桜花姫神話太平記特別編
拠点
特別編
第一話
野良犬
世界暦四千五百五年八月下旬の時期…。戦乱時代末期の出来事である。北国には【月影幽鬼王】と名乗る最上級の若武者が北軍の強豪として各戦場で活躍する。北軍の月影幽鬼王は最強の武家一族である月影一族総本家の長男坊であり年齢十五歳の青二才であるものの…。外見のみなら大柄の美青年であり今迄の各戦場での功績から北軍の時期総大将に任命されたのである。同年の八月二十九日…。真昼の出来事である。幽鬼王は久方振りの気分転換に南国の最高峰である荒神山の頂上より…。南国の絶景の景色を眺望する。
『こんな殺伐とした時代に南国は平穏だな…』
荒神山の頂上から眺望出来る景色は非常に絶妙であり空気も清涼である。荒神山全体は非常に物静かな雰囲気であり自然林からは僅少の風音が響き渡る。
『南国は荒武者の集合地帯って命名されるが…此処は案外平和そうだな…』
南国は荒武者達の集合地帯とも呼称され…。各国の領主達からは必要以上に畏怖される。領土の大半は農村地帯であり南軍の兵卒達も大半が農村の村人達である。平時では非常に物静かであり荒武者達の巣窟とは程遠く感じられる。
『こんな場所で長居し続けても無意味だな…』
幽鬼王は祖国の北国に戻ろうかと思いきや…。
『私は北国に戻ろうか…』
「ん?」
背後より摩訶不思議の気配を感じる。
『気配を感じるな…人外か?』
幽鬼王は冷静の表情であるが…。
『非常に異質的だ…一体何が出現した?』
警戒した様子で恐る恐る背後を直視したのである。
「はっ…」
『此奴は?』
幽鬼王の背後には白色の野良犬が一匹…。
『此奴は単なる野良犬みたいだが…』
白色の野良犬は全身が血塗れであり大怪我した状態だったのである。野良犬は瀕死の状態であるものの…。無表情で幽鬼王を凝視し続けたのである。
『人騒がせな野良犬だな…瀕死の状態とは…』
気配の正体は瀕死状態の野良犬であり幽鬼王は一安心するものの…。野良犬の気配は異質的であり其処等の野良犬とは雰囲気が別格だったのである。
『此奴の正体は一体?やっぱり気配は異質だな…物の怪が瀕死の野良犬にでも変化したのか?』
幽鬼王は野良犬が物の怪の一種であると推測する。
「気の毒だが…野良犬の物の怪よ…」
幽鬼王は護身用の拳銃を携帯したのである。
『異国の拳銃とやらが本当に役立つのか?野良犬は虫の息だからな…』
内心では気の毒に感じるものの…。安楽死を決断する。
「折角の機会だ…此奴で試射するか?」
幽鬼王は人一倍負けず嫌いな性格であるが…。非常に獰猛で野蛮であり敵味方の将兵達からは北国の鬼神と呼称されたのである。舞台が主戦場であれば相手が無抵抗の女性やら子供は勿論…。非力の老人であっても平気で殺害する。残虐非道の冷血漢である。場合によっては敵軍の攻撃により瀕死状態だった仲間でさえも問答無用で殺害…。自軍の将兵達やら一族の身内からも無慈悲であると嫌悪されたのである。数多くの者達から嫌悪される幽鬼王であるが…。彼自身は特段周囲の評価を気にせず普段から公明正大に各地の村里を闊歩し続けたのである。
「悪いが野良犬の物の怪よ…虫の息であるからな…」
人間相手には残虐非道の月影幽鬼王であるが…。
『物の怪だとしても野良犬の姿形では…正直不本意だな…』
意外にも闘犬の愛好家であり闘犬に対する殺傷やら虐待は人一倍毛嫌いする。幽鬼王は拳銃を発砲…。野良犬の前頭部に拳銃の銃弾が直撃したのである。前頭部を銃撃された野良犬は即死…。地面に横たわったのである。
『物の怪とて瀕死の状態では他愛無いが…心苦しいな…』
地面は銃殺された野良犬の鮮血により赤色に染色する。
『其処等の人間を打っ殺す場合でも…此奴は案外役立ちそうだな…』
幽鬼王は祖国の北国へと戻ったのである。
第二話
城郭
世界暦四千五百五年九月十三日の真夜中…。南国の国境に位置する城壁にて北軍の軍勢が集結したのである。北軍の侍大将が鉄壁の城壁を直視する。
「此処が難攻不落とされる南国の城郭だな…」
南国の国境には難攻不落の城郭が聳え立ったのである。
「北軍の勇士達よ!」
北軍の侍大将は声高に発言し始める。
「今回の目的は南国の難攻不落…城郭の突破だ!今回の戦闘で難攻不落の城郭を突破出来れば…俺達の強大さを南国の奴等に熟知させられるだろう!」
今回の北軍の目的とは難攻不落として知られる城郭の突破である。今回は南国領土の攻略ではなく基本的に城郭を突破…。南国の将兵達と村人達に北軍の強大さを熟知させるのが北軍の目的である。
「勇士達よ!貴様達の健闘を期待するぞ!」
北軍の軍勢は推計九百人規模であり小国の北国にとっては最大級の兵力とされる。対する城郭守備隊の総兵力は推計四百人前後であり兵力のみなら北軍が圧倒的である。
「城郭の突破なんて…」
「東国でも攻略出来なかった難攻不落の城郭を俺達だけで突破出来るのか?」
難攻不落の城郭は桃源郷神国史上最大の大勢力東国でも攻略が困難だったとされ…。北軍の兵卒達は南軍の城郭を突破出来るのか不安視したのである。
「情けない奴等だ…弱卒ばかりか…」
北軍の鬼神…。月影幽鬼王は呆れ果てた表情で周囲の兵卒達を弱卒だと口走る。
「城郭を突破出来ずとも…城内の敵兵を仕留められれば私は満足だ…」
周囲の将兵達は幽鬼王の発言に愕然とする。
「えっ…幽鬼王?」
「あんたは本当に好戦的だな…戦闘さえ出来れば満足って…」
「やっぱり幽鬼王は異端者だよな…」
周囲の者達は幽鬼王が人一倍異端者であると感じる。すると突然…。城郭に設置された大砲から一発の砲弾が発射されたのである。
「なっ!?敵軍の砲撃だ!」
北軍の将兵達は突如として発射された砲弾に冷や冷やする。
「大袈裟だな…」
幽鬼王は周囲の兵卒達に呆れ果てる。城郭から発射された砲弾は偶然にも幽鬼王の頭上へと落下…。
「幽鬼王!砲弾が頭上に!」
落下し続ける砲弾に周囲の将兵達は身震いしたのである。
「こんな石ころで…」
幽鬼王は神速の身動きで抜刀し始めたかと思いきや…。
「貴様達は大袈裟だな…」
幽鬼王は神速の身動きで地上に着弾寸前の砲弾を両断する。間一髪砲弾の直撃を阻止したのである。
「こんな砲弾で私を仕留められるかよ…」
周囲の将兵達は幽鬼王の身動きに驚愕する。
「砲弾を…着弾する直前で一刀両断とは…」
「幽鬼王は…人間なのか?幽鬼王は何者だ?」
「やっぱり幽鬼王は人外だ!此奴が鬼神と呼称されるのも納得だな…」
将兵達は月影幽鬼王が自分達と同様に人間なのか疑問視したのである。
『月影幽鬼王…此奴は人間に変化した物の怪なのか?』
周囲の将兵達と同様に侍大将も身震いするのだが…。
「兎にも角にも…全軍で突撃せよ!城郭を突破するぞ!」
北軍は攻城兵器とされる破城槌を使用したのである。
「全力で表門を破壊するのだ!」
「表門を打っ壊せ!」
対する南軍は弓矢やら火縄銃等で表門の北軍将兵達を攻撃…。一方の北軍も弓矢等の遠距離武装で応戦したのである。一分間が経過すると表門は破壊され…。
「表門を破壊したぞ!全軍!城内に突撃せよ!」
『東軍でも困難だった城郭の表門を突破するとは…北軍は最強かも知れないな♪』
侍大将は内心大喜びする。北軍の将兵達は城内へと侵入したのである。城内の彼方此方で将兵達の叫び声が響き渡る。一方鬼神の幽鬼王も城郭内部へと侵入すると城内の敵兵達と遭遇…。彼等と交戦したのである。
「ん!?貴様は一体何者だ!?」
「貴様が敵軍の強豪なのは確実だな!覚悟せよ!」
三人の守備隊の将兵達が幽鬼王に殺到する。
『弱卒風情が…』
一方の幽鬼王は神速の身動きで三人の将兵達を斬撃…。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
「ぐっ!」
幽鬼王は三人の将兵達を瞬殺したのである。
『他愛無いな…所詮は弱卒だ…』
幽鬼王は遭遇する敵兵達を瞬殺し続けると城郭の天守閣へと到達する。天守閣には総大将は勿論…。二人の側近達が総大将を警護したのである。
「なっ!?貴様は!?」
「敵軍の将兵か!?」
二人の側近達は天守閣に到達した幽鬼王に驚愕する。
「貴様達!狼狽えるな!城郭は難攻不落の鉄壁なのだぞ!」
冷や冷やし始めた側近達とは相反して城郭の総大将は冷静沈着であり平常心だったのである。
「ですが総大将殿…天守閣に敵兵が…」
総大将は幽鬼王を直視し始める。
「貴殿よ…一人で難攻不落とされる城郭の天守閣に到達するとは偉大である!」
すると城郭の総大将は幽鬼王に興味深くなったのか満面の笑顔で…。
「貴殿の剣術は超一流である!貴殿の名前は!?」
名前を問い掛けられた幽鬼王は一瞬沈黙するも名乗り始める。
「私は…北国の鬼神…月影幽鬼王だ…」
幽鬼王が名前を名乗ると二人の側近達が驚愕する。
「月影幽鬼王だと!?貴様は名門の月影一族の!?」
「貴様が鬼神と畏怖された月影幽鬼王なのか!?」
周囲の側近達は幽鬼王に動揺するものの…。
「貴殿が鬼神の月影幽鬼王であるなら…鉄壁の城郭が突破されるのも納得だ…」
総大将は再度笑顔で発言する。
「貴殿の名前が月影幽鬼王なのであれば…本日より貴殿は南軍の将兵として活動しないか!?」
「私が南国の将兵だと?」
総大将は幽鬼王を南軍の将兵として勧誘したのである。
「えっ!?」
「総大将殿!?月影幽鬼王を…南国の将兵に!?」
二人の将兵達は総大将の発言に愕然とする。
「相手は北軍の将兵ですよ!本気なのですか!?」
「将兵は将兵でも…此奴は月影一族の月影幽鬼王なのですよ!」
「鬼神と畏怖される危険人物を南軍の将兵として勧誘されるなんて…総大将殿は正気なのですか!?」
「心配せずとも…私は正気だぞ!」
総大将は側近達の問い掛けに即答したのである。
「噂話では貴殿は戦闘と殺戮が大好きなのだな…手駒の将兵としては上出来だ!是非とも本日より南軍の将兵として活動しないか!?貴殿が南軍の将兵として活動すれば今後も思う存分に大暴れ出来るぞ!」
『此奴を南軍に勧誘出来れば…百人力の戦力だからな!』
南軍にとって月影幽鬼王の勧誘は戦力の増強も期待出来…。総大将の意向としては幽鬼王の勧誘は実現したかったのである。
「貴殿には褒美として高値の酒類も獣肉も思う存分に提供するからな!条件としては悪くないだろう!?貴殿の希望を優遇するが如何する!?」
幽鬼王は沈黙し始める。数分後…。
「俺の目的は…敵対者の殺戮だけだ…」
幽鬼王は再度抜刀したのである。
「幽鬼王!?貴様!?」
「総大将殿に手出しするのか!?」
幽鬼王は総大将に斬撃する寸前…。
「幽鬼王!南軍の総大将には手出しするな!」
「ん?誰かと思いきや…」
幽鬼王は寸前で制止したのである。
「貴様等は?」
北軍の侍大将は勿論…。大勢の将兵達が天守閣に集結したのである。
「此処に北軍の軍勢とは…であれば城郭の守備隊は全滅したのか?」
南軍の総大将が問い掛けると北軍の侍大将は即答する。
「城内の将兵達は…全員投降した…」
「奴等は投降するとは…」
南軍の総大将は自軍の敗北を自覚したのである。
「難攻不落とされる城郭を容易に陥落させるとは…貴様等の強大さは本物だ!大国の東国以上だろう!」
南軍の総大将と二人の側近達は北軍の強大さを認識する。
「今回の戦闘は私達南国の敗北だ!不用意に抵抗しない…私を斬首したければ思う存分に斬首せよ!」
「総大将殿!?」
「何も総大将殿だけが斬首なんて…私達も同様に!」
二人の側近達は総大将の意向に動揺したのである。南軍の総大将は無抵抗の意思を表明するのだが…。
「安心しなされ…斬首は不要ですぞ!」
北軍の侍大将は満面の笑顔で返答する。
「今回の俺達の目的は…南国の将兵達は勿論…村人達に北軍の強大さを知らしめるのが目的なのです!敵国の総大将だとしても貴方は斬首しませんよ!俺達にとっての本当の敵対者は仇敵の東国ですからね!」
「東国ですと?」
南軍の総大将は一瞬沈黙するのだが…。
「私達にとっても…東国は打倒すべき敵対者です!今後は貴方達北軍とも共闘したいですな!」
南国の総大将は満面の笑顔で返答する。
「勿論ですとも!共闘しましょう!大敵の東国を打倒するのです!」
結果的に難攻不落とされる城郭の突破によって南軍は敗北するものの…。南軍の総大将は間一髪命拾い出来たのである。両陣営の総大将達は和解すると北軍の将兵達は撤退を開始…。今回の戦闘は北軍の大勝利に終焉する。自軍の強大さを南国の民衆達に知らしめる北軍の主目的は見事に達成出来たのである。今回の城郭を突破した北軍の戦績は敵国である東国を戦慄させる。
第三話
進軍
世界暦四千五百五年九月二十一日…。北国の武士達は東国が牛耳る金剛山への侵攻作戦を謀議したのである。金剛山は東国の支配領域であるが金剛山を攻略出来れば無尽蔵の天道金剛石が確保出来…。東国領内への侵攻が容易くなる。北国の領主は即座に兵卒達を集結させ東国の金剛山侵攻作戦を本格的に実行したのである。北軍の本拠地である根城より大勢の兵卒達が集結する。
「全軍…覚悟せよ!」
北軍の侍大将が発言したのである。
「今回東国の金剛山を陥落させれば大量の天道金剛石も確保出来…大敵の東国を弱体化させられる絶好の機会である!総軍で奮闘すれば確実に勝利出来る戦闘であるぞ!」
直後…。北軍の兵卒達の士気が鼓舞したのである。
「金剛山を守備する東軍の総兵力は俺達よりも数倍上回るだろうが…所詮奴等は単なる烏合の衆である!相対する。貴様達は百戦錬磨の歴戦の勇士達なのだぞ!貴様達歴戦の精鋭達が奮闘すれば…確実に東軍の烏合の衆を容易に蹴散らせられる!貴様等の健闘を期待するぞ!」
今回大集結した北軍精鋭部隊の総兵力は推計三百人規模…。金剛山を守備する東軍の総兵力は最低でも推計九百人規模であり主要兵力では北軍が圧倒的に不利であるものの…。今回の作戦に抜擢された北軍の兵卒達は百戦錬磨の歴戦の勇士達であり北軍最強の鬼神と呼称される月影幽鬼王も北軍の少数精鋭部隊に抜擢されたのである。
「全軍!即刻進撃を開始するぞ!目標は東軍の金剛山だ!」
侍大将を先頭に北軍は東国の支配領域である金剛山への侵攻作戦を開始する。彼等は破竹の勢いで村道を移動中…。二人の足軽が私語し始める。
「あんた…敵兵を何人打っ殺せるか…俺と一緒に競争しないか!?」
小柄の足軽が競争を提案するのだが…。大柄の足軽は嫌悪した様子で返答する。
「こんな状況下で人殺しの競争なんて…不謹慎だな!俺は一日も早く村里に戻りたいのに!競争したいなら俺以外の奴等と競争しやがれ!」
足軽は農民が大半であり村里に戻りたい兵卒達も少なくない。大柄の足軽が返答すると小柄の足軽が…。
「あんたって図体だけは巨漢なのに随分弱腰だよな!敵兵を二百人以上打っ殺せれば三石の米俵を獲得出来る絶好の機会なのに…勿体無いな!」
北国では敵国の兵卒を二百人以上殺害した場合は褒美として三石の米俵を譲渡される。敵軍の総大将…。強豪の兵卒を斬首した場合は領主の側近として一生涯従事出来る。
「人殺しの競争なんて…俺は御免だね!」
大柄の足軽は競争を拒否する。
「仕方ないか♪」
すると小柄の足軽は無口の幽鬼王に競争を提案したのである。
「武士の兄ちゃんよ!あんたは敵兵を何人打っ殺せるか…俺と仲良く敵兵打っ殺し競争しないか!?折角の機会だし!」
小柄の足軽に周囲の者達は呆れ果てる。
「はぁ…此奴は…勇気だけは一人前だな…」
『此奴は相当の命知らずだな…相手は鬼神の月影幽鬼王だぞ…殺されたいのか?』
小柄の足軽に大柄の足軽が命知らずであると感じる。すると幽鬼王が睥睨した表情で返答する。
「貴様は…鬱陶しいな…」
幽鬼王は非常に苛立った様子で返答したのである。
「貴様は私に殺されたいのか?命知らずが…」
「ひっ!俺が悪かったよ…」
幽鬼王の威厳と目力に圧倒されたのか小柄の足軽は勿論…。周囲の兵卒達が月影幽鬼王の殺気に戦慄したのである。月影幽鬼王は北軍では最強の武人である反面…。相手が味方の将兵であっても気に入らなければ問答無用に殺害する。幽鬼王が殺害を断言すると周囲の者達は即座に沈黙し始めたのである。
第四話
突破口
北軍精鋭部隊が破竹の勢いで進撃を開始し始めてから四時間後…。彼等は北国と東国に位置する国境へと到達する。
「勇士達よ!東国の国境に到達したぞ!目的地の金剛山は間近だ!」
侍大将を先頭に北軍の精鋭部隊は再度金剛山へと直行したのである。金剛山の天辺には東軍の根城が増築され根城の表門には二人の番兵が警備する。暗闇の真夜中であるが表門の番兵達が無数の跫音に気付いたのである。
「ん?無数の跫音だ…味方の軍勢なのか?」
「こんな真夜中に味方の軍勢が大勢で行動するだろうか?」
彼等が疑問視した直後…。真正面の山道より大勢の武士達が天辺の根城へと突入したのである。
「なっ!?夜襲か!?ん!?」
番兵の一人が旗印を直視…。
「奴等…北国の軍勢だぞ!」
番兵達は北国の紋章を確認したのである。
「敵襲だと!?北軍の奴等だな!」
旗印を直視すると敵軍は北国の軍勢であると認識…。根城内部の各兵卒達が番兵の呼号に反応したのである。
「敵襲だって!?本当なのか!?」
「北軍が襲撃だと!?」
「北軍の奴等が!?」
「こんな真夜中に敵襲とは!」
北軍の夜襲に動揺するものの…。守備隊の兵卒達は即座に抜刀したのである。
「破城槌で表門を破壊しろ!突破口を構築するのだ!」
進撃中の北軍は攻城兵器の一種…。破城槌で真正面の表門を破壊したのである。
「城内の表門が敵軍に破壊されたぞ!」
城内の表門を突破した北軍は破竹の勢いで突破口から城内へと進撃したのである。
「全軍!東国の荒武者達を打っ殺せ!完膚なきまでに奴等を仕留めるのだ!」
北軍の侍大将が命令したと同時に北軍の足軽…。武士達が東国の兵卒達に襲撃する。一方の東軍守備隊も必死に抵抗したのである。
「根城を守備しろ!此処で敵軍を撃退するのだ!」
根城の城内は乱戦状態であり敵味方の鮮血は勿論…。将兵達の肉片が城内全域に散乱したのである。一方北軍最強の鬼神…。月影幽鬼王は神速の身動きと達人相当の剣術を駆使しては殺到する東国の兵卒達を瞬殺したのである。
「彼奴は北国の鬼神…月影幽鬼王だぞ!」
「幽鬼王だと!?」
「此処で幽鬼王も参戦するとは!」
東軍の兵卒達は鬼神幽鬼王の出現に殲滅し始め…。彼等は幽鬼王に対する恐怖心からか身体髪膚が膠着する。一方の幽鬼王は戦闘開始からの五分間で東国の兵卒達を十二人も殺害したのである。
「所詮東国の兵卒達は…」
『雑魚ばかりで面白くないな…』
幽鬼王は敵兵を一蹴すると根城の最上階へと直行し始める。
第五話
陥落
幽鬼王が最上階へと移動する同時刻…。根城の最上階には根城の東軍総大将と側近が停留する。
「総大将殿!敵軍は北国の少数精鋭部隊みたいです!」
「北国の少数精鋭部隊か…恐らく奴等は金剛山に埋没する無尽蔵の鉄鉱石を確保したいみたいだな…」
「即刻援軍を要請しなくては金剛山が陥落するのも時間の問題です!援軍を要請するべきかと!」
金剛山の陥落は時間の問題である。
「援軍も止むを得ないか…此処を死守しなければ東国本陣が危険だからな!」
総大将は援軍の要請を決断した直後…。障子の奥側より見張り役達の悲鳴が室内全体に響き渡る。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
障子には鮮血の飛沫が飛散したのである。
「何事だ!?」
障子の鮮血の飛沫を直視すると総大将と側近は畏怖する。
「ひっ!」
「狼狽えるな!根城は鉄壁の城郭なのだ…短時間で落城するか!」
総大将は恐る恐る護身用の懐刀を抜刀したのである。
「敵軍の兵卒か?」
すると血塗られた障子が何者かにより蹴破られる。
「貴様は一体…何者だ!?」
鬼神を連想させる甲冑を装備した一人の武士が出現したのである。武士の右手には鮮血により赤色に染色した刀剣が確認出来る。
「私は…北国の月影幽鬼王だ…」
幽鬼王が自身の名前を名乗ると根城の総大将と側近は極度に畏怖…。
「月影幽鬼王って…」
「貴様が北国最強の鬼神として畏怖された…月影幽鬼王なのか!?」
彼等は後退りし始める。総大将は恐る恐る幽鬼王に問い掛ける。
「貴様…城内の若武者達は如何したのだ?」
「奴等か?今頃は城内から一目散に撤退したか…主戦場で全滅しただろうな…」
総大将に問い掛けられた幽鬼王は無表情で即答したのである。
「貴様…一体如何するのだ!?」
幽鬼王は恐る恐る問い掛ける総大将に再度即答する。
「私が如何するかって?私は貴様達が重宝する東国の軍神…夜桜崇徳王みたいに相手が無抵抗でも手加減しないからな…相手が非力の老人でも子供であっても同様だ…俺は平等に仕留める…」
断言した直後…。幽鬼王は神速の身動きにより総大将と側近の頭首を斬撃したのである。幽鬼王は総大将の頭首を回収し始め…。根城の最上階から脱出する。城内での戦闘は継続中であり敵味方の兵卒達が乱戦したのである。幽鬼王は一息…。
「全軍!注目せよ!」
幽鬼王の大声に敵味方の兵卒達が幽鬼王に反応したのである。
「えっ?」
「一体全体何事だ!?」
「彼奴は鬼神の月影幽鬼王か!?」
幽鬼王は東国総大将の頭首を敵味方に注目させる。
「皆の衆…此奴の頭首を直視せよ!」
北軍の兵卒達は勿論…。東軍の兵卒達も愕然とした表情で斬首された東軍総大将の頭首を直視したのである。
「えっ…ひょっとして総大将の頭首!?」
「なっ!?総大将が…」
「総大将は北軍の兵卒に斬首されたのか!?」
「俺達は北軍に…敗北したのか?」
総大将の戦死により東軍守備隊の兵卒達は絶望し始め…。一目散に根城から逃走したのである。
「敵軍が撤退したぞ!俺達の大勝利だ!」
北軍の将兵達は撤退し始めた東軍守備隊の兵卒達に大喜びする。
「金剛山は俺達の領地だぞ!」
北軍の大勝利に侍大将は勿論…。味方の兵卒達は大喜びしたのである。侍大将は大勝利の貢献者である幽鬼王に近寄る。
「月影幽鬼王!大変見事だったぞ!今回の大戦果だ…敵軍の総大将を仕留めた貴殿は次期領主に確定したからな!」
すると幽鬼王は無表情で返答する。
「生憎だが…私には一国の領主なんて不向きだ…」
「不向きだと?貴殿は領主の地位が気に入らないのか?」
北軍の侍大将は恐る恐る問い掛ける。
「当然だろう…」
幽鬼王は侍大将の問い掛けに即答したのである。
「私は敵対した人間を徹底的に斬首するだけだ…」
幽鬼王にとって地位と大名誉は無価値であり他者の殺害…。最前線での戦闘こそが幽鬼王にとっての信念であり最大の娯楽だったのである。
「私は今後も思う存分に気に入らない人間達を打っ殺せれば大満足だ…一生涯自由を束縛される一国の領主なんて地位は私には不要なのだ…」
幽鬼王の発言に一瞬畏怖するも侍大将は笑顔で…。
「月影幽鬼王よ…貴殿らしい返答だな♪貴殿は今後とも思う存分に大勢の敵兵達を仕留めるのだぞ!」
周囲の者達は幽鬼王の意向が理解出来なかったのである。
「次期領主は確定なのに勿体無いよな…幽鬼王の野郎…」
「次期頭首なんて大名誉…俺だったら大喜びだけどな…」
今回の戦闘で金剛山の根城は北軍の少数精鋭部隊に襲撃され…。金剛山は彼等によって完全に占拠されたのである。
第六話
惨殺
翌朝の九月二十二日早朝…。北軍の少数精鋭部隊は金剛山守備隊の東軍残存勢力殲滅を名目に金剛山の東側近辺に位置する小規模の村里への襲撃を実行したのである。彼等は村里を襲撃するものの…。東軍守備隊の残存勢力は皆無であり北軍精鋭部隊の襲撃によって数十人もの村人達が殺害されたのである。
「畜生が!結局東軍の残党は一目散に逃げやがったか!」
「東軍の奴等…逃走だけは一人前だな…」
彼等は東軍守備隊の残存勢力殲滅こそ達成出来なかったが…。
「ですが大量の米俵を入手出来ましたぜ!」
「当分は大丈夫そうだな!」
村里で大量の食糧品を確保出来たのである。村里の中心地では北軍の兵卒達が飲酒…。大声で談笑する。
『退屈だな…』
幽鬼王は中心地のとある民家にて一人で焼酎を飲酒したのである。
『近頃は相手が雑魚ばかりが相手で面白くないな…』
幽鬼王は自身と接戦出来そうな強敵と遭遇出来ず…。内心苛立ったのである。すると二人の兵卒達が民家に進入する。
「ん?誰かと思いきや…あんたは鬼神の月影幽鬼王か…」
大柄の兵卒が幽鬼王に近寄り始める。
「あんたの昨日の活躍は絶大だったな!あんたは正真正銘北国の英雄だよ!あんたの大活躍で月影一族も当分は安泰だろうよ!」
今度は中柄の兵卒が満面の笑顔で発言する。
「俺もあんたみたいに主戦場で大活躍したいぜ!俺も主戦場で幽鬼王みたいに活躍出来れば今頃は北国の時期領主確定だな!一体如何すれば俺達みたいな凡人でも幽鬼王みたいに活躍出来るのかな?」
中柄の兵卒は大柄の兵卒に笑顔で問い掛ける。
「俺達では頑張っても鬼神の幽鬼王みたいに大活躍するなんて不可能だろうぜ!」
「幽鬼王は伝説の神童かな?やっぱり俺達とは別次元だな!」
彼等は愉快に談笑したのである。すると幽鬼王は無表情で…。
「私は単純に気に入らない人間を打っ殺したいだけだ…私にとって地位も大名誉も無価値であり無用の長物なのだ…」
戦闘と殺戮こそが幽鬼王にとっての娯楽である。地位やら大名誉は幽鬼王にとっては不要以外に他ならない。
「地位と名誉が無用の長物だって?」
『幽鬼王の野郎…此奴は本当に戦闘と殺戮以外では無関心だな…一匹狼だし…』
二人とも幽鬼王が戦闘以外の物事には極度の無関心であると感じる。
「ん?」
すると突然…。民家の板戸より物音が響き渡る。
「誰だ?」
「此奴は…村里の小娘か?」
彼等は板戸の少女に注目する。
「はぁ…はぁ…」
民家の板戸より血塗れの着物姿の少女が民家の玄関口へと進入したのである。
「如何やら此奴は村里の子供みたいだな…」
「村里の小娘か?包丁なんて随分と物騒だな…着物も血塗れだし…折角の可愛らしい風貌が台無しだぜ!」
少女の左手には血塗れの出刃包丁が確認出来る。
「あんた…あんたね!」
少女は幽鬼王を凝視し始め…。睥睨したのである。
「あんたが!あんたが私の父ちゃんと母ちゃんを殺した武士ね!」
少女は鬼神を連想させる形相で力一杯幽鬼王を睥睨し続ける。
「村里の嬢ちゃんよ…相手は北軍最強の武人だぜ!嬢ちゃんみたいな小娘なんて簡単に打っ殺されちまうぞ!」
「譲ちゃんには警告するが…此奴はあんたみたいなひ弱の子供が相手でも容赦しないからな!死にたくなかったら即刻逃げちまいな!こんな場所で長居し続ければ嬢ちゃんは命拾い出来なくなるぞ…」
二人の兵卒は少女に警告したのである。一方の少女は二人の警告には無反応…。
「此奴は…俺達の警告を無視しやがって!」
「気に入らない譲ちゃんだぜ…大怪我しても知らないぞ…」
兵卒達は少女の態度に腹立たしくなる。一方の少女は只管に幽鬼王を睥睨し続けたのである。
「ん?幽鬼王?」
幽鬼王は無表情で少女に近寄り始める。
「幽鬼王の野郎…譲ちゃんに何を?」
すると少女は恐る恐る…。
「如何して…如何してあんたは私の父ちゃんと母ちゃんを惨たらしく殺したのよ!?私の父ちゃんと母ちゃんは何一つとしてあんた達には迷惑なんて…」
少女は目前で父親と母親が惨殺されたのである。
「如何して…私の父ちゃんと母ちゃんを殺したのよ!?」
少女の涙腺から涙が零れ落ちる。
「であればあんたも地獄の世界で父ちゃんと母ちゃんに再会しな…両親に笑顔で出迎えられるかも知れないぜ…」
「えっ?」
幽鬼王は即座に刀剣を抜刀したのである。無表情で少女の頭首を一刀両断…。室内には彼女の鮮血が飛散したのである。
「えっ…幽鬼王!?」
『此奴は小娘を打っ殺しちまうとは…』
「幽鬼王…本当に無慈悲だな…」
『幽鬼王の野郎…こんな非力の子供を相手にも容赦しないとは…』
二人の兵卒達は相手がひ弱の子供であっても容赦しない幽鬼王の異常性に畏怖し始め…。無慈悲の幽鬼王に嫌悪したのである。
「幽鬼王!何も殺さなくても…相手はひ弱の子供だぜ!」
「あんたは本当に無慈悲の鬼神だな!非力の子供にも容赦しないとは…」
二人の兵卒達は何故月影幽鬼王と呼称される人間が無慈悲の鬼神として畏怖されるのかを理解する。二人は警戒した様子で恐る恐る幽鬼王から後退りしたのである。
「であれば今度は…貴様達も先程の小娘みたいに斬首されたいか?」
「ひっ!」
「此奴は本気だ!逃げろ!」
幽鬼王に畏怖した二人の兵卒達は一目散に逃走する。
『此処は不条理の主戦場なのに…所詮奴等も小心者だな…』
幽鬼王は一目散に逃走する兵卒達に呆れ果てる。
第七話
討伐部隊
北軍の精鋭部隊が村里を占拠した同時刻…。東国の中心地に位置する東軍本拠地では北国の領土拡大により東軍の根城全体が大騒ぎする。
「北軍の領土拡大なんて本当なのかよ!?」
「如何やら北軍の領土拡大は事実らしいぞ!敗残兵の報告では金剛山の根城が奴等の少数精鋭の軍勢によって陥落したって内容だ!」
「金剛山守備隊の総大将も敵兵によって斬首されたらしいな…」
「金剛山の総大将が斬首されちまったのかよ!?」
「此奴は一触即発の一大事だな…」
「金剛山が陥落したとすれば…今度は東国本土が進撃されるぞ!」
東軍の領主達は北軍の進撃に畏怖したのである。東国の領主達は即座に北軍の討伐部隊を新編成する。一番に北国討伐部隊に抜擢されたのは東国の軍神と呼称される夜桜崇徳王である。夜桜崇徳王は東軍最強の若武者であり各地の主戦場で大活躍した随一の剣豪の一人…。愛刀である天道金剛石の刀剣と鬼神を連想させる甲冑の装備が特徴的である。若武者の崇徳王以外には推計八百人もの精鋭達が北国討伐部隊として抜擢される。東国中心地の根城より北国討伐部隊が集結する。
「俺達は即刻東国の領内に侵攻する北軍の軍勢を撃退する!全軍で奮闘すれば確実に撃退出来る聖戦であるぞ!貴様等勇士達の奮闘を期待する!北軍の進撃を徹底的に阻止するのだ!」
東軍の北国討伐部隊は侍大将を先頭に総勢八百人もの兵卒達が追尾したのである。東軍の北国討伐部隊は破竹の勢いで移動中…。崇徳王に隣接する若齢の足軽が恐る恐る問い掛ける。
「あんたは名門の夜桜一族の…夜桜崇徳王様だよな?」
すると崇徳王は即答したのである。
「勿論私は夜桜崇徳王ですが…如何されましたか?」
若齢の足軽は小声で…。
「こんな場所で発言するのも不謹慎だろうが…正直あんたは自分の村里へは戻りたくないのか?俺は正直…村里に戻れるのであれば一目散に戻りたい気分だよ…」
「えっ…」
崇徳王は足軽の問い掛けに一瞬沈黙するものの…。
「正直私は…祖国なんかよりも武陵桃源の西国に安住したいですね…」
足軽は崇徳王の本音が予想外だったのか一瞬驚愕する。
「えっ!?あんたは西国の村里なんかに!?意外だね…」
西国は戦乱時代では唯一の武陵桃源と命名される山間部であり人口は少数である。今現在西国では一度も戦闘が発生せず…。近隣の村里では俗界の武陵桃源やら極楽浄土と呼称される。
「如何して崇徳王様は西国の村里なんかに?あんたは自分自身の祖国に戻りたくないのか?」
崇徳王は困惑した表情で…。
「正直私にとって東国の風習は堅苦しくて苦痛なのです…出来るのであれば物静かな武陵桃源の土地で安住したいですね…」
崇徳王にとって東国の風習は堅苦しく人一倍苦痛だったのである。
『私は金輪際誰にも束縛されたくないからな!相手が身内でも…』
崇徳王は戦乱時代が無事に終焉したら何者にも束縛されない物静かな場所に安住したいと思考する。
「武陵桃源ですか…」
すると足軽は笑顔で発言したのである。
「崇徳王様よ!東国が無事に天下統一出来れば…武陵桃源の西国で安住しなされ!」
「感謝します!私も貴方様の無事を切願しますよ!無事に村里に戻りましょう!」
「崇徳王様!勿論俺も崇徳王様の無事を切願しますぜ!」
「感謝しますよ!」
彼等は意気投合…。握手したのである。
第八話
衝突
東軍の北国討伐部隊は本拠地から開始し始めてから三時間後…。周囲は非常に物静かであり清涼の風音が響き渡る。東軍の北国討伐部隊は金剛山の近辺に位置する村里の郊外へと到達するのだが…。
「なっ!?」
「村里では一体何が発生したのか?」
彼等が直視したのは荒廃化した村里である。人気は皆無であり腐敗した鮮血の悪臭が村里全体に蔓延する。
「腐敗した鮮血の悪臭でしょうか?如何やら村里は北軍の奴等に襲撃されたみたいですね…」
崇徳王は一瞬両目を瞑目し始め…。
『村里の内部からは無数の殺気を感じられる…村里では一体何が?』
崇徳王は幼少期から気配やら殺気を察知出来る知覚能力が人一倍顕著であり敏感である。すると侍大将が恐る恐る崇徳王に問い掛ける。
「夜桜崇徳王よ…此処からの距離で敵軍の総兵力が何人なのか判別出来るか?」
侍大将に問い掛けられた崇徳王は即座に返答する。
「気配から判断して…敵軍の総兵力は推定三百人前後かと…人数的に凄腕の者達でしょうね…」
「敵軍の兵力は三百人前後か…恐らくは敵軍の最精鋭部隊だろうな…」
周囲の兵卒達は崇徳王に驚愕したのである。
「崇徳王はこんな場所からでも気配だけで敵軍の人数を判断出来るのか!?」
「相手の実力も正確に察知出来るなんて…」
「此奴は本当に人間なのか?」
「夜桜崇徳王は妖怪の間違いでは?」
周囲の兵卒達は崇徳王が別次元の存在であると感じる。
「全軍…」
侍大将が村里への突入を合図する。
「村里の内部へは慎重に突入するのだ!敵兵を発見すれば手加減せず即座に仕留めよ!敵兵が投降するなら殺害せず拘束するのだ!各自の努力に期待する!」
北国討伐部隊の将兵達は侍大将の合図と同時に恐る恐る荒廃化した村里へと潜入したのである。村里に突入すると惨殺された村人達の遺体は勿論…。新鮮なる肉片やら鮮血が村里の彼方此方に確認出来る。
「敵軍は村人達を無差別的に虐殺するなんて…」
「やっぱり北国の奴等は卑劣だな…」
一方の崇徳王は仲間の将兵達と移動中…。
「えっ…」
崇徳王は腹部を斬撃された妊婦の遺体を発見したのである。
『ひょっとして妊婦の遺体だろうか?』
崇徳王は周辺の惨劇に涙腺から涙が零れ落ちる。
『奴等は無抵抗の妊婦にも手出しするとは…』
崇徳王は殺害された妊婦に恐る恐る両手で合掌したのである。先程一緒に談笑し合った足軽が恐る恐る崇徳王に近寄る。
「あんたは大勢の敵兵達からは極悪非道の荒武者だって畏怖されるみたいだが…今現在のあんたは本当に仏様だよ…」
「武人の私が仏様なんて…大袈裟ですよ…何よりも本物の仏様に失礼かと…」
『こんな私が仏様か…』
崇徳王は足軽の一言に内心嬉しくなる。
「俺達が頑張って殺し合いの世の中を終了させましょう!」
足軽の発言に…。
「勿論ですとも!こんな惨劇は二度と御免ですからね!」
『本当だよ…一日も早く私達の時代で殺し合いの世の中を終了させなくては!』
崇徳王は戦乱時代の終焉を決意したのである。
「崇徳王様!中心地に移動しましょう!俺達は仲間の将兵達と合流しなくては…」
彼等は再度村里の中心地へと直行する。一方東国の北国討伐部隊は村里の中心地に到達したのである。村里の中心地には北軍精鋭部隊の兵卒達が潜伏中であり彼等は東国の北国討伐部隊と対峙…。
「総大将殿!奴等は東国の軍勢ですぜ!」
「東軍の奴等か…如何やら奴等も百戦錬磨の精鋭部隊みたいだな…」
一方北国討伐部隊の総大将は恐る恐る北軍の兵卒達に問い掛ける。
「貴様達か!?此処の村里を襲撃したのは!?」
すると北軍の兵卒が即答する。
「勿論村人達を打っ殺したのは俺達だよ!俺達にとって東国の領内に居住する奴等は全員殲滅の対象だからな!」
「俺達は相手が非力の女人だろうと子供だろうと一視同仁に打っ殺すぜ!俺達に服従するなら命拾い出来るかも知れないが!」
「貴様等も俺達に投降するなら命拾い出来るぜ!如何するよ!?」
対する北国討伐部隊の兵卒達は彼等の言動に腹立たしくなる。
「極悪非道の外道風情が!」
「奴等の愚行…許容出来ないな!」
一方の北軍侍大将が刀剣を抜刀する。
「こんな場所に東軍の奴等が出向くとは…非常に好都合である!」
すると北軍の侍大将は総攻撃を合図したのである。
「全軍!東国の奴等は憎悪すべき殲滅の対象なのだ!大勢の戦友達を惨殺した東軍の奴等を皆殺しにせよ!」
侍大将の合図と同時に北軍の兵卒達が殺到する。
「全軍!東軍の奴等を討伐せよ!」
東軍の侍大将も反撃を合図したのである。北軍の軍勢と東軍の北国討伐部隊の軍勢が衝突…。両軍の将兵達は乱戦状態へと発展する。
第九話
贖罪
両軍が衝突し始めた同時刻…。両陣営の将兵達の雄叫びが村里全域へと響き渡り移動中の崇徳王と若齢の足軽が兵卒達の雄叫びに気付いたのである。
「如何やら中心地で戦闘が開始されたみたいですね…」
「俺達も参戦しましょう!崇徳王様!」
「勿論ですとも!移動しましょう!」
二人は移動を開始する。すると道中…。三人の北軍将兵と遭遇したのである。
「ん!?貴様達は東軍の奴等か!?」
三人の将兵達は即座に抜刀する。崇徳王と若齢の足軽は警戒した様子で刀剣を抜刀したのである。
「如何やら奴等は…北軍の敵兵みたいですね…」
「如何しますかい!?崇徳王様!?」
若齢の足軽は恐る恐る崇徳王に問い掛ける。
「彼等を仕留めなければ私達が殺害されます!即刻奴等に反撃しましょう!」
すると北軍の兵卒達が崇徳王の名前に反応する。
「貴様が東国の軍神…夜桜一族の夜桜崇徳王なのか!?」
「こんな場所で軍神の崇徳王に遭遇するとは…」
彼等は殺気立った形相で崇徳王に睥睨し始める。
「貴様の愚行によって俺達の戦友達が大勢惨殺されたのだ!俺達は怨敵である貴様に復讐する!覚悟するのだな!夜桜崇徳王!」
崇徳王は今迄の戦闘で数十人もの敵兵達を斬殺したのである。味方の将兵達からは軍神やら英雄として扱われる反面…。各地の敵軍将兵達からは憎悪すべき怨敵の対象として認識されたのである。
「夜桜崇徳王!俺達にとって貴様は仇敵だ!覚悟せよ!」
三人の兵卒達が崇徳王に殺到するものの…。
「覚悟するのは…貴様達だ!」
崇徳王は神速の身動きにより数秒間で三人の兵卒達を瞬殺したのである。
「ぎゃっ!」
「ぐっ!」
「無念!」
彼等は崇徳王の反撃によって地面に横たわる。
「一瞬で三人の敵兵を秒殺するなんて…」
若齢の足軽は三人の敵兵を瞬殺した崇徳王に愕然とする。
「如何やらあんたが最強の軍神って呼称されるのは本当みたいだな…」
「貴方も大袈裟ですね…所詮私は一人の人間なのに…」
「崇徳王様は列記とした人間様ですけれど…」
『凡人の俺達とは次元が違い過ぎる…』
若齢の足軽は返答する崇徳王に苦笑いしたのである。
「私達は即刻討伐部隊に合流して!敵軍に反撃しなくては!」
彼等が移動する直前…。
「なっ!?」
『殺気だと!?』
崇徳王は強大なる殺気に反応する。
「如何されましたか!?崇徳王様!?」
「殺気です…」
崇徳王は強大なる殺気に気味悪くなる。
「殺気ですと?崇徳王様?」
彼等の目前より…。
「今度の相手は私だぞ…東国の軍神…夜桜崇徳王…」
鬼神を連想させる甲冑を装備した敵軍の荒武者が出現したのである。荒武者は左手には拳銃を携帯…。右手には刀剣を装備した状態である。
「貴様は…一体?」
『此奴の雰囲気…異質的だな…殺気も其処等の兵卒達とは比較出来ない…』
崇徳王は荒武者の雰囲気から身震いし始める。
『此奴が強敵なのは確実だろうな…一体何者だ?』
崇徳王は荒武者に警戒する。一方同行者の足軽は恐る恐る崇徳王を直視…。
『軍神の崇徳王様がこんなにも警戒するなんて…此奴は崇徳王様が畏怖する程度に強敵なのだろうな…』
足軽も荒武者に警戒したのである。すると荒武者は崇徳王を凝視し始め…。
「貴様は目障りだ…夜桜崇徳王…覚悟しろ…」
荒武者は左手の拳銃を崇徳王に発砲したのである。
「崇徳王様!」
若齢の足軽が咄嗟の判断により崇徳王を庇護…。拳銃の銃弾が胸部に命中する。
「ぐっ!」
若齢の足軽は銃撃され地面に横たわったのである。
「えっ…」
崇徳王は突然の出来事に愕然とする。
「大丈夫ですか!?」
すると若齢の足軽が重苦しい表情で恐る恐る…。
「崇徳王様が…御無事で…何よりです…ぐっ!」
若齢の足軽は息絶える。
『如何して私は敵襲に対処出来なかったのだ!?畜生!』
崇徳王は若齢の足軽の戦死に涙腺より涙が零れ落ちる。すると崇徳王の背後より…。敵軍の荒武者が落涙し続ける崇徳王に近寄る。
「今度こそ貴様を仕留める…東国の軍神…夜桜崇徳王…」
崇徳王は強烈なる目力で敵軍の武士を睥睨したのである。
「貴様は…」
「軍神の崇徳王よ…仲間を殺した私に復讐したいか?」
敵軍の武士は無表情で名前を名乗り始める。
「私の名前は北国の鬼神…月影幽鬼王だ!貴様も地獄の世界で先程貴様を庇護した仲間と再会するのだな…」
普段は無表情の幽鬼王であるが…。一瞬冷笑したのである。
「貴様は…北国の鬼神…月影幽鬼王だと?」
『此奴が北軍最強の鬼神か…こんな場所で最強の鬼神と遭遇するとは…』
幽鬼王自身も東国は勿論…。南国の武士達から畏怖される武人の一人である。
「今度こそ覚悟しろ!夜桜崇徳王!」
幽鬼王は神速の身動きで崇徳王に急接近…。
「覚悟するのは貴様だ!月影幽鬼王!」
一方の崇徳王も全身全霊で幽鬼王に突撃したのである。両者の刀剣が接触…。双方が通過した数秒後である。
「ぐっ!」
幽鬼王が胸部より出血し始め…。
「ん?」
幽鬼王は恐る恐る胸部の傷口に接触したのである。
「なっ!?崇徳王…」
幽鬼王は崇徳王の背中を睥睨した直後…。
「貴様は…俺に…致命傷を…」
幽鬼王は地面に横たわったのである。
「月影幽鬼王…残念だが…所詮貴様では私を殺せない…」
「畜生が…崇徳王…」
崇徳王は無表情で地面に横たわった状態の幽鬼王に近寄り始める。
「月影幽鬼王…貴殿は今迄に…大勢の兵卒達のみならず…非武装の村人達を惨殺したみたいだな…」
「俺が非武装の村人達を…惨殺だと?」
幽鬼王は崇徳王の指摘に苛立ち始めたのである。
「所詮は…世の中に役立たない雑魚を打っ殺したから如何なるのだ?貴様は制裁として敗北者である俺を打っ殺したいのか?」
幽鬼王は苛立った様子で崇徳王に問い掛ける。
「夜桜崇徳王よ…俺を殺したければ思う存分に打っ殺せよ…」
崇徳王は一息…。地面に横たわった状態の幽鬼王に断言する。
「月影幽鬼王よ…貴殿は大悪党の一人だったが…今後は罪滅ぼしとして大勢の村人達を守護しろ!貴殿が本物の武人であるなら今度は本物の武人らしくか弱き他者に贖罪するのだ!急所は無事だ…貴殿なら崇高なる武人として遣り直せる!」
崇徳王は即座に村里の中心地へと移動したのである。
「俺が…罪滅ぼしだと?」
すると幽鬼王は全身が身震いし始める。
『何が…』
「何が罪滅ぼしだ!夜桜崇徳王!貴様だって…貴様だって今迄に数え切れない足軽を打っ殺しただろうが!」
普段は冷静であり無表情の幽鬼王であるが…。非常に感情的だったのである。
『俺だけが悪者かよ…崇徳王…所詮貴様だって俺と同類だろうが…』
今回ばかりは崇徳王の発言に影響されたのか幽鬼王の表情が本物の鬼神の表情へと変化する。
第十話
悲痛
同時刻…。崇徳王は主戦場へと戻ったのである。
「貴様達!今度は私が相手だ!」
すると十数人もの敵兵達が崇徳王に注目する。
「何を!?貴様!?」
「彼奴は軍神の夜桜崇徳王なのか!?」
「彼奴は俺達の戦友を斬殺した極悪非道の冷血漢だぞ!崇徳王を完膚なきまでに打っ殺せ!」
敵兵達は崇徳王に殺到したのである。
「極悪非道なのは貴様達だ!」
一方の崇徳王は村里の中心地へと移動したのである。
「覚悟しろ!」
崇徳王は殺到する十数人もの敵兵達を無我夢中に仕留める。開戦当初こそ北軍精鋭部隊は東軍の北国討伐部隊を相手に互角以上に交戦するのだが…。
「崇徳王が参戦したのか!?」
「反撃開始だ!北軍を撃退しろ!」
剣豪である崇徳王の参戦によって東軍の北国討伐部隊の士気が発揚したのである。崇徳王の参戦から数分間の戦闘で北軍の少数精鋭部隊は総兵力の約半分以上を喪失…。北軍の軍勢は後退したのである。
「畜生!東軍の奴等!」
「予想以上に手強いな…」
「崇徳王が参戦した影響だろうか!?」
北軍の兵卒達は東軍の必死の抵抗に疲弊する。
「総大将殿!」
すると血塗れの兵卒が恐る恐る北軍の侍大将に近寄る。
「戦闘を継続し続ければ軍勢が全滅します!金剛山の根城に撤退しましょう!」
「止むを得ないな!金剛山で奴等を迎え撃つか!」
不本意であるが北軍の侍大将は金剛山への撤退を決断する。
「全軍!一先ずは金剛山の根城に撤退するぞ!金剛山で徹底抗戦だ!」
北軍侍大将の撤退の合図と同時に北軍の軍勢は一目散に金剛山へと撤退したのである。無事に北軍の少数精鋭部隊を撃退出来…。北国討伐部隊の兵卒達は大勝利に大喜びしたのである。北国討伐部隊の侍大将が満面の笑顔で崇徳王に近寄る。
「今回も見事であったぞ!崇徳王!貴殿の大活躍で極悪非道の敵軍を撃退出来たのだからな!」
「ですが侍大将…」
崇徳王は落涙したのである。
「えっ…一体如何したのだ!?崇徳王!?大丈夫か!?」
侍大将は落涙し始めた崇徳王に動揺する。
「敵軍を撃退出来たとしても…」
崇徳王は恐る恐る…。
「今回の悲劇によって…大勢の戦友達は勿論…無関係の村人達が大勢惨殺されたのですから…」
戦死した足軽は勿論…。惨殺された大勢の村人達の惨劇を想起すると自身が無力であると感じる。
「私は何一つとして守護出来なかったのです!私が精一杯に奮闘すれば一人でも大勢の者達を守護出来たのでは!?」
「夜桜崇徳王…其方は一人の武人として誰よりも奮闘したのは周知の事実なのだ!何よりも一人の人間では全員を守護するのは現実的に不可能だぞ!誰も崇徳王を悔恨しないよ…其方の孤軍奮闘で今回の戦闘は辛勝出来たのだからな!」
「侍大将…ですが私は…」
「崇徳王…」
『崇徳王は精神的に大分疲弊した様子だな…』
侍大将は疲弊した崇徳王を気遣ったのか沈黙し始める。一方の崇徳王は数多くの惨劇の場面を直視し続けた影響からか精神的にも肉体的にも疲弊した状態だったのである。崇徳王は東側に位置するとある民家にて一休みするのだが…。
「えっ!?」
民家の居間には両目を失明した少女が血塗れの状態で床面に横たわり虫の息だったのである。
『北軍の奴等はこんなにも非力の少女にも手出しするなんて…』
崇徳王は民家の床面に横たわった状態の少女が悲痛に感じる。
『彼女は気の毒に…』
崇徳王は目の前の惨劇に落涙し始め…。
『彼女は虫の息だ…救済出来ないとは…』
床面に横たわった状態の少女に恐る恐る合掌したのである。すると直後…。
「はぁ…はぁ…私は…」
少女が再度呼吸し始めたのである。
「なっ!?」
崇徳王は吃驚する。一方失明した少女は瀕死の状態であったが小声で…。
「貴方は…」
床面に横たわった状態の少女は一休みする崇徳王に恐る恐る接触したのである。
「貴方は…味方の…将兵ですか?敵方の…将兵ですか?」
瀕死の少女に問い掛けられた崇徳王は落涙した様子で…。
「安心しなさい…私は…味方の将兵だよ…」
崇徳王は瀕死の少女の問い掛けに自身が味方の将兵であると返答したのである。
「大丈夫だから…私は貴女には手出ししないからね…」
崇徳王が返答すると少女は安心したのか微笑み始める。
「貴方は…味方の…将兵でしたか♪」
直後…。瀕死だった少女は今度こそ息絶えたのである。
『彼女は…力尽きたのか…』
崇徳王は戦闘の悲惨さを再度痛感する。
『こんな悲劇は絶対に終焉させなくては…』
崇徳王は息絶えた少女に再度合掌したのである。
『村里の中心地に戻らなくては…』
家屋敷から退室する。
第十一話
奪還作戦
退室してから数分後…。崇徳王は村里の中心地へと戻ったのである。一休みする侍大将に恐る恐る近寄り始める。
「侍大将…」
「崇徳王か…気分は大丈夫なのか?」
問い掛けられた崇徳王は即答する。
「私なら大丈夫です!」
「崇徳王!」
『普段の崇徳王に戻ったな!』
侍大将は崇徳王の様子に一安心したのである。
「侍大将?」
「ん?如何した?崇徳王?」
崇徳王は恐る恐る侍大将に意見する。
「即刻ですが…北軍の軍勢によって占拠された金剛山の根城を…総攻撃により奪還しましょう!」
「なっ!?金剛山の奪還だと!?」
侍大将は困惑した様子であり再度崇徳王に問い掛ける。
「崇徳王よ…今直ぐなのか!?」
「勿論ですとも!侍大将!今直ぐですよ!」
「如何するべきか?」
崇徳王の意見に侍大将は困惑したのである。
「占拠された金剛山の根城を奪還出来るのであれば即座に奪還したいのだが…生憎将兵達は先程の大激戦で体力を消耗した状態であるからな…北軍から金剛山の根城を奪還するなら明日の早朝からでも…必要以上に深追いするのは…」
「明日の早朝なんて悠長過ぎます!敵軍の増援が到達すれば何もかもが水の泡なのですよ!即刻私達だけで金剛山の根城を奪還するべきかと!」
すると周囲の兵卒達も崇徳王の意見に賛同する。
「侍大将!俺は崇徳王の意見に同意しますよ!即刻奴等から金剛山の根城を奪還しましょう!」
「俺も崇徳王と同意見ですよ!俺達だけで金剛山を奪還するのです!」
「俺達なら思う存分に大暴れ出来ますよ!」
「金剛山から北軍の奴等を蹴散らしましょう!侍大将!」
「俺も崇徳王の意見に賛同します!金剛山は東国の拠点ですからね!」
「金剛山の奪還…今直ぐにでも実行するべきです!」
侍大将は彼等の闘志に圧倒される。
「貴様達…」
侍大将は一瞬瞑目したのである。
「止むを得ないな!即刻金剛山を奪還するか!」
奪還作戦を決断した北国討伐部隊は即座に金剛山奪還作戦を開始する。金剛山は間近であり十数分間で到達出来たのである。
「ん?奴等は…東軍か!?」
「迎撃しろ!東軍を撃退するのだ!」
北軍精鋭部隊により占拠された頂上の根城からは無数の火縄銃の銃弾は勿論…。火矢が彼方此方に乱射されたのである。北軍精鋭部隊の猛反撃により東軍の北国討伐部隊は推計二百人以上の将兵達が死傷する。絶望的状況下であっても彼等は洗い浚い敵軍の猛攻を突破し続けたのである。金剛山の根城へと到達した東軍の北国討伐部隊の将兵達は全身全霊で敵陣へと突入…。彼等は破竹の勢いで北軍の守備隊を圧倒したのである。剣豪の崇徳王は十四人もの敵兵達を斬殺…。根城の最上階へと単身で到達したのである。
『敵軍の総大将は…最上階だな…』
すると背後より火縄銃を発砲されるも感知能力により火縄銃の銃弾を一刀両断…。
「あんたが北軍の総大将だな…」
火縄銃で狙撃したのは北軍の侍大将である。
「此奴は東国の軍神…夜桜崇徳王か?」
侍大将は再度弾丸を再装填させる。
「今度こそ夜桜崇徳王!貴様を仕留める!軍神の貴様さえ仕留められれば東軍全体は総崩れだ…今現在貴様の生命と東国は風前の灯火であるからな!」
北軍の侍大将は余裕の様子であるが…。
「私自身の生命と東国が…風前の灯火だと?」
崇徳王は無表情であり冷静だったのである。
「無論である!此処で主力の貴様が戦死すれば東国の大敗北は確定的であるからな!覚悟するのだな!東国の軍神…夜桜崇徳王!」
侍大将が再度火縄銃で崇徳王を狙撃する直前…。崇徳王は神速の身動きにより侍大将の所持する火縄銃を両断したのである。
「なっ!?私の火縄銃が!?」
「降参しろ!所詮あんたでは私は仕留められない…」
崇徳王は根城の最下層へと戻ろうかと思いきや…。
「油断大敵だぞ…軍神の夜桜崇徳王!」
「ん!?」
背後より北軍の侍大将は護身用の懐刀を携帯し始める。
「今度こそ覚悟せよ!夜桜崇徳王!」
背後から懐刀で斬撃される寸前である。崇徳王は即座に殺気を察知…。
「其方は如何して!?」
崇徳王は即座に猛反撃したのである。
「ぎゃっ!」
一方の侍大将は崇徳王の猛反撃によって胸部を斬撃される。
「ぐっ…無念だ!」
侍大将は崇徳王に胸部を斬撃され…。即死する。
「馬鹿者が!何故抵抗した!?」
『私に手出ししなければ無事であったのに!』
崇徳王は無表情の様子で根城の最下層へと戻ったのである。敵軍の敗残兵は北国の領土へと撤退…。北軍侍大将の戦死によって金剛山奪還作戦は東国の北国討伐部隊の辛勝に終幕する。
第十二話
因果応報
同日の真夜中である。夜桜崇徳王との一対一の戦闘で胸部を斬撃された北軍精鋭部隊の敗残兵の一人…。月影幽鬼王は血塗れの状態で東国のとある山奥の夜道を徘徊する。
「ぐっ!彼奴…」
傷口の苦痛からか幽鬼王はふら付いたのである。
『崇徳王…夜桜崇徳王!』
幽鬼王は崇徳王の発言を想起すると非常に腹立たしくなる。
「崇徳王の野郎…誰が贖罪なんて…」
『今度こそ…私が彼奴に復讐する!夜桜崇徳王…覚悟しろよ!俺が貴様を確実に打っ殺すからな!』
幽鬼王は崇徳王への復讐を決意した直後…。
「ん?」
『何事だ?』
すると周囲の夜道より胸騒ぎを感じる。
『胸騒ぎか…』
突然の胸騒ぎにより幽鬼王は周囲を警戒したのである。
『先程から空気が重苦しい…気味悪いな…』
周囲の空気も非常に重苦しく感じる。
『一体何が?』
幽鬼王は警戒した様子で恐る恐る背後を直視するのだが…。
「可笑しいな…」
『背後には何も…』
夜道の自然林から気配は感じるものの自身の背後には何も存在しない。
『連戦の影響だろうか?疲労の所為で可笑しくなったのか?』
幽鬼王は連戦の疲労による誤認識かと思いきや…。
「なっ!?」
『此奴は…』
幽鬼王の前面より一体の異形の化身が出現したのである。
『如何やら人外みたいだな…此奴の正体は一体?』
異形の化身とは全身の皮膚が血塗れであり小柄の肉体…。両目の眼球が噴出した不吉の風貌である。
『醜悪だな…』
幽鬼王は異形の化身に一瞬気味悪くなる。
『ひょっとして近頃村人達が大騒ぎした…悪霊なのか?』
幽鬼王に近寄る悪霊とは疫病神として知られる悪食餓鬼だったのである。
『此奴の名前は…悪食餓鬼だったか?』
悪食餓鬼はふら付いた身動きで幽鬼王に近寄り始める。
『幻覚なのか?』
彼自身悪霊の存在は否定的だったのである。
『こんなにも薄気味悪い悪霊が本当に実在するなんて…』
実際に悪霊と遭遇する以前は単なる子供騙しであると揶揄し続けたのだが…。幽鬼王は悪霊の存在に驚愕する。
『如何して悪霊がこんな場所に出現したのか?』
幽鬼王は接近中の悪食餓鬼に睥睨すると即座に抜刀したのである。
「私と勝負するか?悪霊!?」
幽鬼王は神速の身動きにより接近する悪食餓鬼の頭部を斬首…。
『他愛無いな…悪霊であっても所詮は雑魚だな…』
幽鬼王は悪食餓鬼を瞬殺したのである。
『こんな程度の脆弱さでは其処等の子供でも打っ殺せるな…所詮悪霊なんて子供騙しみたいだな…』
幽鬼王は悪食餓鬼の脆弱さに拍子抜けする。すると今度は周辺の地中より無数の悪食餓鬼が出現したのである。
「私を食い殺したいか?悪霊?」
無数の悪食餓鬼が幽鬼王に殺到するも悪食餓鬼は非常に貧弱であり簡単に仕留められる。数分間が経過すると地面には数十体以上の悪食餓鬼の肉片…。血肉が地面の彼方此方に散乱したのである。
「はぁ…はぁ…」
『終了したか?』
幽鬼王は恐る恐る地面の肉片に警戒する。
『大群でも所詮雑魚は雑魚だ…他愛無いな…』
一安心した直後…。背後より無数の悪食餓鬼が融合した一頭身の肉塊人間が出現したのである。
「畜生が…今度の相手は百鬼悪食餓鬼か…」
『此奴は先程の悪食餓鬼よりは手強そうだな…』
百鬼悪食餓鬼は悪食餓鬼の集合体であり悪食餓鬼の亜種とされる。
「俺を敵対視するか?」
百鬼悪食餓鬼の体表の頭部が幽鬼王を睥睨し始め…。全身の頭部から高熱の火炎を放射したのである。
『火炎攻撃か!?』
幽鬼王は神速の身動きで火炎攻撃を回避する。
『此奴が相手なら多少手応えを感じられそうだな…』
神速の身動きにより百鬼悪食餓鬼に急接近すると百鬼悪食餓鬼を一刀両断…。両断された百鬼悪食餓鬼の肉体が無数の肉片へと分裂したのである。
「ん!?」
分裂した肉体が融合化すると複数の悪食餓鬼に変化する。
『今度も悪食餓鬼か…先程から鬱陶しい悪霊だ…』
幽鬼王は鬱陶しいと感じるも複数の悪食餓鬼を瞬殺したのである。
「多少は手間取ったが…悪霊なんて所詮は雑魚だな…」
『こんな脆弱さでは面白くないな…』
幽鬼王は悪霊の脆弱さに拍子抜けした様子であり呆れ果てる。
『其処等の民衆達は何故…こんな雑魚に畏怖するのだ?』
悪霊は予想よりも脆弱であり如何して村里の人間達が不用意に悪霊を畏怖するのか幽鬼王には理解出来なかったのである。
『所詮悪霊なんて頑張れば其処等の子供でも仕留められる雑魚だろうに…俺には微塵も理解出来ないな…』
すると背後から別物の気配を察知…。
『今度も悪霊か?』
背後を警戒すると重厚そうな甲冑を装備した巨体の骸骨が出現したのである。
『此奴は骸骨荒武者?戦死者達の亡霊か?』
骸骨荒武者とは大勢の戦死者達の無念が融合化した超自然的存在…。別名としては髑髏武将やら戦死者の亡霊とも呼称される。骸骨荒武者の背丈は成人男性よりも一回り上回る程度に巨体である。
『悪霊でも手応えを感じられそうな相手が出現したか!』
強敵の出現に幽鬼王は内心大喜びする。
「貴様等程度で俺を相手取れるかな?」
二体の骸骨荒武者は抜刀すると鈍足で幽鬼王に殺到したのである。
『鈍間が…』
骸骨荒武者は刀剣で幽鬼王に斬撃するも容易に回避される。
「拍子抜けだな!」
『こんな鈍間の攻撃では私には通用しないぞ…』
幽鬼王は骸骨荒武者に急接近し始め…。
『挑戦する相手を間違えたな…』
全身全霊で骸骨荒武者の腹部に斬撃する。
「黄泉の地獄に戻りやがれ…悪霊風情が!」
幽鬼王は刀剣で一体の骸骨荒武者に腹部を斬撃するのだが…。
「ん!?」
骸骨荒武者の鎧兜は予想以上に硬質であり幽鬼王の刀剣が屈折したのである。
「なっ!?」
普段は冷静の幽鬼王であるが…。
『私の刀剣が…』
幽鬼王は刀剣の屈折に動揺したのである。
『刀剣がこんなにも簡単に屈折するなんて…此奴は想像以上の怪物か!?』
骸骨荒武者は愕然とした幽鬼王の左腕を斬撃…。
「ぐっ!」
骸骨荒武者の斬撃で幽鬼王は左腕を切断されたのである。
『迂闊だったか…北国の鬼神である私が鈍間の悪霊を相手に左腕を…身動きが鈍間だからと油断しちまったな…』
地面は赤色の血液により染色する。
「畜生が…」
『私が本調子であれば!こんな鈍間の悪霊なんて…簡単に仕留められるのに!』
幽鬼王は最早戦闘継続は不可能であると判断…。不本意であるが一目散に逃走したのである。
「はぁ…はぁ…」
幽鬼王は悪霊の大群から逃走してより十数分後…。無数の亡者達から逃走し続けた幽鬼王であるが精神的にも肉体的にも疲弊した様子であり獣道の道中にて地面に横たわる。
「ぐっ…」
『如何やら今夜が…私の最期みたいだな…神出鬼没の悪霊なんかを相手に…』
幽鬼王は傷口からの出血多量が影響したのか瀕死寸前の状態であり肉体は刻一刻と衰弱化する。
『畜生が…』
幽鬼王は衰弱化する自身が情けなく感じる。
『夜桜崇徳王…彼奴を仕留められなかったのは…非常に心残りだな…』
自身にとって最大の怨敵である夜桜崇徳王の存在を想起したのである。自身の生命が風前の灯火であると自覚し始めた数分後…。
『今度は…何だろうか?』
極度の死臭と強烈なる殺気を感じる。
『極度の死臭と殺気…今度も悪霊か?今度は何が出現しやがった?』
正体不明の不吉の気配は刻一刻と地面に横たわった状態の幽鬼王に急接近したのである。気配を察知してより数秒後…。
『此奴は…』
全身が血塗れであり規格外に巨体の山犬が暗闇の自然林から出現したのである。
『山犬の…怪物か?』
巨体の山犬は殺気立った様子で幽鬼王を凝視する。
『此奴は随分と巨体だな…』
左側の前頭部が白骨化した状態であり巨体の山犬は正真正銘山犬の悪霊であると認識出来る。
『一夜で…こんなにも多種多様の悪霊と遭遇するとは…今夜は悪霊三昧だな…』
幽鬼王は内心自身が不運であると感じる。
『此奴も…山犬の…悪霊なのか?』
山犬の口先には咀嚼された肉片らしき物体が確認出来…。山犬の悪霊は獣類の血肉を捕食したのであると推測する。
「山犬の悪霊よ…瀕死の俺を…食い殺したいか?」
すると山犬の悪霊は人語で発言し始める。
「私は自然界の化身…邪霊餓狼だ…」
「邪霊餓狼だと?」
『此奴は悪霊の分際で…人間様の口言葉で喋れるのか?』
幽鬼王は衰弱化した小声で問い掛ける。
「邪霊餓狼だったか?人間様と会話出来るとは…貴様は一体…何者だ?」
すると邪霊餓狼は即答する。
「私は南国の荒神山で…貴様によって殺害された野良犬の亡霊である…」
邪霊餓狼の発言に幽鬼王は想起したのである。
「此奴の正体は…」
『南国の荒神山で私が打っ殺した…野良犬の亡霊だったとは…』
邪霊餓狼の前頭部を直視すると銃弾の傷跡が確認出来る。
「俺が打っ殺した野良犬の亡霊が…地獄の世界から復活しやがったのか…こんな暗闇の場所で再会するとは…奇遇だな…」
すると幽鬼王は恐る恐る…。
「邪霊餓狼…こんなにも瀕死状態の俺を…食い殺したいか?瀕死の俺を食い殺したければ思う存分に食い殺せよ…最早俺の肉体は虫の息だぜ…」
「貴様は覚悟するのだな…極悪非道の人間よ…」
邪霊餓狼は物静かな様子で返答する。
「貴様は無間地獄で無限の苦痛を体感し続けるのだ…」
幽鬼王は邪霊餓狼の発言に僅少であるが…。
「無間地獄か…」
小声で冷笑したのである。
「無間地獄なんて…私にとっては本望だ…」
すると邪霊餓狼は無表情で発言する。
「私を銃殺した卑劣なる貴様が…私によって捕食されるとは…因果応報だな…」
「因果応報か…」
幽鬼王は邪霊餓狼の因果応報の一言に一瞬反応したのである。
『恐らくは偶然だろうが…荒神山で虫の息だった野良犬を打っ殺した俺が…野良犬の亡霊に食い殺されるとは皮肉だな…』
幽鬼王は皮肉であると感じる。
『因果応報とは…本当なのだな…』
因果応報が本当であると実感した直後…。
「貴様の肉体を頂戴するぞ!極悪非道の人間風情よ…覚悟するのだな!」
邪霊餓狼は衰弱化した幽鬼王の肉体を咀嚼したのである。
第十三話
回収
北国の鬼神月影幽鬼王が死去してより一週間後…。
『此処では無数の血の気を感じる…』
若齢の修行僧が金剛山を登山したのである。
『金剛山では一体何が発生したのか?』
登山してより一時間後…。修行僧は金剛山の頂上へと到達する。
『此処は想像以上の惨劇だな…』
金剛山の頂上には木造の根城が確認出来るのだが…。根城の表面には飛散した鮮血が彼方此方に確認出来る。
『金剛山の根城で大勢の将兵達が殺し合ったのか?』
城内で戦死した将兵達の遺体は回収されたものの…。根城は放棄された状態であり今現在は無人地帯だったのである。
『此処で戦死された英霊達を供養しなくては…』
修行僧は恐る恐る合掌する。
「南無阿弥陀仏…南無阿弥陀仏…」
念仏を唱え始める。修行僧が念仏を唱え始めてより数分後…。
『寺院に戻ろうかな…』
修行僧は東国の山奥へと移動したのである。山奥を移動してより数時間後…。
「ん?」
山道にて血痕を発見する。
「血痕だ…」
『血痕は動物なのか?人間なのか?』
血痕が人間の血液なのか動物の血液なのかは不明であるが…。無数の血痕に修行僧は気味悪くなる。
『何方にせよ…大怪我したのだろうな…』
修行僧は血痕を目印に血痕の痕跡へと移動したのである。移動してより数分後…。
「なっ!?」
修行僧の目前に存在するのは獣類によって食い散らかされた武士の遺体だったのである。修行僧は遺体が戦死した武士であると確信する。
『戦死した…武士の遺体なのか!?』
遺体の状態を確認すると鎧兜と屈折した刀剣は勿論…。左腕は切断された状態だったのである。
『気の毒に…戦死された敗残兵の遺体だろうか?』
修行僧は武士が戦死したのだと予測する。
『恐らく遺体は死後に…獣類によって食い散らかされたのだろうな…』
修行僧は恐る恐る武士の遺体に合掌したのである。武士の遺体に念仏を唱え始めてより数分後…。
「えっ!?」
修行僧は驚愕する。武士の甲冑には北軍の紋章が確認出来…。甲冑は全体的に鬼神を連想させる異質的形状だったのである。
『ひょっとすると武士は北国の鬼神…月影一族の月影幽鬼王様では!?』
武士の遺体が北国の鬼神…。月影幽鬼王であると確信する。
『幽鬼王様は何故こんな状態に…此処で一体何が!?』
修行僧は遺体の正体が鬼神の月影幽鬼王であると確信したのである。
『幽鬼王様…』
涙腺から涙が零れ落ちる。修行僧は北国出身であり修行中の若齢僧侶だったのである。彼自身も人一倍月影幽鬼王を神格化する一人であり北国による天下統一を夢見る。
『武神の幽鬼王様が戦死されたなんて…』
修行僧が落涙し始めてから数分後…。
『兎にも角にも…戦死された月影幽鬼王様を手厚く埋葬しなくては…』
故人の幽鬼王を埋葬する寸前である。
「えっ…」
突如として背後より複数の人気を感じる。
『人気なのか?』
修行僧は警戒した様子で恐る恐る背後を直視…。
「なっ!?」
『彼等は虚無僧!?』
修行僧の背後には五人の虚無僧が佇立する。
「貴方達は一体何を!?」
鈍器を所持した虚無僧集団が問答無用に修行僧を殴打したのである。
「ぎゃっ!」
修行僧は問答無用に鈍器によって頭部を殴打され…。意識が消失する。
「鬼神の月影幽鬼王様を埋葬だと!?愚か者が!」
「幽鬼王様の遺体を埋葬するとは邪道なり!幽鬼王様は不滅の存在なのだ!」
「であれば幽鬼王様の遺体を回収するぞ!開始するのだ!」
五人の虚無僧は鬼神月影幽鬼王の遺体を回収したのである。
第十四話
復活
世界暦四千五百二十二年六月中旬の時期…。北国の山奥に存在する洞窟ではとある白装束の虚無僧集団が集結する。
「同志達よ!全員…集結したな!」
虚無僧集団の人数は合計六人であり松明を所持する虚無僧集団の頭領が五人の虚無僧の人数を確認したのである。
「頭領…こんな暗闇の洞窟に私達を集合させるなんて…此処で一体何を?」
「今回は何事でしょうか?」
「不吉だな…村里に戻りたいよ…」
場所が暗闇の洞窟であり虚無僧の若者達は非常に不安がる。
「早速私が目的地へと道案内する!各自…私に追尾するのだ!」
「承知しました…頭領…」
頭領と五人の虚無僧は恐る恐る洞窟の奥底へと移動したのである。洞窟内部を移動し始めてから数分後…。彼等が洞窟の奥底へと到達すると奥底の地面には一体の木乃伊が確認出来る。
「えっ!?此奴は木乃伊ですか!?」
彼等は地面の木乃伊を直視すると一瞬であるが戦慄する。木乃伊は山犬によって食い殺された状態であり老若男女の区別は不可能である。
「洞窟に木乃伊なんて気味悪いですね…」
「非常に不吉ですな…」
「頭領?木乃伊は一体…誰の遺体なのでしょうか?」
虚無僧集団の一人が恐る恐る頭領に問い掛ける。
「彼こそは誰であろう私達北国の英雄であり…各地の大名達から畏怖された北軍最強の鬼神…月影幽鬼王様の遺体であるぞ!」
「なっ!?」
「木乃伊が北国の鬼神月影幽鬼王様ですか!?」
虚無僧の若者達は月影幽鬼王の名前に愕然とする。
「木乃伊の正体が幽鬼王様ですと!?」
月影幽鬼王とは名門の月影一族総本家の長男坊であり戦乱時代に活躍したとされる北軍最強の武人である。生前では北国の鬼神とも呼称され各国の領主達は勿論…。大勢の武士達からは恐怖の象徴として畏怖されたのである。弱肉強食の戦乱時代当時は北軍最強の英雄的存在として大勢の村民達から崇敬されたものの…。幽鬼王の愚行によって大勢の戦友達が惨殺されたのも周知の事実であり故郷の北国でさえも彼自身を憎悪する者達も少なくない。共存共栄の安穏時代では極悪非道の荒武者として月影幽鬼王は数多くの者達から嫌悪されたのである。世間では極悪非道の大悪党と認識される月影幽鬼王であるが…。一部の村里では今現在でも大悪人の月影幽鬼王を北国の英雄的存在として神格化し続けたのである。
「えっ…私達の英雄…武神の月影幽鬼王様は死去されたのですか?」
「非常に信じ難い出来事であるが…如何やら武神の月影幽鬼王様が死去されたのは事実みたいだ…不滅の幽鬼王様が死去されたなんて非常に遺憾であるが…」
今迄幽鬼王は失踪状態であり彼自身の生死は不明とされたのだが…。
「私達の英雄…月影幽鬼王様が死去されたなんて…」
五人の虚無僧は幽鬼王の死去に動揺したのである。
「月影幽鬼王様は戦死されたのでしょうか?遺体は本当に幽鬼王様本人なのでしょうか?人違いなのでは?」
一人の虚無僧は木乃伊の正体が月影幽鬼王本人なのか疑問視する。
「私も幽鬼王様が死去されたなんて全否定したいのだが…鎧兜の形状から幽鬼王様以外の人物には該当しないのだ!今迄幽鬼王様は消息が不明だったからな…」
頭領自身も当初は幽鬼王の死去を疑問視し続けるのだが…。鬼神月影幽鬼王の鎧兜は一般の将兵とは形状が異質的であり遺体が幽鬼王以外の人物には該当しないと結論付けたのである。金剛山での戦闘以後…。幽鬼王は北国へは戻らず彼自身の消息は不明だったのである。
「幽鬼王様が死去されたのは否定出来ません…ですが幽鬼王様の死因とは…一体?何故幽鬼王様は死去されたのか?」
今度は別の虚無僧が頭領に問い掛ける。
「幽鬼王様の死因か…」
頭領は虚無僧の質問に即答したのである。
「遺体の外傷から判断して…幽鬼王様は山中の山犬によって食い殺されたのかも知れないな…人間ではこんな殺し方は出来ないだろうからな…」
幽鬼王の遺体には無数の咀嚼の痕跡が確認され…。山中の獣類に食い殺されたのだと推測する。
「非常に残念であるが…幽鬼王様は逝去されたのだ…」
頭領は幽鬼王が死去した事実に無念であると感じる。
「武神の幽鬼王様が山犬を相手に食い殺されたのですか!?最強の鬼神である月影幽鬼王様が名誉の戦死ではなく山犬によって敗死されるなんて…」
「幽鬼王様が山中の山犬に食い殺されたなんて…正直信じ難いですね…」
彼自身の本当の死因こそは不明瞭であるものの…。
「無論幽鬼王様の本当の死因は不明瞭だが…」
月影幽鬼王は死亡したのだと断定する。
「勿論…月影幽鬼王様が死去された衝撃の事実を熟知するのは私達だけだぞ…何よりも十七年前に月影幽鬼王様の遺体を発見したのは誰であろう私なのだからな…」
虚無僧集団の頭領は十七年前の戦乱時代末期…。生前当時から鬼神の月影幽鬼王を神格化した一人である。奇遇にも幽鬼王が死去した数日後に北国の山奥にて山犬によって食い殺された幽鬼王の遺体を発見…。仲間達の協力により死亡した月影幽鬼王の遺体を回収したのである。
「頭領は幽鬼王様の遺体を如何されるのですか?」
虚無僧の一人が恐る恐る頭領に問い掛けると頭領は一息する。
「黄泉の世界から死没者である月影幽鬼王様を死者蘇生の儀式によって…完全なる生身の生者として復活させるのだ!」
「なっ!?」
彼等は頭領の発言に驚愕したのである。
「最早死没者である月影幽鬼王様を…完全なる生者として復活させられるのですか!?信じ難いですね…」
「黄泉の世界の死没者を完全なる生者として復活させるなんて…実現出来るのでしょうか?非現実的ですね…」
「死没された月影幽鬼王様が完全なる生者として復活されるのであれば…私達は当然として幽鬼王様の復活を熱望しますが…死者蘇生の儀式なんて成功しますかね?」
「死没者を生身の生者として復活させるなんて…神族の領域ですね…」
「死者蘇生の儀式で逝去された幽鬼王様は復活出来るのでしょうか?」
『頭領は本気なのか?死者蘇生の儀式なんて多分迷信だろうな…村里に戻りたいのに傍迷惑だよ…』
周囲の者達は死者蘇生の儀式が内心胡散臭いと感じるものの…。
「鬼神の月影幽鬼王様は完全なる生者として復活出来るとも…儀式は絶対に成功する!絶対に成功させなくては!」
問い掛けられた虚無僧の頭領は即答する。
「勿論であるが…黄泉の世界の死没者を生身の生者として復活させるには…相応の犠牲が必要不可欠であるが…」
「相応の…犠牲ですと?」
「儀式では一体何を?犠牲に?」
すると虚無僧の頭領は隠し持った連発銃を所持したのである。
「えっ?拳銃ですか?」
「此奴は異国の連発銃だ…此奴で貴様達の鮮血を頂戴する…北国の鬼神…月影幽鬼王様を完全なる生者として復活させるには貴様達の鮮血が必要不可欠であるからな…」
「えっ!?私達の鮮血ですと!?」
「頭領は本気なのですか!?」
虚無僧の頭領は周囲の者達の問い掛けに返答したのである。
「私は本気だとも!皆の衆…覚悟せよ!」
五人の虚無僧は頭領の所持する連発銃に畏怖したのか即座に逃走し始める。
「ひっ!頭領は本気だ!」
「俺達は頭領に殺される!逃げろ!」
五人の虚無僧は必死に逃走するのだが…。
「幽鬼王様に貴様達の鮮血を提供するのだ!貴様達は極楽浄土で安眠せよ!」
虚無僧の頭領は背後から四人の虚無僧に発砲する。
「ぎゃっ!」
「ぐっ!」
「うわっ!」
虚無僧の頭領は連発銃の発砲により四人の虚無僧を殺害したのである。最後の一人は畏怖した様子で全身が膠着化…。身動き出来ず地面に横たわる。
「頭領…俺を…俺を殺さないで…俺は…こんな場所では死にたくないよ!」
若者は極度の恐怖心からか身震いした様子であり涙腺からは涙が零れ落ちる。
「勿論…其方が恐怖するのは理解出来るのだが…本来一人の死没者を復活させるには百人もの人身御供が必要不可欠なのだよ!」
戦乱時代以前の旧時代…。一人の死没者を復活させるのに合計百人もの人間達を人身御供として利用した死者蘇生の儀式が各地の村里で実行されたのである。当時は旧時代の王族達を復活させる目的で頻繁に実行された死者蘇生の儀式であるが…。死者蘇生の儀式で特定の死没者が復活した事例は実質皆無である。非人道的理由から今現在の安穏時代は勿論…。弱肉強食の戦乱時代でさえも死者蘇生の儀式は史上最悪の愚行として全面的に厳禁されたのである。
「私は今迄に合計九十五人もの人間達を人身御供として殺害したが…今回で無事に達成出来そうだな…幽鬼王様の復活は間近だ!」
頭領は恐る恐る…。連発銃に弾丸を再装填したのである。
「北国の鬼神…月影幽鬼王様を完全なる生身の生者として復活させるには…生者である其方の犠牲が必要不可欠なのだ!成仏せよ!」
一発の銃弾が虚無僧の頭部を貫通…。
「ぐっ!」
『頭領…如何して?』
最後の一人である虚無僧を即死させたのである。
『死者蘇生の儀式で月影幽鬼王様を復活させるには…彼等の血液が必要だな…』
頭領は今迄に九十五人もの人間達を殺害…。幽鬼王の木乃伊に殺害した人間達の血液を含有させたのである。
『今回で五人の血液を入手出来たぞ!』
殺害した五人の遺体から血液を指先に採取…。
『五人の血液を幽鬼王様の遺体に…』
恐る恐る幽鬼王の木乃伊に接触したのである。
『北国の英雄であり…最強の鬼神…月影幽鬼王様!』
頭領は死没者である幽鬼王の復活に期待する。
「月影幽鬼王様!黄泉の世界から俗界に戻られよ!」
儀式を開始してから一分間が経過するのだが…。
『何故だ!?幽鬼王様!?』
幽鬼王の木乃伊は復活せず何一つとして身動きしない。
「何故…月影幽鬼王様は完全なる生者として復活されないのだ!?」
『ひょっとして死者蘇生の儀式に不備が!?』
すると直後である。
「えっ…」
突如として幽鬼王の遺体が炸裂し始め…。
「ひっ!」
洞窟内部に幽鬼王の腐敗した遺体の血肉が飛散する。
『一体何が!?』
突然の超常現象に頭領は畏怖したのである。
「なっ!?」
破裂した幽鬼王の肉片に頭領は驚愕する。
「幽鬼王様の肉体が破裂するなんて!」
『如何してこんな超常現象が!?』
頭領は涙腺より涙が零れ落ちる。
『最早こんな状態では!月影幽鬼王様は二度と生者として復活出来なくなる!』
頭領は誰よりも幽鬼王の復活を渇望する人物であったが…。幽鬼王は先程の超常現象で復活出来ないと直覚したのである。
『結局死没者を復活させる死者蘇生の儀式とは…出鱈目だったのか!?』
頭領は死者蘇生の儀式が出鱈目であると直覚した直後…。
『結局…私は単なる人殺しだったのか?』
今迄の非人道的行為を後悔したのである。
『如何して私は成功しない儀式を実行したのか!?何故だ!?何故…私はこんな出鱈目の儀式を実行した!?』
自身の行動が単なる殺人であったと自覚した直後…。頭領は背後より不吉の胸騒ぎを感じる。
「えっ…」
恐る恐る背後を直視すると背後には不定形の黒雲が存在する。黒雲の内部には無数の人面が確認出来…。黄泉の存在であると認識する。
『一体何が!?此奴はひょっとして…神出鬼没の悪霊なのか!?』
すると不定形の黒雲が人語で発言し始める。
「愚劣なる人間よ…一人の死没者を復活させるのに百人もの同族を惨殺するとは…人間とは非常に愚劣であり…其処等の悪霊よりも醜悪であるな…非常に滑稽だぞ…」
虚無僧の頭領は恐る恐る…。
「貴方は一体何者なのでしょうか?ひょっとして黄泉の…存在でしょうか?」
問い掛けられた不定形の黒雲は即答する。
「私は死没者達の亡魂…大勢の亡者達の集合体とでも…」
「亡者達の集合体ですと?」
不定形の黒雲は自身を大勢の亡者達から誕生した集合体であると自負する。
「貴殿は戦乱時代の月影幽鬼王と命名される…極悪非道の亡者を俗界に復活させたいみたいだな…」
不定形の黒雲に問い掛けられた虚無僧の頭領は恐る恐る返答する。
「勿論ですとも!私にとって鬼神の月影幽鬼王様は未来永劫北国の英雄的存在であり…北国にとって唯一無二の武神なのですから!」
「貴殿は自身の崇拝する月影幽鬼王を…完全なる生者として復活させて如何するのだ?貴殿の主目的とは?」
再度問い掛けられた頭領は真剣そうな表情で即答したのである。
「武神の月影幽鬼王様を全軍の総大将として…北国を中心とした桃源郷神国の天下再統一ですよ!」
「桃源郷神国の天下再統一とは…」
「今現在…東国の大名達が牛耳る安穏時代では北国と南国は賊軍ですからね!」
現実問題として世の中は勝てば官軍負ければ賊軍であり東国に敗北した北国と南国は極悪非道の賊軍として扱われ…。北国と南国出身の武士達は下級武士として其処等の村人達から迫害されたのである。
「私は東国を中心とした新時代が気に入らない!出来るなら月影幽鬼王様を中心とした大軍団で東国武士団を打倒…北国による天下再統一を実現させたいのです!」
「貴殿の野望は…北国による天下再統一なのか?」
「勿論ですとも!私は幽鬼王様の重臣として幽鬼王様に貢献したいのです!」
頭領が即答してより数秒後…。
「貴殿の野望…承知したぞ!」
不定形の黒雲は頭領の野心に承諾したのである。
「貴殿の崇拝する鬼神…月影幽鬼王を俗界に復活させたいのであれば…貴殿は人柱として自身の生命力を私に授与するのだ!私に貴殿の生命力を授与すれば死没者の月影幽鬼王を黄泉の世界から復活させられるぞ!」
「私自身の…生命力ですと?」
頭領は一瞬沈黙する。
「地獄の亡者を復活させるには生者の生身の肉体が必要不可欠なのだ!生者の肉体を授与しなければ地獄の亡者である月影幽鬼王を復活させるのは未来永劫不可能であるぞ…如何する?自身の生命力を死没者の幽鬼王に授与するのか?幽鬼王を復活させないで命拾いし続けるのか?」
『私自身が幽鬼王様の人柱か…』
頭領は一瞬躊躇する。のの…。決断したのである。
『自分自身の生命力だとしても英雄の月影幽鬼王様を復活させるのであれば…止むを得ないな!』
頭領は最早後戻りは出来ないと覚悟する。
「承知しました…最早私には選択肢は存在しません!私自身の生命力を月影幽鬼王様の復活に授与しましょう!」
不本意であるが…。頭領は自身の生命力の授与を承諾したのである。
「であれば貴殿の生命力を代償として…亡者である月影幽鬼王を屈強なる悪霊として復活させる!」
「幽鬼王様を屈強なる悪霊ですと!?」
直後…。
「なっ!?発火!?ぎゃっ!」
頭領の全身の皮膚が突発的に発火し始めたのである。
「幽鬼王様!冥界より復活されよ!」
高熱の火炎は一瞬で全身へと覆い包まれ…。頭領の肉体は黒焦げの焼死体へと変化したのである。すると焼死した頭領の肉体が瞬間的に再生し始め…。全身が筋肉質で素肌が灰白色の美青年へと変化したのである。
「ぐっ!私は…一体…」
地面に横たわった状態の美青年が恐る恐る目覚める。
「目覚めたか?地獄の亡者…月影幽鬼王よ…」
焼死した頭領の肉体は死没者である月影幽鬼王へと変化したのである。
「如何して私はこんな場所に?」
冥界から復活した幽鬼王は素肌こそ死没者を連想させる灰白色であったが…。生前と同様の姿形に復活したのである。
「私は一体…如何してこんな場所に?私は野良犬の亡霊に食い殺されて…」
「月影幽鬼王よ…貴殿は…」
不定形の黒雲は幽鬼王に復活した経緯を一部始終説明する。
「私は黄泉の世界から神出鬼没の悪霊として復活したのか?」
「貴殿の肉体は悪霊の肉体であるが…今現在の貴殿は生前よりも強大なる存在なのだ!其処等の悪霊とは別格の霊気であるぞ!」
普段は無表情の幽鬼王であるが…。
「正直悪霊の肉体なのは気に入らないが…」
幽鬼王は冷笑したのである。
「彼奴に復讐出来るのであれば悪霊の肉体でも止むを得ないな!彼奴に復讐するには相応しい肉体だ…」
「彼奴とは?一体何者なのだ?」
幽鬼王は即答する。
「東国の軍神…夜桜崇徳王…私が唯一憎悪する人間だ…」
「貴殿が夜桜崇徳王と名乗る人間に復讐したいのであれば…思う存分に夜桜崇徳王と名乗る人間を完膚なきまでに殲滅するのだ!」
「当然だ…貴様に命令されなくとも私は実行するさ!」
「復活した最重要条件として…」
「最重要条件だと?」
すると不定形の黒雲は復活した代償として幽鬼王に最重要条件を提示したのである。
「貴殿は愚劣なる人間達に大攻勢を仕掛けるのだ…強大なる貴殿の霊気で大勢の愚劣なる人間達を完膚なきまでに殲滅せよ!貴殿への至上命令であり悪霊である貴殿にとっての最大の使命なのだ…最強の悪霊として復活した貴殿であれば出来るだろう?北国の鬼神…月影幽鬼王よ…」
不定形の黒雲に問い掛けられた幽鬼王は一瞬沈黙し始めるのだが…。
「折角復活出来たのであれば…貴様との約束は厳守するさ!安心しろ…」
両者は交渉成立する。幽鬼王は不定形の黒雲に問い掛ける。
「貴様は一体何者だ?人間達を憎悪するみたいだが…貴様の正体は?」
「私自身は悪霊の一種であり…亡者達の集合体とでも…」
幽鬼王に問い掛けられた不定形の黒雲は自身を亡者達の集合体と名乗る。
「貴様は亡者達の集合体なのか…」
数秒後…。
「月影幽鬼王よ…」
不定形の黒雲は幽鬼王に指示する。
「黄泉の世界に戻りたくなければ俗界で思う存分に人間達を殺害し続けよ!貴殿の強大さを愚劣なる人間達に知らしめるのだ!徹底的に奴等を恐怖させろ!」
不定形の黒雲は消滅したのである。
「思う存分に人間達を殺害か…」
『亡者達の集合体に命令されるのは正直気に入らないが…悪霊の肉体でも折角復活出来たのだからな!思う存分に霊気とやらを活用するぜ…』
心情より人間達への殺意が芽生える。
『近日中にでも…平和を謳歌する愚劣なる人間達を思う存分に蹴散らせるか?』
幽鬼王は洞窟から脱出したのである。
『何よりも夜桜崇徳王…俺が貴様を打っ殺すからな!』
「覚悟するのだな…崇徳王!」
幽鬼王は早速行動を開始する。
第十五話
埋葬
鬼神の月影幽鬼王が完全なる悪霊として復活した同時刻…。
『此処は金剛山だったな…久方振りだな…』
東国の防波堤である金剛山では一人の僧侶が登山したのである。
『十七年前以来だろうか?』
僧侶とは名門の夜桜一族の夜桜崇徳王であり戦乱時代では東国の軍神として各地の大名達から畏怖される。
『戦死した英霊達を供養するか…』
崇徳王は金剛山の頂上へと到達すると荒廃した根城を眺望したのである。
『根城は以前と比較すれば随分と荒廃化したな…』
長期間の年月によって鉄壁の城壁は罅割れ…。天守閣の木材は劣化した状態だったのである。
『十七年も経過すれば当然だろうな…』
崇徳王は恐る恐る罅割れた城壁に接触する。すると直後…。
『戦死した亡者達の…叫び声だろうか?』
崇徳王の脳裏より当時の将兵達の叫び声やら呻き声が響き渡る。
『やっぱり英霊達は今現在でも成仏出来ないみたいだな…』
崇徳王は戦場の光景を想起し始め…。涙腺から涙が零れ落ちる。
「彼等を…」
『戦死された英霊達を供養しなくては…』
崇徳王は小規模であるが…。荒廃化した根城の近辺より石碑を設置したのである。
『戦死された数多くの英霊達…安眠されよ…』
崇徳王は両目を瞑目…。恐る恐る目前の石碑に合掌したのである。合掌し始めてから数分間が経過する。
「戻ろうか…ん?」
『一体誰だろう?』
すると一人の高齢の男性が荒廃した根城を無表情で凝視し続ける。
「貴方は?」
崇徳王は恐る恐る高齢男性に近寄る。高齢男性は左目に眼帯を装着…。右腕を切断した状態だったのである。
「私は当時…北軍の一兵卒だった人間ですよ…」
高齢の男性は物静かな様子で返答する。
「貴方は当時…北軍の将兵だったのですね…」
「十七年前に此処で左目と右腕を負傷しましてね…今現在はこんな状態ですよ…」
彼自身は十七年前に北軍の将兵であったが…。金剛山での戦闘で左目と右腕を喪失したのである。
「貴方は気の毒に…」
崇徳王は高齢男性に同情する。
「今現在では単なる農民ですがね…」
すると高齢男性は崇徳王を凝視したのである。
「和尚様?貴方は一体…何者でしょうか?」
高齢男性は崇徳王が何者なのか恐る恐る問い掛ける。
「私は当時…東軍の将兵でしたよ…」
高齢男性は崇徳王の返答に一瞬沈黙するのだが…。
「貴方は東軍の将兵だったのですね…当時であれば私達は敵対関係でしたね…」
高齢男性は非常に大人しい様子で発言したのである。
「今現在では私は僧侶として活動中なのですよ…金剛山で戦死された両軍の英霊達を供養したくて…此処で石碑を構築したのですよ…」
「石碑ですか…貴方は戦死した私の戦友達も供養して下さったのですね…大変感謝しますよ…和尚様…」
高齢男性は涙腺から涙が零れ落ちる。崇徳王は物静かな様子で発言する。
「私は当時…大勢の将兵達を死なせた極悪非道の罪人ですからね…僧侶として活動し始めたのも戦死された大勢の将兵達は勿論…戦死者達の遺族への贖罪なのですよ…」
「温厚そうな貴方が極悪非道の罪人なんて!当時は大勢の人間達が殺し合った戦乱時代なのです!仕方ないですよ…貴方が極悪非道の罪人であれば私自身も極悪非道の罪人です!喧嘩両成敗ですよ!」
高齢男性は自身を罪人だと自負する崇徳王の発言を否定したのである。
「喧嘩両成敗ですか…」
僅少であるが…。崇徳王は高齢男性の発言に一安心したのである。
「和尚様…私は村里に戻りますね…失礼します…」
高齢男性は一礼すると下山したのである。
『私も戻ろうかな?』
今度こそ戻ろうかと思いきや…。
「ん?」
『気になるな…』
すると当時鬼神の月影幽鬼王と遭遇した村里の様子が気になったのである。崇徳王は即座に下山する。金剛山から下山してより一時間後…。崇徳王は目的地の村里へと到達したのである。
『此処が当時の…』
崇徳王は内心愕然とする。今現在の村里は荒廃化した廃村の状態であり当然として人気は皆無だったのである。
『こんなにも廃村状態だったとは…』
崇徳王は恐る恐る廃村へと進入する。村内へと到達すると各家屋は当時の状態だったのである。罅割れた状態の鈍器やら木材の破片が彼方此方に確認出来る。
『当時の状態を物語るな…』
崇徳王の脳裏に当時の記憶が鮮明に再現されたのである。一通り廃村を散策してより数十分後…。崇徳王は北国の鬼神月影幽鬼王と遭遇した場所へと到達したのである。
『私は此処で鬼神の幽鬼王と遭遇したのだな…』
恐る恐る地面を直視する。
『私は此処で…戦友を死なせたのだ…』
崇徳王は戦死した戦友の足軽を想起したのである。過去の記憶を想起すると涙腺から涙が零れ落ちる。
『私は貴方の名前を知らないなんて…』
生前に戦死した足軽の名前を熟知すべきだったと後悔する。崇徳王は先程の金剛山と同様に村里にも小規模の石碑を設置したのである。
『戦死された英霊達…逝去された村人達よ…』
崇徳王は恐る恐る合掌する。
『安眠されよ…』
合掌してから数分後…。
『今度は西国に移動しなくては…』
崇徳王は武陵桃源の西国に移動する途中である。
『北国の鬼神…月影幽鬼王は無事なのだろうか?』
崇徳王は移動中に幽鬼王の安否が気になり始める。
『私にとって幽鬼王は敵対者だったが…出来るなら彼とも再会したいな…』
当時の敵対者であるものの…。崇徳王は宿敵の月影幽鬼王とも再会したくなる。
第十六話
白蛇
世界暦四千五百二十二年六月二十六日の早朝…。東国郊外での出来事である。一人の少女が散歩中…。
「えっ?何かしら?」
近所の村道にて大怪我した一匹の白蛇を発見する。
「白蛇なのかしら?」
少女は恐る恐る小体の白蛇に接触したのである。
「気の毒に…白蛇は大怪我しちゃったのね…」
『私の妖術で白蛇の傷口を治療出来るかしら?』
少女の正体は誰であろう妖女の小梅姫…。彼女は東国の軍神である夜桜崇徳王と元祖妖女とされる桃子姫の混血であり俗界では唯一の妖女である。小梅姫の年齢は十五歳…。東国随一の童顔の美少女であり東国の町民達から大変可愛がられる。
『一か八か…私の妖術で白蛇を治癒しましょう!』
小梅姫は治癒の妖術を発動…。治癒の妖術の効力からか大怪我した白蛇の傷口は完全に治癒されたのである。
『白蛇の外傷が完治したわ!一件落着ね!』
白蛇の傷口の完治に小梅姫は大喜びする。
『傷口は治癒出来たし!白蛇は大丈夫みたいね!』
すると白蛇も傷口の完治に大喜びしたのか微笑み始める。
「如何やら貴方も嬉しかったみたいね!」
すると白蛇は何処かへと移動したのである。
『私も家屋敷に戻ろうかな…』
翌日の昼間…。
「はぁ…」
小梅姫は暇潰しに東国と西国の国境にて散歩したのである。
『正直…退屈だわ…』
小梅姫は毎日の生活が退屈に感じられ…。毎日が憂鬱だったのである。すると小梅姫の背後より…。
「突然失礼だけど…あんたは妖女の小娘だね…」
「えっ!?」
背後の人物の発言に小梅姫に驚愕したのである。
「貴女は誰なの!?」
『彼女…老婦っぽいわね…』
背後には背丈三尺程度の小柄の老婦らしき人物が佇立…。高齢の女性は満面の笑顔で小梅姫を凝視したのである。
「可愛らしい小娘よ♪突然で失礼かも知れないけどあんたは人外の妖女だね♪」
高齢の女性は小梅姫が人外の妖女であると察知…。
「えっ…」
妖女として指摘された小梅姫は一瞬動揺する。
「如何して私が妖女だって…貴女は一体何者ですか?」
高齢の女性は外見のみなら人間の高齢女性であるものの…。
『彼女は何者なのかしら?失礼だけど人間っぽくないわね…』
雰囲気は異質的であり人間らしくない。
「私が誰かって?」
小梅姫が問い掛けると高齢の女性は笑顔で即答したのである。
「私の名前は蛇体如夜叉…神族の一人なのさ!」
高齢の女性は自身を神族の蛇体如夜叉と名乗る。
「えっ!?貴女様は神族の一人ですって!?」
神族の一言に小梅姫は驚愕したのである。
「あんたは随分と大袈裟だね…別に私が神族だからって驚愕しなくても…」
蛇体如夜叉は小梅姫の反応が大袈裟であると感じる。
「ですが神族って…伝承では太古の大昔に全滅されたと…」
神族とは数十万年前の地上世界全域を支配した伝説の人外少数種族…。多種多様の生命体の姿形に変化が可能であり摩訶不思議の特殊能力を所持する摩訶不思議の人外種族だったのである。
「太古の大昔に人間達との大戦争でね…私以外の神族は全滅しちゃったのさ…俗界に私以外の神族は存在しないだろうよ…」
数万年前の古代文明時代に勃発した地上世界の大戦争により大勢の神族が極悪非道の人間達に殺害され…。迫害されたのである。今現在神族で生存が確認出来るのは桃源郷神国に安住する蛇体如夜叉のみとされる。
「古代文明時代の大戦争ですか…ですが如何して摩訶不思議の特殊能力を所持する神族が非力の人間達を相手に敗北したのでしょうか?」
小梅姫の問い掛けに蛇体如夜叉は即答する。
「人間達と大戦争する以前の出来事だけどね…地上世界の大天災として認識される天空の魔獣との死闘で大半の神族が殺されちゃったのが最大の主要因だね…天空魔獣との大激戦で神族は激減しちゃったのさ…」
「天空の…魔獣ですか?」
数十万年前の太古の出来事である。地上世界の大天災として認識される天空世界より降臨した天空魔獣の出現により地上世界は荒廃化され…。天空魔獣の襲撃によって大勢の神族と人間達が殺害されたのである。天空魔獣は神族でも最高神と命名される最上位の神族の神力によって暗闇の深海底に封印されたが…。天空魔獣との死闘による悪影響から神族は総体的に弱体化したのである。
「今現在では私以外の神族は完膚なきまでに死滅しちゃったよ…私の悪友もね…」
「えっ…」
小梅姫は神族の悲劇に落涙し始め…。
「蛇体如夜叉様…」
非常に切なくなったのか小梅姫は小声で返答する。
「大変でしたね…神族も…」
小梅姫は蛇体如夜叉に同情したのである。すると蛇体如夜叉は恐る恐る…。
「あんたは神族の真実を信用するかい?今時は神族の伝説なんて子供騙しの迷信やら…根も葉もない作り話だって揶揄されるがね♪」
「神族の伝説を子供騙しの迷信なんて非常に失礼ですね!私は信用しますよ!」
問い掛けられた小梅姫は神族の伝説を信用すると断言する。
「あんたは本当に純粋無垢だね♪私はあんたを気に入ったよ♪」
すると突然である。蛇体如夜叉の肉体が白煙に覆い包まれ…。全身が白色の大蛇に変化したのである。
「えっ!?蛇体如夜叉婆様が…白色の大蛇に!?」
小梅姫は白色の大蛇に変化した蛇体如夜叉に再度驚愕する。
「吃驚したかい♪白色の大蛇こそ私の本来の姿形だからね…」
蛇体如夜叉の正体は白色の蛇神であり本来の姿形は白色の大蛇であるが…。普段は小柄の老婦人として活動する。
「私と蛇体如夜叉婆様って…似た者同士ですね!」
「種族こそ別物だけど…私達は人外だからね!」
蛇体如夜叉は変化を解除…。彼女は白色の大蛇の状態から人間の老婦人の姿形に戻ったのである。
「妖女の小娘よ…あんたの名前は?」
蛇体如夜叉に問い掛けられると小梅姫は満面の笑顔で即答する。
「私の名前は小梅姫!妖女の小梅姫です!」
「あんたは妖女の小梅姫かね…小梅姫とは天女らしい名前だね!」
「私が天女なんて…蛇体如夜叉婆様は大袈裟ですね!」
『私が天女ですって♪』
小梅姫は天女の一言に赤面するも内心では大喜びだったのである。
「小梅姫…あんたは人外の妖女だからね…恐らく人間社会では今後も大変だろうが…あんたは精一杯頑張りな!私は妖女のあんたを応援するよ!」
「勿論ですとも!蛇体如夜叉婆様!」
彼女達は談笑するのだが…。
「ん?」
「えっ…」
蛇体如夜叉は恐る恐る警戒した様子で小梅姫を直視する。
「蛇体如夜叉婆様…」
「小梅姫よ…如何やらあんたも不吉の気配を感じるみたいだね…」
「胸騒ぎでしょうか?相手は人外の存在なのは確実ですね…此処では一体何が出現したのでしょうか?」
すると周囲の樹海より全身が腐敗した無数の人影が出現したのである。
「無数の…人影?」
「彼等…恐らくは神出鬼没の悪霊だね…」
「彼等は神出鬼没の悪霊!?」
無数の人影は神出鬼没の悪霊であり小梅姫と蛇体如夜叉に接近する。
「如何やら彼等は…悪霊の悪食餓鬼だね…」
暗闇の樹海から出現したのは悪霊の悪食餓鬼…。彼等はふら付いた身動きで歩行したのである。
「悪食餓鬼ですか?不吉ですね…」
悪食餓鬼とは不治の疫病…。飢餓で死去した亡者とされ悪霊の代表格である。悪食餓鬼は比較的出現頻度が多大であり各地に出没…。遭遇する確率は高確率である。
「悪食餓鬼は疫病で死んじまった亡者達の末路だよ…」
彼等は大群で小梅姫と蛇体如夜叉に接近する。
「彼等は疫病で亡くなった村人達の亡霊なんて…非常に気の毒ですね…」
小梅姫は悪食餓鬼に同情したのである。
『彼女は…こんな神出鬼没の悪霊にも同情するなんてね♪小梅姫は地上世界の天女みたいな小娘だね♪』
蛇体如夜叉は小梅姫を地上世界の天女であると再認識する。
「蛇体如夜叉婆様…彼等は私が成仏させますね…」
「小梅姫は一人で大丈夫かい?私も手伝おうか?」
小梅姫を心配した蛇体如夜叉であるが…。小梅姫は断言する。
「蛇体如夜叉婆様!私は妖女ですから大丈夫ですよ!加勢は不要です!」
悪食餓鬼の大群は彼女達に殺到する。
「貴方達…非常に気の毒だけど…御免なさいね…」
小梅姫は無数の悪食餓鬼に謝罪…。
『発火の妖術!発動!』
小梅姫は発火の妖術を発動したのである。小梅姫が発火の妖術を発動した直後…。突如として無数の悪食餓鬼が自然発火により燃焼し始めたのである。
「悪食餓鬼が自然発火したね…あんたの妖術かね?」
蛇体如夜叉は恐る恐る小梅姫に問い掛ける。
「勿論ですとも!発火の妖術ですよ!」
悪食餓鬼の大群は地獄の業火で焼死…。彼女達の周囲には数十体もの悪食餓鬼の焼死体が周辺の地面を埋没させる。
『浄化の妖術…発動!』
今度は浄化の妖術を発動すると自然界の涼風により悪食餓鬼の焼死体は半透明の霊魂に変化…。
「無数の悪食餓鬼…貴方達は完膚なきまでに成仏しなさい!」
悪食餓鬼の浄化された霊魂は消滅したのである。
「危険を回避出来ました!樹海は安全ですよ!蛇体如夜叉婆様!」
悪食餓鬼は小梅姫の発動した浄化の妖術により浄化され二人は一安心する。
「小梅姫よ…あんたは神出鬼没の悪霊を浄化出来たね!」
すると蛇体如夜叉は小梅姫に笑顔で…。
「あんたは誰よりも純粋無垢で…温厚篤実だね!小梅姫が旧時代に存在する人間だったら…私の悪友も…」
「悪友ですって?」
小梅姫は悪友の一言が気になったのか蛇体如夜叉に問い掛ける。
「悪友って…誰ですか?」
「気にしないで!彼女は数万年前に人間達との大戦争で戦死しちゃったから…」
「えっ…戦死ですって…」
大昔の惨劇に小梅姫は絶句する。
「あんたの妖術は本物だったよ!余計かも知れないけれど…あんたは今後とも…荒唐無稽の妖術で神出鬼没の悪霊から非力の村人達を守護しな!小梅姫なら悪霊征伐に貢献出来るよ!」
『蛇体如夜叉婆様…』
小梅姫は蛇体如夜叉の発言に感化されたのか笑顔で返答したのである。
「私は頑張ります!蛇体如夜叉婆様!」
今回の蛇体如夜叉との遭遇を契機に…。小梅姫は悪霊の浄化に専念し始める。
第十七話
巣窟
二日後の真夜中…。北国の山奥に位置するとある洞窟では数十人もの匪賊達が集結したのである。首領らしき巨漢の大男が周囲を確認する。
「全員集合したな…戦乱時代の同志達よ!」
彼等は戦乱時代当時に南軍と北軍として奮闘した残党勢力…。東国武士団が牛耳る世の中を憎悪する者達である。南軍と北軍の残党以外にも東国武士団の政策に反対する者達は勿論…。
「大昔は敵国だった東国の奴等が…俺達に合流するとは意外だな…」
「呉越同舟か?十数年前迄の俺達は敵対した犬猿の仲だったのに…東国の奴等と共闘出来るとは…」
当時東軍の兵卒として奮闘した下級武士達も不穏分子の彼等に合流したのである。今現在でこそ平穏の世の中であるが…。
「俺達だって今現在の東国武士団の政策は気に入らないからな!」
「俺達は戦乱時代では必死に奮闘したのに!首脳陣からの恩恵は何一つとして無いからな!大名達にとって俺達は無用の長物らしいぜ!」
「首脳陣の奴等には一喝しなければ!」
当時一兵卒として粉骨砕身した将兵達であるが…。東国武士団の政策が気に入らない者達が数多く不審に感じる者達も少なくなったのである。
「襲撃は明日の早朝だ!東国の城下町に移動後…奴等の根城を完膚なきまでに落城させるぞ!」
頭領らしき人物が計画の実行を公表する。
「武器は洞窟の奥側だ…各自確認しろ!」
首領らしき巨漢の大男が洞窟の奥側を指差すと洞窟の奥側には戦乱時代当時に使用された大砲が四門…。火縄銃が合計二十丁確認出来る。
「平和を謳歌し続ける…東国の奴等を畏怖させるのだ!」
「戦乱時代の雰囲気を再現出来るな!」
「面白そうだな!城下町で思う存分に大暴れするぜ!」
周囲の者達は大暴れ出来る絶好機に大喜びしたのである。すると直後…。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
洞窟の出口近辺より二人の悲鳴が響き渡る。
「ん!?何事だ!?」
彼等は即座に洞窟の出口を注視すると二人の匪賊が何者かによって殺害され…。血塗れの状態で地面に横たわったのである。
「此奴は即死だな…」
「一体何が…ん!?」
すると出口の方向には鬼神を連想させる甲冑を装備した重厚の武士が佇立…。武士は無表情で洞窟の匪賊達を凝視したのである。
「貴様は…一体何者だ!?人間の武士みたいだが…」
「貴様は俺達の仲間を殺しやがったな!?」
匪賊達は警戒した様子で正体不明の武士に問い掛ける。
「であれば如何する?貴様等は俺に復讐するのか?貴様等程度で俺を仕留められるかは保証出来ないが…」
武士は彼等に挑発したのである。
「何を!?貴様!?」
数人の匪賊達が武士の挑発に苛立ったものの…。
「あんたはひょっとして…」
一人の匪賊が武士の形相に反応したのである。
「人違いだろうか?あんたは北国の鬼神の…月影幽鬼王なのか?あんたは鬼神の月影幽鬼王っぽいが…」
月影幽鬼王の名前に周囲の者達が驚愕する。
「えっ!?月影幽鬼王だって!?」
「幽鬼王って…北国の鬼神って畏怖された武士の名前か!?」
「此奴が…北国の月影幽鬼王なのか!?本物の幽鬼王なのかよ!?」
一方の武士は無表情で…。
「俺は月影幽鬼王だ…今現在は列記とした死没者だが…」
武士の正体とは北国の鬼神として数多くの者達から畏怖された月影一族の月影幽鬼王だったのである。幽鬼王は自身を死没者であると自負する。
「死没者だって!?」
「此奴…幽鬼王は亡霊なのか!?」
「死没者って本当なのか!?幽鬼王は死んじまったのか!?」
「あんたは一体誰に殺された!?」
「ひょっとして幽鬼王は金剛山での戦闘で戦死したのか?」
亡霊の一言に周囲の匪賊達は再度反応…。極度の恐怖心から身震いし始める。
「月影幽鬼王?」
すると首領らしき巨漢の大男が恐る恐る発言する。
「今現在の幽鬼王は列記とした亡霊なのかも知れないが…今回も俺達と一緒に東国の奴等を蹴散らさないか!?俺達にとっては生前のあんたは戦乱時代の同志であり戦友の一人だ!あんたが人外の亡霊だとしても俺はあんたを同志として歓迎するよ!今回も金剛山での戦闘みたいに大暴れしないか!?」
「俺が貴様等の同志だと?」
幽鬼王は同志の一言に失笑したのである。
「悪いが俺は貴様等に協力したくても協力出来ない…今現在の俺は神出鬼没の悪霊風情だ…俺の使命は貴様等人間を排除するだけだ…」
直後…。幽鬼王は自身の霊気を駆使すると両手に雷光の刀剣を形作る。
「貴様達は列記とした生者だ…此処で排除する!」
「なっ!?」
「幽鬼王!?貴殿は本気なのか!?」
幽鬼王は神速の身動きで彼等に急接近…。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
「幽鬼王!?」
匪賊達は抵抗すら出来ず雷光の刀剣で斬殺されたのである。殺戮から数分後…。幽鬼王は地面の遺体を凝視したのである。
『一先ずは片付いたな…』
両手の雷光の刀剣は消失する。
『排除は完了したな…洞窟から脱出するか…』
幽鬼王は洞窟を脱出する直前…。
「月影幽鬼王…鬼神の月影幽鬼王よ…」
「ん?貴様は…」
突如として幽鬼王の背後より不定形の黒雲が出現したのである。
「誰かと思いきや…貴様は俺を悪霊として復活させた悪霊の集合体か?」
「幽鬼王とやら…如何やら使命は順調そうだな…」
「こんなのは序章だが…一歩出歩けば人間は其処等に存在する…こんなのは氷山の一角だな…」
「貴殿には期待するぞ!月影幽鬼王…今後とも貴殿の絶大なる霊気で愚劣なる人間達を完膚なきまでに排除するのだぞ!」
「貴様に命令されずとも…俺は…」
一瞬であるが…。幽鬼王は苛立った態度で反応する。
「私に命令されるのが気に入らないか?幽鬼王?」
不定形の黒雲は幽鬼王に問い掛ける。
「俺はあんたの目的には協力するが…俺の目的は軍神…夜桜崇徳王への復讐に他ならない!彼奴を仕留めるのが俺にとっての最大の使命だ…」
「夜桜崇徳王とは今後も遭遇出来るだろう…」
すると不定形の黒雲は自身の霊気を最大限に活用…。先程幽鬼王が殺害した匪賊達の遺体に霊気を混入させたのである。
「悪霊の集合体?貴様は一体何を?こんな無価値の奴等に自身の霊気を流し込むとは…こんな奴等に自身の霊気を流し込んで如何する?」
幽鬼王は恐る恐る不定形の黒雲に問い掛ける。
「幽鬼王は彼等の肉体を直視し続けよ…」
「直視だと?」
幽鬼王は匪賊達の遺体を凝視し続ける。すると直後である。
「ん?」
其処等の遺体に変化が発生し始める。
「匪賊達の残骸を悪霊として活用するとは…」
匪賊達の遺体は飢餓の悪霊…。悪食餓鬼に変化したのである。
「匪賊の残骸が無数の悪食餓鬼に変化しやがったか…」
「悪食餓鬼の大群…人間達への大攻勢に彼等を活用するのだ…」
「人間達への大攻勢だと?人間達を相手にこんな奴等が役立つだろうか?悪食餓鬼は非力の子供でも仕留められる程度の雑魚だぞ…」
悪食餓鬼は生前の幽鬼王は勿論…。頑張れば其処等の子供でも仕留められる程度の脆弱さである。
「無論悪食餓鬼は一体のみならば脆弱だろうが…こんな奴等でも…生身の人間にとっては数多く投入し続ければ脅威だろうな…」
悪食餓鬼にとっての利点は微弱の霊気で利用出来…。集団で行動すれば相手が非力の常人ならば脅威である。悪食餓鬼に捕食され…。殺害された人間は悪霊の悪食餓鬼に変化する。無制限に仲間を増殖させられるのが悪食餓鬼の最大の利点である。
「こんな奴等でも…多少役立つなら活用するべきだな…」
「であれば鬼神の月影幽鬼王…貴殿の戦果には期待するぞ…生前の貴殿にとって大敵である夜桜崇徳王にも復讐するのだぞ!」
不定形の黒雲は消失…。
『止むを得ないな…行動を開始するか…』
幽鬼王は暗闇の洞窟から脱出したのである。
第十八話
暗闇
数日後の真夜中…。北国のとある山奥での出来事である。とある高齢の僧侶と若齢の修行僧が暗闇の山中を移動する。
「和尚様…寺院に戻りませんか?」
若齢の修行僧が畏怖した様子であり高齢の僧侶に密着したのである。
「其方よ…こんな暗闇で畏怖して如何するのだ?こんな暗闇程度で畏怖する様子では…其方が一人前の僧侶に昇格するには五百年は必要だな!」
高齢の僧侶は冗談っぽく表現する。
「えっ!?五百年間も!?」
「冗談だよ!冗談!」
「はぁ…冗談ですか…和尚様は意地悪ですね…」
若齢の修行僧は一安心したのである。
「ですが和尚様?近頃は悪霊の出現も否定出来ません…早急に戻らないと神出鬼没の悪霊に遭遇するかも知れませんよ…」
「神出鬼没の悪霊か…」
近頃は悪霊の目撃情報も頻回であり国全体で悪霊出現の噂話が出回る。修行僧は暗闇の自然林を直視すると身震いし始める。
「此処は悪霊が出現しそうな雰囲気ですね…」
「其方は情けないな…近頃の若者は未知の物事に畏怖し過ぎなのだ!」
「ですが私は…暗闇の場所が人一倍苦手なのです…」
「其方は暗闇の場所が苦手なのか?であれば暗闇の場所に長居し続けるのも修行の一環であるぞ!」
高齢の僧侶は再度満面の笑顔で発言する。
「今回は其方にとって暗闇の場所を克服出来る絶好機だな!」
「はぁ…和尚様…」
若齢の修行僧は苦笑いしたのである。すると直後…。
「ん?」
「えっ…和尚様?」
突如として高齢の僧侶は周囲に警戒したのである。
「気配だな…」
「気配ですと!?和尚様!?」
高齢の僧侶は長年の修行により無数の気配を察知する。
「一体…何事ですか!?和尚様!?」
若齢の修行僧は恐る恐る問い掛ける。
「無数の気配を感じるのだ!恐らくは人外の存在だろう!」
「えっ!?人外の…存在ですと!?」
若齢の修行僧は畏怖したのか再度高齢の僧侶に密着する。二人が警戒してより数秒後…。周囲の自然林より無数の人影がふら付いた様子で二人に接近したのである。
「和尚様…何やら無数の人影が此方に接近します!」
「相手は悪食餓鬼か…止むを得ないな!」
数秒間が経過すると人影の正体とは飢餓の悪霊…。悪食餓鬼だったのである。
「ひっ!和尚様!神出鬼没の悪霊です!奴等は大群ですよ!」
若齢の修行僧は悪食餓鬼の外見に畏怖…。全身が膠着化したのである。
「仕方ないな…」
高齢の僧侶は法力を駆使する。
「大飢饉…疫病で死去された黄泉の亡者達よ!貴様等は成仏されよ!」
直後である。接近する周囲の悪食餓鬼が法力の業火によって燃焼され…。悪食餓鬼の大群は完膚なきまでに焼失したのである。
「悪霊の浄化は…完了だな…」
「えっ!?悪霊の大群が一瞬で浄化された…和尚様の法力ですか!?」
若齢の修行僧は周囲の光景に驚愕する。
「私にとってこんな程度の法力…序の口だぞ!」
「序の口ですと!?」
『一体如何すればこんな法力を扱えるのだろうか?』
若齢の修行僧は高齢の僧侶が程遠い存在であると感じる。
「其方も度重なる修行を継続し続ければ…私みたいに法力を扱えるだろうよ!」
「私にも…法力が?」
すると今度は遠方より銃声が響き渡る。
「銃声か!?」
高齢の僧侶は法力の結界を形成…。遠方からの銃弾を無力化したのである。
「結界が間に合った…間一髪であったな…」
「銃撃ですか…」
遠方の自然林より三体もの巨体の武将が出現…。二人に接近したのである。
「うわっ!今度は髑髏の武将!?」
「彼等は骸骨荒武者か…」
「骸骨荒武者ですと?」
「彼等は戦乱時代で息絶えた戦死者達の亡霊だよ…」
「戦死者達の…亡霊ですって?」
三体の骸骨荒武者は二人を敵視…。携帯用の刀剣で斬撃し始める。
「貴様達が相手なら!」
上空全域が黒雲により覆い包まれる。
「戦死者達の亡霊よ…貴様等も成仏されよ!」
黒雲から落雷が発生…。骸骨荒武者は落雷により完膚なきまでに仕留められる。
「えっ!?三体の骸骨荒武者が…和尚様の法力ですか?」
「はぁ…はぁ…」
高齢の僧侶は体力の消耗からか深呼吸したのである。
「骸骨荒武者は悪食餓鬼よりも強力だからな…」
「ですが和尚様の法力がこんなにも強力なんて…想像以上でしたよ!」
若齢の修行僧は満面の笑顔で発言する。
「今後とも真面目に修行し続ければ…未熟の其方でも私を超越出来るだろう…」
「今後とも頑張りますよ!和尚様!」
談笑した直後である。
「なっ!?」
「えっ!?和尚様!?」
悪食餓鬼は勿論…。骸骨荒武者をも上回る霊気を察知したのである。
「今迄以上の気配を感じる…」
「今迄以上の…今度は一体何が出現するのですか!?」
すると暗闇の自然林から一人の武士が出現する。
「えっ?武士ですと?外見だけなら人間っぽいですが…」
「姿形は人間の武士でも…此奴は列記とした悪霊だろう…」
『霊気は非常に強力だな…こんな悪霊が俗界に出現するとは…』
武士は鬼神を連想させる甲冑が特徴的であり全身の皮膚は死没者を連想させる灰白色である。高齢の僧侶は恐る恐る武士の悪霊に問い掛ける。
「其方…一体何者だ?其方が亡者なのは確実だろうが…」
すると悪霊の武士は名前を名乗り始める。
「私は…月影幽鬼王だ…」
武士の正体は北国の鬼神…。月影幽鬼王だったのである。
「月影幽鬼王だと!?其方が北国の鬼神か…」
高齢の僧侶は殺気立った表情で幽鬼王を凝視…。睥睨し始めたのである。
「えっ…」
『普段は大仏様みたいな和尚様の形相が…』
高齢の僧侶は鬼神の形相であり一瞬畏怖する。
「極悪非道の大悪党が!神出鬼没の悪霊として復活するとは!」
「えっ?和尚様…」
すると修行僧は恐る恐る高齢の僧侶に問い掛ける。
「極悪非道の大悪党って…和尚様?此奴と過去に何が?」
「私の女房は十八年前に…極悪非道の此奴によって殺害されたのだ…」
「えっ!?此奴が…和尚様の奥方様を!?」
十八年前の出来事である。北国のとある村里にて僧侶の女房は幽鬼王の気紛れにより殺害され…。女房の遺体は村道にて放棄されたのである。
『こんなにも暗闇の場所で仇敵の月影幽鬼王と遭遇するとは…』
一方の幽鬼王は無表情で発言する。
「人間の僧侶よ…俺に復讐したいか?」
すると直後…。幽鬼王は神速の身動きにより護身用の刀剣で僧侶の胸部を力一杯刺突したのである。
「ぐっ!」
僧侶は吐血し始める。
「和尚様!?」
一方の修行僧は抵抗出来ず恐怖心により全身が膠着化したのである。
「万全の状態なら貴様の法力で俺を浄化出来たかも知れないな…貴様は地獄の世界で女房に再会するのだな!」
先程の戦闘により僧侶は体力を消耗…。満身創痍の状態であり法力を駆使出来なかったのである。僧侶は重苦しい表情で身動き出来ない修行僧を凝視し始め…。
「其方は…今直ぐにでも逃げるのだ!幽鬼王は想像以上に危険だ!僧侶の私でも悪霊の此奴は対処出来ない!」
「和尚様…」
修行僧は涙が零れ落ちる。
「承知しました!和尚様!」
修行僧は落涙するものの…。必死で逃走したのである。
「僧侶…自身の生命よりも小僧の心配とは…」
幽鬼王は僧侶に失笑する。
「思う存分に失笑するのだな…月影幽鬼王…」
「ん?貴様?一体…何を?」
幽鬼王は僧侶の態度に一瞬警戒したのである。
「其方が神出鬼没の悪霊でも…此奴が通用するかな?」
僧侶は護身用の手榴弾を携帯する。
「貴様…手榴弾だと?こんな代物で悪霊の俺を仕留められるとでも?」
僧侶は隠し持った手榴弾に着火し始める。
「私の手榴弾は特殊性なのだ…」
『こんな場所で幽鬼王相手に駆使するとは…』
僧侶の手榴弾は自身の法力を混入させた特殊性だったのである。
「完膚なきまでに浄化されよ!大悪党…月影幽鬼王!」
導火線に着火した直後…。
「貴様…」
特殊性の手榴弾は幽鬼王の目前で爆散したのである。僧侶と幽鬼王は全身の肉体諸共焼失…。地面は黒焦げに一掃されたのである。特殊性の手榴弾が炸裂してより数秒後…。炭化した状態の幽鬼王の肉片が融合化し始める。幽鬼王の肉体は数秒間で元通りに再復活したのである。
『愚か者が!人間の武器が…悪霊の俺に通用するか!』
幽鬼王は悪霊の肉体であり元通りに再復活出来たものの…。
「畜生が…」
『先程の手榴弾は僧侶の法力を混入させた特殊性だったな…俺の霊気がこんなにも弱体化するとは…』
法力の影響で霊気の大部分が一時的に浄化されたのである。
「止むを得ないか…」
『俺を一休みさせるとは…』
幽鬼王は予想外の痛手により暗闇から脱出する。
第十九話
廃城
小梅姫が悪霊の浄化に専念してより二週間後…。近頃西国と東国の国境に位置する廃村では大量の人骨やら死骸が発見されたのである。近隣の村里では無間地獄から出現した怨霊達の仕業であるとの噂話が国全体に出回る。同日の早朝には東国の連山から大量発生した悪食餓鬼の大群が隣接する各農村にて出没したのである。悪霊事件の真相が気になった小梅姫は即刻問題の廃村へと出発する。
『村人達の行方不明事件と廃村の大量の人骨…そして悪食餓鬼の大群…』
「今回の悪霊事件と関係するのか…確認しないとね!」
東国の城下町からは非常に近辺なのか徒歩でも数分間で到着する近距離である。小梅姫は山岳地帯から廃村の様子を眺望…。
「廃村って…」
『随分殺風景なのね…』
村里の雰囲気から過疎化した無人の城下町であり村里の中心地には古惚けた廃城が確認出来る。
『不吉だわ…神出鬼没の悪霊が出現しても可笑しくない雰囲気ね…』
誰一人として人間が存在しない無人の廃村であり無数の霊気が充満するのは察知出来る。時間帯は真昼であるものの…。
『夕方みたいな雰囲気だわ…』
廃村の雰囲気から夕方同然だったのである。
『こんな場所に長時間長居し続けると可笑しくなりそうだわ…』
小梅姫は気味悪くなる。実際問題…。廃村の空気は非常に重苦しく通常の人間であれば卒倒しても可笑しくない程度の感覚である。
『恐らく今回は今迄の悪霊とは比較出来ない悪霊が出現しそうだわ…』
「今回の事件…私一人で対処出来るかしら?」
村里の雰囲気から無気力化するものの…。
『村里中心部の廃城が非常に奇怪だわ…』
小梅姫は廃村の中心地に位置する廃城から強烈なる霊気を察知したのである。
『妖力を過剰に消耗するのも面倒臭いし…真正面から強行突破よ!』
小梅姫は鈍足であるものの…。無人の廃村へと真正面から驀進し始める。すると周囲の土中から無数の悪食餓鬼が出現…。
『悪食餓鬼の大群かしら?』
彼等は無防備状態の小梅姫へと殺到する。
『亡者の彼等にとっては私への挨拶なのかしら?』
「悪食餓鬼にとって私は大歓迎みたいだけど…生憎嬉しくないのよね…」
小梅姫は即座に妖力の防壁を発生させたのである。
「あんた達は気の毒だけど…此処で浄化するわね…」
今度は妖力の防壁を攻撃用に転用させた半透明の魔手を形成…。防壁の表面より無数の魔手が形作られる。半透明の魔手は外敵である悪食餓鬼の猛攻から小梅姫本体を守備しては自動的に動作し続ける。
『彼等は予想以上に大群ね…』
魔手の発動によって殺到し続ける悪食餓鬼の大群を容易に駆逐したのである。半透明の魔手に接触した悪食餓鬼は只管全身が燃焼され…。彼等の亡魂は完膚なきまでに浄化されたのである。小梅姫が通過すると大量の肉塊と鮮血が小梅姫の道端に散乱する。一直線に侵攻し続けると中心地の廃城へと到達したのである。
『廃城から強大なる霊気を感じるわね…霊気の正体は一体何かしら?』
小梅姫は恐る恐る廃城へと進入する。
『不吉だわ…』
城内は家具が散乱した状態である。
『人気は感じられないわね…』
当然であるが…。城内の居住者は誰一人として確認出来ない。
『此処って…戦乱時代で処分された根城なのかしら?』
城内は全体的に純和風ではなく異国風の雰囲気だったのである。
「異国の文化財だわ…」
『ひょっとすると廃城の城主は異国の愛好家みたいね…』
小梅姫は階段を利用しては廃城の天守閣最上階へと到達する。廃城の天守閣最上階には高価値の骨董品が多数発見されたのである。
『廃城の城主は異国の愛好家みたいだわ…』
すると室内中心部にて摩訶不思議の骨董品を一品発見する。
『一体何かしら?』
小梅姫が注目したのは室内の内壁に装飾された能面であるものの…。
『ひょっとして能面かしら?』
能面は非常に不自然であり等身大の人間と同程度の巨大さである。
「えっ…悪趣味だわ…」
『正直能面とか鬼女の仮面って外見的にも不吉なのよね…私は大嫌いだわ…』
小梅姫は室内に装飾された巨大能面を非常に気味悪がり…。嫌悪したのである。
『芸術的でしょうけど…私には所有者の感受性が理解出来ないわね…』
小梅姫は迂闊にも巨大能面に接触する。
「普通の能面よりも随分特大なのね…」
『本当に能面なのかしら?単なる装飾品っぽいわね…』
先程から疑問であったのか小梅姫が廃城へと進入した途端に城内の霊気が一瞬で消失したのである。
「えっ?」
『城内の霊気が感じられなくなったわ…廃城には悪霊は存在しないのかしら?』
正直納得出来ないが…。
『仕方ないわね…廃城から脱出しましょう!』
小梅姫は止むを得ず城内では霊気が皆無であると判断したのである。小梅姫は即座に外部の石庭へと戻ろうかと思いきや…。
「えっ…」
突如として背後から物音が響き渡る。
『物音だわ…』
小梅姫は恐る恐る背後を警戒…。先程の巨大能面に注目したのである。
『一体何事かしら?』
背後の内壁に装飾された巨大能面の両目が蛍光色に発光した状態であり八本もの蜘蛛の脚部が生成される。形状的には巨大蜘蛛の怪物であり中心部の巨大蜘蛛の胴体部分は先程の巨大能面だったのである。
『此奴はひょっとして…器物の悪霊…小面袋蜘蛛かしら!?』
油断した小梅姫は愕然とする。
『城内から感じられた気配の正体って…』
「小面袋蜘蛛…此奴だったのね…」
内壁の巨大能面の正体とは器物の悪霊…。小面袋蜘蛛であり装飾品である巨大能面に死没者の亡魂が憑依した憑依系統の悪霊である。小面袋蜘蛛は特定の器物に憑依する性質上からか特定の地方では能面の付喪神とも呼称される。特定の道具への憑依が可能であり妖女である小梅姫をも油断させたのである。巨大能面である胴体部分の両目が小梅姫を凝視すると巨大能面の口先から蜘蛛の白糸を噴出し始める。
「きゃっ!」
粘着性の蜘蛛の白糸が小梅姫の皮膚に接触した直後…。
「えっ…」
体内の妖力が急速に消耗し始める。
『何かしら?妖力が消耗するなんて…小面袋蜘蛛の効力かしら?』
消耗は妖力のみならず…。
『体力も…消耗するなんてね…』
体力をも半減したのである。小梅姫は肉体の身動きすらも負担に感じられる。
「ぐっ…迂闊だったわ…」
『能面の正体が小面袋蜘蛛だったなんて…』
小面袋蜘蛛の体内から噴出される粘液は妖力を消耗させる効力を発揮出来る。妖力を多用する攻撃法では小面袋蜘蛛を攻略するのは非常に困難である。莫大なる妖力を所持…。自由自在に操作出来る小梅姫にとって小面袋蜘蛛を相手するのは相性的にも最悪であり圧倒的に不利である。
『私は小面袋蜘蛛の餌食に…』
小梅姫は莫大なる妖力の消耗によって力尽きたのか床面に横たわる。対する小面袋蜘蛛は床面に横たわった状態の小梅姫の視界間近へと急接近…。
「私を捕食したければ捕食しなさいよ…小面袋蜘蛛!」
小梅姫は小面袋蜘蛛に食い殺されるのを覚悟したものの…。
『妖女の私が…』
「こんな悪霊を相手に敗北するなんて…」
小梅姫は僅少の妖力によって金縛りの妖術使用を決意する。
『止むを得ないわね…』
「一か八かよ…」
金縛りの妖術を発動すると一時的に小面袋蜘蛛は身動きしなくなる。金縛りの妖術は対象である相手の身動きを一時的に封殺出来る妖術である。
『今度は…』
今度は瞬間移動の妖術を発動…。小梅姫は即座に廃城の天守閣最上階から安全地帯へと移動したのである。小梅姫は瞬間移動の妖術の使用により廃城から無事脱出出来…。
『命拾い出来たわ…危機一髪だったわね…』
近辺の山道へと移動出来たのである。
「はぁ…」
『一瞬小面袋蜘蛛に食い殺されるかと…やっぱり私だけでは力不足ね…』
小梅姫は自身の非力さを痛感する。
『此処は安全そうだけれど…』
小梅姫は恐る恐る周囲を警戒…。無事に廃城から脱出出来たのである。
『一か八かだったけれども…脱出には成功したみたいね…』
小梅姫は脱出成功に安堵するものの…。妖力の消耗によって妖術の使用は不可能であり一時的に退却を余儀無くさせられる。
『金縛りの妖術は解除されたでしょうし…即刻東国に戻らないと!』
東国の家屋敷へと戻ろうかと思いきや…。
「えっ!?」
地面より数体の悪食餓鬼が小梅姫の視界間近へと突発的に出現したのである。
『今度は悪食餓鬼!?』
最早小梅姫は妖力を消耗した満身創痍の状態であり本来ならば雑魚である複数の悪食餓鬼ですらも仕留められない。
『本調子なら悪食餓鬼なんて容易に浄化出来るのに…』
本来の小梅姫にとって悪食餓鬼程度なら仕留められる程度の存在であるものの…。衰弱化した状態では悪食餓鬼の大群すらも脅威の対象である。
「きゃっ!」
大量の妖力を消耗した状態では悪霊では比較的最弱の部類である悪食餓鬼でさえも恐怖の対象であり小梅姫は一歩ずつ後退りする。
『私は…悪食餓鬼に捕食されるのね…』
複数の悪食餓鬼が小梅姫の視界間近へと殺到する寸前…。
「えっ…」
悪食餓鬼は突発的に身動きしなくなる。
『一体何が?如何して悪食餓鬼は身動きしなくなったのかしら?』
彼等の足場を直視すると白色の粘液が確認出来る。
『白色の粘液だわ…』
「此奴はひょっとして…」
彼等の背後には獲物である小梅姫を追撃する主敵の小面袋蜘蛛が急接近したのである。一方の小梅姫は小面袋蜘蛛に畏怖すると全身が膠着化し始める。
「えっ!?」
小梅姫は廃城からは危機一髪脱出出来たものの…。小面袋蜘蛛は小梅姫の妖力を目印に小梅姫の居場所を察知する。
『小面袋蜘蛛!?』
小面袋蜘蛛は逃走した小梅姫の行方を見逃さなかったのである。小面袋蜘蛛は体内の白糸によって捕獲した数体の悪食餓鬼を捕食し始める。
『此奴…』
「小面袋蜘蛛は仲間の悪食餓鬼を食い殺すなんて…」
小梅姫は目前の凄惨なる光景に恐怖したのである。最早自分自身も彼等と同様に小面袋蜘蛛に捕食されるかも知れないと思考すると希死念慮が芽生え始める。数体の悪食餓鬼を捕食した小面袋蜘蛛は目的の獲物である小梅姫に急接近…。
『私は今度こそ…小面袋蜘蛛に食い殺されるわ…』
極度の恐怖心からか小梅姫は全身が身震いした様子であり身動きしたくても身動き出来ない。すると小面袋蜘蛛の鋭利なる脚部が小梅姫の胸部を貫通させる。
「ぐっ!」
小梅姫は小面袋蜘蛛の脚部に心臓を貫通させられた直後…。小梅姫の胸部から大量の鮮血が流血し始める。流血により地面が赤色に染色したのである。
『私は今度こそ…小面袋蜘蛛に捕食されるのね…』
最早小梅姫は失血死しても可笑しくない致命傷であるものの…。神経の麻痺によって全身の苦痛すらも感じられなくなる。抵抗出来なくなった小梅姫は観念する。
「はぁ…」
『出来るなら私はこんな場所で死にたくなかったな…』
両目を瞑目したと同時に耳元から爆発音が響き渡る。
「えっ…」
『今度は何事かしら?爆発音?』
恐る恐る両目を開眼すれば…。
『小面袋蜘蛛が粉砕されたわ…一体如何して?』
小梅姫の周囲は粉砕された小面袋蜘蛛の血肉やら肉片が地面の彼方此方に散乱した状態だったのである。
「えっ?」
『一体誰なのかしら?』
背後には焙烙火矢を装備した僧服の小柄の男性が地面に横たわった状態の小梅姫に恐る恐る近寄る。
「貴方はひょっとして…人間の僧侶かしら?」
「其方は…小梅姫なのか?」
「貴方は?」
「私だよ…其方の実父…夜桜崇徳王だ…」
「えっ…夜桜崇徳王って?」
僧侶の正体とは父親の夜桜崇徳王であり脆弱化した小梅姫にとって崇徳王は救済の守護神同然である。
「ひょっとして父様なの?」
「大丈夫か?小梅姫…なっ!?」
崇徳王は小梅姫の胸部の外傷を直視すると身震いし始める。
「小梅姫…如何してこんな状態に!?一体何が!?」
崇徳王は涙腺から涙が零れ落ちる。
『小梅姫が…最早こんな状態では…』
崇徳王は瀕死状態の小梅姫に絶望したのである。
「小梅姫…」
崇徳王は涙腺から涙が零れ落ちる。すると直後…。
「えっ…現実なのか?」
小梅姫の胸部の外傷は自身の妖力により数秒間で自然的に治癒したのである。
「小梅姫の…傷口が治癒するなんて!?」
「父様…私は大丈夫よ…外傷なら自力で治癒出来るから…」
「小梅姫…本当に大丈夫なのか!?」
小梅姫は心配し続ける崇徳王に無表情で…。
「私なら大丈夫よ…父様は心配性なのね…」
小梅姫は自身が大丈夫だと断言するも呼吸が重苦しい様子だったのである。崇徳王は小梅姫が極度の疲労状態であると察知する。
『小梅姫は本当に大丈夫なのか?出血多量の影響で大分衰弱化した状態だな…』
小梅姫は肉体的にも精神的にも疲弊した状態だったのである。
「父様…感謝するわね…」
すると小梅姫は力一杯崇徳王に密着する。
「小梅姫…」
「父様…私は…もう少しで小面袋蜘蛛に食い殺されるかと…」
小梅姫は涙腺より涙が零れ落ちる。
「大丈夫だ!小梅姫…小梅姫が無事で何よりだ!」
一方の崇徳王は小梅姫の無事に安堵したのである。
「父様?」
小梅姫は恐る恐る崇徳王に問い掛ける。
「如何した?小梅姫?」
「如何して人間の父様が強豪の小面袋蜘蛛を簡単に仕留められたのよ?妖女の私がこんなにも苦戦した強敵だったのに…初見で小面袋蜘蛛を仕留めちゃうなんて…」
「恐らくだが小面袋蜘蛛は荒唐無稽の妖力を使用しない現実的手段によって撃退出来る異質の悪霊みたいだな…今回の相手は荒唐無稽の妖術を多用する妖女では最悪の天敵だろうよ…」
「小面袋蜘蛛…私にとって最悪の天敵ね…」
妖力を使用しない現実的戦法こそが小面袋蜘蛛の弱点であると推測する。荒唐無稽の妖術を使用する妖女が相手では相性的にも最悪である反面…。武装した人間には滅法貧弱である。
「小梅姫…一人で無茶するなよ!」
「御免なさい…父様…心配させちゃったわね…」
小梅姫は崇徳王に恐る恐る謝罪する。
「悪霊の出現は深刻だからな…神出鬼没の悪霊関連は小梅姫一人で対処出来る問題じゃない!最早国全体の社会問題だ!」
殺伐とした戦乱時代が無事に終焉した一方…。近年では神出鬼没の悪霊が頻発に出現し始める。悪霊の出現は国全体の大問題であり大勢の村人達は勿論…。各地の武士達は神出鬼没の悪霊の出現に常日頃から冷や冷やしたのである。
「小梅姫は誰よりも純情可憐で温厚だし…無数の悪霊から村人達を守護したい真意も理解出来るけどな…」
すると崇徳王は満面の笑顔で…。
「小梅姫は私にとっても…母さんにとっても世界一の宝物だからな!極悪非道の悪霊なんかに殺されるなよ!」
「父様♪」
小梅姫は内心嬉しくなる。
「小梅姫…空腹だろう?」
崇徳王は小梅姫に俵型の麦飯を手渡したのである。
「えっ…父様?私に…麦飯を…」
「小梅姫は空腹そうだったからな…遠慮せずに麦飯を食べろよ!」
「感謝するわね♪父様♪」
小梅姫は麦飯を手渡されてより数秒後…。
「はぁ…」
小梅姫は一息すると手渡された麦飯を一瞬で頬張ったのである。
「えっ…」
『小梅姫…相当空腹だったのか?』
崇徳王は麦飯を一瞬で頬張る小梅姫に苦笑いする。小梅姫は極度の不安が解消したのか再活動を開始しなければと意気込み始める。
『こんな山道で長居し続ければ…神出鬼没の悪霊が村里全域に出没するわね…』
小梅姫の表情が険悪化したのである。崇徳王は恐る恐る…。
「ん?小梅姫?如何した?」
「父様…無数の霊気が国全体に蔓延したみたいなの…」
突如として莫大なる悪食餓鬼の気配を瞬時に察知したのである。
「霊気が国全体に!?今回は予想以上の一大事だな…」
「恐らくは悪食餓鬼の仕業でしょうね…各地の村里で悪食餓鬼が大量発生したみたいだわ…」
「こんな短期間で悪霊の大群が国全体に蔓延するとは…今回の悪霊騒動は一体何が原因なのだろうか?神出鬼没の悪霊がこんな短期間で大量に出現するとは前代未聞の天変地異だな…」
「残念だけど…悪霊騒動の原因は不明なのよね…」
すると小梅姫は崇徳王に依頼する。
「父様?今回ばかりは父様の協力が必要不可欠なのよ…」
先程の戦闘によって小梅姫は余程自信を喪失したのである。
「勿論だとも!依頼されずとも私は小梅姫に協力するからな!安心しろ!」
「父様と一緒なら心強いわ!感謝するわね♪」
崇徳王の協力に小梅姫は大喜びする。
「前代未聞の天変地異だ…亡者達の暴走を阻止するぞ!小梅姫!」
「勿論よ!父様♪悪霊を浄化しましょう!」
小梅姫と崇徳王は早速行動を開始したのである。
第二十話
武器庫
二人は東国の城下町へと急行する。
「えっ…」
『如何してこんな?』
城下町では無数の強大なる霊気が感じられ…。無数の悪霊が彼方此方に徘徊中だったのである。
「城下町では一体何が!?」
崇徳王と小梅姫は衝撃の光景に絶句する。
「此処は戦乱時代の主戦場みたいな光景だな…」
崇徳王は城下町の惨劇に殺伐とした戦乱時代の光景を想起したのである。
「父様…戦乱時代の主戦場ですって?」
東国の城下町は戦乱時代で体験した主戦場であり大勢の町民達の叫び声やら悲鳴が各地に響き渡る。最早城下町全体が弱肉強食の戦乱時代を連想させる光景だったのである。町道の地面には赤色の鮮血が飛散…。散乱した人間の臓器やら胃腸らしき肉塊が無数に飛散したのである。彼方此方の各家屋からは火の粉が確認出来る。
「ん?殺気か…」
「何かしら?」
すると二人の背後より…。
「悪食餓鬼だわ…」
「此奴は悪霊みたいだな…」
先程遭遇した悪食餓鬼の大群が爆発的に出現したらしく町民達に殺到しては町民達の人肉を捕食したのである。徘徊中である無数の悪食餓鬼が移動中の小梅姫と崇徳王に反応…。彼等は大勢で二人に襲撃したのである。
「あんた達!気の毒だけど…覚悟しなさい!」
小梅姫は火炎の妖術によって悪食餓鬼の大群を燃焼…。悪食餓鬼の大群は焼殺されたのである。
「悪霊の大群を一掃出来たわ…」
地面には悪食餓鬼の無数の焼死体が地面を埋没させる。
「今度は…」
小梅姫は悪食餓鬼の無数の焼死体に浄化の妖術を発動…。
「亡者達…成仏しなさい!」
すると悪食餓鬼の無数の焼死体は霊魂へと変化したのである。
「悪霊が消滅するとは…小梅姫の妖術なのか?」
「悪霊は浄化出来たわね…」
浄化された悪食餓鬼の霊魂は消滅する。
「小梅姫の妖術を肉眼で拝見したが…予想外に絶大だな…」
崇徳王は小梅姫の摩訶不思議の妖術に驚愕したのである。小梅姫は只管村人達の遺体を捕食し続ける悪食餓鬼の大群を相手に逆襲…。
『止むを得ないわね…』
「あんた達!覚悟なさい!」
小梅姫は不本意であるが爆破の妖術により悪食餓鬼を仕留めたのである。爆破の妖術で頭部を破壊された悪食餓鬼は途端に身動きしなくなる。
「今度も…」
小梅姫は仕留めた悪食餓鬼に再度浄化の妖術を発動したのである。自然界の冷風により悪食餓鬼の遺体は完膚なきまでに消滅する。
「悪食餓鬼が相手ならば…小梅姫の妖力は天下無敵だな…」
崇徳王は小梅姫の妖術に圧倒されたのである。
「こんな程度で天下無敵なんて…父様は大袈裟ね…」
小梅姫にとって通常の悪霊が相手ならば余裕であるものの…。
『正直悪食餓鬼が相手でも…妖力の消耗で息苦しいのよね…』
小梅姫は先程から重苦しい深呼吸が目立ち始める。
『小梅姫…大丈夫か?ひょっとして連戦の疲労だろうか?』
悪戦苦闘による妖力の消耗が影響したのである。
「小梅姫?」
崇徳王は恐る恐る小梅姫に問い掛ける。
「何よ?父様?」
「息苦しそうだな…大丈夫か?先程から小梅姫の顔色が…」
崇徳王は小梅姫の様子が気になり心配する。
「別に…私なら大丈夫よ…父様…私を心配しないで…」
「本当に大丈夫なのか?小梅姫?」
崇徳王は小梅姫の顔色が気になるのか再度問い掛ける。
「私は大丈夫だよ…父様は極度の心配性なのね…」
「無理するなよ…小梅姫…」
「私は無理しないわよ…心配しないでね…父様…」
二人は城下町の中央区へと進行するものの…。城下町の中央区では生存者は誰一人として確認出来ない。
「誰一人として領民が確認出来ないな…彼方此方が神出鬼没の悪霊ばかりだ…」
「無人地帯だわ…領民達の居場所は?」
「領民達は根城に避難したみたいだな…最早東国は悪霊の巣窟だ…」
今現在の城下町は無数の亡者達が徘徊する魔窟同然だったのである。
「領民達は無事避難したのね…」
小梅姫は一安心する。すると崇徳王は小梅姫に助言したのである。
「小梅姫の妖力は非常に強力だが…油断すれば悪食餓鬼が相手でも苦戦するかも知れないからな…小梅姫も護身用の武器を装備するべきだ!妖力の消耗も気になるし…」
「護身用の武器ですって?」
「小梅姫の妖術が非常に強力なのは事実だが…必要以上に荒唐無稽の妖術を過信し過ぎるのは危険過ぎる!正直妖力の消耗で限界なのだろう?」
「えっ…」
小梅姫は崇徳王の指摘に絶句する。
「如何やら図星みたいだな…小梅姫…」
崇徳王は小梅姫が妖力の消耗により限界であると察知したのである。
「今後は先程の小面袋蜘蛛みたいに…荒唐無稽の妖術では対処出来ない相手だって出現するかも知れないからな!小梅姫…備えあれば患いなしだぞ!」
「小面袋蜘蛛…」
一瞬だが小梅姫は小面袋蜘蛛の名前に反応する。
「小梅姫…余計かも知れないが念には念を入れよ!」
「承知したわ…父様…」
小梅姫は承諾したのである。
「私が武士団の駐屯地に案内するぞ…」
崇徳王は東国武士団の駐屯地へと案内する。
「廃屋だわ…人気は無さそうね…」
「駐屯地も悪霊の大群に襲撃されたからな…」
如何やら駐屯地は無人地帯であり駐屯地の守備隊は悪食餓鬼の襲撃により撤退…。彼等も本拠地である東国の都城へと移動したのである。
「武士団の守備隊は退却したのかしら?」
「今回の相手は悪霊の大群だからな…東国の武士達が屈強でも相手が大群では対応するのは困難だろうよ…」
最早武器庫は警備が手薄状態であり非力の領民でも容易に潜入出来る。
「先程は私も武器庫で焙烙火矢を入手出来たからな!」
小梅姫は恐る恐る慎重に武器庫へと入室する。
「武器庫にはこんなにも無数の武器が…」
駐屯地の武器庫には多種多様の刀剣やら弓矢が確認出来る。火薬を使用する火縄銃やら焙烙火矢は勿論…。異国で製造された最新式の拳銃も数丁程度確認出来る。
「小梅姫…折角だし異国の拳銃でも装備するか?此奴なら素人の小梅姫でも簡単に扱えそうだが…」
崇徳王は比較的素人でも扱えそうな軽量の拳銃を小梅姫に手渡したのである。
「拳銃なんて随分と物騒ね…正直私には不向きだわ…」
小梅姫は体術やら武術が人一倍苦手であり拳銃の使用を拒否する。
「私は…」
小梅姫は軽量の小刀を発見…。
「私は護身用の小刀を所持するわ…」
「小刀か…」
小梅姫は護身用に軽量の小刀を携帯したのである。
「小刀でも其処等の悪食餓鬼程度なら仕留められるか…」
「気味悪いし駐屯地から脱出しましょうよ…父様…」
「武器庫に長居し続けても仕方ないからな…武器庫から脱出するか…」
小梅姫は退室する直前…。
「えっ?物音だわ…一体何かしら?」
「ん?何事だ?物音だって?」
廊下より物音が響き渡る。
「物音は廊下からだな…今度は何が出現したのやら?」
「無数の霊気だわ…」
「無数の霊気だと?今度も悪霊の大群だろうか?」
小梅姫は無数の霊気を瞬時に察知したのである。
『無数の霊気が一点に集中した状態だわ…』
小梅姫と崇徳王は警戒した様子で恐る恐る武器庫から脱出…。
『今度は何が出現したのかしら?』
すると直後である。
「此奴は怪物かしら!?」
『悪食餓鬼とは別物だわ…此奴はひょっとして…』
小梅姫の視界間近に佇立する怪物とは無数の悪食餓鬼が融合化した一頭身の肉塊人間…。肉塊の怪物は等身大の人間よりも一回り巨体であり廊下を牛歩したのである。すると小梅姫の背後より…。
「此奴は悪霊の…百鬼悪食餓鬼だったな…」
「父様…厄介なのが出現したわね…百鬼悪食餓鬼と遭遇するなんて…」
体表の悪食餓鬼の頭部が小梅姫と崇徳王を睥睨し始める。
『私が万全の状態であれば…悪食餓鬼の集合体なんて楽勝に仕留められるでしょうけれども…』
今現在の小梅姫では百鬼悪食餓鬼を仕留めるのは困難である。
「奴等は熱風を!?」
すると百鬼悪食餓鬼は全身の口先から高熱の熱風を放射し始める。
「父様!」
小梅姫は咄嗟に妖力によって妖力の防壁を形成させたのである。無防備である父親の崇徳王にも防壁の形成によって間一髪崇徳王を守護する。
「父様…命拾い出来たわね…」
「小梅姫…感謝する!」
小梅姫は防壁の形成に成功したものの…。
『先程の同時結界で大半の妖力を消耗しちゃったのよね…』
今現在小梅姫の妖力は空っぽの状態である。
『妖力が空っぽだわ…こんな状態だと妖術は発動出来ないわね…』
悪食餓鬼の親玉である百鬼悪食餓鬼と交戦したとしても敗北は濃厚であると判断…。小梅姫は崇徳王に逃亡を合図したのである。
「父様!即刻此処から退却しましょう!」
「退却だと?」
崇徳王は小梅姫の様子を直視すると小梅姫は満身創痍の状態であると察知する。
『小梅姫…やっぱりな…』
「承知したぞ!小梅姫!」
小梅姫と崇徳王は全力疾走により魔窟状態の駐屯地から無事脱出したのである。
第二十一話
天女
無事に武士団の駐屯地から脱出した小梅姫と崇徳王は東国の郊外に聳え立つ小規模の低山…。日和山に到達したのである。
「はぁ…はぁ…此処は安全そうだな…」
崇徳王は背後を警戒した様子で恐る恐る…。
「小梅姫?先程の百鬼悪食餓鬼は小梅姫の妖術でも…仕留められないのか?」
問い掛けられた小梅姫は即答する。
「本調子の私だったら…百鬼悪食餓鬼程度の悪霊なら十数体以上出現しても簡単に浄化出来るでしょう…」
百鬼悪食餓鬼は所謂悪食餓鬼の集合体であり通常の人間が単独で百鬼悪食餓鬼を仕留めるのは非常に困難とされるが…。摩訶不思議の妖術を駆使する妖女であれば容易に仕留められる程度の悪霊である。
「えっ…百鬼悪食餓鬼を十数体も!?」
『小梅姫が本調子なら百鬼悪食餓鬼を十数体も浄化出来るのか!?』
崇徳王は小梅姫の発言に絶句する。
『小梅姫は末恐ろしいな…今後は彼女を激怒させると大変かも知れないな…』
崇徳王は小梅姫の妖力に一瞬畏怖…。内心冷や冷やしたのである。
「今現在の私の妖力は空っぽだからね…こんな空っぽの状態では悪食餓鬼の大群も仕留められないわよ…」
小梅姫は妖力の消耗により妖術を発動出来なくなる。
「であれば一度一休みするか…小梅姫?此処なら安全そうだが…」
すると小梅姫は小声で発言する。
「精霊故山の露天風呂にでも入浴出来れば…」
「ん?精霊故山の露天風呂だと?」
崇徳王は露天風呂の一言に反応したのである。
「精霊故山って…西国の故山だったよな?」
『桃子姫様と…胡桃姫様…』
崇徳王にとって西国の精霊故山とは愛妻である桃子姫と胡桃姫との天運の場所であり崇徳王は一瞬彼女達の存在を想起する。
「父様?如何したの?」
小梅姫は沈黙し始めた崇徳王の様子が気になったのである。
「御免…気にするな…小梅姫…」
崇徳王は恐る恐る謝罪する。
「小梅姫?精霊故山の露天風呂に入浴すれば消耗した妖力を回復させられるのか?」
崇徳王の問い掛けに小梅姫は即答したのである。
「精霊故山の露天風呂に入浴すれば消耗した妖力を回復させられるのよ…大怪我の治癒効果も期待出来るわ…」
精霊故山の露天風呂は妖力の回復のみならず怪我の治癒効果も期待出来…。一般の村人達も時たま怪我の治療目的で精霊故山の露天風呂に入浴する。
「妖力を回復させられるのであれば…即刻西国に移動するか!」
崇徳王が移動を開始する直前…。
「悠長に西国なんかに移動して入浴すれば…悪霊による被害が拡大化するわ…」
小梅姫は各地の被害の拡大化を懸念したのである。
「今直ぐ西国に移動するのは非現実的だな…小梅姫は瞬間移動みたいに一瞬で別の場所に移動出来ないのか?」
「私が本調子であれば出来るでしょうけれど…妖力が空っぽだからね…」
小梅姫は瞬間移動の妖術で別の場所には移動出来るものの…。今現在の小梅姫は妖力が空っぽの状態であり妖術は駆使出来ない。
『畜生…西国への移動は無理か…』
崇徳王は落胆する。
「ん?」
直後…。無数の霊気が日和山に接近するのを感じる。
「殺気か…」
「無数の霊気だわ…」
「先程の百鬼悪食餓鬼か?」
無数の霊気の正体とは親玉の百鬼悪食餓鬼であり先程遭遇した百鬼悪食餓鬼が日和山に出現したのである。
「彼奴は…」
「百鬼悪食餓鬼だわ…如何やら私達を追尾したみたいね…」
「仕方ないな…」
すると崇徳王は一息する。
「久方振りに…此奴の出番が到来したみたいだ!」
「えっ?父様?一体何を?」
崇徳王は天道金剛石の刀剣を抜刀したのである。
『父様…刀剣を…』
小梅姫は崇徳王の身構えに本物の武士を連想する。
『父様は本物の武士みたいだわ…』
一方の崇徳王は十六年前の邪霊餓狼との死闘を想起したのである。
『極悪非道の悪霊との戦闘は…』
「十六年前の戦闘以来だな…こんな場所で剣豪として再戦とは予想外だった…」
百鬼悪食餓鬼は鈍足の身動きで崇徳王に接近する。
「極悪非道の悪霊よ…」
崇徳王は殺気立った鬼神の形相で百鬼悪食餓鬼を睥睨し始め…。
「私の愛娘には手出しさせないぞ!」
神速の身動きで百鬼悪食餓鬼に接近したのである。
「成仏せよ!極悪非道の悪霊!」
崇徳王の斬撃により巨体の百鬼悪食餓鬼は一瞬で両断される。
「えっ!?百鬼悪食餓鬼を瞬殺!?」
『父様って…こんなにも精強だったの!?』
小梅姫は崇徳王の想像以上の強大さに愕然とする。
「こんな私でも…戦乱時代では東国の一兵卒だったからな!」
小梅姫は赤面し始め…。
『やっぱり父様って…男前ね!母様が見惚れちゃうのも納得だわ!』
崇徳王の精強さに見惚れたのである。
「ん?」
すると両断された百鬼悪食餓鬼が無数の肉片に分裂し始め…。数十体もの悪食餓鬼に変化したのである。
「此奴は…悪食餓鬼に分裂するとは!想像以上に厄介だな…」
分裂した無数の悪食餓鬼が崇徳王と小梅姫に殺到する。
「父様!剣豪でも多勢に無勢だわ…此処から逃げましょう!」
「安心しろ!小梅姫!心配せずとも悪食餓鬼の大群は私が仕留めるからな!」
「父様!?」
多勢に無勢であり圧倒的に不利であるものの…。崇徳王は再度神速の身動きにより自身に殺到し続ける無数の悪食餓鬼を斬撃したのである。崇徳王は数分間で数十体もの悪食餓鬼を完膚なきまでに仕留める。
「他愛無いな!小梅姫…此奴は意外と楽勝だったぞ!」
地面には悪食餓鬼の無数の血肉が彼方此方に散乱したのである。小梅姫は目前の光景に沈黙する。
『戦乱時代…父様が東国の軍神だって噂話は本当だったのね…』
小梅姫は百鬼悪食餓鬼と無数の悪食餓鬼との交戦で崇徳王の軍神としての精強さを再認識したのである。
「こんな程度の奴等なら私一人でも容易に仕留められそうだ!小梅姫は即刻西国の精霊故山で妖力を回復させるのだぞ!」
すると崇徳王の背後より…。
「ん?」
『此奴は…』
巨体の髑髏の武者が二体出現したのである。
「此奴は骸骨荒武者よ!戦死者達の亡霊だわ!」
骸骨荒武者とは戦死者達の無念の集合体とされ特定の地方では髑髏武将とも呼称される。骸骨荒武者は体格が非常に巨体であり背丈は成人男性を一回り上回る。
「今度は骸骨荒武者が相手とは」
二体の骸骨荒武者は崇徳王を直視し始め…。刀剣を抜刀したのである。
「貴様等は刀剣で私と勝負なんて…」
二体の骸骨荒武者は鈍足の身動きで崇徳王に接近し始め…。斬撃したのである。
「此奴は鈍足だな…」
骸骨荒武者は身動きが非常に鈍足であり容易に回避出来る。
「骸骨荒武者は外見とは裏腹に相当鈍足だな…」
「父様!油断しないで!骸骨荒武者の甲冑は相当硬質よ!」
骸骨荒武者の甲冑は非常に硬質である。通常の刀剣で斬撃すれば刀剣が屈折する強度とされる。
「小梅姫♪心配せずとも大丈夫だぞ!私の刀剣は天道金剛石だからな!」
崇徳王は神族の身動きで骸骨荒武者に接近したかと思いきや…。天道金剛石の刀剣で二体の骸骨荒武者に斬撃したのである。
「えっ…父様…」
小梅姫は愕然とする。
『刀剣だけで二体の骸骨荒武者が一瞬で…』
二体の骸骨荒武者は崇徳王の所持する天道金剛石の刀剣で一刀両断…。二体の骸骨荒武者は仕留められたのである。
「戦死者達の亡霊よ…貴様等は成仏せよ!」
二体の骸骨荒武者は仕留められ…。二人は安心したのである。
「父様…一先ずは安心ね…」
「小梅姫…今度こそ西国に移動してから妖力を!」
二人が安堵した直後…。
「えっ!?」
小梅姫は百鬼悪食餓鬼をも上回る霊気を察知したのである。
「何かしら!?」
「ん?如何した?小梅姫?」
前代未聞の強大なる霊気に小梅姫は警戒する。
『悪霊特有の霊気だけど…今迄の悪霊とは桁違いに強力だわ!一体何が出現したのかしら!?強敵なのは確実ね…』
畏怖し始める小梅姫の様子に崇徳王も極度の胸騒ぎを感じる。
『如何やら小梅姫も感じるみたいだな…今度は何が出現する?』
二人は強大なる霊気に警戒したのである。すると背後の獣道より…。
「ん?」
崇徳王は背後を直視すると背後の存在に身震いしたのである。
「なっ!?其方は…」
一方の小梅姫も動揺し始める。
「えっ…此奴は誰なの!?父様!?」
突如として獣道に出現したのは鬼神を連想させる甲冑を装備した武士…。彼が崇徳王を直視すると殺気立った鬼神の形相で崇徳王を睥睨し始めたのである。
『此奴の肉体からは不吉の霊気を感じるわ…』
武士の悪霊は強大なる霊気が感じられるものの…。
『彼が神出鬼没の悪霊なのは確実だけれども…』
神出鬼没の悪霊としては非常に異質的だったのである。
『此奴は今迄出現した悪霊と比較すると異質的だわ…父様の顔見知りみたいだけど…此奴は一体何者なのかしら?』
「父様?此奴は…一体何者なの?」
武士の正体が神出鬼没の悪霊なのは確実であり小梅姫は恐る恐る崇徳王に問い掛ける。問い掛けられた崇徳王は一瞬後退りする。
「此奴は…北国最強の鬼神…月影幽鬼王だ…」
「月影幽鬼王ですって!?一体何者なの!?」
「月影幽鬼王は…戦乱時代に活躍した武人の一人だよ…」
月影幽鬼王は戦乱時代で大活躍した北国出身の武士であり北軍の鬼神として各地の大名達は勿論…。大勢の武将達から畏怖された人物として有名である。すると無表情だった幽鬼王が発言し始める。
「久方振りだな…東国の軍神…夜桜崇徳王よ…戦乱時代では極悪非道の人殺しだった貴様が…今現在では僧侶の身分とは呆れ果てるな…」
幽鬼王は僧侶の身分である崇徳王を揶揄したのである。
「私は戦乱時代で大勢の兵卒達を殺害したからな…一人の僧侶として戦乱時代で死去された数多くの死没者達に贖罪したいのだ…」
崇徳王は即答する。
「死没者達への贖罪とは…崇徳王らしい返答だな…」
小梅姫は恐る恐る崇徳王を直視したのである。
「父様!幽鬼王は正真正銘悪霊よ!姿形は人間の武士みたいだけど…此奴の肉体からは死没者の霊気を感じるわ!」
「えっ…幽鬼王が悪霊だと!?」
崇徳王は幽鬼王が神出鬼没の悪霊である事実に驚愕する。
「幽鬼王?ひょっとして其方…亡者だったのか?」
幽鬼王は崇徳王の問い掛けに即答したのである。
「生前の俺は十七年前に野良犬の亡霊によって食い殺されたからな…今現在の俺は悪霊の肉体なのだ…」
「野良犬の亡霊とは…」
『恐らくは邪霊餓狼だろうな…』
崇徳王は野良犬の亡霊が邪霊餓狼であると推測する。
「今現在の俺は皮肉にも…とある悪霊の集合体によって復活させられた神出鬼没の悪霊なのだ…」
「悪霊の集合体が死没者である其方を悪霊として復活させたのか?」
「人間達を全滅させるのが悪霊としての俺の使命だからな!手始めに復讐の対象者である夜桜崇徳王!仇敵の貴様から片付ける!」
すると小梅姫が発言したのである。
「幽鬼王!父様を殺さないで!」
「ん?貴様は…誰だ?」
幽鬼王は鬼神の形相で小梅姫を睥睨し始める。
「小梅姫…即刻逃げろ!此奴は私が阻止する!」
崇徳王は再度抜刀する。
「えっ?父様!?本気なの!?相手は百鬼悪食餓鬼よりも強力なのよ!」
「安心しろ…小梅姫♪私は正真正銘東国の軍神だぞ♪」
崇徳王は満面の笑顔で断言したのである。
「私はこんな場所では死なないよ!母さんとも長生きするって約束したからな!」
「父様…」
一方の幽鬼王は小梅姫を直視すると冷笑し始める。
「如何やら小娘は…貴様の愛娘みたいだな…」
「幽鬼王よ!私の愛娘には手出しさせない!其方の相手は復讐相手である私なのだからな!」
「安心しろ…崇徳王…貴様を完膚なきまでに打っ殺してから貴様の愛娘も打っ殺すからな!」
幽鬼王は右手に霊気を収縮…。雷光の刀剣を形作ったのである。
「雷光の刀剣だと?」
『月影幽鬼王…本当に人外の悪霊なのだな…』
崇徳王は本格的に幽鬼王が神出鬼没の悪霊なのだと実感する。
「此奴は雷光の霊剣だ!人間の貴様を仕留めるには…此奴で事足りる!」
「神出鬼没の悪霊が相手でも!」
両者は殺意の表情で睥睨し合い…。
「覚悟しろ!幽鬼王!」
「崇徳王!貴様こそ覚悟するのだな!」
両者は神速の身動きで移動し始める。
「えっ!?」
両者の身動きは肉眼では視認出来ず…。小梅姫は突発的に何が発生したのか理解出来なかったのである。
『一体全体…何が発生したの!?』
直後…。両者の刀剣が接触したのである。
「崇徳王…貴様の刀剣が私の霊剣と互角とは…」
「私の刀剣は天道金剛石だ!其方の雷光の霊剣でも…簡単には屈折しないぞ!」
すると幽鬼王は後退…。雷光の刀剣は消滅する。
「ん?」
崇徳王は警戒したのである。
『幽鬼王は…一体何を?』
幽鬼王は左手より霊気で高熱の火球を形作る。
「夜桜崇徳王…完膚なきまでに死滅せよ!」
左手から高熱の火球を発射したのである。
『火球か…』
崇徳王は高熱の火球を一刀両断…。左右に両断された霊気の火球は崇徳王の背後で爆散したのである。
「幽鬼王…やっぱり其方は其処等の悪霊とは桁外れの実力者みたいだな…」
「当然であろう…悪霊は悪霊でも俺は其処等の悪霊とは別格の存在なのだからな!所謂最上級の悪霊とでも!」
幽鬼王は自身を最上級の悪霊と自称する。
「であれば最上級悪霊の月影幽鬼王よ!本来の其方は死没者であるからな!死没者である其方を死後の世界に戻らせるだけだ!」
「最上級の悪霊である私を死後の世界に戻らせるか…であれば私は貴様を死後の世界である無間地獄に招待するだけだ!」
幽鬼王は崇徳王の両足を直視し始め…。
「えっ?幽鬼王?」
すると崇徳王の両足は氷結したのである。
「父様の両足が氷結したわ…幽鬼王の霊気なの?」
小梅姫は勿論…。崇徳王も突然の氷結に動揺し始める。
「なっ!?氷結だと!?幽鬼王…其方一体何を!?」
「残念だったな!夜桜崇徳王!」
幽鬼王は動揺する崇徳王に冷笑したのである。
「私の強大なる霊気で貴様の身動きを封殺したからな!崇徳王…最早貴様は自力では身動き出来ないのだ!」
両腕と両足の氷結により崇徳王は完全に身動き出来なくなる。
「ぐっ…」
『迂闊だった…身動き出来なくなるとは!』
一方の幽鬼王は再度雷光の霊剣を発動したのである。
「今度こそ貴様を地獄の世界に招待する…覚悟せよ!夜桜崇徳王!」
幽鬼王は一歩ずつ身動き出来なくなった崇徳王に近寄り始める。
「畜生!」
『私は…こんな場所で幽鬼王に殺されるのか!?』
崇徳王は自身の最期を覚悟するものの…。
『私が殺されたら小梅姫は無論…桃子姫様と胡桃姫様との約束も…』
突如として崇徳王の脳裏より小梅姫の笑顔を想起する。今度は死別した桃子姫と胡桃姫の笑顔が想起されたのである。
『こんな場所で私が敗死すれば誰が小梅姫を…守護出来るのか!?』
一方普段は冷静であり人一倍無表情の幽鬼王であるが…。
『今回で崇徳王への復讐を達成出来るぞ!』
今回ばかりは冷笑したのである。
「観念するのだな!東国の軍神…夜桜崇徳王!」
一方の崇徳王は最期を覚悟する。
『今日が…私の命日なのか?』
直後…。桃子姫と胡桃姫の物悲しそうな表情を想起したのである。
『桃子姫様…胡桃姫様…私は長生きすると約束したのに!』
崇徳王は幽鬼王に頭首を斬首される寸前…。
「月影幽鬼王!私の父様を殺さないで!」
小梅姫は幽鬼王に哀願する。
「はっ?貴様は?」
幽鬼王は勿論…。一時的に錯乱状態であった崇徳王も小梅姫に注目し始める。
「幽鬼王…私の父様を殺さないで!」
「小梅姫…」
小梅姫は落涙した様子で幽鬼王に切願したのである。落涙する小梅姫に幽鬼王は無表情で…。
「安心しろ…崇徳王の小娘…此奴を無間地獄に招待してから愛娘の貴様も死後の無間地獄に招待するからな!貴様も無間地獄で死没した父親と再会出来るのだぞ!」
すると小梅姫は鬼神の形相で幽鬼王を睥睨したのである。
「ん?小娘?」
『此奴…様子が可笑しいぞ…小娘は一体何を?』
幽鬼王は警戒し始める。
「如何しても父様に復讐したいのであれば…」
小梅姫は身体髪膚より血紅色の妖力が溢れ出たかと思いきや…。莫大なる妖力は彼女の全身を覆い包んだのである。
「小娘…貴様は一体?」
幽鬼王は勿論…。
「小梅姫…一体何が!?」
崇徳王も小梅姫の変化に絶句する。肉体から溢れ出た小梅姫の妖力は肉眼でも視認出来る程度に実体化したのである。普段は温厚篤実の女神様を連想させる小梅姫であるが…。今迄の小梅姫とは別人であり今現在の小梅姫は正真正銘鬼神の形相だったのである。
『彼女は本当に小梅姫なのか!?普段の小梅姫とは別人みたいだ…土壇場で彼女の妖力が覚醒したのか!?』
崇徳王は殺気立った鬼神の形相である小梅姫に戦慄する。
「父様には…絶対に手出しさせない!」
すると数秒後である。妖力が覚醒した影響からか小梅姫の全身から溢れ出た妖力が再度小梅姫の全身を覆い包み始め…。小梅姫は常人よりも一回り巨体の化け猫らしき妖獣へと変化したのである。
「小娘が…妖怪化するとは…」
『小猫姫とやら…此奴の正体は化け猫の妖怪なのか!?』
無表情であった幽鬼王も恐る恐る後退りする。
「月影幽鬼王…私を殺せるなら殺しなさい!」
巨体の妖獣へと変化した小梅姫は力一杯幽鬼王を睥睨したのである。
『小猫姫の正体が妖獣だったとは…』
幽鬼王は右手に高熱の火球を形作る。
「貴様は死滅しろ!妖獣の小娘!」
高熱の火球で妖獣の小梅姫に攻撃したのである。
「小梅姫!」
崇徳王は冷や冷やする。一方の小梅姫は雷撃の結界を発動…。幽鬼王の発射した火球を無力化したのである。
「畜生が…妖獣の小娘は結界で俺の攻撃を無力化しやがるとは…」
直後…。
「なっ!?」
幽鬼王は突如として身動き出来なくなる。
「ぐっ…」
『身動き出来ないだと!?此奴は金縛りの妖術か!?』
小梅姫は幽鬼王に金縛りの妖術を発動したのである。
「私からは逃げられないわよ!極悪非道の悪霊!」
口先より高熱の雷光を凝縮…。雷光の火球を形成させる。
「あんたは完膚なきまでに…成仏しなさい!」
小梅姫は身動き出来なくなった幽鬼王を標的に雷光の火球を発射したのである。
「えっ…」
前方の地面は高熱により焦土化…。地面は黒焦げに抉れたのである。幽鬼王は小梅姫の雷光の火球によって完膚なきまでに完全消滅…。炭化した肉片すら確認出来なかったのである。
「悪霊の幽鬼王が…小梅姫の攻撃で仕留められるとは…」
小梅姫の雷光の火球は高威力であり幽鬼王は完膚なきまでに仕留められ…。悪霊特有の霊気も感じられなかったのである。
「小梅姫…予想以上の威力だったな…最強の幽鬼王を仕留め切れるなんて…」
『小梅姫の妖力は私の想像以上だな…こんなにも強力とは…』
崇徳王は小梅姫の強大なる妖力に圧倒される。
「大丈夫よ…父様…妖力は基本的に神出鬼没の悪霊にしか使用しないから…」
「小梅姫が本領を発揮すれば国全体を天下統一出来そうだな…」
「私が天下統一なんて…冗談かしら?父様?」
小梅姫は再度警戒したのである。
「幽鬼王は…仕留められたのかしら?幽鬼王の霊気は感じられないけれど…」
すると小梅姫の背後より…。
「小梅姫!悪食餓鬼だ!」
「えっ?」
小梅姫の背後に一体の悪食餓鬼が出現したのである。
「無謀ね…悪食餓鬼程度なら…簡単に…」
一体の悪食餓鬼を攻撃する直前…。突如として悪食餓鬼の肉体から白煙が発生したのである。悪食餓鬼の全身は白煙に覆い包まれたかと思いきや…。
「此奴は…」
「えっ…如何してなのよ!?如何して幽鬼王が!?」
白煙の内部からは先程仕留められた月影幽鬼王が再度出現したのである。
「残念であったな…夜桜崇徳王と…妖獣の小娘…小梅姫よ…」
幽鬼王は崇徳王と小梅姫に冷笑する。
「一体何故だ!?如何して幽鬼王が出現したのだ!?其方は先程小梅姫の攻撃によって完膚なきまでに死滅したのでは!?」
すると幽鬼王は崇徳王に説明したのである。
「貴様達は完全に油断したな!今現在の俺の肉体は正真正銘悪霊の肉体なのだ!実体としての肉体が破壊されたとしても…俺は霊体のみでも半永久的に活動出来るのだぞ!俺は何度肉体が破壊されても復活し続けられるのだからな!」
小梅姫の金縛りにより身動き出来なくなった幽鬼王は小梅姫に攻撃される寸前…。近辺で徘徊する悪食餓鬼に憑霊したのである。
「本物の不死身が存在するとは…幽鬼王は油虫みたいだな…」
「残念だったな…俺は本物の不老不死なのだ!実体としての肉体を何度破壊されたとしても…他者の肉体に憑霊し続ければ何度でも復活出来るのだからな!」
幽鬼王は自身を不老不死であると豪語するのだが…。
『畜生が…先程の攻撃で肉体のみならず…霊気の大半が浄化されちまったからな…再度妖女の小梅姫に攻撃されれば悪霊の肉体でも…』
先程の小梅姫の攻撃は肉体の殲滅は無論であるが…。
『俺は今度こそ完膚なきまでに浄化されるだろう…妖女の小娘は非常に厄介だな…』
霊気の浄化作用により上級悪霊の霊気さえも容易に浄化出来る。
『幽鬼王の様子…悪霊の悪食餓鬼に憑霊したみたいだが大分弱体化した様子だな…肉体が不老不死だとしても欠点は存在するみたいだ…』
崇徳王は幽鬼王の様子を観察すると一時的に弱体化したのではと察知したのである。
『ひょっとすると幽鬼王を完全に浄化させる絶好機なのかも知れないな…』
崇徳王は絶好の機会であると察知…。
「小梅姫!幽鬼王は弱体化したぞ!今度こそ幽鬼王を仕留められる!」
小梅姫に攻撃を合図する。
「小梅姫の妖術で今直ぐに彼を…幽鬼王を浄化しろ!」
「なっ!?」
普段は無表情の幽鬼王であるが…。
『俺を…浄化だと!?』
浄化の一言に一瞬だが動揺し始める。
「動揺したな!幽鬼王…今日が其方にとって二度目の命日だ!覚悟するのだな!」
「俺にとって…二度目の命日だと!?畜生が!」
崇徳王は幽鬼王の反応から勝利を確信するのだが…。
「父様…此奴を浄化したいのだけれど…」
「ん?小梅姫?」
小梅姫は妖力の消耗により妖獣の形態から元通りの少女の姿形に戻ったのである。
「えっ…」
『小梅姫…人間の状態に戻ったのか…』
崇徳王は拍子抜けする。
『小梅姫の…先程の威勢は一体…』
一時的に妖力の覚醒で妖獣へと変化した小梅姫であるが小面袋蜘蛛との戦闘で大量の妖力を吸収され…。衰弱化した状態からの覚醒であり妖力の消耗が加速したのである。
「妖女の小娘が…冷や冷やさせるな…」
幽鬼王は命拾いにより内心一安心する。
『危機一髪だったな…今度も妖女の小娘に攻撃されたら…俺は今度こそ地獄の世界に逆戻りだったな…』
一方の小梅姫は妖力の消耗により空っぽの状態だったのである。
「はぁ…はぁ…」
小梅姫は非常に疲れ果てた様子であり地面に横たわる。
「えっ…小梅姫!?大丈夫か!?」
「父様…私…今度こそ妖力が…」
小梅姫は妖力の消耗により返事するのも辛苦だったのである。
「妖女の小娘風情が…」
幽鬼王は地面に横たわった状態の小梅姫に近寄る。
「妖女の小娘…貴様は俺にとって復讐の対象者である夜桜崇徳王の愛娘だからな!愛娘の貴様も同罪なのだ!」
悪霊の幽鬼王にとって小梅姫の存在は非常に厄介であり復讐対象者の崇徳王よりも脅威である。
「妖女の小娘…貴様は覚悟するのだな!」
幽鬼王は自身の霊気で再度雷光の霊剣を形作る。
「幽鬼王!其方の復讐に彼女は無関係だぞ!復讐したいなら私だけに復讐しろ!其方の個人的理由で私の愛娘には手出しするな!」
崇徳王は必死に幽鬼王を制止するのだが…。
「崇徳王は情けないな…この期に及んで愛娘への命乞いとは…観念するのだな!」
幽鬼王は地面に横たわった状態の小梅姫が気に入らないのか鬼神の形相で小梅姫を睥睨したのである。
「崇徳王…残念だが亡者の俺にとって此奴は脅威の存在なのだ!俺は貴様の愛娘を完膚なきまでに打っ殺すと決意したからな!」
『悪霊の肉体だとしても折角俗界に戻れたのだ!こんな場所で二度も地獄の世界に戻されるのは御免だからな!』
地獄の世界とは生身の生者では実体験出来ない黄泉の世界であるが…。死没者である幽鬼王にとって地獄の世界は非常に重苦しい場所だったのである。
『最早二人を相手に手加減は出来ないな!最低でも妖女の小娘だけは…小猫姫は確実に仕留めなければ俺が不老不死の霊体でも浄化されるだろうからな!』
幽鬼王は最終手段である奥の手を駆使する。幽鬼王の霊気が先程よりも増大化したのである。
「えっ…」
『幽鬼王の霊気が先程よりも増幅するなんて…』
小梅姫は勿論…。
『幽鬼王の殺気が…』
崇徳王も幽鬼王の本気の殺意を感じる。数秒間が経過した直後…。幽鬼王の肉体が大幅に変化し始める。
「えっ!?」
「幽鬼王!?其方の肉体が!?」
小梅姫と崇徳王は幽鬼王の予想外の変化に驚愕する。
「其方は…一体何者なのだ?」
崇徳王は恐る恐る幽鬼王に問い掛ける。
「其方は月影幽鬼王なのか?」
幽鬼王は戦闘の鬼神…。阿修羅を連想させる三面六臂の怪物へと変化したのである。幽鬼王の変貌に小梅姫は勿論…。
「幽鬼王…」
「月影幽鬼王よ…最早其方は天道の化身だな…」
崇徳王も絶句したのである。
「幽鬼王…あんたは【阿修羅武神】に覚醒したのね…」
阿修羅武神とは強大なる霊気を所持する特定の亡者が覚醒出来る形態の一種…。上級悪霊の一体とされる超自然的存在である。
「阿修羅武神だと?小梅姫…阿修羅武神って一体?」
崇徳王は恐る恐る小梅姫に問い掛ける。
「阿修羅武神は特定の亡者が変貌出来る上級の悪霊らしいのよ!阿修羅武神がこんなにも強大なんて!」
小梅姫は阿修羅武神に覚醒した幽鬼王に畏怖したのである。
「阿修羅武神は小梅姫が畏怖する程度に強大なのか!?」
『人間の私でも痛感出来る…阿修羅武神は私が想像する以上に強力なのだろうな…』
阿修羅武神の霊気とは悪霊特有の霊気の感じられない人間の崇徳王でも痛感出来る。
「阿修羅武神…私自身の霊気を最大限に発揮させた最強の状態なのだ!」
幽鬼王は強大化した自身が最強であると豪語し始める。
「今現在の俺であれば…相手が誰であろうと確実に勝利出来る!相手が人外の妖女だとしても同様だ!」
今現在阿修羅武神へと進化した月影幽鬼王は全身全霊の霊気を最大限に発揮させた暴走状態であり其処等の悪霊は勿論…。妖女の小梅姫をも上回る。
「阿修羅武神の霊気を発揮する絶好機!手始めに妖女の小娘…貴様から仕留める!阿修羅武神の強大さを体感するのだ!」
幽鬼王は六本の掌中から六本もの雷光の刀剣を生成させたのである。
「父様…私は…死にたくないよ…」
小梅姫は落涙した表情で崇徳王を直視する。
「小梅姫…」
『畜生…私は如何すれば!?今度こそ小梅姫が殺されるかも知れないのに!人間の私では悪霊の幽鬼王を阻止出来ないのか!?』
崇徳王は何も出来ない自身を情けなく感じる。
『一体如何すれば…幽鬼王の暴走を阻止出来るのか!?』
愛娘の小梅姫が殺害されるかも知れない絶望的状況下であったが…。
「ん!?」
小梅姫が斬撃される寸前である。天空より神秘的気配を感じる。
『天空から気配だと?一体何が?』
暗闇の黒雲で覆い包まれた天空であるが…。突如として光り輝く発光体が地上世界へと降下したのである。
「天空から発光体だわ…一体何かしら?」
「今度は何が出現した!?今度も…神出鬼没の悪霊なのか!?」
小梅姫と崇徳王は勿論…。
「天空から発光体か?一体何事だ?」
阿修羅武神へと覚醒した幽鬼王も天空より出現した発光体に注目し始める。正体不明の発光体が日和山の頂上に着地したかと思いきや…。発光体の正体とは巫女装束の女性だったのである。女性は背丈が非常に小柄であり頭部には金冠…。女性の背中には大日如来を連想させる円形の光背が確認出来る。崇徳王は天女を連想させる摩訶不思議の女性に愕然とする。
「えっ!?貴女様はひょっとして…」
天女らしき女性は崇徳王を直視すると微笑み始める。
「夜桜崇徳王様♪久し振りね♪貴方が元気そうで安心したわ♪」
「勿論ですとも!桃子姫様!」
天女の正体とは十五年前に逝去した愛妻の桃子姫だったのである。
『桃子姫ですって!?桃子姫って私の母様の名前だわ…』
崇徳王と小梅姫は桃子姫との再会に涙が零れ落ちる。
『彼女が私の母様なのね…』
すると幽鬼王が天空より出現した桃子姫を睥睨し始め…。
「貴様は一体何者だ!?俺の復讐を邪魔するのであれば…相手が人外の妖女であろうが…天女の小娘であろうが問答無用に打っ殺すぞ!」
幽鬼王は桃子姫に威嚇するのだが桃子姫は無表情で返答する。
「極悪非道の悪霊…私の家族には手出しさせないわよ!」
すると半透明の血紅色だった桃子姫の両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に変化し始め…。発光したのである。
「桃子姫様の両目が瑠璃色に発光するなんて…」
『桃子姫様の神通力でしょうか?』
崇徳王は半透明の瑠璃色に発光する桃子姫の両目を不思議がる。
「所詮は小細工だろうが!」
一方の幽鬼王は強気の態度で桃子姫に威嚇したのである。
「相手が最強の妖女だろうと神族だろうと!最強の阿修羅武神に覚醒した俺には荒唐無稽の妖術は通用しないぞ!」
阿修羅武神形態の幽鬼王に威嚇された桃子姫であるが…。
「貴方は阿修羅武神?生前は月影幽鬼王だったかしら?最早貴方は黄泉の世界の死没者なのです!死後の住人である貴方は即刻黄泉の世界に戻りなさい!」
幽鬼王は桃子姫が腹立たしくなる。
「妖女の小娘風情が!」
腹立たしくなった幽鬼王は全身が身震いし始める。
「妖女の小娘!死滅しろ!」
阿修羅武神へと覚醒した幽鬼王の霊気は非常に強力であり天空の黒雲より落雷を発生させる。
「母様!」
「桃子姫様!」
桃子姫の頭上より高威力の落雷が発生したかと思いきや…。地面が抉れたのである。陥没した地面には桃子姫の姿形は確認出来ない。
「所詮は妖女の小娘風情だ!阿修羅武神の霊気は予想以上に絶大だな…やっぱり此奴の霊気なら相手が誰であろうと勝利出来そうだ!」
幽鬼王は再度阿修羅武神の強大さを実感する。一方の小梅姫と崇徳王は絶望…。二人は涙腺より涙が零れ落ちる。
「母親の妖女は完膚なきまでに仕留められたからな!今度こそ阿修羅武神の霊気で貴様達親子を!」
直後である。
「ん?貴様は!?」
先程消滅した桃子姫が再度小梅姫と崇徳王の前面より出現する。
「母親の妖女…如何して貴様は無事なのだ!?」
幽鬼王は不思議そうな表情で桃子姫に問い掛ける。
「今現在の私の肉体は霊体なのよ…霊体の私には貴方の霊気は通用しないわ!」
「貴様も霊体なのか?」
今現在の桃子姫の肉体は霊体でありあらゆる物理攻撃が通用しない。
「阿修羅武神の霊気は非常に強力だけど…所詮人間である貴方では扱い切れないみたいね…」
「貴様は一体…何が主張したい?」
「阿修羅武神は神族の亡魂が霊化した超自然的存在…貴方程度の死没者が扱える代物とは無縁なのよ!」
阿修羅武神は死没した神族の亡魂が霊化した超自然的存在であり人間の亡者では本来の阿修羅武神の霊気は発揮出来ない。
「月影幽鬼王…貴方の身動きを阿修羅武神諸共封殺するわ!」
桃子姫は幽鬼王と阿修羅武神に金縛りの妖術を発動する。
「なっ!?貴様は一体!?俺に…何を!?」
最強の阿修羅武神へと覚醒した幽鬼王であるが…。桃子姫が神通力を発動すると身動きを完全に封殺されたのである。
「ぐっ!」
『身動き出来なくなるとは…此奴は天女の妖術なのか!?』
幽鬼王は桃子姫の神通力によって身動き出来なくなったと同時に…。
「月影幽鬼王…貴方を阿修羅武神から解放するわ!地獄の世界に戻りなさい!」
桃子姫は浄化の妖術を発動する。
「畜生が!」
『俺は結局…地獄の世界に逆戻りとは…』
幽鬼王の肉体は阿修羅武神諸共虹色の粒子状の発光体へと変化したのである。無数の発光体へと変化した幽鬼王は天空にて消滅…。霊気も感じられなくなる。
「幽鬼王と阿修羅武神が消滅しちゃった…霊気も感じられないわ…」
「幽鬼王と阿修羅武神は桃子姫様の神通力で浄化されたのでしょうか?」
小梅姫と崇徳王は桃子姫の強大さに驚愕したのである。
「俗界の亡者達は私が浄化したわ♪二人とも安心してね♪」
「亡者達は母様の神通力で浄化されたのね♪一先ずは安心だわ♪」
桃子姫の神通力により各地の村里で徘徊する悪食餓鬼の大群と百鬼悪食餓鬼は完全に浄化され…。完膚なきまでに消滅したのである。
『各地に分散した霊気が消滅したわ…母様が一人で悪霊の大群を浄化させたの!?母様って一体何者なの!?』
小梅姫は桃子姫の神通力の絶大さに愕然とする。崇徳王と小梅姫は事態の収束に一安心したのである。
「危険は回避されたので一件落着ですね!桃子姫様♪一安心ですよ!」
すると小梅姫は恐る恐る桃子姫に近寄り始める。
「貴女は本当に…私の母様なのね…」
「勿論よ!私は…貴女の母親よ!」
一方の桃子姫は小梅姫の問い掛けに笑顔で即答する。
「小梅姫…貴女は美人の女性に成長したわね!」
桃子姫の美人の一言に小梅姫は赤面したのである。
「私が美人なんて…母様は大袈裟よ…」
小梅姫は桃子姫の美人の一言に赤面するのだが…。
『私が美人ですって♪』
内心では大喜びだったのである。
「母様こそ…救済の女神様みたいで容姿端麗よ!」
容姿端麗の一言に桃子姫も赤面する。
「私が容姿端麗なんて!小梅姫は大袈裟ね!」
桃子姫も内心では大喜びしたのである。
「ですが桃子姫様…貴女様の救済で私と小梅姫は命拾い出来たのです!桃子姫様には感謝しても感謝し切れません!」
崇徳王は桃子姫に一礼する。
「気にしないで!崇徳王様…貴方達二人が無事なのが何よりだから!」
『桃子姫様は本当に救済の女神様だな…』
直後…。桃子姫の肉体が半透明化したのである。
「えっ…桃子姫様の肉体が半透明に…」
「二人とも…如何やら時間みたいね♪」
「えっ…母様?」
小梅姫の涙腺から一粒の涙が零れ落ちる。
「小梅姫♪心配しなくても大丈夫よ!私は天国で小梅姫を見守るからね!」
「母様…約束だからね!私達を見守ってよね!」
小梅姫に笑顔が戻ったのである。
「勿論よ!約束するわ♪崇徳王様もね!」
「桃子姫様!私は今後も長生きしますからね!」
「長生きしてね!崇徳王様…」
すると桃子姫は消滅する寸前…。
「二人とも♪私達は…来世で再会しましょうね!」
数秒後に桃子姫は消滅したのである。
『来世ね…』
『来世か…桃子姫様…』
二人は一瞬沈黙する。
「父様?」
小梅姫は桃子姫の来世の一言に恐る恐る崇徳王に問い掛ける。
「如何した?小梅姫?」
「私達は…来世でも再会出来るのかしら?」
崇徳王は一息したのである。
「勿論だとも!私達は来世でも再会出来るさ!」
崇徳王は満面の笑顔で返答する。幽鬼王による事件が解決してより数分後…。
「悪霊事件は無事解決出来たからな…私達も解散するか?小梅姫?」
「解散しましょう…父様!私も東国の家屋敷に戻らないと女中達が心配するでしょうし…達者でね!父様!」
「嗚呼!小梅姫こそ!」
小梅姫と崇徳王は解散したのである。今回の悪霊大事件は桃子姫の霊魂により無事解決出来たが…。今回の大事件以後も各地の村里では小規模の悪霊関連の怪異事件が頻発したのである。今回の悪霊大事件を契機に小梅姫は悪霊掃除人を自称し始め…。各地の村里に出没する多種多様の悪霊を征伐したのである。当初は差別的であった片田舎の村人達も小梅姫の人道的活躍によって妖女に対する認識も次第に変化し始める。悪霊征伐に専念した小梅姫は一年後の初春には東国出身者である領主の若殿と無事婚姻したのである。若殿との婚姻から一年後…。小梅姫は一人の母親として無事に二人の妖女の子供を出産したのである。小梅姫が三人の妖女を出産して以後…。世の中は本格的に妖女による新時代が到来する。
最終話
交流
世界暦四千五百二十四年九月中旬の時期である。上級悪霊の一角とされる北国の鬼神月影幽鬼王と阿修羅武神は勿論…。多数の悪霊との大戦闘から二年後の出来事である。小梅姫は祖国である西国の精霊故山の頂上へと移動…。
『桃子姫母様…胡桃姫叔母さん…』
小梅姫は母親である桃子姫と叔母である胡桃姫の墓石に恐る恐る合掌する。
『私はもう少しで…一児の母親です…』
小梅姫は涙腺より涙が零れ落ちる。
『出来るなら桃子姫母様と…胡桃姫叔母さんにも…』
内心母親の桃子姫と叔母の胡桃姫に孫娘を抱かせられない現実は小梅姫にとって非常に辛苦であり心残りだったのである。
『桃子姫母様…胡桃姫叔母さん…』
すると小梅姫の背後より…。
「あんたは妖女の小梅姫だったかね♪」
「えっ!?誰ですか?」
小梅姫は吃驚した様子であり即座に背後を直視する。
「貴女様は…神族の蛇体如夜叉様でしたね…」
背後の人物とは蛇神の蛇体如夜叉だったのである。
「こんな場所で妖女のあんたと再会出来るなんてね!私達は奇遇だね!」
奇遇にも神族の蛇体如夜叉と精霊故山の頂上で再会する。
「小梅姫♪あんたは二年前よりも随分と大人びた様子だね!見違えちゃったよ!」
今現在小梅姫は年齢十七歳…。列記とした成人女性であり二年前の容姿よりも女性らしく成長したのである。
「えっ?」
『私って…以前よりも大人びたのかしら?』
小梅姫は蛇体如夜叉の発言に赤面するものの…。内心では大喜びだったのである。
「小梅姫は誰かの墓参りかね?」
「私の桃子姫母様と…胡桃姫叔母さんの墓参りですよ♪」
小梅姫は満面の笑顔で即答する。
「あんたは今迄…妖女の身分で差別され…非常に大変だっただろう?」
蛇体如夜叉は小梅姫に同情するのだが…。
「私なら大丈夫ですよ!蛇体如夜叉様!」
小梅姫は満面の笑顔だったのである。
「小梅姫…」
「私には人間の父様は勿論!町内の皆様方が私の理解者達ですからね!」
実際数多くの悪霊征伐の功績によって大勢の町民達は勿論…。各地の村人達も人外の妖女に対する認識が変化し始めたのである。
『彼女の様子なら…今後も大丈夫そうだね…』
小梅姫を心配した蛇体如夜叉であるが…。小梅姫の様子から一安心したのである。
『如何やら私は…彼女が列記とした妖女だからって…不必要に小梅姫を心配し過ぎちゃったみたいだね…』
蛇体如夜叉は自身が必要以上に心配性だったと自覚する。
「小梅姫よ!折角の機会だし…あんたは私の家屋敷で茶会でも如何かね?」
「えっ!?本当ですか!?」
「和菓子も沢山用意するからね!」
小梅姫は蛇体如夜叉との茶会に大喜びしたのである。
「私は是非とも参加しますよ!蛇体如夜叉様!」
「私は今後とも…妖女のあんたとは交流したいからね!」
「勿論ですとも!蛇体如夜叉様!」
小梅姫は笑顔で即答する。
「あんたは非常に興味深いからね!私はあんたを洗い浚い知りたいのさ!」
「私こそ…蛇体如夜叉様!」
小梅姫は早速…。蛇神の蛇体如夜叉と一緒に蛇体如夜叉の原住地である南国の村里へと移動したのである。
完結