桜花姫神話第四部後篇
拠点
第四部
後篇
第一話
大地獄
天狐如夜叉の発動した口寄せの神術により強制的に地獄の世界へと幽閉された月影桜花姫は気絶した状態で地面に横たわったのである。天狐如夜叉の神力によって地獄の世界に幽閉されてから数分後…。
「えっ…」
桜花姫は意識が戻ったのである。
『何かしら?此処って…』
目覚めた直後…。
「えっ!?」
桜花姫は周辺の光景を直視するとハッとした表情で驚愕したのである。
『一体全体何が!?』
周辺を眺望すると地上全域が灼熱の火山地帯であり清涼の森林やら海水は何一つとして確認出来ない。空気も非常に重苦しく全体的に殺伐とした場所である。
『空気は重苦しいし…此処は随分と殺伐とした場所ね…』
「ひょっとして本物の地獄の世界なのかしら?」
桜花姫は自分が存在する世界が地獄の世界であると認識する。
『此処が地獄の世界であれば…私は本当に死んじゃったのかしら?』
自身の生死こそ不明瞭であるが…。
『こんな場合こそ!』
桜花姫は両目を瞑目させる。
『駄目だわ…天道天眼が発動されないわね…』
「やっぱり天道天眼は…天狐如夜叉に強奪されちゃったのね…」
桜花姫は絶望する。
『私は…今迄…』
十八番の天道天眼を使用出来ず…。桜花姫は極度の恐怖心からか全身が身震いしたのである。
『妖術が使用出来なくなるなんて…』
今迄は天道天眼の乱用により天下無敵の気分であったが…。天道天眼を無くした今現在では自分自身の非力さに絶望する。
『私は今後…他者に踏み躙られるのかしら?』
今迄は妖術が使用出来なくなるとは想像も出来なかったのである。
『私は今後…如何すれば?』
すると周囲より…。
「えっ?」
周囲をキョロキョロさせると自身の周囲には数体の悪食餓鬼が出現したのである。
『彼等は悪食餓鬼!?』
十八番の天道天眼を発動出来れば桜花姫にとって大喜びの光景なのだが…。
『こんな状態では悪霊に対抗出来ないわ…』
妖術を何一つとして使用出来ない非力の状態では脆弱の悪食餓鬼ですらも脅威に感じられる。
『悪食餓鬼を相手に…』
「止むを得ないわね…」
桜花姫は非力である自身に落涙するものの…。
『逃げないと悪霊に食い殺されちゃうわ!』
桜花姫は一目散に逃走したのである。
『岩陰だわ!』
桜花姫は四百メートルもの長距離より岩陰を発見すると岩陰にて潜伏する。
「はぁ…はぁ…」
『今後は如何しましょう?悪霊に追撃されるし此処は最悪ね…』
岩陰で一休みした桜花姫であるが…。
『妖術が無くなっただけで…こんなにも苦悩させられるなんて…』
桜花姫にとって最大の武器であった妖術を使用出来ず今後は如何するべきなのか苦悩したのである。
「はぁ…」
一息した直後…。
「えっ…」
『気配だわ…』
周囲の地中より無数の気配を感じる。
『無数の霊気かしら?』
桜花姫の感じる気配とは悪霊特有の霊気であり悪食餓鬼よりも強大である。
『悪食餓鬼とは別物だわ…』
桜花姫は霊気に警戒する。
『一体何が出現するのかしら?』
霊気に警戒し始めてから数秒後…。近辺の地面より無数の悪食餓鬼が一体化した百鬼悪食餓鬼が五体も出現したのである。
「今度は百鬼悪食餓鬼!?」
『五体も!?』
桜花姫は五体もの百鬼悪食餓鬼の出現に極度の恐怖心を感じる。実質天道天眼を所持しない状態では通常の悪食餓鬼さえも仕留められず…。悪食餓鬼の上位互換であり親玉である百鬼悪食餓鬼を仕留めるのは確実に不可能である。
『天道天眼が無くなった状態では百鬼悪食餓鬼を仕留めるのは不可能だわ…』
桜花姫はビクビクした様子で…。
『万事休すね…如何しましょう?』
地面から出現した五体もの百鬼悪食餓鬼から後退りし始める。非力の状態では彼等に食い殺されるのは必須である。
『今日が私の命日なのね…』
桜花姫は最期を覚悟した直後…。
「ん?」
突如として自身の右腕がモゴモゴッと蠢動し始めたのである。
「えっ…一体何が?」
桜花姫はモゴモゴッと蠢動し始めた右腕に気味悪くなる。
「私の…右腕が…」
『現実なの?』
右腕が蠢動し始めてから数秒後である。
「げっ!?」
『右腕から触手!?』
桜花姫の右腕から無数の蛸足らしき触手が出現し始め…。接近中の五体もの百鬼悪食餓鬼を拘束したのである。
『如何して私の右腕から…触手が?』
桜花姫は自身の右腕から出現した無数の触手に気味悪くなる。
『此奴はひょっとして…ウィプセラスの触手かしら?』
右腕より出現した触手とは人工性妖女ウィプセラスの肉体の一部だったのである。桜花姫は一週間前に人工性妖女ウィプセラスとの戦闘でウィプセラスの肉体と同化した結果…。皮肉にもウィプセラスの肉体を吸収した影響で本能的にウィプセラスの特殊能力が発動されたのである。桜花姫は不本意であるが触手で拘束した五体もの百鬼悪食餓鬼の肉体を覆い包み…。五体の百鬼悪食餓鬼を自身の体内へと吸収したのである。
「はぁ…」
『ウィプセラスみたいで気味悪いわ…』
桜花姫は自分自身の意思で悪霊を吸収するが自身の肉体の変化にドン引きする。
「私は…如何しちゃったのかしら?」
『正直気味悪いけれど…』
不本意であるがウィプセラスの特異能力を受容…。
「不本意だけど…」
『天道天眼を使用出来ないのであればウィプセラスの触手も止むを得ないわね…』
覚悟した桜花姫は再度行動を開始したのである。
第二話
鬼神
行動を再開し始めてから五分後…。
『甲冑の人骨だわ…』
今度は全身に鎧兜を装備した巨体の人骨と遭遇したのである。
『此奴は戦死者達の悪霊…骸骨荒武者だったわね…』
骸骨荒武者とは戦乱時代に戦死した戦死者達の無念の集合体とされ左手には重厚なる金砕棒を所持する。
『骸骨荒武者が出現するなんてね…』
骸骨荒武者は鈍足の身動きで桜花姫に接近したのである。
『相手が誰であろうと…』
桜花姫は体内から触手を生成させる直前…。
「えっ!?」
骸骨荒武者は背後から何者かの攻撃によりバラバラに粉砕されたのである。
『一体何が!?』
桜花姫の目前には右手に雷光の刀剣を所持した小柄の武士が佇立する。
『武士だわ…一体何者かしら?』
正体不明の武士とは鬼神を連想される甲冑を装備…。無表情で目前の桜花姫を凝視したのである。
「こんなにも殺伐とした場所で…貴様みたいなか弱き小娘が落下するとは非常に不運だったな…」
「はっ?何が不運なのよ?」
桜花姫は腹立たしくなったのか正体不明の武士の発言にムッとし始める。
「貴様はか弱き女子の外見とは裏腹に…相当の大悪人みたいだな…」
「なっ!?」
桜花姫は武士の大悪人の一言に反応したのかピリピリしたのである。
『此奴…』
「地上世界の女神様である私を大悪人ですって!?」
桜花姫は力強く睥睨した表情で武士に怒号し始める。
「小娘は相当の短気だな…基本的に地獄の世界には悪党しか存在しないからな…貴様自身も相当の大悪人なのだろう?」
桜花姫は武士の発言に再度苛立ったのか小声で…。
「あんたは…私に殺されたいのかしら?あんたは相当の命知らずみたいね…」
すると武士は無表情で返答したのである。
「貴様に殺されるも何も…所詮俺は亡者の身分だからな…俗界では二度も絶命させられた極悪非道の荒武者なのだぞ…」
「えっ?あんたは二度も絶命させられたって?」
『此奴は…亡者なのは確実だけど…其処等の悪霊とは随分異質的だわ…』
亡者の武士は今迄出現した悪霊と比較すると非常に人間らしく理性的であり桜花姫は意外に感じる。
『今迄に遭遇した奴等と比較すると非常に人間っぽい雰囲気ね…世の中にはこんな悪霊も存在するのね…』
桜花姫は恐る恐る亡者の武士に問い掛ける。
「あんたは亡者みたいだけど理性的ね…一体何者なの?あんたの名前は?」
すると武士は即座に名前を名乗り始める。
「俺は…北国最強の鬼神だった…月影幽鬼王だ…」
「えっ!?あんたは月影幽鬼王ですって!?」
桜花姫は幽鬼王の名前に驚愕したのである。
『月影幽鬼王って…』
「あんたは戦乱時代に大活躍した…北国の武士だったわよね?」
「勿論だ…」
月影幽鬼王とは戦乱時代に大活躍した武士の一人…。幽鬼王は北国出身者であり月影一族総本家の一人である。生前の幽鬼王は数多くの悪逆非道の愚行によって今現在では史上最悪の大悪党として熟知され…。大勢の大衆からは嫌悪されたのである。
「こんなにも殺伐とした場所で本物の月影幽鬼王と遭遇しちゃうなんて…」
桜花姫は幽鬼王との遭遇に冷や冷やし始める。
「歴史学では…生前のあんたは極悪非道の大悪党だったって…」
「俺が史上最悪の大悪党か…妥当だろうな…」
大衆からは極悪非道の大悪党として扱われる幽鬼王であるが…。彼自身は特段気にならなかったのである。
「生前当時の俺は兎にも角にも誰かを打っ殺したかったからな…俗界の愚民達が俺を大悪人だの極悪非道だの扱おうが構わんさ…俺は大悪党で上等だ…」
「大悪党で上等って…」
『彼も相当の異端者だわ…地獄の世界でこんな大悪党と遭遇するなんて…私は人一倍不運なのかも知れないわね…』
正直桜花姫は幽鬼王との遭遇に面倒臭いと感じる。
「貴様は…」
すると幽鬼王は桜花姫に小声でボソッと発言する。
「二度目に俺を打っ殺した天女の小娘…彼女と瓜二つだな…」
桜花姫は幽鬼王の天女の一言に反応したのである。
「えっ…天女の小娘ですって?」
『天女の小娘なんて一体誰なのかしら?』
幽鬼王は険悪化した表情で…。
「桃子姫って…名前の天女の小娘だったか?貴様は雰囲気だけなら天女の桃子姫に瓜二つだな…」
「桃子姫って…」
『元祖妖女だったわね!』
桜花姫は桃子姫の名前を傾聴すると内心大喜びしたのである。
『最初は吃驚しちゃったけれど…私の前世が元祖妖女なのは正直意外だったわ!』
自身の前世に大喜びし始めた桜花姫であるが…。
「当然として貴様と桃子姫では性格は似ても似つかないか…桃子姫は少なくともじゃじゃ馬の貴様よりは気弱で上品そうだったからな…」
「えっ?」
桜花姫は幽鬼王の発言にピクッと反応したのである。
「貴様の印象は好戦的で強欲そうな雰囲気…正真正銘のじゃじゃ馬だな…」
「なっ!?あんたね!」
『女神様の私をじゃじゃ馬なんて失礼ね!此奴は腹立たしい武人だわ!』
桜花姫は幽鬼王の失言にピリピリし始める。
「地上世界の女神様である私にじゃじゃ馬ですって!?あんたは何様かしら!?」
変化の妖術を使用出来るのであれば即刻幽鬼王に駆使したいのだが…。
『月影幽鬼王…妖術さえ使用出来れば!こんな武人の悪霊なんて簡単に仕留められちゃうのに!』
桜花姫にとって最大の十八番である天道天眼が使用出来ないので当然変化の妖術も使用出来ず桜花姫は余計に苛立ったのである。
「貴様みたいなじゃじゃ馬の小娘が自身を地上世界の女神様を自称するとは…片腹痛いぜ…」
幽鬼王は自身を地上世界の女神様と自称する桜花姫を揶揄する。
「ぐっ…あんたね!」
『神族の天狐如夜叉から天道天眼を奪還したら…今度こそあんたを桜餅として食い殺すから覚悟しなさいよ!月影幽鬼王!』
幽鬼王に反論出来ず苛立った桜花姫であるが…。一息したのである。
「幽鬼王?」
桜花姫は不安そうな表情で恐る恐る幽鬼王に問い掛ける。
「結局私って…死んじゃったの?」
桜花姫の問い掛けに幽鬼王は即答する。
「貴様の生死だと?残念だが…今現在の貴様の肉体は生者の肉体だな…」
「えっ!?」
『生者の肉体ですって…』
桜花姫は衝撃の事実に一瞬驚愕するものの…。
『私は無事なのね!心配しなくても大丈夫みたいね!』
桜花姫はホッとしたのである。
「今現在の貴様は所謂仮死状態なのだ…」
「仮死状態なら私は俗界に戻れるのね!」
僅少であるが…。希望が芽生え始める。
「私は即刻地獄の世界から脱出しないと!」
『俗界に戻って思う存分に熟睡するわよ!』
桜花姫は地獄の世界からの脱出を決意したのである。
「貴様は俗界に戻りたければ…地獄の石門に移動するのだな…」
「地獄の石門ですって?何かしら?」
「地獄の石門は…」
地獄の石門とは俗界と黄泉の世界との境目であり完全なる死者は通過出来ないが仮死状態の生命体は勿論…。生者であれば地獄の石門を通過出来るとされる。
「地獄の石門って場所を通過しちゃえば…私は俗界に戻れちゃうのね!早速地獄の石門に移動しましょう!」
桜花姫はルンルンの気分であるが…。
「地獄の石門を突破するには石門の門番…地獄朧車って門番の上級悪霊を仕留めなければ地獄の石門へは通過出来ないぞ…」
「えっ…地獄朧車ですって?」
地獄朧車とは悪霊の一体であり俗界では上級の悪霊として認識される。上級悪霊の地獄朧車は其処等の悪霊とは別格であり屈強である。天道天眼を所持しない状態では悪戦苦闘は確実…。場合によっては悪戦苦闘による敗死の可能性も否定出来ない。
『地獄朧車って…悪霊は悪霊でも屈指の上級悪霊だったわよね?妖術を駆使出来ない私に強豪の地獄朧車を攻略出来るのかしら?』
桜花姫は妖術を駆使しないで上級悪霊の地獄朧車を仕留められるのか非常に不安がる。恐る恐る幽鬼王を凝視したのである。
『月影幽鬼王…正直…此奴も今一信用出来ないのよね…大悪党だし…』
正直幽鬼王は戦乱時代の大悪党であり先程の情報源は非常に胡散臭いと感じる。すると幽鬼王はギロッとした表情で桜花姫を睥睨し始める。
「小娘よ…貴様は俺を信用出来ないか?」
「げっ!」
幽鬼王が問い掛けると桜花姫はビクッと反応したのである。
「貴様の表情…如何やら図星みたいだが…こんな見ず知らずの亡者の助言を信用するのは無理だろうな…」
桜花姫はボソッと一言…。
「悪いけれどあんたは極悪非道の大悪人だし…私は正直…亡者のあんたを信用したくても信用出来ないのよね…」
幽鬼王は桜花姫の本音に無表情で返答する。
「別に貴様が俺を信用せずとも構わんが…門番の地獄朧車を仕留めなければ貴様は二度と俗界へは戻れなくなるぞ…いっその事未来永劫地獄の風景を満喫するか?時間が経過し続ければ貴様は否が応でも亡者達の仲間入りだぞ…」
「えっ…私が亡者達の仲間入りですって?」
桜花姫は幽鬼王の注目に動揺したのである。
「私は二度と俗界には戻れなくなるの?」
「嗚呼…何も行動しなければ戻れなくなるだろう…」
仮死状態であっても一定の時間が超過すれば俗界へは戻れなくなる。
「私は列記とした生者なのよ!こんな場所で亡者達の仲間入りなんて御免だわ!」
『仕方ないわね…一先ずは地獄の石門に移動しましょう!』
桜花姫は地獄の石門を目標に行動を開始したのである。
『妖女の小娘風情が…自力で地獄の世界から脱出出来るかな?』
幽鬼王は桜花姫の背中を凝視し続ける。すると直後…。
「久方振りだな!鬼神の月影幽鬼王!」
何者かが幽鬼王の背後より挨拶したのである。
「なっ!?貴様は…」
幽鬼王は何者かによる突然の挨拶に一瞬愕然とする。
「貴殿と再会するのは五百年前以来だな!幽鬼王…貴殿は元気そうだな!」
「誰かと思いきや…貴様は東国の軍神…夜桜崇徳王だったか!?」
背後から幽鬼王に挨拶した人物とは戦乱時代に活躍した武士の一人…。東国の軍神として各国の領主達から畏怖された夜桜崇徳王だったのである。
「如何して地獄の世界とは無縁の貴様がこんな場所に!?一体何が発生したのだ!?ひょっとして俺は幻覚を?」
崇徳王の姿形は若武者であるものの…。彼自身の肉体は霊体であり全身は半透明化した状態である。すると霊体の崇徳王は満面の笑顔で…。
「私は久方振りに大昔の好敵手に再会したくなったのだ!貴殿が元気そうで安心したよ!月影幽鬼王!」
崇徳王は満面の笑顔であり幽鬼王はピリピリしたのである。
「此奴は…気に入らない野郎だな…何が元気そうで安心したよって…」
苛立った様子の幽鬼王であるが…。一方の崇徳王は再度満面の笑顔で返答する。
「幽鬼王よ!貴殿は以前よりも穏健化したな!歓喜だぞ!」
「はっ!?」
幽鬼王は崇徳王の発言に怒号し始める。
「何が穏健化だ!五百年間が経過したとしても俺にとって貴様は打倒すべき怨敵であり誰よりも気に入らない人間だ!」
崇徳王に怒号した幽鬼王であるが…。崇徳王は満面の笑顔で返答したのである。
「五百年前の貴殿であれば…憎悪の対象である私に即刻復讐しただろうな!私に復讐するのであれば阿修羅武神の霊気だって再度利用するだろうよ!」
崇徳王の発言に幽鬼王はピクッと反応する。
「貴様は…今更こんな場所で亡者の俺に説教したいのか?」
五百年前の俗界での戦闘は幽鬼王にとって人生最大の黒歴史であり想起するだけでも腹立たしくなる。
「幽鬼王よ…先程の見ず知らずの少女が気になるのだろう?」
「なっ!?貴様…」
幽鬼王は再度ピクッと反応したのである。
「如何やら図星みたいだな!幽鬼王よ!」
「崇徳王…貴様はやっぱり気に入らないな…」
幽鬼王は崇徳王にピリピリする。
「幽鬼王よ…折角の機会だ!彼女の脱出に協力したら如何なのだ?本来彼女は俗界の生者であり…黄泉の地獄に存在するべき人間とは無縁の存在であろう…」
崇徳王は恐る恐る…。
「何よりも彼女は私の女房…桃子姫様と瓜二つなのだ…こんなにも殺伐とした場所で桃子姫様と瓜二つの少女を死なせたくない…」
すると霊体の崇徳王が消滅し始める。
「なっ!?崇徳王!?」
幽鬼王は崇徳王の指摘に腹立たしくなる。
『崇徳王の野郎…勝手に消滅しやがって…』
崇徳王の霊体が消滅してより数分後…。
『夜桜崇徳王…五百年間が経過しても彼奴は気に入らない野郎だな!』
幽鬼王は両目を瞑目させる。
『崇徳王の野郎…今更俺に対する至上命令か?』
崇徳王の指摘が気に入らなかったのか非常に腹立たしくなるものの…。
「ん?」
『突然視界が…』
一時的に自身の視界が白色化し始める。
『一体全体何が?』
突如として幽鬼王の視界全体が白色化した直後である。彼自身の脳裏から生前にて自身の恋人と両親を殺害された少女を斬首した光景は勿論…。怨敵である桃子姫やら小梅姫と交戦した光景が幽鬼王の脳裏に発現されたのである。
『此奴は俺の生前の…大昔の記憶なのか?如何して今更…生前の光景が?』
生前の記憶が発現され…。幽鬼王は困惑したのである。
『ひょっとして崇徳王の霊能力なのか?』
「畜生が…崇徳王の野郎…今更亡者の俺に如何しろと?」
先程の光景に影響されたのか桜花姫の様子が気になり始める。
『彼奴は…』
不本意であるが…。
『正直…崇徳王の野郎に服従するのは気に入らないが…』
幽鬼王は桜花姫の尾行を決意したのである。
「一か八かだが…暇潰しに妖女の小娘を地獄の世界から追放するべきか?」
『こんな場所で彼女に死なれても傍迷惑だからな…』
幽鬼王も行動を開始する。
第三話
石門
桜花姫が移動を開始し始めてから三十分が経過…。周辺の道中より無数の霊気を察知したのである。
「無数の霊気だわ…」
『ひょっとして地獄の悪霊かしら?』
桜花姫はソワソワした様子で周囲を警戒する。数秒間が経過すると周囲の地面より数十体…。数百体もの悪食餓鬼が出現したのである。
『彼等は悪食餓鬼かしら?』
無数の悪食餓鬼は物珍しい様子で桜花姫に殺到し始める。
「毎回…毎回鬱陶しい奴等ね!」
『相手が悪食餓鬼程度なら…今現在の私でも仕留められるかしら?』
桜花姫は両腕から無数の触手を生成し始め…。殺到する無数の悪食餓鬼を体内の触手で拘束したのである。
「折角だからあんた達の肉体!頂戴するわね!」
無数の触手で拘束した悪食餓鬼の全身を包み込み始め…。多数の悪食餓鬼諸共自身の体内へと吸収したのである。
『気味悪いけれど…ウィプセラスの特殊能力も案外役立つのね!』
ウィプセラスの特殊能力が便利であると感じる。移動し続けてより数分後…。
『石造りの城門?』
桜花姫は石造りの四十尺サイズの城門らしき巨大物体を発見する。
『ひょっとして此処が地獄の石門かしら?』
城門らしき石造りの物体とは目的地である地獄の石門だったのである。
「石門を通過出来れば…私は暑苦しい地獄の世界から無事に脱出出来るのね!」
『案外楽勝だったわ!』
桜花姫は楽勝であると感じるものの…。
「えっ…」
背後から強大なる霊気を感じる。
『霊気かしら?』
桜花姫は恐る恐る背後を警戒し始め…。
『此奴はひょっとして…石門の門番…』
桜花姫の背後には等身大サイズの巨大鬼首と巨大牛車が一体化した巨体の悪霊が出現…。巨体の悪霊はギロッとした鬼神の形相で桜花姫を睥睨し始める。
『此奴は上級悪霊の地獄朧車だわ…』
地獄朧車とは戦乱時代に斬首された武将達の無念の集合体である。霊気は通常の悪霊よりも桁外れに強力であり数多くの神出鬼没の悪霊では上級に君臨する上級悪霊の一体として知られる。
『如何やら地獄の石門に地獄朧車が出現するのは本当だったのね…』
以前南国の鬼面山に出現した地獄朧車は口寄せの妖術によって異世界に存在する巨大兵器を召喚…。口寄せした異世界の巨大兵器の使用によって強豪の地獄朧車には間一髪辛勝出来たのである。
「はぁ…面倒臭いわね…」
『如何しましょう?』
今回は十八番の天道天眼が使用出来ず…。自力で上級悪霊の地獄朧車を仕留めるのは確実に不可能である。
『門番の地獄朧車を仕留めないと…地獄の石門を突破出来ないのね…』
桜花姫は人一倍自身が災難であると感じる。すると地獄朧車の車体前方の巨大鬼首が人語で発語し始める。
「コムスメヨ!キサマハゾッカイノセイジャカ?イキテイルニンゲンガ…ヨミノジゴクニオチルトハ…キサマハカヨワイコムスメノブンザイデアリナガラ…マレニミルソウトウノワルダナ!」
「はっ?」
『此奴…』
桜花姫は地獄朧車の発言に全身がプルプルし始める。
「マアイイ!ドノミチキサマハ…ココデシヌ…ウンメイナノダカラナ!」
「何が運命よ!私はこんな場所では死なないわよ!」
桜花姫は地獄朧車の発言に否定したのである。
「ミノホドシラズナ…コムスメフゼイガ!キサマハコノママ…イキテカエレルトハオモウナヨ!ココデキサマヲ…ブッコロシテヤルゼ!」
地獄朧車は車体前方の巨大鬼首の口部を開口させる。
「コレデモ…クライヤガレ!ミノホドシラズノ…コムスメフゼイ!」
地獄朧車は口先から霊気で形作った高熱の火球を発射したのである。
『火球だわ…一か八かよ!』
地獄朧車の高熱の火球が直撃する直前…。桜花姫は両手から触手を生成させ高熱の火球を吸収したのである。
『ウィプセラスの触手って…悪霊の霊気も吸収出来るのね!』
「予想以上に便利だわ!ウィプセラスの特殊能力!」
ウィプセラスの吸収力は万能であり荒唐無稽の妖術やら神通力は勿論…。神出鬼没の悪霊の霊気さえも無力化出来る。
『ウィプセラスの特殊能力を駆使しちゃえば天道天眼が無くても地獄の石門を突破出来るかも知れないわね!』
桜花姫はウィプセラスの特殊能力により地獄の世界から脱出出来ると確信する。すると地獄朧車は再度口先を開口させる。
「オレノコウゲキヲ…ムリョクカシヤガルトハ!キサマハ…アクウンノツヨイ…オンナダナ…シカシ!キサマガワラッテイラレルノモ…ココマデダ!」
地獄朧車の口先より人工的に形作られた鋼鉄の大砲が出現したのである。
「えっ!?今度は大砲!?」
「コイツハオクノテダ!コノタイホウデ…キサマヲフットバシテヤルゼ!カクゴシヤガレ!ミノホドシラズノ…コムスメフゼイ!」
数秒後…。
『実弾なの!?』
鋼鉄の大砲から実弾の砲弾が発射されたのである。
『止むを得ないわね…今度こそ一か八かよ!』
桜花姫は触手で肉塊の防壁を生成するのだが…。
「きゃっ!」
実弾の砲弾により肉塊の防壁は容易に破壊され桜花姫は吹っ飛ばされたのである。
「ぐっ…」
吹っ飛ばされた影響で背後に位置する地獄の石門表面に激突…。桜花姫はグッタリとした状態で地面に横たわる。桜花姫は恐る恐る自身の両腕を直視したのである。
「えっ…」
体内の触手で硬化させた桜花姫の両腕は地獄朧車の砲撃により吹っ飛ばされ…。傷口からは大量の肉片と鮮血がドロドロと流れ出る。地面は桜花姫の肉片と鮮血により赤色に染色する。
『迂闊だったわ…両腕が破壊されちゃうなんて…』
先程の攻撃は通常の実弾による物理的攻撃である。荒唐無稽の霊気さえも吸収出来るウィプセラスの特殊能力が発揮出来ず…。容易に破壊されたのである。
「コンドコソトドメダ!コノママキサマヲ…ヒキコロシテヤル!カクゴシロ!」
地獄朧車は猛スピードで地面に横たわった状態の桜花姫に急接近し始める。一方の桜花姫は逃げたいのだが…。
『逃げたいけれど…こんな状態では…無理そうね…』
先程の砲撃によって両腕が吹っ飛ばされた悪影響で逃げたくても逃げられない。
『私は…俗界には戻れなくなるわ…結局私は亡者達の仲間入りなのね…』
桜花姫は俗界に戻れないと覚悟した直後…。
「ナンダト!?ギャッ!」
突如として地獄朧車が爆散したのである。
「えっ!?」
『何事なの!?』
桜花姫は突然の出来事にハッとした表情で愕然とする。
『一体何が発生したのかしら?』
「如何して地獄朧車は爆散したのよ?」
すると桜花姫の背後より…。
「えっ…あんたは?」
「こんな雑魚を相手に瀕死の状態とは…貴様は桃子姫よりも脆弱だな…」
「誰かと思いきや…あんたは月影幽鬼王!?」
桜花姫の背後に出現したのは先程遭遇した月影幽鬼王であり左手には携帯式の榴弾砲を装備する。
「如何して亡者のあんたが?生身の生者である私なんかを…あんたは悪霊の仲間でしょう?如何してあんたは同族の悪霊を仕留めたのかしら?」
幽鬼王はギロッとした表情で桜花姫を睥睨し始め…。
「えっ…何よ?幽鬼王…」
桜花姫は幽鬼王の表情に一瞬ドキッとする。
「こんな場所で生者の貴様に死なれちまうと非常に面倒だからな…恐らく貴様の死後は地獄の世界で確定だろうし…」
幽鬼王にとって死後の地獄の世界とは最高の楽園だったのである。生者の桜花姫が地獄の世界に滞留するのは勿論…。此処で活動されるのは目障りに感じる。
「私は…今度こそ俗界に戻れるのね!」
桜花姫は大喜びしたのである。
「感謝するわね!月影幽鬼王!私は…悪霊のあんたを誤解しちゃったわね!」
桜花姫は幽鬼王に感謝するのだが…。
「勘違いするなよ!妖女の小娘…俺にとって生身の生者は敵対者同然なのだ!所詮亡者と生者は相容れないのだからな!」
幽鬼王は桜花姫の発言を全否定する。
「貴様は鬱陶しい小娘だな…」
すると桜花姫は只管ニコッとした表情で…。
「神族の天狐如夜叉から天道天眼を無事奪還出来たら…月影幽鬼王!悪霊のあんたを本物の生者として復活させるわね!生者と死者が相容れないならあんたが生者として復活出来れば問題は解決でしょう!」
幽鬼王は桜花姫の発言にピクッと反応したのである。
「俺を生者として復活させると?残念だが俺は二度と俗界へは戻りたくないな…」
桜花姫は生者への復活を拒否した幽鬼王を意外であると感じる。
「えっ?折角生身の人間として俗界に戻れるのに勿体無いわね…あんたは俗界に戻りたくないの?正直居心地だけなら此処よりも最高よ!」
問い掛けられた幽鬼王は小声で即答する。
「俺にとって生身の肉体は非常に脆弱で不自由だ…最強を希求する俺には共存共栄の俗界は相応しくない…生身の肉体は寿命にも束縛されるからな…」
幽鬼王にとっては今現在の悪霊の肉体が大満足であり生身の人間として復活したくなかったのである。
「何よりも地獄の世界は悪霊の魔窟だ…地獄の世界であれば思う存分に無数の悪霊を仕留められるからな…地獄の世界は俺にとっての極楽浄土だ…」
すると桜花姫はニヤッと微笑み始める。
『私も寿命で旅立つなら退屈そうな極楽浄土の天国なんかよりも…殺伐とした地獄の世界に旅立ちたいわね!』
最初こそは絶望視したが…。桜花姫は地獄の世界に魅了されたのである。
『天国は退屈って印象だし…案外地獄の世界って想像するより面白いのかも知れないわね!』
すると直後…。
「何かしら?」
「地獄の石門が開門されたな…如何やら時間みたいだ…」
地獄の石門は生身の生者である桜花姫に反応すると自動的に開門したのである。
「地獄の石門が開門されたわ…私は俗界に戻れるのかしら?」
「地獄の石門が生身の生者である貴様に反応したみたいだ…地獄の石門を通過出来れば貴様は俗界に戻れるかも知れないぞ…」
桜花姫は満面の笑顔で…。
「達者でね!幽鬼王!」
「小娘…貴様は…」
「えっ…何よ?幽鬼王?」
幽鬼王は寂然とした様子であり恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「貴様の…名前は?」
「えっ…私の名前ですって?」
桜花姫は一瞬表情が赤面するものの…。満面の笑顔で名前を名乗る。
「私の名前は桜花姫!最上級妖女の…月影桜花姫よ!」
「貴様は最上級妖女の…月影桜花姫か…」
幽鬼王はボソッと小声で本音を口走る。
「桜花姫とやら…貴様が戦乱時代の人間で生前の俺と遭遇しちまったら…俺の人生は大分変化したのかも知れないな…」
『幽鬼王!』
桜花姫は幽鬼王の本音に内心嬉しくなる。
「勿論…私も一緒よ!月影幽鬼王!」
『私と桃子姫って…生誕した時代が真逆だったら私達は幸福だったのかしら?如何やら私達は生誕した時代を間違えちゃったみたいね…』
桜花姫は内心殺伐とした戦乱時代に羨望したのである。
「兎にも角にも…生者の貴様にとって本来の居場所は俗界なのだろう?即刻俗界に戻りやがれ…正直貴様は人一倍目障りだからな…」
桜花姫は満面の笑顔で返答する。
「勿論よ!御免あそばせ!」
桜花姫は恐る恐る地獄の石門を通過…。
「えっ…」
背後を直視すると地獄の石門が自動的に閉門されたのである。
『地獄の石門が閉門しちゃったわね…』
僅少であるが…。
『私は金輪際地獄の世界へは戻れなくなったのね…』
「地獄の世界も…私にとっては案外悪くないのかも知れないわ…」
桜花姫は内心寂然に感じる。
『俗界に戻らないと…八正道様とか小猫姫が心配するわよね…』
周辺を直視すると視界全体が漆黒の暗闇空間であり非常に不吉である。
『周辺は暗闇だわ…如何やら此処は生死の境界線みたいね…』
桜花姫は俗界に戻れるのか不安に感じる。
『私は…俗界に戻れるのかしら?』
すると数秒後…。
「えっ…」
突如として強烈なる眠気を感じる。
『眠気だわ…』
突然の眠気により桜花姫はパタッと地面に横たわり始め…。極度の疲労困憊からか衰弱化したのである。
『私の…意識が…』
生死の境界にて桜花姫の意識が喪失する。
第四話
危篤
一時的に死後の世界である黄泉の地獄に幽閉された桜花姫であるが…。地獄の住人である北国の鬼神月影幽鬼王の協力によって桜花姫は俗界と地獄の世界の境界線とされる地獄の石門を無事通過出来たのである。生死の境界とされる漆黒の空間にて衰弱化した桜花姫は自身の自宅にて目覚める。
「えっ…」
『私は?』
桜花姫は寝惚けた様子であり周囲を直視し始める。
『此処って…非常に馴染み深い光景ね…』
極度の安心感によりホッとしたのである。
「此処は私の…家屋敷だわ…」
『私は…地獄の世界から無事に脱出出来たのね!』
無事に殺伐とした地獄の世界から俗界に戻れたと実感出来…。桜花姫は大喜びしたのである。
『早速今回の出来事を誰かに自慢しちゃおうかしら!』
地獄の世界での出来事は滅多に体験出来ない出来事であり誰かに自慢したくなる。
『最初に自慢するなら…八正道様よね!』
すると直後である。何者かが自宅の板戸をトントンッとノックする。
「えっ?」
『誰かしら?』
桜花姫は恐る恐る玄関へと移動すると玄関口には粉雪妖女の雪美姫が自宅に訪問したのである。
「誰かと思いきや…あんたは粉雪妖女の雪美姫?私に用事かしら?」
「桜花姫…」
雪美姫は非常に深刻そうな表情で桜花姫を凝視する。
「桜花姫…大変なのよ…」
桜花姫は雪美姫の深刻そうな表情に一瞬ゾッとしたのである。
「えっ…何が大変なのよ?雪美姫?」
雪美姫は恐る恐る…。
「あんたの仲間…蛇体如夜叉って老婆の神族だったかしら?」
「えっ?蛇体如夜叉婆ちゃんが…何よ?雪美姫…」
桜花姫は蛇体如夜叉の名前にソワソワし始める。
「蛇体如夜叉…危篤状態らしいのよ…」
「えっ?蛇体如夜叉婆ちゃんが…危篤状態ですって?」
『蛇体如夜叉婆ちゃん…』
蛇体如夜叉は危篤状態であり今夜が山場だったのである。
「桜花姫…今直ぐ私と一緒に南国の村里に直行しましょう!」
「承知したわ!雪美姫!」
外出すると時間帯は深夜帯であり星空が眺望出来る。すると雪美姫が桜花姫の方向を直視し始める。
「桜花姫!あんたが三日間も留守だったから心配したのよ!」
「えっ?」
『三日間ですって?』
桜花姫は三日間も地獄の世界に滞在中だったのである。
『私って…三日間も地獄の世界に幽閉されたのね…』
別次元である地獄の世界での幽閉が影響したのか桜花姫は時間の感覚が麻痺する。
「桜花姫?随分疲れ果てた様子みたいだけれども…大丈夫なの?」
桜花姫は疲れ果てた様子であり雪美姫は心配したのである。
「心配しなくても私なら大丈夫よ!雪美姫!」
桜花姫は満面の笑顔で返答する。
『蛇体如夜叉婆ちゃん…』
内心では蛇体如夜叉の様子が気になりソワソワしたのである。
第五話
永眠
桜花姫と雪美姫は移動を移動を開始し始めてから二時間後…。二人は南国の村里に存在する天女の村里に到達したのである。
「南国の村里だわ…」
「蛇体如夜叉婆ちゃんの家屋敷は…」
真夜中の村内を移動し始めてから数分後…。桜花姫と雪美姫は蛇体如夜叉の自宅へと到着したのである。
「桜花姫姉ちゃん…」
「桜花姫様でしたか…」
蛇体如夜叉の自宅には八正道と小猫姫は勿論…。
「蛇体如夜叉婆ちゃんが…」
居室の中心部には衰弱化した状態の蛇体如夜叉が確認出来る。最早蛇体如夜叉は虫の息であり発語も不可能だったのである。
「桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は落涙した様子で桜花姫を直視する。
「小猫姫…」
桜花姫は恐る恐る小猫姫に近寄り始める。
「御免なさいね…三日間も留守しちゃって…」
小猫姫に謝罪したのである。
「大丈夫…大丈夫よ…気にしないで…桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は小声で返答する。
『小猫姫…』
桜花姫は涙腺より涙が零れ落ちる。
「蛇体如夜叉婆ちゃんは…」
衰弱化した蛇体如夜叉は最早両目を瞑目させ素肌も土気色の状態だったのである。桜花姫は蛇体如夜叉の変化に傷心する。
『蛇体如夜叉婆ちゃん…老衰かしら?』
桜花姫は恐る恐る蛇体如夜叉の土気色に変色した皮膚に接触したのである。
『蛇体如夜叉婆ちゃん…こんな状態では…』
桜花姫が蛇体如夜叉の皮膚に接触した直後…。蛇体如夜叉は全身の筋力がスーッと脱力したのである。
「えっ…蛇体如夜叉婆ちゃん…」
『蛇体如夜叉婆ちゃん…』
蛇体如夜叉は老衰により息絶える。
「蛇体如夜叉様は…老衰による自然死ですね…」
八正道は瞑目し始め…。両手で老衰した蛇体如夜叉に恐る恐る合掌したのである。一方沈黙状態の雪美姫は内心…。
『こんな発言は近親者の桜花姫と小猫姫には出来ないけれど…蛇体如夜叉の死に方は理想の死に方よね…出来るなら私自身も…』
不謹慎であるが雪美姫は蛇体如夜叉の死に方を理想の死に方であると感じる。すると直後である。
「えっ!?蛇体如夜叉婆ちゃん!?」
自然死した蛇体如夜叉の肉体が突如としてピカッと発光したかと思いきや…。蛇体如夜叉の全身が白色の白蛇に変化したのである。
「なっ!?蛇体如夜叉様が白蛇に!?一体何が!?」
「白蛇だわ…」
「蛇体如夜叉婆ちゃん?」
数秒後…。白色の白蛇は粒子状の発光体に変化すると消滅したのである。
「如何やら蛇体如夜叉様は天空世界に旅立たれたのでしょうね…」
八正道が発言すると雪美姫も発言する。
「最期に白蛇に変化するなんて摩訶不思議ね…一体何事だったのかしら?」
「本来…蛇体如夜叉婆ちゃんは白蛇の神族なのよ…白蛇こそが蛇体如夜叉婆ちゃんの本来の姿形なのよね…」
「蛇体如夜叉の正体は白蛇だったのね…」
すると桜花姫は恐る恐る小猫姫の様子を直視したのである。
『先程から小猫姫は無言だわ…一言も喋らないわね…』
先程から小猫姫は沈黙し続けた様子であり一言も喋らない。一時間は沈黙の空気であり誰しもが室内の重苦しい空気が気まずいと感じる。沈黙の一時間が経過してより数分後…。一同は無言で解散したのである。真夜中の帰宅中…。桜花姫は深夜帯の夜空を眺望したのである。
『蛇体如夜叉婆ちゃん…』
桜花姫は再度涙腺から涙が零れ落ちる。
『本当に死んじゃったのね…蛇体如夜叉婆ちゃん…二度と…』
蛇体如夜叉の家屋敷から退出してより一時間後…。桜花姫は無事に自宅へと戻ったのである。
「はぁ…」
桜花姫は自宅の居室にて寝転び始める。
『極度の倦怠感かしら?』
度重なる出来事からか桜花姫は精神的にも肉体的にも疲れ果てる。
『一先ず熟睡しちゃいましょう…』
桜花姫は睡眠したのである。
第六話
精霊
帰宅してから数時間が経過する。数時間熟睡し続けた桜花姫であるが…。
「えっ…」
摩訶不思議の気配により目覚める。
「何かしら?」
桜花姫は気配の正体が気になったのか恐る恐る外出する。
「無数の発光体だわ…」
周囲の空間には虹色の発光体が無数に浮遊した状態だったのである。
「一体何かしら?」
桜花姫は摩訶不思議の光景に愕然とする。すると今度は精霊故山から摩訶不思議の神通力を察知したのである。
「ひょっとして神通力かしら!?」
精霊故山の方角から神通力が感じられる。
「精霊故山の方向からね…移動しましょう!」
気になった桜花姫は即座に精霊故山へと直行する。精霊故山の天辺を直視すると天辺全体が虹色の発光により光り輝いたのである。
『精霊故山では一体何が発生したのかしら?』
自宅から移動し始めてから十数分後…。桜花姫は精霊故山の頂上へと到達する。精霊故山の頂上は非常に幻想的だったのである。
「えっ?」
精霊故山の頂上中心地には十五間サイズの巨大広葉樹が存在…。
『頂上の中央に…広葉樹だわ…』
聳え立つ巨大広葉樹の木枝には虹色の単葉やら果実が無数に確認出来る。桜花姫は一息すると恐る恐る…。
『ひょっとして広葉樹の正体は…妖星巨木かしら?』
精霊故山の頂上中心部に聳え立つ巨大樹木とは世界樹の妖星巨木だったのである。
『如何して世界樹の妖星巨木がこんな場所に?』
妖星巨木は突発的に出現する摩訶不思議の超自然的樹木とされるが…。突然の妖星巨木の出現に意味深さを感じる。すると突如として妖星巨木の樹木全体がピカッと虹色に発光したのである。
「きゃっ!」
突然の樹木の発光によって桜花姫は両目を力一杯瞑目させる。樹木が発光し始めてから数秒後…。
「えっ…」
桜花姫は恐る恐る両目を見開くと目前には小柄の巫女装束の女性が佇立する。
「あんたは…誰なの?」
巫女装束の女性は黒髪の長髪であり月影桜花姫と瓜二つの容姿だったのである。桜花姫は自身と瓜二つの女性に恐る恐る近寄る。
「姿形は巫女っぽいけれど…あんたは巫女の霊体かしら?」
巫女装束の女性の瞳孔は半透明の瑠璃色であり桜花姫は驚愕したのである。
「あんたは…一体何者なのよ?」
『彼女の両目…半透明の瑠璃色だわ…ひょっとして天道天眼かしら?ひょっとすると彼女も妖女なのかしら?』
巫女装束の女性は恐る恐る問い掛ける桜花姫に自身の名前を名乗り始める。
「姿形は元祖妖女の…桃子姫であるが…私自身は妖星巨木の精霊なのだ…」
「えっ…妖星巨木の精霊ですって?」
雰囲気こそ事件後の二年前以前とは若干変化したものの…。妖星巨木の精霊との遭遇は悪霊事件後の二年前以来である。
「あんたの容姿…元祖妖女の桃子姫だったのね…」
「桃子姫の死後…彼女の魂魄は樹体である私自身と同化したのだからな…」
「今現在の妖星巨木と桃子姫の魂魄は一心同体なのね…」
桜花姫は再度妖星巨木の精霊に問い掛ける。
「如何してあんたは精霊故山の頂上に出現したのよ?」
「最上級妖女の月影桜花姫よ…単刀直入に発言するが…」
すると妖星巨木の精霊は一息したのである。
「其方は天狐如夜叉と名乗る…神族の暴走を徹底的に阻止するのだ!」
「天狐如夜叉ですって!?」
桜花姫は天狐如夜叉の名前に反応する。
『彼女は私の天道天眼を奪取した神族の一人だったわよね?』
桜花姫は天狐如夜叉の名前に腹立たしくなる。
「私が天狐如夜叉の暴走を阻止ですって!?」
「天狐如夜叉は神族でも最強に部類される絶対的存在なのだ!今現在俗界で彼女を阻止出来るのは…恐らく最上級妖女である月影桜花姫!其方のみであろう!」
妖星巨木の精霊は桜花姫の実力を高評価するのだが…。
「残念ね…妖星巨木の精霊…」
「月影桜花姫?何が残念なのだ?」
桜花姫は落胆した様子で返答する。
「先日の出来事だけどさ…生憎私はね…天狐如夜叉って神族に天道天眼を奪取されちゃって…金輪際天道天眼を駆使出来なくなったのよ…」
桜花姫は困惑したのである。
「天狐如夜叉が其方の天道天眼を奪取されたのか?其方が天狐如夜叉に天道天眼が奪取されたのは本当なのか?月影桜花姫?」
妖星巨木の精霊は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「天道天眼が無くなった私では天狐如夜叉を阻止したくても阻止出来ないわよ…」
「非常に信じ難い内容であるな…邪霊餓狼を浄化させた最上級妖女の其方が天道天眼を奪取されるとは…」
妖星巨木の精霊は落胆する。
「残念だけど…今現在の私は何一つとして妖術が使用出来ない下級妖女なのよね…今現在の私は単なる役立たずの小娘風情なのよ…」
問い掛けられた桜花姫は困惑した表情で発言したのである。
「先程の内容が事実であるなら…地上世界は勿論…全世界の滅亡は絶対的に回避出来なくなるな…」
「全世界の滅亡ですって!?天狐如夜叉は一体何を!?」
桜花姫は愕然とした表情で恐る恐る妖星巨木の精霊に問い掛ける。
「天狐如夜叉は其方から奪取した天道天眼の効力で全世界に存在する下級種族を滅亡させ…恐らくは神族のみが君臨出来る神世界を創造するのだろう…」
本来天道天眼は神族でも最高神に分類される神族の所有物であり高等の神術である。神族でも最高神に分類する神族が神族の眼光…。所謂天道天眼を発動すると無限の森羅万象をも翻弄出来るとされる。
「如何すれば天狐如夜叉の野望を阻止出来るのよ?」
「止むを得ないな…此奴は最終手段であるぞ!」
「最終手段ですって?」
突如として妖星巨木の精霊の左手より虹色に発光し続ける摩訶不思議の果実が出現し始め…。
「虹色の果実だわ…一体何かしら?」
妖星巨木の精霊は桜花姫に虹色の果実を手渡したのである。
「妖星巨木の神聖なる果実だ…此奴は戦乱時代に元祖妖女である桃子姫が菜食した代物であるぞ!」
妖星巨木の果実を菜食した人間は妖力を所持出来るとされる。
「私の神聖なる果実を菜食すれば…妖女である其方は再度…神性妖術の天道天眼を開眼出来!下級妖女から一握りの最上級妖女に戻れるかも知れないぞ!」
「えっ…天道天眼を?」
桜花姫は緊張したのか一息する。
『妖星巨木の果実で…私は最上級妖女に戻れるのかしら?』
妖星巨木の精霊に手渡された虹色の果実を恐る恐る一口菜食したのである。
「えっ?」
直後…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「如何やら其方に天道天眼が戻ったみたいだな…」
「本当に!?」
肉体に妖力が戻ったのかは無感覚であったが…。
「私に天道天眼が戻ったのね!」
桜花姫は天道天眼の開眼に大喜びしたのである。
「えっ…」
天道天眼を開眼し始めてから数秒後…。
『体内から妖力が戻った感覚だわ…』
「やっぱり私に妖力が戻ったのね!」
桜花姫は天道天眼の開眼によって本来の妖力が戻ったと自覚出来たのである。
「余談であるが…此処で其方が衰弱死しなかったのは奇跡だ…」
「えっ?私が衰弱死ですって?何が奇跡なのよ?」
妖星巨木の精霊はボソッと一言…。
「基本的に私の果実を菜食した人間は…即刻衰弱死するのだ…」
「えっ!?」
桜花姫は精霊の一言に一瞬絶句したのである。
『衰弱死って…』
本来妖星巨木の果実とは別名禁断の果実として認知される。普通の人間が妖星巨木の果実を菜食した場合…。数秒間で衰弱死するとされる。誰しもが妖星巨木の果実によって妖力は所持出来ない。
「私と桃子姫があんたの果実で死ななかったのは…」
「所謂其方と桃子姫は運命的存在であり…最初から人外の妖女として覚醒すべき人間の小娘であっただけだ…」
「えっ…はぁ…」
『正直…私には何が何やらサッパリだわ…』
桜花姫は内心珍紛漢紛だったのである。
「兎にも角にも!私には天道天眼と本来の妖力が戻ったし!妖星巨木の精霊には感謝するわね!」
すると妖星巨木の精霊は真剣そうな表情で…。
「折角だが月影桜花姫よ…其方に対面したい人物が三人…存在するのだが…」
「えっ?三人も?」
『私に対面したい人物ですって?一体誰なのかしら?』
妖星巨木の精霊は自身の神通力で三体もの霊体を口寄せしたのである。桜花姫の背後より三人の半透明の人物が出現…。一方の桜花姫は警戒した様子で恐る恐る三人の霊体を直視したのである。
「えっ!?あんた達は…」
半透明の人物達とは老衰により死去した老婆の蛇体如夜叉と群青色の着物姿の女性が一人…。若齢の若武者が佇立したのである。
「あんたは蛇体如夜叉婆ちゃんと…母様!?若武者は誰かしら?」
桜花姫が問い掛けると妖星巨木の精霊が即答する。
「若武者は其方の実父…月影鉄鬼丸と名乗る人間の武士だぞ…」
「えっ…若武者のあんたが私の父様なのね…」
群青色の着物姿の女性とは桜花姫の実母…。月影春海姫であり若齢の若武者は父親の月影鉄鬼丸である。すると蛇体如夜叉は満面の笑顔で…。
「桜花姫ちゃん!あんたと再会出来て何よりだよ!元気そうだね!」
蛇体如夜叉は桜花姫との再会出来大喜びしたのである。
「蛇体如夜叉婆ちゃん…蛇体如夜叉婆ちゃんなのね…」
一方の桜花姫は蛇体如夜叉との再会に涙腺から涙が零れ落ちる。
「桜花姫ちゃんらしくないね…落涙しないの!今現在の私は自然界と一体化した超自然的存在だからね!」
蛇体如夜叉は老衰の影響により人間の老婆としての肉体は維持出来なくなったが…。蛇体如夜叉の魂魄は自然界の一部として一体化したのである。
「消滅したのは実体としての肉体だけだからね!あんまり悲観しないでね…桜花姫ちゃんよ!」
桜花姫は気まずそうな表情で…。
「蛇体如夜叉婆ちゃん…私自身は大丈夫だけど…問題なのは小猫姫なのよね…」
蛇体如夜叉は小猫姫の名前に一瞬不安に感じる。
「小猫姫…彼女はね…」
小猫姫は蛇体如夜叉の自然死により小猫姫の傷心は想像以上であると予想出来る。桜花姫も小猫姫を元気付けるには如何するべきなのか困惑したのである。
「小猫姫は人一倍純粋無垢だからね…当分は時間が必要不可欠だろうね…」
「私は彼女を…小猫姫を元気付けたいわ…元気付けたいけれど…」
桜花姫は意気消沈状態の小猫姫を元気付けたいと発言…。
「桜花姫ちゃん!彼女なら大丈夫だよ!」
一方の蛇体如夜叉は困惑した桜花姫に再度笑顔で返答したのである。
「えっ?何が大丈夫なのよ?蛇体如夜叉婆ちゃん?」
「時間が解決するからね!小猫姫には時間が必要不可欠だけどね…」
小猫姫の様子から現状では蛇体如夜叉の永眠から一時的に気力が消失…。小猫姫を元気付けるのは非常に困難であるものの時間が解決すると蛇体如夜叉は思考する。
『小猫姫は無理に元気付けないのが無難そうね…』
すると今度は母親の春海姫が笑顔で発言したのである。
「桜花姫…久し振りね!貴女が元気そうで安心したわ!」
「えっ…母様…」
桜花姫は春海姫との再会に気まずくなる。春海姫に恐る恐る…。
「御免なさい…母様…私は十八年前に母様を…」
恐る恐る謝罪した桜花姫であるが春海姫は満面の笑顔で返答する。
「気にしないで!桜花姫!」
「えっ…母様?私は妖力で母様を殺したのよ…気にしないなんて私には出来ないわよ!私は母様を殺した極悪非道の重罪犯なのよ!」
春海姫は一息すると真実を告白したのである。
「桜花姫…私の本当の死因はね…悪食餓鬼の毒素が原因なのよ…」
「えっ…悪食餓鬼の毒素ですって?」
桜花姫は一瞬動揺する。
「桜花姫…私はね…」
春海姫は鉄鬼丸と婚姻する三年前の真夜中…。春海姫は無数の悪食餓鬼に襲撃され左手を大怪我したのである。外傷自体は軽傷であったが愛娘の桜花姫が誕生してから十四年後の盛夏…。春海姫は悪食餓鬼の毒液が全身に転移したのである。蛇体如夜叉の治癒の神術でも延命治療が限界だったとされる。
「本当の原因は悪霊の毒素なのよ…悪食餓鬼の毒素は非常に強力なの…神族の蛇体如夜叉婆様でも治療出来ない程度に…」
悪食餓鬼は悪霊でも脆弱の代名詞であるが…。彼等の毒素は非常に強力であり怪力乱神の神族でも致命的とされる。
「桜花姫は自分自身を自責しないでね…」
春海姫の発言により心情の罪悪感が解消されたのである。
「桜花姫…貴女は何も悪くないのよ!」
「母様…私…」
桜花姫は涙腺より涙が零れ落ちる。今迄は母親の春海姫を殺害した罪悪感により辛苦されたが…。春海姫との再会により長年の罪悪感から本当の意味で解放されたのである。すると今度は父親の鉄鬼丸が発言する。
「桜花姫なのか?こんなにも美人に成長するとは…姿形は母さんみたいだな…」
「えっ…」
『私が美人ですって!?』
桜花姫は鉄鬼丸の美人の一言に赤面し始め…。
『鉄鬼丸様♪』
母親の春海姫も赤面したのである。
「私が母様みたいな美人なんて!父様は大袈裟ね!」
すると鉄鬼丸は小声で…。
「初対面だが…俺は桜花姫が元気そうで安心したよ…今迄大変だったな…桜花姫…悪かったな…桜花姫は今迄一人で辛かっただろう?」
鉄鬼丸は桜花姫に謝罪したのである。
「別に父様が謝罪しなくても…案外一人でも気楽だったし!悪霊征伐も匪賊征伐も面白かったわよ!」
「此奴…」
『桜花姫は外見とは裏腹に随分と活気だな…彼女は誰に影響されたのやら?』
鉄鬼丸は桜花姫のか弱そうな外見とは裏腹に活気であると感じる。
「私は一人でも幸福よ!父様が心配しなくても私は大丈夫だからね!」
「俺が心配しなくても大丈夫そうだな…桜花姫が幸福であれば俺は大満足だ!」
「父様!」
桜花姫は鉄鬼丸の発言に微笑み始める。鉄鬼丸は意外にも今迄のイメージとは裏腹に想像以上の優男であると感じる。
「父様?」
「ん?如何した?桜花姫?」
桜花姫は真剣そうな表情で恐る恐る問い掛ける。
「父様って…天狐如夜叉って名前の神族に殺害されたの?」
「天狐如夜叉…彼女か…」
桜花姫に問い掛けられると鉄鬼丸の表情が険悪化したのである。
「想起したくない過去であるが…俺が天狐如夜叉に斬殺されたのは事実だ…」
桜花姫はハッとした表情であり愕然とする。
「やっぱり父様が神族の天狐如夜叉に殺害されたのは本当だったのね…」
すると鉄鬼丸は恐る恐る…。
「当時の天狐如夜叉の心境は不明だが…彼女の表情からは人間達に対する憎悪よりも自身の心情の悲痛さが感じられたな…俺の推測だが…天狐如夜叉は俺に自身の暴走を阻止して貰いたかったのかも知れないな…」
鉄鬼丸は当時の天狐如夜叉の様子から自身に対する泣訴だったと解釈する。
「えっ?天狐如夜叉が?」
『誰よりも冷酷そうな彼女に父様に泣訴?』
桜花姫は内心半信半疑だったのである。
「天狐如夜叉か…」
蛇体如夜叉は真剣そうな表情でボソッと発言する。
「えっ!?天狐如夜叉?神族ですって…」
すると今度は春海姫がハッとした表情で反応したのである。
「鉄鬼丸様は極悪非道の悪霊によって殺害されたのでは!?」
鉄鬼丸が死去した当時は誰しもが悪霊によって殺害されたのだと認識する。
「当時の俺は神出鬼没の悪霊を征伐しに出掛けたが…悪霊は木刀を所持した女人によって退治されたのだ…」
「木刀を所持した女人が天狐如夜叉だったのね…」
「無論だとも…」
すると春海姫は恐る恐る鉄鬼丸に問い掛ける。
「如何して天狐如夜叉って神族の一人が鉄鬼丸様を殺害されたのですか?」
「恐らくは肩慣らしか…別の誰かに教唆されたか…」
「天狐如夜叉の肩慣らしで鉄鬼丸様は…」
『天狐如夜叉…』
春海姫の表情が鬼神の形相へと変化したのである。
「えっ…母様…」
「春海姫ちゃん…」
桜花姫は勿論…。蛇体如夜叉も春海姫の表情に畏怖したのである。
「春海姫…俺は復讐なんて望まないさ…当時の彼女も真意も不明瞭だし…」
春海姫と桜花姫は鉄鬼丸の発言に反応する。
「鉄鬼丸様…」
「父様…」
鉄鬼丸の発言から春海姫の表情が戻ったのである。
「剣豪の父様が瞬殺されるなんて…天狐如夜叉は剣術も超一流なのね…」
「桜花姫ちゃんよ…天狐如夜叉はね…」
今度は蛇体如夜叉が発言する。
「彼女は姿形こそ小柄の小娘風情だけど…常人なんて簡単に瞬殺されるだろうよ…天狐如夜叉は剣術も達人だからね…」
桜花姫は妖星巨木の精霊を直視…。
「彼女の木刀は妖星巨木の小枝で形作られた代物だったわよね?」
「勿論である!天狐如夜叉の木刀は私の肉体の一部から形作られた刀剣だからな…神力を混入させれば鋼鉄の刀剣だって簡単に屈折させるばかりか…荒唐無稽の妖術だって無力化出来る代物だぞ!」
「天狐如夜叉の木刀は厄介ね…」
『私の妖術も無力化されるでしょうし…一体何を如何すれば天狐如夜叉を相手に対抗出来るのかしら?』
桜花姫は再度妖星巨木の精霊に質問したのである。
「天狐如夜叉に対抗するには如何すれば?」
桜花姫の問い掛けに妖星巨木の精霊は即答する。
「天道天眼と木刀を所持する天狐如夜叉に対抗するには…天道天眼と退魔霊剣が必要不可欠だな…」
「退魔霊剣ですって?」
すると退魔霊剣の一言に鉄鬼丸が反応したのである。
「退魔霊剣とは東国の軍神であり…歴史的偉人である夜桜崇徳王が所持したとされる伝説の刀剣だな…天道金剛石の…」
「勿論だとも…」
すると桜花姫が発言する。
「退魔霊剣は八正道様が…」
「八正道だと?八正道とは一体誰なのだ?」
鉄鬼丸は桜花姫に問い掛ける。
「八正道様はね…」
すると蛇体如夜叉が満面の笑顔で返答する。
「八正道は人間の僧侶で桜花姫ちゃんの理解者だよ!彼奴は助平だけど列記とした人格者だからね!其処等の人間達とは別格だろうよ!」
「助平って蛇体如夜叉婆ちゃん…八正道様に失礼よ…」
桜花姫は苦笑いしたのである。一方の春海姫は笑顔で…。
「人一倍内気だった桜花姫にも人間の理解者がね!是非とも八正道様って法師様には感謝しないと!」
「こんな殺伐とした俗界にも聖者が存在するとは…八正道とやらには感謝しても感謝し切れないな…」
春海姫と鉄鬼丸は一安心する。妖星巨木の精霊は再度発言したのである。
「兎にも角にも…今現在天道天眼を所持した天狐如夜叉は最高神にも匹敵する絶対的存在なのだ!今現在天狐如夜叉に対抗出来るのは実質…最上級妖女である月影桜花姫だけだからな!」
天道天眼を開眼した天狐如夜叉は最早最高神にも匹敵する超越的存在へと大進化…。最早天狐如夜叉に対抗出来るのは天道天眼を自由自在に扱える最上級妖女の桜花姫以外には存在しない。
「えっ…」
三人の様子に変化が発生する。
「一体何が?三人の霊体が…」
直後…。突如として半透明だった三人の霊体が消滅し始める。
「如何やら時間みたいだね…桜花姫ちゃん…」
蛇体如夜叉は満面の笑顔で桜花姫を直視し始め…。
「桜花姫ちゃんよ!彼女を…天狐如夜叉を復讐心から解放してね!あんたなら…あんた達なら天狐如夜叉を救済出来るよ!」
「えっ?蛇体如夜叉婆ちゃん?」
蛇体如夜叉と天狐如夜叉は太古の大昔は悪友の関係だったのである。
「彼女は列記とした神族の一人だけど…精神的には非常に未熟だからね!」
正直天狐如夜叉の存在は気に入らなかったが…。
「私なりに精一杯努力するよ!蛇体如夜叉婆ちゃん!」
桜花姫は満面の笑顔で返答したのである。
「大変かも知れないけれど…小猫姫と仲良く支え合いな!間違っても口寄せの妖術なんかで自然界の一部である私を復活させないでね…神族の私を復活させると今度は桜花姫ちゃん自身が…」
「えっ…」
『蛇体如夜叉婆ちゃん…』
桜花姫は一瞬困惑するものの…。蛇体如夜叉の希望を尊重したのである。
「約束するわ!蛇体如夜叉婆ちゃん!」
すると今度は母親の春海姫が発言する。
「桜花姫…達者でね!私は何時迄も貴女の今後を見守るから!」
「母様…」
桜花姫は再度涙腺から涙が零れ落ちる。今度は父親の鉄鬼丸が発言したのである。
「桜花姫よ…今後も大変だろうが…桜花姫は桜花姫らしく精一杯自由に生き続けるのだぞ!」
鉄鬼丸は一息する。
「俺にとっても…春海姫にとっても桜花姫は最愛の宝物だからな…天狐如夜叉なんかに殺されるなよ!桜花姫らしく精一杯頑張れよ!」
「父様…勿論よ!」
数秒間が経過すると三人の肉体は完全に消滅したのである。
「はぁ…三人には二度と…」
『再会出来ないのね…』
桜花姫は内心切なくなり涙腺から涙が零れ落ちる。
「天狐如夜叉との戦闘は今迄とは比較出来ない大激戦が予想されるだろう!最悪全世界の滅亡も否定出来ない…」
「私が彼女を…天狐如夜叉の野望を阻止するわよ!相手が最強の神族だからって私は手加減しないから!」
桜花姫は天狐如夜叉の野望を阻止すると断言したのである。
「であれば一安心だ!月影桜花姫…其方には期待するぞ!」
数秒後…。今度は精霊の肉体が消滅し始める。
「えっ?あんたの肉体が…」
「如何やら私自身も…時間みたいだな…」
妖星巨木の精霊は最後に…。
「最上級妖女の月影桜花姫よ…天狐如夜叉から全世界を救済するのだ!最上級妖女の其方ならば全世界を…」
妖星巨木の精霊の肉体は完全消滅したのである。妖星巨木の精霊が消滅した直後…。
『滅亡からの全世界の救済なんて…』
「私なんかに出来るのかしら?」
天道天眼を開眼した桜花姫だが正直不安だったのである。
第七話
天空魔獣
故人である三人との再会から一週間後の早朝…。
『今現在でも近海の海底下に古代文明時代の遺物が…』
桃源郷神国の裏側に位置する青海原のとある絶島では神族の天狐如夜叉が到達したのである。
『十二人の最高神によって封印された…伝説の天空魔獣が存在するみたいだな…』
数十万年前もの太古の古代文明時代…。神族の最盛期であり地上世界には高度化された無数の神族による巨大文明社会が構築されたのである。とある某月某日…。天空世界より全長が小大陸規模の天空魔獣が出現したのである。規格外の天空魔獣は世界各地で暴れ回り大勢の神族やら人間達を大虐殺…。地上世界の各大陸の陸地をバリバリと食い散らかしたのである。天空魔獣は神族でも最強の部類とされる十二人の最高神と交戦…。空前絶後の長期戦が展開されたが最高神の超越的神力によって天空魔獣は暗闇の深海底にて封印されたのである。難敵であった天空魔獣の封印には間一髪成功したものの…。十二人の最高神は神通力の消耗によって衰弱死したのである。天空魔獣の暴走によって地上世界の地形が大幅に変化…。天空魔獣の暴走こそ神族が弱体化する決定的要因だったのである。
『目的地に移動するか…』
天狐如夜叉は天道天眼の効力により水中用の結界を発動…。目的地である深海底の海底下へと移動したのである。暗闇の海中を移動し始めてから十数分後…。天狐如夜叉は目的地の海底下へと到達する。
『今回は古代世界で大勢の神族を殺害した天空魔獣を復活させ…地上世界に君臨し続ける愚劣なる人間達を駆逐する!』
天狐如夜叉は海底下を凝視したのである。地上からは推定二十キロメートルの深度であり周辺は暗闇の海中であったが…。目的地の海底下中心部には規格外の巨大海亀らしき巨大岩石物体が確認出来る。全身の体表には血管と思しきマグマが確認出来…。全身の彼方此方に噴火口が隆起する。
『此奴は…数十万年前に十二人の最高神によって封印された天空世界の天空魔獣…』
「通称…【天魔大皇帝】だな…」
天空魔獣天魔大皇帝と呼称される規格外の怪物は全身が凸凹した岩石の肉体である。凸凹した岩石の甲羅表面には無数の巨大人面らしき形状の噴火口が確認出来…。巨大海亀の尻尾の部分は凸凹した岩石の巨大海蛇の形状だったのである。本体前方に位置する巨大海亀の前額部は勿論…。本体の後方に位置する巨大海蛇の前額部には醜悪なる人面が確認出来る。封印された天魔大皇帝の全身には金剛石で形作られた巨大鉄鎖により封殺され…。天魔大皇帝は封印の影響により完全に身動き出来ない状態だったのである。すると甲羅部分の巨大人面の一部が天狐如夜叉の神力に反応し始め…。
「ん?彼奴は…誰だ?」
人語で喋り始める。
「こんな暗闇の深海底に人外の小娘風情か?」
甲羅部分の巨大人面は海中を浮遊し続ける天狐如夜叉をギロッと直視する。
「貴様は…一体何者だ?」
甲羅部分の巨大人面は流暢に問い掛けたのである。
「私の名前は天狐如夜叉…崇高なる神族の一人だ…」
「神族の一人だと?」
「貴様は神族の小娘なのか?今度こそ最高神の封印で身動き出来なくなった私を完膚なきまでに死滅させるのか?」
甲羅部分の巨大人面は天狐如夜叉に再度問い掛ける。
「私が身動き出来なくなった其方を死滅すると?残念だが正反対だな…」
甲羅部分の巨大人面に問い掛けられた天狐如夜叉は即答する。
「私は天空魔獣の其方を…最高神の封印から解放させるのだ…」
封印から解放すると宣言した天狐如夜叉であるが…。天魔大皇帝の甲羅部分の巨大人面は失笑したのである。
「私を封印から解放だと?貴様は正気なのか?」
「最強の十二人の最高神ですら衰弱化させた私を…貴様みたいな神族の小娘風情が私を解放させるなんて…貴様は余程の命知らずであるな…貴様は私に殺されたいのか?」
天魔大皇帝にとって十二人の最高神以外は食材同然であり甲羅部分の巨大人面は天狐如夜叉の実力を過小評価する。
『先程から此奴は鬱陶しい海亀だな…』
天狐如夜叉は天魔大皇帝の言動に目障りだと感じる。
「天魔大皇帝は封印から解放されたくないのか?折角の絶好機なのだぞ…封印から解放されたくないのであれば私は地上世界に帰還するだけだ…」
一方の天魔大皇帝は天狐如夜叉に警告したのである。
「破壊者である私を復活させた瞬間…私は再度地上世界で思う存分に暴れ回るだけだ!私が一度暴れ回れば今度こそ全世界の滅亡は確定的であるぞ!」
現実問題として十二人の最高神に匹敵する実力者は存在しない。天魔大皇帝が封印から解放させれば今度こそ世界の滅亡は現実化する。
「私を解放させるからには相応の覚悟は必要不可欠だぞ?如何するのだ?神族の小娘?私を神族の封印から解放させるか?未来永劫暗闇の深海底で私を放置し続けるか?」
天魔大皇帝の巨大人面に警告された天狐如夜叉であるが…。天狐如夜叉は無表情で返答したのである。
「地上世界全域を滅亡させるには其方の絶大なる魔力が必要不可欠なのだ!所詮人類による地上世界の滅亡は私にとっても好都合だからな…」
「地上世界の滅亡とは!面白そうだな!」
すると今度は別の巨大人面が発言する。
「貴様が私を神族の封印から解放するのか!?であれば貴様は即刻神族の封印を解除するのだ!私は今度こそ大暴れして全世界を打っ壊すからよ!封印を解除しやがれ!神族の小娘風情!」
更なる別の巨大人面は天狐如夜叉に失笑したのである。
「私を復活させた瞬間…問答無用にあんたを食い殺しちまうかも知れないぜ!覚悟しろよな!私は相手が神族の小娘だろうと容赦しないからな…」
巨大人面の発言に天狐如夜叉は呆れ果てる。
「私が破壊者の其方を神族の封印から解放させたとしても…今現在の天魔大皇帝は相応に弱体化した状態だからな…間違っても今現在の其方では天道天眼を所持する私を食い殺すなんて夢物語だぞ…」
数十万年間もの長期間の封印の影響からか天魔大皇帝の魔力は太古の古代文明時代から相当弱体化した状態だったのである。
「畜生が!本調子であればこんな神族の小娘…簡単に打っ殺せるのだが…」
「今現在の状態であれば…貴様に協力するのが無難みたいだな…神族の小娘よ…」
「本来なら敵対者である神族の小娘に協力するのは正直気に入らないが…今回ばかりは止むを得ないな!神族とは一時休戦だ!」
非常に苛立った天魔大皇帝であるが…。格上の天狐如夜叉に服従する。
『一先ずは…天魔大皇帝との交渉は成立だな…』
天魔大皇帝との交渉成立に天狐如夜叉は冷笑したのである。
「天魔大皇帝…早速其方の封印を解除するからな…」
天狐如夜叉は恐る恐る両目を瞑目する。
『神族の眼光…発動!』
群青色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
『天魔大皇帝!神族の封印を解放されよ!』
「はっ!」
直後…。念力の効力により天魔大皇帝の全身の身動きを封殺した金剛石の巨大鉄鎖がバリッと破壊されたのである。すると天魔大皇帝の封印が全面的に解除され…。本体の先端部分に位置する巨大海亀の頭部部分がハイテンションで大喜びしたのである。
「ヤッタゼ!トウトウシンゾクノフウインガ…カイジョサレタノカ!ヒサカタブリニ…チジョウデオオアバレシテヤルゼ!」
本体の先端に位置する巨大海亀の頭部部分が天狐如夜叉を直視し始める。
「オレノフウインヲカイジョシタノハ…シンゾクノネエチャンカ!?アリガトサンヨ♪シンゾクノネエチャン!セッカクノキカイダ!サッソクダガ…チジョウノガイチュウドモヲ…クイコロシニデカケルカ!」
天魔大皇帝は封印が解除された影響からか非常に興奮気味である。
『天魔大皇帝は…下手すれば扱い切れないかも知れないな…』
実質天魔大皇帝は殺戮と破壊のみの破壊者であり天狐如夜叉は警戒したのである。本来の魔力が戻れば天道天眼を駆使したとしても全盛期の天魔大皇帝をコントロールするのは非常に困難であると感じる。
『天魔大皇帝が長期間の封印の影響で多少弱体化したのが何よりだな…』
天狐如夜叉は一先ず地上世界へと戻ったのである。
第八話
アスピドケロン
天狐如夜叉と天魔大皇帝が利害の一致で活動を開始し始めた同時刻…。深海底地帯のアクアユートピアでは深海底魔女のダークスキュランが魔法の水晶玉で深海底の異変をキャッチしたのである。
「えっ?」
『魔法の水晶玉が反応したわ…一体何かしら?』
ダークスキュランは警戒した様子で恐る恐る魔法の水晶玉に投影された深海底の光景を直視…。
「なっ!?」
『此奴は…』
水晶玉の光景にダークスキュランは戦慄したのである。
『現実なの!?』
魔法の水晶玉には神族の天狐如夜叉は勿論…。暗闇の海底下には封印が解除された天魔大皇帝の姿形も映写されたのである。
『此奴は太古の古代文明時代に地上世界で暴れ回った深宇宙の天空魔獣…天魔大皇帝…別名はアスピドケロンだったかしら?』
アスピドケロンとは西洋神話に登場する巨大海亀の怪物として知られる。アスピドケロンは全体像が規格外の巨大さである。甲羅部分の体高のみでも数キロメートルもの天空に到達出来…。全長は小大陸にも相当する大サイズとして有名である。西洋神話の知名度からか場所によっては天空魔獣の天魔大皇帝を別名アスピドケロンやら極東方面の諸国では岩石大怪獣やら岩石海亀…。深宇宙の宇宙海亀と呼称する地域も少なからず存在する。
『天魔大皇帝…胸騒ぎの原因は此奴だったのね…』
「神族の封印が解除されたなんて…」
ダークスキュランは天魔大皇帝の出現に極度の恐怖心からか全身がプルプルと身震いし始める。
『大昔の伝承では天魔大皇帝の大暴れで旧世界全域が滅亡寸前だったとか…』
魔法の水晶玉に映写された天狐如夜叉を直視したのである。
『如何して天魔大皇帝の封印が解除されたのかしら?ひょっとして海中の小柄の少女が…天魔大皇帝の封印を解除したのかしら?非常に厄介だわ…』
突然の緊急事態にダークスキュランは決断する。
『兎にも角にもアクアユートピアの人魚達には国外への外出を徹底的に禁止させないと!天魔大皇帝に遭遇すれば即刻殺害されるでしょうね…』
ダークスキュランは即刻国外への外出禁止を人魚王国アクアユートピア全域に発令…。国外への外出は全面的に禁止され人魚王国アクアユートピアの国境は完全に封鎖されたのである。二人の人魚の側近達がダークスキュランの家屋敷に訪問する。
「ダークスキュラン様…国内の平民達には国外への外出禁止を発令しました!」
「国境全域もシールド魔法で封鎖出来ました!国内の安全は確保出来た模様です!」
「シールド魔法は完了したのね!上出来だわ!」
すると室内のドアがノックされたのである。
「ん?誰かしら?」
アクアヴィーナスの母親であるアクアキュベレーがソワソワした様子で入室する。
「あんたはアクアヴィーナスの母親…アクアキュベレーだったかしら?」
「ダークスキュラン!大変よ!」
「えっ!?今度は何事なの!?」
アクアキュベレーの様子にダークスキュランは吃驚したのである。
「彼女が…アクアヴィーナスが…国外に出掛けちゃったのよ!」
アクアキュベレーは落涙し始める。
「えっ!?アクアヴィーナスが!?」
『彼女はこんな状況で国外に出掛けちゃったの!?』
ダークスキュランは呆れ果てる。
「はぁ…」
『アクアヴィーナス!彼女は人一倍気弱で弱虫なのに随一のトラブルメーカーなのね!彼女には危機感が皆無なのかしら!?』
すると側近の一人が恐る恐る…。
「ダークスキュラン様…彼女を救出されますか?」
ダークスキュランは一息する。
「彼女には…アクアヴィーナスには悪いけれど…アクアユートピアの危機的状況下で彼女の救出は出来ないでしょうね…」
ダークスキュランは守護者としてアクアヴィーナスの救出よりもアクアユートピア国内の安全を優先したのである。
「えっ!?ダークスキュラン!?」
アクアキュベレーはダークスキュランの苦渋の決断にビクッと反応…。
「私のアクアヴィーナスは如何なるのよ!?あんたは彼女を見殺しに…」
アクアキュベレーはダークスキュランの優先順位に納得出来ずダークスキュランに失望したのである。
「別に私は!彼女を見殺しなんて…」
困惑したダークスキュランは恐る恐る…。
「正直私自身の魔力だけではアクアユートピアの国内を守護するのが精一杯なのよ!アクアヴィーナス…彼女には悪いけれど今回ばかりは如何にも出来ないのよ!」
「ダークスキュラン…あんたね…」
『やっぱり彼女はアクアユートピアを侵略した大悪党だから…所詮私達なんて手駒同然なのよね…』
アクアキュベレーはダークスキュランに再度憎悪したのである。
第九話
海亀
同時刻…。国外へと出掛けたアクアヴィーナスは暗闇の深海底を移動中に極度の胸騒ぎを感じ始める。
『先程から胸騒ぎを感じるわね…一体何かしら?』
アクアヴィーナスは極度の恐怖心からかビクビクしたのである。
「不吉だわ…」
『早急にアクアユートピアに戻ろうかしら?』
アクアヴィーナスは人魚王国アクアユートピアに戻ろうかと思いきや…。
「えっ…」
海底下を直視すると規格外の岩石の巨大塊状がズルズルと移動するのを発見する。
「何かしら?」
『岩石の…塊状?海亀の甲羅っぽいわね…』
凸凹した岩石の移動物体は規格外の巨大さである。海底下の巨大移動物体を凝視し続けると上部の表面には無数の巨大人面が確認出来る。
「ひゃっ!」
『甲羅部分には無数の人面だわ…一体何よ!?』
甲羅部分の無数の巨大人面にアクアヴィーナスは戦慄したのである。
『ひょっとして此奴は巨大海亀の怪物かしら?』
海底下の巨大移動物体を凝視し続けると小大陸規模の規格外の巨大海亀であると認識出来る。
『現実なの?こんな規格外の怪物が深海底に存在するなんて…』
すると甲羅部分の表面に存在する噴火口の巨大人面の一部が直上を遊泳し続けるアクアヴィーナスを発見したのである。
「彼奴は…ん?人魚の小娘か?」
甲羅部分の巨大人面は自我を所持…。彼等は人語で発言し始める。
「如何やら彼奴は人魚の小娘みたいだな…余程死にたいらしいな…」
「肩慣らしには好都合だが…如何するよ?」
「空腹だからな!いっその事…人魚の小娘を食い殺しちまうか!?」
「私は腹ペコなのだ!人魚の小娘を食い殺そう!」
「小食だが腹ごしらえに人魚の小娘を食い殺そうぜ!私は空腹なのだ!彼奴の血肉を味見するだけでも…」
無数の巨大人面が相談し始める。すると本体の先端に位置する巨大海亀の巨大頭部が大声で…。
「セナカノガンメンドモ!サッキカラコソコソハナシヤガッテ…オレハクウフクナンダ!ダイチヲクウノヲ…ユウセンシヤガレ!アンナメスノコバンザメデハ…ハラノタシニモナラン!メスノコバンザメハホウチシテオケ!」
甲羅部分の巨大人面は落胆する。
「畜生が…折角の間食なのに…」
「仕方ないな!」
「人魚の小娘は放置だな…一先ずは大陸の陸地を鱈腹平らげるか…」
「折角の食事が…勿体無いぜ!」
巨大海亀の頭部が怒号すると甲羅部分の無数の巨大人面は沈黙したのである。巨大海亀の怪物は大南海へと直進…。アクアヴィーナスは命拾いしたのである。
「はぁ…はぁ…」
『彼奴は私を見逃したのかしら?一瞬海亀の怪物に食い殺されるかと…』
アクアヴィーナスは周辺の海中を警戒する。
『先程の怪物は一体何者だったのかしら?深海底アンデッドの一種とか?』
アクアヴィーナスは巨大海亀の正体が気になるものの…。
『イーストユートピアの桜花姫なら巨大海亀の怪物を退治出来るかな?』
アクアヴィーナスは即刻桃源郷神国に直行したのである。
第十話
自害
アクアヴィーナスが天魔大皇帝と遭遇した同時刻…。最上級妖女の桜花姫は暇潰しに東国の茶店へと来店したのである。
『やっぱり桜餅は美味ね!』
桜花姫は大好きな桜餅を鱈腹頬張り続ける。
『最高だわ!』
すると桜餅を吟味し続ける桜花姫の背後より…。
「最上級妖女の月影桜花姫ちゃん!」
何者かが桜花姫の背中を接触する。
「きゃっ!」
桜花姫は驚愕したのである。
「誰よ!?吃驚するじゃない!」
背後を直視すると背後の人物は悪友であり粉雪妖女…。雪美姫だったのである。
「えっ?雪美姫…あんただったのね…」
「御免あそばせ!桜花姫!」
雪美姫は満面の笑顔で謝罪する。
「あんたね…吃驚させないでよね!折角の娯楽が台無しじゃない!」
「御免!御免!」
雪美姫も同席したのである。
「雪美姫?今日は何事かしら?面白そうな大事件でも発生したの?」
桜花姫が問い掛けると雪美姫は深刻そうな表情で…。
「あんたの妹分…山猫妖女の小猫姫だったかしら?彼女…今日の早朝に自害し掛けたみたいなのよ…」
「えっ?」
桜花姫は雪美姫の自害の一言に絶句したのである。
『小猫姫が…自害し掛けたって?』
蛇体如夜叉が永眠して以降…。小猫姫は肉体的にも精神的にも参った様子であり台所の出刃包丁で自害し掛けたのである。桜花姫は雪美姫からの突然の報告にゾッとする。
「今日は私が寸前で彼女を阻止したから大丈夫だったけれども…」
今回は雪美姫の参上により氷結の妖術を駆使…。危機一髪小猫姫の自害を阻止出来たのである。
「一歩間違えれば小猫姫…彼女は本当に自死しちゃうかも知れないわ…」
雪美姫の発言に極度の不安が募り始める。
「小猫姫…」
蛇体如夜叉の霊体との会話により自然界と一体化した事実を小猫姫に説明したものの…。小猫姫は納得しなかったのである。
「雪美姫?小猫姫の様子は如何なのかしら?」
「彼女なら八正道の寺院で休憩中みたいよ…」
「八正道様の寺院で休憩中なのね…」
今現在小猫姫は八正道の寺院で寝転び…。八正道が小猫姫の様子を見守る。
「八正道様は…大丈夫なのかしら?」
『八正道様だけだと正直不安だわ…』
桜花姫は内心小猫姫が暴走しないか正直不安だったのである。
「桜花姫…心配しなくても大丈夫よ!八正道は純粋無垢の真人間だけど悪霊の邪霊餓狼とも互角に接戦出来た実力者なのよ!小猫姫が純血の妖女だとしても簡単には…」
雪美姫は楽観視するのだが…。桜花姫は小猫姫の様子が気になる。
『雪美姫には悪いけど…今現在の彼女は放置出来ないわね…』
直後…。突如として桜花姫の姿形が消失する。
「えっ?桜花姫!?桜花姫は!?」
雪美姫は店内の周囲をキョロキョロしたのである。
「はぁ…」
『桜花姫は行動が迅速的ね…口寄せの妖術で移動しちゃったのかしら?』
雪美姫は桜花姫の迅速さに苦笑いする。
第十一話
木魚
同時刻…。桜花姫は口寄せの妖術により自身の肉体を八正道の寺院へと瞬間移動させたのである。
「八正道様?」
恐る恐る玄関の戸口をノックするのだが…。
「無反応ね…奇妙だわ…」
『止むを得ないわね…』
桜花姫は恐る恐る警戒した様子で寺院へと進入したのである。
『八正道様は?』
洋式風の応接間へと入室する。
「えっ!?」
応接間には八正道がグッタリとした表情であり床面に横たわった状態である。
「八正道様!?大丈夫!?返事して!」
桜花姫はソワソワした表情で八正道に近寄り始める。恐る恐る八正道の安否を確認したのである。
「はぁ…」
『八正道様…』
桜花姫は八正道の様子から無事が確認出来…。
『八正道様は大丈夫そうね…』
安堵したのである。
「えっ?」
すると床面に横たわった状態の八正道であるが左側の真横には木魚が確認出来る。
『木魚だわ…如何して木魚がこんな場所に?』
すると床面に横たわった状態の八正道が目覚める。
「うっ!私は…一体?」
「八正道様?大丈夫?」
「えっ?貴女様は桜花姫様でしたか…」
桜花姫が恐る恐る問い掛けると八正道は意識が戻った様子であり桜花姫の存在に気付いたのである。八正道は意識が戻ったものの…。
「ん!?小猫姫様…小猫姫様は!?」
「小猫姫ですって?」
「如何やら私は…小猫姫様に木魚で後頭部を殴打されたらしいのですが…」
八正道は恐る恐る先程の出来事を告白する。
「えっ!?小猫姫が八正道様に木魚を!?」
桜花姫は八正道の証言からゾッとしたのである。
『ひょっとして彼女は…』
桜花姫は極度の恐怖心からか全身が身震いし始める。
『小猫姫…』
即座に二階の居室へと移動したのである。
「えっ…桜花姫様?一体如何されましたか?」
二階の居室に到達すると中央の屏風を直視する。
『小猫姫…』
屏風に装飾された退魔霊剣が何者かによって窃盗されたのである。
「なっ!?私の退魔霊剣が…」
八正道は精神的ショックからか全身が脱力する。
「一体誰が…私の退魔霊剣を窃盗したのでしょうか?」
桜花姫は小声で…。
「恐らくは小猫姫の仕業でしょうね…恐らく彼女以外には…」
「えっ!?小猫姫様が…退魔霊剣を!?」
八正道は動揺したのである。
「一体小猫姫様は退魔霊剣を何に使用されるのでしょうか?」
「八正道様…御免なさいね…」
「桜花姫様?」
桜花姫は自分自身に口寄せの妖術を駆使する。
「桜花姫様は行動力が迅速的ですね…」
『ですが小猫姫様は…大丈夫なのでしょうか?』
八正道は小猫姫が無事なのか心配したのである。
第十二話
絶縁
同時刻…。桜花姫は小猫姫の居場所へと自身の肉体を口寄せしたのである。
「口寄せの妖術は成功ね!」
小猫姫は無事であり桜花姫は一安心する。
『小猫姫は無事みたいね…』
小猫姫は退魔霊剣を所持した状態で東国と南国の国境に位置する山道にて移動中だったのである。
「えっ…桜花姫姉ちゃん…」
「小猫姫…あんたは人騒がせね…」
桜花姫は無表情で小猫姫を凝視し始める。
「如何して…桜花姫姉ちゃんがこんな場所に?」
小猫姫は突発的に出現した桜花姫と遭遇…。小猫姫は気まずそうな様子であり一時的に後退りしたのである。
「残念だったわね…小猫姫…私からは逃げられないわよ…大人しく八正道様の退魔霊剣を渡しなさい…退魔霊剣は八正道様の所有物なのよ…」
指摘された小猫姫であるが…。小猫姫は桜花姫に睥睨したのである。
「絶対に渡さない…相手が桜花姫姉ちゃんでも退魔霊剣は絶対に渡さないよ!今日は私の命日なのよ!邪魔しないで!」
今現在の小猫姫からは極度の敵意が感じられる。
「小猫姫…あんたね…」
桜花姫は小猫姫の発言に呆れ果てる。
「あんたは馬鹿者だわ…何が命日よ!」
すると小猫姫は落涙し始める。
「私を死なせてよ!桜花姫姉ちゃん!所詮私なんて…」
「はぁ…小猫姫…あんたは正真正銘の馬鹿者ね…」
桜花姫は自暴自棄の小猫姫に呆れ果てる。
「あんたが自害したって…誰も大喜びしないわよ!」
「所詮私なんて一人では何も出来ないし…未来に希望なんて何一つとして無いよ!いっその事…私は自害してから…天国で蛇体如夜叉婆ちゃんに再会するの!」
桜花姫が冷静に小猫姫を制止するものの…。小猫姫は頑固だったのである。
「小猫姫…あんたは相当の頑固者ね…」
桜花姫は小猫姫に呆れ果てる。
「蛇体如夜叉婆ちゃんは確実に失望するでしょうね…今現在のあんたと再会出来たとしても呆れ果てるだけよ…」
呆れ果てた桜花姫であるが…。一方の小猫姫は睥睨した表情で只管発言する。
「桜花姫姉ちゃん…私を…私を殺したければ思う存分に殺せば!?」
「えっ…」
小猫姫の鬼神の形相に桜花姫は一瞬圧倒される。
「いっその事…私を桜花姫姉ちゃんの大好きな桜餅に変化させて私を食い殺しちゃえば!?桜花姫姉ちゃんだって桜餅を食べられるから満足出来るよ!」
小猫姫は真顔で発言したのである。
「小猫姫…あんたは本気なの?」
「私は…本気だよ!私は桜花姫姉ちゃんに食い殺されて天国の蛇体如夜叉婆ちゃんに再会するの!」
一方の桜花姫は小猫姫の言動に腹立たしくなったのか全身がプルプルし始める。
「小猫姫…」
苛立った桜花姫は無表情で…。
「あんたね…」
「何よ?桜花姫姉ちゃん?」
桜花姫は小猫姫の頬っぺたを力一杯引っ叩いたのである。
「きゃっ!」
力一杯頬っぺたを引っ叩かれた小猫姫は地面に横たわる。
「小猫姫?好い加減目覚めたかしら?」
桜花姫は呆れ果てた表情で地面に横たわった状態の小猫姫を凝視する。一方の小猫姫は頬っぺたを引っ叩いた桜花姫を殺伐とした形相で睥睨したのである。
「突然何するのよ!?桜花姫姉ちゃん!?」
「何って…」
桜花姫は呆れ果てた表情で断言する。
「小猫姫…滑稽だわ!何が桜餅よ!所詮あんたみたいな意気地なしは私の大好きな桜餅に変化させたとしても不味いだけなのよ!あんたが天国で蛇体如夜叉婆ちゃんと再会出来たとしても…蛇体如夜叉婆ちゃんは小猫姫に失望するでしょうね…私を馬鹿にするのも好い加減にしなさい!」
桜花姫は無表情であり無理矢理に退魔霊剣を回収したのである。一方の小猫姫は何も反論出来ず…。沈黙したのである。
「退魔霊剣は八正道様の所有物だから返却するわよ…」
すると桜花姫は再度無表情で発言する。
「小猫姫には悪いけど…今日から私はあんたとは絶縁するわね!自害したければ勝手に自害するのね…甘ったれるのも好い加減にしなさい!」
桜花姫は無表情で退散したのである。山中を移動中…。
『小猫姫の…馬鹿者!』
桜花姫は後悔したのか涙腺より涙が零れ落ちる。
「小猫姫…」
『彼女は…大丈夫なのかしら?』
正直小猫姫が自害しないか非常に不安だったのである。
『小猫姫は本当に自害しないわよね?大丈夫よね?』
桜花姫は小猫姫の様子が気になるのか再度戻ろうかと思いきや…。
「えっ!?」
突発的にグラグラッと地面全体が大規模の地響きにより震動し始めたのである。
『一体全体何事なの!?ひょっとして地震かしら!?』
地響きは数秒間で沈静する。
「えっ…」
『先程の地響きは一体何だったのかしら?』
すると桜花姫の前方より…。
「桜花姫!?」
「えっ?あんたは…」
ピンク色のロングドレスと赤髪の小柄の女性が大慌ての様子で桜花姫に接近する。
「誰かと思いきや…あんたはアクアユートピアのアクアヴィーナス!?随分と大急ぎね…一体何事かしら?」
赤髪の女性とは人魚王国アクアユートピアのアクアヴィーナスだったのである。
「はぁ…はぁ…桜花姫…」
「大丈夫?アクアヴィーナス?」
アクアヴィーナスは非常にソワソワした様子であり桜花姫は恐る恐る問い掛ける。
「今度は何事かしら?ひょっとしてアクアユートピアで大事件が発生したの?」
「桜花姫…大変なのよ!」
「何が大変なのよ?」
アクアヴィーナスは真剣そうな表情で…。
「西海の深海底で海亀みたいな怪物が出現したのよ!陸地みたいに巨体だったわ…私…一瞬海亀の怪物に食い殺されるかと…」
「海亀みたいな怪物ですって?」
桜花姫は一瞬沈黙する。
『幼少期に蛇体如夜叉婆ちゃんが巨山みたいな海亀の怪物が出現したって…先程の大地震は怪物の仕業だったのかしら?』
桜花姫は神族の昔話で旧世界を襲撃した巨体の怪物の伝承を想起したのである。
『先程の大地震って…大昔の伝承と関連するのかしら?』
「海亀みたいな怪物?気になるわね…」
アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「桜花姫…如何しましょう?海亀の怪物が大暴れしちゃったら…」
アクアヴィーナスは極度の恐怖心からか涙腺より涙が零れ落ちる。
「海亀の怪物の正体が旧世界を襲撃した天空魔獣であれば…恐らく私以外の妖女では対抗出来ないでしょうね…」
「えっ…」
アクアヴィーナスは極度の絶望感により沈黙したのである。
『最上級妖女の私でも…全世界規模の怪物を相手に攻略出来るのかしら?』
普段の桜花姫であれば大喜びで敵対者の征伐に出掛けるのだが…。今回の戦闘は今迄の戦闘とは桁違いの大スケール規模であり自身の妖力のみで前代未聞の怪物に対抗出来るのかは正直不安だったのである。
「アクアヴィーナスは東国の八正道様の寺院で待機しなさい…東国の寺院へは私が道案内するから…」
「えっ?八正道様って誰なのかしら?」
桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「八正道様は人間の僧侶なのよ!天空世界の仏様を擬人化させた存在だから大丈夫だからね!」
「えっ?はぁ…」
『仏様を擬人化って何者なのかしら?』
アクアヴィーナスは内心珍紛漢紛であったが…。桜花姫と一緒に東国の寺院へと急行したのである。
第十三話
対敵
急行し始めてから十数分後…。桜花姫とアクアヴィーナスは東国の寺院へと到達したのである。
「八正道様!」
桜花姫は玄関を力一杯ノックする。戸口から八正道が彼女達を出迎える。
「えっ?桜花姫様と…ん?同行者の女性は?」
アクアヴィーナスは八正道に恐る恐る自身の名前を名乗り始める。
「私は…アクアヴィーナスです…」
すると桜花姫が満面の笑顔でアクアヴィーナスを紹介したのである。
「彼女は人魚王国のアクアユートピアの人魚なの!私の女友達よ!」
「人魚王国アクアユートピアですと!?貴女様は異国の人魚の女性で桜花姫様の友人様でしたか!」
『アクアヴィーナス様…彼女は女神様みたいな女性ですね!』
八正道は一瞬アクアヴィーナスに見惚れる。
「八正道様…一定の時間だけど…彼女を八正道様の寺院で保護出来ないかしら?」
「えっ?彼女を保護ですと?私は構いませんが…一体何が発生したのですか?」
「一大事なのよ…全世界規模の…」
「えっ!?全世界規模の…一大事ですか!?」
八正道は桜花姫の発言に絶句する。桜花姫は八正道に太古の古代文明時代の天空魔獣が出現した事実を洗い浚い報告したのである。
「えっ!?旧世界に封印された…伝説の天空魔獣が出現したのですか!?」
するとアクアヴィーナスがボソッと一言…。
「私は暗闇の深海底で巨大海亀みたいな怪物と遭遇しました…」
「巨大海亀みたいな…怪物ですと?」
「正直遭遇した当初は…天空魔獣に食い殺されちゃうかと…」
アクアヴィーナスは恐怖心からか涙腺より涙が零れ落ちる。
「アクアヴィーナス様が無事なのが何よりですよ!」
「感謝します…」
「ですが桜花姫様…旧世界の天空魔獣が出現するとは前代未聞の一大事ですね…一体如何すれば天空魔獣を対処出来るのでしょうかね?」
「当然だけれど私の妖術で対抗する以外には…」
『天空魔獣に私の妖術が通用するのか如何なのかは不明なのだけれどね…』
桜花姫は八正道に退魔霊剣を手渡したのである。
「八正道様?」
「えっ…退魔霊剣ですと?」
すると八正道は恐る恐る…。
「小猫姫様は…無事ですか?」
「えっ…」
『小猫姫は…』
問い掛けられた桜花姫は一瞬ビクッと反応するものの…。
「彼女なら…大丈夫よ!八正道様!小猫姫は自害しないって私と約束したから!」
桜花姫は満面の笑顔で返答したのである。
「であれば一安心ですね!」
「小猫姫は当分…ソッとしましょう…彼女には時間が必要よ…」
「承知しました!桜花姫様!」
直後…。再度地面がグラグラッと震動したのである。
「えっ!?地響きだわ!」
「なっ!?地震でしょうか!?」
突然の地響きに八正道とアクアヴィーナスは動揺するのだが…。桜花姫は冷静だったのである。
「今度も地震だわ…」
『頻発する地響きは天空魔獣の仕業なのかしら?』
突然…。
「えっ!?」
近辺より摩訶不思議の神力を感じる。
『一体何かしら!?神通力でも妖力でも無縁そうだわ…ひょっとして気配の正体は神族!?』
刻一刻と急接近し続ける神力の気配に桜花姫は警戒したのである。
「八正道様とアクアヴィーナスは即刻寺院に避難して!」
即座に八正道とアクアヴィーナスに指示する。
「えっ!?桜花姫!?今度は何よ!?」
「一体何が発生したのですか?桜花姫様?」
突然の桜花姫の指示に二人は再度動揺したのである。
「神族が接近中なのよ…」
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る…。
「気配から判断して…恐らく私達の敵対者だわ…」
「えっ!?神族の敵対者ですと!?」
「危険そうなの?桜花姫?」
八正道とアクアヴィーナスは接近中の神族の気配に不安がる。
「相手は本物の神族だからね!下手すれば私達が殺されるかも知れないわ…」
桜花姫の様子は冷静であったが…。内心では戦慄したのである。
「承知しました…桜花姫様…」
「承知したわ…」
八正道とアクアヴィーナスは承諾する。
『殺されるって…桜花姫が戦慄する程度に神族って相当ヤバいのかしら?』
アクアヴィーナスはビクビクし始める。すると寺院の表門より…。
「えっ?彼女は何者でしょうか?」
木刀を所持した青色の着物姿の女性が進入したのである。
「誰かしら?人間の…女性?」
八正道とアクアヴィーナスも女性に警戒する。桜花姫は恐る恐る…。
「彼女は天狐如夜叉…神族の一人だわ…此奴が気配の正体よ!」
「彼女が神族の一人なのですか?外見のみなら人間の女性みたいですね…」
「本当ね…彼女は外見だけなら人間の女性っぽいわね…」
すると天狐如夜叉は無表情で発言する。
「無数の亡者達の集合体…月影桜花姫よ!其方は死後の世界とされる黄泉の地獄から自力で脱出するとは…相当の強運だな!」
対する桜花姫はヘラヘラした表情で返答したのである。
「心配せずとも!私は天国からでも地獄の世界からでも全身全霊で脱出するから安心しなさい!」
「悪運と食欲だけは人一倍だな…月影桜花姫…如何やら私は其方を悪運と食欲だけが長所の小娘だと見縊り過ぎたみたいだ…」
「私の長所が悪運と食欲だけかしら?」
直後…。桜花姫の両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「其方は…」
天狐如夜叉は天道天眼を開眼した桜花姫に一瞬驚愕する。
「神族の眼光を再度開眼するとは…」
「残念だったわね!天狐如夜叉!あんたから一時的に天道天眼を奪取されちゃったけれど…妖星巨木の精霊から再度天道天眼を頂戴したのよ!」
桜花姫は満面の笑顔で断言したのである。
「世界樹の妖星巨木はこんな妖女の小娘に味方するとは…こんな下等生命体に肩入れするとは古代の造物主も堕落したな…」
一方の天狐如夜叉は内心苛立った様子であり妖星巨木の精霊に罵倒する。
「私は即刻天空魔獣の暴走を阻止したいだけなの!あんたは邪魔しないで!」
天狐如夜叉は天空魔獣の一言に反応したのである。
「天空魔獣だと?其方は天空魔獣の暴走を阻止するか…」
普段は無表情の天狐如夜叉であるが…。冷笑したのである。
「天狐如夜叉…あんたは何が可笑しいのよ?」
問い掛けられた天狐如夜叉は即答する。
「天空魔獣を封印から解放させたのは誰であろう私なのだからな!今頃は全世界各地で大暴れだろうよ!」
「えっ!?あんたが天空魔獣の封印を!?」
一同は天狐如夜叉の発言に反応したのである。すると八正道は恐る恐る…。
「先程から気になったのですが天空魔獣とは…ひょっとして大昔に地上全体で暴れ回ったとされる天魔大皇帝でしょうか?」
「天魔大皇帝ですって?」
「天魔大皇帝は太古の旧世界で大暴れした巨大海亀の怪物ですよ…伝承では十二人の最高神によって封印されたとか…」
八正道は桜花姫とアクアヴィーナスに説明する。
「ですが如何して神族の一人である天狐如夜叉が…古代文明時代に封印された旧世界の怪物を復活させたのですか?旧世界の怪物によって数千体もの神族が惨殺されたのですよね?」
八正道は恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。すると天狐如夜叉は無表情で即答する。
「大勢の仲間達が天魔大皇帝によって食い殺されたのは周知の事実であるが…今現在の私にとって天魔大皇帝以上に地上世界を君臨し続ける人間達こそ完膚なきまでに殲滅すべき存在なのだ!」
「天狐如夜叉は如何して私達人間を殲滅したいのですか?」
「私が人間達を殲滅したい理由だと?」
天狐如夜叉は恐る恐る一息したのである。
「其方みたいな下等生命体でも人類史の歴史学を勉学すれば理解出来るだろうが…愚劣なる人間達の歴史とは戦乱と自然界を汚染させるばかりだ!恐らくは後代の世界でも人間達による戦乱と自然界の破壊活動は何度も継続されるであろう!未来永劫…」
桜花姫は天狐如夜叉の発言にハッとした表情で反応する。
『ダークスキュランの時空の光球ね…』
桜花姫は時空の光球で発現された数多の戦乱の光景を想起したのである。
『今後も戦乱時代みたいな大動乱期が何度も到来するのかしら?』
正直自身も未来世界の戦乱時代を体験出来ればと希求する。
『今後も大動乱期が到来するなら面白そうだわ!出来るなら今後の戦乱時代を見届けたいわね…』
桜花姫は内心未来世界の大混乱期にワクワクしたのである。するとアクアヴィーナスが恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。
「如何して貴女は本来仕留めるべき相手を復活させたのよ?貴女は純血の神族だし…人間達を仕留めるなら貴女一人でも簡単でしょう?」
問い掛けられた天狐如夜叉はアクアヴィーナスに返答する。
「地上世界の人間達だけを殲滅するなら私一人でも容易いだろうが…桃源郷神国には数多くの妖女が安住する武陵桃源なのだ…最上級妖女である月影桜花姫が死後の世界から無事に生還したのは非常に不都合なのだよ…」
「不都合ですって?」
正直天狐如夜叉にとって無力化した桜花姫が俗界に戻ったのは予想外であり目的を達成するには数多の妖女と桜花姫の存在は不都合だったのである。
「天狐如夜叉…私から質問なのですが?」
今度は八正道が質問する。
「人間達を殲滅したとしても天空魔獣の天魔大皇帝と純血の神族である天狐如夜叉は敵対関係なのですよね?天魔大皇帝は大勢の神族を殺害した猛者でしょうし…貴女様を敵対視…裏切る可能性だって否定出来ませんよ…」
「恩人の私を敵対視するのであれば今度は天魔大皇帝を殲滅するだけだ!今現在の天魔大皇帝は長年の封印によって相当弱体化した状態なのだ!今現在の天魔大皇帝ならば私単独でも簡単に仕留められるからな…」
復活させた天魔大皇帝であるが…。今現在は長年の封印の影響からか相当弱体化した状態である。天狐如夜叉に反抗したとしても容易に対処出来る。
「私から天道天眼を奪取したのは…天空魔獣の天魔大皇帝の封印を解除したかったからなのね…」
「えっ!?桜花姫様!?」
八正道は桜花姫の発言に動揺し始める。
「天道天眼を奪取されたって…彼女とは一体何が!?」
「先日の出来事だけどね…」
問い掛けられた桜花姫は先日の出来事を洗い浚い公言したのである。
「桜花姫様は彼女に天道天眼を奪取されたなんて…」
「本物の死後の世界にも幽閉されちゃったし…数日間は一苦労だったわ…」
桜花姫は今迄の一苦労からか一息する。
「遅かれ早かれ…私が天魔大皇帝の封印を解除した以上…全世界が滅亡するのは時間の問題だからな!」
天狐如夜叉は全世界の滅亡を断言したのである。
「えっ…全世界の滅亡ですと!?」
「全世界が…滅亡…」
八正道とアクアヴィーナスは身震いし始める。
「心配せずとも…所詮今現在の天魔大皇帝は私の手足同然だからな!全人類を殲滅してから邪魔者の天魔大皇帝を片付ける予定だ!」
神性妖術の天道天眼を所持した天狐如夜叉にとって弱体化した天魔大皇帝は巨体の海亀同然…。所詮天魔大皇帝は目的を完遂させる手駒の一部だったのである。
『天空魔獣の天魔大皇帝を仕留めてから…彼によって食い殺された数多くの神族の霊魂を解放させ…彼等を地上世界に復活させるのだ!』
天魔大皇帝の体内には古代文明時代に食い殺された神族の霊魂が幽閉された状態であり彼等の無念の叫び声が世界全域に響き渡る。天狐如夜叉は仇敵の天魔大皇帝から彼等の霊魂を解放…。神聖なる神世界で彼等を復活させるのが最大の目的である。
「私は最早後戻り出来ない段階へと到達したのだ!最上級妖女の月影桜花姫よ…其方は私の神術で再度地獄の世界に招待されるか!?天空魔獣の天魔大皇帝によって陸地諸共食い殺されるか!?如何する!?」
すると天狐如夜叉は天道天眼を発動…。
「最早長話は無用である!三人の身動きを半永久的に封殺する!」
直後である。
「なっ!?」
「えっ!?」
天狐如夜叉の金縛りによって八正道とアクアヴィーナスは身動き出来なくなる。
「八正道様!?アクアヴィーナス!?」
『金縛りでしょうか?肉体の動作が…』
八正道は身動きしたいが金縛りにより身動き出来ない。
『彼女の魔法かしら?私…身動き出来ないよ…』
アクアヴィーナスは涙腺より涙が零れ落ちる。
「非力である二人の身動きは封殺出来たが…月影桜花姫…最上級妖女である其方には私の金縛りが通用しなかったか…」
桜花姫には天狐如夜叉の金縛りが発動されず自由自在に身動き出来たのである。桜花姫は鬼神の形相で天狐如夜叉を睥睨する。
「天狐如夜叉…神族でもあんたみたいな傍若無人の神族は本当に気に入らないわ!」
『蛇体如夜叉婆ちゃんからは此奴を救済してって依頼されちゃったけれど…彼女を相手に手加減なんて出来ないわね!』
天道天眼を所持する天狐如夜叉に対抗するには全身全霊で挑戦しなくては接戦出来ないと確信する。
『天狐如夜叉を相手に中途半端の妖力では今度こそ地獄の世界に逆戻りね…』
桜花姫も天道天眼を発動したのである。天道天眼を発動すると桜花姫の妖力が通常よりも数千倍へと増大化する。
「桜花姫も神族の眼光を発動したか…其方が神族の眼光を発動したとしても私の木刀は妖力を吸収する神器!其方が勝利する可能性は皆無であるぞ…」
天狐如夜叉の木刀は妖星巨木の小枝から形作られた神器の一部であり妖力による攻撃は木刀に吸収される。桜花姫は恐る恐る後退りする。
『天道天眼を使用出来ても…単独で彼女の暴走を阻止出来るかしら?』
すると直後である。八正道の所持する退魔霊剣がカタカタッと振動し始める。
『退魔霊剣が勝手に振動し始めるなんて…超常現象でしょうか?』
退魔霊剣がカタカタッと不自然に振動し始めたかと思いきや…。退魔霊剣が不自然に空中を浮遊し始めたのである。数秒後…。
「えっ?」
退魔霊剣は桜花姫の目前へと落下したのである。
『八正道様の退魔霊剣かしら?如何してこんな場所に?ひょっとして私に退魔霊剣を所持しろと?』
摩訶不思議の超常現象であったが…。
『正直剣術とか…武術は人一倍苦手だけれど…』
桜花姫は武器の使用は不本意であるが恐る恐る退魔霊剣を所持したのである。
「ん?退魔霊剣だと?」
『天道金剛石の刀剣か?』
天狐如夜叉は桜花姫に警戒し始める。
『退魔霊剣なら愚鈍の私でも天狐如夜叉に対抗出来るかも知れないわね!』
桜花姫と天狐如夜叉は無言で対峙したのである。
第十四話
霊魂
桜花姫と天狐如夜叉が交戦し始めた同時刻…。
『私は今後…如何すれば?』
山猫妖女の小猫姫は南国の山道にて歔欷したのである。
『蛇体如夜叉婆ちゃんは死んじゃったし…桜花姫姉ちゃんには絶縁されちゃったし…所詮私なんて…一人では何も出来ないよ…』
小猫姫は誰一人として味方が存在せず…。絶望したのである。
『私は…今後如何するべきなのよ?蛇体如夜叉婆ちゃん…所詮私なんて…』
すると直後…。背後より摩訶不思議の気配を感じる。
「えっ…」
『何だろう?』
背後には全身白色の大蛇が歔欷し続ける自暴自棄の小猫姫を凝視したのである。
「白蛇なのかな?」
『随分巨体だけど…』
小猫姫は警戒した様子で恐る恐る白色の大蛇に近寄り始める。
『神秘的だな…』
白色の大蛇は非常に神秘的であり小猫姫は見惚れる。白色の大蛇に接触した直後である。白色の大蛇が人語で…。
「山猫妖女の小猫姫よ!久し振りだね!」
大蛇は満面の笑顔で発言し始めたのである。
「えっ!?大蛇が喋った!?」
突如として人語で発言する白色の大蛇に小猫姫は驚愕する。
「如何して貴方は私の名前を!?貴方は一体何者なの!?」
「小猫姫…別に吃驚しなくても!」
問い掛けられた白色の大蛇は満面の笑顔で即答したのである。
「私だよ!私!私は蛇神の蛇体如夜叉さ!」
白色の大蛇は自身を蛇神の蛇体如夜叉と名乗り始める。
「えっ…蛇体如夜叉婆ちゃん!?白蛇の正体は蛇体如夜叉婆ちゃんなの!?」
「勿論…私だよ!小猫姫!」
問い掛けられた蛇体如夜叉は満面の笑顔で即答する。大蛇の両目の瞳孔を直視し続けると故人の蛇体如夜叉の面影が感じられる。
「本当だ…」
『両目は蛇体如夜叉婆ちゃんだね…』
小猫姫は白色の大蛇の正体が蛇体如夜叉であると確信する。
「蛇体如夜叉婆ちゃん…」
小猫姫は再度落涙したのである。
「蛇体如夜叉婆ちゃん!」
小猫姫は力一杯蛇体如夜叉に密着し始める。
「小猫姫よ…あんたは本当に甘えん坊だね!」
すると蛇体如夜叉は小声で…。
「心配させちゃったね…御免ね…小猫姫…今迄辛かっただろう?」
「正直ね…」
蛇体如夜叉に問い掛けられた小猫姫は小声で返答したのである。
「小猫姫…やっぱりあんたは人一倍正直者で純粋無垢だね…」
すると小猫姫は恐る恐る…。
「蛇体如夜叉婆ちゃんは老衰で死んじゃったのに…如何してこんな場所に?ひょっとして蛇体如夜叉婆ちゃんの幽霊なの?」
「今現在の私は肉体こそ寿命で消滅しちゃったけれどね!私の霊魂は自然界と一体化したのさ!」
蛇体如夜叉は小猫姫の問い掛けに即答したのである。
「蛇体如夜叉婆ちゃんの霊魂が自然界と一体化したのは本当だったのね…」
蛇体如夜叉は肉体としての死後…。小猫姫の様子を見守った蛇体如夜叉であるがメソメソし続ける小猫姫を心配したのである。
「私はあんたの様子が気になってね…」
蛇体如夜叉は本来の姿形であるが一時的に実体化…。出現したのである。
「蛇体如夜叉婆ちゃん…私はね…」
小猫姫は死にたくなり自害し掛けた事実は勿論…。桜花姫との軋轢から姉貴分の桜花姫に絶縁させられた事実を洗い浚い告白したのである。
「小猫姫は桜花姫ちゃんと絶縁しちゃったのかね…」
小猫姫の告白に蛇体如夜叉も悲痛に感じる。
「私は…二度と桜花姫姉ちゃんとは…仲直り出来ないかも…」
小猫姫の再度涙腺から涙が零れ落ちる。
「私は…本当は桜花姫姉ちゃんと仲直り出来るなら…仲直りしたいよ…出来るなら元通りの生活に戻りたいの…」
蛇体如夜叉は桜花姫と仲直りしたいと本音を告白した小猫姫に満面の笑顔で…。
「小猫姫!安心しな!御免なさいって普通に謝罪すれば桜花姫ちゃんと仲直り出来るからね!当然八正道もね!」
「えっ…私は桜花姫姉ちゃんや八正道様と…仲直り出来るかな?大丈夫なの?」
小猫姫は桜花姫と仲直り出来るのか非常に不安に感じる。
「あんたは心配性だね…小猫姫!」
蛇体如夜叉は再度満面の笑顔で断言したのである。
「桜花姫ちゃんは基本的に人間関係では無欲恬淡だからね!小猫姫が想像する以上にね!あんたは心配しなくても大丈夫だよ!」
小猫姫は内心不安であったが…。
「私は…桜花姫姉ちゃんと八正道様に謝罪するよ!蛇体如夜叉婆ちゃん!」
小猫姫は二人への謝罪を決意したのである。
「小猫姫!」
『元通りの小猫姫だね!』
蛇体如夜叉は小猫姫の前向きな姿勢に一安心する。すると蛇体如夜叉は小猫姫を直視すると大昔のとある人物を想起したのである。
「小猫姫…あんたは小梅姫って名前の妖女と瓜二つだね…」
「えっ?小梅姫って誰なの?蛇体如夜叉婆ちゃん?」
「小梅姫はね…大昔に存在した元祖妖女…桃子姫の愛娘だよ!」
「桃子姫って?五百年前の元祖妖女の…彼女の愛娘が私に瓜二つなの?」
小猫姫は桃子姫の名前に反応する。
「勿論だよ!あんたと小梅姫は瓜二つだね…人一倍正義感で人懐っこいし!」
蛇体如夜叉が孤児であった小猫姫を養子として出迎えた理由は小梅姫と瓜二つであり小猫姫が小梅姫の再来であると察知したからである。すると蛇体如夜叉は再度笑顔で…。
「ひょっとすると小猫姫は小梅姫の再来なのかも知れないね!」
「えっ?こんな私が…」
『元祖妖女…桃子姫の…愛娘の再来なのね!』
小猫姫は赤面するが内心では大喜びしたのである。一瞬であるが…。小猫姫はニコッと微笑み始める。
「おっ!小猫姫…如何やら笑顔が戻ったみたいだね!」
蛇体如夜叉は小猫姫の笑顔に大喜びする。
「えっ?」
小猫姫は赤面したのである。
「やっぱり小猫姫には笑顔が一番だよ!」
「蛇体如夜叉婆ちゃん…」
すると直後…。
「えっ!?蛇体如夜叉婆ちゃん!?」
実体化した蛇体如夜叉の肉体であるが突如として半透明化し始めたのである。
「蛇体如夜叉婆ちゃんの肉体が…半透明に…」
「如何やら時間みたいだね…小猫姫…」
「えっ…」
蛇体如夜叉は最後に…。
「小猫姫!恐らく今後も大変かも知れないけどね…あんたはあんたらしく大勢の村人達と仲良く生活しな!あんたは人一倍甘えん坊だけど人懐っこい性格だから大丈夫だよ!勿論桜花姫ちゃんや八正道とも仲良くね!間違っても自害だけは絶対に実行しないでね…」
「蛇体如夜叉婆ちゃん…」
「時たまだけど…私の墓参りは忘れないでね!約束だよ!小猫姫!」
「絶対に約束するよ!蛇体如夜叉婆ちゃん…墓参りも忘れないから!」
小猫姫は再度落涙し始める。
「小猫姫…最後だけどね!私にとって…あんたとの生活は毎日が幸福だったよ!私にとってあんたは…自慢の孫娘だからね!」
「蛇体如夜叉婆ちゃん…」
「感謝するね…小猫姫!元気でね!」
半透明化した蛇体如夜叉の肉体が完全に消滅したのである。
「えっ…」
『蛇体如夜叉婆ちゃんの…肉体が…』
蛇体如夜叉の消滅に小猫姫は寂然と感じるのだが…。
「私…」
『八正道様の寺院に戻ろう!』
小猫姫は桜花姫と八正道への謝罪を決意する。
『私は戻って桜花姫姉ちゃんと八正道様に謝罪しないと!』
正直不安であるが…。小猫姫は八正道の寺院へと直行したのである。
第十五話
神世界
小猫姫が行動を開始し始めた同時刻…。寺院の庭園では桜花姫と天狐如夜叉が対峙したのである。
「其方は完膚なきまでに死滅せよ!亡者の集合体…月影桜花姫よ!」
天狐如夜叉は護身用の木刀に自身の神力を集中…。木刀の剣先から蛍光色の雷球を形成させたのである。
『高熱の雷球だわ…』
桜花姫は天狐如夜叉の攻撃に警戒する。
「死滅するのだ…桜花姫!」
天狐如夜叉は蛍光色の雷球を形成させた直後…。木刀の剣先から蛍光色の雷球を発射したのである。蛍光色の雷球が桜花姫に急接近するのだが…。
『こんな攻撃で!』
桜花姫は退魔霊剣で一振りする。直前に天狐如夜叉の雷球を消滅させたのである。
「あんたの攻撃なんか…私には通用しないわよ!」
桜花姫は天狐如夜叉に挑発する。
「月影桜花姫よ…自身の妖力のみで私の神力を消滅させるとは…以前よりも強大化したな…」
「今度は私の出番みたいね!天狐如夜叉!」
桜花姫は自身の妖力を退魔霊剣の白刃に凝縮させたのである。すると銀色に光り輝く退魔霊剣の白刃は血紅色の妖力に覆い包まれ…。肉眼でも妖力を視認出来る。
「其方の所持する刀剣は本物の妖刀だな…肉眼でも直視出来るとは…」
天狐如夜叉は勿論…。
『血紅色の妖力…退魔霊剣は本物の妖刀みたいですね…』
所有者である八正道も血紅色の妖力に覆い包まれた退魔霊剣を直視すると正真正銘妖刀であると感じる。
「覚悟しなさい!」
桜花姫は血紅色の妖刀へと変化した退魔霊剣を一振りする。妖力に覆い包まれた退魔霊剣を一振りした直後…。退魔霊剣の効力からか寺院の表門を消滅させる程度の衝撃波を発生させたのである。
「えっ…」
寺院の前方近辺より推定二百メートル規模のクレーターが形作られる。
『一振りだけでこんなにも威力が…』
桜花姫は勿論…。所有者の八正道は間近で退魔霊剣の威力を直視すると愕然としたのである。
『桜花姫様が退魔霊剣に妖力を集中させただけで…こんなにも絶大なる威力を発揮出来るなんて…最強の桜花姫様に退魔霊剣とは鬼に金棒ですね…』
八正道は退魔霊剣の威力に戦慄する。一方のアクアヴィーナスも…。
『恐らくは桜花姫の魔力の効力よね…深海底では最強の魔女だったダークスキュランと…彼女の親玉であるアビスエキドナスが桜花姫に撃退されちゃうのも納得だわ…』
するとクレーターの中心部より結界を構築した天狐如夜叉が浮遊したのである。
「桜花姫の妖力は絶大なる高威力だな…其方の力量は下等生命体である其処等の妖女のみならず…下手すると十二人の最高神にも相当するかも知れないな…」
「私が…最高神に相当ですって?」
天狐如夜叉は東国最高峰…。天空山の方向を眺望したのである。
『私は主目的を達成しなくては!桜花姫と彼女の仲間達を排除するのは後回しだな…一先ずは…』
天狐如夜叉は自身の主目的を優先…。
「私は退避する…」
突如として天狐如夜叉の姿形がパッと消失する。
「天狐如夜叉!?」
『彼女に逃げられちゃったわ…残念ね…』
桜花姫は金縛りによって身動き出来なくなった八正道とアクアヴィーナスの金縛りを解除したのである。
「えっ!?私達…自由に身動き出来るわ!」
「感謝しますね!桜花姫様!今回も桜花姫様に救済されましたね!」
八正道とアクアヴィーナスは命拾い出来…。桜花姫に感謝する。
「桜花姫…貴女は本当に最強ね…」
アクアヴィーナスはビクビクした様子で桜花姫が最強であると発言したのである。
「当然でしょう!私は最上級妖女の月影桜花姫だからね!」
桜花姫は満面の笑顔で二人に返答する。
「ですが桜花姫様が退魔霊剣を一振りしただけで…二町規模の陸地が一掃されるなんて衝撃ですね…」
八正道は退魔霊剣が人間である自身よりも妖女である桜花姫が所持するのが相応しいと感じる。
『ひょっとすると退魔霊剣は私みたいな人間よりも人外の妖女が所持してこそ…本来の効力を発揮出来るのかも知れませんね…』
直後である。
「えっ!?」
退魔霊剣が虹色に発光したかと思いきや…。巫女装束の小柄の女性が虹色に光り輝く退魔霊剣の白刃から出現したのである。
「きゃっ!」
「うわっ!退魔霊剣から巫女の女性が…彼女は何者でしょうか?」
八正道とアクアヴィーナスは驚愕する。巫女装束の女性は人外であるものの…。実体化した存在である。
「桜花姫!?彼女は一体何者なのよ!?」
アクアヴィーナスはソワソワした様子で桜花姫に問い掛ける。
「はぁ…あんたね…」
一方の桜花姫は冷静であり実体化した巫女装束の女性に呆れ果てる。
『誰かと思いきや…』
桜花姫は突如として実体化した巫女装束の女性に恐る恐る…。
「あんたは妖星巨木の精霊かしら?あんたは人騒がせね…」
巫女装束の女性とは妖星巨木の精霊だったのである。
「月影桜花姫と彼女の仲間達よ…私だぞ…」
妖星巨木の精霊は即答する。
「八正道様から退魔霊剣を私に手渡ししたのはあんたかしら?」
「無論である…」
するとアクアヴィーナスは恐る恐る…。
「桜花姫?彼女は一体何者なの?あんたの知人かしら?」
アクアヴィーナスの問い掛けに桜花姫は満面の笑顔で返答する。
「彼女は世界樹の妖星巨木の精霊なのよ…姿形は小柄の美少女だけど…本体は世界樹の樹木だからね!厳密には世界樹が擬人化した超自然的存在かしら?」
「貴女様は妖星巨木の精霊でしたか…」
『妖星巨木の精霊がこんなにも美人の女性だったとは!彼女が地上世界の造物主なんて衝撃的ですな!』
八正道は妖星巨木の精霊に見惚れたのか赤面したのである。
「其方は僧侶の身分であるが…こんな見ず知らずの私に見惚れたのか?其方は僧侶の身分で相当の物好きみたいだな…」
妖星巨木の精霊に問い掛けられた八正道は動揺し始める。
「えっ!?私は別に…何も貴女様に対する恋心は…」
八正道は必死に誤魔化したのである。
『やっぱり八正道様は相当の物好きなのね!』
桜花姫は八正道の様子にニコッと微笑み始める。すると妖星巨木の精霊は八正道を直視するとボソッと発言したのである。
「如何やら其方が桜花姫の理解者である人間の僧侶みたいだな…悪霊の集合体…邪霊餓狼に憑霊されても健康体とは意気衝天だな…」
「意気衝天こそが私にとって最大の美点ですからね!邪霊餓狼に憑依されたとしても私は一生涯現役ですよ!」
八正道は妖星巨木の精霊に一生涯現役であると断言する。
「熱血漢の其方であれば…神出鬼没の悪霊に憑霊されても大丈夫そうだな…肉体的にも頑丈そうだ…」
すると今度は桜花姫が発言したのである。
「妖星巨木の精霊…あんたは今迄雲隠れしたのね…」
妖星巨木の精霊は雲隠れした状態で桜花姫の背後に追尾…。今迄桜花姫と同行したのである。
「桜花姫よ…やっぱり其方には見破られたか…」
「当然でしょう!私に雲隠れしても気配で察知出来るのよ!雲隠れしたって私は簡単に見破っちゃうからね!」
桜花姫は最初から妖星巨木の精霊が自身の背後に追尾したのを察知する。
「先程の絶大なる妖力だ…今現在の其方であれば天狐如夜叉の暴走を阻止出来るかも知れないな…」
「早速!天狐如夜叉を追尾しちゃいましょう!」
「勿論ですとも!桜花姫様!即刻神族の天狐如夜叉を降参させ…騒動の黒幕である彼女の暴走から私達の俗界を守護しましょう!」
するとアクアヴィーナスが恐る恐る…。
「桜花姫?彼女の居場所は?逃げられちゃったけど彼女を追尾出来るの?」
「アクアヴィーナス!心配しなくても天狐如夜叉の居場所なら千里眼の妖術で把握したから大丈夫よ!」
桜花姫は天狐如夜叉が撤退した直後に千里眼の妖術を発動…。天狐如夜叉の居場所を正確に把握出来たのである。
「天狐如夜叉の居場所は天空山の頂上だからね!」
「天空山とは…東国の最高峰ですね…」
天狐如夜叉は天空山の頂上にて逃亡…。潜伏したのである。
「早速天空山に移動しましょう!私達は天狐如夜叉を追撃するのよ!」
「勿論ですとも!桜花姫様!即刻天狐如夜叉を追撃しましょう!私達で彼女の暴走を徹底的に阻止するのです!」
一同は天空山へと移動する直前…。
「ん?」
とある白猫が出現する。
「えっ…」
『何かしら?白猫?』
白猫が桜花姫の目前に接近したのである。
「白猫だわ…」
桜花姫は恐る恐る白猫に接触する。
「こんな場所に白猫が…野良猫でしょうか?随分人懐っこいですね…」
「白猫は人懐っこいわね…桜花姫が大好きなのかしら?」
八正道とアクアヴィーナスも人懐っこい白猫に注目したのである。すると直後…。突如として白猫の肉体から白煙が発生したのである。
「えっ?」
白猫が白煙に覆い包まれたかと思いきや…。ポンッと小柄の美少女が出現する。
「えっ!?白猫が人間の女の子に!?」
アクアヴィーナスは驚愕したのである。
「誰かと思いきや…あんたは山猫妖女の小猫姫…」
白猫の正体は誰であろう山猫妖女の小猫姫…。彼女だったのである。
「白猫の正体はあんただったのね…小猫姫…」
一方の小猫姫は恐る恐る桜花姫を凝視し始める。
「桜花姫姉ちゃん…私だよ…」
先程の軋轢により桜花姫も小猫姫も非常に気まずいのか二人の表情が強張る。
「えっ…」
『桜花姫様…小猫姫様…』
二人の様子から八正道は勿論…。アクアヴィーナスも動揺したのである。
『桜花姫?如何しちゃったのかしら?こんなにも表情が強張るなんて…』
気まずい雰囲気からか空気が重苦しくなる。
『二人の表情が…非常に気まずいですね…』
『何かしら?重苦しい空気だわ…私達は場違いそうね…』
八正道とアクアヴィーナスは二人の気まずい雰囲気に恐る恐る後退りし始める。
「小猫姫…」
「桜花姫姉ちゃん…」
部外者の八正道とアクアヴィーナスは当然であるが…。当事者の桜花姫と小猫姫も内心気まずい空気であると感じる。小猫姫は多少強張った表情であったが…。涙腺から涙が零れ落ちる。
「桜花姫姉ちゃん…八正道様…心配させちゃって御免なさい!」
小猫姫は桜花姫と八正道の二人に謝罪したのである。
「小猫姫様…」
「小猫姫…」
一方の桜花姫も涙腺より涙が零れ落ちる。
「私こそ御免なさいね…小猫姫…」
「えっ…桜花姫様…」
「桜花姫が…」
『無慈悲の桜花姫でも落涙するのね…正直意外だわ…』
八正道とアクアヴィーナスは落涙し始めた桜花姫の様子に驚愕したのである。
「私は妹分の小猫姫に絶縁なんて…最低だよね…」
「私だって…私だって何度も自害し掛けて!桜花姫姉ちゃんや八正道様を心配させちゃったから…私こそ最低だよ!」
すると桜花姫は満面の笑顔で…。
「私は何時迄もあんたの姉貴分だから心配しないでね!」
桜花姫の発言に小猫姫も満面の笑顔で返答する。
「勿論だよ!私だって何時迄も桜花姫姉ちゃんの妹分だからね!」
桜花姫と小猫姫は満面の笑顔で断言し合ったのである。
「金輪際自害は禁止だからね…小猫姫…約束出来るわよね?」
桜花姫の問い掛けに小猫姫は満面の笑顔で…。
「私は大丈夫よ…桜花姫姉ちゃん!私は蛇体如夜叉婆ちゃんとも約束したから!」
「えっ…」
桜花姫は小猫姫の発言に一瞬絶句する。
「小猫姫?蛇体如夜叉婆ちゃんって?」
小猫姫は先程の摩訶不思議の出来事を洗い浚い告白したのである。
「霊体だったけれど…蛇体如夜叉婆ちゃんとも再会出来たから…私なら大丈夫だよ!吹っ切れたからね!桜花姫姉ちゃん!」
「ひょっとすると蛇体如夜叉婆ちゃんは…余程小猫姫が心配だったみたいね…」
『今現在の小猫姫の様子なら…蛇体如夜叉婆ちゃんも安心出来るよね…』
桜花姫は勿論…。
「一件落着です!何はともあれ桜花姫様と小猫姫様が無事に仲直り出来たので一安心ですね!正直私自身もホッとしましたよ!」
八正道も小猫姫の吹っ切れた様子に一先ずホッとしたのである。
「小猫姫との関係改善は一件落着だけど…天狐如夜叉…今度は彼女の暴走を阻止しないとね…」
「天狐如夜叉って…誰なの?桜花姫姉ちゃん?」
小猫姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「天狐如夜叉は神族の一人でね…蛇体如夜叉婆ちゃんの大昔の悪友なのよ…」
「蛇体如夜叉婆ちゃんの…大昔の悪友?」
「私は彼女を復讐心から…解放するのよ…」
普段の桜花姫であれば敵対者が非力の人間であっても我先にと征伐するのだが…。今回ばかりは異例中の異例だったのである。
「桜花姫様…」
「桜花姫姉ちゃん…」
今回の桜花姫は誰しもが異例中の異例であると感じる。すると小猫姫は真剣そうな表情で…。
「桜花姫姉ちゃん!私にも協力させてよ!私も桜花姫姉ちゃんの妹分として協力したいからね!」
桜花姫は小猫姫の前向きな意気込みにニコッと微笑んだのである。
「勿論よ!小猫姫!姉貴分の私に協力してね!」
桜花姫一行は再度直行する寸前…。
「最上級妖女の月影桜花姫ちゃん!悪友の私を放置するなんて…あんたは本当に意地悪よね!」
今度は粉雪妖女の雪美姫が出現したのである。
「あんたは粉雪妖女の雪美姫?」
すると雪美姫はアクアヴィーナスの存在に気付いた直後…。
「えっ?あんたは誰よ?異国の人間かしら?」
雪美姫はアクアヴィーナスを凝視したのである。
「えっ…」
アクアヴィーナスはビクビクした様子で恐る恐る名前を名乗り始める。
「私は…アクアユートピアの…アクアヴィーナスです…」
アクアヴィーナスは小声であり雪美姫は内心苛立ったのである。
「あんたは…アクアヴィーナスですって?」
すると桜花姫が満面の笑顔でフォローする。
「彼女は人魚王国…アクアユートピアの人魚で私の悪友なのよね♪アクアヴィーナスは人一倍気弱だから彼女には意地悪しないでね♪雪美姫♪」
「あんたは異国の人魚なのね…」
『彼女…取っ付き難そうな性格だわ…挙動不審で根暗っぽいし…相性的にも私とは仲良く出来なさそうな雰囲気ね…正直彼女は苦手かも知れないわ…』
雪美姫は内心内気のアクアヴィーナスと仲良くするのは困難であると感じる。桜花姫は周囲を確認する。
「私にとっての身内は…全員!集合したわね!」
桜花姫は恐る恐る一息したのである。
「恐らくだけど今回は今迄の戦闘とは比較出来ない大激戦が予想されるわ…各自…自宅に戻りたかったら遠慮せずに戻りなさい!今回ばかりは無理強いしないから!」
桜花姫の発言に一同は即答する。
「桜花姫様!今回の戦闘が前代未聞の大激戦であっても…私はいつ何時であっても桜花姫様に同行しますからね!」
「私だって桜花姫姉ちゃんに同行するよ!私は桜花姫姉ちゃんの妹分だからね!」
「まぁ…一人で自宅に戻っても退屈だからね…今回ばかりはあんたの悪友として桜花姫の大活躍を見届けるわ!」
「私は何も出来ないけれど…私も貴女に同行するわ…桜花姫…」
今度はアクアヴィーナスも小声で返答したのである。
「月影桜花姫よ…」
今度は妖星巨木の精霊も…。
「是非とも最上級妖女としての其方の奮闘…見届けるか!恐らく今回は空前絶後の大戦闘が予想されるだろうからな!」
桜花姫の発言に一同は同行を覚悟する。
「あんた達!」
『やっぱり最高の仲間達ね!』
桜花姫は内心仲間達の同行に大喜びしたのである。
「早速天空山の頂上に移動するわよ!」
桜花姫は口寄せの妖術を発動する。自分自身の肉体と一同を天空山の頂上を目標に瞬間移動…。桜花姫一行は目的地である天空山の頂上へと無事に到達出来たのである。
「口寄せの妖術…成功ね!」
「天空山の頂上ですか…頂上からの景色は非常に絶景ですな!桜花姫様!」
「私達は…一瞬で天空山に到達しちゃったのね…」
周辺の景色を眺望すると桃源郷神国各地の村里全域が眺望出来る。
「絶景の景色だわ!桜花姫!今日が観光だったら最高なのにね…」
観光なら最高であると発言する雪美姫に桜花姫が満面の笑顔で…。
「雪美姫♪天狐如夜叉の問題を片付けてから思う存分に観光しちゃえば♪」
今度は小猫姫が恐る恐る問い掛ける。
「桜花姫姉ちゃん?天狐如夜叉は?」
「天狐如夜叉はね…」
すると一同の背後より一人の小柄の女性が無表情で佇立する。
「天空山に到達するとは…皆の衆は非常に幸運であったな…」
「あんたは天狐如夜叉!?」
桜花姫一行は背後の天狐如夜叉に驚愕したのである。
「皆の衆よ…空前絶後の儀式を開始するぞ…」
「空前絶後の儀式ですって?あんたは一体何を?」
桜花姫が問い掛けると天狐如夜叉はニヤッとした表情で…。
「月影桜花姫と…彼女の仲間達よ…幸運であったな!皆の衆は神族の眼光…所謂天道天眼の本当の効力を体感出来るのだからな!」
「天道天眼の…本当の効力ですって?」
今度は妖星巨木の精霊が警戒した様子で恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。
「天狐如夜叉よ…其方は本気なのか?儀式を発動すれば何もかもが…」
「無論私は本気だとも…最早後戻りは出来ないからな!」
天狐如夜叉は即答したのである。天狐如夜叉の返答に妖星巨木の精霊はソワソワした様子で身震いし始める。
「えっ…妖星巨木の精霊?大丈夫なの?」
桜花姫は恐る恐る妖星巨木の精霊に問い掛ける。普段は物静かな妖星巨木の精霊であるが…。
「皆の衆!彼女は危険だぞ!」
妖星巨木の精霊は非常にソワソワした様子であり妖星巨木の精霊の様子から一同は絶句する。
「えっ!?天狐如夜叉が危険ですと!?一体何が危険なのですか!?妖星巨木の精霊様!?」
「一体如何しちゃったのよ!?妖星巨木の精霊!?」
「天狐如夜叉は一体何を!?」
突如として天狐如夜叉に畏怖し始めた妖星巨木の精霊の反応に桜花姫一行は動揺したのである。
「皆の衆!彼女の儀式によって死にたくなければ精霊の私か桜花姫の肉体に接触するのだ!天狐如夜叉は本気だ!」
「えっ…本気って?」
「儀式って…天狐如夜叉は一体何を開始するのよ!?」
周囲の者達は何が何やらサッパリであり状況を理解出来ない。妖星巨木の精霊は周囲の反応に必死に勧告したのである。
「兎にも角にも!彼女の儀式で死にたくなければ私か桜花姫に接触するのだ!天狐如夜叉は本気だぞ!皆の衆は死にたいのか!?」
精霊の突然の指示に混乱した一同であるが…。一同は恐る恐る精霊の指示に承諾したのである。八正道と雪美姫には妖星巨木の精霊が接触…。アクアヴィーナスと小猫姫には桜花姫が接触したのである。すると数秒後…。
「相応の神力は蓄積されたぞ…愚劣なる者達よ!絶望せよ!体感するのだ!神世界が再興される瞬間を!」
天狐如夜叉は再度天道天眼…。神族の眼光を発動する。
「神聖なる神族を除外する…森羅万象の愚劣なる生命体…冥界の愚劣なる亡者達よ!神聖なる神族の神世界から…完膚なきまでに浄化されよ!」
直後である。地上世界全域の人間達は勿論…。森羅万象に存在するあらゆる生命体が粒子状の発光体へと変化し始める。数秒後…。あらゆる生命体は消滅の儀式によって完膚なきまでに消滅したのである。
「えっ…何かしら?」
近場の道場で剣術修行中だった忍者妖女…。躑躅姫は自身の肉体の変化に気付いたのである。
『一体何が!?』
粒子状の発光体に変化し始める自身の肉体に戦慄し始め…。
「きゃっ!」
『私は!?二度も死にたくないよ…』
躑躅姫は完膚なきまでに消滅したのである。一方深海底地帯のアクアユートピアではアクアヴィーナスの母親であるアクアキュベレーが…。
「えっ!?」
『全身が!?一体何事なの!?』
アクアキュベレーは消滅し始めた自身の肉体に恐怖する。
『アクアヴィーナス…私は…』
アクアキュベレーは肉体諸共完膚なきまでに消滅したのである。一方国境のダークスキュランはアクアユートピア全体をシールド魔法で守護するのだが…。
「えっ?」
ダークスキュランは恐る恐る消滅し始める自身の肉体を認識したのである。
『ひょっとして消滅の…魔法かしら?』
ダークスキュランは消滅の恐怖よりも空虚に感じられる。
『結局私は…二度も殺されるのね…』
深海底の人魚王国アクアユートピアの人魚達は勿論…。海中の生物達も完膚なきまでに消滅したのである。同時刻…。危険区域とされる失楽園のブルーデストピアでも同様の超自然的現象が発生したのである。
「えっ?」
深海底魔女のダークスプライトも粒子状に消滅し始める。
「何かしら?」
『世界の消滅魔法だわ…私を消滅させられるなんて…神族の制裁なのかしら?全世界は…滅亡する運命なのね…』
ダークスプライトも完膚なきまでに消滅したのである。同時刻…。死後の世界とされる地獄の世界では各地の亡者達が粒子状の発光体に変化したのである。
「はっ?」
『一体…何事だ?』
地獄の住人である月影幽鬼王は周囲の悪霊が消滅する光景を直視する。
『亡者達が…消滅だと?』
突然の超常現象に幽鬼王でさえもハッとしたのである。
『如何して亡者達は消滅したのだ?』
周囲の悪霊が粒子状の発光体に変化し始め…。完膚なきまでに消滅したのである。
『非常に不自然だな…一体何が発生したのか?』
幽鬼王は自身の肉体を直視する。
「ん?」
無数の粒子状の発光体へと変化…。肉体が消滅し始める。
「畜生が…」
『気に入らないな…俺も消滅するのかよ…』
幽鬼王自身も周囲の亡者達と同様完膚なきまでに消滅したのである。死後の世界である地獄の世界は虚無の世界であり亡者達の霊体は何一つとして存在しない。
第十六話
和解
消滅の儀式が終了した同時刻…。天空山の頂上では術者の天狐如夜叉が桜花姫一行を凝視する。
「非常に残念であったな…桜花姫一行だけは無事であったか…」
天狐如夜叉は無事だった桜花姫一行に落胆したのである。
「神族の儀式をも間一髪で回避するとは…桜花姫一行は誰よりも強運であるな…」
「私達が…幸運ですって?」
すると雪美姫が恐る恐る…。
「えっ…一体何が発生したのよ!?結局神族の儀式って何だったのよ!?」
雪美姫に問い掛けられた天狐如夜叉は即答する。
「先程の神族の儀式で何が発生したのか?神聖なる神族を除外する低次元の下劣なる下等種族を…存在諸共完膚なきまでに消滅させたのだ!今現在下劣なる下等種族で無事なのは天空山の桜花姫一行だけだぞ…」
「なっ!?」
「存在を…消滅ですって!?」
天狐如夜叉の発言に一同は絶句したのである。
「地上世界のあらゆる下等生命体達は無論…冥界の薄汚い亡者達も全員駆除したからな!神族の統治する神聖なる神世界に薄汚い害虫の存在は相応しくない…薄汚い害虫は駆除して当然であろう?」
天狐如夜叉の発動した消滅の神術により地上世界は勿論…。死後の世界である冥界は虚無地帯であり今現在地上世界で無事なのは桜花姫一行だけである。
「神族の眼光と神通力を所持する月影桜花姫と…妖星巨木の精霊を駆除出来かったのは非常に残念だ…桜花姫一行は人一倍幸運であったな…」
天道天眼に対抗出来るのは神通力か天道天眼を所持する特異的妖女か妖星巨木のみとされ天狐如夜叉の消滅の効力でも桜花姫と妖星巨木は消滅を無効化出来…。桜花姫と妖星巨木の精霊に接触した一同も無事だったのである。
「えっ…私の…アクアキュベレー母様は?」
「勿論アクアユートピアの人魚達も完膚なきまでに消滅したからな…最早暗闇の海中にも生命体は何一つとして存在しないのだ…」
天狐如夜叉は恐る恐る問い掛けるアクアヴィーナスに即答する。
「えっ…」
『アクアキュベレー母様が…消滅ですって?』
実母のアクアキュベレーの消滅にアクアヴィーナスは落涙し始めたのである。
「母様が死んじゃうなんて…」
「アクアヴィーナス…」
桜花姫は落涙するアクアヴィーナスに極度の悲痛さを感じる。
「下等の生命体が…」
『いい気味だな…』
一方の天狐如夜叉は落涙し続けるアクアヴィーナスの様子に冷笑したのである。
「勿論…其方も仕留めるから安心しろ…か弱き人魚の小娘よ…」
冷笑する天狐如夜叉に八正道は全身が身震いし始める。
「天狐如夜叉…貴女様は!」
天狐如夜叉の横暴さに腹立たしくなった八正道は即座に護身用の連発銃を所持し始め…。恐る恐る弾丸を装填させたのである。
「天狐如夜叉!貴女様だけは!」
周囲の者達は八正道の様子に愕然とする。
「えっ!?八正道様!?」
「八正道!?」
八正道は鬼神の形相で天狐如夜叉に怒号したのである。
「何が神族ですか!?何が神世界ですか!?崇高なる神族であったとしても貴女様みたいな極悪非道の大悪党は絶対に看過出来ません!」
一方の天狐如夜叉は八正道の言動に呆れ果てる。
「其方は醜悪なる人間の分際で…神族である私を大悪党と侮辱するとは…其方は命知らずの愚か者だな…余程死にたいのか?」
「貴女みたいな極悪非道の神族は!」
今現在の八正道は正真正銘鬼神の形相であり天狐如夜叉を睥睨したのである。
「えっ…八正道様?」
『普段は誰よりも大仏様みたいな八正道様が…こんなにも感情的なんて…』
八正道の様子に桜花姫は勿論…。
「えっ…」
『八正道様が…本物の仁王様みたい…』
『八正道って…こんな鬼神みたいな形相の人間だったっけ?』
小猫姫と雪美姫も天狐如夜叉に睥睨し続ける八正道の形相に戦慄したのである。桜花姫は恐る恐る…。
「八正道様…あんまり彼女に反抗し過ぎると何を仕出かすか…」
桜花姫はビクビクした様子で八正道を制止したのである。
「ですが桜花姫様!彼女は大勢の民衆達は勿論!地上世界のあらゆる動物達を消滅させた極悪非道の大悪党なのですよ!今回の大罪は崇高なる神族であっても絶対に許容出来ません!」
「八正道様…相手は本物の神族なのよ!?天狐如夜叉に反抗すれば…今度は八正道様が彼女に殺されちゃうわ!」
桜花姫は必死に八正道を制止する。のだが…。
「天狐如夜叉の大罪を黙認するのは私には出来ません!」
八正道は只管感情的に怒号し続ける。
「私は彼女に逆襲する覚悟ですよ!失礼なのかも知れませんが…今回ばかりは桜花姫様の指示であっても…私は天狐如夜叉に逆襲しなくては!」
「八正道様…」
『相当の殺意だわ…八正道は本気ね…』
普段は誰よりも温厚篤実である八正道であるが…。今回の八正道からは強烈なる本気の殺意が感じられる。
「天狐如夜叉!私が一人の人間として…神族である貴女様を征伐します!」
怒号し続ける八正道に天狐如夜叉は再度呆れ果てる。
『人間風情が…』
「人間の僧侶…其方は相当の命知らずだな…人間の分際で神族の眼光を所持する私を征伐すると?片腹痛いわ…」
対する八正道は不本意であるが…。最早後戻りが出来ないと覚悟する。
『一か八かの大博打です!』
「天狐如夜叉…覚悟するのです!」
八正道は一か八か天狐如夜叉に連発銃を発砲したのである。
「無謀だな…」
『所詮は人間の玩具で…』
天狐如夜叉は木刀でガードするのだが…。
「はっ!?」
連発銃の弾丸は木刀を屈折させ天狐如夜叉の胸部を貫通したのである。
「ぐっ…其方は…」
天狐如夜叉は口先から吐血する。
「えっ…」
一同は予想外の事態に再度絶句したのである。
『天狐如夜叉の木刀が…』
本来なら鋼鉄をも両断出来る天狐如夜叉の木刀であるが…。一発の銃弾によって簡単に屈折したのである。
「其方は…本当に発砲するとは…」
天狐如夜叉は一瞬であるが…。動揺したのである。一方の八正道は身震いした表情で恐る恐る…。
「天狐如夜叉…貴女は最後の最後で油断しましたね!油断大敵ですよ…」
一方の天狐如夜叉は八正道を睥睨したのである。
「其方は醜悪なる…人間の分際で…」
すると桜花姫が不思議そうな表情で問い掛ける。
「如何して八正道様の連発銃で…天狐如夜叉の木刀が簡単に屈折したのかしら?」
桜花姫の疑問に八正道は即答する。
「彼女の木刀は恐らく小面袋蜘蛛と同質の素材で形作られた代物でしょう…」
天狐如夜叉の木刀は妖星巨木の小枝で形作られた代物である。天狐如夜叉の木刀は妖力を吸収出来る反面…。妖力を使用しない通常の攻撃には無力である。
「天狐如夜叉の木刀は妖力を吸収出来るのかも知れませんが…荒唐無稽の妖力を使用しない攻撃なら通用するかも知れないと予想したのです…」
「人間である私の父様は天狐如夜叉に殺害されたのよ…」
すると妖星巨木の精霊が解説する。
「恐らくだが当時…其方の父親…月影鉄鬼丸が天狐如夜叉に殺害されたのは装備品の木刀に自身の神力を混入させたのであろう…」
本来であれば天狐如夜叉の木刀は自身の神力を混入すると鋼鉄をも両断出来る。真逆に神力を混入しなければ単なる木刀同然の代物である。
「完全に天狐如夜叉の油断だったのね…」
「ですが正直…一か八かの大博打でしたがね…私自身最期を覚悟しましたから…」
八正道自身は大博打であり天狐如夜叉に反撃されるのを覚悟で発砲…。最悪天狐如夜叉に殺害されるのは覚悟したのである。
『八正道は摩訶不思議の人物だ…彼自身は純血の人間なのだろうが…其処等の常人と比較すると八正道は異質的だな…』
妖星巨木の精霊は八正道の性質を凝視し続ける。
『油断したとしても相手は正真正銘神族の一角…単なる人間の攻撃程度が怪力乱神の神族に通用するのだろうか?』
妖星巨木の精霊は八正道には通常の人間には存在しない潜在的効力が秘められたのだと思考する。
『八正道には法力やら妖力は勿論…神通力とは別物の…摩訶不思議の超能力が存在するのかも知れないな…八正道は一体何者なのだ?』
一方八正道の大博打で胸部を大怪我した天狐如夜叉であるが…。自身の神力により銃撃による傷口を治癒させたのである。
「愚か者達が…地上世界の下等生命体の分際で!全員死滅させる!」
天狐如夜叉は口寄せの神術を発動する。
「小面袋蜘蛛だわ…三体も口寄せしたのね…」
周囲の地面から三体もの小面袋蜘蛛を出現させたのである。小面袋蜘蛛の出現に桜花姫以外の一同は驚愕する。
「えっ!?蜘蛛の怪物!?」
「ひっ!器物の悪霊…小面袋蜘蛛だわ!」
「桜花姫姉ちゃん!最強の妖術で小面袋蜘蛛を撃退出来ないの!?」
三体の小面袋蜘蛛は桜花姫一行の周囲を包囲したのである。
「小面袋蜘蛛を撃退するにも…三体を同時に相手するのは私でも困難ね…」
桜花姫は冷静沈着の様子で発言する。
「三体の小面袋蜘蛛よ!二人を除外して四人は人外の妖女だ!思う存分に奴等を食い殺すのだ!」
小面袋蜘蛛は死亡した神族の霊魂が器物に憑霊した憑依系統の悪霊である。妖星巨木の樹木誕生した器物の超自然的存在であり荒唐無稽の妖力は通用せず…。妖女にとって小面袋蜘蛛は最大の天敵とされる。
「如何するのよ!?桜花姫!?小面袋蜘蛛には私達の妖術なんて何一つとして通用しないわよ!」
「桜花姫姉ちゃん…」
雪美姫と小猫姫は三体もの小面袋蜘蛛に畏怖したのである。桜花姫以外の二人の妖女は勿論…。
「桜花姫!あんたの魔法で三体の蜘蛛の怪物を撃退出来ないの!?」
アクアヴィーナスはビクビクした様子であり力一杯桜花姫に密着し始める。妖女が小面袋蜘蛛を仕留めるのは実質的に困難であり大技の妖術を駆使したとしても妖術は無力化され…。妖力が吸収されるのは明白である。
「桜花姫様…非力の私では武器を使用しても三体もの小面袋蜘蛛を同時に相手するのは不可能です…一体如何すれば?」
正直多勢に無勢であり武器を所持する八正道だけで三体もの小面袋蜘蛛を仕留めるのは現実的に不可能…。
『止むを得ないわね…』
「一か八かよ!」
桜花姫は一瞬瞑目し始める。
『口寄せの妖術…発動!』
桜花姫は神通力を駆使しなければ発動出来ない口寄せの妖術を使用したのである。自身の細胞の一部を三体もの小面袋蜘蛛の体内より口寄せする。天狐如夜叉は桜花姫の様子に恐る恐る…。
「ん?其方は…一体何を発動したのだ?荒唐無稽の妖術を駆使したとしても…小面袋蜘蛛には通用しないぞ…」
「単なる大博打よ…」
桜花姫は即答する。
「単なる大博打だと?」
『彼女は…一体何を?小細工なのか?』
天狐如夜叉は桜花姫の動向に警戒したのである。すると数秒後…。小面袋蜘蛛が三体同時にポンッと白煙に覆い包まれる。
「なっ!?三体の小面袋蜘蛛が…桜花姫の分身体に!?」
白煙に覆い包まれた三体もの小面袋蜘蛛が直後に三人の桜花姫の分身体へと変化したのである。
「えっ!?如何して桜花姫が…三人!?」
「桜花姫姉ちゃんが…三人も!?分身の妖術なの!?」
「ひょっとして彼女達は…桜花姫様の分身体でしょうか?」
「如何して蜘蛛の怪物が桜花姫の姿形に変化したのかしら?桜花姫の魔法なの?」
突然の出来事に桜花姫を除外する一同は驚愕する。一方の天狐如夜叉は苛立った様子であり桜花姫を睥睨したのである。
「其方は…小面袋蜘蛛の体内に其方の異物を混入させたな?」
一方の桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「口寄せの妖術で小面袋蜘蛛の体内に私自身の小細胞の一部を混入させたのよ!天狐如夜叉…ひょっとして不都合だったかしら?」
桜花姫は口寄せの妖術で自身の小細胞の一部分を小面袋蜘蛛の体内に混入…。強豪の最上級悪霊吸血羅刹女やら人工性妖女ウィプセラスとの戦闘で披露した融合化の妖術を駆使したのである。融合化の妖術により混入させた自身の小細胞を小面袋蜘蛛の体内から一体化…。小面袋蜘蛛本体を素材に自身の完全なる分身体を形作ったのである。
「自身の細胞と小面袋蜘蛛の肉体を利用して自分自身の分身体を形作るとは…其方はか弱き小娘の外見とは裏腹に…中身は醜悪なる怪物同然だな…」
桜花姫は天狐如夜叉の怪物発言にピリピリする。
『彼女…地上世界の女神様である私を醜悪なる怪物ですって?』
「私の分身体!天狐如夜叉の身動きを封殺しなさい!」
桜花姫は自身の三人の分身体に指示したのである。三人の桜花姫の分身体は無言の様子で天狐如夜叉に金縛りの妖術を発動…。
「ぐっ…愚か者達が!」
『こんな妖女の小娘に身動きを封殺されるとは…金縛りの妖術か?』
天狐如夜叉は三人の桜花姫の金縛りの妖術によって完全に身動き出来なくなる。
『何故だ…何故なのだ?私は人間の僧侶を相手に油断したのだろうか?如何して人間の僧侶に反撃しなかった!?妖星巨木の木刀さえ破壊されなければ…こんな奴等なんて…畜生!』
最早木刀が無くなった状態では天道天眼を所持しても桜花姫と三人の分身体に対抗するのは不可能である。
『神世界の再興は間近なのに…私はこんなひ弱の小娘に殺されるのか?』
天狐如夜叉は再度桜花姫を睥睨し始める。一方の桜花姫は身動き出来なくなった天狐如夜叉に一歩ずつ近寄る。
「天狐如夜叉…抵抗出来ないでしょう?あんたは観念するのね…」
すると小猫姫が大声で…。
「桜花姫姉ちゃん!彼女を殺さないで!」
小猫姫は必死の様子で桜花姫に制止したのである。
「えっ?小猫姫?」
必死に制止し始めた小猫姫に周囲の者達は勿論…。敵対者である天狐如夜叉もハッとした表情で小猫姫に注目し始める。
「天狐如夜叉は悪者かも知れないけれど…彼女は蛇体如夜叉婆ちゃんの友人なのよ!此処で彼女を殺しちゃったら…蛇体如夜叉婆ちゃん…絶対に悲しんじゃうよ…」
小猫姫は涙腺から涙が零れ落ちる。すると桜花姫は満面の笑顔で返答する。
「心配しなくても大丈夫よ!小猫姫!私は彼女を復讐心から解放させたいだけなのよ!蛇体如夜叉婆ちゃんとも約束したからね…安心しなさい!」
桜花姫は金縛りの妖術を解除…。金縛りの妖術により身動き出来なくなった天狐如夜叉を解放したのである。するとアクアヴィーナスはゾッとし始める。
「えっ!?桜花姫!?折角此奴の身動きを封殺出来たのに…天狐如夜叉の金縛りを解除しちゃうの!?彼女を自由にしたら今度こそ私達に手出しするわよ!何よりも彼女は私の母様を殺した極悪非道の張本人なのよ!?」
アクアヴィーナスは天狐如夜叉に警戒したのか恐る恐る後退りしたのである。
「心配しなくても大丈夫よ…アクアヴィーナス…彼女は大分弱体化した状態だわ…抵抗したくても抵抗出来ないわよ…」
天狐如夜叉は先程の消滅の儀式により九分九厘の神力を消耗…。最早天狐如夜叉は抵抗出来ない非力同然の状態である。
「はぁ…」
天狐如夜叉は神力の消耗によってバタッと地面に横たわる。
「大丈夫!?天狐如夜叉!?」
小猫姫は大急ぎで地面に横たわった状態の天狐如夜叉に近寄る。一方の天狐如夜叉は恐る恐る小猫姫を直視したのである。
「野良猫みたいな妖女の小娘よ…其方は…敵対者である私を庇護するとは…」
「貴女は蛇体如夜叉婆ちゃんの友人でしょう?庇護するのは当然だよ…」
小猫姫の発言に天狐如夜叉は苦笑した様子で返答する。
「其方は蛇神の…蛇体如夜叉の知人なのか?」
『彼女は…蛇体如夜叉は神族の一人なのに…こんな小娘達と交流したのか?』
天狐如夜叉は蛇体如夜叉に呆れ果てる。
「蛇体如夜叉婆ちゃんにとって…私と桜花姫姉ちゃんは唯一無二の孫娘なの…」
「二人の小娘達が…蛇体如夜叉の孫娘だと?」
『冗談だろうか?』
天狐如夜叉は冗談かと思いきや…。小猫姫は再度涙が零れ落ちる。
「えっ…」
『野良猫の小娘?』
天狐如夜叉は恐る恐る小猫姫に問い掛ける。
「蛇体如夜叉は?」
「蛇体如夜叉婆ちゃんは…先日…老衰で死んじゃったよ…」
「彼女は老衰で…死去したのか…」
天狐如夜叉は無表情であり沈黙したのである。
『蛇体如夜叉…』
桜花姫は沈黙し始めた天狐如夜叉に再度問い掛ける。
「天狐如夜叉…如何するのよ?今度こそ私と勝負するの?」
問い掛けられた天狐如夜叉は一瞬苛立つものの…。
『今更こんな状態で…桜花姫と勝負したとしても…』
「私は降参するよ…最早神力も空っぽの状態だ…こんな状態では桜花姫と勝負したとしても敗北するだろうからな…」
不本意であるが天狐如夜叉は桜花姫に降参する。
「あんたって意外と明鏡止水なのね!天狐如夜叉!」
天狐如夜叉はヘラヘラする桜花姫に腹立たしくなったのかピリピリしたのである。
『此奴!何が明鏡止水だ…桜花姫は腹立たしい小娘だな!』
すると八正道は恐る恐る…。
「天狐如夜叉?貴女の神力で消滅させられた大勢の民衆達やら動物達を元通りには戻せませんか?天狐如夜叉の神力を駆使すれば可能なのでは?」
「私の神力で民衆達と動物達を元通りに戻せるかだと?」
問い掛けられた天狐如夜叉は一瞬困惑したのである。
「あんたは…今度も私達に手出しするの?」
桜花姫が恐る恐る問い掛けると天狐如夜叉は桜花姫に睥睨するものの…。
「降参するよ…私の敗北だ…神世界の再興を実現出来ないのは非常に残念だったが…人間達への復讐だけは達成出来たからな…今更桜花姫一行に手出ししても無意味だ…」
天狐如夜叉の様子に一同はホッとしたのである。
「生命体の再生は可能なのですか?天狐如夜叉?」
八正道は再度質問すると天狐如夜叉は返答する。
「再度…神族の眼光を発動すれば消滅した生命体を完全に復活させられるが…生憎私は神力が消耗した状態だからな…再度消滅した生命体を元通りに復活させるには莫大なる神力を蓄積させなくては不可能だぞ!有りっ丈の神力を蓄積させたとしても時間が経過し続ければ間に合わなくなる…」
「えっ…時間ですと?」
桜花姫を除外する周囲の者達は絶望したのである。すると桜花姫が恐る恐る…。
「私にも出来ないかしら?天狐如夜叉?」
天狐如夜叉は桜花姫の問い掛けに無表情で返答する。
「其方自身も神族の眼光を所持する最上級妖女であるが…再生の妖術は相当の妖力が必要不可欠だからな…場合によっては術者自身が衰弱死するかも知れない!其方の半身は人間の血肉だからな…肉体的には貧弱だ!」
不運にも桜花姫は半分が人間の血縁であり肉体的には貧弱である。
「消滅した大人数を再生させるには相当の妖力と相応の覚悟が必要不可欠なのね!仕方ないわ!」
桜花姫は余裕の表情で返答する。
「えっ…本当に?」
「術者が…衰弱死ですと?」
桜花姫以外の一同は衰弱死の一言にビクッと反応したのである。再生の妖術は全世界規模の妖術であり最早天道の領域とされる。森羅万象に存在するあらゆる生命体を再度復活させるには相応の妖力が必要不可欠…。対象が前代未聞の森羅万象規模とされ最悪の場合術者が衰弱死する可能性は否定出来ない。
「あんた達!相当の心配性ね!あんた達が心配しなくても私なら大丈夫よ!再生の妖術なんかで私は死なないからね!」
桜花姫は満面の笑顔で発言したのである。
「ですが桜花姫様…再生の妖術は生命の危険が…」
「あんたが死んじゃったら…金輪際私はあんたと夜遊び出来ないでしょう…」
「桜花姫姉ちゃんが死んじゃったら…私は…今度こそ…」
「桜花姫…貴女は死なないでよ…」
「あんた達…」
桜花姫は極度に心配する一同に困惑し始める。
『こんなにも心配されるなんて予想外だわ…如何しましょう?』
すると直後…。
「きゃっ!」
「地響きです!」
「今度も地震かしら!?」
再度グラグラッと地面全域に地響きが発生したのである。
「なっ!?」
八正道は東方の海面上を直視する。
「桜花姫様!?東海の海面上に岩石の巨山が此方に接近中ですよ!」
「えっ?」
広大無辺の海面上には標高のみでも天空に到達する巨大移動物体が出現したかと思いきや…。規格外の巨大移動物体は桃源郷神国本土に急接近し続ける。
「岩石の巨山ですって?」
桜花姫も岩石の巨山に注目したのである。
「えっ…」
『何かしら?』
今度は雪美姫が恐る恐る…。
「現実なのよね?桜花姫?」
一同は海面上の光景が現実なのか実感出来ない。
「彼奴は…」
するとアクアヴィーナスはビクビクした様子で桜花姫に密着し始める。
「アクアヴィーナス?大丈夫?」
「彼奴は私が深海底で遭遇した…巨大海亀の怪物よ!」
アクアヴィーナスは落涙した表情で証言したのである。
「えっ…巨大海亀の怪物ですって!?彼奴がアクアヴィーナスの目撃した巨大海亀の怪物なのね!」
「彼奴は規格外の怪物だね…こんな規格外の怪物を桜花姫姉ちゃんの妖術だけで仕留められるのかな?」
巨大移動物体は全体的に巨大海亀の形状であり全身は凸凹した岩石の肉体…。尻尾の形状は岩石の巨大海蛇であり背中の甲羅部分には無数の巨大人面が確認出来る。
「先程から頻発する地震の正体は巨大海亀の彼奴の仕業だったのね…」
先程から地震が頻発し続けたのは巨大海亀の怪物が世界各地で暴れ回った影響である。すると天狐如夜叉が恐る恐る…。
「彼奴は天空魔獣…天魔大皇帝だぞ…天空世界の怪物だ…」
すると妖星巨木の精霊が天魔大皇帝の名前に反応したのである。
「天魔大皇帝だと!?彼奴が天空世界より出現したとされる旧世界の天空魔獣か…天魔大皇帝がこんなにも規格外の怪物だったとは…」
「天魔大皇帝は神族でも最上級に君臨する十二人の最高神が全身全霊で封印した規格外の怪物だったのだ…封印の解除直後であれば私一人でも仕留め切れる程度の実力であったが…」
雪美姫は恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。
「えっ…彼奴は神族のあんたでも仕留められないの!?」
「残念だが否定出来ないな…天空魔獣の天魔大皇帝を対処するには彼奴を上回る相応の神通力が必要不可欠だからな…最早天魔大皇帝は一筋縄では仕留められない…」
天魔大皇帝は世界各地の陸地を頬張った影響からか先程よりも魔力が増大化…。最早全盛期に匹敵する状態だったのである。
「天魔大皇帝の魔力がこんなにも急速に増大化するとは予想外であった…」
『天魔大皇帝は短時間で世界各地の大陸を暴食したのか?』
天狐如夜叉は自身の悪行に悔恨する。
『天魔大皇帝を封印から解放したのは間違いだったな…何故私はこんな古代文明時代の遺物を復活させたのか?』
すると雪美姫は再度天狐如夜叉に問い掛ける。
「天狐如夜叉!?一体如何すれば天魔大皇帝を仕留められるのよ!?今直ぐに彼奴を封印する方法とか…」
天狐如夜叉は小声で返答する。
「私に相応の神力が戻れば…一か八か天魔大皇帝に対抗出来る可能性が…」
「一か八かってあんたね…今直ぐ天魔大皇帝を仕留めないと私達が食い殺されちゃうかも知れないのよ!如何するのよ!?」
雪美姫はパニック状態だったのである。すると桜花姫が満面の笑顔で…。
「神族のあんたが無理なら…私が自力で天空魔獣の天魔大皇帝を仕留めるわね!」
単独で天魔大皇帝を仕留めると断言した桜花姫であるが周囲の者達は猛反対する。
「桜花姫様!?天魔大皇帝を仕留めるって本気なのですか!?相手は地上世界全域を破壊するかも知れない規格外の怪物なのですよ!」
「本当よ!桜花姫!相手は陸地を丸ごと平らげる規格外の怪物なのよ!一人で天魔大皇帝を仕留めるなんて最強のあんたでも無茶過ぎるわよ!」
「最強の桜花姫でも巨大海亀の怪物と一対一の勝負は…」
「私も同感だよ!今回ばかりは桜花姫姉ちゃんでも…天魔大皇帝を撃退するなら私達全員で撃退するべきだよ!」
桜花姫は周囲の者達の反応に只管満面の笑顔で返答したのである。
「あんた達は極度の心配性なのね!私は最上級妖女なのよ!今回だって大丈夫よ!」
すると妖星巨木の精霊がボソッと一言…。
「一か八かの確率であるが…今度も桜花姫が仙女に覚醒出来るのであれば天魔大皇帝に対抗出来るかも知れない…」
「えっ?妖星巨木の精霊?仙女に覚醒ですって?」
桜花姫と一同は妖星巨木の精霊に注目する。
「桜花姫が今度も仙女に覚醒出来るのであれば…天空魔獣の天魔大皇帝を仕留められる可能性が上昇するかも知れないぞ…」
「私が仙女に覚醒ですって?」
桜花姫は二年前の妖星巨木との戦闘を想起したのである。
「桜花姫様が全知全能の仙女に覚醒出来れば…極悪非道の天魔大皇帝を征伐出来るかも知れないのですね!私達が絶望するのは早計でしたね!一陽来復ですね!」
八正道は勿論…。周囲の者達に希望が芽生え始める。
「桜花姫が完全に天空魔獣の彼奴を仕留められるかは断言出来ないが…何も実行しないよりは可能性が…」
すると桜花姫は妖星巨木の精霊に近寄ったのである。
「私は早速仙女に覚醒するわ!一体如何すれば私が仙女に覚醒出来るのかしら?」
問い掛けられた妖星巨木の精霊は一瞬沈黙するものの…。恐る恐る発言し始める。
「特定の妖女が完全無欠の仙女に覚醒する最重要条件として莫大なる妖力は勿論…神性妖術の天道天眼が必要不可欠なのだ!桜花姫の妖力は非常に強力であるが…仙女に覚醒するには其方自身の妖力のみでは力不足であるからな!完全無欠の仙女に覚醒するのであれば周囲の者達の妖力を精一杯吸収するのだぞ!」
神通力を自由自在に扱える仙女に覚醒するには自身の妖力のみならず…。自身以外の他者の妖力も必要不可欠である。
「私以外の妖女の妖力を吸収ですって?」
桜花姫は背後の雪美姫と小猫姫は勿論…。人魚のアクアヴィーナスを凝視し始める。
「如何やら今回は…あんた達の妖力が必要不可欠みたいね!」
すると小猫姫は満面の笑顔で…。
「桜花姫姉ちゃん!私の妖力…一思いに吸収しちゃってよ!」
「小猫姫…」
小猫姫は桜花姫の左手に接触すると急速に妖力が消耗したのである。
「ぐっ!」
「えっ…小猫姫!?大丈夫なの!?」
桜花姫は小猫姫を心配するが…。一方の小猫姫は再度満面の笑顔で返答する。
「私なら…大丈夫だよ!桜花姫姉ちゃん…心配しないでね!」
「小猫姫…御免なさいね…無理させちゃって…」
小猫姫の妖力は非常に莫大であり小猫姫の妖力を吸収すると今迄よりも桁外れの妖力が桜花姫の体内へと蓄積されたのである。すると今度は雪美姫が恐る恐る…。
「今回ばかりは止むを得ないわね!桜花姫…私の妖力も思う存分に吸収しちゃいなさいよ!」
雪美姫は右手で桜花姫の胸部に接触したのである。
「いや~ん♪雪美姫の助平♪あんたは相当の物好きなのね♪」
「桜花姫♪あんたのおっぱいって…饅頭みたいで柔軟だわ!」
「雪美姫も…意外と助平なのね!」
雪美姫の乳房の接触により桜花姫は満面の笑顔で赤面し始める。
「なっ!?」
『私は…注目し続けると誤解されそうですね…』
一方の八正道は桜花姫と雪美姫の光景に赤面するものの…。
「失礼しました…如何やら私は場違いみたいですね…」
八正道は即座に瞑目し始めたのである。小猫姫は必死に瞑目し続ける八正道に満面の笑顔で…。
「興奮しちゃって!八正道様って意外と助平だね!」
小猫姫は八正道を揶揄する。
「えっ!?私は…別に何も…興味なんて…皆様方は非常に破廉恥ですな!」
小猫姫に揶揄され八正道は苦し紛れに誤魔化すものの…。表情が赤面したのである。桜花姫の乳房を弄った雪美姫であるが…。
「ぐっ…」
『妖力の消耗かしら?桜花姫の吸収力は予想以上に強力だわ…一瞬で大半の妖力が吸収されちゃったわね…』
雪美姫は体内の妖力を吸収され十数秒間で妖力の大半を消耗したのである。今度はアクアヴィーナスが恐る恐る桜花姫に近寄り始める。
「桜花姫…私の魔力も一思いに吸収しちゃってよ…」
アクアヴィーナスはビクビクした様子であり桜花姫は一瞬躊躇するのだが…。
「アクアヴィーナス…無理させちゃって御免なさいね…」
「私なら大丈夫よ…桜花姫…貴女は気にしないでね…」
アクアヴィーナスは内心不本意であるが恐る恐る桜花姫の右手に接触したのである。すると直後…。
「ぐっ!」
桜花姫の皮膚に接触しただけで体内の魔力が急速に消耗したのである。
『体内の魔力が…一瞬で消耗しちゃうなんてね…』
アクアヴィーナスは疲労が数秒間で蓄積され…。アクアヴィーナスの大半の魔力が桜花姫の体内へと吸収されたのである。
「御免なさいね…アクアヴィーナス…今回は必要以上に無理させちゃったわね…」
桜花姫は疲労困憊のアクアヴィーナスに謝罪する。
「大丈夫よ…桜花姫…気にしないで!私は…私なら大丈夫だから!」
アクアヴィーナスは非常に重苦しい表情であるが…。笑顔で返答したのである。アクアヴィーナスの魔力を吸収した桜花姫は妖力が桁外れに上昇する。
「有りっ丈の妖力が蓄積されたわ!あんた達…感謝するわね!」
桜花姫は彼女達に謝礼したのである。
「八正道様…」
今度は八正道を直視し始め…。
「如何されましたか?桜花姫様?」
八正道に名刀の退魔霊剣を手渡したのである。
「八正道様の退魔霊剣…返却するわね…退魔霊剣は今現在の私には不要みたい…」
「承知しました…桜花姫様…」
すると直後…。
「えっ…私は…」
桜花姫の全身がピカッと光り輝いたのである。
「なっ!?桜花姫様の肉体から黄色の閃光が!」
「桜花姫姉ちゃん!?」
「一体何が発生したの!?桜花姫は大丈夫なの!?」
「ひょっとして今度も桜花姫の魔法なのかしら!?」
桜花姫の突然の発光に一同は瞑目する。桜花姫の全身が発光し始めてから数秒後…。周囲の者達が桜花姫に注目するが頂上の中心部には球状の発光体が確認出来る。
「黄色の発光体だわ…何かしら?」
「桜花姫は?無事なの?」
「桜花姫姉ちゃん…大丈夫なのかな?」
すると球状の発光体が女体を形成し始める。球状の発光体は巫女装束の女神へと変化したのである。
「えっ…彼女は天空の女神様かしら?」
「彼女は天空世界に君臨される天女みたいですね…」
巫女装束の女性は両目を瞑目した様子であり頭部には金冠…。背後の背中には実体化した円形の光背が確認出来る。八正道は恐る恐る巫女装束の女性に問い掛ける。
「貴女様は…月影桜花姫様なのでしょうか?」
問い掛けられた女性は八正道を直視すると満面の笑顔で返答したのである。
「八正道様!私よ!私は月影桜花姫よ!」
「貴女様は桜花姫様ですか!?一瞬天空世界の女神様かと…見違えましたね…」
桜花姫は八正道の女神様の一言に赤面し始め…。
「私が天空世界の女神様なんて…八正道様は大袈裟ね!」
『私が天空世界の女神様!悪くないわね!』
桜花姫は内心では大喜びしたのである。
「あんたは本当に月影桜花姫なのかしら?一瞬別人かと…」
「本当ね…別人みたいだわ…貴女は本物の桜花姫なの?」
雪美姫とアクアヴィーナスは目の前の人物が月影桜花姫本人なのか確認する。
「普段の童顔っぽいあんたとは別人みたいだわ…随分と可愛らしくなっちゃったわね!桜花姫!一瞬別人かと錯覚しちゃったわ!」
「普段の貴女よりも大人っぽいわね…桜花姫…」
雪美姫とアクアヴィーナスも仙女へと覚醒した桜花姫に見惚れたのである。
「雪美姫とアクアヴィーナス!あんた達も大袈裟ね!」
『今現在の私って…大人っぽくって可愛らしいのかしら!?』
桜花姫は再度大喜びする。すると妖星巨木の精霊が桜花姫に近寄り始める。
「月影桜花姫よ!如何やら仙女への覚醒は成功だな!今現在の其方は二年前の其方よりも強大であるぞ!今現在の其方は百人力?千人力の最上級妖女だな!」
「千人力なんて…私は最上級妖女だから当然でしょう!今回は小猫姫以外にも…雪美姫とアクアヴィーナスの妖力も吸収出来たからね!」
今現在の桜花姫は今迄で最大級の妖力を保持する。
「今現在の其方であれば天空魔獣の天魔大皇帝とも思う存分に対抗出来そうだ!」
「当然でしょう!私は世界で唯一無二の最上級妖女だからね!」
今度は天狐如夜叉が恐る恐る桜花姫に近寄り始める。
「最上級妖女の月影桜花姫よ…」
「天狐如夜叉?一体何よ?」
「其方の神族の眼光と…手土産として私自身の神力も其方に分け与える!月影桜花姫よ…思う存分に私の神力を吸収するのだ!」
「えっ?天狐如夜叉…あんたは本気なの?」
「彼奴を…破壊者の天魔大皇帝を仕留めるのであれば止むを得ないからな…正直今現在の私では戦力不足だ!」
「天狐如夜叉…」
天狐如夜叉の表情を直視すると今現在の天狐如夜叉の表情からは先程の殺伐とした雰囲気は微塵も感じられない。
『今現在の彼女は仏様みたいな雰囲気ね…天狐如夜叉は正気に戻ったのかしら?』
天狐如夜叉の様子に意外であると感じる。天狐如夜叉は桜花姫の肉体に接触し始め…。直後である。
「えっ!?あんた!?」
桜花姫は勿論…。周囲の者達も天狐如夜叉の変化に驚愕する。
「あんたの頭髪が…黒髪に…」
銀髪の長髪であった天狐如夜叉の頭髪が黒髪へと変色したのである。
「神族の眼光と…私自身の神力を桜花姫に分け与えたのだ!其方は気にするな!」
天狐如夜叉は桜花姫に自身の神力を分け与え…。神力の消耗により銀髪の頭髪が黒髪へと変化したのである。
「最上級妖女の月影桜花姫よ…私は其方の肉親である父親を殺害した張本人だからな…今現在非力の私に出来る唯一の贖罪だ!」
一方の桜花姫はニコッと微笑み始める。
「気にしないで!天狐如夜叉!父様の一件は私の出産日の前日の出来事でしょう?私は気にしないから大丈夫よ!」
周囲の者達は桜花姫の発言に驚愕する。
「えっ…桜花姫様…相手は桜花姫様の父君様を殺害された当事者なのですが?」
「桜花姫姉ちゃん…本気なの?」
「あんたは自分の父親が殺されたのに…気にしないって…やっぱり桜花姫の思考力は理解出来ないわね…」
「私だったら問答無用に復讐しちゃうけれど…桜花姫の感覚は異常よね…」
「月影桜花姫…彼女にとって家族の基準とは…一体?」
気にしないと発言する桜花姫に周囲の者達は一瞬ドン引きしたのである。
「兎にも角にも…私は大暴れし続ける天魔大皇帝を仕留めるわね!」
桜花姫は飛翔の妖術を発動…。桜花姫の肉体が空中へと浮遊し始めたのである。
「桜花姫様!御無事で!無事に戻られたら桜花姫様の大好きな和菓子を沢山用意しますからね!」
「桜花姫姉ちゃん!精一杯頑張ってね!私達は桜花姫姉ちゃんを応援するからね!天魔大皇帝を退治しちゃってよ!」
「あんたらしく大暴れしなさいよ!桜花姫!」
「桜花姫…絶対に死なないでね!絶対に此処に戻りなさいよ!貴女が死んじゃったら…私は承知しないからね!」
桜花姫は仲間達の声援に大喜びする。
「あんた達!勿論よ!私は一仕事するからね!」
一同は天空へと飛翔した桜花姫を見届ける。
第十七話
最終決戦
仙女の桜花姫が広大無辺の天空へと飛翔し始めた同時刻…。天空魔獣の天魔大皇帝は桃源郷神国本土に急接近したのである。
「タイリクヲ…ゾンブンニクッタナ!アトハコノシマグニダケダ!チッポケナシマグニダガ…イガイトカミゴタエハ…アリソウダゾ!サッソクコノシマヲ…タベルトスルカ!」
すると背中の甲羅部分の巨大人面が発言し始める。
「此奴は小規模の島国か?」
「小規模の島国だか…此処から無数の生命体の気配を感じるぞ!」
「生身の生命体か!?こんな小規模の島国にも生身の生命体が存在するのか!?此奴は久方振りに満足出来そうだな!」
「コノママリクチノ…ガイチュウモロトモ…シマグニヲクッテヤルゼ!」
島国の桃源郷神国本土へと驀進し続ける天魔大皇帝であるが…。
「天魔大皇帝!あんたの相手は最上級妖女である私よ!」
天魔大皇帝は上空の美声に反応する。
「ん!?」
「誰だ!?」
「女子っぽいが…」
「彼奴は一体何者だ?」
甲羅部分の無数の巨大人面が天空を浮遊し続ける桜花姫を直視したのである。
「彼奴は天女の小娘なのか?」
「天女の小娘から妖力と神通力の両方を感じるぞ…彼奴は一体何者だ?」
「天女の小娘が相手とは久方振りに面白そうだな!神族以来だぞ!早速天女の小娘を打っ殺そうぜ!」
天魔大皇帝の甲羅部分である無数の巨大人面が会話し始める。すると前方の巨大海亀の頭部と尻尾部分の巨大海蛇が上空の桜花姫を直視したのである。
「アイツハ…テンニョノコムスメカ!?キサマハナニモノダ!?」
問い掛けられた桜花姫は即座に自身の名前を名乗り始める。
「私は最上級妖女の月影桜花姫よ!天魔大皇帝!あんたを征伐するわ!」
征伐すると断言した桜花姫に甲羅部分の巨大人面の一部が反応したのである。
「貴様みたいな非力の小娘が破壊者である私を征伐するだと?片腹痛いわ!」
「彼奴は非力そうな小娘だな…命知らずの愚か者だ!」
「私を相手に天女の小娘は余程の命知らずみたいだな…手始めに天女の小娘を死滅させるか?」
すると巨大海亀の頭部が再度発言する。
「コノチッポケナ…シマグニヲクウノハ…アトマワシダ!マズハ…テンニョノコムスメカラ…ブッコロシテヤルゼ!カクゴシナ!テンニョノコムスメ!」
すると直後…。甲羅部分の無数の巨大人面が上空の桜花姫を直視すると口部を開口させたのである。
「えっ?」
桜花姫は天魔大皇帝の動向に警戒する。
『天魔大皇帝は一体何を?』
直後である。
「イッキニ…イッセイコウゲキダ!トットトシニヤガレ!テンニョノコムスメ!」
甲羅部分の無数の巨大人面が口部を開口させた直後…。口部から無数の拡散火球を発射したのである。一発の火球は直径数十メートル規模であり大気圏上空にて広範囲に爆散…。大気圏上空全体より大陸をも消滅させる大爆発と衝撃波が何百発から何千発も頻発したのである。桜花姫は上空の超絶的光景を直視する。
『やっぱり規格外の威力だわ…天魔大皇帝の火球が一発でも桃源郷神国本土に直撃すれば陸地は完全に消滅するわね…』
すると一発の巨大火球が上空の桜花姫の方向へと急接近…。
「なっ!?」
『火球かしら!?想像以上の威力だわ!』
桜花姫は咄嗟に妖術を発動する。
『止むを得ないわね!』
桜花姫は異次元転送の妖術を発動…。自身に急接近する巨大火球がパッと消滅したのである。巨大火球は異次元空間へとテレポート…。転送された巨大火球は異次元空間にて爆散したのである。
「はぁ…」
桜花姫は冷や冷やする。
『危機一髪だったわ…』
天魔大皇帝の全身から発射される高火力の巨大火球は一撃であっても大国さえも消滅させる高威力である。多種多様の物理的攻撃を無力化出来る妖力の防壁は勿論…。上位互換とされる神通力の防壁であっても天魔大皇帝の攻撃を防ぎ切れるか正直不明瞭だったのである。
「アイツハ…シブトイコムスメダナ!コムスメハ…ヨウジュツデ…オレノコウゲキヲ…カイヒシヤガッタカ!」
上空の桜花姫を仕留め切れず…。天魔大皇帝の海亀部分が激怒したのである。一方甲羅部分の巨大人面が冷静に会話し始める。
「仕方ないさ…相手は豆粒みたいに小柄だからな…」
「天女の小娘…意外と身動きも機敏そうだな…」
「私の攻撃を異次元空間へと転送させるとは…ひょっとすると天女の小娘は太古の最高神以上に厄介かも知れないな…」
「やっぱり彼奴は神族以上に面白そうだぞ!」
「天女の小娘は十二人の最高神以上か!久方振りに大暴れ出来るぜ!」
「天女の小娘は神族をも上回るとは…」
甲羅部分の巨大人面は仙女の桜花姫を警戒したのである。
「勿論!私は最上級妖女なのよ!即刻あんたを片付けちゃうから安心しなさい!」
桜花姫の挑発的発言に苛立ったのか天魔大皇帝の巨大海亀の頭部がギロッと天空の桜花姫を睥睨し始める。
「アイツ!コムスメノブンザイデ…オレヲナメヤガッテ!ドウヤラ…コムスメハオレニ…コロサレタイミタイダナ!」
「天魔大皇帝…今度は私が反撃するわよ!」
桜花姫は両手より神通力を凝縮…。高熱の雷球を形成したのである。
「天魔大皇帝!あんたは死滅しなさい!」
天魔大皇帝の背中の甲羅部分を目標に高熱の雷球を発射…。高熱の雷球を背中の甲羅部分に直撃させたのである。
『天魔大皇帝の甲羅部分に直撃したわ!』
高熱の雷球が天魔大皇帝の甲羅部分に直撃したと同時に周辺がピカッと発光したかと思いきや…。数十キロメートルもの大爆発を発生させたのである。地上世界全域に衝撃波が発生…。絶大なる破壊力により天空山の頂上から天魔大皇帝と奮闘中の桜花姫を見守り続ける八正道一行も桜花姫の神通力に愕然とする。
「今現在の桜花姫様は…神話の領域ですね…」
「現実の出来事なのかしら?桜花姫は何もかもが規格外過ぎるわ…」
「桜花姫姉ちゃんは異次元の領域だね…天道の化身みたいだよ…」
桜花姫の大戦闘は荒唐無稽であり誰しもが恐怖心を感じる。
第十八話
戦略爆撃機
一同が奮闘中の桜花姫を見守り続けた同時刻…。桜花姫は恐る恐る爆心地の海面上を眺望する。
『天魔大皇帝は?』
「えっ…」
海面上の天魔大皇帝は無傷であり甲羅部分は勿論…。全身の皮膚の表面には掠り傷すら皆無だったのである。
「コノテイドノ…コウゲキリョクカ?キサマゴトキ!ヨウジョノコムスメ…コンナショボイヨウジュツデハ…オレヲタオスコトハデキナイゾ!」
甲羅部分の巨大人面も上空の桜花姫を直視…。彼等も桜花姫に失笑し始める。
「所詮貴様は非力の小娘なのだ!」
「貴様程度の子供騙しみたいな神通力では…私は永久的に仕留められないぞ!」
「天女の小娘!如何するよ!?」
「私を仕留められるかな?」
甲羅部分の巨大人面は桜花姫に挑発したのである。一方の桜花姫は天魔大皇帝の頑強さに驚愕する。
『やっぱり天魔大皇帝の装甲は…ビクともしないわね…』
天魔大皇帝の肉体は金剛石をも上回る強度であり外部から天魔大皇帝の皮膚を直接破壊するのは非常に困難である。
『天魔大皇帝の肉体…予想以上に頑強だわ…』
桜花姫は恐る恐る天魔大皇帝の様子を直視する。天魔大皇帝の体内から神族の無数の怨念は勿論…。数多くの古代文明時代の犠牲者達やら数え切れない動物達の叫び声が桜花姫の心情にて響き渡ったのである。
『此奴の体内からは何千体…何万体もの神族の怨念を感じられるわ…』
天魔大皇帝から発生し続ける神族の怨恨が桜花姫を気味悪がらせる。
『神族以外にも古代文明時代の人間達…無数の動物達の怨念も確認出来るわね…』
天魔大皇帝は太古の古代文明時代の神族との大戦争によって数千体から数万体もの神族は勿論…。大勢の古代人達やら動物達を食い殺したのである。
『天魔大皇帝は地獄の移動牢獄かしら?』
桜花姫は天魔大皇帝を地獄の移動牢獄であると感じる。
『止むを得ないわね…』
「今度は…」
桜花姫は口寄せの妖術を発動…。高度十キロメートルの天空より巨大ワームホールを発生させる。巨大ワームホール中心部から近代兵器である大型空中兵器…。所謂大型の戦略爆撃機を出現させたのである。突如として上空の巨大ワームホールから出現した大型戦略爆撃機に八正道は反応する。
「なっ!?上空に鋼鉄の鳥類が出現しましたけれども…一体何でしょうか?ひょっとして鋼鉄の鳥類も桜花姫様の妖術ですかね?」
「恐らくは…近未来世界の殺戮兵器だろうよ…」
天狐如夜叉が返答したのである。
「えっ…近未来世界の殺戮兵器ですと?」
「口寄せの妖術は死没者やら其処等の下等生命体以外に…あらゆる次元に存在する小道具でさえも自由自在に口寄せ出来るのだ…」
天狐如夜叉の解説に一同は沈黙する。すると上空を飛翔し続ける大型戦略爆撃機の機体底部から一発の大型爆弾が投下され…。天魔大皇帝の甲羅部分へと着弾する直前である。大型爆弾が数百メートルの上空にてピカッと高熱の閃光が炸裂し始め…。一瞬の閃光に天空山の一同は両目を瞑目させたのである。閃光が炸裂し始めた数秒後…。広範囲の大爆発を発生させたのである。天魔大皇帝の甲羅上部にて数十キロメートルもの巨大キノコ雲が形作られる。
「えっ…」
巨大キノコ雲を直視したアクアヴィーナスはプルプルと身震いし始める。
『時空の光球だわ…』
以前ダークスキュランの使用した魔法…。時空の光球から再現された地獄の光景を想起したのである。
「はぁ…はぁ…」
アクアヴィーナスは恐怖心により身震いし始める。
「アクアヴィーナス様?大丈夫ですか?」
アクアヴィーナスを心配したのか八正道は恐る恐る問い掛ける。
「御免なさい…私は…大丈夫です…」
「ですが…」
八正道は巨大キノコ雲の光景に恐る恐る…。
「戦慄の光景ですね…近未来の世界の人類は…一撃で一国をも崩壊させる殺戮兵器を実現させるのですか…」
八正道の発言に周囲の者達は畏怖したのである。同時刻…。
『如何かしら?』
桜花姫は爆心地である天魔大皇帝の甲羅部分を確認するのだが…。
「えっ…」
『大型爆弾でも無傷なんて…』
桜花姫は近代兵器の大型爆弾でも無傷の天魔大皇帝に愕然とする。甲羅部分の巨大人面が再度喋り始める。
「先程の攻撃は花火か?痛くも痒くもない!貴様程度の爆弾が私に通用するか!」
「私の甲羅部分を破壊するには火力不足だな!天女の小娘!」
桜花姫は天魔大皇帝の頑強さを実感する。
「根本的に天魔大皇帝を仕留めるには…」
『天魔大皇帝の体内に存在する神族の怨念を浄化させなければ…天魔大皇帝は仕留められないわね…』
天魔大皇帝に捕食された古代の神族の怨念が非常に強力であり桜花姫の妖術も通用しなかったのである。
「アソビハオワリダ!テンニョノコムスメ!」
すると天魔大皇帝は巨大海亀の頭部…。甲羅部分の無数の巨大人面と尻尾の巨大海蛇から雷撃の光線を全身から拡散…。発射したのである。
「えっ!?」
桜花姫は即座に神通力の防壁を発動…。拡散雷撃の光線をガードしたのである。広範囲に拡散された拡散雷撃の光線は天空山の頂上にも乱射されたのである。危機を察知した桜花姫の三人の分身体が妖力の防壁を発動…。拡散雷撃の光線から一同を守護したのである。一人の分身体が背後の様子を確認…。
「あんた達…大丈夫かしら?」
桜花姫の分身体の問い掛けに八正道は満面の笑顔で即答する。
「私達なら大丈夫ですよ!感謝します!桜花姫様の分身体様!」
八正道は桜花姫の分身体に一礼したのである。すると雪美姫が恐る恐る…。
「こんな戦闘…何もかもが規格外過ぎて全世界が滅亡しても可笑しくないわね…大昔の神族はこんな規格外の怪物を封印したのよね?」
雪美姫の問い掛けに妖星巨木の精霊が返答する。
「神族であっても最上級に君臨する十二人の最高神が総出でも…天空魔獣の天魔大皇帝を仕留め切れず…実質天魔大皇帝を封印するのが精一杯であったからな…」
「私達が想像する以上の出来事が…太古の古代文明時代で発生したのですね…」
八正道は勿論…。以外の者達も太古の古代文明時代の出来事に愕然としたのである。
「十二人の最高神は天魔大皇帝との戦闘によって神力の消耗と戦闘による後遺症で全滅したらしいからな…」
「桜花姫姉ちゃん…大丈夫なのかな?十二人の神族でも天魔大皇帝を討伐出来なかったのに桜花姫姉ちゃんが一人で天魔大皇帝を征伐出来るのかな?」
小猫姫は桜花姫が天魔大皇帝を相手に勝利出来るのか非常に不安に感じる。
「大丈夫よ!桜花姫なら…」
普段は小心者のアクアヴィーナスであるが…。桜花姫は大丈夫だと断言する。
「えっ?」
「えっ…アクアヴィーナス様?」
周囲の者達がアクアヴィーナスに注目したのである。
「二年前の出来事だけれどね…私の祖国…人魚王国アクアユートピアは極悪非道の深海底の魔女と無数の深海底アンデッドに侵略されちゃったけれど…彼女の孤軍奮闘でアクアユートピアに平和が戻ったのよ!今回だって大丈夫よ!桜花姫なら天魔大皇帝を仕留められるわ!彼女なら絶対に…此処に戻れるわよ!」
「えっ!?桜花姫様が極悪非道の深海底の魔女から貴女様の祖国を守護されたのですか!?」
八正道は勿論…。一同は驚愕したのである。
「桜花姫…彼女は私達に秘密で異国なんかに…」
「桜花姫姉ちゃんが異国でも悪者を征伐したなんて…初耳だよ…」
「恐らく彼女に私達の常識なんて通用しないわ…桜花姫だから…」
アクアヴィーナスの発言に妖星巨木の精霊も同意する。
「私もアクアヴィーナスとやらの発言には同意するぞ!彼女は存在自体が荒唐無稽だからな…多分彼女には私達の常識は通用しないであろうな!月影桜花姫は確実に私達の予想を裏切るであろう!何故なら桜花姫だからな…」
普段は無表情の精霊であるが…。僅少にも苦笑いし始める。
「荒唐無稽の桜花姫様らしい理屈ですね…」
八正道は満面の笑顔で…。
「兎にも角にも…今現在の私達に出来るのは桜花姫様の大勝利の祈願です!私達は桜花姫様の大勝利を精一杯祈願しましょう!」
「勿論だよ!桜花姫姉ちゃんなら天魔大皇帝を仕留められるよ!全員で桜花姫姉ちゃんを応援しましょう!」
「勿論ですとも!小猫姫様!」
「私も桜花姫を応援するわね!」
「仕方ないわね…私も奮闘中の桜花姫でも見守ろうかしら!」
八正道一行が奮闘中の桜花姫を再度見守ったのである。
第十九話
全身全霊
八正道一行が桜花姫を見守り続ける最中…。桜花姫は天魔大皇帝を相手に苦悩し続けたのである。
『天魔大皇帝には通常の物理的攻撃は通用しないし…一体如何すれば天魔大皇帝を仕留められるのかしら?』
天魔大皇帝が規格外に強力なのも神族の怨念が要因とされる。
『厄介なのは天魔大皇帝本体よりも天魔大皇帝の体内に存在する無数の神族の怨念なのよね…』
困惑した桜花姫であるが…。
『神族の怨念が相手なら…』
突如としてハッとしたのである。
『妖星巨木の悪霊を浄化させた…秘術は如何かしら!?』
二年前の悪霊騒動で妖星巨木に憑霊した悪霊の集合体を浄化させた秘術…。日輪天光を想起したのである。
『憑依した悪霊を浄化出来る日輪天光だったら…天魔大皇帝の体内の怨念を浄化出来るかも知れないわ!』
天空魔獣の天魔大皇帝に日輪天光が通用するのかは不明瞭であるが…。
『一か八かよ!』
桜花姫は一か八か日輪天光の使用を決意したのである。桜花姫は恐る恐る両目を瞑目させる。
「コムスメノヤツ…ナニヲスルキダ?」
一方の天魔大皇帝は突如として両目を瞑目させた桜花姫に警戒したのである。すると甲羅部分の各部巨大人面が会話し始める。
「彼女は?」
「小娘の様子が可笑しいぞ!」
「ん?天女の小娘…彼奴は一体何を?」
「天女の小娘は恐怖心で身動き出来なくなったのか?」
「今度こそ天女の小娘を打っ殺そうぜ!」
「天女の小娘を打っ殺せる絶好機だぞ!今度こそ総攻撃で彼奴を…」
巨大海亀の頭部が返答する。
「イヤ!コイツハフシゼンダゾ!ナニカハジメルツモリダ!コムスメハナニカ…タクランデイヤガルニ…チガイナイゾ!」
「小細工か?」
「小細工とは…」
「今更小細工を駆使したとしても…私を仕留めるのは不可能だぞ!」
「反撃する絶好の機会だぞ!今直ぐにでも天女の小娘を打っ殺そうぜ!」
一方の桜花姫は再度両目を開眼させる。
「今度こそあんたを仕留めるわよ!天魔大皇帝!」
「ハカイシャデアルオレヲ…シトメルダト?キサマテイドノヨウジュツデハ…オレハシトメラレナイゾ!モハヤ…ウツテガナイキサマガ!ドウヤッテ…ハカイシャデアルオレヲ…シトメルトイウノダ?ワルアガキハヨセ!ヨウジョノコムスメ!」
桜花姫は両手より神通力を凝縮し始め…。虹色の粒子状の発光体が桜花姫の両手より収縮されたのである。
「ン?キサマハ…イッタイナニヲ…スルキダ?」
直後…。
『秘術!日輪天光…発動!』
「はっ!」
桜花姫はあらゆる怨恨を浄化させる秘術日輪天光を発動する。両手に収縮された全身全霊の神通力の閃光を発動したのである。螺旋状に光り輝く全身全霊の日輪天光の閃光は天魔大皇帝の甲羅部分直上に直撃…。周囲全体が虹色に光り輝いたのである。広範囲に光り輝く虹色の閃光に八正道は感動…。
「神聖なる浄化の閃光ですね…桜花姫様の妖術なのでしょうか?」
八正道は涙腺より涙が零れ落ちる。
「桜花姫姉ちゃんの…妖術なの?」
「彼女の発動したのは秘術…日輪天光だな…」
妖星巨木の精霊が解説する。
「日輪天光ですと?日輪天光とは…一体?」
「日輪天光とは成仏出来ない地獄の亡者達を浄化させる史上最強の最終秘術であるぞ!私自身も二年前の悪霊事件では…彼女の駆使した日輪天光によって悪霊の集合体から無事解放されたのだからな!」
「えっ?彼女が…」
すると先程から無言だった天狐如夜叉が反応したのである。
『桜花姫が妖星巨木に憑依した悪霊の集合体を…浄化したのか?』
天狐如夜叉は桜花姫に対する認識が変化し始める。
「先程の内容が本当なのであれば…」
『彼女なら…月影桜花姫なら天魔大皇帝の体内の…神族の怨念を浄化させられるのかも知れないな…』
同時刻…。桜花姫の日輪天光は天魔大皇帝の甲羅部分に直撃するが天魔大皇帝本体はピンピンした様子であり怯まない。
「コイツハナンダ?タダノヒカリカ?コンナコケオドシノ…コウゲキデハ…イタクモカユクモナイゼ!ショセン…ムダナアガキダナ!」
日輪天光は怨念を浄化させる閃光であり直接的殺傷能力は発揮されない。
『大丈夫…天魔大皇帝の体内の怨念は着実に弱体化したわ!』
桜花姫は冷静であり対する天魔大皇帝は桜花姫の様子を不思議がる。
「ン?ヨウジョノコムスメ?」
『アイツハ…ヤケニレイセイダナ…ヨウジョノコムスメハ…イッタイナニヲ?タクランデイヤガル?』
数秒後…。
「天魔大皇帝に惨殺された太古の神族の怨念!あんた達は完膚なきまでに浄化されなさい!」
桜花姫は全身全霊の神通力で日輪天光を照射したのである。すると天魔大皇帝の全身より何万体もの神族の霊魂が出現し始め…。彼等の怨念は日輪天光の閃光により浄化されたのである。
「ナッ!?シンゾクノ…タマシイガ!?タダノヒカリデ…ジョウカサレタダト!?」
体内の神族の霊魂は浄化され天魔大皇帝は大幅に弱体化し始め…。
「ん?私の魔力が…弱体化するとは…」
「突然眠気が…」
「一体何が…発生したのだ?如何して眠気が…」
「気力が…」
甲羅部分の各部巨大人面も沈黙したのである。
「天魔大皇帝…弱体化したわね!」
「キサマ…コムスメノブンザイデ!」
天魔大皇帝は天空の桜花姫を睥睨する。
「天魔大皇帝!最早あんたは単なる海亀同然なのよ!観念しなさい!」
「セカイノ!ハカイシャデアルオレガ!タンナルウミガメダト!?ヨウジョノコムスメガ!ナメタマネヲシヤガッテ!」
「古代の天空魔獣…あんたは特大の桜餅に変化しなさい!」
桜花姫は天魔大皇帝を標的に変化の妖術を発動したのである。
「ハッ!?エッ…」
規格外の巨大さの天魔大皇帝であるが…。変化の妖術の効力により白煙に覆い包まれ大皿と特大の桜餅に変化したのである。
『天魔大皇帝は桜餅に変化したわね!』
「今度は…」
自分自身に口寄せの妖術を発動…。海面上にて移動したのである。海面上にプカプカと浮動し続ける特大の桜餅と大皿を発見する。
『桜餅だわ!発見!発見!』
桜花姫は特大の桜餅をパクっと鱈腹頬張ったのである。
「桜餅は最高ね!」
『やっぱり桜餅は美味だわ!』
桜花姫は特大の桜餅を鱈腹頬張ると大喜びする。日輪天光の使用によって神通力を消耗したものの…。
『神通力は蓄積されたわね!』
特大の桜餅を鱈腹頬張ると消耗した神通力が回復したのである。
『私は天空山に戻りましょう!』
桜花姫は再度口寄せの妖術を発動…。天空山の頂上へと無事戻ったのである。天空山の頂上にて突然ポンっと白煙が発生し始め…。白煙の中央より桜花姫が突発的に出現したのである。
「うわっ!桜花姫様!?」
「きゃっ!桜花姫!?」
周囲の者達は突如として出現し始めた桜花姫に愕然とする。
「突然桜花姫姉ちゃんが出現するから吃驚しちゃったよ…」
「あんた達…御免あそばせ!」
桜花姫は満面の笑顔で謝罪したのである。
「ですが桜花姫様…無事に戻られたのですね…」
八正道は感動の再会に落涙する。
「無事で良かったですよ!桜花姫様!」
「八正道様は大袈裟ね!」
すると妖星巨木の精霊が桜花姫に近寄り始める。
「見事だったぞ!月影桜花姫!十二人の最高神でも封印するのが精一杯だった天空魔獣の天魔大皇帝を…一握りの最上級妖女である其方が単独で征伐するとは…」
「天空魔獣の天魔大皇帝を征伐出来たのはあんた達が協力したからよ!恐らく今回ばかりは私一人では天空魔獣の天魔大皇帝を仕留め切れなかったでしょうね…」
今度は天狐如夜叉が発言する。
「月影桜花姫が十二人の最高神をも上回ったのは事実だ!最早俗界で其方と拮抗出来る存在は実質皆無であるぞ…其方は唯一無二の全世界最強の超越的存在なのだ!」
「全世界最強の超越的存在なんて…表現が大袈裟過ぎるわね!」
『私って…本当に全世界最強の超越的存在なのね!』
内心では大喜びだったのである。今度は小猫姫と雪美姫が近寄り始める。
「桜花姫姉ちゃんが無事に戻れたから一安心だよ!正直冷や冷やしちゃったけど…」
「天魔大皇帝みたいな規格外の怪物を一人で仕留めちゃったからね!私は一生涯桜花姫には反抗出来ないわ…」
「あんた達…」
すると今度はアクアヴィーナスが恐る恐る…。
「本当だわ…やっぱり貴女は私達の常識が通用しないわね…桜花姫は本当に地上世界の生命体なのかしら?桜花姫は本当に何者なの?本物の天道の化身とか?」
「私は地上世界の女神様だからね!」
地上世界の女神様を自称する桜花姫に一同は苦笑いする。
「一寸!?あんた達!?何よ!?如何して苦笑いするのかしら?」
桜花姫は周囲の反応にムッとしたのである。一同が談笑してから数分後…。
「消滅しちゃった人間達…動物達…天魔大皇帝によって破壊された世界各地の大陸を元通りに再生させるわね!」
桜花姫は天地創造の再生の妖術を発動する。
「何もかも元通りに戻りなさい!再生の妖術…発動!」
すると世界全域がピカッと光り輝いたのである。天狐如夜叉の神力によって消滅した人間達やら動物達は勿論…。天魔大皇帝の暴走により暴食された世界各地の大陸が元通りに再構築されたのである。
「完了したわね!消滅した民衆達と天魔大皇帝に破壊された陸地が元通りの状態に戻れたわ!」
「桜花姫様…やっぱり貴女様は本物の女神様ですな!」
最早桜花姫は天道の領域であり一同は愕然とする。
「今回の大事件も無事に解決出来たわ!各自村里に戻りましょう!」
桜花姫は西国の村里へと戻ろうかと思いきや…。
「えっ…」
桜花姫は極度の疲労困憊の影響からか突如としてバタッと地面に横たわる。
「えっ!?桜花姫姉ちゃん!?」
「桜花姫様!?」
「桜花姫!?」
神通力の消耗からか仙女の姿形から元通りの桜花姫に戻ったのである。
「桜花姫姉ちゃんが…元通りの姿形に戻っちゃったわ…」
すると天狐如夜叉が地面に横たわった状態の桜花姫に恐る恐る接触する。
「安心しろ…彼女は極度の疲労困憊で一時的に衰弱化しただけだ…安静にすれば元通りに復活するだろうよ…」
「桜花姫様は単純に疲労されただけなのですね…一安心ですよ!」
「やっぱり桜花姫は人騒がせね…冷や冷やしちゃったわ…」
「私も吃驚したわ…」
「桜花姫姉ちゃん…大丈夫なのね!一安心だよ!」
桜花姫の様子に一同は一安心したのである。
「事件は解決出来たし…」
「如何やら私達の出番は…」
「此処で終了みたいね…」
桜花姫の三体の分身体が自然消滅する。
「えっ?桜花姫様の分身体が消滅するなんて…」
「事件が無事に解決出来たからな…私も退散するか…」
今度は妖星巨木の精霊が消滅したのである。
「今度は妖星巨木の精霊が消滅したわ…」
すると雪美姫が恐る恐る周囲の者達に問い掛ける。
「あんた達は如何するのよ?」
八正道は返答する。
「私は東国の寺院に戻りますよ…度重なる戦闘によって疲労された桜花姫様を介抱しなくては…私達は失礼しますね…」
八正道は疲労困憊の桜花姫を背負った状態で退散したのである。八正道と桜花姫が退散してより数秒後…。
「私も南国の天女の村里に戻ろうかな!」
小猫姫は満面の笑顔で返答したのである。
「私は…」
アクアヴィーナスはソワソワした表情で…。
「アクアユートピアに戻らないと…母様達が私を心配するだろうし…」
すると雪美姫は恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。
「天狐如夜叉…あんたは今後如何するのよ?」
「私は…」
正直気まずいのか天狐如夜叉は沈黙したのである。
「天狐如夜叉姉ちゃん!」
小猫姫が満面の笑顔で天狐如夜叉の両手に接触する。
「其方は…」
「今日から私と一緒に天女の村里で居候しましょうよ!折角の機会だし!」
「えっ!?小猫姫!?あんたは本気なの?此奴は今回の大事件の首謀者なのよ…」
雪美姫は小猫姫の居候発言に驚愕したのである。一方の天狐如夜叉は恐る恐る…。
「こんな私で大丈夫なのか?山猫妖女の小猫姫よ…私は大勢の民衆達を消滅させた極悪非道の大悪党なのだぞ…」
困惑した天狐如夜叉であるが小猫姫は平気そうな様子であり満面の笑顔で返答したのである。
「消滅しちゃった村人達と動物達は元通りに戻れたのよ!大丈夫よ!天狐如夜叉姉ちゃん!」
「小猫姫…其方は…」
無表情の天狐如夜叉であったが…。天狐如夜叉は涙腺から涙が零れ落ちる。
『蛇体如夜叉よ…彼女は…小猫姫は人一倍純情可憐だな…如何して蛇体如夜叉が小猫姫を孫娘として深愛するのか…私にも理解出来るよ…』
「兎にも角にも…今回の大事件は無事に解決出来たからね!私も戻ろうかしら!」
雪美姫は満面の笑顔で発言する。一連の大事件が無事に解決すると桜花姫一行は解散したのである。
第二十話
挨拶
天空魔獣天魔大皇帝との大激戦から二週間が経過…。今回の大事件後アクアヴィーナスは無事に深海底のアクアユートピアへと帰還出来たのである。深海底魔女のダークスキュランと母親のアクアキュベレーにこっ酷く説教され大泣きするものの…。翌日にはアクアヴィーナスの無事を大喜びされたのである。非常にギクシャクしたダークスキュランとの関係も改善され…。人魚王国アクアユートピアは本当の意味で深海底の楽園へと変化したのである。一方の粉雪妖女の雪美姫は悪友であり最上級妖女の月影桜花姫に影響され…。不寝番の桜花姫と同様に自称不寝番として国内の治安維持活動に尽力し始めたのである。一方居候生活を開始した山猫妖女の小猫姫と天狐如夜叉の様子であるが…。
「天狐如夜叉姉ちゃん!私と一緒に蛇体如夜叉婆ちゃんの墓参りしない?」
「蛇体如夜叉の墓参りか?」
『私は如何するべきか?』
天狐如夜叉は一瞬困惑するものの…。
「折角の墓参りだからな!」
天狐如夜叉は笑顔で返答する。
「小猫姫!今回は私も一緒に同行するよ!」
天狐如夜叉は小猫姫と一緒に蛇体如夜叉の墓参りに移動したのである。墓場へと到達した彼女達は蛇体如夜叉の墓石へと到達する。
「如何やら此処が…蛇体如夜叉の墓石みたいだな…」
「蛇体如夜叉婆ちゃん…」
小猫姫は蛇体如夜叉の墓石にて恐る恐る合掌したのである。
『蛇体如夜叉婆ちゃん…』
すると小猫姫の涙腺より一粒の涙が零れ落ちる。
「小猫姫…」
『蛇体如夜叉は老衰であったとしても…彼女にとって最愛の蛇体如夜叉との死別は相当辛苦であったのだろうな…』
天狐如夜叉は恐る恐る小猫姫に接触したのである。
「えっ?天狐如夜叉姉ちゃん?」
「蛇体如夜叉は最愛の小猫姫と再会出来て…今頃は極楽浄土で大喜びだろうよ!」
「えっ…」
小猫姫は不安そうな表情で…。
「本当かな?蛇体如夜叉婆ちゃんは私と再会出来て大喜びかな?」
「当然大喜びだろうよ!蛇体如夜叉にとって小猫姫は最愛の孫娘なのだからな!」
天狐如夜叉は満面の笑顔で断言する。
「天狐如夜叉姉ちゃん!」
「やっぱり小猫姫には笑顔が一番だな!」
「えっ…本当に!?天狐如夜叉姉ちゃん!」
小猫姫に笑顔が戻ったのである。
「御免よ…小梅姫…」
天狐如夜叉は蛇体如夜叉の墓地の左側に隣接する墓地へと移動する。
「えっ?天狐如夜叉姉ちゃん?」
天狐如夜叉は両目を瞑目させ恐る恐る合掌したのである。
『天狐如夜叉姉ちゃん…一体誰の墓石だろう?』
気になった小猫姫は恐る恐る墓石に彫刻された名前を覗き見するのだが…。
「えっ!?」
小猫姫は墓石の名前に驚愕したのである。
『月影鉄鬼丸って!?』
天狐如夜叉が合掌した墓石の名前とは誰であろう月影桜花姫の父親…。月影鉄鬼丸の墓石だったのである。
『月影鉄鬼丸って桜花姫姉ちゃんの…父様の名前だったよね!?如何して部外者の天狐如夜叉姉ちゃんが桜花姫姉ちゃんの父様に?』
小猫姫は驚愕する。
「えっ…」
『天狐如夜叉姉ちゃん…』
瞑目する天狐如夜叉の涙腺から一粒の涙が零れ落ちる。
『ひょっとして天狐如夜叉姉ちゃんは…贖罪したいのね…』
墓参りから数分後…。
「小猫姫…家屋敷に戻ろうか?」
「戻ろう!戻ろう!天狐如夜叉姉ちゃん!」
小猫姫は帰宅途中…。
「きゃっ!」
村里の村道にて小柄の若武者の美青年とぶつかったのである。
「うわっ!」
小猫姫と若武者は地面に横たわる。
「小猫姫!?大丈夫か!?」
一方ぶつかった若武者が恐る恐る…。
「失礼しました!御嬢さん…御怪我は?大丈夫ですか?」
若武者は即座に小猫姫に謝罪したのである。
「私なら…大丈夫よ…大丈夫だから…あんたは心配しないで…」
すると若武者と小猫姫は目線が合致したかと思いきや…。
「えっ…」
「はぁ…」
両者とも表情が赤面したのである。若武者は内心…。
『彼女は本物の天女なのかな?こんなにも美人の女性が存在するなんて…私は俗界の女神様と遭遇したのか!?』
一方の小猫姫も内心ドキドキし始める。
『如何して私はこんなにも緊張するの!?ひょっとして私は…』
天狐如夜叉は赤面し続ける小猫姫の様子に微笑み始める。
『ひょっとすると小猫姫…恋心だろうな!』
すると直後である。
「なっ!?」
半透明の白蛇が天狐如夜叉の背後に出現する。
「其方は蛇神の…蛇体如夜叉なのか!?」
「天狐如夜叉よ!久方振りだね!」
突如として天狐如夜叉の背後に出現したのは蛇神の蛇体如夜叉だったのである。
「蛇体如夜叉…如何して其方がこんな場所に?」
「天狐如夜叉!単なる挨拶だよ!久方振りに大昔の悪友に再会したかったのさ!」
「突然の再会とは…其方らしいな…蛇体如夜叉よ…」
「天狐如夜叉!あんたが元気そうで安心したよ!」
一方の天狐如夜叉は突然の超常現象に混乱する。
「あんたが混乱するのも当然かね!心配しなくても大丈夫さ!時間は一時的に停止させただけだから!」
天狐如夜叉は恐る恐る停止状態の小猫姫と若武者の様子を直視したのである。
「如何やら今現在…此処で身動き出来るのは私と蛇体如夜叉だけみたいだな…」
「天狐如夜叉よ…人一倍人間達を毛嫌いしたあんたがこんなにも心境が変化しちゃうなんてね…予想外だよ!一体何があんたの心境をこんなにも変化させたのかね?」
「鬱陶しいな…蛇体如夜叉は…其方は本当に気に入らない悪友だ…」
すると天狐如夜叉はボソッと小声で…。
「蛇体如夜叉よ…結局私は何を間違えたのか?」
恐る恐る蛇体如夜叉に問い掛ける。
「結果的に神族の宿敵であった天魔大皇帝は桜花姫ちゃんの大活躍によって仕留められた…遅かれ早かれ天魔大皇帝の封印は脆弱化した状態だったからね!あんたが天魔大皇帝の封印を解除しなくても封印は自力で解除されただろうよ!何方にせよ…」
蛇体如夜叉は天狐如夜叉の問い掛けに否定しなかったのである。
「何よりもあんたを暴走させたのは悪霊の仕業だろうからね…気にしないの!あんたが人間達を憎悪しても全滅させるなんて行動は実行出来ないだろうからね!」
天狐如夜叉は蛇体如夜叉の発言にビクッと反応する。
「神族の天狐如夜叉にも憑霊出来るなんて…悪霊の集合体は相当強力だね…」
「私自身の心情の脆弱さを悪霊の集合体なんかに利用されたのだ…非常に屈辱的だが私は未熟だった…」
天狐如夜叉は古代文明時代の人間達との大戦争に敗北…。悪霊の集合体は大戦争の敗北により絶望した彼女に憑依したのである。一方の天狐如夜叉は無意識的にも悪霊の集合体に憑依された状態で自分自身の悪心と人間達に対する憎悪が増幅され…。前代未聞の大規模計画を実行する。
「今現在の私は小猫姫と一緒だ!彼女と一緒なら私は大丈夫そうだ…」
天狐如夜叉が人間達に対する復讐心と悪心が浄化されたのは小猫姫の邂逅である。
「天狐如夜叉に憑霊した悪霊は浄化されたとしても…人間達は非常に野蛮だからね…あんたは今後も人間達に対する抑止力として活動しな!悪人が出現すれば徹底的に征伐しなよ…勿論殺さない程度にね!」
「私自身が人間達に対する抑止力か?私なりに努力するよ…」
蛇体如夜叉は再度満面の笑顔で…。
「天狐如夜叉!一言余計かも知れないけれどね…今後とも孫娘の小猫姫とは仲良くしてね!彼女は人一倍純粋無垢の女の子だから…誰よりも繊細だよ!」
「当然だよ!蛇体如夜叉!彼女は…小猫姫は其方にとって最愛の孫娘なのだろう?」
「勿論だとも!小猫姫は自慢の孫娘だからね!」
蛇体如夜叉は満面の笑顔で即答する。
「勿論…今回の大事件の功労者である桜花姫ちゃんとも仲良くしなよ!天狐如夜叉にとって桜花姫ちゃんは気に入らないのかも知れないけれど…彼女も私にとっては孫娘の一人だからね!小猫姫と同様に彼女も大事にしてね!」
「なっ!?」
桜花姫の名前にビクッと反応したのである。
『人一倍不埒で下劣この上ない彼奴が蛇体如夜叉の孫娘だと!?私には蛇体如夜叉の感性が理解出来ないな…』
天狐如夜叉は桜花姫の名前にピリピリし始めたのだが…。
「正直月影桜花姫は気に入らない妖女の小娘だが…私なりに努力するさ…」
すると突如として蛇体如夜叉に肉体が消滅し始める。
「えっ…」
天狐如夜叉は恐る恐る…。
「蛇体如夜叉?肉体が…」
「如何やら時間みたいだね…天狐如夜叉…」
「時間だと?蛇体如夜叉よ…其方は消滅するのか?」
「達者でね!天狐如夜叉!」
蛇体如夜叉の肉体は無数の発光体に変化するとパッと消滅したのである。
『蛇体如夜叉…』
蛇体如夜叉の肉体が消滅すると停止された時間は再度経過し始める。
「ん?」
『時間が…戻ったのか?』
すると小猫姫とぶつかった若武者は小猫姫の様子にホッとしたのである。
「御嬢様に御怪我が無さそうなので安心しましたよ!」
若武者は恐る恐る…。
「御嬢さん…貴女様に御詫びなのですが…」
若武者は三両もの小判を小猫姫に手渡したのである。
「えっ!?」
『私なんかに小判を三両も!?』
純金の小判に小猫姫は驚愕する。
「御怪我が無くても貴女様みたいな天女を連想させる女性にぶつかっちゃいましたからね…是非とも貴女様には贖罪しなければ!」
「大袈裟だよ…別に…私は大丈夫なのに…」
小猫姫は困惑したのである。
『人間にも…こんな若武者が存在するとは…』
人一倍人間を憎悪する天狐如夜叉であるが…。
『正直人間は気に入らない存在だが…当分は様子見が必要だな…』
若武者の行動に小猫姫は微笑み始める。すると天狐如夜叉は笑顔で…。
「人間の若武者よ!其方は人一倍幸運だったな…」
「えっ?幸運ですと?何が幸運なのですか?」
「今回ぶつかった相手が最上級妖女の桜花姫なら其方みたいな小坊主…簡単に食い殺されただろうよ!」
「えっ…本当ですか?」
若武者は天狐如夜叉の発言にドン引きする。
「天狐如夜叉姉ちゃん…」
『桜花姫姉ちゃんでもぶつかった程度では…天狐如夜叉姉ちゃんは桜花姫姉ちゃんが相当大嫌いなのね…』
小猫姫は苦笑いしたのである。
「若武者よ…今回はぶつかった相手が小猫姫で幸運だったな…」
「えっ?小猫姫って…」
若武者の表情が変化し始める。
「貴女様は!?ひょっとして不寝番の月影桜花姫様の妹分とされる…」
「私は…小猫姫…山猫妖女の小猫姫よ…」
小猫姫は恐る恐る若武者に自身の名前を名乗る。すると小猫姫との遭遇に若武者は大喜びしたのである。
「貴女様が山猫妖女の小猫姫様でしたか!私は小猫姫様が大好きでして!本日が休暇であれば…是非とも私と一緒に東国の歓楽街で遊歩しませんか!?勿論料金は私が全額負担しますから!小猫姫様は気になさらなくて大丈夫ですからね!」
「えっ…」
『私は如何するべきなのかな?』
小猫姫は見ず知らずの若武者を相手に困惑するのだが…。
「小猫姫よ…折角の機会だ!」
天狐如夜叉は笑顔で発言したのである。
「勉学として彼と遊歩したら如何なのだ?其方も暇潰しには好都合であろう?」
小猫姫は赤面するのだが…。
「はぁ…仕方ないね…」
『見ず知らずの男子と遊歩なんて…正直緊張するな…』
内心不本意であるが小猫姫は承諾したのである。
「私の名前なのですが…私は名門の武家一族…夜桜一族の夜桜太郎丸です!身分としては武士の身柄ですよ!」
若武者は自身を夜桜一族の夜桜太郎丸と名乗り始める。
「えっ?夜桜一族って…東国の夜桜崇徳王の武家一族だっけ?」
小猫姫の問い掛けに太郎丸は即答したのである。
「勿論ですとも!私自身の家系は夜桜一族でも…正確的には分家としての家柄ですけれどね!」
夜桜太郎丸は戦乱時代に活躍した東国の軍神…。夜桜崇徳王の子孫であり彼自身の家系は夜桜一族の分家に該当する。
「太郎丸君だったかな?あんたの一族って名門の夜桜一族なのね…」
「勿論ですとも!小猫姫様!」
すると天狐如夜叉が鬼神の形相で太郎丸にギロッと睥睨し始めたのである。
「夜桜太郎丸とやら…彼女は人一倍純粋で繊細なのだぞ!純情可憐の小猫姫を裏切るか…彼女を落涙させるならば私は即刻其方を惨殺するから覚悟するのだな!夜桜太郎丸…私は絶対に容赦しないぞ!其方が如何しても純情可憐の小猫姫と遊歩したいのであれば相応の覚悟は必要不可欠だ…留意するのだぞ!」
「ひっ!承知しました…」
太郎丸は天狐如夜叉の恫喝にビクビクし始める。
『天狐如夜叉姉ちゃん…太郎丸君に誤解されちゃうよ…』
小猫姫は天狐如夜叉の様子に再度苦笑いしたのである。
『太郎丸君…初対面なのに気の毒だね…』
小猫姫は天狐如夜叉の恫喝によりビクビクし続ける太郎丸が気の毒であると感じる。小猫姫は恐る恐る太郎丸に…。
「太郎丸君…気にしないでね!」
「小猫姫様?」
「本当の天狐如夜叉姉ちゃんは女神様みたいな女性だから!太郎丸君は心配しなくても大丈夫よ!」
「えっ…本当ですか!?小猫姫様!?」
太郎丸は女神様の一言に驚愕する。
『本当に…小猫姫様の保護者である女性は女神様でしょうか?小猫姫様が断言されるのであれば本当なのでしょうね…』
太郎丸は笑顔の小猫姫に苦笑いしたのである。
「太郎丸よ…私は監視役として其方に追尾するからな…覚悟するのだぞ!」
「えっ!?貴女様が私の監視役ですか!?」
天狐如夜叉の発言に太郎丸は再度動揺する。
「太郎丸とやら…私が其方の監視役だと不都合か?否が応でも私は其方を監視し続けるからな!」
天狐如夜叉は太郎丸に急接近したのである。
「えっ!?別に…」
「小猫姫と遊歩したければ私が其方の監視役として同行するのが最重要条件だぞ!太郎丸よ…」
天狐如夜叉は動揺し続ける太郎丸に睥睨…。最重要条件を提示したのである。
「えっ…はぁ…」
太郎丸は内心困惑する。
『太郎丸君…蛇に睨まれた蛙状態だね!』
小猫姫は太郎丸が気の毒に感じるものの…。太郎丸と天狐如夜叉の遣り取りに微笑み始める。
『天狐如夜叉様って女性は…美人だけど鬼神みたいな雰囲気だな…』
太郎丸は内心天狐如夜叉が鬼神みたいに感じる。
『天狐如夜叉様が私の監視役か…正直緊張するな…下手に行動すれば本当に殺されそうな雰囲気だし…』
太郎丸は極度の緊張感に身震いしたのである。
第二十一話
大研究
同時刻…。人魚王国アクアユートピアの深海底魔女ダークスキュランの根城では深海底魔女ダークスプライトが訪問する。
「久し振りね!ダークスキュラン!」
「えっ!?あんたはダークスプライト!?如何してあんたが私の根城に!?」
ダークスキュランはダークスプライトの突然の訪問に吃驚したのである。
「失礼しちゃうわね!何も吃驚しなくても!」
ダークスプライトは満面の笑顔で発言する。
「ダークスキュランは元気そうね!安心したわ!」
一方のダークスキュランはダークスプライトが鬱陶しかったのか面倒臭そうな態度で返答したのである。
「あんたは私に用事かしら?私はあんたと会話するのは面倒臭いのよね…」
「ギスギスしないで!ダークスキュラン!」
ダークスプライトはヘラヘラした様子でありダークスキュランはダークスプライトの態度にカリカリし始める。
「アスピドケロンの大事件は無事解決したみたいね!」
「大事件は解決したわ…アクアヴィーナスの報告だと事件解決の功労者はイーストユートピアの魔法使い…月影桜花姫なのよね…」
「月影桜花姫ね!」
するとダークスプライトはニヤリとしたのである。
「何かしら?ダークスプライト?」
「ダークスキュラン!あんたの協力が必要なのよ!」
「私の協力が必要ですって?」
『彼女の依頼は色んな意味で面倒なのよね…今度は何事かしら?』
ダークスキュランは呆れ果てる。
「協力って何よ?ダークスプライト?」
ダークスプライトは血紅色の宝石を手渡したのである。
「えっ?血紅色の…宝石かしら?」
「宝石の正体はね!結晶化した彼女の…月影桜花姫の血液なのよ!」
「えっ!?桜花姫の血液ですって!?」
ダークスキュランは再度驚愕する。
「以前彼女の血液を採血したのよ!」
「採血って…あんたは桜花姫の血液を採取するなんて大胆不敵ね…」
ダークスキュランは困惑したと同時に苦笑いしたのである。
『ダークスプライトって相当のチャレンジャーね…私には出来ないわ…』
ダークスキュランは大胆不敵のダークスプライトに内心呆れ果てる。一方のダークスプライトはニヤニヤした表情で発言する。
「今現在の月影桜花姫は細胞が不老不死なのよ!」
「不老不死の細胞ですって!?桜花姫が!?」
ダークスプライトは以前桜花姫と接触した出来事を洗い浚い説明したのである。
「桜花姫はアビスエキドナスとの戦闘以後も不死身の怪物を食い殺したのね…」
『桜花姫が不老不死に到達するなんてね…彼女は正真正銘の女神に大進化したのね…彼女は一体全体何者なのかしら?』
最早桜花姫は別次元の高次元的存在でありダークスキュランは多少の出来事では驚愕しなくなる。するとダークスプライトは小声で…。
「彼女の血液をベースに不老不死の魔法新薬を大研究したのよ!折角だからあんたも私と一緒に研究しましょうよ!不老不死を現実化出来る絶好機なのよ!」
ダークスキュランは困惑するのだが…。
「仕方ないわね…今回だけよ!」
『不老不死を実現出来るかは不明瞭だけど…暇潰しには好都合よね!』
ダークスキュランは僅少であるが不老不死の研究に興味深くなる。
「ダークスキュラン!協力!感謝するわね!」
ダークスプライトはダークスキュランの協力に大喜びしたのである。
第二十二話
現人神
二人の深海底魔女が不老不死の大研究を開始し始めた同時刻…。粉雪妖女の雪美姫は暇潰しに東国の八正道の寺院へと訪問する。
「八正道?」
「えっ?誰かと思いきや…貴女様は粉雪妖女の雪美姫様ですか!本日は如何されましたか?」
「暇潰しよ!暇潰し!」
「雪美姫様も暇潰しですか?暇潰しで私の寺院に訪問されるなんて…雪美姫様は桜花姫様みたいですね!」
雪美姫は警戒した様子で周囲をキョロキョロしたのである。
「八正道?あんたは桜花姫の居場所を知らないの?私は彼女に用事なのだけれど…」
桜花姫の居場所を問い掛けられた八正道は恐る恐る…。
「えっ?桜花姫様なら先程桜餅を食べられてから…地獄の世界に出掛けるとか?」
「えっ?地獄の世界ですって?」
雪美姫は珍紛漢紛だったのである。
「地獄の世界って何よ?」
「正直…私自身も何が何やら?桜花姫様の行動は摩訶不思議ですからね…常人には理解出来ませんよ…」
「彼女は本当に気紛れね…」
「気紛れなのは桜花姫様らしいですがね!」
「本当よね!」
すると雪美姫は恐る恐る問い掛ける。
「八正道?あんたって列記とした聖職者なのに肉食よね?聖職者なのに肉食って大丈夫なの?」
一方の八正道は雪美姫の失笑したのである。
「雪美姫様!面白い質問ですね!勿論…既存の宗教観では肉食は厳禁ですがね…」
既存の宗教観は表面だけの形式ばかりであり中身は空っぽ…。八正道は内心形式ばかりの既存の宗教観を軽蔑する。
「私は各地の修行僧達からは勿論…数多くの僧侶達から破戒僧と揶揄されますが構いませんよ!私にとって唯一無二の本当の信仰対象は現人神の月影桜花姫様なのですからね!桜花姫様以外の信仰対象は存在しません!」
八正道にとって最上級妖女の月影桜花姫は神仏を超越した現人神である。
「桜花姫が現人神ね…」
雪美姫も八正道の現人神発言に共感する。
「天魔大皇帝との最終決戦で大進化した仙女の桜花姫…本物の現人神よね!無神論者の私でも彼女を信仰したくなるわ!」
「桜花姫様は其処等の虚構の神体と比較するのは失礼ですが彼女は世界一自由奔放の現人神ですからね!」
八正道自身…。誰よりも自由奔放の桜花姫は憧憬の対象だったのである。
「私にとっても桜花姫様は憧憬ですからね…」
八正道は切なそうに発言する。
「八正道…」
「私は今後も聖職者としてではなく…一人の人間として数多くの困窮者達に共鳴し続けたいのです…周囲の僧侶達から破戒僧と揶揄されたとしても私は自分自身の意思で行動し続けますからね…」
すると雪美姫は満面の笑顔で…。
「八正道!あんたは最高ね!」
雪美姫は八正道の本音に同調したのである。
「如何して最上級妖女の桜花姫が人間のあんたを気に入ったのか理解出来たわ!」
雪美姫は何故桜花姫が彼を気に入るのかを理解する。
「今度さ!私も山中での食事に参加させてよ!」
八正道の真夜中の食事に興味深くなる。
「承知しました!雪美姫様!であれば沢山の食材を用意しなくては…」
「酒類を用意してね!」
「勿論ですとも!雪美姫様!」
八正道はワクワクしたのである。
最終話
再会
雪美姫と八正道が談笑した同時刻…。桜花姫は口寄せの妖術により自分自身の肉体を死後の世界とされる地獄の世界へと口寄せしたのである。
『口寄せの妖術…成功ね!』
最早桜花姫の駆使する口寄せの妖術は死後の世界とされる地獄の世界さえも行き来出来る領域へと到達する。
『久方振りだわ!地獄の世界は無数の悪霊が出現しそうな雰囲気ね!』
死後の世界である地獄の世界へと到達した彼女は周辺の殺伐とした景色を眺望したのである。
『神出鬼没の悪霊を仕留めるなら地獄の世界は最適の場所だわ!』
桜花姫は殺伐とした地獄の世界の雰囲気にワクワクし始める。桜花姫の目前には鬼神の甲冑を装着した武士が佇立する。
「久し振りね!月影幽鬼王!あんたは元気だったかしら?」
すると幽鬼王は警戒した様子で背後を直視したのである。
「なっ!?其方は…」
「御免あそばせ!幽鬼王!」
桜花姫と遭遇した武士とは誰であろう地獄の世界の住人…。北国の鬼神月影幽鬼王だったのである。
「其方は…大悪党の月影桜花姫か?」
「大悪党は一言余計だわ!私は誰よりも温厚篤実で地上世界の女神様なのよ!こんな私に大悪党なんてあんたは失礼しちゃうわね!」
「女神様だと?」
『自分で地上世界の女神様を自称するとは…此奴は余程の自己陶酔なのか?』
幽鬼王は桜花姫の言動に呆れ果てる。
「月影桜花姫…俺は二度と地獄の世界へは逆戻りするなと忠告しただろ!自分から地獄の世界に逆戻りするとは其方は相当の馬鹿者なのか?」
幽鬼王は鬼神の形相で桜花姫を睥睨し始め…。非常に呆れ果てたのである。
「仕方ないでしょう…俗界は毎日が平和過ぎるから私にとっては退屈なのよね!基本的に悪人しか存在しない地獄の世界でなら思う存分に悪霊を征伐出来るでしょう!」
「其方は相当の物好きみたいだな…自分から極悪非道の亡者しか存在しない地獄の世界に参上するとは余程の単細胞なのか?生身の生者にとって地獄の世界の居心地は最悪だぞ…俺も最初は気味悪かったぞ…」
「最悪かしら?別に私は気にならないわね!」
「命知らずの単細胞が…其方は相当の異常者なのだろうな…」
すると直後…。徘徊中の周囲の亡者達が生者である桜花姫に気付き始めたのである。
「如何やら地獄の亡者達が生身の生者である其方は反応しやがったぞ!自分から地獄の世界に参上したのを後悔するのだな…」
再度幽鬼王に忠告された桜花姫であるが…。
「私は後悔しないわ!今度の私なら大丈夫だからね!」
桜花姫は満面の笑顔で返答したのである。
「ん?」
『此奴は以前と比較すると…随分と余裕そうだな…常人なら地獄の空気だけで発狂するだろうに…こんなにも殺伐とした場所で桜花姫は平気なのか?』
桜花姫は余裕の様子であり幽鬼王は非常に不思議がる。
「何故なら!今回の私には…」
桜花姫は神性妖術である天道天眼を発動…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「桜花姫…」
『両目の瞳孔が瑠璃色に発光するとは…』
桜花姫は満面の笑顔で幽鬼王を直視し始める。
「私の神性妖術…天道天眼なのよ!」
「天道天眼だと?」
『如何やら此奴の奥の手みたいだな…』
幽鬼王は桜花姫の天道天眼を恐る恐る直視…。
『彼女の瞳孔は彼奴の…桃子姫の開眼させた摩訶不思議の眼光みたいだな…桜花姫は彼奴と同様の妖術を駆使出来るのか?』
幽鬼王は五百年前の桃子姫を想起したのである。
『ひょっとして月影桜花姫は?彼奴の…桃子姫の再来なのか?』
幽鬼王は小声でボソッと一言…。
「やっぱり其方は桃子姫と名乗る妖女と瓜二つだな…」
すると桜花姫はニコッと微笑み始める。
「私が桃子姫と瓜二つも何も…私は彼女の再来だからね!」
「其方…桜花姫は本当に桃子姫の再来だったのか!?」
「勿論よ!」
幽鬼王は桜花姫が元祖妖女…。桃子姫の再来である事実に驚愕したのである。
「其方みたいなじゃじゃ馬の小娘が桃子姫の再来だったとは驚愕だな…天地が引っ繰り返りそうな気分だぞ…」
すると周囲の亡者達が桜花姫に殺到し始める。
「桜花姫…亡者達に包囲されたぞ…一体如何するのだ?」
「私が神出鬼没の悪霊を相手に如何するのかって?」
桜花姫はニコッと微笑み始める。
「仕方ないわね!地獄の亡者達!あんた達は私の大好きな桜餅に変化しなさい!」
桜花姫は殺到する周囲の亡者達に変化の妖術を発動したのである。
完結