪食餓鬼の集合体だったよね?』
百鬼悪食餓鬼の体表の悪食餓鬼が小猫姫を凝視する。
『百鬼悪食餓鬼…此奴も気味悪いね…』
体表の無数の悪食餓鬼が口先から高熱の火炎を放射し始めたのである。
『火炎攻撃!?』
小猫姫は即座に雷光の結界を発動…。
「こんな程度の火炎なんて私には通用しないよ!」
百鬼悪食餓鬼の火炎攻撃を無力化したのである。
「此奴は奥の手だよ!」
小猫姫は落雷の妖術を発動…。
「成仏しろ!極悪非道の悪霊!」
天空全域が広範囲の黒雲により覆い包まれる。すると黒雲の中心部より高熱の落雷が百鬼悪食餓鬼の頭上に直撃…。百鬼悪食餓鬼が佇立した地面が抉れる。百鬼悪食餓鬼は高熱の落雷によって完膚なきまでに消滅したのである。
『悪霊は消滅したね…』
小猫姫は百鬼悪食餓鬼を仕留めた直後…。
「えっ!?」
自身の背後より強烈なる霊気が突発的に出現したのである。
『亡霊生首の霊気!?』
小猫姫は警戒した様子で恐る恐る確認する。
「あんたは亡霊生首…」
先程姿形が消失した主敵の亡霊生首が小猫姫の背後より出現したのである。亡霊生首は小猫姫を直視し続けると不吉の笑顔で微笑み始める。
「亡霊生首…あんたは本当に気味悪いよね…」
小猫姫は高熱の雷球を発射したのである。発射された高熱の雷球は亡霊生首に直撃するのだが…。
「えっ!?」
突如として亡霊生首の姿形が消失したのである。
『今度も亡霊生首の幻影!?』
直後…。亡霊生首の本体が小猫姫の目前より出現する。
「此奴が亡霊生首の本体なの!?」
すると亡霊生首は人間界の公用語で発語し始める。
「妖女の小娘よ…伝説の妖獣に変化出来るとは…貴様の妖力は非常に絶大だな…」
「えっ!?あんたは…」
『亡霊生首って…普通に喋れちゃうの!?』
人語で発語する亡霊生首に小猫姫は驚愕したのである。
「妖獣の小娘よ…先程の戦闘で貴様の妖力は消耗したみたいだな…」
亡霊生首が妖力の消耗を指摘すると小猫姫は変化の妖術が解除され…。
「えっ!?」
伝説の妖獣形態から元通りの人間の姿形に戻ったのである。
『私…元通りの状態に戻っちゃった…』
妖力の消耗により小猫姫は身動き出来なくなる。
「ぐっ!」
『迂闊だったな…妖力の消耗で身動き出来なくなるなんて…悪食餓鬼を相手に大技を連発し過ぎちゃったからかな?』
亡霊生首は不吉の笑顔で身動き出来なくなった小猫姫を冷笑したのである。
「妖獣の小娘よ…貴様は私に食い殺される運命なのだ♪覚悟するのだな…」
一方の小猫姫は身動き出来ず苦悩する。
「畜生…」
『私は如何すれば?』
亡霊生首は浮遊した状態で身動き出来ない小猫姫に急接近する。
「妖獣の小娘よ…貴様のか弱き肉体を頂戴するぞ♪妖獣の小娘は大人しく私に食い殺されるのだ…」
「ひっ!」
『私…悪霊に食い殺されちゃうよ…蛇体如夜叉婆ちゃん…桜花姫姉ちゃん…私はこんな場所で死にたくないよ…』
小猫姫は極度の恐怖心により瞑目したのである。亡霊生首に食い殺される直前…。
「ん?貴様は…何者だ?」
亡霊生首は小猫姫の背後に注目する。
「亡霊生首♪あんたは桜餅に変化しなさい♪」
すると亡霊生首の肉体は白煙に覆い包まれ小皿と桜餅に変化したのである。
「えっ!?」
『一体何が発生したの?』
小猫姫は恐る恐る両目を見開くと目前の地面には小皿と桜餅が確認出来る。
「えっ?如何して桜餅がこんな場所に?」
「小猫姫♪」
「えっ…」
すると小猫姫の背後より最上級妖女の桜花姫が近寄ったのである。
「小猫姫♪危機一髪だったわね♪大丈夫かしら?」
「えっ!?桜花姫姉ちゃん!?如何してこんな場所に?」
桜花姫は小皿に配置された桜餅を一口で頬張り始める。
「ひょっとして桜餅の正体は…」
桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「勿論桜餅は亡霊生首なのよ♪変化の妖術で亡霊生首を私の大好きな桜餅に変化させたのよ!」
「えっ…桜花姫姉ちゃん…」
『悪霊の亡霊生首を桜餅に…』
桜花姫は変化の妖術で悪霊の亡霊生首を桜餅に変化…。頬張り始めたのである。
「やっぱり神出鬼没の悪霊でも♪桜餅に変化させちゃえば美味よね♪」
『桜花姫姉ちゃん…桜餅だとしても神出鬼没の悪霊を食べちゃうなんて…桜花姫姉ちゃんは平気なのかな?』
小猫姫は美味しそうに桜餅を頬張る桜花姫の様子に苦笑いする。
「如何やら今回出現した亡霊生首は以前私が天神山で退治した亡霊生首よりも若干強敵だったみたいね♪」
すると小猫姫は恐る恐る…。
「桜花姫姉ちゃんは如何して私の居場所を察知出来たの?」
「近辺の廃墟神社であんたの妖力と無数の悪霊の霊気を察知したのよ♪何よりもあんたの妖力は其処等の妖女よりも強力だから非常に目立つわよ♪」
「桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は苦笑いしたのである。
「私に内緒で悪霊征伐なんて♪小猫姫は意地悪ね♪」
「意地悪も何も…結局悪霊の大物は桜花姫姉ちゃんが仕留めちゃったけどね…」
「今回はあんたも頑張ったみたいね♪小猫姫♪」
「えっ…」
小猫姫は赤面するも内心では大喜びする。
「桜花姫姉ちゃん…」
西国の廃墟神社は幽霊屋敷として有名であったが彼女達の奮闘により神出鬼没の悪霊は浄化され…。元通りの神社として再建されたのである。

第十五話

海中
小猫姫と桜花姫が西国の廃墟神社で亡霊生首と無数の悪霊を仕留めてより三日後…。東国の海域に位置する最南端には弁天島と命名される孤島が存在する。孤島の弁天島では数百人もの島民達と漁師達が移住…。漁業が盛況だったのである。弁天島は漁業として有名である一方…。桃源郷神国の観光地の一種とされる。時たまであるが本土からの旅行者達が観光地の弁天島に来訪…。弁天島は観光地としても盛況だったのである。
「今日も大量だったな!最低でも一週間は漁獲しなくても大丈夫だぞ!」
弁天島の近海にて二人の漁師達が一隻の小舟で大量の小魚を漁獲したのである。
「こんなにも大量だと一週間は安泰だな!島民達も大喜びだろうよ!」
すると大柄の漁師が満面の笑顔で…。
「今度は大物を漁獲したいな!」
「大物だって!?」
小柄の猟師は興味深そうな表情で反応する。
「折角の機会だし!大物を漁獲して島民達を驚愕させたくないか!?」
「大物か!面白そうだな!」
小柄の漁師が賛同したのである。
「早速移動するぞ!」
二人の漁師達は大物の漁獲を目的に小舟を驀進させる。驀進してより数十分後…。
「本島に戻らないか?」
最初こそ気乗りであったが小柄の漁師は次第に畏怖し始める。周辺を直視すると孤島から大分移動したらしく視界に確認出来るのは青海原の水平線だけである。海面上では自分達の漁船以外は何も確認出来ない。
「弁天島から大分移動しちまったみたいだし…此処は危険そうだ…」
「はっ?何を今更…」
大柄の漁師は呆れ果てる。
「今更本島に戻れるかよ!大魚の一匹でも仕留めないと俺は戻らないぜ!」
大柄の漁師は強気の姿勢だったのである。
「こんな場所に長居し続ければ本島に戻れなくなるかも知れないぞ!海中から悪霊でも出現したら如何するよ!?」
「海中から悪霊だって?悪霊なんて俗界に存在するかよ♪」
『何が悪霊だよ…所詮子供騙しだな!』
大柄の漁師は悪霊の一言に冷笑…。悪霊の存在を全否定したのである。すると直後…。突如として極度の寒気を感じる。
「ん?寒気だろうか?」
小柄の漁師は極度の寒気により全身が身震いしたのである。
「寒気だって?大丈夫かよ?風邪か?」
大柄の漁師は恐る恐る小柄の漁師に問い掛ける。
「俺は大丈夫だが…本島に戻りたいな…此処は気味悪いし…」
不本意であるが…。大柄の漁師は承諾したのである。
「仕方ないな…今回ばかりは本島に戻ろうかな…」
二人は弁天島に戻ろうかと思いきや…。小舟の真下より正体不明の巨大物体が浮揚したのである。
「ん!?」
「なっ!?此奴は!?」
水面下の巨大物体は正体こそ不明瞭であるが…。全長は推定三町規模であり規格外に巨大だったのである。水面下の巨大物体に二人の漁師達は畏怖し始め…。大急ぎで小舟を動かそうと踏ん張るのだが小舟は一寸も前進しない。
「畜生が!小舟が動かないぞ!一体海上の真下には何が!?」
真下を直視すると海面上から小舟よりも一回り巨体の触手が出現したのである。
「なっ!?蛸足だと!?」
小舟の船体は触手の吸盤により密着…。捕捉されたのである。
「ひっ!此奴は真蛸の怪物だ!」
漁師達は漁船諸共暗闇の海中へと溺水する。

第十六話

港湾
今回の出来事から数日後の真昼…。最上級妖女の桜花姫は極度の退屈さからか家屋敷の居室で寝転び続けたのである。
「はぁ…」
『四六時中退屈だわ…』
八尺姉女房の悪霊事件以降…。神出鬼没の悪霊は出現せず桜花姫は平穏の日常が退屈だったのである。
『大物の悪霊でも出現しないかしら?退屈で仕方ないわ…』
桜花姫は平穏の日常生活が退屈で仕方なく憂鬱に感じる。
『退屈過ぎて死にそう!』
居室で寝転び続ける桜花姫であるが…。
「邪魔するわよ♪桜花姫♪」
「誰かと思いきや…あんたは粉雪妖女の雪美姫?」
突如として粉雪妖女の雪美姫が桜花姫の家屋敷に訪問したのである。
「何事かしら?あんたは私に用事でも?」
「桜花姫♪あんたは水臭いわね♪」
雪美姫は他人行儀の桜花姫が水臭いと感じる。
「桜花姫?あんたは知らないの?噂話を…」
「えっ?知らないって…何が?」
桜花姫は噂話の一言に反応する。
「雪美姫?噂話って何よ?」
桜花姫は雪美姫の突然の発言に何が何やら理解出来ず困惑したのである。
「大事件よ♪大事件♪」
「大事件ですって?一体何かしら?」
桜花姫は雪美姫の大事件の一言に興味深くなり再度反応する。
「弁天島で面白そうな大事件が発生したのよ♪」
「弁天島で面白そうな大事件ですって?一体何が発生したのかしら?」
「近頃の出来事だけどね…弁天島では…」
雪美姫は桜花姫に遠島の弁天島で発生した漁師達の行方不明事件を一部始終説明したのである。
「弁天島で漁師達が行方不明なのね…」
『面白そうだわ♪』
漁師達の行方不明事件の発生に桜花姫の闘争心が急上昇する。
「面白そうな事件ね♪今回も悪霊の仕業かしら?」
「恐らくは悪霊の仕業でしょうけど♪調査が必要かも知れないわね♪」
「雪美姫♪早速行動開始よ!」
彼女達は即座に出掛けたのである。二人が外出してより数十分後…。
「桜花姫♪目的地に到着したわね♪」
彼女達は東国の港湾へと移動したのである。
「港湾だわ…」
港湾では数十隻もの漁船が確認出来る。
「此処で小舟を一隻確保しないとね…」
「桜花姫?如何するのよ?今回ばかりは有事だし…漁師達から小舟を無理矢理強奪しちゃう?」
「雪美姫…無理矢理強奪って不道徳過ぎるわよ…」
桜花姫は雪美姫の突発的提案に苦笑いする。
「私でも誰かの所有物を強奪するのは抵抗しちゃうかも…」
「桜花姫…」
『彼女は中途半端に真面目だわ…面倒臭いわね…』
雪美姫は桜花姫の返答に内心面倒に感じる。
「桜花姫?小舟の強奪が駄目なら如何するのよ?生身で海中を力泳するとか?最上級妖女のあんたなら出来そうだけどさ…」
「はぁ…」
『如何するべきなのかしら?』
桜花姫は困惑したのである。
『変化の妖術で人魚に変化すれば海中を移動するのは大丈夫でしょうけれど…』
変化の妖術で人外の人魚に変化出来れば海中を自由自在に遊泳出来るものの…。
『妖力の消耗がね…』
妖力の消耗が回避出来ず小舟は必要不可欠である。すると一人の漁師が恐る恐る彼女達に近寄る。
「二人の娘さん?こんな場所で一体如何されましたかい?」
「えっ?漁師さん…」
桜花姫は恐る恐る漁師に小舟の借用を依頼したのである。
「漁師さん…私達に小舟を一隻…借用出来ないかしら?」
「小舟を一隻ね…」
桜花姫の依頼に漁師は困惑したものの…。
「二人の娘さん…仕方ないですな…」
桜花姫が小舟の借用を依頼すると漁師は意外にも簡単に承諾したのである。
「一日だけの借用なら構いませんが…小舟で一体何方に移動されるのですか?」
「私達の目的地は弁天島よ…」
「えっ…弁天島だって!?」
弁天島の一言に漁師は戦慄し始め…。全身が身震いしたのである。
「弁天島って…あんた達は本気なのかい!?」
漁師は身震いした表情であり恐る恐る彼女達に問い掛ける。
「勿論よ♪漁師さん♪私達は本気よ♪」
桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「二人の娘さん達よ…あんた達は死にたいのかい?」
漁師は戦慄した様子で彼女達に警告したのである。
「近頃の出来事ですがね…弁天島の近海では数人の漁師達が行方不明なのですよ!危険過ぎますぜ!」
弁天島での噂話は各地で出回り始め…。大勢の漁師達が畏怖したのである。当然として漁獲活動が出来なくなる。
「あんた等みたいな娘さんが二人だけで弁天島に移動するのは危険過ぎるよ!」
すると同行者の雪美姫が満面の笑顔で…。
「私達は漁師達の行方不明事件の詳細を調査中なの♪漁師さんが心配しなくても私達なら大丈夫よ♪月影桜花姫が参上すれば事件なんて簡単に解決出来るからね♪」
「えっ?月影桜花姫って?」
漁師は恐る恐る桜花姫を直視し始める。
「貴女様は…西国の月影桜花姫様ですか!?」
問い掛けられた桜花姫は満面の笑顔で自身の名前を名乗る。
「私は最上級妖女の桜花姫…月影桜花姫よ♪」
「貴女様が数多くの悪霊を退治された不寝番の月影桜花姫様でしたか!?」
漁師は同行者の女性が桜花姫本人であると認識した直後…。先程とは態度が一変したのである。
「不寝番の桜花姫様であれば…小舟の一隻?二隻なんて無料で貸与しますよ♪」
「感謝するわね♪漁師さん♪」
漁師は桜花姫に恐る恐る問い掛ける。
「桜花姫様?ひょっとすると今回の大事件も…悪霊の仕業なのでしょうか?」
「現段階では悪霊の仕業なのかは断言出来ないけれど…可能性としては否定出来ないわね…」
海面からは不吉の気配を感じる。
『海中から不吉の気配は感じられるし…神出鬼没の悪霊だとしたら相当の大物なのは確実でしょうね…』
今回は相当の大物であると予想する。

第十七話

蛸足
交渉から数分後…。漁師から小舟を一隻借用した彼女達は目的地の弁天島へと移動したのである。海上を移動中に雪美姫が恐る恐る…。
「桜花姫?あんたは気味悪くないかしら?」
雪美姫は海中から胸騒ぎを感じる。
「あんたも感じるのね…雪美姫…」
「胸騒ぎの正体は神出鬼没の悪霊なのかしら?」
「恐らくはね…」
『今回の悪霊…今迄に出現した悪霊で一番厄介そうね…大物なのは確実かしら?』
桜花姫は今回出現する悪霊が規格外の大物であると確実視する。
「雪美姫…今回の悪霊は想像以上の強敵かも知れないわ!注意してね!」
「勿論よ!桜花姫!」
二人は悪霊の出現に警戒したのである。港湾から移動し始めてから数十分後…。桜花姫と雪美姫は弁天島の近海へと到達したのである。
「桜花姫…もう少しで弁天島に到達しそうよ…」
桜花姫は警戒した様子で海面上を凝視し続ける。
「今回の相手は想像以上に巨体みたいね…悪霊なのかしら?」
「えっ!?本当に!?」
雪美姫は桜花姫の想定に畏怖し始める。
「桜花姫…勝算は如何なのよ?今回の悪霊…退治出来そうなの?」
雪美姫は不安そうな様子で恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「大抵の悪霊なら楽勝だけど…相手が暗闇の海中だと正直微妙なのよね…」
雪美姫は桜花姫の返答に絶句する。
「微妙って…桜花姫…」
『こんな調子で大丈夫なのかしら?今回の事件…解決出来るの?』
雪美姫は桜花姫の返答に極度の不安が募り始める。
「如何やら大物が此方に接近中みたいね…」
「えっ!?大物が接近中ですって!?」
暗闇の海中より強大なる霊気は勿論…。正体不明の巨大移動物体が小舟の真下に確認出来る。
「止むを得ないわね…一先ずは!」
桜花姫は天道天眼を発動したのである。天道天眼の効力により桜花姫の妖力が数十倍へと急上昇する。
「一体何が出現したのよ!?桜花姫!?」
雪美姫は正体不明の巨大移動物体に大騒ぎし始める。
「雪美姫…あんたは大袈裟ね…」
桜花姫は一人で大騒ぎし続ける雪美姫に呆れ果てる。
「こんな状況であんたは平気なの!?桜花姫!?」
「別に…こんな場所で大騒ぎしたって仕方ないでしょう…」
桜花姫は冷静だったのである。すると直後…。
「えっ!?何よ!?」
雪美姫は海面上に注目する。突如として全身が赤色の巨大触手が海面上から出現したのである。
「ひゃっ!蛸足なの!?」
雪美姫は海面上から出現した正体不明の巨大触手に戦慄する。
「如何やら蛸足みたいね…此奴は触手の部分かしら?」
桜花姫は依然として冷静だったのである。
『如何して桜花姫は冷静なのよ!?』
桜花姫は冷静沈着であり雪美姫は如何して桜花姫が正体不明の巨大触手に畏怖しないのか不思議に感じる。海面上から出現した規格外の巨大触手は小舟の桜花姫を標的に力一杯拘束したのである。
「えっ!?桜花姫!?」
正体不明の巨大触手は拘束した桜花姫の肉体諸共…。神速の身動きで桜花姫を暗闇の海中へと沈潜させたのである。
「桜花姫!?」
桜花姫は暗闇の海中へと連行され…。
『桜花姫が海中に…私は如何すれば?』
雪美姫は絶望したのである。一方の桜花姫は海中の巨大触手によって沈潜させられた数秒後…。漆黒の海中へと連行された桜花姫であるが即座に変化の妖術を発動する。
『変化の妖術…成功ね♪』
桜花姫は人外の人魚に変化したのである。
『雷撃の妖術で…』
今度は雷撃の妖術を発動…。自身の体内から高威力の雷撃を放出すると巨大触手の拘束から解放されたのである。
「あんたは…」
視界に存在する巨大移動物体とは全身赤色の巨大触手が八本も確認出来…。巨大移動物体の正体とは規格外の巨大真蛸だったのである。不吉にも本体の頭部は女性と思しき巨大頭部であり無表情で人魚状態の桜花姫を凝視する。
「海中の悪霊…【海難姫君】みたいね…」
海難姫君とは巨体の女性の頭部と巨大真蛸の肉体が一体化した姿形の巨大悪霊である。正体は戦乱時代の大海戦で入水したとされる大名の正室の無念が海中の悪霊へと変貌…。悪霊でも強力の部類とされる上級悪霊の一体であり特定の地方によっては蛸足女房やら真蛸大女とも呼称される。海難姫君は神出鬼没の悪霊としては異質的であり本体の全長は推定三町規模と規格外に巨体だったのである。
『弁天島で漁師達が行方不明だったのは此奴の仕業だったのね…』
すると海難姫君は不吉の表情で桜花姫に冷笑し始める。
「其方は妖女の小娘だな…」
海難姫君は高知能の悪霊であり他者とも人語で会話出来る。
『海難姫君…彼女は神出鬼没の悪霊なのに人語で喋れるのね…』
すると海難姫君は桜花姫に名前を問い掛ける。
「其方の名前は?」
「私の名前ですって?」
桜花姫は自身の名前を名乗ったのである。
「私の名前は月影桜花姫…最上級妖女の月影桜花姫よ!」
「其方は最上級妖女の月影桜花姫であると?其方が今迄に数百体…数千体もの亡者達を仕留めたとされる伝説の妖女か…」
「私って霊界でも有名なのね♪」
神出鬼没の悪霊にも自身の名前が知れ渡り…。桜花姫は内心大喜びする。
「其方は強大なる妖力を保持するが…私を仕留めるには力不足だな!」
「力不足ですって?」
「私は其処等の悪霊とは別格の存在なのだ!」
「あんたが別格ね…」
『海難姫君の霊気は今迄に出現した悪霊とは比較出来ないわね…』
海難姫君は上級に君臨する上級悪霊の一体であり海中では強豪の存在である。当然として通常の妖女では上級悪霊の海難姫君には対抗出来ない。
「其方は無理に人外の人魚に変化した悪影響なのか…妖力の消耗で満身創痍の状態なのだろう?其方の肉体からは絶大なる苦痛が感じられるぞ…」
「ぐっ…」
『此奴は体内の妖力も察知出来るみたいね…』
現実問題…。桜花姫は変化の妖術で人魚に変化したのと海中の水圧の悪影響により妖力が急速に消耗したのである。
「桜花姫とやら…如何やら図星みたいだな!其方は満身創痍の状態で私に勝利出来るだろうか?」
「妖力が消耗したとしても…私ならあんたを一撃で仕留められるわ!覚悟するのね!海難姫君!」
桜花姫は海難姫君を一撃で仕留められると断言する。
「はっ?其方は満身創痍の状態で私を一撃で仕留められると?満身創痍の其方程度に出来るだろうか?」
海難姫君は強気の桜花姫に冷笑したのである。
「所詮強がったとしても其方の妖力が消耗し続けるのは何よりも事実!其方は大人しく私に捕食されるのだな!」
桜花姫の妖力は一秒毎に現在進行形で消耗し続ける。
『海難姫君との長時間の戦闘は危険だわ…海難姫君は短時間で仕留めないと!』
桜花姫は海難姫君に変化の妖術を発動する直前…。
「最上級妖女の月影桜花姫!其方は完膚なきまでに死滅するのだ!」
海難姫君は触手の吸盤から水中光弾を無数に発射する。
『吸盤から水中の光弾!?』
触手の吸盤から発射された無数の水中光弾は合計数千発である。海難姫君の吸盤から発射された水中光弾は誘導し始め…。海中の桜花姫に殺到したのである。
『こんな攻撃なんて…妖力の防壁で!』
無数の水中光弾が直撃する直前…。桜花姫は妖力の防壁を発動したのである。
『危機一髪だったわね♪』
妖力の防壁の発動により間一髪海難姫君の攻撃を無力化する。
「月影桜花姫…妖力の防壁で私の攻撃を無力化するとは…」
「私にはあんたの攻撃は通用しないのよ♪残念だったわね♪海難姫君♪」
桜花姫は海難姫君に挑発したのである。
「私の攻撃を無力化出来たのは事実であるが…妖力の防壁で其方の妖力は先程よりも消耗したぞ!私を相手に如何するのだ?」
妖力の消耗により桜花姫は大技が使用出来なくなる。
「妖力が消耗したから何よ?妖力が消耗したとしても私は妖術であんたを仕留められるわよ♪」
桜花姫は御大層に強がるのだが…。
『正直…海中で海難姫君を相手するのは無謀なのよね…』
海中での戦闘では妖力の消耗が桁外れであり人魚の状態を維持し続けるだけでも辛苦だったのである。桜花姫は海中での環境下に適応出来ず…。刻一刻と体内の妖力が消耗し続ける。
『如何しましょう?海中では圧倒的に不利だわ…』
海中での戦闘では桜花姫が圧倒的に不利であり彼女は苦悩したのである。
『一か八か海中から撤退して…海上の雪美姫の協力が必要不可欠だわ!』
桜花姫は不本意であるが…。
『止むを得ないわね!』
一か八か撤退を決意する。
『瞬間移動の妖術…発動!』
瞬間移動の妖術を発動…。突如として桜花姫の姿形が消滅したのである。
「なっ!?月影桜花姫!?」
一方の海難姫君は桜花姫の突然の消滅に吃驚する。
『妖術で逃げられたか…絶対に彼女を捕食する!覚悟するのだな!月影桜花姫!』
海難姫君は桜花姫の行方を追撃したのである。

第十八話

浮上
海難姫君が桜花姫の追撃を開始し始めた同時刻…。
「瞬間移動の妖術♪成功ね♪」
桜花姫は海面上の小舟へと無事戻れたのである。
「えっ!?桜花姫!?」
雪美姫は突如として戻った桜花姫に驚愕する。
「はぁ…あんたは無事に戻れたのね…」
僅少であるが…。雪美姫の涙腺から涙が零れ落ちる。
「あんたが敵対者の私を心配するなんてね♪雪美姫♪」
桜花姫は落涙し始めた雪美姫を揶揄する。
「なっ!?誰があんたの心配なんか!最強のあんたが死んじゃったら私も悪霊に捕食されちゃうからよ!」
雪美姫は腹立たしくなったのか桜花姫を睥睨したのである。
「別に睥睨しなくても…雪美姫…」
『雪美姫は強情ね…』
桜花姫は雪美姫の様子に苦笑いする。
「私はこんな場所で悪霊なんかに食い殺されたくないわよ!」
すると直後…。海中から再度強大なる霊気が急接近したのである。
「霊気だわ!海難姫君かしら?」
「海難姫君って?」
「海難姫君は今回出現した悪霊なのよ♪上級の悪霊よ♪」
桜花姫は満面の笑顔で発言するのだが…。一方の雪美姫は驚愕する。
「えっ!?上級の悪霊ですって!?」
雪美姫は上級悪霊の一言に畏怖したのである。
「あんたは大袈裟ね…雪美姫…」
桜花姫は畏怖する雪美姫に大袈裟であると感じる。
「如何して桜花姫は平常心なのよ!?相手は上級の悪霊なのに…」
「大騒ぎしたって仕方ないでしょう♪雪美姫♪」
桜花姫は満面の笑顔で返答する。
「桜花姫は上級悪霊の海難姫君を仕留められるの?」
雪美姫は不安そうな表情で問い掛ける。一方の桜花姫は恐る恐る…。
「妖力を消耗しちゃったから…正直一人で大物の海難姫君を仕留められるかは微妙なのよね…」
桜花姫は先程の海中での戦闘により大半の妖力を消耗したのである。普段なら満面の笑顔で仕留めると断言出来るのだが…。今回ばかりは妖力の消耗で満身創痍であり得意の大技が使用出来ない。
「微妙なんて…桜花姫らしくない返答だわ…」
「実際問題…私は海中での戦闘で大量の妖力を消耗しちゃったのよ…こんな空っぽの状態では雑魚の悪食餓鬼でも仕留められないわ…」
雪美姫は桜花姫の返答に絶句する。
「最上級妖女の桜花姫が海中で妖力を消耗しちゃうなんてね…変化の妖術って余程妖力を消費するみたいね…」
「変化の妖術だけなら大丈夫だけど…暗闇の海中では人魚の状態を維持し続けるのは私でも辛苦なのよね…」
現実問題…。桜花姫自身は人魚に変化出来ても海中での長時間の活動は困難であり母親の月影春海姫みたいに長時間の遊泳は不可能である。
「何方にせよ…一時的に陸地に戻らないと海難姫君には対抗出来ないわ!」
「仕方ないわね!桜花姫…今直ぐ本土に撤収しましょう!」
『悪霊を仕留め切れずに撤退なんて桜花姫らしくないわ…』
今回の桜花姫は普段よりも非常に慎重だったのである。桜花姫と雪美姫は桃源郷神国本土へと戻ろうかと思いきや…。
「霊気が接近中だわ!」
「海難姫君かしら!?如何するのよ!?桜花姫!?」
桜花姫と雪美姫が警戒し始めた数秒後である。
「きゃっ!触手の怪物だわ!」
小舟の真横より巨体の女性の頭部が出現し始め…。八本もの巨大触手が海面上より出現したのである。
「彼女が上級悪霊の海難姫君よ!」
「彼女が海難姫君なの!?人面の巨大真蛸だわ…」
雪美姫は突如として海面上から出現した海難姫君に戦慄する。すると海難姫君は無表情で発言し始める。
「二人の妖女の小娘達よ!私からは逃げられないぞ…二人とも今迄の漁師達みたいに捕食されるのだな!」
「海難姫君♪私達を捕食出来るかしら?」
桜花姫は海難姫君に再度挑発したのである。
「其方…命知らずの小娘風情が!」
海難姫君は桜花姫の態度に苛立ち始める。
「桜花姫!?あんたは正気なの!?此奴に挑発したら今度こそ…」
雪美姫は海難姫君に挑発する桜花姫が正気なのか不安がる。
「雪美姫♪私は正気よ♪」
桜花姫は恐る恐る雪美姫の左手に接触する。
「えっ?桜花姫?何かしら?」
「雪美姫♪御免あそばせ♪」
直後…。雪美姫の体内の妖力が桜花姫に吸収されたのである。
「ぐっ!」
『私の妖力が…桜花姫は私の妖力を吸収したのかしら?』
「御免なさいね…雪美姫…」
桜花姫は恐る恐る雪美姫に謝罪する。
「此処で海難姫君を仕留めるには…あんたの妖力が必要不可欠なのよ!」
『雪美姫の妖力を吸収した影響かしら?私の妖力が大分回復したわね♪』
雪美姫の妖力を吸収すると自身の体内に雪美姫の妖力が蓄積される。
「其方は苦し紛れに仲間の妖力を吸収したみたいだが…其方程度の妖力で私を仕留めるには力不足だな!」
海難姫君は力不足であると豪語するのだが…。
「私の妖力が力不足かしら?」
「ん?」
『小娘風情は…随分と余裕みたいだな…』
桜花姫の様子に海難姫君は警戒する。
「桜花姫!今度は私も加勢するわよ!」
雪美姫は氷結の妖術を発動…。
「氷結するのね!海難姫君!」
直後である。推計三里規模の海面上全域が氷結し始め…。氷結の妖術により氷塊の陸地を構築させたのである。
「なっ!?其方!?」
雪美姫の氷結の妖術は非常に強力であり一時的であるが海難姫君の全身を凍結化…。海難姫君の身動きを封殺したのである。
「ぐっ!」
『氷結の妖術か!?私がこんな小娘を相手に身動き出来なくさせられるとは!』
一方の桜花姫は身動き出来なくなった海難姫君に勝利を確信する。
「雪美姫♪加勢♪感謝するわね♪」
「はぁ…はぁ…桜花姫!今度こそ確実に海難姫君を仕留めなさいよ!」
「勿論よ!雪美姫!」
一方の雪美姫は先程の氷結の妖術で体内の妖力を消耗…。小舟の船上にて横たわったのである。
「雪美姫!海難姫君は確実に仕留めちゃうからね!」
桜花姫は凍結化により身動き出来なくなった海難姫君に変化の妖術を発動する。
『海難姫君!桜餅に変化しちゃえ!』
海難姫君は桜花姫の発動した変化の妖術で桜餅へと変化…。先程巨体の海難姫君が存在した海面上には桜花姫の大好物である桜餅が浮遊する。
『変化の妖術…成功ね!』
桜花姫は変化の妖術で桜餅に変化した海難姫君を捕食したのである。
『やっぱり神出鬼没の悪霊でも…桜餅は美味だわ♪』
海中での戦闘では苦戦したものの…。粉雪妖女の雪美姫の協力によって桜花姫は上級悪霊の海難姫君に勝利出来たのである。
「本当…あんたは色んな意味で最強ね!桜花姫!」
「当然でしょう!雪美姫!」
彼女達は大喜びする。

第十九話

一仕事
元凶の海難姫君を仕留めてより一時間後…。桜花姫と雪美姫は弁天島の砂浜へと上陸したのである。
「桜花姫?如何して元凶の海難姫君を仕留めたのに弁天島に上陸するのよ?」
雪美姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「最後の一仕事よ♪」
桜花姫は笑顔で返答したのである。
「最後の一仕事ですって?一体何するのよ?」
桜花姫は恐る恐る瞑目する。
『口寄せの妖術…発動!』
禁断の妖術である口寄せの妖術を発動すると周辺の地中より十数人もの漁師達が出現したのである。突然の漁師達の出現に雪美姫は驚愕する。
「えっ!?人間の漁師達だわ…桜花姫?あんたはひょっとして…」
「口寄せの妖術で海難姫君に食い殺された漁師達を元通りに復活させたのよ♪」
「最後の一仕事って漁師達の復活だったのね…」
如何して桜花姫が見ず知らずの漁師達を復活させるのか雪美姫には理解出来なかったのである。
『正直私には理解出来ないけれど…如何して桜花姫は見ず知らずの漁師達を口寄せの妖術で復活させたのかしら?』
口寄せの妖術により復活した漁師達は驚愕した表情で周囲を見渡し始める。
「えっ!?一体何が!?」
「俺達は蛸足の怪物に食い殺されて…」
すると雪美姫は漁師達に近寄ったのである。
「あんた達!桜花姫に感謝しなさいよ!」
「桜花姫って…不寝番の!?」
「西国の妖女…月影桜花姫様ですか!?」
「本物だ!本物の月影桜花姫様だな…」
漁師達は桜花姫の名前に反応する。雪美姫は漁師達に一連の出来事を一部始終説明したのである。
「俺達は桜花姫様の口寄せの妖術と命名される妖術で復活出来たのですね!」
「此処は現実だよな?俺達は家屋敷に戻れるのか!?」
「女房と再会出来るぞ!」
漁師達は大喜びする。
「今回桜花姫が口寄せの妖術を駆使しなかったら…あんた達は未来永劫復活出来なかったのよ!桜花姫はあんた達の恩人だからね!」
「勿論承知ですとも!」
「大変感謝します!月影桜花姫様!」
漁師達は桜花姫に一礼したのである。
「折角俗界に戻れたのよ!あんた達は自分達の家屋敷に戻りなさい!大急ぎで戻らないとあんた達の家族が心配するわよ!」
彼等は大喜びの様子で解散し始め…。各自家屋敷へと戻ったのである。
「事件は無事解決ね…桜花姫!」
「一件落着だわ!私達は桃源郷神国に戻りましょう!」
上級悪霊の一角…。海難姫君による漁師達の行方不明事件は桜花姫と雪美姫の大活躍によって無事解決したのである。今回の大事件以後…。弁天島では妖女の桜花姫と雪美姫は伝説的人物として後世へと伝承されたのである。

第二十話

観音山
弁天島近海に出現した上級悪霊の海難姫君を仕留めてから四日後の真夜中…。西国の山奥には観音山と命名される神聖なる霊峰が存在する。近頃は神聖なる霊峰の観音山に強大なる悪霊が出現するとの噂話が全国各地に出回り…。悪霊の噂話を熟知した桜花姫は西国の山奥に聳え立つ観音山へと移動したのである。
『観音山に到達したわね…』
時間帯は真夜中の深夜帯であるが…。
『此処では悪霊特有の霊気が感じられないわ…こんな神聖の場所に神出鬼没の悪霊なんて出現するのかしら?』
観音山は神聖なる霊峰である。此処では悪霊特有の霊気らしい霊気は何一つとして感じられない。
『此処に神出鬼没の悪霊が出現したとしても…観音山の空気で簡単に浄化されそうだけれども…』
観音山は神聖なる山風より確実に神出鬼没の悪霊が出現出来ない聖域と豪語されるのだが…。近頃は登山者やら修行僧からも強大なる悪霊らしき超自然的存在の出現が霊峰の観音山で確認されたのである。
『兎にも角にも…観音山の頂上に移動しないと判断出来ないわね…』
暗闇の山道を移動してから一時間後…。
『頂上には到達出来たけれど…』
桜花姫は観音山の頂上に到達する。
『悪霊は?』
頂上では悪霊らしき姿形は勿論…。獣類の気配すらも何一つとして感じられない。
「はぁ…」
『頂上に移動しても霊気は感じられないわね…』
周囲は物静かな風音…。清涼の川音に心情が安定する。
「観音山は本当に天国みたいな場所だわ…」
『俗界の極楽浄土かしら?』
観音山は別名地上世界の極楽浄土とも呼称され…。大勢の修行僧やら僧侶達が神聖なる観音山で修行する。
「本当にこんな場所で悪霊なんか出現するのかしら?」
『山中からは霊気は感じられないし…村里に戻ろうかしら?』
悪霊特有の霊気は感じられず桜花姫は西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「ん?」
背後から物音が響き渡る。
『物音だわ…一体何かしら?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を直視…。
「えっ…」
桜花姫の背後には全長六尺程度の巨大能面が確認出来る。
「如何してこんな場所に能面が?」
『特大だし…』
すると直後…。巨大能面の視線が桜花姫の方向へと動き始めたのである。
「ひゃっ!」
桜花姫は気味悪くなったのか巨大能面から恐る恐る後退りする。
『ひょっとして巨大能面の正体って…』
巨大能面の正体を察知した直後である。突如として巨大能面から八本もの蜘蛛の脚部が生成され…。胴体部分が能面の巨大人面蜘蛛へと変化したのである。
『此奴は器物の悪霊…小面袋蜘蛛!?』
巨大能面の正体とは器物の悪霊の一角…。小面袋蜘蛛であり前回の廃村で出現した個体よりも一回り巨体だったのである。
『観音山に出現したのが悪霊の小面袋蜘蛛なんてね…』
小面袋蜘蛛は列記とした悪霊の一体であるものの…。
『霊気を察知出来なかったのも納得だわ…』
小面袋蜘蛛の本体とされる珍妙の巨大能面は造物主の妖星巨木の樹木から形作られた代物である。
『此奴は非常に厄介ね…』
小面袋蜘蛛本体からは悪霊特有の霊気は感じられない。
『如何して悪霊の小面袋蜘蛛が観音山に出現出来るのかしら?』
観音山はあらゆる霊気やら他者への殺意を浄化する霊峰の場所であるものの…。桜花姫は如何して悪霊の小面袋蜘蛛が霊峰の観音山に出現出来るのか不可思議に感じる。すると蜘蛛の胴体部分であるが巨大能面が笑顔で…。
「か弱き小娘よ…貴様は不思議そうな表情だな♪」
「えっ!?」
突如として人語で発語する小面袋蜘蛛に驚愕したのである。
『小面袋蜘蛛って…喋れるの!?』
桜花姫は衝撃の事実に一瞬沈黙する。
「か弱き小娘よ…其方の正体は人外の妖女だな♪初見で其方が人外の妖女であると認識したぞ…」
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る…。
「あんたは神出鬼没の悪霊なのに如何して観音山に出現出来るのよ?本来観音山はあんたみたいな悪霊が出現すれば即座に浄化されちゃう場所なのに…」
「残念であったな…妖女の小娘よ♪」
小面袋蜘蛛は桜花姫の問い掛けに即答する。
「私自身の肉体は地上世界の世界樹…妖星巨木…所謂造物主から誕生した肉体であるからな…神聖なる観音山でも私は自由自在に行き来出来るのだ…」
「私を妖女の小娘って…あんたは腹立たしい悪霊ね!手加減しないわよ!」
桜花姫は神性妖術…。十八番の天道天眼を発動したのである。半透明の血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光する。同時に桜花姫の妖力は通常よりも数百倍へと増大化したのである。
「其方は神性妖術の天道天眼を開眼したか?であれば其方は幾多の悪霊を食い殺したとされる伝説の妖女であったか…」
「勿論♪私は最上級の妖女…月影桜花姫よ♪」
桜花姫は満面の笑顔で最上級妖女と豪語するのだが…。
『小面袋蜘蛛は神出鬼没の悪霊でも妖星巨木の樹体から誕生した器物の悪霊だからね…私が此奴に妖術を発動しても妖力を吸収されちゃうのよね…如何しましょう?』
小面袋蜘蛛も母体である妖星巨木と同様にあらゆる妖力を吸収出来る特異体質の悪霊である。妖星巨木の一部である性質上小面袋蜘蛛に高等の妖術を駆使したとしても妖力は吸収され…。発動した妖術が無力化されるのは明白である。
「如何やら私に警戒した様子だな…月影桜花姫とやら…其方が攻撃しないのであれば此方から攻撃するぞ…」
すると小面袋蜘蛛は胴体部分の巨大能面の口先より…。
「えっ?」
瑠璃色の発光体を無数に放出したのである。
『何かしら?』
瑠璃色の発光体は雷撃の雷球でありやんわりと浮遊し始め…。桜花姫に接近する。
『雷球みたいね…』
桜花姫は妖力の防壁を発動…。無数の雷球を無力化したのである。
「こんな程度の雷球で私を仕留めるなんて無謀なのよ!」
小面袋蜘蛛の攻撃を無力化出来ても…。実質妖術が主体の桜花姫では小面袋蜘蛛に対する反撃は事実上不可能である。
『小面袋蜘蛛を相手に通常の妖術は使用出来ないわ…変化の妖術も小面袋蜘蛛には通用しないだろうし…』
桜花姫は小面袋蜘蛛の攻略に苦悩する。
『仕方ないわね…』
桜花姫は覚悟したのである。
『一か八か神通力を使用しますかね…』
強大なる神通力を駆使すれば世界樹の妖星巨木が相手でも対抗出来るが…。神通力を活用すると肉体への負担は絶大であり最悪の場合衰弱死も否定出来ない。
『所詮相手は悪霊の一体…遠慮は不要ね!』
桜花姫の全身より瑠璃色の発光体が放出される。
「其方は小娘の分際で神通力を使用出来るのか?其方の体内からは妖星巨木の気配を感じるぞ…」
「私は以前の戦闘で妖星巨木の樹体の一部を捕食したのよ!」
「であるからこそ月影桜花姫…其方は妖星巨木の木材を捕食した影響で強大なる神通力を使用出来るのだな…」
小面袋蜘蛛は意味深の様子で…。
「小娘の分際で神通力を行使するとは…其方は命知らずだな…」
「命知らずなのはあんたよ!小面袋蜘蛛!」
一方の桜花姫は小面袋蜘蛛の発言に返答する。
「小面袋蜘蛛…あんたを仕留めるわよ!覚悟なさい!」
桜花姫は神通力を加味させた落雷の妖術を発動…。観音山の上空は黒雲に覆い包まれたのである。
「死滅しなさい!小面袋蜘蛛!」
落雷の妖術により上空の黒雲から高熱の落雷が落下…。小面袋蜘蛛の直上に落雷が直撃したのである。
『小面袋蜘蛛は仕留めたかしら?』
高熱の落雷により地面が陥没する。
『小面袋蜘蛛は?』
落雷によって陥没した地面には小面袋蜘蛛の姿形は何一つとして確認出来ない。
『小面袋蜘蛛の姿形は確認出来ないけれど…』
桜花姫は再度警戒したのである。
『手応えは感じられないわ…』
すると自身の背後より気配を感じる。
『背後かしら?』
桜花姫の背後より小面袋蜘蛛が再度出現したのである。
「えっ…小面袋蜘蛛!?」
桜花姫は無傷の小面袋蜘蛛に一瞬動揺する。
「非常に残念であったな…最上級妖女の月影桜花姫よ…先程其方が攻撃したのは私自身の分身体なのだ!」
小面袋蜘蛛は分身体の使用によって神通力を駆使した桜花姫の落雷攻撃を間一髪回避したのである。
「私が攻撃したのはあんたの分身体だったのね…」
『此奴…悪霊の分際で器用に分身体を駆使出来るなんてね…』
すると小面袋蜘蛛は胴体部分の能面の口先を開口し始める。
「えっ?」
『小面袋蜘蛛は一体何を?』
小面袋蜘蛛の能面部分は再度閉口する。
「観音山の自然力を吸収したのだ!私自身の霊気は先程よりも強大化したぞ!」
「観音山の自然力を吸収ですって?」
小面袋蜘蛛は自然界の自然力を吸収した影響からか先程よりも小面袋蜘蛛の霊気が強大化したのである。
「如何やらあんたを相手に手加減は不要みたいね…」
桜花姫は神通力を加味した火球の妖術を発動する。無数の火球が小面袋蜘蛛に直撃する直前…。小面袋蜘蛛は霊気の防壁を発動させ強大なる神通力を加味させた桜花姫の火球攻撃を全弾無力化したのである。
「最上級妖女の月影桜花姫…其方程度の妖術では妖星巨木の樹体の一部である私は仕留められないぞ!」
小面袋蜘蛛の胴体部分である能面の口先より粘着性の白糸を放出し始め…。桜花姫を拘束したのである。
「ぐっ!」
白糸の粘着力は非常に強力であり桜花姫は身動き出来なくなる。
『身動き出来ないわ…』
身動き出来なくなるばかりか体内の妖力が白糸に吸収され…。妖力が消耗し始める。
『体内の妖力が吸収されるわ…やっぱり単独で小面袋蜘蛛を仕留めるのは不可能なのかしら?』
現実問題…。あらゆる妖術の通用しない小面袋蜘蛛系統の悪霊は人外の妖女にとっては最悪の難敵である。桜花姫は妖術の戦法に特化した妖女であり基本的に妖術以外の攻撃手段を行使せず…。妖術以外の攻撃手段を行使出来ない桜花姫単独のみで難敵である小面袋蜘蛛を仕留めるのは実質困難である。桜花姫は体内の妖力を吸収され…。衰弱化したのである。最早桜花姫は虫の息であり完全に身動き出来なくなる。
「月影桜花姫は衰弱死したな…」
『今度こそ大敵の月影桜花姫を食い殺せるぞ!』
小面袋蜘蛛は空腹であり腹部の口先を開口し始め…。
「私は空腹なのだ…月影桜花姫!其方の貧弱そうな肉体を頂戴するぞ!」
完全に身動き出来なくなった桜花姫を捕食する寸前である。
「ん?」
『白煙だと?』
突如として桜花姫の肉体から白煙が発生し始め…。桜花姫の身体髪膚は白煙に覆い包まれたと同時に消滅したのである。
「なっ!?月影桜花姫の肉体は!?」
『何故…月影桜花姫の肉体が完膚なきまでに消滅したのだ!?』
突発的超常現象に小面袋蜘蛛は動揺し始める。
『月影桜花姫の本体は一体!?』
すると驚愕する小面袋蜘蛛の背後より…。
「残念だったわね!小面袋蜘蛛!」
「其方は月影桜花姫の本体なのか!?」
小面袋蜘蛛の背後には無傷の桜花姫が佇立する。
「先程あんたが白糸で拘束したのは私の分身体なのよ!」
桜花姫は拘束される寸前に分身の妖術を発動したのである。
「分身体だと?其方は分身の妖術を駆使したのか?」
「勿論ね♪今度こそ反撃開始よ!」
桜花姫は神通力を加味した金縛りの妖術を発動する。
「あんたの身動きを封殺するわね♪」
直後…。
「私の身動きを封殺するとは…」
一時的であるが小面袋蜘蛛は金縛りの妖術により身動き出来なくなる。
「金縛りの妖術…成功ね♪」
すると小面袋蜘蛛は険悪化した鬼神の形相で桜花姫を睥睨し始める。
「月影桜花姫…今回ばかりは…其方は私を単独で仕留められたのかも知れないが…其方みたいな脆弱の小娘が神通力を駆使し続ければ…肉体への負担は絶大…今後…安易に高等の神通力を多用し続ければ…其方の脆弱の肉体では確実に寿命は収縮されるだけだぞ…覚悟するのだな…」
「寿命の収縮ですって?」
桜花姫は小面袋蜘蛛の忠告に一瞬動揺する。
「神通力を使用し続ける愚行は…自身の肉体の破滅を意味するのだぞ!」
「早死にするかも知れないのね…」
桜花姫は一瞬動揺するのだが…。
「小面袋蜘蛛♪私への忠告かしら?感謝するわね♪」
桜花姫は満面の笑顔で神通力を加味した爆破の妖術を発動する。爆破の妖術により小面袋蜘蛛の肉体は爆散し始め…。地面には小面袋蜘蛛の血肉やら破片が彼方此方に飛散したのである。
『気味悪いからね…』
今度は通常の変化の妖術を発動…。
『桜餅に変化しなさい♪』
飛散した小面袋蜘蛛の血肉は無数の桜餅に変化したのである。
『悪霊の死骸でも桜餅に変化させちゃえば平気ね♪』
すると直後…。
「ぐっ!」
突如として桜花姫は全身が重苦しくなる。
『神通力を多用した影響かしら?』
神通力を多用した影響からか極度の苦痛が全身に伝播させる。先程の小面袋蜘蛛の警告は事実であると実感したのである。
『今後の戦闘では安易に神通力を多用するのは危険ね…』
今回の戦闘で神通力の副次効果を痛感した桜花姫であるが…。小皿に配置された無数の桜餅を直視すると食欲が上昇し始める。
『大量の妖力を消耗しちゃったし…早速桜餅を食べちゃおうかしら♪』
桜花姫は桜餅を一口で頬張ると消耗した妖力を回復させたのである。
『やっぱり桜餅は美味ね♪』
無数の桜餅を完食してより数分後…。桜花姫は村里へと戻ったのである。

第二十一話

市松人形
神聖なる観音山での小面袋蜘蛛との死闘から五日後の真夜中…。とある二人組の匪賊が南国近隣の山道を移動する。
「此奴は予想以上に暗闇だな…」
「一度…此処で一休みしないか?四六時中歩きっ放しで疲れちまったぜ!」
小柄の匪賊が大柄の匪賊に問い掛ける。
「真夜中だし仕方ないな…此処で一休みするか…」
二人は道端の巨岩の片隅に腰掛ける。
「はぁ…今日は疲れちまったぜ…明日は如何するよ?」
問い掛けられた小柄の匪賊は笑顔で…。
「明日は南国の村里でも襲撃するかな!?」
「南国の村里だったら米俵一石程度なら分捕れそうだな!」
彼等は愉快そうに談笑したのである。すると突然…。
「ん?」
「如何した?」
「気味悪いな…子供の笑い声だろうか?」
小柄の匪賊は子供の笑い声に反応する。
「子供の笑い声だと!?」
突如として子供らしき笑い声が山道に響き渡る。
『こんな場所に子供の笑い声なんて冗談だろう?』
大柄の匪賊は単純に冗談であると本気にしなかったのである。
「子供の笑い声なんて本当なのか?単なる空耳とか?」
大柄の匪賊は懐疑的に問い掛ける。
「本当だって!本当に子供みたいな笑い声だったぞ!」
小柄の匪賊は感情的に返答したのである。すると再度…。暗闇の自然林から子供の笑い声が響き渡ったのである。
「本当だな…子供の笑い声っぽいな…如何してこんな場所で子供の笑い声が?」
大柄の匪賊は子供の笑い声に極度の寒気を感じる。小柄の匪賊は恐る恐る…。
「こんな真夜中の山道で子供が一人で出歩くなんて絶対可笑しいよ!ひょっとして子供の亡霊が出現したとか?」
「ひっ!」
子供の亡霊の一言に大柄の匪賊は身震いする。
「馬鹿者か!?何が亡霊だよ!亡霊なんて存在するかよ!単なる空耳だろうが!」
大柄の匪賊は子供の笑い声を空耳だと断言…。激怒したのである。
『大体亡霊とか…悪霊なんて単なる子供騙しだろうに…』
大柄の匪賊は亡霊やら悪霊の存在を子供騙しであると全否定するのだが…。内心では戦慄したのである。
『悪霊が出現しそうな雰囲気だな…』
極度の恐怖心からか全身は身震いし続ける。
「気味悪いし…場所を変更しないか?こんな場所では野宿出来ないよ…」
大柄の匪賊は恐る恐る小柄の匪賊に問い掛ける。
「此処は危険そうだからな…」
『何よりも気味悪いし…』
小柄の匪賊も承諾したのである。二人が移動する直前…。
「ん!?」
地面の真下を直視すると一体の子供の市松人形が転がったのである。
「ひっ!此奴は子供の人形!?」
「如何してこんな代物が地面に!?誰かの悪ふざけかよ!?」
彼等は地面の市松人形に畏怖する。すると小柄の匪賊が再度恐る恐る…。
「ひょっとして先程の子供の笑い声って…此奴なのかな?」
大柄の匪賊は絶句したのである。
「えっ…」
身震いするものの…。
「馬鹿者が!此奴は単なる人形だって!子供の笑い声も俺達の空耳だろうが!面白くない冗談だな!」
大柄の匪賊は只管に悪霊の存在を全否定したのである。
「本当に俺達の空耳だったのかな?」
小柄の匪賊は内心納得出来ず先程の子供の笑い声が人形であると確信する。
「絶対に空耳だって!人形が爆笑するかよ!」
大柄の匪賊は空耳だと断言したのである。
「えっ?此奴…」
「人形が!?此奴は現実なのか?」
子供の市松人形の首部が動き始めたかと思いきや…。無表情の市松人形が彼等を凝視し始める。
「ひっ!」
「人形の頭部が!?」
すると無表情だった市松人形が不吉の笑顔で…。
「あんた達も私の仲間入りね♪」
人語で発言した市松人形に二人の匪賊は極度の恐怖心からか意識が遠退いたのである。不吉の出来事から二日後…。南国の山道では人攫いに遭遇するとの噂話が全国各地で出回ったのである。

第二十二話

怪異事件
怪異事件発生から二日後の真昼…。桜花姫は暇潰しに東国の八正道の寺院にて桜餅を頬張る。
「八正道様♪感謝するわね♪桜餅♪美味だわ♪」
「桜花姫様は大満足の様子ですね♪」
桜花姫は只管机上の桜餅を頬張り続ける。
「桜花姫様は弁天島の戦闘では近海に出現した悪霊…海難姫君でしたかね?海難姫君と命名される巨大悪霊を退治されたみたいですね!桜花姫様の功績で私達は安心して熟睡出来ますよ♪」
八正道は桜花姫に感謝する。
「気にしないで♪八正道様♪私にとって悪霊征伐は単なる娯楽だからね♪」
「桜花姫様にとって悪霊征伐は単なる娯楽なのかも知れませんが…桜花姫様の功績によって私自身は勿論…大勢の村人達が安心して生活出来るのも事実ですからね♪」
「八正道様♪」
桜花姫は八正道の発言に赤面したのである。
「桜花姫様…近頃の噂話なのですが…」
八正道は真剣そうな表情で恐る恐る…。
「えっ?八正道様?噂話って何かしら?」
「近頃の出来事なのですがね…南国の山道で通行中の旅人達が正体不明の人攫いに遭遇するとの怪異事件が頻発したらしいのですよ…」
「正体不明の人攫いですって?一体何かしら?」
桜花姫は怪異事件の一言に反応したのか途端に表情が一変する。
「本題なのですが…」
数週間前の出来事である。南国の山道を通行中の村人達が失踪するとの行方不明事件が偶発的に発生…。怪異事件が発生する時間帯は真夜中の深夜帯であり近所の村人達からは子供らしき笑い声が響き渡るとの情報である。
「近隣の住民達からは子供らしき笑い声が響き渡ったとの報告です…」
度重なる怪異事件に各地の村里では子供の悪霊の仕業であるとの噂話が出回り始める。近隣住民達は恐怖で夜中も眠れなくなる。
「真夜中の山道で子供の笑い声…行方不明事件ね♪」
『今度も神隠しかしら♪面白そうだわ♪』
桜花姫は怪異事件の発生に闘争心が急上昇する。
「桜花姫様の妖術で行方不明の旅人達を救出出来ませんか?子供らしき笑い声の正体も気になりますし…」
「勿論よ♪八正道様♪何が出現したかは不明だけど…神出鬼没の悪霊を仕留めるのが私の本業だからね♪」
桜花姫は八正道の問い掛けに満面の笑顔で即答したのである。
「非常に心強いですね!桜花姫様!」
「私にとっては悪霊征伐なんて所詮娯楽だけどね♪」
「であれば桜花姫様…今回も事件の解決を期待しますよ♪」
一方の桜花姫は今回の怪異事件が気になったのか彼是と思考し始める。
『今回の神隠し事件…悪霊の仕業なのかしら?何よりも子供みたいな笑い声が響き渡ったみたいだし…恐らくは悪霊の仕業でしょうけど調査が必要ね!』
桜花姫は今回の行方不明事件が神出鬼没の悪霊の仕業であると予想する。

第二十三話

付喪神
同日の真夜中…。桜花姫は悪霊征伐と行方不明者達の救出を主目的に南国の山道へと移動する。
『真夜中の山道…』
「神出鬼没の悪霊が出現しそうな雰囲気だわ…」
桜花姫は周囲の暗闇の自然林を警戒したのである。
「此処では悪霊特有の霊気は感じられないわね…」
『今回の神隠し事件は本当に悪霊の仕業なのかしら?』
何一つとして霊気が感じられず桜花姫は今回の行方不明事件が悪霊の仕業なのか疑問視する。
「はぁ…」
『残念ね…今夜は出直しかしら?』
桜花姫は一時的に悪霊征伐の断念を決意したのである。
「今夜は何も進展しないし…村里に戻ろうかしら?」
『今夜は仕方ないわね…』
桜花姫は西国の村里へと戻ろうかと思いきや…。
「えっ?」
突如として近辺から子供らしき笑い声が響き渡る。
「何かしら?」
『子供の笑い声!?』
桜花姫は突然の子供らしき笑い声に再度警戒する。
『如何やら今回の来客が出現したみたいね♪』
桜花姫にとって敵対者の出現は好都合であり内心一安心だったのである。
『今回は何が出現するのかしら♪』
子供らしき笑い声は響き渡るのだが…。
「ん?」
『別に何も…』
特段何も出現せず周囲の様子を警戒し続けても何一つとして確認出来ない。
『笑い声の正体は一体何だったのかしら?』
桜花姫は何気無く地面を直視した直後…。
「きゃっ!」
真下の地面に子供の市松人形が転がったのを確認する。
「市松人形!?」
『吃驚させないでよね…』
桜花姫は突然の市松人形の出現に吃驚したのである。
『市松人形よね?如何してこんな場所に子供の市松人形が?』
桜花姫は恐る恐る地面の市松人形を回収する。
『最初は吃驚したけれど…随分と可愛らしい女の子の市松人形だわ♪小猫姫なら大喜びしそうな代物ね!』
山猫妖女の小猫姫は人一倍子供の人形が大好きであり市松人形を本物の子供みたいに可愛がる。
「えっ!?」
市松人形を回収した直後である。
『市松人形の両目が…』
突如として市松人形の両目が桜花姫を直視し始めたかと思いきや…。市松人形は不吉の笑顔で桜花姫を冷笑し始める。
『此奴の姿形は子供の市松人形でも中身は完全に別物みたいね…此奴の正体は何者なのかしら?』
市松人形の正体は神出鬼没の悪霊であると予想するのだが…。市松人形の本体からは悪霊特有とされる霊気らしい霊気は何一つとして感じられない。
『市松人形からは悪霊特有の霊気が感じられないわ…ひょっとして此奴も…』
すると市松人形が不吉の笑顔で…。
「あんたの正体は人外の妖女ね♪」
市松人形は人間の口言葉で発語したのである。
「あんたは市松人形なのに喋れるのね…あんたは一体何者なのかしら?」
桜花姫は人間の口言葉で発語する市松人形に恐る恐る問い掛ける。
「私は市松人形の付喪神とでも♪俗世間では神出鬼没の悪霊とか…【亡霊菊人形】って揶揄されるけれどね♪」
「亡霊菊人形ですって?」
『此奴も小面袋蜘蛛と同様に妖星巨木の樹木から誕生した器物の悪霊なのね…』
亡霊菊人形とは肉親からの虐待により惨殺された子供達の怨念が器物である市松人形と一体化した無念の集合体…。本体である市松人形に子供達の無念が憑霊した付喪神の一種として知られる。亡霊菊人形は列記とした器物の悪霊であるものの…。本体である市松人形は造物主妖星巨木の樹木から形作られた代物である。小面袋蜘蛛と同様に本体の霊気を察知出来ない。
「妖女の小娘♪残念だったわね♪」
亡霊菊人形には桜花姫の妖術が通用せず亡霊菊人形は余裕だったのである。
「私の肉体は妖星巨木の樹木から誕生した肉体なの…私自身の本体からは霊気は感じられないわよ!」
豪語した直後…。亡霊菊人形の両目が蛍光色に発光したのである。
「きゃっ!」
桜花姫は亡霊菊人形の両目を直視…。直後である。
「今夜であんたも私達の仲間入りね!随分と可愛らしい姿形だわ!」
亡霊菊人形は今現在の桜花姫の状態に冷笑する。
「えっ?」
『一体何が発生したの?』
突然何が発生したのかは不明瞭であるものの…。
『如何して私は身動き出来ないのかしら?』
桜花姫は亡霊菊人形の両目を直視したのを契機に身動き出来なくなる。
『ひょっとして金縛りなの?亡霊菊人形の霊能力なのかしら?』
すると亡霊菊人形が桜花姫を直視すると不吉の笑顔で…。
「あんたの肉体は私の霊能力で市松人形に変化したのよ!市松人形の肉体では身動きしたくても身動き出来ないわよ!」
「えっ!?」
『私の肉体が…市松人形に!?』
桜花姫は亡霊菊人形の霊能力により市松人形に変化させられたのである。市松人形の肉体では身動き出来ない。
『市松人形の肉体では身動き出来ないわね…如何しましょう?』
桜花姫は市松人形に変化させられた影響からか極度の眠気により熟睡したくなる。
『何かしら?突然眠気が…』
数秒後…。
「はぁ…」
桜花姫は極度の眠気により真夜中の山道で熟睡したのである。一方の亡霊菊人形は熟睡中の桜花姫を凝視し始め…。
『妖女の小娘は熟睡したわね!』
亡霊菊人形は熟睡した桜花姫の様子に冷笑する。
『彼女を連行しましょう…』
すると暗闇の自然林より巨体の何者かが出現…。地面の亡霊菊人形と市松人形に変化した桜花姫を回収したのである。

第二十四話

人形部屋
亡霊菊人形と遭遇してから数時間後…。
「えっ…此処は?」
『私は一体?』
市松人形に変化した桜花姫はとある場所で目覚めたのである。
『如何してこんなにも無数の人形達が?此処は不吉ね…』
目覚めた場所はとある家屋敷の一室であり桜花姫の周囲には数百体もの市松人形達が確認出来…。保管された状態だったのである。
『周囲の人形達からは人間達の精気を感じられるわね…』
数百体もの市松人形達は老若男女の多種多様の市松人形であり精気を感じる。
『ひょっとして彼等も私と同様に市松人形に変化させられた人間なのかしら?』
部屋全体の彼方此方に精巧に形作られた市松人形が無数に保管され…。部屋全体が市松人形達によって密閉された状態だったのである。
『こんな場所で長居し続ければ元凶の悪霊を征伐出来なくなるわ…逸早く此処から脱出して亡霊菊人形を仕留めないと!』
桜花姫は一か八か変化の妖術を発動する。
『変化の妖術!発動!』
変化の妖術を発動すると市松人形の肉体が元通りの姿形へと戻ったのである。
『変化の妖術…大成功ね!』
桜花姫は周囲の市松人形達を直視すると生身の人間の気配を感じる。
「黒幕の亡霊菊人形を仕留めて…市松人形のあんた達も元通りの姿形に戻しちゃうから安心なさいね!」
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る人形部屋を退室したのである。
『此処からだと亡霊菊人形の気配は感じられないわね…』
室内では人気は勿論…。悪霊特有の霊気すらも感じられない。
『相手は妖星巨木から誕生した一体だからね…』
「霊気を察知出来ないのは当然でしょうけど…」
すると室内から跫音が響き渡る。
「えっ…」
桜花姫は即座に雲隠れの妖術を発動…。雲隠れの迷彩効果で桜花姫の姿形が一瞬で透明化する。
『今度は何かしら?』
すると桜花姫の背後より背丈が規格外の巨大市松人形が出現したのである。
『此奴は…』
巨大市松人形は姿形こそ少女の人形であるが…。全体像の背丈は十三尺規模と桁外れだったのである。
『姿形は市松人形みたいだけど…規格外に巨体だわ…』
桜花姫は市松人形の巨大さに驚愕する。一方の巨大市松人形は姿形が透明化した桜花姫の存在には気付かず素通りしたのである。
『此奴も市松人形みたいだけど体格は規格外ね…一体何者なのかしら?』
桜花姫は規格外の巨大市松人形に愕然とする。巨大市松人形は地下通路へと移動したのである。
『彼奴…地下通路に移動したわね…』
「巨体の彼奴も亡霊菊人形の一体なのかしら?」
桜花姫は即座に巨大市松人形を追尾する。

第二十五話

祭壇
巨大市松人形の行方を追尾し始めてから数分後…。桜花姫は石造りの大部屋らしき地下壕へと到達したのである。
『石造りの地下壕?此処は儀式用の大部屋なのかしら?』
地下壕は全面的に石造りであり周囲の石垣には無数の炬火が設置され…。室内全体の視界は良好だったのである。
「えっ?」
『巨大市松人形は?』
不可解にも地下壕では先程遭遇した巨大市松人形が存在しない。地下壕の中心部には祭壇が確認出来…。祭壇の中心部には身長一尺程度の亡霊菊人形が鎮座する。
『彼奴は亡霊菊人形だわ!こんな場所に本体が…』
すると亡霊菊人形の首部が桜花姫の佇立する方向へと動作し始める。
「えっ…」
雲隠れの妖術によって全身を透明化させた桜花姫であるが…。
『ひょっとして亡霊菊人形は…私の居場所を察知出来るの?』
祭壇の亡霊菊人形と目線が合致する。
「妖女の小娘…」
亡霊菊人形は不吉の笑顔で発言したのである。
「あんたは子供騙しみたいな雲隠れの妖術で全身の肉体を透明化したみたいね!」
桜花姫は雲隠れの妖術により透明化した状態であるものの…。本体である亡霊菊人形は自身の霊能力によって透明化した桜花姫の居場所を容易に特定出来る。
「巨体の分身体は誤魔化せても…本体である私は誤魔化せないわよ!大人しく雲隠れの妖術を解除したら如何なのかしら?妖女の小娘!雲隠れの妖術を解除なさい!」
桜花姫は亡霊菊人形に指摘されると恐る恐る…。
「はぁ…」
『誤魔化せないなら仕方ないわね…』
桜花姫は仕方なく雲隠れの妖術を解除したのである。
「自力で元通りの姿形に戻れるなんてね!やっぱりあんたは其処等の人間とは別格みたいだわ…」
「私は最上級妖女の月影桜花姫様なのよ!当然でしょう!」
桜花姫は得意満面の表情で豪語する。
「月影桜花姫ですって?」
亡霊菊人形は桜花姫の名前に反応したのである。
「あんたが数多の悪霊の天敵…月影桜花姫なのね…」
桜花姫の背後から先程遭遇した巨大市松人形が出現したかと思いきや…。桜花姫に接近し始める。
「此奴は何者なの?」
「彼女は私の分身体よ!」
巨大市松人形の正体とは本体である亡霊菊人形が形作った巨体の分身体である。
「此奴は巨体だけどあんたの分身体なのね…」
巨体の分身体には自我が存在せず本体である亡霊菊人形の思考によって身動きする。一方の本体は自由自在に身動き出来ない。
「私の分身体!彼女は私達の大敵よ!思う存分に彼女を殺害しなさい!」
巨体の分身体は亡霊菊人形の命令に服従…。分身体の口先が開口したのである。
『分身体は一体何を?』
分身体の口先から猛毒の毒液が噴射される。
「きゃっ!」
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。間一髪猛毒の毒液を無力化したのである。分身体の毒液は非常に強力であり石造りの地面が液状化する。
『危機一髪だったわ…分身体の毒液に接触したら大変だったわね…』
亡霊菊人形は桜花姫の妖術を直視すると脅威に感じる。
『月影桜花姫は最上級妖女だったかしら?彼女の妖力…予想以上に強力だわ…桜花姫は妖力を無力化出来ても油断は出来ないわね!』
「分身体!私達の本領を発揮するのよ!」
亡霊菊人形の命令に巨体の分身体は無言で点頭する。
「ん?」
『今度は何を?』
巨体の分身体は再度口先を開口したかと思いきや…。今度は高熱の火球を発射したのである。
『火球ですって!?』
高熱の火球に桜花姫は再度妖力の防壁を発動する。
「きゃっ!」
高熱の火球は非常に強力であり妖力の防壁でも防ぎ切るのが精一杯だったのである。桜花姫は火球の爆風に吹っ飛ばされ…。背後の壁面に激突する。
「ぐっ!」
背後の壁面に激突した衝撃により桜花姫は石造りの床面に横たわる。
『意外と強力なのね…』
巨体の分身体は床面に横たわった状態の桜花姫に急接近する。一方本体の亡霊菊人形が床面に横たわった状態の桜花姫を冷笑したのである。
「いい気味だわ!月影桜花姫!随分と辛苦みたいね♪あんたは私達に降参かしら?」
「滑稽だわ…誰があんた達に降参なんて…」
桜花姫は苦し紛れに否定する。
「強がったとしてもあんたが圧倒的に不利なのは事実でしょうに!本体である私を仕留められれば形勢逆転は可能かも知れないけれど!屈強の最上級妖女だとしても妖女のあんたでは私を仕留めるのは実質的に不可能なのよ!非力のあんたは大人しく私達に降参するのが無難ね!」
器物の悪霊である小面袋蜘蛛と同様に亡霊菊人形は荒唐無稽の妖術を無力化出来…。基本的に妖術が主体の桜花姫にとって妖術の通用しない亡霊菊人形は小面袋蜘蛛と同様に最悪の天敵である。
「私の分身体!彼女を殺害するのよ!今度こそ月影桜花姫を完膚なきまでに仕留めなさい!」
亡霊菊人形は再度巨体の分身体に桜花姫の殺害を命令する。
「ぐっ…如何すれば?」
『亡霊菊人形には私の妖術は無力でしょうけれども…』
内心妖術による反撃は無益であると自覚するのだが…。
『一か八か変化の妖術で!』
桜花姫は巨体の分身体に変化の妖術を行使したのである。
「ん?あんたは…私の分身体に妖術を駆使したわね♪」
当然として発動した変化の妖術は無力化され…。桜花姫の妖力は巨体の分身体に吸収されたのである。
「あんたは馬鹿者なの?私の肉体は妖星巨木の樹体なのよ!」
亡霊菊人形は桜花姫を冷笑し始める。
「あんたが最強の妖女でも私にはあんたの妖術なんて通用しないからね!あんたが妖術を発動し続ければ私は強大化し続けるだけなのよ!」
桜花姫は一歩ずつ後退りしたのである。
『やっぱり妖術の通用しない亡霊菊人形を攻略するには妖力を駆使しない武器が必要不可欠みたいね…』
「ん?」
桜花姫はとある人物の存在を想起する。
『八正道様…』
桜花姫の想起した人物とは誰であろう僧侶の八正道だったのである。
『八正道様なら妖術の通用しない亡霊菊人形を攻略出来るかしら?』
「八正道様には悪いけど一か八かね…」
桜花姫は一か八か口寄せの妖術で僧侶の八正道と携帯式の榴弾砲を口寄せする。桜花姫の目前から白煙が発生し始め…。八正道と携帯式の榴弾砲が出現したのである。
「えっ!?桜花姫様!?一体何が発生したのでしょうか!?」
突然の超常現象に何が何やら状況を理解出来ず八正道は動揺し始め…。
「如何して突然…私はこんな場所に!?一体何事ですか!?」
八正道は愕然とした様子で周囲を確認する。
「こんな真夜中の時間帯に御免なさいね…八正道様…」
桜花姫は恐る恐る八正道に謝罪したのである。
「桜花姫様!?一体何が発生したのでしょうか?桜花姫様の妖術ですか!?」
桜花姫は八正道に問い掛けられると苦し紛れに返答する。
「御免なさいね…一か八かの大博打だったのよ!私が口寄せの妖術で八正道様と…榴弾砲を口寄せしたのよ!」
「えっ…私自身と榴弾砲ですと!?」
八正道は恐る恐る地面の榴弾砲に注目したのである。
「ひょっとして地面の榴弾砲は妖星巨木の悪霊事件で回収した代物ですね…」
携帯式の榴弾砲とは以前小面袋蜘蛛との戦闘で使用した代物であり八正道は恐る恐る榴弾砲を回収する。
「今現在亡霊菊人形に対抗出来るのは八正道様だけなのよ!」
「えっ?亡霊菊人形ですと?」
八正道は祭壇の亡霊菊人形と巨体の分身体を直視したのである。
「亡霊菊人形とは…小面袋蜘蛛と同様に器物の悪霊ですか?非常に厄介ですね…」
八正道は状況を整理する。
「最初は吃驚しましたが…余程の一大事だったのですね!桜花姫様!」
一方の亡霊菊人形は突如として出現した八正道を凝視する。
「誰かと思いきや…彼奴は人間の僧侶みたいね…」
亡霊菊人形は呆れ果てる。
「僧侶だとしても非力の人間風情に何が出来るのかしら?私の分身体!非力の人間である僧侶諸共月影桜花姫を完膚なきまでに殺害しなさい!最早二人は不要よ!」
巨体の分身体は全身から雷撃を発生…。人間の八正道に雷撃を仕掛ける。
「八正道様!」
桜花姫は即座に八正道に妖力の防壁を発動したのである。
「間一髪だったわね…八正道様…」
「桜花姫様!感謝します!」
桜花姫は勿論…。八正道も一安心する。
「今回は私が極悪非道の悪霊を退治しますからね!」
八正道は榴弾砲に砲弾を装填させたのである。
「八正道様!此奴の弱点は祭壇の市松人形よ!祭壇の市松人形が亡霊菊人形の正体だからね!」
「弱点は祭壇の市松人形なのですね!桜花姫!」
八正道は勝利を確信する。
「であれば極悪非道の亡霊菊人形…覚悟するのですよ!」
八正道は祭壇の亡霊菊人形を目標に砲撃…。榴弾砲の砲口から一発の砲弾が発射されたのである。
「人間の分際で!直撃させるか!」
祭壇の亡霊菊人形は即座に巨体の分身体に指示する。巨体の分身体は一瞬で祭壇の間近へと瞬間移動したかと思いきや…。本体である祭壇の亡霊菊人形を防備したのである。榴弾砲の砲弾によって巨体の分身体は完膚なきまでに破壊され…。祭壇の周辺には無数の木片が飛散する。
「残念だったわね!あんた達!」
亡霊菊人形は巨体の分身体を自身の防備に利用したのである。
「折角の努力が無意味だったみたいね…所詮私達にあんた達の小細工なんて通用しないわよ!」
亡霊菊人形本体は間一髪無事であり二人に冷笑する。
「亡霊菊人形の本体は無事でしたか…非常に無念です!」
「亡霊菊人形の分身体は仕留めたわ!八正道様は砲弾を再装填して!」
「承知しました!桜花姫様!」
八正道は桜花姫の指示により再度榴弾砲に砲弾を再装填したのである。
「人間の武器は非常に強力だけど…残念だったわね♪」
一方の亡霊菊人形は自身の霊能力で飛散した無数の木材を融合化…。砲弾で破壊された巨体の分身体を元通りの姿形に復活させたのである。
「えっ!?亡霊菊人形の分身体は八正道様の榴弾砲で仕留められたのに…復活しちゃったわね…」
「分身体が復活するなんて…亡霊菊人形は想像以上に厄介ですね…」
桜花姫と八正道は復活した亡霊菊人形の巨体の分身体に絶望する。
「私の分身体はね…本体である私自身が無事なら何度でも復活させられるからね!最早あんた達が私達に勝利する可能性なんて皆無なのよ!あんた達は大人しく降参するのが無難だわ…不老不死の市松人形として未来永劫長生きし続けるのね!」
「市松人形として長生きし続けるなんて面白くない冗談ね…私は御免だわ!」
桜花姫は亡霊菊人形の思考を全否定したのである。
「はっ?あんたは馬鹿者なの?」
対する亡霊菊人形は桜花姫の返答に呆れ果てる。
「市松人形の肉体なら未来永劫不朽なのよ!実質不老不死が約束されるのに…あんた達は何が不満なのよ?所詮生身の肉体なんて寿命に束縛されるだけなのに…」
「長生き出来るのは否定しないけれどね…」
桜花姫は亡霊菊人形の主張に無表情で反論する。
「所詮人形の肉体では自由自在に身動き出来ないでしょう…大好きな桜餅も食べられなくなるし…人形の肉体では桜餅の美味しさも感じられなくなるわ!」
「私も桜花姫様の意見に賛同しますよ!」
八正道も桜花姫の反論に賛同したのである。
「私も自由を束縛される人形の肉体なんて正直御免ですね!私も生身の人間として人生を満喫したいですよ!」
亡霊菊人形は二人の反論に苛立ち始める。
「あんた達…腹立たしい奴等ね!」
亡霊菊人形は桜花姫と八正道を無価値と判断…。
「私の分身体!今度こそ二人を完膚なきまでに殲滅しなさい!」
再度巨体の分身体に二人の殺害を指示する。
「八正道様!彼奴の分身体に砲撃して!」
「えっ!?ですが桜花姫様!?巨体の分身体に砲撃しても本体である亡霊菊人形の霊能力で即座に復活させられちゃいますよ!」
八正道は桜花姫の指示に混乱したのである。
「今度は大丈夫!私を信頼して…八正道様!」
桜花姫は満面の笑顔で断言する。
『桜花姫様…ひょっとして作戦でしょうか?』
八正道は桜花姫の思考を察知…。
『止むを得ないですね!最早後戻りは出来ません!』
八正道は一か八か巨体の分身体に再度砲撃したのである。
「亡霊菊人形!今度こそ覚悟するのですよ!」
「愚か者達が!分身体には何度攻撃しても…復活し続けるだけなのに!」
亡霊菊人形は冷笑する。
「如何かしら?悪霊の御人形さん♪」
桜花姫は冷笑する亡霊菊人形に満面の笑顔で返答したのである。
「えっ?」
『桜花姫は随分と余裕ね…彼女は一体何を?』
亡霊菊人形は余裕の桜花姫に警戒する。榴弾砲の砲弾が亡霊菊人形の分身体に直撃する直前…。
「今度こそ死滅なさい…亡霊菊人形の本体!」
桜花姫は発射された砲弾に瞬間移動の妖術を発動したのである。すると砲弾が一瞬で消失する。
「なっ!?」
『如何して砲弾が消滅したの!?』
消失した榴弾砲の砲弾は桜花姫の発動した瞬間移動の妖術により祭壇の方向へと瞬間移動させられ…。
「えっ…」
榴弾砲の砲弾は一直線で亡霊菊人形本体が鎮座する祭壇へと直撃したのである。
「ぎゃっ!」
砲弾が炸裂したかと思いきや…。祭壇の中央に設置された亡霊菊人形本体諸共祭壇が粉砕されたのである。
「砲弾が祭壇に直撃しましたね!」
八正道は一瞬の出来事に驚愕する。
「桜花姫様?先程の砲撃で亡霊菊人形の本体は仕留められたのでしょうか?」
砲弾の炸裂によって亡霊菊人形の本体が粉砕され…。直後に亡霊菊人形の巨体の分身体は自然消滅したのである。
「如何やら亡霊菊人形の本体が破壊された影響で分身体も消滅しましたね…」
「亡霊菊人形は完全に死滅したみたいね…」
亡霊菊人形の破壊によって重苦しかった室内の空気も沈静化する。
「八正道様!感謝するわね!」
「無事亡霊菊人形も仕留められたので一安心ですよ!」
八正道は満面の笑顔で返答したのである。亡霊菊人形が消滅した数秒後…。亡霊菊人形の本体を仕留めた影響からか家屋敷に収納された人形部屋の市松人形達も元通りの人間の姿形へと戻ったのである。人間の姿形へと戻れた村人達は亡霊菊人形の家屋敷から無事に解放される。一方今回の大事件解決の功労者である桜花姫と八正道も亡霊菊人形の家屋敷から無事に脱出する。
「今回も無事に大事件が解決出来たので一安心ですね!桜花姫様!」
「御免なさいね…こんな真夜中に八正道様を半強制的に参加させちゃって…」
桜花姫は八正道に再度謝罪したのである。
「桜花姫様が気にされなくとも私なら大丈夫ですよ!」
「八正道様♪」
「神出鬼没の悪霊は放置出来ませんからね!私は桜花姫様に協力出来るのであればいつ何時であっても協力する覚悟ですよ!」
「八正道様…やっぱり心強いわね!」
桜花姫は八正道の意向に一安心する。すると桜花姫は山道の道中…。
「八正道様…御免なさいね…」
「如何されましたか?桜花姫様?」
桜花姫は恐る恐る両目を瞑目させると神性妖術の天道天眼を発動する。
『桜花姫様の瞳孔が…半透明の瑠璃色に発光しましたね…』
半透明の血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光したのである。
「桜花姫様…天道天眼ですか?」
「口寄せの妖術…」
桜花姫は口寄せの妖術を発動…。すると地面の石ころが一尺程度の人型を形成すると地面の石ころは美少女の市松人形の姿形へと変化したのである。
「なっ!?亡霊菊人形ですか!?」
桜花姫は口寄せの妖術で亡霊菊人形の本体を復活させる。
「如何して石ころが亡霊菊人形の姿形に?桜花姫様の妖術なのですか?」
「勿論私の妖術よ…彼女は亡霊菊人形の本体だけど大部分の霊気は浄化させたから心配しなくても大丈夫よ!」
「ですが桜花姫様…彼女は器物の悪霊なのですよ!正直不安ですね…」
八正道は復活した亡霊菊人形の本体に戦慄したのである。
「彼女は器物の悪霊だけど…大切に扱われれば元通りの市松人形に戻れるわ♪」
「本当に大丈夫なのでしょうか?私は正直亡霊菊人形が暴走しないか不安ですね…」
八正道は亡霊菊人形が再度暴走しないか不安がる。桜花姫は八正道との解散後…。南国の蛇体如夜叉と小猫姫の家屋敷へと訪問したのである。
「小猫姫と蛇体如夜叉婆ちゃん!深夜帯に御免あそばせ!」
「桜花姫姉ちゃんだ!蛇体如夜叉婆ちゃん!桜花姫姉ちゃんだよ!」
小猫姫は桜花姫の訪問に大喜びする。
「桜花姫ちゃんかね?こんな真夜中に何事かね?」
すると桜花姫は満面の笑顔で市松人形を小猫姫に手渡したのである。
「小猫姫…私からの手土産よ!」
「女の子の市松人形だ!」
市松人形に小猫姫は大喜びする。
「私からの手土産だからね!市松人形を大事にしてね…小猫姫!」
「女の子の市松人形!勿論大事にするよ!桜花姫姉ちゃん!」
小猫姫は手土産の市松人形に再度大喜びしたのである。
「蛇体如夜叉婆ちゃん!女の子の市松人形だよ!可愛らしいね!」
小猫姫は子供みたいに大はしゃぎし始める。一方の蛇体如夜叉は市松人形を直視すると一瞬苦笑いしたのである。
『桜花姫ちゃん…此奴は器物の悪霊…亡霊菊人形の本体とはね…単なる手土産としては随分と物騒だよ!』
蛇体如夜叉は一目で市松人形の正体が器物の悪霊…。亡霊菊人形の本体であると察知したのである。
『小猫姫が市松人形を大切に扱えば亡霊菊人形の無念の霊気は完膚なきまでに浄化されるだろうし…一先ずは大丈夫だろうね!』
蛇体如夜叉は決意…。小猫姫には市松人形の正体が悪霊の亡霊菊人形である事実を秘密にしたのである。

第二十六話

手鏡
真夜中の出来事である。場所は東国の片田舎…。暗闇の山道にて二人の匪賊達が山道の中央を闊歩する。
「大都会の東国でも…こんな片田舎が存在するとは意外だな…」
小柄の匪賊が片田舎の村里を発見したのである。
「明日の早朝は此処を襲撃するか!此処なら武士団の御加護は無さそうだし!」
仲間の中肉中背の匪賊は楽観的に発言する。
「大丈夫だろうか?」
小柄の匪賊は非常に不安がる。村人達の人口は少なそうだが…。
『先程から感じる寒気…一体何だろうか?』
小柄の匪賊は非常に敏感なのか村里から極度の寒気を感じる。
「本当に大丈夫なのか?」
中肉中背の匪賊は心配したのである。
「此処の村里に近付いてから極度の寒気を感じる…何だろうか?」
「風邪かよ?」
小柄の匪賊は身震いし始める。
「一体…如何しちまったのやら?」
すると直後…。二人の背後より気配を感じる。
「えっ…」
「気配だ…」
二人は恐る恐る背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
気配の正体とは雪模様の着物姿の少女である。
「此奴は村里の小娘なのか?」
「こんな真夜中に一人で出歩くとは…あんたは命知らずなのか?」
二人の匪賊は少女に警戒する。少女は円形の手鏡を所持…。無表情で二人の匪賊を凝視し続ける。
「嬢ちゃんよ…こんな真夜中に一人で出歩くと悪人に捕縛されちまうぞ!嬢ちゃんは命知らずの馬鹿者なのかよ!?」
中肉中背の匪賊は相手が自身よりも非力そうな少女であり余裕の気分だったのである。反対に相棒の小柄の匪賊は目前の少女が人間なのか疑問視する。
『小娘の正体…人間なのか?こんな真夜中に少女が一人で出歩くなんて絶対に可笑しいよ!此奴は危険かも知れないな!』
一方の少女は只管無表情であり中肉中背の匪賊を凝視し続ける。
「無視かよ!」
すると中肉中背の匪賊は護身用の刀剣を携帯し始め…。小柄の匪賊に近寄る。
「小娘!俺の問い掛けに無視するとは命知らずだな!相手が非力の子供だからって俺は容赦しないぞ!」
中肉中背の匪賊が少女に斬撃する寸前…。
「小娘に手出しするな!此奴は危険だぞ!」
小柄の匪賊は彼を制止したのである。
「はっ?こんな小娘が危険だって!?こんな小娘の何が危険なのかよ!?」
中肉中背の匪賊は小柄の匪賊の警告に呆れ果てる。
「小娘は俺の問い掛けに無視しやがったからな!打っ殺す!」
すると小柄の少女が無表情で発語したのである。
「貴方…異界は如何かしら?」
「はっ?異界だと?」
直後…。少女の所持する手鏡が黄色く発光し始める。同時に中肉中背の匪賊は姿形が消失したのである。
「えっ…」
小柄の匪賊は目前の超常現象に驚愕…。絶句したのである。
「一体何が!?」
『手鏡が発光した瞬間に人間が消滅するなんて…』
先程の超常現象により小柄の少女が人外の存在であると確実視する。
『やっぱり小娘の正体は人外みたいだな…』
すると小柄の少女は小柄の匪賊を凝視し始める。
「今度は貴方も…異界に…」
手鏡を発光させる寸前…。
「ひっ!」
『即刻逃げないと殺される!』
小柄の匪賊は一目散に逃走したのである。以後も東国の片田舎では神隠しが頻発…。村人達は神隠しの頻発に戦慄したのである。

第二十七話

手鏡少女
器物の悪霊亡霊菊人形との戦闘から五日後の真昼…。
「桜花姫姉ちゃん♪」
山猫妖女の小猫姫が桜花姫の自宅へと訪問したのである。
「あんたは山猫妖女の小猫姫ね…蛇体如夜叉婆ちゃんは如何したのよ?」
「今日は休日だからね♪」
本日の薬屋は休日であり小猫姫は暇潰しに桜花姫の自宅へと訪問する。
「桜花姫姉ちゃん♪折角だから私達で神出鬼没の悪霊を退治しましょうよ♪」
小猫姫は満面の笑顔で発言するのだが…。
「小猫姫…悪霊が神出鬼没でも…毎日は出現しないわよ…」
『悪霊が出現するなら即刻出掛けるし…』
桜花姫は小猫姫に指摘したのである。
「えっ?桜花姫姉ちゃんは最近の噂話を知らないの?」
「えっ…最近の噂話って何よ?」
桜花姫は真剣そうな表情で小猫姫に問い掛ける。
「東国の片田舎で村人達が神隠しに遭遇したらしいよ…」
「東国の片田舎で神隠しですって?一体何かしら?」
「噂話の内容では…」
小猫姫は桜花姫に一連の出来事を説明する。
「目撃者の情報では手鏡を所持した少女と遭遇したって噂話だよ…」
「手鏡の少女ね…」
『ひょっとして神出鬼没の悪霊かしら?』
手鏡の少女が神出鬼没の悪霊であると予測したのである。
「東国の片田舎で神隠しが頻発したなんて…」
「桜花姫姉ちゃんって意外と情報音痴なのね♪」
小猫姫は情報音痴の桜花姫を揶揄する。
「小猫姫…私が情報音痴で悪かったわね!」
一方の桜花姫は鬼神の形相で小猫姫を凝視したのである。
「兎にも角にも…桜花姫姉ちゃん!私達で東国の片田舎を調査しましょうよ!手鏡の少女も気になるし♪」
「今回も面白そうな事件だからね♪東国の片田舎に直行するわよ♪小猫姫♪」
二人は一致団結…。即座に東国の片田舎へと直行したのである。
「桜花姫姉ちゃん?目撃者の手鏡の少女って神出鬼没の悪霊なのかな?」
小猫姫は移動中に恐る恐る問い掛ける。
「多分悪霊でしょうね…」
『彼女の正体…噂話の内容で判断するなら恐らく…』
桜花姫は手鏡の少女の正体を予想したのである。西国から移動し始めてから一時間後…。二人は目的地の片田舎へと到達したのである。
「到着したわね…此処が事件現場の東国の片田舎かしら?」
「此処からだと人気は感じられないし…殺風景だね…」
山道から直視すると村里は殺風景であり人気は感じられない。
「早速調査開始よ♪小猫姫♪」
「勿論だよ♪桜花姫姉ちゃん♪」
二人は娯楽の感覚であり村里へと潜入する。
「可笑しいわね…真昼なのに誰一人として遭遇しないなんて…」
「此処は過疎地みたいだね…」
時間帯は昼間であるものの…。誰一人として村人と遭遇しなかったのである。各家屋にも接触するのだが人気は感じられない。
「やっぱり此処は可笑しいわね…」
「桜花姫姉ちゃん?ひょっとして村人達が失踪したのは悪霊の仕業なのかな?」
東国の片田舎に滞在してより一時間が経過するものの…。誰一人として村人が出歩く様子は無かったのである。
「こんな芸当は悪霊以外には出来ないからね…」
「やっぱり神出鬼没の悪霊の仕業なのね…」
すると直後…。二人の背後より気配を感じる。
「気配だわ?」
「誰なの?」
二人は警戒した様子で背後を直視したのである。
「あんたは何者なの?」
「村里の女の子かな?」
少女は無表情であり雪模様の着物は勿論…。両手には円形の手鏡を所持する。背丈は小猫姫よりも一回り小柄であり雰囲気は物静かな様子である。
「手鏡だわ…あんたは神出鬼没の悪霊ね…」
少女は姿形こそ人間の女の子であるが…。皮膚は死没者を連想させる灰白色であり生身の人間らしい精気は感じられない。
「此奴が神隠しの正体だね!」
小猫姫は小柄の少女を敵対視し始め…。睥睨したのである。
「あんたの正体…【魔鏡童女】ね…」
「魔鏡童女って?」
魔鏡童女とは手鏡を所持した少女の亡霊であり別名としては神鏡の付喪神やら手鏡少女とも呼称される。魔鏡童女の正体としては戦乱時代の最中…。暗闇の貝塚に幽閉された少女の亡霊とされる。
「貴女は…」
魔鏡童女は無表情で桜花姫を凝視したのである。
「異界は如何かしら?」
「はっ?異界って突然何よ?」
桜花姫は魔鏡童女の問い掛けに困惑する。
「桜花姫姉ちゃん!こんな悪霊の質問なんて無視して…早速退治しちゃおうよ!」
小猫姫は殺気立った形相で魔鏡童女を睥睨したのである。対する魔鏡童女は只管無表情で桜花姫を凝視し続ける。
「貴女を異界に…」
直後である。魔鏡童女の所持した円形の手鏡が黄色く発光し始めたと同時に…。
「えっ…」
突如として桜花姫の姿形が消失したのである。
「えっ!?桜花姫姉ちゃん!?」
小猫姫は桜花姫の突然の消失に驚愕し始め…。目前で何が発生したのか理解出来ずに動揺したのである。
『如何して桜花姫姉ちゃんは消滅しちゃったの!?』
すると魔鏡童女は動揺中の小猫姫に近寄り始める。
「彼女は魔鏡の異界に幽閉させたわ…」
「えっ…」
小猫姫は魔鏡童女の発言により絶句する。
『桜花姫姉ちゃんを魔鏡の異界に幽閉ですって?』
一方の魔鏡童女は無表情で…。
「今度は貴女も異界に…」
手鏡を発光させる寸前である。
「ひゃっ!」
小猫姫は極度の恐怖心からか一目散に逃亡し始める。
『桜花姫姉ちゃんが異界に幽閉されちゃうなんて…こんな悪霊…私一人では仕留められないよ…』
小猫姫は涙腺から涙が零れ落ちる。

第二十八話

異界
桜花姫は魔鏡童女の霊能力により荒唐無稽の異界へと幽閉されたのである。
「此処は殺風景だわ…」
『如何やら此処が魔鏡童女の異界みたいね…』
周辺は荒廃化した村里であり極度の寒気を感じる。
『私は平気だけど…普通の人間なら寒気で身動き出来ないでしょうね…』
桜花姫は冷静であり各家屋を一軒ずつ調査する。
『多分だけど片田舎の村人達も此処に幽閉されたみたいね…』
調査を開始してより数分後…。罅割れた武家屋敷から大勢の人気を感じる。
『大勢の人気だわ!恐らく此処に幽閉された村人達が…』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る武家屋敷に潜入する。
「ん?誰だ?」
「誰かと思いきや…」
「今度は都会の女子か…」
武家屋敷の大部屋には大勢の老若男女が密集…。大部屋へと入室した桜花姫に注目し始める。
「如何やらあんたは別の村里の女子みたいだな…」
「あんたも気の毒だな…」
「あんたも少女の悪霊に遭遇しちまったのか?」
「こんな世界に幽閉されちまうとはあんたも不運だな…」
村人達は異界に幽閉された桜花姫に同情したのである。一方の桜花姫だが平気そうな様子であり無表情で…。
「別に…私の目的はあんた達の捜索だからね…」
桜花姫の返答に何人かの村人達が反応する。
「俺達の捜索だって?あんたは一体何者だよ?外見だけなら大都会の小町娘みたいだが…あんたは忍者の一員なのか?」
「私が忍者ですって?私は桜花姫!最上級妖女の月影桜花姫よ!」
桜花姫は村人の問い掛けに満面の笑顔で返答したのである。
「えっ!?桜花姫って…あんたが不寝番の月影桜花姫様なのか!?」
「貴女が桜花姫様本人なの!?」
村人達は桜花姫の名前に驚愕し始める。
「如何やらあんた達は無事みたいね…」
村人達は魔鏡童女の霊能力により異界に幽閉されるも全員無事だったのである。
「此処では何が発生したのかしら?神出鬼没の悪霊とか…出現しなかったの?」
桜花姫が村人達に問い掛けると一人の若者が返答する。
「此処では特段何も…悪霊とも遭遇しませんでした…」
「異界では神出鬼没の悪霊は存在しないのね…」
『霊気も感じられないし…此処では悪霊は出現しないでしょうね…』
悪霊特有の霊気も感じられず…。異界には悪霊は出現しないと判断する。
「私は一週間前に異世界に幽閉されました…」
今度は村里の少女が証言したのである。
「あんたは一週間前に?」
「一週間前の昼間に手鏡の少女と遭遇しちゃって…」
少女は一週間前の真昼…。父親と二人で片田舎の山道を散歩したのである。近辺の山道の道中…。手鏡を所持した魔鏡童女と遭遇したのである。少女は父親諸共…。手鏡の異界へと幽閉されたのである。
「私等親子が異世界に幽閉されてから…」
今度は少女の父親が証言する。
「毎日何人もの村人達が異世界に迷い込んだのですよ…」
すると今度は大柄の無頼漢が桜花姫に問い掛ける。
「桜花姫様よ!あんたは最強の妖女だろう!?あんたの妖術で俺達を元通りの現実世界に戻せないのか!?俺はこんなにも気味悪い世界から脱出したい気分だぜ!」
桜花姫は無頼漢の問い掛けに瞑目し始め…。一息する。
「悪いけど…私でも一度に此処の全員は戻せないわよ…」
『正直…異界で口寄せの妖術が通用するのか如何なのかもだけれども…妖力の消耗も桁外れでしょうし…』
妖力の消耗は勿論…。異界で口寄せの妖術が効果を発揮出来るのか如何なのかは未知数だったのである。
『異界から脱出するには…現実世界の魔鏡童女を仕留める以外には無さそうね…』
手鏡の異界から脱出するには現実世界の魔鏡童女を仕留めるのが条件であるが…。今現在の桜花姫は異界へと幽閉された状態であり現実世界の魔鏡童女には手出し出来ない。
「はぁ…やっぱり桜花姫様の妖術でも駄目なのかよ…」
「私達…此処で野垂れ死にするのね…」
「もう少しだけ長生きしたかったな…」
「俺はこんな場所で死にたくない!現実世界に戻りたいよ!」
周囲の村人達は絶望する。
「あんた達…絶望するのは早計よ!」
桜花姫の発言に先程の無頼漢が反応したのである。
「はっ?あんたは俺達全員を戻せないって…」
「大丈夫!私に任せないって!」
桜花姫は満面の笑顔で返答する。
『小猫姫♪折角だから今回は彼女に彼奴を…魔鏡童女を退治させましょうかね♪』
桜花姫は天道天眼を発動…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光したのである。
『今度は♪霊体分身の妖術で…』
すると半透明の霊体の分身体が形作られる。
「えっ…一体何が?」
「半透明の…分身体?此奴は桜花姫様の妖術なのか?」
何人かの村人達が愕然とした様子で桜花姫の分身体を注視したのである。霊体分身の妖術とは分身の妖術の応用として知られる。自身の妖力で半透明の霊体分身を形作る妖術である。活用法としては諜報活動やら外部の偵察に利用される。神族やら妖女には肉眼でも視認出来るものの…。霊感体質の人間でも霊体の分身体を視認出来るとされる。以外の特性として物理的に攻撃されても分身体自体が霊体であり物理的攻撃が無力化出来る反面…。霊体の分身体では敵対者への攻撃は不可能であり物理的戦闘は不向きとされる。
「私の分身体♪小猫姫を援護するのよ♪」
桜花姫が分身体に指示したのである。
「了解したわ♪私の本体♪」
一方の分身体は満面の笑顔で承諾する。
「あんたは俗界に戻りなさい♪」
桜花姫は口寄せの妖術を発動…。霊体の分身体は俗界にて口寄せされたのである。

第二十九話

白猫
山猫妖女の小猫姫は極度の恐怖心により一目散に逃走…。東国の山奥へと逃げ込んだのである。
「はぁ…はぁ…」
『桜花姫姉ちゃん…桜花姫姉ちゃんが…』
小猫姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
『桜花姫姉ちゃんが魔鏡童女に異界に幽閉されちゃった…蛇体如夜叉婆ちゃんに知らせないと!私だけでは如何にも出来ないよ!』
村里に戻ろうにも自身の現在地が不明であり戻れなくなる。
『此処って?』
「やっぱり私って一人では何も出来ないな…」
小猫姫は自身がこの上なく情けないと感じる。
『こんな場合…桜花姫姉ちゃんなら簡単に解決出来るのかな?』
すると背後より…。
「小猫姫?」
「えっ…」
小猫姫は背後を直視したのである。
「桜花姫姉ちゃん!?」
「小猫姫?大丈夫かしら?」
背後に存在するのは最上級妖女の桜花姫であるが…。
「全身が半透明だけど…桜花姫姉ちゃんは幽霊なの!?」
背後の桜花姫は身体髪膚が半透明であり小猫姫は吃驚した様子で半透明の桜花姫に問い掛ける。
「厳密には分身体だけど♪所謂幽霊みたいな存在なのは否定出来ないわね♪」
「分身体?ひょっとして桜花姫姉ちゃんの妖術なの?」
「勿論♪私の本体は魔鏡童女の異界で霊体分身の妖術を駆使したのよ♪」
桜花姫の分身体は満面の笑顔で即答する。
「霊体分身の妖術?桜花姫姉ちゃんの本体は無事なのね…」
「安心なさい♪小猫姫♪魔鏡童女に幽閉された村人達も無事だからね♪」
「はぁ…」
『桜花姫姉ちゃんが無事で良かった…』
小猫姫は桜花姫の無事に安堵したのである。
「魔鏡童女は如何するの?彼女は桜花姫姉ちゃんを幽閉した強敵だよ!非力の私だけでは魔鏡童女を対処出来ないよ!」
「心配しなくても大丈夫よ!小猫姫!今現在の状況下で魔鏡童女を仕留められるのは実質あんただけだからね!」
桜花姫の分身体は小猫姫に激励する。
『魔鏡童女を退治するなんて…私に出来るのかな?』
小猫姫は内心困惑し始め…。一人で魔鏡童女に対抗出来るのか不安視する。
「小猫姫…不安そうだから助言するわね!魔鏡童女と遭遇したらあんたは今直ぐ変化の妖術で白猫に変化しなさい!」
「白猫に変化するの?如何して白猫なんかに?」
小猫姫は恐る恐る問い掛ける。
「所詮魔鏡童女も神出鬼没の悪霊だからね!動物相手には無関心でしょうし…無抵抗の動物には手出ししないでしょう!あんたは彼女に油断させるのよ!」
神出鬼没の悪霊は人間を憎悪する存在である。基本的に人間以外の動植物には無関心であり手出ししないのが通例とされる。
『白猫に変化しただけで魔鏡童女を油断させられるのかな?』
小猫姫は再度不安に感じる。数秒後…。
「えっ…」
背後より何者かが近寄ったのである。
『ひょっとして背後は…』
小猫姫は恐る恐る背後を警戒…。背後の様子を直視したのである。
「あんたは…」
背後の正体とは先程遭遇した魔鏡童女…。
「貴女…異界は如何かしら?」
魔鏡童女は無表情で小猫姫を凝視し続ける。一方の小猫姫は極度の恐怖心を感じるものの…。
『一か八かよ!』
変化の妖術を発動したのである。
「はっ!」
小猫姫の全身から白煙が発生し始め…。白煙の中央より白猫が出現したのである。
『こんな程度の妖術で魔鏡童女を油断させるなんて無理だよね…』
小猫姫は苦し紛れの最終手段であり内心絶望する。一方の魔鏡童女は目前の白猫を凝視したかと思いきや…。
「白猫だわ…私は見間違えたのかしら?」
魔鏡童女は無関心なのか白猫の小猫姫を素通りしたのである。
『彼女…私を素通りしちゃった!やっぱり人間以外の動物には無関心なのかな!?』
一方の桜花姫の分身体は満面の笑顔で発言する。
「小猫姫♪やっぱり動物には無関心だったわね♪魔鏡童女を仕留める絶好機よ!背後から彼奴を攻撃しちゃいなさい!」
桜花姫の分身体は小猫姫に攻撃を指示するのだが…。
「桜花姫姉ちゃん…私は彼女の行動が気になるの…悪いけど魔鏡童女を退治するのは後回しね…」
「えっ?私は構わないけれど…」
桜花姫は小猫姫の返答に拍子抜けする。小猫姫は魔鏡童女の行動が気になり追尾したのである。

第三十話

貝塚
魔鏡童女を追尾してより一時間が経過…。魔鏡童女はとある洞窟らしき場所へと進入したのである。
「洞窟だね…」
「如何やら此処が彼女の魔窟みたいね♪潜入しちゃいましょう♪」
小猫姫と桜花姫の分身体は警戒した様子で暗闇の洞窟らしき場所へと潜入する。数分間が経過すると洞窟の奥側へと到達したのである。
「此処って…」
「貝塚かしら?」
周辺の地面には無数の貝殻が確認出来…。此処が貝塚であると認識する。貝塚の中央には一体の白骨体が確認出来る。
「子供の…白骨体かな?」
「多分子供の白骨体でしょうね…恐らく此処で子供が幽閉されたみたいね…」
「幽閉って…えっ!?」
小猫姫は幽閉の一言に反応する。
「桜花姫姉ちゃん!?中央の白骨体って…生前の魔鏡童女なのかな!?」
小猫姫が問い掛けた直後である。
「生前の私は…此処で悪人達に幽閉されたのよ…」
「えっ!?」
小猫姫は吃驚する。
「あんたは魔鏡童女!?」
小猫姫と分身体の背後には先程遭遇した魔鏡童女が佇立…。無表情で白猫の小猫姫を凝視したのである。
『如何やら魔鏡童女は私の姿形は視認出来ないみたいね…』
魔鏡童女は桜花姫の分身体を視認出来ず…。只管白猫の小猫姫を凝視し続ける。
「貴女は…白猫なのに喋れるのね♪」
魔鏡童女は僅少であるが…。微笑んだのである。
「えっ…あんたは…」
魔鏡童女は列記とした神出鬼没の悪霊であるが…。白猫の小猫姫を敵視した様子は感じられない。
『魔鏡童女…』
小猫姫は魔鏡童女を退治する気力が喪失したのである。一方の桜花姫の分身体も魔鏡童女の様子から敵意は感じられず…。内心驚愕したのである。
『彼女は…本当に悪霊なの?悪霊としては異質的だわ…』
直後…。桜花姫の分身体は一定の時間が経過したのか消滅する。一方の小猫姫は恐る恐る…。
「私は…」
小猫姫は変化の妖術を解除したのである。
「本当の私は妖女なの…」
白猫の正体が判明したものの…。
「貴女は妖女だったのね…」
魔鏡童女は涙腺から涙が零れ落ちる。
「私は浄化されたい…此処から解放されたいの…何十年間も…こんな暗闇の場所に幽閉されて…毎日が孤独だったの…私は此処の存在を誰かに気付いて貰いたかったのよ!」
魔鏡童女は小猫姫に泣訴したのである。
「あんたね…」
小猫姫は困惑する。沈黙してより数十秒後…。
「あんたが過去に幽閉されて辛苦だったのは同情するけれど!無関係の村人達を幽閉するのは大間違いだよ!折角此処の場所と…あんたの存在を気付いて貰えるかも知れなかったのに!何もかもが台無しだよ!こんな悪事を継続させれば何時迄も問題は解決しないからね!」
指摘された魔鏡童女は落涙した様子で謝罪したのである。
「御免なさい!御免なさい!私は自由に出歩ける人間達が羨ましかったの…私も人間として自由に出歩きたかったのに!」
魔鏡童女は只管落涙し続ける。
「はぁ…仕方ないね…」
小猫姫は魔鏡童女に呆れ果てる。
「あんたは成仏したいなら…魔鏡に幽閉した桜花姫姉ちゃんと村人達を解放しなさい!今直ぐよ!」
「承知したわ…今直ぐ村人達を解放するよ…」
小猫姫が断言すると魔鏡童女が所持した手鏡の表面が罅割れ…。魔鏡童女は消滅したのである。同時に手鏡が地面に落下すると手鏡の破片が彼方此方に散乱する。手鏡の破片が散乱してより数秒後…。今迄魔鏡童女に幽閉された村人達が出現したのである。
「えっ?此処って?」
「俺達…現実世界に戻れたのか!?」
「はぁ…私達は村里に戻れるのね♪」
村人達は大喜びする。一方の桜花姫は満面の笑顔で小猫姫に近寄る。
「小猫姫♪対話だけで問題を解決させるなんてね♪私には出来ない芸当よ♪」
「桜花姫姉ちゃん♪」
小猫姫は桜花姫に絶賛され赤面したのである。小猫姫は翌朝…。貝塚での出来事を桜花姫と幽閉された村人達に一部始終口述したのである。事件解決から二日後…。魔鏡童女の正体と思しき貝塚の白骨体は手厚く埋葬されたのである。

第三十一話

東大寺
魔鏡童女を手厚く埋葬されてから四日後の真昼…。桜花姫は暇潰しに八正道の寺院へと訪問したのである。
「八正道様♪邪魔するわね♪」
「桜花姫様でしたか!本日は如何されましたか?」
「何って暇潰しよ♪暇潰し♪」
「本日も暇潰しですか…早速桜花姫様には桜餅を用意したいのですが…」
「えっ?八正道様?」
「桜花姫様…」
八正道は真剣そうな表情で恐る恐る…。
「桜花姫様に依頼したいのですが…」
「私に依頼ですって?一体何かしら?」
桜花姫は恐る恐る八正道に問い掛ける。
「東国郊外の山奥には天王山と命名される大山が存在しましてね…」
「天王山ですって?」
「天王山の頂上には東大寺と呼称される古寺が存在するのですよ…」
「東大寺の古寺ね…」
東国郊外の山奥に聳え立つ天王山には東大寺と呼称される古寺が存在する。東国の東大寺には多種多様の仏像が鎮座される古寺として有名であり祈祷のみならず観光地としても有名である。
「東大寺で事件が発生したのかしら?」
「近頃の出来事なのですがね…古寺に展示された数体の仏像が深夜帯に自発的に動き出すとの目撃情報を現場の住職達から入手したのですよ…」
近頃は東大寺の内部に展示された仏像の数体が動き出すとの噂話が各地に出回り始め…。住職達は真夜中に動き出す仏像に戦慄したのである。
「真夜中に東大寺の仏像が勝手に身動きするのね…」
「非常に信じ難い内容なのかも知れませんが…今回の超常現象も前回の亡霊菊人形と同様に神出鬼没の悪霊の仕業なのでしょうか?桜花姫様?」
八正道が恐る恐る問い掛けると桜花姫は一息する。
「器物の仏像が動き出すのは十中八九…神出鬼没の悪霊の仕業でしょうね!」
桜花姫は動き出す仏像が悪霊の仕業であると予測したのである。
「やっぱり悪霊でしたか…ですが神聖なる仏様の仏像に極悪非道の悪霊が憑霊するなんて言語道断ですよ!絶対に許容出来ませんね!」
八正道は住職の一員であり今回ばかりは非常に腹立たしくなる。
「桜花姫様!貴女の絶大なる妖術で…神聖なる仏様に憑霊した極悪非道の悪霊を退治出来ないでしょうか?」
今回の怪異事件は桜花姫にとって非常に好都合であり満面の笑顔で断言する。
「仏像に憑霊した悪霊は私が仕留めるわ!安心してね!八正道様!」
「桜花姫様!極悪非道の悪霊を徹底的に撃退して下さいね!」
「勿論よ!」
すると八正道はとある代物を桜花姫に手渡したのである。
「桜花姫様…此奴は予備用の小道具です…」
「小道具ですって?一体何かしら?」
「今回の悪霊退治に役立つかも知れません…」
桜花姫は手渡された代物に注目する。

第三十二話

仏像
同日の深夜帯…。桜花姫は目的地である天王山の頂上に聳え立つ東大寺へと到達したのである。
「如何やら此処が問題の東大寺みたいね…」
『此処では悪霊特有の霊気は感じられないけれど…』
問題とされる東大寺の内部より一瞬だが…。
「えっ?」
『殺気みたいだけど…複数だわ…』
内部から複数の殺気を感じる。
『一体何かしら?』
桜花姫は複数の殺気に身震いしたのである。
『兎にも角にも…東大寺の内部に潜入しましょう…』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る東大寺の内部へと潜入する。東大寺の内部は非常に物静かな場所であり全体的に神秘的である。
『やっぱり神秘的ね…』
東大寺の内部には数十体もの多種多様の仏像が確認出来る。
『此処は仏像の博物館みたいね…』
桜花姫は基本的に能面やら特定の人物の彫像は苦手なのだが…。意外にも仏像は平気だったのである。桜花姫は内部に展示された数体の仏像に接触する。
『意外だわ…東大寺の仏像って木彫なのね…』
周囲の仏像は樹体から彫刻された代物だったのである。
『仏像を見物するのは悪霊事件が解決してからよ!一先ずは元凶の探索を優先しないとね!』
桜花姫は東大寺内部を一部始終探索するのだが…。
「はぁ…」
悪霊特有の霊気らしい霊気は感じられない。
『仏像…当然だけど身動きしないわね…』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る数体の仏像に接触する。
『どれも普通の仏像よね?』
展示された仏像は何一つとして変化は皆無であり微動した様子は確認出来ない。
『仏像…今夜は身動きしないのかしら?』
仏像に変化は皆無であり桜花姫は内心落胆する。
「はぁ…」
『残念だけど今夜は出直しかしら?』
桜花姫は外部へと戻ろうかと思いきや…。
「えっ…」
背後より僅少の物音が響き渡る。
「物音!?」
『一体何かしら?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を直視するのだが…。
「えっ?」
変化は皆無であり仏像が動作した様子は何一つとして確認出来ない。
『可笑しいわね…先程の物音は何だったのかしら?』
再度前方を直視した直後…。
「きゃっ!」
前方の直前より千手観音の仏像が自身の直前に存在したのである。
「えっ!?」
桜花姫は直前の千手観音に驚愕する。
『如何して千手観音の仏像がこんな場所に!?』
千手観音の仏像が身動きした様子は皆無だったのである。
『ひょっとして千手観音は本当に身動きしたのかしら?』
如何して自身の前方直前に千手観音の仏像が存在するのか理解出来ない。
『吃驚させないでよね…』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る千手観音の表面に接触する。
『此奴は何時の間にか身動きしたのかしら?』
桜花姫が何気無く千手観音の表面に接触した直後である。無表情だった千手観音の形相が変化し始め…。
「貴様は人間の小娘であるか?」
千手観音の仏像は目前の桜花姫を凝視したのである。
「えっ!?千手観音が喋った!?」
桜花姫は突如として人間の口言葉で発語し始めた千手観音の仏像から後退りする。
「あんたは一体何者なの!?」
『如何やら仏像が勝手に動き出すって噂話は本当だったみたいね…』
問い掛けられた千手観音の仏像であるが…。
「愚か者が…貴様こそ一体何者なのだ?余所者が無断で此処に潜入するとは不道徳であるな…」
千手観音の仏像は桜花姫に呆れ果てた様子で発言する。
「愚か者の小娘風情が…こんなにも神聖なる場所に潜入するとは…」
千手観音は侵入者である桜花姫を不愉快に感じる。
「非常に不愉快である…私は人間達には何一つとして手出ししなかったのだが…貴様は無抵抗の私に手出しするのか?」
千手観音は無表情で問い掛けると桜花姫は即答する。
「当然でしょう!何が無抵抗なのよ!?あんたは人畜無害の仏像に憑霊した神出鬼没の悪霊でしょうに!無抵抗でも神出鬼没の悪霊を仕留めるのが私の使命だからね!」
千手観音は悪霊征伐が使命であると断言する桜花姫に両目を発光させたのである。
「愚か者の小娘風情…貴様は私を仕留めるのが使命であるか…であれば私も極悪非道の貴様には容赦しないぞ!」
対する桜花姫も千手観音に挑発し始め…。
「私こそ容赦しないわよ!神出鬼没の悪霊は徹底的に浄化しないとね!」
桜花姫は早速目前の千手観音に変化の妖術を発動する。
「悪霊のあんたは…私の大好きな桜餅に変化しなさい!」
数秒間が経過するのだが…。
「えっ?」
『如何して千手観音は桜餅に変化しないのかしら?』
千手観音の仏像は桜餅に変化しない。
「貴様は外見のみなら人間の小娘風情みたいだが…如何やら貴様の正体は人外の妖女風情だったか…私には貴様程度の小細工は通用しないぞ!」
「ひょっとしてあんたの肉体は…」
桜花姫は桜餅に変化しない千手観音から恐る恐る後退りする。すると千手観音は無表情であったが…。不吉の笑顔で発言し始める。
「私の肉体は神聖なる造物主…妖星巨木で形作られた仏像であるからな…」
「やっぱりあんたの肉体は造物主の妖星巨木だったのね…あんたの正体は悪霊の【樹体千手観音】かしら?」
樹体千手観音とは妖星巨木の樹体から彫刻された千手観音の仏像に憑霊…。誕生した悪霊である。樹体千手観音も小面袋蜘蛛やら亡霊菊人形と同様…。列記とした器物の悪霊であり別名では仏像の付喪神とも呼称される。
「妖女の小娘風情…完膚なきまでに死滅せよ!」
樹体千手観音は所持した無数の刀剣で桜花姫を斬撃し始め…。
「ぎゃっ!」
桜花姫は樹体千手観音の神速の斬撃により一瞬で惨殺されたのである。
『瞬殺とは…妖女でも他愛無いな…所詮は口先だけか…』
樹体千手観音の斬撃によって木像の床面には桜花姫の鮮血が飛散…。
『薄汚い侵入者の妖女は仕留められたが…神聖なる聖域が極悪非道の妖女の鮮血で汚染されたのは非常に残念だ…』
樹体千手観音は無表情で飛散した桜花姫の鮮血を直視する。
『妖女の鮮血とは…非常に不愉快であるな…』
樹体千手観音は飛散した桜花姫の鮮血を不潔に感じる。
「ん?」
『此奴は…』
すると直後である。床面に飛散した鮮血は勿論…。床面に横たわった状態の桜花姫の遺体が白煙に覆い包まれる。
『何事だ?』
桜花姫の遺体は完膚なきまでに消滅する。
「妖女の肉体が完膚なきまでに消滅するとは…」
『一体何故だ?妖女の遺体は?』
樹体千手観音は周囲を警戒したのである。すると樹体千手観音の背後より…。
「残念だったわね♪樹体千手観音♪」
「貴様は先程の妖女の小娘風情か?」
樹体千手観音の背後には無傷の桜花姫が佇立する。
「先程の斬撃で無傷とは…貴様は分身の妖術を駆使したのだな…」
「無論ね♪」
樹体千手観音は警戒した様子で桜花姫に問い掛ける。
「妖女の小娘よ…貴様は一体何者なのだ?妖女は妖女でも…貴様は其処等の妖女とは別格みたいだな…」
樹体千手観音は本能的に桜花姫が異質的存在であると察知したのである。一方の桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「私の名前は桜花姫♪最上級妖女の月影桜花姫よ♪」
「貴様は最上級妖女…月影桜花姫か…」
樹体千手観音は再度桜花姫に警戒したのである。
『彼女が多種多様の悪霊を退治したとされる残虐非道の妖女であったか…彼女を相手に手加減は不要だな…』
樹体千手観音は桜花姫を相手に手加減は不要であると判断…。突如として樹体千手観音の両目が発光し始める。
「えっ…」
『樹体千手観音の両目が発光したわ…』
桜花姫は樹体千手観音の両目に警戒する。
「月影桜花姫とやら…完膚なきまでに死去せよ!」
樹体千手観音は両目の瞳孔より高熱の殺人光線を射出したのである。一方の桜花姫は妖力の防壁を発動…。樹体千手観音の殺人光線を無力化したのである。
「危機一髪だったわ…」
「月影桜花姫とやら…私の攻撃を無力化するとは…」
「私は最上級妖女だからね♪簡単には仕留められないわよ♪」
桜花姫は余裕の表情であるが…。
『如何しましょう?如何やら樹体千手観音には妖力は通用しないし…秘密道具を使用する以外に選択肢は無さそうね…』
秘密道具とは帰宅直前に八正道から譲与された秘密兵器だったのである。吸収系統の悪霊対策として八正道から頂戴…。非常用として隠し持ったのである。
『私の性質上…武器を使用するのは非常に不適当だけど…樹体千手観音が相手なら止むを得ないわね!』
桜花姫は神出鬼没の悪霊を相手に武器の使用は不本意であるが…。今回ばかりは非常用である秘密道具の使用を決意する。
「今回ばかりは仕方ないわ!」
桜花姫は隠し持った秘密道具を携帯したのである。
「ん?貴様は…爆弾を隠し持ったとは…」
樹体千手観音は桜花姫の携帯した秘密道具に注目する。
「此奴は妖術が通用しないあんたを仕留められる最強の秘密兵器なのよ!」
「私を仕留められる最強の秘密兵器だと?」
桜花姫が隠し持った秘密道具とは小型の手榴弾だったのである。
『導火線に着火させないと!』
桜花姫の火炎の妖術で手榴弾の導火線に着火し始め…。
「樹体千手観音!あんたは覚悟なさい!」
樹体千手観音に手榴弾を力一杯投擲したのである。
「ん?」
手榴弾は樹体千手観音の目前より爆散…。樹体千手観音の身体髪膚は手榴弾の爆散によって粉砕されたのである。
『秘密道具で樹体千手観音を仕留められたわね♪案外楽勝だったわ♪』
秘密兵器の手榴弾で樹体千手観音を仕留められ…。桜花姫は一安心する。
『今回の怪異事件は解決出来たし♪私は西国に戻ろうかしら♪』
一安心した桜花姫は西国の村里へと戻ろうかと思いきや…。
「えっ?」
背後より物音が響き渡る。
『今度は何かしら?』
背後には無数の仏像が存在する。
『如何やら怪異事件は未解決みたいね…』
桜花姫は再度警戒したのである。
『樹体千手観音以外に標的が存在するなんてね…』
すると自身の背後に設置された毘沙門天の仏像が両目を開眼したかと思いきや…。動き始める。
『別の仏像が動き始めたわ…今度は何が出現したのかしら?』
毘沙門天の仏像は桜花姫に接近したのである。毘沙門天の仏像は一際巨体であり鬼神の形相で侵入者の桜花姫を敵対視し始め…。
「貴様は小娘の分際で…私の同胞を惨殺するとは非常に罪深いな!」
毘沙門天の仏像は先程の樹体千手観音と同様に人語で発言したのである。
「同胞ですって?樹体千手観音かしら?」
桜花姫は毘沙門天の仏像に問い掛けると毘沙門天の仏像は即答する。
「無論である!」
桜花姫は恐る恐る後退り…。
「あんたは【樹体毘沙門天】ね…」
樹体毘沙門天とは先程仕留めた樹体千手観音の亜種である。樹体毘沙門天も樹体千手観音と同様に妖星巨木の樹体から彫刻された仏像の一体とされる。樹体毘沙門天の特徴として右手には金無垢の宝塔…。左手に金剛石の三叉戟を所持する巨体の武神木像である。
『樹体毘沙門天…樹体千手観音と同様に霊気は感じられないけれど…』
樹体毘沙門天も樹体千手観音と同様に器物の悪霊であり悪霊特有の霊気は感じられないが…。
「私の同胞を惨殺した貴様は絶対的に許容出来ない!」
樹体毘沙門天は対峙するだけで敵対者に対する殺気が痛感させられる。
「極悪非道の存在である貴様は完膚なきまでに死滅すべし!」
樹体毘沙門天は右手に所持した金無垢の宝塔から微細の破壊光線を射出する。一方の桜花姫は妖力の防壁を発動…。金無垢の宝塔から射出された破壊光線を無力化したのである。妖力の防壁に直撃した破壊光線は室内の周辺に拡散されたと同時に…。周囲に破壊光線が直撃した部分は粉状に崩れ落ちる。
『樹体毘沙門天の破壊光線は物質に直撃すると粉化するのね…』
妖力の防壁を発動しなければ自身の肉体が粉化…。分解されるのは明白である。
『樹体毘沙門天の破壊光線は危険ね…』
桜花姫は樹体毘沙門天の破壊光線に警戒する。
「私の破壊光線は直撃すればあらゆる物体を粉状に分解させられるのだ!先程は結界で私の破壊光線を無力化出来たが…貴様の妖力が消耗するのは時間の問題だぞ!」
樹体毘沙門天の破壊光線は直撃すれば万物を粉状に分解させられる。先程は妖力の防壁で無力化には成功したものの…。
『恐らく樹体毘沙門天の肉体も妖星巨木の一部でしょうし妖術は通用しないわよね…予備用の手榴弾は樹体千手観音に使用しちゃったし…』
樹体毘沙門天は妖星巨木から誕生した器物の悪霊であり妖術を発動しても妖力を吸収されるのは明白である。
『如何しましょう?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りする。
「貴様は私から逃亡するのか?今更逃亡したとしても小娘は私の同胞を殺害したのは列記とした事実であるからな!貴様の重罪は免除出来ないぞ!」
樹体毘沙門天は一歩ずつ桜花姫に近寄る。
『止むを得ないわね…一か八かよ!』
桜花姫は不本意であるが…。一目散に外部へと逃走したのである。
『妖女の小娘は私から逃亡するとは…』
樹体毘沙門天は逃走中の桜花姫を追撃する。

最終話

秘術
桜花姫は東大寺近辺の自然林へと移動したのである。
『一先ず脱出は成功ね!』
桜花姫は恐る恐る周辺を警戒する。
『樹体毘沙門天は?』
警戒してより数秒後…。自身の背後より先程出現した樹体毘沙門天が追撃したのである。樹体毘沙門天は無表情で桜花姫を凝視する。
「あんたは樹体毘沙門天…」
「貴様はこんな場所に逃亡して如何するのだ?極度の恐怖心で逃亡したのか?」
樹体毘沙門天が問い掛けると桜花姫は満面の笑顔で即答したのである。
「私が神出鬼没の悪霊を相手に恐怖心ですって♪冗談かしら?東大寺の内部で大暴れすれば無関係の仏像を破壊しちゃうでしょう!私は仏像の紛い物であるあんたを外部に誘い込んだのよ!」
「妖女の小娘は意図的に私を誘導させるとは!何方にせよ…貴様が死滅するのは確定なのだが…」
「死滅するのは紛い物のあんたよ!樹体毘沙門天!」
「妖女の小娘は随分と余裕だな…高火力の爆弾でも駆使出来れば私を攻略出来たのかも知れないが…奥の手の爆弾が無くなった状態では私は仕留められない!貴様は覚悟するのだな!」
樹体毘沙門天の指摘は図星であるが…。桜花姫は平常心だったのである。
「ん?貴様は爆弾以外にも奥の手が?」
桜花姫の平常心に樹体毘沙門天も警戒し始める。
「私の奥の手は…」
『一か八かだけど…此処で樹体毘沙門天を仕留めるには…』
桜花姫は妖力とは別物の神通力を発動させる。
「樹体毘沙門天に憑霊した悪霊を排除するわ!」
両手より虹色の光線を樹体毘沙門天に照射させたのである。
「なっ!?貴様!?神通力だと!?」
樹体毘沙門天は虹色の光線に直撃した直後…。
「ぐっ!貴様…」
樹体毘沙門天の霊気が浄化されたのである。
『私の霊気が…小娘の神通力により浄化される…』
霊気の浄化により樹体毘沙門天は弱体化し始める。
「樹体毘沙門天!完全に成仏なさい!」
「私が…」
『こんな妖女の小娘風情を相手に浄化されるとは…』
数秒間が経過すると樹体毘沙門天は元通りの毘沙門天の仏像に戻ったのである。
『樹体毘沙門天は元通りの仏像に戻れたみたいね…』
桜花姫は一安心する。
「はぁ…はぁ…限界だわ…」
『日輪天光は体力的にも消耗が桁外れなのよね…』
今回強敵の樹体毘沙門天に使用したのは妖星巨木との戦闘で使用した秘術…。日輪天光だったのである。
「えっ…はぁ…」
桜花姫は精神的にも肉体的にも疲労困憊状態であり地面に横たわる。極度の睡魔により地べたで熟睡したのである。
『眠気が…』
翌朝の早朝…。桜花姫は目覚めたのである。
「えっ…私は?」
昨夜の出来事を想起する。
『私は樹体千手観音と樹体毘沙門天との戦闘で疲れ果てたのよね…』
桜花姫は自宅へと戻ろうかと思いきや…。
『折角だし一仕事しないとね!』
桜花姫は再度東大寺へと戻ったのである。
『口寄せの妖術で元通りに戻さないと…』
口寄せの妖術を使用すると昨夜の戦闘により破壊された数多くの仏像は勿論…。樹体千手観音と樹体毘沙門天に変化させられた二体の仏像を元通りの状態に戻したのである。
『大切に扱えば樹体千手観音と樹体毘沙門天の霊気は浄化されるでしょうね…』
桜花姫は一仕事すると西国の村里へと帰還する。
完結

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